特許第6018552号(P6018552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大井電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6018552-通信方式変換装置 図000002
  • 特許6018552-通信方式変換装置 図000003
  • 特許6018552-通信方式変換装置 図000004
  • 特許6018552-通信方式変換装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018552
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】通信方式変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   H04L7/00 500
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-172791(P2013-172791)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-41931(P2015-41931A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204424
【氏名又は名称】大井電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 寿美
【審査官】 阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−037560(JP,A)
【文献】 特開2010−200277(JP,A)
【文献】 特開2005−012537(JP,A)
【文献】 特開2008−205607(JP,A)
【文献】 特開2007−235217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、
クロック信号を生成するクロック生成部と、
前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、
前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、
を備え、
前記制御部は、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進む頻度が、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れる頻度よりも小さくなるように前記クロック信号のタイミングを調整することを特徴とする通信方式変換装置。
【請求項2】
非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、
クロック信号を生成するクロック生成部と、
前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、
前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、
を備え、
前記制御部は、前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミング差が所定の頻度で所定範囲を外れたときは、前記クロック生成部に対し前記クロックパケットと同一のタイミングのクロック信号を出力させることを特徴とする通信方式変換装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の通信方式変換装置において、
前記制御部は、
前記クロックパケットおよび前記クロック信号の各タイミングに応じて前記クロック信号に対するタイミング調整量を決定する調整量決定部を備え、前記タイミング調整量に応じて前記クロック生成部を制御し、
前記調整量決定部は、
前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進む頻度を示す値と、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れる頻度を示す値とに基づいて前記タイミング調整量を決定することを特徴とする通信方式変換装置。
【請求項4】
非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、
クロック信号を生成するクロック生成部と、
前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、
前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、
を備え、
前記制御部は、
前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進んでいる傾向を示す進み指標値と、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れている傾向を示す遅れ指標値と、を生成するタイミング比較部と、
