(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018564
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】回動体の強制セット方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/01 20060101AFI20161020BHJP
B21D 37/08 20060101ALI20161020BHJP
B21D 19/10 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
B21D5/01 M
B21D37/08
!B21D19/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-238688(P2013-238688)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-98045(P2015-98045A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】599109803
【氏名又は名称】株式会社ユアビジネス
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 忠俊
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−138222(JP,A)
【文献】
特開2004−337900(JP,A)
【文献】
特開平09−308920(JP,A)
【文献】
特開2002−172437(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/088011(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01
B21D 37/08
B21D 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動手段によってワーク加工時の状態に回転される金型の回動体を、該加工時の状態に維持されるように前記回動体にカム機構を介して強制セットする強制セット機構において、前記カム機構におけるカム面の接触状態を線接触させるために、少なくとも一方のカム面を曲面形状にした回動体の強制セット機構を形成して金型に備え、
この金型により回動体を駆動手段で加工位置に回転させた後、前記回動体が加工時の押圧で逆回転しないように強制セットさせること、
を特徴とする回動体の強制セット方法。
【請求項2】
曲面形状は、半径rの円の一部である曲面形状、楕円曲線の一部である曲面形状、これら以外で公知の曲線の一部である曲面形状、のうちのいずれか一つであること、
を特徴とする請求項1に記載の回動体の強制セット方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などのパネル縁部を複雑な形状に曲げ加工する負角成形用のプレス成形用金型における、回動体の強制セット機構とその強制セット方法、および負角成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回動方式の負角成形用のプレス成形用金型において、例えば上カム式のプレス成形用金型20である場合は、
図4に示すように、回転中心点であるO(オ−)点の周りに、エアシリンダーなどの駆動手段で時計方向に回転する回動体21は、上加工カム22が上死点から下降して下死点に至ると、
図5に示すように、前記上加工カム22が回動体21の右半部上面に当接した後、図中で左方向に押し込まれる。そして、回動体21,バックアップブロック24,上パット23で押さえられたワークWの端部を、当該上加工カム22の曲げ刃22aで曲げ加工する。
【0003】
前記プレス成形用金型20においては、例えば、エアシリンダー等に誤動作があって、回動体21がセットされない時でも、上型本体(図示せず)に固定された前記上加工カム22によって、前記回動体21が強制的に時計方向に回転されセットされる。上カム方式にはこのような利点がある。この先願例としては、特許文献1に記載の金型が知られている。
【0004】
前記上カム方式に対して、
図6(A)に示すように、下カム方式がある。これは、上述した上カム方式においては、以下の不都合な点がある、即ち、
1:上型本体に大きな形状で重量のある上加工カムが吊持されることは、落下のおそれがあって危険である、
2:上パッド23の押さえが回動体21を押さえる前に、上加工カム22を利用して前記回動体21をセットする必要があり、その実現のためには上加工カム22のストロークが長くなり、金型製造コストが嵩むことになる、
3:上加工カム22が大きなストロークで下降したとき、ワークWの搬送において邪魔になる、という点である。
【0005】
一方で、下カム方式においても、
図6(B)に示すように、
1:回動体21の回転に干渉しない位置まで後退した後、そのまま前進すると、回動体21を破損させることになる、
2:下加工カム25のストロークS1が、
図6(B)に示すように、あまりにも大きくなり、構造的にカム機構が成立しない場合がある、
3:
図6(A)に示すように、下加工カム25のストロークS2を小さくすると、回動体21が、下加工カム25の加工圧力Pで、反時計方向に逆回転するのを防ぐ構造を考慮する必要がある、という課題がある。
【0006】
そこで、下カム方式を採用する場合には、
図6(A)に示すように、回動体21を加工位置に回転させる駆動手段であるエアシリンダー26を設けると共に、回動体21が逆回転しないようにする強制セット機構が必要となる。これには、例えば、
図7(A),(B)に示すように、直線移動する上型の強制ブロック27と、回転移動する回動体21aの強制ブロック21bとを、カム面27a,21c同士で接触させ、直線部27b,21dで当接させて、回動体21aの逆回転(反時計方向の回転)を防止するものである。この下カム方式の一例として、特許文献2に記載された金型が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−122759号公報
【特許文献2】特開2003−117608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、互いに傾斜している前記カム面27a,21c同士の接触において、平面同士で当接するのは一瞬であり、
図7(C)に示すように、回動体21aがわずかでも回転すると、後は線接触になってしまう。また、平面同士の接触においても、その平面の角度が正確に一致することは、金型の成形角度や組み立て誤差を考慮すると、実質的には不可能である。
【0009】
このように、前記上型の強制ブロック27と回動体21aとのカム面27a,21cは、移動式カム機構と同じ設計思想の下に設定され、その都度、特注にて傾斜面を設計しているので設計コストが嵩み、金型の納期も長くなっているばかりでなく、線接触に対して傾斜したカム面がスムーズな回動体の回転作用を妨げているという課題がある。本発明に係る回動体の強制セット機構と強制セット方法、および負角成形用金型は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る回動体の強制セット方法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、
駆動手段によってワーク加工時の状態に回転される金型の回動体を、該加工時の状態に維持されるように前記回動体にカム機構を介して強制セットする強制セット機構において、前記カム機構におけるカム面の接触状態を線接触させるために、少なくとも一方のカム面を曲面形状にした回動体の強制セット機構を形成して金型に備え、この金型により回動体を駆動手段で加工位置に回転させた後、前記回動体が加工時の押圧で逆回転しないように強制セットさせることである。
【0014】
前記曲面形状は、半径rの円の一部である曲面形状、楕円曲線の一部である曲面形状、これら以外で公知の曲線の一部である曲面形状、のうちのいずれか一つであることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の回動体の強制セット機構によれば、傾斜平面のカム面と曲面形状のカム面とが、若しくは、曲面形状同士のカム面とが、接触の当初から線接触して、回動体を曲げ加工位置の状態に強制セットする。また、回動体がエアシリンダー等の駆動手段で駆動され、加工時の状態にセットされて線接触するので、カム面の線接触の部分に大きな力が掛からないが、たとえ前記エアシリンダー等の回転駆動が正常に行われなかった時でも、前記強制セット機構における曲面形状のカム面により、回動体がスムーズに回転しセットされるものである。
【0016】
更に、曲面形状のカム面により、カム設計が容易となり、強制回転機構の部品が数種類に統一され、設計コストが大幅に低減される。金型の納期も短縮される。従来の金型設計にありがちだった設計ミスが解消され、メンテナンスも容易となる、と言う数々の優れた効果を奏するものである。
上記回動体の強制セット機構を備えることで、設計が容易で製作コストが低減された強制セット方法になるとともに、スイングダイを有する負角形成金型の下カム方式に適した強制セット機構となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る回動体の強制セット機構の概略を示す一部縦断面図である。
【
図2】同本発明の回動体の強制セット機構で、回動体をセットした状態の一部縦断面図である。
【
図3】同本発明に係る回動体の強制セット機構における強制ブロックの曲面形状を拡大して示す拡大詳細縦断面図である。
【
図4】従来例に係る上カム方式の負角成形用金型の一部を拡大して示す縦断面図である。
【
図5】同上加工カム22が下死点に至り、更に左側に移動してワークWを加工する様子を示す縦断面図である。
【
図6】同従来例に係る下カム方式の負角成形用金型の一部を拡大して示す縦断面図(A)、ストロークS1が長い例の縦断面図(B)である。
【
図7】同従来例に係る強制セット機構であって、上死点から下死点に移動する状態の縦断面図(A)、回動体21aが強制セットされた状態の縦断面図(B)、カム面27a,21c同士が線接触した状態を示す縦断面図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る回動体の強制セット機構1は、
