特許第6018600号(P6018600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018600
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】布ヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/56 20060101AFI20161020BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20161020BHJP
   H05B 3/34 20060101ALI20161020BHJP
   H05B 3/03 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H05B3/56 A
   H05B3/20 361
   H05B3/34
   H05B3/03
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-60867(P2014-60867)
(22)【出願日】2014年3月24日
(62)【分割の表示】特願2013-540133(P2013-540133)の分割
【原出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-157824(P2014-157824A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-270713(P2011-270713)
(32)【優先日】2011年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594180232
【氏名又は名称】株式会社三機コンシス
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】松本 正秀
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/013459(WO,A2)
【文献】 特開2007−184230(JP,A)
【文献】 特開平11−214131(JP,A)
【文献】 特開平07−161456(JP,A)
【文献】 特開昭53−096539(JP,A)
【文献】 実開昭61−038791(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/56
H05B 3/03
H05B 3/20
H05B 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電糸で複数のループを形成し、該ループ同士を相互に絡めることによって編み込んで一枚に形成された布地と、
電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、
前記導電糸が、繊維からなる芯線と、該芯線の表面を被覆する導電層又は導電性を有する箔とで構成され
前記電極部は、前記布地の一面側に縫い込まれる第1電極糸と前記布地の他面側に縫い込まれる第2電極糸とによって飾り縫いされて構成され、
前記飾り縫いは、前記第1電極糸により、相互に平行をなす平行部分と、当該平行部分と直交する方向に当該平行部分同士を連絡する部分と、前記平行部分を斜めに横切る方向に前記平行部分同士を連絡する部分とが前記布地の一面側に構成されると共に、前記第2電極糸が前記平行部分に対応する位置にて破線をなして縫い込まれることにより前記第1電極糸の前記平行部分を固定して、前記第1電極糸の縫い込まれた形状を維持することにより構成されていることを特徴とする布ヒータ。
【請求項2】
導電糸で複数のループを連ねて形成し、該ループ同士を相互に絡めることによって編み込んで一枚に形成された布地と、
電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、
前記導電糸が、1又は複数の導電性素線を少なくとも有した集合線で構成され
前記電極部は、前記布地の一面側に縫い込まれる第1電極糸と前記布地の他面側に縫い込まれる第2電極糸とによって飾り縫いされて構成され、
前記飾り縫いは、前記第1電極糸により、相互に平行をなす平行部分と、当該平行部分と直交する方向に当該平行部分同士を連絡する部分と、前記平行部分を斜めに横切る方向に前記平行部分同士を連絡する部分とが前記布地の一面側に構成されると共に、前記第2電極糸が前記平行部分に対応する位置にて破線をなして縫い込まれることにより前記第1電極糸の前記平行部分を固定して、前記第1電極糸の縫い込まれた形状を維持することにより構成されていることを特徴とする布ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布ヒータに関し、さらに詳しくは、編物である布地に電極部を設けた布ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
布ヒータは、布地に電極が設けられた面状のヒータである。こうした布ヒータに関する技術は、これまでに多数提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されている発熱シートは、糸状の絶縁線に金属線又は帯状の箔を螺旋状に巻き付けたものを発熱線として使用し、天然繊維又は合成繊維を絶縁線として使用している。この発熱シートは、こうした発熱線と絶縁線とを織り込むと共に電極線を設けて電気回路を形成することによって構成されたものである。
【0004】
特許文献2に記載された発熱体は、たて糸とよこ糸とを織り込んで形成された織物である。この発熱体は、導電性を有する糸がたて糸として使用され、非導電性の糸がよこ糸として使用されており、電力が印加されることによって熱を発生するものである。
【0005】
