特許第6018636号(P6018636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018636
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】マルチチャネルフローセル
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20161020BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G01N21/05
   G01N21/41 101
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-533245(P2014-533245)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公表番号】特表2014-528574(P2014-528574A)
(43)【公表日】2014年10月27日
(86)【国際出願番号】SE2012051036
(87)【国際公開番号】WO2013055281
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】1100724-2
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】スヨランダー,ステファン
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平04−501462(JP,A)
【文献】 特開2009−002806(JP,A)
【文献】 特表2007−510923(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0253821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉フローセル構成を形成するために平坦な蓋表面に連結されるフローセルユニットであって、3以上の隣接する延長フローチャネルを画定する弾性材料の突き出た壁を持つ上面を備え、各フローチャネルは第1の流体ポート及び第2の流体ポートを備え、
隣接するフローチャネルを分離する前記壁は、低い高さのバルブセクションを備え、それによりフローセルと前記蓋表面との間の連結力を、それぞれ開いた連結状態及び閉じた連結状態に制御することによって、前記延長フローチャネルと交差するフロー経路を選択的に開閉できるようにする、フローセルユニット。
【請求項2】
一方又は両方の連結状態において、前記壁をさらに圧迫するために必要な前記連結力を段階的に高めるように配置された弾性材料の1以上の力制御要素を備える、請求項1記載のフローセルユニット。
【請求項3】
交差するフロー経路に沿って交差する層流チャネルを提供するように配置された1以上の交差するように配置された入口−出口ペアを備える、請求項1又は請求項2記載のフローセルユニット。
【請求項4】
閉フローセル構成を形成するために平坦な蓋表面に連結される請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフローセルユニットと、前記フローセルユニットの前記第1及び第2の流体ポートに接続された流体管と、前記流体管を経由する流体のフローを制御するための流体制御システムと、フローセルと前記蓋表面の間の連結力をそれぞれ開いた連結状態及び閉じた連結状態に制御するように配置された連結ユニットとを備える、流体システム。
【請求項5】
連結ユニットは、前記2つの連結状態に事前定義済みの連結力を供給するように配置された力制御構成を備える、請求項4記載の流体システム。
【請求項6】
連結力センサを備え、前記連結ユニットは前記力センサからのフィードバックに基づいて事前定義済みの力を印加するように配置される、請求項4記載の流体システム。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか1項記載の流体システムを備えるバイオセンサシステム。
【請求項8】
平坦な蓋表面はSPRセンサ表面である、請求項4乃至6のいずれか1項記載の流体システムを備える、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサシステム。
【請求項9】
前記隣接する延長フローチャネルに交差する前記SPRセンサ表面上の2以上の間隔をあけた線形の検出領域においてSPRレスポンスを記録するように配置された、請求項8記載のSPRバイオセンサシステム。
【請求項10】
