特許第6018614号(P6018614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 國立屏東科技大學の特許一覧

特許6018614アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド
<>
  • 特許6018614-アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド 図000003
  • 特許6018614-アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド 図000004
  • 特許6018614-アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド 図000005
  • 特許6018614-アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド 図000006
  • 特許6018614-アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018614
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】アンギオテンシンI転換酵素抑制と血圧低下に用いる短鎖活性ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/08 20060101AFI20161020BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161020BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20161020BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20161020BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20161020BHJP
   A61K 35/56 20150101ALN20161020BHJP
【FI】
   C07K5/08ZNA
   A61K37/02
   A61K37/18
   A61P9/12
   A61P43/00 111
   C12P21/06
   !C07K7/08
   !C07K14/46
   !A61K35/56
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-227038(P2014-227038)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-131796(P2015-131796A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2014年11月11日
(31)【優先権主張番号】103100759
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】511053012
【氏名又は名称】國立屏東科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】徐睿良
(72)【発明者】
【氏名】張誌益
(72)【発明者】
【氏名】黄卓治
(72)【発明者】
【氏名】藍文卓
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−112470(JP,A)
【文献】 特表2009−500404(JP,A)
【文献】 ARAKI, T. et al.,"Reptile lysozyme: the complete amino acid sequence of soft-shelled turtle lysozyme and its activity.",BIOSCI. BIOTECHNOL. BIOCHEM.,1998年 2月,Vol.62, No.2,P.316-324
【文献】 SHEPPECK, J.E. 2nd et al.,"Synthesis of a statistically exhaustive fluorescent peptide substrate library for profiling protease specificity.",BIOORG. MED. CHEM. LETT. (ISSN 0960-894X),2000年12月 4日,Vol.10, No.23,pp.2639-2642
【文献】 RAWENDRA, R.D.S. et al.,"Isolation and characterization of a novel angiotensin-converting enzyme-inhibitory tripeptide from enzymatic hydrolysis of soft-shelled turtle (Pelodiscus sinensis) egg white: in vitro, in vivo, and in silico study.",J. AGRIC. FOOD CHEM. (ISSN 0021-8561),2014年12月17日,Vol.62, No.50,pp.12178-12185