特許文献3に記載されている網状ヒータは、複数のヒータ用の素線がループをたて方向に平面的に連続させて綴るトリッコ編みをして形成されたものである。ヒータ用の素線は、線径が0.02mm〜0.12mmであり、エナメル塗料が外周に被覆されている。また、トリッコ編みの編み目のピッチは、0.5mm〜5mmである。こうした構成を備えた網状ヒータは、複雑な形状の曲面に密着させることができるという効果を奏する。
【0006】
特許文献4に記載されている面状ヒータは、本出願人が発明した技術である。特許文献4に記載されている面状ヒータは、第1の布部と第2の布部とを備えている。第1の布部は2本の第1の電極糸を備えている。一方の電極糸は電池の正極に接続され、他方の第1の電極糸は電池の負極に接続されている。一方の第1の電極糸と他方の第1の電極糸とは、交叉しないようにリバーシブル編みで編まれている。第2の布部は、導電体である第2の電極糸と、通電された場合に発熱する発熱糸とが丸編みで編まれている。この面状ヒータは、電池から流出した電流が、一方の第1の電極糸、第2の電極糸、発熱糸、他の第2の電極糸、及び他方の第1の電極糸をこの順番に流れて発熱糸が発熱するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−161456号公報
【特許文献2】特開2004−33730号公報
【特許文献3】特開2001−110555号公報
【特許文献4】実用新案登録第3171497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された発熱シートは、直線状に延びる発熱線及び絶縁線の一方が縦方向に向けられると共に、他方が横方向に向けられて、両者が織り込まれて構成されたものである。同様に特許文献2に記載された発熱体も、導電性を有する糸がたて糸として使用され、非導電性の糸がよこ糸として使用され、たて糸とよこ糸とが織り込まれて構成された織物である。こうした織物は伸縮性がない。
【0009】
特許文献3に記載された網状ヒータは、ヒータ用の素線がトリッコ編みされて構成されているので、網状ヒータに張力を与えると網状ヒータを伸張させることができる。しかし、ヒータ用の素線が金属で形成されているので、張力を除去しても、伸張した網状ヒータは伸張された状態が維持され、網状ヒータを元の状態に収縮させることができない。すなわち、特許文献3に記載されている網状ヒータは、伸縮自在には構成されていない。
【0010】
一方、特許文献4に記載された面状ヒータは、布地が編物なので、自在に伸縮させることが可能である。こうした伸縮性を備えた布ヒータを利用したいという市場からの要求は、多く存在している。そのため、本出願人は、これまでよりも高い伸縮性を備えると共に、迅速に昇温する布ヒータに関する研究を続けてきた。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、全方向に伸縮し、迅速に昇温する布ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る布ヒータは、導電糸で複数のループを形成し、該ループ同士を相互に絡めることによって編み込んで一枚に形成された布地と、電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、前記導電糸が、繊維からなる芯線と、該芯線の表面を被覆する導電層又は導電性を有する箔とで構成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、導電糸が繊維からなる芯線と、芯線の表面を被覆する導電層又は導電性を有する箔とで構成されているので、導電糸を柔軟にすることができると共に、布ヒータを所定の温度まで迅速に上昇させることができる。また、布地が、柔軟性を有する導電糸で複数のループを形成し、ループ同士を相互に絡めることによって編み込まれて形成されているので、布地に弾性を持たせることができ、布地を全方向に自在に伸縮させることができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明に係る布ヒータは、導電糸で複数のループを形成し、該ループ同士を相互に絡めることによって編み込まれた布地と、電極糸によって構成され、前記布地に間隔を空けて設けられた電極部と、を備え、前記導電糸が、1又は複数の導電性素線を少なくとも有した集合線で構成されていることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、導電糸が、1又は複数の導電性素線を少なくとも有した集合線で構成されているので、導電糸を柔軟にすることができると共に、布ヒータを所定の温度まで迅速に上昇させることができる。また、布地が柔軟性を有する導電糸で複数のループを形成し、ループ同士を相互に絡めることによって編み込まれて形成されているので、布地に弾性を持たせることができ、布地を全方向に自在に伸縮させることができる。
【0016】
本発明に係る布ヒータにおいて、前記布地は、前記導電糸が一面側に編み込まれると共に、繊維で形成された糸が他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれて一枚に形成されていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、布地は、導電糸が一面側に編み込まれているので、一面側を導電面として機能させることができる。また、繊維で形成された糸が他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれているので、他面側を絶縁面として機能させるとことができる。
【0018】
本発明に係る布ヒータにおいて、前記電極部が前記電極糸で飾り縫いして構成されていることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、電極部は電極糸を飾り縫いして構成されているので、電極部を柔軟にすることができる。そのため、布地の変形に伴って電極部を変形させることができる。