前記全SPRセンサ表面にわたり前記SPRレスポンスを空間的に記録するように配置された、請求項8記載のSPRバイオセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサシステム又は同種のシステム向けのフローセルユニット及び流体システムに関し、詳細には、容量を増大したバイオセンサシステム向けのフローセルユニット及び流体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子など分子間の相互作用をリアルタイムで監視することができるバイオセンサシステムには、ますます関心が高まっている。そのようなバイオセンサシステムの代表的なものは、GE Healthcareにより販売されたBIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴(SPR)機器であり、これはサンプル内の分子間の相互作用、及び検知表面上で固定化された分子構造を検出するために表面プラズモン共鳴(SPR)を使用する。サンプルがセンサ表面を通過する際、結合の進行状況は、相互作用が発生する速度を直接反映している。サンプル注入後、緩衝液流が続き、その間の検出器のレスポンスは、表面上の複合体の解離速度を反映している。BIACORE(登録商標)システムからの通常の出力は、時間経過に伴う分子間相互作用の進行を説明するグラフ又は曲線であり、結合位相部分及び解離位相部分を含む。この結合曲線は、通常はコンピュータ画面に表示され、「センサグラム」と称されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008127269号
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、新たなフローセルユニットと、これを使用する流体システムを提供することであり、このフローセルユニット及び流体システムは、従来技術のフローセルユニット及び流体システムの1以上の欠点を克服するものである。その克服は、独立クレームに定義されるように、フローセルユニット及び流体システムによって達成される。
【0005】
本発明のフローセル構成による1つの利点は、堅固で、簡易な、低コストの効率的な方法で、相互作用研究のための検出器スポットの数を増やすことができることである。さらにフローセル構成の別の実施形態により、2次元検出スポットアレイをより迅速に提供することができる。
【0006】
本発明のさらに深い理解、及び本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面を参照することにより得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】SPRに基づくバイオセンサシステムを示す概略側面図である。
図2】結合曲線が明らかな結合及び解離位相を呈する、代表的なセンサグラムを示す図である。
図3図3a及び図3bは従来技術のSPRバイオセンサシステムを示す概略図である。
図4図4a及び図4bは2列のSPRバイオセンサシステムの一実施形態を示す概略図である。
図5図5a及び図5bは、図4a及び図4bのSPRバイオセンサシステムの拡大断面図である。
図6図6a及び図6bは5列のSPRバイオセンサシステムの一実施形態を示す概略図である。
図7図7a及び図7bは2次元SPRバイオセンサシステムの一実施形態を示す概略図である。
図8図8a及び図8bは一実施形態に係るフローセル構成を示す図である。
図9図9a及び図9bは一実施形態に係るフローセルユニットを示す図である。
図10図10a〜図10dは一実施形態に係るフローセルユニット、及び連結力の基本制御を示す図である。
図11図11a及び図11bは一実施形態に係る連結ユニットを示す図である。
図12図12a及び図12bは、図10a〜図10dのフローセルユニットの閉及び開連結力状態を示す図である。
図13図13a〜図13eは図10a〜図10dのフローセルユニットを使用した固定化及び検出プロセスの例を示す図である。
図14図14a及び図14bは 図10a〜図10dのフローセルユニットを開いた連結力状態で示す図であり、流体境界面は流体力学的制御を使用して変位される。
図15図15a〜図15dは別の実施形態に係るフローセルユニットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
前記術のように、本発明は、バイオセンサシステム又は同種のシステム向けのフローセルユニット及び流体システムに関し、詳細には、容量を増大したバイオセンサシステム向けのフローセルユニット及び流体システムに関する。
【0009】
他に特に定義のない限り、本明細書において使用されるすべての技術及び科学用語は、本発明に関連する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同様の意味を有する。また、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、特に指示のない限り、複数の参照を含むことが意図される。
【0010】
本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、参照によりそれらの全体を本明細書に援用する。
【0011】