【文献】 RAWENDRA, R.D.S. et al.,"A novel angiotensin converting enzyme inhibitory peptide derived from proteolytic digest of Chinese soft-shelled turtle egg white proteins.",J. PROTEOMICS (ISSN 1874-3919),2013年12月 6日,Vol.94,pp.359-369
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO.1に示すシーケンスからなるペプチドを含むアンギオテンシンI転換酵素抑制
【請求項2】
SEQ ID NO.1に示すシーケンスからなるペプチド、及び薬学的に許容可能なキャリアー剤を含む、高血圧治療用医薬組成物。
【請求項3】
SEQ ID NO.1に示すシーケンスからなるペプチドを含む血圧降下剤
【請求項4】
次の各項を含むペプチド調製方法。
(1)スッポン卵白を緩衝剤に溶かしたスッポン卵白溶液を用意する。
(2)活性50〜100U/mgのサーモリシンを用意し、酵素質量比1/50〜1/900でサーモリシンとスッポン卵白を混合し、pH6〜9及び温度50〜70℃の条件で1〜10時間ほど加水分解反応させて水溶液を得、この水溶液はSEQ ID NO.2に示すシーケンスを含むスッポン卵白ペプチドを含む。
(3)酵素質量比1/20〜1/200でトリプシン及びSEQ ID NO.2を示すスッポン卵白ペプチドと混合し、温度20〜50℃の条件で10〜30時間ほど加水分解反応させ、SEQ ID NO.1に示すシーケンスからなるスッポン卵白ペプチドを得る。
【請求項5】
請求項記載のスッポン卵白ペプチド調製方法で、(1)の緩衝液は、50mMの炭酸水素アンモニウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン溶液である調製方法。
【請求項6】
請求項記載のスッポン卵白ペプチド調製方法で、(2)のサーモリシンは、酵素質量比1/200でスッポン卵白と混合し、温度60℃で3時間ほど、スッポン卵白を加水分解させる調製方法。
【請求項7】
請求項記載のスッポン卵白ペプチド調製方法で、(3)のトリプシンは、酵素質量比1/50で、トリプシン0.02mgとスッポン卵白を混合し、温度37℃で18時間ほどかけてSEQ ID NO.2のアミノ酸を加水分解する調製方法。
【請求項8】
請求項記載のスッポン卵白ペプチド調製方法で、(2)において、加水分解溶液を濃縮して濃縮液を得ることができる調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギオテンシンI転換酵素を抑制するペプチド、すなわち高血圧治療の医薬組成物を提供し、また、ペプチドの調製方法及びペプチドを用いた血圧降下薬の調製方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
最近、生物活性ペプチドが研究者や製薬業界の注目を集めており、健康によいということで、潜在力をもつ薬物候補とされている。ペプチドが他の薬物候補に較べて優れている点は、その効力、選択性、特異性(所望の目標に比して等分子構造物はならない特異性結合に限る)にある。
このほか、ペプチドの分解生成物はアミノ酸であることから、その代謝物が引き起こす全身系統への毒性危険を低減させ(薬物どうしの相互作用の最小化)、わずかなペプチドの体内への蓄積を抑えることができる(ペプチド代謝物による併発症の危険の減少)。
【0003】
高血圧は現代社会において普遍的な慢性病であり、既存の血圧降下剤としてはアンギオテンシンI転換酵素(angiotensin I−converting enzyme)抑制剤が知られているが、これは不活性体のアンギオテンシンIから、生理活性をもつアンギオテンシンIIへの転換を抑制する働きをして血管収縮による血圧上昇を緩和するというものである。
しかし、captopril、enalapril、lisinoprilといった血圧降下剤は、せき、味覚障害、皮膚の発疹、不整脈という副作用をもたらす。
【0004】
これまでの研究で、天然食材を用いた既存のアンギオテンシンI転換酵素抑制剤としては、卵白を用いた溶菌酵素であるリゾチーム(lysozyme)の加水分解酵素がある。
しかし、この加水分解酵素は調製の過程において、ペプシン、キモトリプシン、トリプシンという三種類の酵素を用いる必要があり、80℃及び95℃で加熱及び酸化処理しなければならない。また、アンギオテンシンI転換酵素の活性を抑える特定のペプチドを得るには、HPLC純化を経なければならず、この過程がかなり複雑である。よって既存の加水分解酵素は調製方法の改善が待たれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上を踏まえ、本発明は上述の加水分解酵素調製方法を改善して、スッポンの卵白からアンギオテンシンI転換酵素抑制剤を生成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、SEQ ID NO.1に示すシーケンスを含むペプチドを提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的として、SEQ ID NO.1に示すシーケンスを含み、アンギオテンシンI転換酵素を抑制するペプチドを提供することがある。