【0020】
本発明に係る布ヒータにおいて、前記電極部を構成する前記電極糸が、繊維からなる芯線の外周に銅線を撚糸して形成されていることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、芯線が繊維で形成されているので、電極糸を柔軟に形成することができる。そのため、布地に縫い込みやすい電極糸を得ることができる。
【0022】
本発明に係る布ヒータにおいて、前記電極部は、相対的に細い銅線が前記芯線の外周に撚糸して形成された第1電極糸と、相対的に太い銅線が前記芯線の外周に撚糸して形成された第2電極糸とから構成され、前記第1電極糸が前記布地の一方の面から縫い込まれ、前記第2電極糸が前記布地の他方の面から縫い込まれて構成されていることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、相対的に細い銅線が芯線の外周に撚糸して形成された第1電極糸が布地の他面側に縫い込まれているので、この第1電極糸と布地との間の電気的密着性を向上させると共に、電極部を柔らかくすることができる。また、相対的に太い銅線が芯線の外周に撚糸して形成された第2電極糸が布地の一面側に布地に縫い込まれているので、太い銅線が布地に供給する電流を確保することによって電圧降下の発生を防止することができる。
【0024】
本発明に係る布ヒータにおいて、前記一面側から前記布地に縫い込むための電極糸及び前記他面側から前記布地に縫い込むための電極糸だけで前記電極部に連続して相互に縫い合わされ、当該縫い合わされた電極糸が前記布地の端縁よりも外側に延びるリード線として用いられていることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、電極部に接続されるリード線が、一面側から布地に縫い込むための電極糸及び他面側から布地に縫い込むための電極糸だけで、電極部に連続して相互に縫い合わされ、当該縫い合わされた電極糸が布地の端縁よりも外側に延びているので、そのリード線を伸縮自在にすることができる。そのため、電源と布ヒータとの位置関係が変化する場合でも、布ヒータ、リード線、及びリード線と布ヒータとがつながれている部分に負荷をかけないで布ヒータを使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、布ヒータを全方向に伸縮可能に形成することができ、迅速に昇温させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る布ヒータの一面側の平面図である。
図2図1に示した布ヒータの他面側の平面図である。
図3】導電糸の編み目をモデル的に示した拡大図である。
図4】導電糸に対して繊維で形成された糸をリバーシブル編みした状態をモデル的に示した拡大図である。
図5】芯線の表面を導電層で被覆した導電糸(A)と、芯線の表面を箔で被覆した導電糸(B)との構造図である。
図6】1本の導電性素線と複数の非導電性素線とで形成された集合線(A)と、導電性素線をより合わせて形成した集合線(B)と、複数の非導電性素線を導電性素線の周囲により合わせて形成した集合線(C)との構造図である。
図7】電極糸が片面飾り縫いされた状態を示す斜視図である。
図8】片面飾り縫いされた電極糸の形態を維持する下糸の状態を示す斜視図である。
図9図7及び図8とは別形態の片面飾り縫いがされた電極糸及び下糸の状態を示す斜視図である。
図10】電極部に連続して設けられた伸縮可能なリード線をモデル的に示す説明図である。
図11】伸縮性の確認試験の説明図である。
図12】本発明に係る布ヒータを構成する布地で形成した試験サンプルの温度上昇の推移を表すグラフである。
図13】比較用の試験サンプルの温度上昇の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0029】
[基本構成]
本発明に係る布ヒータ1は、図1〜3に示すように、導電糸4で複数のループ5を形成し、ループ5同士を相互に絡めることによって編み込まれた布地2と、電極糸によって構成され、布地2に間隔を空けて設けられた電極部30と、を備えている。
【0030】
導電糸4としては、2種類の形態のものを挙げることができる。第1の導電糸4は、図5に示すように繊維からなる芯線10と、この芯線10の表面を被覆する導電層11又は導電性を有する箔12とで構成されたものである。第2の導電糸4は、図6に示すように、1又は複数の導電性素線6aを少なくとも有する集合線7で構成されたものである。
【0031】
本発明に係る布ヒータ1によれば、全方向に伸縮可能に形成することができ、迅速に昇温させることができるという特有の効果を奏することができる。
【0032】
以下、布ヒータ1の各構成の詳細について図面を適宜参照しながら説明する。
【0033】
〈布地〉
一般に、布は、糸で複数のループを連ねて形成し、このループ同士を規則的に絡めて構成される編物、縦方向に直線状に延びる糸と横方向に直線状に延びる糸とを直交させて織り込む織物、及びその他のものがある。本発明に係る布ヒータに使用されている布地2は、図3及び図4に示すように、編物である。
【0034】
布地2の形態としては、導電糸4だけを編み込んで形成したものと、導電糸4が一面側3に編み込まれると共に、繊維で形成された糸20(以下、「繊維糸20」という。)が他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれて一枚に形成されているものと、を挙げることができる。以下、導電糸4が一面側3に編み込まれると共に、繊維糸20が他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれて一枚に形成されている布地2を例に説明する。