しかし、本発明をさらに詳細に説明する前に、本発明を使用することが企図される一般的なコンテキストについて説明する。
【0012】
化学センサ又はバイオセンサは通常、ラベルフリーの技法に基づいており、例えば質量、屈折率、又は固定化層の厚さなど、センサ表面の特性の変化を検出するが、ある種のラベリングに依存するセンサもある。通常のセンサ検出技法は、光学、熱光学、及び圧電又は音波方法(例えば、弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)及び水晶発振子マイクロバランス(QCM:quartz crystal microbalance)方法を含む)など質量検出方法、並びに電位差測定、伝導性測定、電流測定、及び静電容量/インピーダンス方法など電気化学的方法を含むが、これらに限定されることはない。光学検出の方法に関して、代表的な方法は、例えばエバネッセント波偏光解析法(evanescent wave ellipsometry)及びエバネッセント波分光法(EWS、又は内部反射分光法(Internal Reflection Spectroscopy))などの、角度、波長、偏光、又は位相分解である、外部及び内部反射法を含む反射光学方法など、質量表面濃度を検出する方法を含み、エバネッセント波偏光解析法及びエバネッセント波分光法はいずれも、表面プラズモン共鳴(SPR)、ブリュースター角屈折計法(Brewster angle refractometry)、臨界角屈折計法(critical angle refractometry)、屈折全反射(FTR:frustrated total reflection)、内面全乱反射(STIR:scattered total internal reflection)(散乱増強ラベル(scatter enhancing label)を含む)、光導波路センサ、外部反射イメージング、臨界角度分解イメージングなどエバネッセント波ベースのイメージング、ブリュースター角度分解イメージング、SPR角度分解イメージングなどを介したエバネッセント電界増強を含むことができる。さらに、例えば表面増強ラマン分光法(SERS:surface enhanced Raman spectroscopy)、表面増強共鳴ラマン分光法(SERRS:surface enhanced resonenace Raman spectroscopy)、エバネッセント波蛍光(TIRF:evanescent wave fluorescence)、及び燐光 に基づく、単独の、又は反射法と組み合わせた、光度測定及び画像処理/顕微鏡法は、導波路干渉計、導波路漏洩モード分光法、反射干渉分光法(RIfS:reflective interference spectroscopy)、透過干渉分光法、ホログラフィック分光法、及び原子間力顕微鏡法(AFR:atomic force microscopy)と併せて言及することができる。
【0013】
市販されているバイオセンサは、GE Healthcareによって製造され販売されている前述のBIACORE(登録商標)システム機器であり、これは表面プラズモン共鳴(SPR)に基づいて、結合リガンドと関心対象のアナライトとの間の表面結合相互作用をリアルタイムで監視できるようにする。このコンテキストにおいて、「リガンド」は、所与のアナライトについて既知又は未知のアフィニティを有する分子であり、表面の検知量(検出量)内の固定化されたキャプチャ又は捕捉剤を含むが、一方「アナライト」は、任意の固有の結合パートナーを含む。
【0014】
後段の詳細な説明及び実施例において、本発明はSPR分光法、詳細にはBIACORE(登録商標)システムのコンテキストで説明されるが、本発明がこの検出方法に限定されないことを理解されたい。むしろ、固定化されたリガンドへのアナライトの結合を定量的に示す検知表面における変化を測定できることを前提として、アフィニティに基づく任意の検出方法を採用することができる。
【0015】
SPRの現象はよく知られているので、SPRとは、光が屈折率の異なる2つの媒質間の境界面において特定の条件下で反射される場合に生じるものであること、及びその境界面は通常銀又は金の金属フィルムで被覆されていることを説明するにとどめておく。BIACORE(登録商標)機器において、媒質は、サンプル、及び微小流体フローシステムによりサンプルと接触させるセンサチップのガラスである。金属フィルムは、チップ表面上の金の薄層である。SPRは、反射の固有の角度範囲において反射光の強度を低減させる。最小反射光強度の角度、いわゆるSPR角度は、BIACORE(登録商標)システムのサンプル側の、反射光と対向する側の金属表面に近接する屈折率に応じて異なる。
【0016】
BIACORE(登録商標)システムの概略図を図1に示す。センサチップ1は、フローチャネル5を通じて、例えば抗原などアナライト4のサンプル流にさらされた、例えば抗体などキャプチャ分子(リガンド)3を支持する金フィルム2を有する。照明ユニット7(例えば、LED)からの主として単色のp偏光6は、プリズム8によってガラス/金属境界面9に結合され、ここで光は、SPRにより全反射を減衰させて、SPR曲線を形成する。反射光ビーム10の強度は、光検出ユニット11(例えば、光検出器アレイ)によって検出される。