【0008】
本発明の別の目的として、SEQ ID NO.1に示すシーケンス、及び薬学的に許容可能なキャリアー剤を含む、高血圧治療用医薬組成物を提供することがある。
【0009】
本発明の別の目的として、アンギオテンシンI転換酵素抑制剤を調製するペプチドで、SEQ ID NO.1に示すシーケンスを含む、スッポン卵白ペプチドを提供することがある。
【0010】
本発明の別の目的として、次の各項を含むペプチド調製方法を提供することがある。
(1)スッポン卵白を緩衝剤に溶かしたスッポン卵白溶液を用意する。
(2)活性50〜100U/mgのサーモリシンを用意し、酵素質量比1/50〜1/900でサーモリシンとスッポン卵白を混合し、pH6〜9及び温度50〜7℃Cの条件で1〜10時間ほど加水分解反応させて水溶液を得る。この水溶液はSEQ ID NO.2に示すシーケンスを含むスッポン卵白ペプチドを含む。
(3)酵素質量比1/20〜1/200でトリプシン及びSEQ ID NO.2を示すスッポン卵白ペプチドを混合し、温度20〜50℃の条件で10〜30時間ほど加水分解反応させ、SEQ ID NO.1に示すシーケンスを含むスッポン卵白ペプチドを得る。
【0011】
前記目的を達成するため、(1)の緩衝液は、50mMの炭酸水素アンモニウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン溶液とする。
【0012】
前記目的を達成するため、(2)のサーモリシンは、酵素質量比1/200でスッポン卵白と混合し、温度60℃で3時間ほど、スッポン卵白を加水分解させる。
【0013】
前記目的を達成するため、(3)のトリプシンは、酵素質量比1/50で、トリプシン0.02mgとスッポン卵白を混合し、温度37℃で18時間ほどかけてSEQ ID NO.2のアミノ酸を加水分解する。
【0014】
前期目的を達成するため、(2)において、加水分解溶液を濃縮して濃縮液を得るのが望ましい。
【0015】
サーモリシンとスッポン卵白溶液を混合して得た加水分解溶液は、別途濃縮し、溶液中のペプチド濃度を上げるのが望ましい。この加水分解溶液を濃縮するには、遠心濾過デバイス、冷風乾燥、冷凍乾燥などの方法があるが、この分野に通じていれば容易に実施できることから、ここでは詳述は避ける。
【0016】
遠心濾過デバイスを使うのが望ましく、ペプチド回収率を上げるためには、フィルターメッシュ平均が3 kDaの遠心濾過デバイスを用い、温度4℃、14000×gで10分間スピンして、この加水分解溶液を濃縮し、濃縮液を得る。
【0017】
前記の方法(サーモリシンからトリプシンへの二段階加水分解)でSED ID NO.1に示すシーケンスを得る以外に、直接トリプシンを用いてスッポン卵白溶液を加水分解することによってSED ID NO.1に示すシーケンスを得ることができる。ここにおいて、LC−MS/MS分析結果によると、サーモリシンからトリプシンへの二段階加水分解のほうが収率が高く、1gのスッポン卵白溶液から3.14±0.17mgのSED ID NO.1を調製することができるが、直接トリプシンを用いた場合の収率は1.31±0.12mgにとどまる。ただし、後者は加水分解が一度だけなので、生産コストは低くなる。
【0018】
直接トリプシンを用いてSED ID NO.1に示すシーケンスを得る調製方法を次に示す。
(1)スッポン卵白溶液を用意し、これを緩衝液に溶かし、ここにおいて緩衝液は、50mMの炭酸水素アンモニウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン溶液とする。
(2)トリプシンを用意し、酵素質量比1/100でトリプシンとスッポン卵白を混合し、pH8.5及び温度37℃の条件で24時間ほど加水分解反応させて水溶液を得る。この水溶液はSEQ ID NO.1に示すシーケンスを含むスッポン卵白ペプチドを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】IW−11ペプチドがトリプシン分解を経てIVRを形成するときのLC−MS/MS図。図1aはIW−11分解前、図1bはIW−11分解後にIVRとDW−8という二種類のペプチド断片が形成されている。
図2】LC−MS図分析におけるトリプシン分解後のIVRペプチド形成。
図3】MS/MSシーケンス解析におけるIVRペプチド形成の結果。
図4】IVRペプチドのアンギオテンシンI転換酵素抑制率IC50=0.81±0.03uM、三重重複実験、統計は平均値±標準差。
図5】高血圧ラットの血圧値測定、図5a.収縮期血圧、図5b.拡張期血圧。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本文書に用いる技術的、科学的用語は、別途定義されている場合を除き、その用語が属する領域で通常の技能を有する者が共有する認識に基づいて解釈する。
【0021】
本発明は、アンギオテンシンI転換酵素を抑制するペプチド、すなわち高血圧治療の医薬組成物を提供し、また、ペプチドの調製方法及びペプチドを用いた血圧降下薬の調製方法を提供する。
【0022】
「治療」、「治療において」、及びこれらに類する言葉は、患者を煩わしている病状またはその病状によりもたらされるすべての症状を緩和、改善、減少または好転させる方法、及びその病状または現在の症状を予防する方法を指す。