【0035】
導電糸4は、図3に示すように、布地2の一面側3に一定間隔を空けて複数配されており、各導電糸4は、その長さ方向の一定ピッチごとに、図3の上側に位置する導電糸4に向けてループ5が形成されている。各導電糸4は、このループ5同士を互いに絡み合わせて編み込まれている。
【0036】
なお、導電糸4の編み方は、特に限定がなく、横編みで導電糸4を編み込んでもよいし、縦編みで導電糸4を編み込んでもよい。横編みとしては、例えば、天竺編み、リブ編み(フライス編み又はゴム編みともいう。)及びパール編み(リンクス編み又はガーター編みともいう。)を挙げることができる。縦編みとしては、例えば、トリコット編み及びアトラス編みを挙げることができる。導電糸4の編み方は、布ヒータ1の用途等に応じて適宜に選択すればよい。
【0037】
繊維糸20は、図4に示すように、他面側13に編み込まれている。繊維糸20は、他面側13にのみ現れるようにリバーシブル編みされている。繊維糸20は、複数の導電糸4が編まれる方向と直交する方向に、一定間隔ごとに複数のループ21を備えている。これらのループ21は、導電糸4に形成されているループ5に絡められることによって、導電糸4と一体になるように編み込まれている。なお、ここでいう「リバーシブル編み」とは、一方の面に現れる糸と、他方の面に現れる糸とが異なるように編み込む編み方のことをいう。
【0038】
具体的には、導電糸4を上糸に使用すると共に、繊維糸20を下糸に使用して導電糸4と繊維糸20とを編み込む場合、繊維糸20のループ21を編み針で導電糸4に向けて上昇させて導電糸4よりも上側に移動し、その後に再び編み針で導電糸4よりも下側に降下させる。繊維糸20のループ21は、このときに導電糸4のループ5に絡められる。この工程が繰り返されることによって、ループ21が導電性糸4に順次に繋がれ、繊維糸20の面が他面側13に形成される。
【0039】
〈導電糸〉
導電糸4の形態は、次の2種類のものがある。第1の形態に係る導電糸4は、繊維からなる芯線10と、この芯線10の表面を被覆する導電層11又は導電性を有する箔12とからなるものである。第2の形態に係る導電糸4は、1又は複数の導電性素線6aを少なくとも有する集合線7で構成されたものである。この2種類の形態について、図5及び図6を参照して詳細に説明する。なお、導電糸4は、導電性を有する糸に耐食加工、例えば、耐食めっきや耐食エナメル塗装等を施したものであることが好ましく、その材質に特に限定はない。
【0040】
(第1の形態に係る導電糸)
第1の形態に係る導電糸4としては、例えば、図5(A)に示すように、芯線10が繊維で形成され、芯線10の表面に導電層11が形成されたものと、図5(B)に示すように、芯線10が繊維で形成され、芯線10の表面に導電性を有する箔12を巻いたものとを挙げることができる。
【0041】
芯線10を構成する繊維としては、合成繊維、天然繊維及び合成繊維と天然繊維との混合繊維を挙げることができる。芯線10を合成繊維で形成する場合、芯線10は、ポリアミド又はポリエステルで形成することができる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン、ケプラー(ケプラーは登録商標)及びテクニール(テクニールは登録商標)を挙げることができる。ポリエステルとしては、例えば、テトロン(テトロンは登録商標)を挙げることができる。
【0042】
導電層11は、例えば、図5(A)に示すように、めっき(無電解又は電解)によって芯線の表面に形成される。導電層11は、銅、銅合金、銀及び銀合金等の導電性が高いものが好ましい。
【0043】
箔12は、帯状の部材であり、芯線10の長さ方向に螺旋状に延びるようにして芯線10の表面に巻き付けられている。芯線10は、この箔12によって表面の全体が被覆されている。箔12は、例えば、0.3質量%の錫入り銅合金で形成されたものが用いられる。
【0044】
こうした箔12は、使用される芯線10の種類に適応した厚さ及び幅を有するものが使用される。例えば、維度が56dtexのポリエステルで形成された芯線10を箔12で被覆する場合、厚さが12μm、幅が170μmに形成された箔12が使用される。また、太さが250デニール、維度が48dtexのポリエステルで形成された芯線10を箔12で被覆する場合、厚さが27μm、幅が320μmに形成された箔12が使用される。
【0045】
なお、導電糸4は、繊維からなる芯線10と、この芯線10の表面を被覆する導電層11又は導電性を有する箔12とからなる線を複数よりあわせた集合線で形成してもよい。
【0046】
(第2の形態に係る導電糸)
第2の形態に係る導電糸4は、図6(A)から図6(C)に示すように、1又は複数の導電性素線6aを少なくとも有する集合線7で構成されたものである。集合線7としては、導電性素線6aと非導電性素線6bとで構成されたものと、すべて導電性素線6aで構成されたものとを挙げることができる。なお、集合線7は、少なくとも1本の導電性素線6aを有していれば、導電性素線6aと非導電性素線6bとを合計した本数は限定されない。
【0047】
図6(A)に示す集合線7は、中心に1本の導電性素線6aが設けられ、その周囲に6本の非導電性素線6bが配置されて構成されている。6本の非導電性素線6bは、より合わされないで互いに平行をなして導電性素線6aの周囲に配置されている。なお、集合線7は、導電性素線6aの周囲に導電性素線6aと非導電性素線6bとを配置して形成してもよい。また、集合線7は、中心に非導電性素線6bを設け、周囲に導電性素線6aを配置して形成してもよい。なお、中心に非導電性素線6bを設ける場合、集合線7は、非導電性素線6bの周囲に導電性素線6aと非導電性素線6bとを配置して形成してもよい。
【0048】