【0017】
サンプル内の分子がセンサチップ表面上のキャプチャ分子に結合する場合、濃度、ひいては表面の屈折率が変化し、SPR曲線角度位置のシフトに起因する、SPR反応、SPR角度、強度、又はSPR曲線状パラメータの変化が検出される。相互作用の経過中の時間に対するレスポンスをプロットすることで、相互作用の進行を定量的に測定することができる。そのようなプロット、又はカイネティクス若しくは結合曲線(結合等温線)は通常、センサグラムと呼ばれるが、場合によっては、当技術分野において「アフィニティトレース」又は「アフィノグラム」と称されることもある。BIACORE(登録商標)システムにおいて、SPRレスポンス値は、共鳴単位(RU)で表される。1つのRUは、最小反射光強度の角度、又はSPR曲線重心角度における0.0001°の変化を表すが、これはほとんどのタンパク質及びその他の生体分子の場合、センサ表面における約1pg/mm2の濃度の変化に相当する。アナライトを含むサンプルがセンサ表面と接触すると、センサ表面に結合されたキャプチャ分子(リガンド)は、「結合(association)」と称される段階においてアナライトと相互作用する。この段階は、サンプルを最初にセンサ表面と接触させた際のRUの増加によりセンサグラムで指示される。逆に、「解離(dissociation)」は通常、サンプルの流れが、例えば緩衝液流に置き換えられる場合に生じる。この段階は、アナライトが表面結合リガンドから解離する際の経時的なRUの降下によりセンサグラムで指示される。
【0018】
図2に、センサチップ表面における可逆相互作用の代表的なセンサグラム(結合曲線)を示すが、検知表面は、例えば、サンプル内の結合対象、すなわちアナライトと相互作用する抗体など、固定化されたキャプチャ分子、すなわちリガンドを有する。縦軸(y軸)は、レスポンス(共鳴単位、RUで表示)を示し、横軸(x軸)は、時間(秒単位で表示)を示す。最初、緩衝液は、検知表面を通過し、センサグラムにベースラインレスポンスAをもたらす。サンプル注入中、アナライトの結合に起因する信号の増大が観察される。結合曲線のこの部分Bは、通常、「結合位相(association phase)」と称される。最終的に結合位相の最後又は最後付近において定常状態条件に到達し、共鳴信号はCにおいて安定状態になる(しかし、常にこの状態に到達するとは限らない)。本明細書において、「定常状態(steady state)」という用語は、「平衡(equilibrium)」という用語の同義語として使用されることに留意されたい(他のコンテキストにおいて、たとえシステムが平衡状態ではない場合でも実際に結合が経時的に一定となりうるので、「平衡」という用語は、理想相互作用モデルを説明する場合に備えて使用を控える場合もある)。サンプルの注入の終えると、サンプルは、緩衝液の連続流に置き換えられ、信号の減少は、表面からアナライトが解離したこと、すなわち解放されたことを反映する。結合曲線のこの部分Dは、通常、「解離位相(dissociation phase)」と称される。解析は、再生成段階により終了し、ここで表面から結合アナライトを除去することができ、しかも(理想的に)リガンドの作用を保持することができる溶液が、センサ表面に注入される。これは、センサグラムの部分Eに示される。緩衝液の注入により、ベースラインAが回復し、表面は新たな解析を行なう準備が整っている。
【0019】
結合位相B及び解離位相Dのそれぞれのプロファイルから、結合及び解離のカイネティクスに関する情報が得られ、Cにおける共鳴信号の高さはアフィニティを表す(相互作用から生じたレスポンスが、表面上の質量濃度の変化に関連する)。このことについては、後段でさらに詳細に説明する。
【0020】
BIACORE(登録商標)機器の技術的側面及び基本光学原理、並びにSPRの現象についての詳細な説明は、米国特許第5,313,264号に記述されている。
【0021】
図3a及び図3bは、そのような従来技術のBIACORE(登録商標)システムにおける光学システムを概略的に示し、図3bは上面図であり、図3aは図3bの平面Pの断側面図である。そのようなシステムは、光の伝播方向と交差するSPRセンサ表面2上の線形の検出領域9において光のくさび形ビーム6を方向付けるように配置された、光源24及びくさび形成光学系26とを備える照明ユニット7を備える。説明のため、光路内のすべての屈折性の要素は省略されている(例えば、図1に示されるプリズムのような、ビームをセンサ表面に結合する光学系)か、又は一般的な「光学系」ユニット(例えば、20及び26)で置き換えられている。光のくさび形ビーム6は、図3bに示されるように交差方向に基本的に均一であり、62から78度など、SPR検出に関連する入射角において示される線形の検出領域9を照らす。