前記進み指標値および前記遅れ指標値に基づいて、前記クロック信号に対するタイミング調整量を決定する調整量決定部と、を備え、
前記調整量決定部は、
前記タイミング調整量に対する前記進み指標値の寄与が、前記タイミング調整量に対する前記遅れ指標値の寄与よりも大きくなるように前記タイミング調整量を決定し、
前記制御部は、
前記タイミング調整量に基づいて前記クロック生成部を制御することを特徴とする通信方式変換装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の通信方式変換装置において、
前記クロック生成部は、
パルス信号を出力するオシレータと、
前記クロックパケットから抽出されたカウント基準値に対し、前記タイミング調整量に応じて値を増減させたトリガ値を求めるトリガ値生成部と、
前記パルス信号のパルスのカウント値と、前記トリガ値とが一致するタイミングに応じて前記クロック信号を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする通信方式変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信方式変換装置に関し、特に、非同期回線から同期回線にデータを伝送する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
企業等における複数の事務所間にはデータ通信を行うためのディジタル通信回線が広く用いられている。ディジタル通信回線には、イーサネット(登録商標)等の規格に従う非同期方式の通信回線や、I.430、I.431等の高速ディジタル伝送サービスの規格に従う同期方式の通信回線がある。ここで、非同期方式とは、送信装置のデータ送信タイミングから独立したタイミングで、受信装置がデータを受信する通信方式をいい、同期方式とは、送信装置のデータ送信タイミングに合わせて、受信装置がデータを受信する通信方式をいう。以下の説明では、非同期方式の通信回線を非同期回線と称し、同期方式の通信回線を同期回線と称する。
【0003】
同期回線および非同期回線は混在して設けられることが多い。そこで、同期回線から受信されたデータを非同期回線に送信する通信方式変換装置や、非同期回線から受信されたデータを同期回線に送信する通信方式変換装置が用いられている。後者の通信方式変換装置には、非同期回線から受信したパケットに含まれるカウント値を用いるものがある。通信方式変換装置は、自らが生成したクロック信号のパルスをカウントし、カウントされた値とパケットに含まれていたカウント値とが一致するタイミングで同期回線にデータを送信する。
【0004】
また、通信方式変換装置には、非同期回線から受信したパケットをバッファに蓄積し、その蓄積されたパケットに基づくデータを、自らが生成したクロック信号に応じたタイミングで同期回線に送信するものがある。通信方式変換装置は、送信されたデータをバッファから削除すると共に、バッファのデータ蓄積量が一定となるように自らが生成するクロック信号のタイミングを調整する。
【0005】
下記の特許文献1の図9等には、非同期パケット網から受信したパケットに基づいて、同期網にデータを送信する受信装置が記載されている。この受信装置が接続される非同期パケット網には、非同期ネットワーククロックが伝送されている。受信装置は、非同期パケット網からパケットおよび非同期ネットワーククロックを受信する。そして、パケットに含まれるカウント値と、非同期ネットワーククロックをカウントした値とが一致するタイミングに基づいて、受信したパケットに含まれていたデータを同期網に送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−37560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、非同期回線から受信されたパケットに含まれるカウント値を用いて送信装置とのタイミング同期を実行する通信方式変換装置では、自らが生成するクロック信号のタイミング変動(周期変動または周波数変動)を補償することは困難である。そのため、通信方式変換装置が同期回線にデータを送信するタイミングが変動することがある。また、バッファに蓄積されるデータ量を一定にすることで送信装置とのタイミング同期を実行する通信方式変換装置や、特許文献1に記載された受信装置では、非同期回線にパケットが伝送される速度の変動によって、通信方式変換装置が同期回線にデータを送信するタイミングが変動することがある。
【0008】
本発明は、非同期回線から同期回線にデータを伝送する際に、同期回線に対するクロックの精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、クロック信号を生成するクロック生成部と、前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、を備え、前記制御部は、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進む頻度が、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れる頻度よりも小さくなるように前記クロック信号のタイミングを調整することを特徴とする。