図6(B)に示す集合線7は、複数の導電性素線6aだけがより合わされて形成されたものである。ただし、集合線7は、導電性糸6aだけをより合わせて形成したものには限定されず、導電性素線6aと非導電性素線6bとをより合わせて形成してもよい。
【0049】
図6(C)に示す導電糸4は、中心に1本の導電性素線6aが設けられ、その周囲に6本の非導電性素線6bが配置されて構成されている。6本の非導電性素線6bは、より合わされて導電性素線6aの周囲で螺旋状に延びている。なお、集合線7は、導電性素線6aの周囲に導電性素線6aと非導電性素線6bとを配置して形成してもよい。また、集合線7は、中心に非導電性素線6bを設け、周囲に導電性素線6aを配置して形成してもよい。なお、中心に非導電性素線6bを設ける場合、集合線7は、非導電性素線6bの周囲に導電性素線6aと非導電性素線6bとを配置して形成してもよい。また、導電糸4は、すべて導電性素線6aで構成してもよい。
【0050】
なお、図には示していないが、集合線7は、図6(C)に示した構造の線を、さらに複数より合わせて形成してもよい。また、集合線7は、導電性素線6aと非導電性素線6bとを編み込んで形成してもよい。
【0051】
導電性素線6aは、例えば、錫入り銅合金が使用される。例えば、0.3質量%の錫入り銅合金によって形成した場合に好適な布ヒータ1を形成することができる。ただし、導電性素線6aは、導電性を有するものであれば、錫入り銅合金に限定されず、種々の部材で形成することができる。また、導電性素線6aは、用途に応じた線径に形成されたもの選択して使用することできるが、本実施形態の布ヒータ1は、線径が25μmに形成された導電性素線6aを選択して使用している。
【0052】
なお、めっき皮膜(無電解又は電解)が必要に応じて設けられていてもよい。めっき皮膜は耐食性を有するものが好ましく、例えば、銀、錫、ニッケル又はその合金等の耐食性を有する材料である。
【0053】
第2の形態に係る導電糸4の外径は、例えば、25μmの素線6が7本より合わされた芯線7の表面に銀めっきが形成された場合に約75μmになる。
【0054】
〈繊維糸〉
繊維糸20は、合成繊維、天然繊維及び合成繊維と天然繊維との混合繊維のいずれをも用いることができる。繊維糸20を合成繊維で形成する場合、繊維糸20は、ポリアミド又はポリエステルで形成することができる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン、ケプラー(ケプラーは登録商標)及びテクニール(テクニールは登録商標)を挙げることができる。ポリエステルとしては、例えば、テトロン(テトロンは登録商標)を挙げることができる。こうした繊維糸20は、例えば、30デニールの太さに形成された糸が使用されるが、用途に応じて好適な太さの糸が選定される。
【0055】
〈電極部〉
電極部30は、布地2の2箇所に設けられている。2箇所に設けられた電極部30同士は、所定の間隔を空けて設けられている。ただし、布ヒータ1の機能を阻害しなければ、電極部30は2箇所以上に設けることもできる。こうした電極部30は、布地2に電極糸を縫い込んで形成する形態、あらかじめ所定の形状に形成された電極部30を布地2に接着剤で貼り付けたり、ホチキス等の結合部材で結合させたりする形態、及び布地2を編み込む工程で電極糸を布地2に部分的に編み込んで形成する形態等の中から必要に応じて選択することができる。以下、布地2に電極糸を縫い込んで形成する形態を例にして電極部30を説明する。
【0056】
布地2に電極糸を縫い込んで電極部30を形成する場合、電極部30は、布地2の伸縮に応じて変形しないように電極糸を布地2に縫い込む形態と、布地2の伸縮に追従して自在に変形するように電極糸を布地2に縫い込む形態との2種類の形態がある。電極部30が布地2の伸縮に追従して自在に変形するように電極糸を布地2に縫い込む場合、縫い目が布地2の変形に応じて変形する飾り縫いという縫い方で電極部30を構成するとよい。
【0057】
導電糸4だけを編み込んで形成した布地2の場合、飾り縫いの形態は、飾り部が布地2の両面に現れる形態の飾り縫い、及び片面だけに現れる形態の飾り縫いのどちらの形態も利用することができる。一方、導電糸4が一面側3に編み込まれると共に、繊維糸20が他面側13にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれて一枚に形成されている布地2の場合、電極部30は、導電糸4が現れている一面側3に飾り部が形成される片面飾りによって形成するとよい。飾り縫いをする際には、複数の針、例えば、2〜4本の針を使用して行う。
【0058】
上糸に使用される第1電極糸31(以下、単に電極糸31という。)及び下糸に使用される第2電極糸35(以下、単に電極糸35という。)は、繊維からなる芯線(図示しない)の外周に銅線(図示しない)を撚糸して形成されている。電極糸31は線径が相対的に細い銅線を芯線の外周に撚糸して形成され、電極糸35は線径が相対的に太い銅線を芯線の外周に撚糸して形成されている。具体的には、電極糸31は芯線の外周に外径が0.05mm以下の銅線を撚糸することによって形成され、電極糸35は芯線の外周に外径が0.08mm以上の銅線を撚糸して形成されている。電極糸31は、布地2との間の電気的密着性を向上させると共に、電極部30を柔らかくしている。一方、電極糸35は、布地2に供給する電流を確保することによって電圧降下を防止している。
【0059】
電極糸31及び電極糸35を構成する芯線は、合成繊維、天然繊維及び合成繊維と天然繊維との混合繊維のいずれをも用いることができる。芯線を合成繊維で形成する場合、芯線は、ポリアミド又はポリエステルで形成することができる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン、ケプラー(ケプラーは登録商標)及びテクニール(テクニールは登録商標)を挙げることができる。ポリエステルとしては、例えば、テトロン(テトロンは登録商標)を挙げることができる。