中間(例えば、62°と78°の間)入射角すべてを有する光線が、このビーム内にある。システムは、反射の角度が1つの次元(列)に沿ってイメージングされ、検出領域の幅がもう1つの次元(行)に沿ってイメージングされるように、SPRセンサ表面1から2次元光検出器ユニット22に反射された光を方向付けるための特殊なアナモルフィック検出光学系20を持つ検出ユニット11をさらに備える。説明のため、1つの入射平面のみを検討することとし、例えば62°の光入射は、感光性表面9上に反射され、2次元光検出器ユニット22の単一の検出要素28Aでのみ検出光学系20によってイメージングされる。同様に、角度78°の光入射は、1つの単一検出要素28Hでイメージングされる。62度から78度の入射角値を有する光は、同様に、同じ検出器列で要素28Aと28Hの間にある単一の検出要素を照らし、これは図3a及び図3bにおいて、垂直の列として示される。
【0022】
例えば発光ダイオードなど光源24は、概ね単色の特性を備え(帯域幅〜50nm)、さらにインコヒーレントで、ほぼ約650から約850nm程度の中心波長を持つ光の種類を放射する。或いは、光源24は、例えば半導体レーザ、色素レーザ、又はガスレーザなどレーザであり、概ね単色でコヒーレントな光を放射する。或いは、光源24はまた、超発光又は超放射ダイオード(SLD)、又はELEDのいずれかのような、低コヒーレントエッジ発光ダイオードの形態をとることもある。
【0023】
入射面Pに平行な異なる入射面を持つ光線は、2次元光検出器ユニット22の他方の列に属する個々の検出要素上に同様にイメージングされる。したがって、行のすべての検出要素は、1つの固有の入射角に対応する。したがって、導管部分の交差方向に見られるように、検知表面のそれぞれの部分が、2次元光検出器ユニット22の各列に対応する。サンプルのフローチャネルの幅、検出光学系の倍率、個々の検出要素の表面積、それらの検出要素の間隔に応じて、当該のフローチャネル部分の合計幅をイメージングするために特定数の検出要素の列が必要であってもよい。
【0024】
図3a及び図3bの実施形態では、同時に最大9つの独立した相互作用を登録できるようにする、相互作用解析用の9つの検出スポット13a〜13iが示される。当技術分野において定着しているように、リガンドは各検出スポットで固定化され(1以上のスポットは、SPRレスポンスへの非特定の寄与を軽減するための基準チャネルとして機能を果たすため、意図的にリガンドなしの状態であってもよい)、同一又は異なるアナライトをセンサスポットに接触させる。一実施形態では、米国特許第5313264号に示されるように、各検出スポット13は、アナライトがスポットを通過するためのフローチャネルに関連付けられるが、代替として2以上の検出スポット13は、例えば(米国特許第7811515号に開示されるように)個々の検出スポット13を流体力学的に処置することができる、1つの単一フローセルで配置されてもよい。
【0025】
図3a及び図3bに示されるタイプの従来技術のシステムにおいて、検出スポットの理論的最大数は、2次元光検出器ユニット22のピクセル行の数によって制限されるが、実際の数は、検出スポット13及び関連する流体システムのサイズによって異なる。
しかし、多くの状況において、より高いスループットが必要となるので、センサ表面上にはさらに多くの検出スポットが求められる。
【0026】
図4a〜図5bは、新しい表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサシステムの概念の概略的な実施形態を示すが、検出スポット13の数は、システムの光学系を大幅に再設計する必要なく2倍になる。このシステム概念は、スウェーデン同時係属特許出願公開第1150890−0号に極めて詳細に開示されている。
【0027】
平面Pで適切な距離だけ第1の光源24aと間隔をあけて第2の光源24bを設置し、光源からの光の放射を適切に制御することにより、照明ユニットは、光の伝播の方向と交差するSPRセンサ表面1上で、それぞれ2つの間隔をあけた線形の検出領域9a及び9bにおいて光のくさび形ビーム6を選択的に方向付けるように配置される。概して、図3a及び図3bの従来技術のSPRシステムのすべての要素に変更を加えることはないが、最適化が行なわれてもよいことが当業者には理解されよう。第2の光源24b及び関連するビーム経路の変位は、例示するために誇張されており、実用的な光設計における実際の変位は、センサ表面上の検出領域9a及び9bの間に適切な距離をあけるためにごくわずかなものであってもよい。実際の変位はさらに、経路に沿ったすべての他の光コンポーネントの光学的特性(例えば、口径/イメージング領域)によって制限されてもよい。
【0028】
約0.3mm離れた2つの光源24a及び24bを含む一実施形態では、2つの光ビームは、同時に生成されて、センサ表面1で約1mm離れた2つの検出領域9a及び9bをもたらす。
【0029】