図1に示すように、直線移動する金型と回転移動する金型(回動体)とが、その一部が当接するカム機構において、少なくとも一方のカム面2aを、例えば、半径r等の曲面形状に形成したものである。
【実施例1】
【0019】
本発明に係る強制セット機構1について説明する。例えば、
図1に示すように、負角成形用の金型において、エアシリンダー等の駆動手段によってワーク加工時の状態に回転される金型の回動体3を、該加工時の状態に維持されるように前記回動体3にカム機構を介して摺接する強制ブロック2,5で強制セットする強制セット機構1において、前記カム機構におけるカム面2a,5aの接触状態を線接触させるために、一方のカム面5aを傾斜平面として、前記傾斜平面と接触する他方のカム面2aを曲面形状にしたものである。
【0020】
前記カム面2aの曲面形状は、
図3に示すように、半径rの円の一部である曲面形状(a)、楕円曲線の一部である曲面形状(b)、これら以外で公知の曲線の一部である曲面形状、のうちのいずれか一つである。他の公知の曲線としては、例えば、サインカーブ、コサインカーブ、サイクロイド曲線、渦巻曲線などである。また、原則として、いずれか一つの曲線であるが、他の曲線との組みあわせでも良い。
【0021】
更に、曲面形状は、相手側の強制ブロックと当接する角部において、
図2乃至
図3に示すように、強制セット状態における直線部2bに、曲面形状のカム面2aの端部が接線となるように繋がっているが、これだけに限定されるものではない。
【0022】
なお、曲面形状が、楕円の一部である場合には、
図3に示すように、前記直線部2bに曲面形状の中心点7から直交する軸を短軸にして、前記直線部2bに平行な軸を長軸としている。これは、直線部2bに曲面形状の端部が繋がる部分で、曲線の曲率(1/r)を小さくした方が、滑らかに相手方のカム面5aと当接するからである。但し、金型の都合によっては、長短軸を、図示とは逆の関係にした楕円曲線(
図3中で符号(c)で示す曲線)に、設定しても良い。
【0023】
前記曲面形状のカム面2aは、一例として、回動体3の強制ブロック2に対して設けたが、これに限らず、金型の上型4側若しくは下型(図示せず)側のいずれか一つにおける強制ブロック5に設けられることがある。要は、回動体3の加工時の押圧力による回転(反時計方向の回転)が、阻止されれば良いからである。
【0024】
また、強制ブロック2,5は、それぞれ金型本体の回動体3,上型4と材質的に別体として示しているが、これに限らず、前記金型本体の材質と同じ材質でも良い。更に、曲面形状のカム面は、直線移動するカム面5aと、回転移動するカム面2aとおいて、両方のカム面2a,5aを曲面形状としても良い。カム機構においてカム面での線接触を実現できればで良いからである。
【0025】
上記のような強制セット機構1を有した下カム方式の金型を製作して加工金型に備え、
図1に示すように、回動体3をエアシリンダー26(
図6(A)参照)等の駆動手段で加工位置に回転させた後に、
図2に示すように、強制ブロック2,5により、前記回動体3が、下加工カム25による加工時の押圧で逆回転しないように、強制セットするものである。
【0026】
本発明に係る強制セット機構1では、通常、エアシリンダー等の駆動手段で回動体3が加工時の状態にセットされた後に、強制セット用の上型4が下降して
図2に示す状態となるので、カム面2a,5aにおける線接触部分には、大きな力が掛かるものでは無い。
【0027】
また、仮に前記駆動手段が作用しないで、正常に働かなかった場合でも、
図1に示すように、強制ブロック2,5のカム面2a,5aが線接触するので、回動体3は、時計方向に回転せしめられて、加工時の状態に強制的にセットされる。
【0028】
こうして、前記強制セット機構1を有する金型は、負角成形用の金型とすることができる。前記強制セット機構1を有する負角成形金型において、スイングダイに対する下カム方式により、下加工カム25の加工時のストロークS2を可能な限り短くしつつ、回動体3を強制セットできるからである。勿論、これ以外の加工用の上型と下型とでなる加工金型であっても良い。
【0029】
上記強制セット機構1により、従来の課題であった面接触同士の不都合もなくなり、ワークWの曲げ加工の都度に角度設計していたものが、数種類に統一されて、設計の手間が大幅に省けるようになったのである。よって、金型の製作コスト低減に大きく貢献するものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る強制セット機構1は、直線移動する金型と回動する回動体とのカム面同士の接触に関する機構なので、負角成形金型の下カム方式に限らず、上カム方式にも適用でき、更に、他の一般的な加工用金型に適用できるものである。
【符号の説明】
【0031】
1 強制セット機構、
2 強制ブロック、 2a カム面、
2b 直線部、
3 回動体、
4 上型、
5 強制ブロック、 5a カム面、
6 下型、
7 中心点、
20 プレス成形用金型、
21 回動体、 21a 回動体、
21b 強制ブロック、 21c カム面、
22 上加工カム、 22a 曲げ刃、
23 上パッド、
24 バックアッブロック、
25 下加工カム、
26 駆動手段(エアシリンダー)、
27 強制ブロック、 27a 強制ブロック。