【0060】
ただし、電極糸31,35は、繊維からなる芯線に導線を撚糸したもの以外にも、銅線及び銅合金線等、導電性を有する線の表面に耐食めっき皮膜が形成されたものを使用することもできる。この耐食めっき皮膜の形成材料は、銀、錫、ニッケル又はその合金等の耐食性を有する材料である。なお、用途に応じて耐食めっき皮膜を施さずに、銅線や銅合金線だけで構成してもよい。
【0061】
こうした電極糸31,35によって構成された電極部30について、図7及び図8を参照して、2本の針を使用して形成された電極部30について説明し、図9を参照して、3本の針を使用して形成された電極部40について説明する。
【0062】
まず、2本の針を使用して形成された電極部30について説明する。電極部30は、電極糸31が上糸として使用され、電極糸35が下糸として使用されている。上糸である電極糸31は、図7に示すように、導電糸4が編み込まれている一面側3で、アルファベットのZの文字が連なるように布地2に縫い込まれる。縫い込まれた電極糸31は、相互に平行をなす部分31と、両側の平行をなす部分32と直交し、かつ、両側の平行をなす部分32同士を連絡する部分33と、両側の平行をなす部分32を斜めに横切るようにして、両側の平行をなす部分32同士を連絡する部分34とから構成される。縫い込まれた電極糸31は、平行をなす部分32で、縫製方向の一定間隔毎に下糸である電極糸35に固定されることによって、縫い込まれた形状が維持されている。
【0063】
下糸である電極糸35は、2本使用されている。電極糸35は、図8に示すように、繊維糸20が編み込まれた他面側13で、電極糸31の平行をなす部分32に対応する位置に破線をなすように平行をなして縫製方向に延びている。
【0064】
次に、3本の針を使用して形成された電極部40について図9を参照して説明する。
【0065】
上糸である電極糸31は、相互に平行をなす3つの部分41と、平行をなす部分41と直交し、平行をなす部分41同士を連絡する部分42と、平行をなす部分41を斜めに横切るようして、平行をなす部分41同士を連絡する部分43とが構成されているように、一面側3に縫い込まれている。縫い込まれた電極糸31は、各平行をなす部分41で、縫製方向の一定間隔毎に下糸である電極糸35で固定されて、縫い込まれた形状が維持されている。
【0066】
下糸である電極糸35は3本使用されている。電極糸35は、繊維糸20が編み込まれている他面側13で、電極糸31の平行をなす部分に対応する位置に破線をなすように平行をなして縫製方向に延びている。
【0067】
なお、4本の針を使用して飾り縫いして電極部を形成する場合、平行をなす部分は4本になる。また、下糸である電極糸35は4本使用され、波線をなすようにして4本の電極糸35が縫製方向に延びるように縫い込まれる。
【0068】
こうした電極部30は、電極糸31,35が片面飾り縫いされて形成されるので、布地2の伸縮に対応して電極部30自体も伸縮する。ただし、電極糸31と電極糸35とを用いた電極部30,40は、導電糸4が一面側3に編み込まれると共に、繊維糸20が他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込まれて一枚に形成されている布地2に適用する場合には限定されない。電極糸31と電極糸35とを用いた電極部30,40は、導電糸4だけを編み込んで形成した布地に適用することもできる。
【0069】
なお、電極部は、上糸に電極糸を使用し、下糸に繊維からなる糸を使用して形成してもよい。その場合の電極部は、上記の電極部30,40の構造と同様に構成すればよい。
【0070】
電源等に接続するための配線は、この電極部30に接続される。図10に示すリード線100は、こうした配線の一種である。なお、布地2の一面側3から布地2に縫い込むための糸3及び布地2の他面側13から布地2に縫い込むための糸だけが、布地2の端縁よりも外側に鎖のように延びるものは、日本では「空環」といわれている。
【0071】
リード線100は、図10示すように、一面側3から布地2に縫い込むための電極糸31及び他面側13から布地に縫い込むための電極糸35だけが、電極部30に連続して布地2の端縁よりも外側で相互に縫い合わされて形成されている。このリード線100は、電極部30をオーバーロックミシン(図示しない)で布地2に電極糸31,35縫い込む工程で形成される。リード線100は、布地2の端縁まで電極糸31,35を縫い込んだ後、ミシン針の位置から布地2を移動させ、布地2を間に挟まない状態で電極糸31,35だけを相互に縫い合わせて形成される。こうしたリード100は伸縮性があるので、例えば、布ヒータ1の電源に対する位置が移動する態様で布ヒータ1を使用する場合、布ヒータ1と電源とをリード線100で接続すれば、リード線100は布ヒータ1の移動に伴って伸縮する。
【0072】
以上に説明した導電糸4と繊維糸20とが編み込まれて形成された布地2は、全方向に20%〜200%の伸縮性を有している。また、飾り縫いして電極部30,40を設けた場合、電極部30,40が布地2の伸縮に追従して変形する。こうした特性を備えた布ヒータ1は、形状が変化する対象物に密接した状態を維持して装着させるこができる。また、布ヒータ1は、複雑な形状の対象物に隙間なく装着させることができる。
【0073】
布ヒータ1は、図1及び図2に示したように、電源50が電極部30に接続され、電源50によって電極部30に電圧が印加されることにより布地2が加熱される。
【0074】
(電源)
電源50は、直流電源と交流電源のいずれも使用することができる。直流電源を使用する場合、電源50は、DC1.5V以上、DC25V以下の電圧を出力するものを使用することができる。この場合、電源50としては、例えば、DC1.5Vの乾電池、リチウムポリマー電池を挙げることができる。また、電源50は、AC/DCアダプターによって、AC100V又はAC200Vの交流電源を、例えばDC1.5V以上、DC25V以下の直流電流に変換し、変換された直流電流を出力する定電圧装置を使用することもできる。さらに、電源50は、交流電源や、パルス電圧を出力する電源を用いることができる。以下、図1及び図2を参照して、電源50として直流電源を用いた場合を例にして、布ヒータ1と電源50との接続の態様及び布ヒータ1の作用を説明する。