各検出スポット13ペア(平面Pと平行な同一平面内に配置されたスポット)の2つの検出領域9a及び9bは、2次元光検出器ユニット22の同じピクセル列にイメージングされるので、その時点において1つのSPR曲線(反射率曲線の1つの降下)として測定される2つの相互作用レスポンスは、完全に同時には記録されない可能性がある。したがって、2つの検出領域9a及び9bに沿って検出スポット13から独立して相互作用データを記録するために、2次元光検出器ユニット22からの読み出しと同期して、2つの光源24a及び24bのオンとオフを適切な頻度で交互に切り替える。このようにすることで、2つの検出スポット行の各々について1つずつ、2つのほぼ同時のセンサグラムのセットを生成することができる。
【0030】
前述のように、設計は、2つの検出領域9a及び9bに限定される必要はなく、図6a及び図6bは、5つの平行の検出領域9aから9eを備え、検出スポット13が45箇所になる実施形態を開示する。
【0031】
さらに、検出スポットの数を大幅に増大させるもう1つの方法は、光の入射角をスキャンしながら、センサ表面全体が2次元光検出ユニット22にイメージングされる真の2次元SPR検出システムを使用することであり、このようなシステムの一実施形態は、図6及び図6bにおいて概略的に開示されるが、検出スポット13の数は図6a及び図6bの実施形態の場合と等しい。2D SPRシステムのさらなる詳細は、例えば米国特許出願公開第2009−0213382号に記載されている。
【0032】
しかし、増大した光学検出容量の利点を十分に活かすために、効率的な方法で個々の検出スポットを対応する数だけ提供するように液体処理を行なうことができるフローセル構成が必要である。
【0033】
図8a及び図8bは、連結力を印加することによってセンサ表面1に連結されて2つの検出領域9a及び9bと交差する別個の延長フローチャネル34a〜iを形成するフローセルユニット32を備える。各フローチャネル34a〜iは、フローチャネル34内を流体が流れるようにするための第1の流体ポート36及び第2の流体ポート38を備える。後段において明らかになるように、第1の流体ポート36及び第2の流体ポート38は、フローセル構成30内に望ましいフローパターンをもたらすために、入口ポート及び/又は出口ポートとして使用することができる。
【0034】
開示される実施形態では、フローセルユニット32は、SPRバイオセンサ要素のセンサ表面に連結されているように示されるが、一般的な流体システムにおいて、フローセルユニット32は、例えば閉フローセル構成をフローセルユニット32と共に形成することができる任意の適切な平坦な蓋状表面に連結することもできる。
【0035】
フローセル構成を経由する流体フローは、流体管40によりフローセルユニット32の第1の流体ポート36及び第2の流体ポート38に接続された流体制御システム42によって制御される。開示される実施形態では、流体管40は、1つの単一フローチャネル34のポート36、38にのみ接続されていることが示されるが、すべてのフローチャネル34a〜iのすべてのポート36、38が対応する管40によって流体制御システム42に接続されていることを理解されたい。さらに、管40は、例えばチューブ又は毛管のように示されているが、別の実施形態では、管は一体型の流体ブロックに形成することができる。流体制御システム42は、フローセル構成が使用される流体システムの固有の要件に従って、フローセル構成内のフローを制御することができる任意の適切なシステムであってもよい。一実施形態では、流体制御システム42は、各フローチャネル34内の流体フローを独立して制御するために、各フローチャネル34及び関連するバルブ(図示せず)ごとに1つの専用のポンプ(図示せず)を備える。或いは、流体制御システム42は、例えばマルチチャネル蠕動ポンプなど、2以上のフローチャネルで同時に流体フローを制御するためのマルチチャネルポンプを備える。
【0036】
検出スポットの望ましい2次元構造をもたらすため、本発明によるフローセル構成は、図9a〜図15dを参照してさらに詳細に開示されるように、延長フローチャネル34a〜iと交差する代替のフローパターンを可能にするように配置される。一実施形態では、全センサ表面1は、検出スポット13を画定するように処理可能であってもよく、検出スポットは、光検出システムなどと直線状に流体プロセスによって画定され、それにより得られた検出スポットは概してフローチャネルと交差フローパターンとの交差点により画定される。或いは、センサ表面1は、フローセル構成と位置をそろえる配置に配置されるか、又はフローセル構成によって処理可能な別個のセンサ表面を備える。
【0037】