【0010】
本発明は、非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、クロック信号を生成するクロック生成部と、前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、を備え、前記制御部は、前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミング差が所定の頻度で所定範囲を外れたときは、前記クロック生成部に対し前記クロックパケットと同一のタイミングのクロック信号を出力させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る通信方式変換装置は、望ましくは、前記制御部は、前記クロックパケットおよび前記クロック信号の各タイミングに応じて前記クロック信号に対するタイミング調整量を決定する調整量決定部を備え、前記タイミング調整量に応じて前記クロック生成部を制御し、前記調整量決定部は、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進む頻度を示す値と、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れる頻度を示す値とに基づいて前記タイミング調整量を決定する。
【0012】
本発明は、非同期回線からパケットおよびクロックパケットを受信するパケット受信部と、クロック信号を生成するクロック生成部と、前記クロックパケットおよび前記クロック信号のタイミングに応じて前記クロック生成部を制御し、前記クロック信号のタイミングを調整する制御部と、前記パケットが含むデータを、前記クロック信号の調整後のタイミングに応じて、同期回線に送信する送信部と、を備え、前記制御部は、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して進んでいる傾向を示す進み指標値と、前記クロックパケットのタイミングが前記クロック信号のタイミングに対して遅れている傾向を示す遅れ指標値と、を生成するタイミング比較部と、 前記進み指標値および前記遅れ指標値に基づいて、前記クロック信号に対するタイミング調整量を決定する調整量決定部と、を備え、前記調整量決定部は、前記タイミング調整量に対する前記進み指標値の寄与が、前記タイミング調整量に対する前記遅れ指標値の寄与よりも大きくなるように前記タイミング調整量を決定し、前記制御部は、前記タイミング調整量に基づいて前記クロック生成部を制御することを特徴とする
【0013】
本発明に係る通信方式変換装置は、望ましくは、前記クロック生成部は、パルス信号を出力するオシレータと、前記クロックパケットから抽出されたカウント基準値に対し、前記タイミング調整量に応じて値を増減させたトリガ値を求めるトリガ値生成部と、前記パルス信号のパルスのカウント値と、前記トリガ値とが一致するタイミングに応じて前記クロック信号を出力する出力部と、を備える
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非同期回線から同期回線にデータを伝送する際に、同期回線に対するクロックの精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】CESシステムの構成を示す図である。
図2】A/S変換装置の構成を示す図である。
図3】指標値Dとタイミング調整量Adとの関係を例示する図である。
図4】クロック信号および受信クロック信号のタイミングの関係を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本発明の実施形態に係るCESシステムの構成が示されている。CESは、Circuit Emulation Serviceを省略したものである。CESシステムにおいては、第1同期回線18および第2同期回線22の間に非同期回線20が介在する。一方の同期回線に伝送されたデータは、通信方式が変換されて非同期回線20に伝送される。非同期回線20に伝送されたデータは、通信方式が変換されてもう一つの同期回線に伝送される。
【0017】
非同期回線20としては、10BASE−T(IEEE802.3)、100BASE−TX(IEEE802.3u)等のイーサネットの規格に従う通信回線がある。第1同期回線18および第2同期回線22としては、I.430、I.431等の高速ディジタル伝送サービスの規格に従う通信回線がある。
【0018】