【0075】
図1及び図2は、直流電源である電源50と布ヒータ1との接続態様の一例を示している。電源50は、図1及び図2に示すように、各電極部30まで延びる配線51を備えている。各配線51は、その先端にコネクタ52を備えている。このコネクタ52は、電極部30に設けられたコネクタ36と着脱自在に構成されている。
【0076】
なお、電極部30から延びるリード線100を設けた場合、リード線100は、伸縮可能な配線として利用される。この場合、布ヒータ1は、リード線100を電源50に直に接続したり、リード線100の先端にコネクタ36を設け、このコネクタ36とコネクタ52とを接続したりして、電源50に接続される。
【0077】
次に布ヒータ1がヒータとして機能する原理を説明する。電極部30に電圧を印加したとき、布地2の一面側に編み込まれた導電糸4が、電極部30同士を通電させる。布ヒータ1を構成する布地2は、電極部30同士の間に一定の抵抗値を与えている。そのため、電極部30同士の間に抵抗値に応じたジュール熱が布地2に発生する。発生するジュール熱は、ジュール熱をP、流れる電流値をI、電極部30の間の抵抗値をRとすると、次の(1)式で表すことができる。
P(ワット)=I×I×R・・・・・(1)
【0078】
布ヒータ1の温度は、布地2から発生するジュール熱によって定まるので、得ようとする温度に応じて電極部30同士の間の抵抗値及び電極部30に印加する電圧が決定される。なお、電圧は、一定電圧を連続的に印加してもよく、図示しないコントローラを使用して、適宜にオンとオフとを繰り返し行ってもよい。また、繊維糸20が布地20他面側13に編み込まれているので、繊維糸20が絶縁体として機能し、他面側13は電気的に絶縁される。
【0079】
布地2を構成している導電糸4は、図5に示したように、繊維からなる芯線10と、この芯線10の表面を被覆する導電層11若しくは箔12とからなる構造、又は図6に示したように、1又は複数の導電性素線6aを有する集合線で構成された構造である。導電糸4がこうした図5又は図6に示した構造を備えているので、電極部30に電圧を印加すると、布ヒータ1は、短時間で所定の温度まで昇温される。なお、布地2は、導電糸4が編み込まれて構成されているので、電極部30同士の間の領域は、むらなく均等に昇温される。また、布地2の他面側13は、繊維糸20が編み込まれているので、絶縁面として機能している。
【0080】
例えば、長さ1300mm、幅100mmに形成された布ヒータ1の電極部30に18.9Vの電圧を印加し、電極部30同士の間に1.65Aの電流を流し、布ヒータ1から31.2Wのジュール熱(ワット密度は0.024W/cm)を発生させたとき、布ヒータ1の全体が2分で約20℃昇温することを確認することができた。
【0081】
以上の布ヒータ1は、20%〜200%の伸縮率を有するため、人体、動物、又は構造物等の様々な対象の所望部分に装着して保温する場合に使用することができる。また、布ヒータ1は、手袋に使用したり、マフラーに使用したりすることによって、防寒具にも利用することができる。こうした用途に布ヒータ1を利用する場合、布ヒータ1は、帯状等の保温対象に応じた適宜な形状に形成して使用される。
【0082】
人体や動物を部分的に保温する場合、人体や動物の保温したい部分に巻き付けて使用する。特に、人体や動物の関節部分等の形態が変化する部分に装着する場合に有効である。関節部分は形態が変化するが、布ヒータ1は伸縮するので、布ヒータ1は、関節部分の形態の変化に追従し、人体や動物の動作を妨害することが効果的に防止できる。
【0083】
構造物を部分的に一定温度に保温する場合も、所望の部分に布地2を巻き付けて使用する。この場合、布ヒータ1が伸縮するため、保温の対象の形状に追従するように布ヒータ1が変形し、布ヒータ1と保温の対象との間に隙間が形成されることがない。特に、複雑な形状の部位を保温する場合に有効であり、布ヒータ1が伸縮して保温対象の形状に応じて変形し、保温の対象となる部分に密着させて装着することができる。
【0084】
また、導電糸4が銀等でめっきされたり、銅箔等で被覆されたりした場合は、布ヒータ1に、静電気の発生を防止する作用及び抗菌作用を付与することができるので好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の布ヒータ1を構成する布地2で作製した試験サンプル、及び比較用の試験サンプルを用いて、伸縮性の確認試験及び温度上昇の確認試験を行った。
【0086】
[伸縮性の確認試験]
伸縮性の確認試験は、図11に示すように、本発明に係る布ヒータ1を構成する布地2で形成した試験サンプル110、ステンレスメッシュで形成した比較用の試験サンプル120、及び炭素繊維を織り込んで形成された比較用の試験サンプル130を用いて行った。
【0087】
試験サンプル110は、ナイロンからなる芯線に銀めっきをした導電糸4と、ナイロンからなる繊維糸20とを編み込んで形成されたものである。具体的には、試験サンプル110は、導電糸4を一面側に編み込み、繊維糸20を他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込んだものである。
【0088】
試験サンプル120は、線径が0.18mmのステンレス線が平織りされ、目開きが0.455mm、開口率が51.0%に形成された40メッシュのステンレスのメッシュで形成されたものを用いた。また、試験サンプル130は、繊維の直径が7.0μmで、密度が1.78g/cmに形成されたものを用いた。