図9a及び図9bは、2つの透視図において、フローセルユニット32の上面46を突き出す弾性材料44の壁により画定される隣接する延長フローチャネル34a〜hを備える本発明によるフローセルユニット32の一実施形態を示す。隣接するフローチャネル34を分離する壁44bは、低い高さのバルブセクション48を備え、それによりフローセルユニット32とSPRセンサ表面1との間の連結力を、それぞれ開いた連結状態及び閉じた連結状態に制御することによって、延長フローチャネル34と交差するフロー経路を選択的に開閉できるようにする(図10b〜図10dに概略的に示す)。選択的な開いた、及び閉じた連結状態を達成するため、壁44は、システムに使用される流体に関して適切な化学安定性を持ちながらバルブ機能を達成するように変形可能な適切な弾性材料で作成される必要がある。一実施形態では、壁は、シリコンゴム(PDMA、PDMS)などエラストマー製である。全フローセルユニット32は、例えば適切な弾性材料で成形されてもよいが、或いは、フローセルユニット32のセクションは、連結中の支持を強める剛体材料など別の材料で形成することもでき、それにより弾性の壁44が共射出成形などのような適切な手段によってフローセルユニット32の上面46に取り付けられる。図9a及び図9bに示すように、バルブセクション48は、フラットバルブ面と、閉じた連結状態で壁とセンサ表面とのシーリング密着が確実になるように上面とバルブ面の間に滑らかな移行を達成するためにバルブ面から壁44の上面に延びる傾斜部分で形成される。
【0038】
それぞれ開いた連結状態及び閉じた連結状態に対して明確な力の範囲を達成するため、フローセルユニット32は、一方又は両方の連結状態において、壁44をさらに圧迫するために必要な連結力を段階的に高めるように配置された、弾性材料の1以上の力制御要素50a及び50bを備えることができる。
【0039】
図10aは、壁44によって画定された9つの隣接する延長フローチャネル34a〜iを備えるフローセルユニット32の上面図である。図10b〜図10dは、3つの異なる連結力状態における図10aのフローセルユニット32を示す断面図である。図10dに概略的に開示される一実施形態では、壁44は、力制御要素50aよりも上面46からわずかにさらに突き出ている。それにより、図10cに示されるように、壁44は、力制御要素50aがセンサ表面1に接する前にわずかに圧迫され、それによってフローセルユニット32の壁44を圧迫するために必要な力は段階的に増大し、開いた連結状態の明確で十分に幅広い力の範囲を作り出す。同様に、さらに力を印加して、壁44と力制御要素50aを力制御要素50bに達するまでさらに圧迫すると、壁44を圧迫するために必要な力が再び段階的にさらに増大するので、閉じた連結状態の明確で十分に幅広い力の範囲を作り出す。連結力を十分に正確な方法で制御できる場合には、力制御要素50a及び50bの一方又は両方を省略できることに留意されたい。壁44、フローチャネル34、バルブ部分48、力制御要素50a及び50bなどの寸法は、固有のフローセルの寸法及び要件に適合させる必要があるが、これらは当業者には明らかであろう。
【0040】
図11a及び図11bは、それぞれ開いた連結状態及び閉じた連結状態にフローセルとセンサ表面1の間の連結力を制御するように配置された連結ユニット52の1つの概略的な例を示す。開示される連結ユニット52は、それぞれ開いた状態及び閉じた状態に対して事前定義済みの連結力位置54a及び54bを備える、カムタイプの作動装置54に基づく機械的構成である。2つの連結状態に事前定義済みの連結力をもたらすために、連結ユニット52は、例えば異なる長さの2つの平行するスプリング要素56a及び56bから成る力制御構成を備える。このようにして、1つのスプリング要素56aのみが図11bに示される開いた連結状態に係合され、これにより印加される力はスプリング要素56aの特性によって制御される。一方、閉じた連結状態においては、両方のスプリング要素56a及び56bが係合され、印加される力は2つのスプリング要素56a及び56bの複合された特性によって制御される。
【0041】
別の実施形態では、連結力センサが提供され、連結ユニットは、力センサからのフィードバックに基づいて事前定義済みの力を印加するように配置される。SPRバイオセンサシステムにおいて、バルブ面48がセンサ表面1に接するときにSPRレスポンスの変化を記録することが可能になるので、連結力センサを、SPRベースの連結力状態の検知に置き換えることができる。
【0042】
当業者には理解されるように、それぞれ異なる開いた状態及び閉じた状態の望ましい連結力レベルは、連結力の任意の記録又は固有の制御を行なうことなく、連結ユニット52の正確で再現可能な位置決めによって達成することができる。
【0043】
図12aは、閉じた連結力状態にある図10aのフローセルユニット32を示し、9つの別個のフローチャネル34a〜iが形成され、9つの異なるサンプル溶液を、例えば並行して導入することができる。同様に、図12bは、開いた連結力状態にあるフローセルユニット32を示し、それにより延長フローチャネルと交差するフロー経路が提供される。開示される例において示されるように、2つの異なるサンプル流体は、交差する方向に一方の端部のポート36i及び38i経由で導入され、もう一方の端部のポート36a及び38aで抽出されて、明確な境界面60との交差する層流を作り出す。このようにして、センサ表面の2つの異なる交差するセクション58a及び58bは、適切な試薬によって独立して処理されて、例えばバイオセンサシステムの固定化及び/又は検出段階中に、2つの異なる検出表面状態を作り出すことができる。