CESシステムは、第1CES装置10−1および第2CES装置10−2を備える。各CES装置は、TDMoIP(TDM over IP)、CES−TA(CESターミナルアダプタ)とも称される。第1CES装置10−1は、第1同期回線18から受信されたデータを非同期方式のパケットに変換し、そのパケットを非同期回線20に送信する。第2CES装置10−2は、非同期回線20から受信されたパケットを同期方式のデータに変換し、そのデータを第2同期回線22に送信する。
【0019】
同様に、第2CES装置10−2は、第2同期回線22から受信されたデータを非同期方式のパケットに変換し、そのパケットを非同期回線20に送信する。第1CES装置10−1は、非同期回線20から受信されたパケットを同期方式のデータに変換し、そのデータを第1同期回線18に送信する。
【0020】
非同期回線20にはクロック供給装置16が接続されている。クロック供給装置16は、所定の周期(周波数)でクロックパケットを非同期回線20に送信する。クロックパケットは、第1CES装置10−1および第2CES装置10−2において、非同期方式から同期方式に通信方式を変換するために用いられる。
【0021】
第1CES装置10−1および第2CES装置10−2のそれぞれは、S/A変換装置12およびA/S変換装置14を備える。ここで、「S」および「A」は、それぞれ、SynchronousおよびAsynchronousの頭文字である。S/A変換装置12は、同期方式のデータを非同期方式のパケットに変換する。A/S変換装置14は、クロック供給装置16から送信されたクロックパケットを用いて、非同期方式のパケットを同期方式のデータに変換する。
【0022】
すなわち、第1CES装置10−1が備えるS/A変換装置12は、第1同期回線18から受信したデータを非同期方式のパケットに変換し、そのパケットを非同期回線20に送信する。第2CES装置10−2が備えるA/S変換装置14は、非同期回線20からパケットおよびクロックパケットを受信する。A/S変換装置14は、クロックパケットを用いて、パケットを同期方式のデータに変換し、クロックパケットに応じたタイミングでそのデータを第2同期回線22に送信する。
【0023】
第2CES装置10−2が備えるS/A変換装置12は、第1CES装置10−1が備えるS/A変換装置12と同様の構成および機能を有し、第1CES装置10−1が備えるA/S変換装置14は、第2CES装置10−2が備えるA/S変換装置14と同様の構成および機能を有する。
【0024】
このような構成によれば、第1同期回線18に接続される端末装置、および、第2同期回線22に接続される端末装置は、非同期回線20の動作環境に拘束されることなく、各同期回線の環境で動作する。
【0025】
図2には、第2CES装置10−2が備えるA/S変換装置14の構成が示されている。A/S変換装置14は、非同期回線20から受信したクロックパケットのタイミングに応じたクロック信号を生成し、非同期回線20から受信したパケットに基づくデータを、そのクロック信号に従うタイミングで第2同期回線22に送信する。
【0026】
A/S変換装置14は、パケット受信部24、クロック生成部26、制御部40およびデータバッファ46を備える。パケット受信部24は、非同期回線20からパケットおよびクロックパケットを受信する。制御部40は、クロック生成部26によって生成されたクロック信号およびクロックパケットのタイミングに基づいてクロック生成部26を制御し、クロック信号のタイミングを調整する。また、パケット受信部24は、パケットからデータを抽出し、データバッファ46に記憶させる。データバッファ46はクロック信号に従ったタイミングで、自らが記憶するデータを第2同期回線22に送信する。
【0027】
制御部40によるクロック生成部26の制御により、クロック生成部26からは、クロックパケットのタイミングに応じたクロック信号が、データバッファ46に出力される。これによって、データを送信する送信部としてのデータバッファ46からは、クロックパケットのタイミングに応じたデータが第2同期回線22に送信される。
【0028】
A/S変換装置14が、クロック信号を生成する構成および動作について説明する。パケット受信部24は、非同期回線20からクロックパケットを受信する。クロックパケットには、A/S変換装置14が生成するクロック信号のタイミングを規定するカウント基準値Sが含まれている。パケット受信部24が備えるカウント値抽出部28は、クロックパケットからカウント基準値Sを抽出し、そのカウント基準値Sをクロック生成部26に出力する。
【0029】
クロック生成部26は、トリガ値生成部34、オシレータ38および出力部36を備える。トリガ値生成部34は、カウント基準値Sに、制御部40から出力されたタイミング調整量Adを加算してトリガ値Tを生成し、そのトリガ値T=S+Adを出力部36に出力する。オシレータ38は、所定周波数のパルス信号を出力部36に出力する。出力部36は、オシレータ38から出力されたパルスをカウントし、そのカウント値とトリガ値Tとが一致するタイミングごとにパルスが現れるクロック信号を制御部40に出力する。なお、出力部36は、カウント値とトリガ値Tとが一致した後のカウント値を0とし、リセットする。