【0089】
確認試験は、図11に示すように、各試験サンプル110,120,130に張力を加え、各試験サンプル110,120,130を一方向に引っ張り、伸張するかどうかを確認し、その後に張力を除去し、元の状態に戻るかどうかを確認した。具体的な確認は、2つの目印140を100mmの間隔を空けて各試験サンプル110,120,130に付け、2つの間隔の変化を測定して行った。2つの目印140同士の間隔の測定は、図11に示すように、2つの目印140の直近に目盛りが設けられたメジャー150を添え、目視して行った。
【0090】
[試験結果]
試験サンプル110は、張力を加えると2つの目印140の間隔が約125mmまで伸張し、張力を除去すると2つの目印140の間隔が約98mmになった。すなわち、試験サンプル110の伸縮率は約25%であった。これに対し、試験サンプル120は、張力を加えると2つの目印140の間隔が若干伸張したが、張力を除去しても2つの目印140の間隔は収縮することなく伸張された状態がそのまま維持された。また、試験サンプル130は、張力を加えても、2つの目印140の間隔はほとんど伸張しなかった。
【0091】
以上の試験結果から分かるように、本発明に係る布ヒータ1を構成する布地2は、張力を加えたことに伴って伸張し、張力を除去したことに伴って元の状態に復元する。すなわち、本発明に係る布ヒータ1を構成する布地2は自由に伸縮する。なお、布地2の伸縮率は、張力もよるが、20%以上であることが確認された。
【0092】
[温度上昇の確認試験]
温度上昇の確認試験は、布地2で作製した試験用の試験サンプル210と、炭素繊維を織り込んで形成された試験用の試験サンプル220を用いて行った。
【0093】
試験サンプル210は、ナイロンからなる芯線に銀めっきをした導電糸4と、ナイロンからなる繊維糸20とを編み込んだものである。具体的には、試験サンプル110は、導電糸4を一面側に編み込み、繊維糸20を他面側にのみ現れるリバーシブル編みによって編み込んだものである。なお、試験サンプル210は、縦方向の寸法が35mm、横方向の寸法が120mmである。
【0094】
試験サンプル220は、フィラメント数が1000本、繊維の直径が7.0μm、密度が1.78g/cm、体積抵抗値は、1.6×10−3Ω・cmである炭素繊維を平行に7本織り込んだもので、縦方向の寸法が35mm、横方向の寸法が90mmに形成されたものである。
【0095】
試験サンプル210,220の加熱は、各試験サンプル210,220に一定の間隔を空けて2つの電極を設け、電極の間に3.0Vの直流電圧を印加して行った。
【0096】
温度の測定は、各試験サンプル210,220の表面から放射される遠赤外線量を検知器で測定する赤外放射温度計の原理を利用した遠赤外撮像法によって行った。測定機器は、FLIR社製のT335型を使用し、解析ソフトウェアは、FLIR社製のQuick Plotを使用した。また、温度の測定は、各試験サンプル210,220の3点についてそれぞれ行った。
【0097】
[試験結果]
図12は、試験サンプル210の温度測定の結果を示し、図13は、試験サンプル220の温度測定の結果を示している。図12及び図13の横軸は時間(秒)を表し、縦軸は温度(℃)を表している。また、図12及び図13に示されている実線は、各試験サンプル210,220において、温度が比較的遅く上昇する第1測定点の温度上昇の推移を示し、点線は、温度がやや迅速に上昇する第2測定点の温度上昇の推移を示し、波線は、温度が迅速に上昇する第3測定点の温度上昇の推移を示している。
【0098】
図12に示すように、試験サンプル210の第1測定点から第3測定点の温度は、電圧を印加する前の時点では約20℃であった。試験サンプル210の第1測定点から第3測定点の温度は、電圧を印加してから約5秒を経過した時点で上昇し始め、電圧を印加してから60秒が経過しとき、第1測定点の温度は28℃を超え、第2測定点の温度は30℃を超え、第3測定点の温度は約32℃まで上昇した。電圧を印加してから120秒が経過したとき、第1測定点の温度は約30℃であり、第2測定点の温度は32℃を超え、第3測定点の温度は、約35℃まで上昇した。
【0099】
図13に示すように、試験サンプル220の第1測定点から第3測定点の温度は、電圧を印加する前の時点では約20℃であった。試験サンプル220の第1測定点から第3測定点の温度は、電圧を印加してから約5秒を経過した時点で上昇し始めた。しかし、電圧を印加してから60秒が経過しとき、第1測定点の温度は約24℃までしか上昇せず、第2測定点の温度は26℃を超える温度までしか上昇せず、第3測定点の温度は、約29℃までしか上昇しなかった。電圧を印加してから120秒が経過したとき、第1測定点の温度は26℃を下回る温度までしか上昇せず、第2測定点の温度は約28℃までしか上昇せず、第3測定点の温度は、約30℃までしか上昇しなかった。
【0100】
試験サンプル210の消費電力は1.23Wであった。これに対し、試験サンプル220の消費電力は1.35Wであった。
【0101】
以上の試験結果から、本発明に係る布ヒータ1は、電圧を印加してから約120秒という短時間で全体が30℃以上の温度まで上昇するのに対し、炭素繊維によって構成されたヒータは、温度が30℃まで達しないことが判明した。また、本発明に係る布ヒータ1は、炭素繊維によって構成されたヒータよりも消費電力が少ないことも判明した。
【符号の説明】
【0102】
1 布ヒータ
2 布地
4 導電糸
6a 導電性素線
6b 非導電性素線
7 集合線
10 芯線
11 導電層
12 箔
20 繊維糸(繊維で形成された糸)
30 電極部
31 電極糸
35 電極糸
36 コネクタ
40 電極部
50 直流電源
51 配線
52 コネクタ
100 リード線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13