【0023】
「薬学的に許容可能」とは、物質または組成物が、調合される他の成分との間に相容性があり、患者に対し無害であることを指す。
【0024】
本発明の組成物は、この技能に習熟した者が有している技術を用い、上述のラクトバチルス分離株と薬学的に許容可能な担体としてのキャリアー剤(pharmaceutically acceptable vehicle)を用いて、本発明組成物の剤形とする。
剤形としては、液剤(solution)、乳剤(emulsion)、懸濁剤(suspension)、散剤(powder)、錠剤(tablet)、丸剤(pill)、ドロップ剤(lozenge)、トローチ剤(troche)、咀嚼剤(chewing gum)、カプセル剤(capsule)、及び類似の剤形または本発明に適する他の剤形が考えられるが、この限りではない。
【0025】
そのうち、薬学的に許容可能なキャリアー剤は、溶媒(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁剤(suspension agent)、分解剤(decomposer)、結着剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、潤滑剤(lubricant)、表面活性剤(surfactant)、及び類似のキャリアー剤または本発明に適する他のキャリアー剤から一つ以上を選択して用いる。
【0026】
上述の組成物においては、製剤の領域で通常使用される溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、着色剤、香料、風味剤を、一種類以上用いてもよい。
【0027】
「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、以下の実施例に示すごとく、この分野の技能に通じる者の認識に照らし、IVRペプチドの物理的化学的特性を維持してアミノ酸と相容性があり、生理的にも薬学的にも不活性の物質を指す。
「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、重合物、樹脂、可塑剤、充填料、潤滑剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解共力剤、界面活性剤、防腐剤、甘味剤、調味剤、薬学クラスの染料または顏料、及び粘着剤のうち、一つ以上を指すが、この限りではない。
【0028】
「医薬組成物」(pharmaceutical composition)とは、固体または液体の組成物で、その形式、濃度、純度が、患者(病気のヒトまたは動物)に投与するのに適合し、投与した後、生理的変化を誘発するものを指す。通常、医薬組成物は無菌及び/または非発熱性(non−pyrogenic)である。
【0029】
「有効量」とは、所望の生物学的反応を起こさせるのに必要な量を指す。この分野における通常の技術者の認識に照らすと、複合物または生物活性剤の有効量は、エンドポイント、生物活性剤の体内送達システム、被包物の材質、目標となる組織などの要素によって異なる。
【0030】
表題に掲げた方法により治療の対象となる「患者」、「個体」または「宿主」は、霊長類(ヒトなど)、牛、羊、馬、豚、げっ歯類動物、猫または犬を想定している。
【0031】
以下に本発明の実施例を記述するが、これに限るものではない。本発明に用いる薬物、生物材料はいずれも市販されており、次に示す例はその代表例に過ぎない。
【実施例1】
【0032】
本発明における短鎖活性ペプチドIVR(Ile Val Arg,SEQ ID NO.1)の調製方法は以下のとおりである。
【0033】
(1)スッポン(Pelodiscus sinensis)の卵の卵白溶液を用意し、緩衝液に溶かす。緩衝液は、炭酸水素アンモニウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン溶液とする。50mMの炭酸水素アンモニウム溶液を緩衝液が望ましく、10mgのスッポン卵白のパウダーを1mlの50mM炭酸水素アンモニウム溶液に溶かし、重量濃度1%のスッポン卵白溶液を得る。このとき、卵白濃度は10mg/mlである。
【0034】
(2)活性50〜100 U/mgのサーモリシンを用意する。酵素質量比1/50〜1/900でサーモリシンとスッポン卵白を混合するが、このとき重量比1/200が望ましい。pH6〜9(理想的にはpH8.5)、温度50〜70℃(理想的には60℃)の条件で、1〜10時間(理想的には3時間)ほど加水分解反応させて加水分解溶液を得る。
この加水分解溶液は、アミノ末端からヒドロキシ末端までのシーケンスがIle Val Arg Asp Pro Asn Gly Met Gly Ala Trp(IVRDPNGMGAW,IW−11,SEQ ID NO.2)であるスッポン卵白ペプチドを含む。前記(1)〜(2)の詳細手順は、中華民国専利申請案号第102140771号を参照のこと。
【0035】
(3)シーケンスIVRDPNGMGAWのペプチド1mgを25mMの炭酸水素アンモニウム(0.5mL)に溶かし、酵素質量比1/20〜1/200でトリプシンとスッポン卵白ペプチドを混合するが、このとき、重量比1/50で0.02mgのトリプシン(trypsin)を加えるのが望ましい。温度20〜50℃(理想的には37℃)の条件で、10〜30時間(理想的には18時間)ほど加水分解反応させ、アミノ末端からヒドロキシ末端までのシーケンスがIle Val Arg(IVR,SEQ ID NO.1)のスッポン卵白ペプチドを得る。