【0030】
このように、トリガ値生成部34は、クロックパケットから抽出されたカウント基準値をタイミング調整量に基づいて調整し、クロック信号のタイミングを調整するためのトリガ値を求める。出力部36は、オシレータ38から出力されたパルスをカウントし、そのカウントされた値とトリガ値とが所定の関係を満たすタイミングに基づいて、クロック信号を生成する。
【0031】
パケット受信部24が備える受信クロック生成部30は、クロックパケットが受信されたタイミングでパルスが現れる受信クロック信号を生成し、受信クロック信号を制御部40に出力する。
【0032】
制御部40は、タイミング比較部42および調整量決定部44を備える。タイミング比較部42は、クロック生成部26から出力されたクロック信号、および受信クロック生成部30から出力された受信クロック信号に基づいて、進み指標値および遅れ指標値を求める。進み指標値は、クロック信号を基準として受信クロック信号が進んでいる傾向を示す値であり、遅れ指標値は、クロック信号を基準として受信クロック信号が遅れている傾向を示す値である。
【0033】
タイミング比較部42は、現時点から所定時間だけ遡った時間内において、クロック信号のパルスに対して受信クロック信号のパルスが進んでいることが検出された回数Jを進み指標値として求める。また、タイミング比較部42は、現時点から所定時間だけ遡った時間内において、クロック信号のパルスに対して受信クロック信号のパルスが遅れていることが検出された回数Kを遅れ指標値として求める。タイミング比較部42は、進み指標値Jおよび遅れ指標値Kを調整量決定部44に出力する。
【0034】
調整量決定部44は、進み指標値Jおよび遅れ指標値Kに基づいて、タイミング調整量を決定するための指標値Dを求める。具体的には、指標値Dは、D=G・J−Kとして求められる。ここでGは重み付け係数であり、進み指標値Jの指標値Dに対する寄与を増大させるための正の数である。指標値Dは、クロック信号を早める程度を示す値である。指標値Dが正の方向に大きい程、クロック信号をより早く進める制御が行われる。指標値Dとして、D=G・J−Kを用いることの意義については後述する。
【0035】
調整量決定部44は、指標値Dとタイミング調整量Adとを対応付けた指標値/タイミング調整量テーブルを記憶している。調整量決定部44は、指標値/タイミング調整量テーブルを参照し、指標値Dに対応するタイミング調整量Adを求める。
【0036】
例えば、指標値/タイミング調整量テーブルでは、−a以上、かつ、a以下の指標値Dに対しては、タイミング調整量Adとして0が対応付けられる。ここで、aは正の閾値である。また、−a未満の指標値Dに対しては正のタイミング調整量Adが対応付けられ、aを超える指標値Dに対しては負のタイミング調整量Adが対応付けられる。
【0037】
調整量決定部44は、タイミング調整量Adをトリガ値生成部34に出力する。上述のように、トリガ値生成部34は、カウント基準値Sにタイミング調整量Adを加算してトリガ値Tを求める。出力部36は、オシレータ38から出力されたパルスのカウント値がトリガ値Tと一致したタイミングでパルスが現れるクロック信号を出力する。
【0038】
このような処理によれば、指標値Dの大きさが閾値a以下であるときは、タイミング調整量Adは0となる。そのため、トリガ値Tはクロックパケットから抽出されたカウント基準値Sと一致する。したがって、オシレータ38から出力されたパルスのカウント値がカウント基準値Sと一致するタイミングでパルスが現れるクロック信号が出力される。
【0039】
また、指標値Dがaを超えるときは、タイミング調整量は負の値となるため、トリガ値Tはカウント基準値Sよりも小さくなる。したがって、トリガ値Tがカウント基準値Sと一致する場合に比べてクロック信号のパルスが早められる。
【0040】
そして、指標値Dが−a未満であるときは、タイミング調整量は正の値となるため、トリガ値Tはカウント基準値Sよりも大きくなる。したがって、トリガ値Tがカウント基準値Sと一致する場合に比べてクロック信号のパルスが遅らされる。
【0041】
これによって、受信クロック信号のタイミングに応じて、クロック生成部26から出力されるクロック信号のタイミングが調整される。なお、タイミング比較部42において、受信クロック信号のパルスのタイミングと、クロック信号のパルスのタイミングとを現時点からどれだけ遡って比較するかを定める時間、あるいは、その時間に相当するパルス数(比較パルス数)、重み付け係数G、閾値a、タイミング調整量Adは、非同期回線20の遅延特性に応じて決定してもよい。ここで、遅延特性としては、例えば、クロック発生装置16からA/S変換装置14にクロックパケットが到達するのに要する遅延時間がある。
【0042】
図3には、指標値/タイミング調整量テーブルで規定される指標値Dとタイミング調整量Adとの関係がグラフによって例示されている。横軸は指標値Dを示し縦軸はタイミング調整量Adを示す。グラフ上の各線の端に付された白丸は、その線の端の値を含まないことを示し、各線の端に付された黒丸は、その線の端の値を含むことを示している。
【0043】
図3では、−4P以上、−3P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして4が対応付けられ、−3P以上、−2P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして3が対応付けられている。また、−2P以上、−P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして2が対応付けられ、−P以上、−a未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして1が対応付けられている。そして、−a以上、a以下の指標値Dに対しては、タイミング調整値Adとして0が対応付けられている。さらに、a以上、P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして−1が対応付けられ、P以上、2P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして−2が対応付けられている。また、2P以上、3P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして−3が対応付けられ、3P以上、4P未満の指標値Dに対して、タイミング調整値Adとして−4が対応付けられている。なお、閾値a、指標値Dに対する境界値P、および、指標値Dの変化に対するタイミング調整量Adの変化幅は、同期回線20の遅延特性に応じて決定してもよい。
【0044】
ここで、比較パルス数を1000、閾値aを20、境界値Pを200、重み付け値Gを100とした例について取り上げる。調整量決定部44は、次のようにタイミング調整値Adを求め、トリガ値生成部34に出力する。
【0045】
クロック信号の1000個のパルスに対し、受信クロック信号の10個のパルスが進んでいたとすると、進み指標値Jは10であり、遅れ指標値Kは990である。したがって、指標値Dは、D=G・J−K=100×10−990=10である。図3のグラフで規定される指標値/タイミング調整量テーブルによれば、指標値D=10に対しては、タイミング調整量Adとして0が対応付けられている。したがって、調整量決定部44からトリガ値生成部34には、タイミング調整値Ad=0が出力され、クロック信号のタイミング調整は行われない。
【0046】
クロック信号の1000個のパルスに対し、受信クロック信号の11個のパルスが進んでいたとすると、進み指標値Jは11であり、遅れ指標値Kは989である。したがって、指標値Dは、D=G・J−K=100×11−989=111である。図3のグラフで規定される指標値/タイミング調整量テーブルによれば、指標値D=111に対しては、タイミング調整量Adとして−1が対応付けられている。したがって、調整量決定部44からトリガ値生成部34には、タイミング調整値Ad=−1が出力され、クロック信号が1パルスの時間だけ早められる。
【0047】
クロック信号の1000個のパルスに対し、受信クロック信号の13個のパルスが進んでいたとすると、進み指標値Jは13であり、遅れ指標値Kは987である。したがって、指標値Dは、D=G・J−K=100×13−987=313である。図3のグラフで規定される指標値/タイミング調整量テーブルによれば、指標値D=313に対しては、タイミング調整量Adとして−2が対応付けられている。したがって、調整量決定部44からトリガ値生成部34には、タイミング調整値Ad=−2が出力され、クロック信号が2パルスの時間だけ早められる。
【0048】
クロック信号の1000個のパルスに対し、受信クロック信号の3個のパルスが進んでいたとすると、進み指標値Jは3であり、遅れ指標値Kは997である。したがって、指標値Dは、D=G・J−K=100×3−997=−697である。図3のグラフで規定される指標値/タイミング調整量テーブルによれば、指標値D=−697に対しては、タイミング調整量Adとして4が対応付けられている。したがって、調整量決定部44からトリガ値生成部34には、タイミング調整値Ad=4が出力され、クロック信号が4パルスの時間だけ遅らされる。
【0049】
次に、比較パルス数を1000、閾値aを100、境界値Pを400、重み付け値Gを500とした例について取り上げる。クロック信号の1000個のパルスに対し、受信クロック信号の3個のパルスが進んでいたとすると、進み指標値Jは3であり、遅れ指標値Kは997である。したがって、指標値Dは、D=G・J−K=500×3−997=503である。図3のグラフで規定される指標値/タイミング調整量テーブルによれば、指標値D=503に対しては、タイミング調整量Adとして−2が対応付けられている。したがって、調整量決定部44からトリガ値生成部34には、タイミング調整値Ad=−2が出力され、クロック信号が2パルスの時間だけ早められる。
【0050】