【0036】
前記の調製方法により得たIW−11ペプチドをLC−MS分析にかけた結果、このスッポン卵白ペプチドのシーケンスを図1aに示した。C18カラム(150mm×2.1mm、充填粒径5μm)及びエレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)による質量分析装置を用いており、IW−11がトリプシンと加水分解されて、IVRとDW−8の断片を形成しており(図1b)、交換率>95%であった。
続くIVRペプチドの質量分析では、C18カラムと10%アセトニトリル(ACN)+0.1%ギ酸(formic acid)で溶離して分析後、このペプチドは、電荷質量比386.50m/z、分子量1215.41 Daという結果を得た(図2)。MS/MSシーケンス解析の結果、このペプチドのアミノ末端からヒドロキシ末端までのシーケンスはIle Val Arg(IVR,SEQ ID NO.1)(図3)、LC−MS分析の収率>95%、であった。
【実施例2】
【0037】
IVRペプチドのアンギオテンシンI転換酵素抑制活性についての実験。
【0038】
アンギオテンシンI転換酵素の抑制活性の実験においては、実験群として、10μlのIVR溶液、20μlのアンギオテンシンI転換酵素(活性100mU/mL)、30μlのHHL(Hip−His−Leu、アンギオテンシンI転換酵素の基質、2.5mM)、及び300mMのNaClを含むホウ酸塩緩衝剤(borate buffer)(200mM、pH8.3)10μlを混合して、70μlの実験群酵素反応液を作り、37℃で30分間放置した後、30分間揺すり、70μlの1M塩酸を加えて反応を終止させ、HLL加水分解生成物(馬尿酸、hippuric acid、HA)の含有量をHPLCで計測する(実験群)。
並びに、前記と同条件だが、標的であるペプチドを加えない対照群を用意し、HLL加水分解生成物(hippuric acid、HA)の含有量を計測する(対照群)。
【0039】
アンギオテンシンI転換酵素抑制率は、次の式による。
アンギオテンシンI転換酵素抑制率(%)=[1−(ΔA実験群/ΔA対照群)]×100
【0040】
実験の結果、IVRペプチドによるアンギオテンシンI転換酵素抑制率は54.1%であった。
【実施例3】
【0041】
IVRのアンギオテンシンI転換酵素特性率IC50をより深く理解するため、IVRペプチドを化学的に合成する。
スッポン卵白ペプチドのアンギオテンシンI転換酵素抑制効果を明らかにするため、濃度が異なる四組のIVR溶液(1.6、0.8、0.4、0.2μM)を用意し、アンギオテンシンI転換酵素抑制率について回帰曲線を計算してから、IVR溶液のアンギオテンシンI転換酵素抑制率IC50を得ることとした。この実験は三重重複実験である(図4)。
【0042】
実験の結果、IVRペプチドのアンギオテンシンI転換酵素抑制率IC50は0.82μMであった。過去の文書におけるペプチドのアンギオテンシンI転換酵素抑制効果を表1にまとめた。
【0043】
【表1】
【実施例4】
【0044】
高血圧ラット(SHR)を用いてIVRペプチドの動物実験を実施する。実験動物はプラスチックケージで飼育し、餌はAIN(America Institute of Nutrition)基準による。飼育環境は、温度241 ℃、相対湿度603%の飼育室、明暗各12時間、餌と水は自由摂取とした。
対照群(蒸留水)、Captopril群(2mg/kg、アンギオテンシンI転換酵素を抑制する血圧降下剤)、IVR群(1mg/kg)の三群に分けて実験した。一群当たり十匹の十分に生長したラットを用意し、4週間飼育し、約12〜13週齢になってから実験を行った。テールカフ(tail−cuff)法によるラットの収縮期血圧(systolic blood pressure;SBP)と拡張期血圧(diastolic blood pressure;DBP)の測定に当たり、餌を与えてから第0、2、4、6、8、24時間目の血圧を測定した。
【0045】
実験の結果によると、収縮期血圧(図5a)は、IVR群は第2、第4時間目に血圧が抑制されており、Captopril群に較べても効果があり、拡張期血圧(図5b)は、IVR群はCaptopril群と較べてほぼ同程度の血圧降下作用を示した。
【0046】
以上をまとめると、本発明におけるIVRペプチド調製方法として望ましい実施例により、本発明のIVRペプチドを取得でき、そのIVRペプチドはSEQ ID NO.1に示すシーケンスを含み、且つアンギオテンシンI転換酵素の活性を抑制する能力を具備する。
【0047】
本発明のIVRペプチドの抑制効果は、11個のアミノ酸ペプチド(IW−11)よりも優れ、また過去の論文に発表された他のペプチドよりも優れているとともに、既知の薬物Captoprilの動物実験により知られる抑制効果よりも優れている。
【0048】
以上の効能、効果は、新規性、進歩性という特許発明の要件を満たしていると思われることから、ここに特許を出願する。
図1
図2
図3
図5
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]