ここでは、調整量決定部44が指標値/タイミング調整量テーブルを記憶しており、指標値/タイミング調整量テーブルを参照することで、指標値Dに対応するタイミング調整量Adを求める例について取り上げた。調整量決定部44は、このようなテーブルを用いる代わりに、指標値Dを与えることでタイミング調整量Adが得られる関数の演算を実行してもよい。
【0051】
クロック信号を早める程度を示す指標値Dとして、D=G・J−Kを用いることの意義について説明する。この式では、指標値Dに対する進み指標値Jの寄与が、指標値Dに対する遅れ指標値Kの寄与よりもG倍だけ大きい。したがって、受信クロック信号がクロック信号に対して進んでいる傾向と、受信クロック信号がクロック信号に対して遅れている傾向が同程度である場合には、クロック信号を進めるべきものとして指標値Dの値が決定される。
【0052】
図4には、クロック信号および受信クロック信号のタイミングの関係が概念的に示されている。図4の横軸は時間軸を示し、図中の逆三角形印は、受信クロック信号のパルスがタイミング比較部42に入力されるタイミングを示す。(以下の説明では、比較タイミング比較部42に入力される受信クロック信号のパルスを受信パルスと称し、受信パルスが比較タイミング比較部42に入力されるタイミングを受信パルス入力タイミングと称する。)
【0053】
この例では、受信パルスがタイミング比較部42に入力される頻度が、理想タイミング48から遅れた時間となるにつれて増加して最大となり、それより後の時間帯では、理想タイミング48からの遅れが大きくなる程減少する。ここで、理想タイミングとは、クロック供給装置16から非同期回線20を介してA/S変換装置14に至るまでにパケットの遅延がないと仮定した場合における、受信パルス入力タイミングをいう。
【0054】
実際には、クロックパケットがクロック供給装置16からA/S変換装置14に至るまでの間には遅延時間がある。そして、その遅延時間は、非同期回線20においてその他の通信装置に対して伝送されているパケットの量に応じて、すなわち、非同期回線20に対する負荷に応じて変動する。これによって、受信パルス入力タイミングは、図4に示されるように時間軸上でばらついたものとなる。
【0055】
このような状況下におけるクロック信号のタイミング調整について説明する。ここでは、クロック信号の各パルスが、図4に示されるパルスタイミング50でクロック生成部26から出力されているものとする。制御部40は、受信パルス入力タイミングおよびパルスタイミング50に応じてタイミング調整量を決定し、パルスタイミング50を理想タイミング48に近づける。
【0056】
具体的には、制御部40は、パルスタイミング50よりも受信パルス入力タイミングが遅れる頻度が、パルスタイミング50よりも受信パルス入力タイミングが進む頻度よりもG倍となるように、パルスタイミング50を調整する。すなわち、パルスタイミング50より早い受信パルス1個に対して、パルスタイミング50より遅い受信パルスがG個だけタイミング比較部42に入力されるように、パルスタイミング50を調整する。そのため、制御部40の調整量決定部44は、指標値DをD=G・J−Kとして求め、指標値Dに対する進み指標値Jの寄与を、指標値Dに対する遅れ指標値Kの寄与よりもG倍だけ大きくする。これによって、パルスタイミング50は、受信パルス入力タイミングの時間分布の先端近傍に調整され、理想タイミング48に近付けられる。
【0057】
A/S変換装置14は、受信クロック信号とクロック信号とのタイミング差が大きい場合には、次に説明する同期復旧処理を実行する。同期復旧処理では、受信クロック信号およびクロック信号のタイミング差が所定の頻度で所定範囲を外れたときに、クロック生成部26に対し受信クロック信号と同一のタイミングのクロック信号を出力させる。
【0058】
例えば、同期復旧処理は、進み指標値Jまたは遅れ指標値Kのいずれかが所定の閾値M以上となった場合に実行される。すなわち、タイミング比較部42は、進み指標値Jまたは遅れ指標値Kのいずれかが所定の閾値M以上となった場合には、直後の受信パルス入力タイミングで、出力部36に対してパルスを出力させると共に、オシレータ38から出力されているパルスに対する値を0にリセットする。これによって、クロック生成部26から出力されるクロック信号のタイミングは、強制的に受信パルス入力タイミングに合わせられる。したがって、非同期回線20における負荷変動が大きくなった等の理由により、同期外れが生じた場合であっても、迅速に同期状態への復旧が行われる。
【符号の説明】
【0059】
10−1 第1CES装置、10−2 第2CES装置、12 S/A変換装置、14 A/S変換装置、16 クロック供給装置、18 第1同期回線、20 非同期回線、22 第2同期回線、24 パケット受信部、26 クロック生成部、28 カウント値抽出部、30 受信クロック生成部、32 データ抽出部、34 トリガ値生成部、36 出力部、38 オシレータ、40 制御部、42 タイミング比較部、44 調整量決定部、46 データバッファ、48 理想タイミング、50 パルスタイミング。
図1
図2
図3
図4