【0044】
図13a〜fは、一連の可能なプロセス段階を示し、本発明によるフローセル構成は、2列のSPRバイオセンサを用いた検出用にリガンドを固定化するために使用される。
1. ポート38iからポート38aへ、例えば緩衝液などの保護流体を流しながら、ポート36iからポート36aに活性化流体を流すことによる第1のセクション58aの活性化(図13a)
2. フローチャネル34a〜iに沿ってリガンド溶液を流すこと、それによりリガンドは各チャネルとSPR検出線9bに沿って検出スポットを形成する第1のセクション58aの交差領域で固定化される(図13b)
3. ポート38iからポート38aへ、例えば緩衝液などの保護流体を流しながら、ポート36iからポート36aに非活性化流体を流すことによる第1のセクション58aの非活性化(図13c)
4. 適宜、第2のセクション58bに段階aからcを繰り返し、相応してSPR検出線9aに沿った検出スポットを形成する前記セクションの交差領域でリガンドを固定化すること(図13a〜c)。或いは、第2のセクション58bの検出スポットは基準スポットとして空白にしておく。
5. SPR検出線9a及び9bに沿った検出スポット13の相互作用レスポンスを記録しながら、フローチャネル34a〜iに沿ってアナライト溶液を流すこと(図13d)
6. ポート36i及び38iからポート36a及び38aに再生成流体を流すことによってすべての検出スポット13において同時に固定化されたリガンドを再生成すること(図13e)
図14a及び図14bは、交差するフロー経路の境界面位置60が、例えば1以上の追加の交差する検出線9cを流体力学的に処理するために、2つの流体の相対流量を制御することによって変位される一実施形態を示す。そのような境界面の流体力学的な位置決めを達成するさまざまな方法は、例えば、参照によって全体をここに援用する、米国特許第7811515号、米国特許第7219528号、米国特許第7015043号、及び国際公開第2003102580号に開示されている。
【0045】
図15aから図15dは、開いた連結力状態中に交差するフロー経路に沿って専用の交差する層流チャネル66a〜eを提供するように配置され、センサ表面1の追加の検出領域を処理するために境界面60の流体学的な位置決めを行なう必要をなくす、5つの交差するように配置された入口−出口ペア62〜64a〜eを備える別の実施形態を示す。開示される実施形態では、入口−出口ペア62〜64a〜eのポートは、それぞれ外部フローチャネル34a及び34iに配置され、前記外部フローチャネルは、例えば固定化及び/又は検出中に通常のフローチャネルとして使用されることが示されているが、別の実施形態(図示せず)において、入口−出口ペア62〜64a〜eは、フローチャネルとしては使用されない別個の外部コンパートメントに配置されてもよく、対応するバルブセクション48によって開閉される。図15cに開示されるように、入口−出口ペア62〜64a〜eは、層流チャネル66a〜eを提供するように配置され、それぞれ外部層流チャネル66a及び66eにおける歪みを防ぐために、層流はまた、それぞれ最も外側の第1の流体ポート36と第2の流体ポート38の間で確立することもできる。この構成により、多数の検出スポットは、フローチャネル34a〜iが層流チャネル66a〜eと交差する構成で、すなわち45の独立した検出スポットとして提供される。
【0046】
図16a及び図16bは、図12aから図14bに開示されているフローセル構成の代替の使用を示し、再外部のチャネル34a及び34i、並びに関連するポート36a、36i、38a、及び38iは交差するフローのみに専用である。このように制約することで、活性化、非活性化、及び再生成流体の形態での試薬の液体処理は、リガンド及びアナライトのサンプル溶液の液体処理とは分離される。この分離によって、多くの種類の相互作用の実験で、多大な時間を要する洗浄段階などを省くことができる。別の実施形態では、交差するフローに専用のポート36a、36i、38a、及び38iのみが、図15aの入口−出口ペア62a〜64aと同様の方法でフローセル内の交差する層流に最適化された位置に配置される。
【符号の説明】
【0047】
1 センサチップ
2 フローチャネル
3 アナライト
4 キャプチャ分子(リガンド)
5 照明ユニット
6 p偏光
7 プリズム
8 境界面
9 SPR曲線
10 反射光ビーム
11 光検出ユニット
12 SPRセンサ表面
13 検出領域
14 くさび形ビーム
15 光源
16 くさび形成光学系
17 2次元光検出器ユニット
18 検出スポット
19 線形の検出領域
20 フローチャネル
21 フローセルユニット
22 流体ポート
23 フローセル構成
24 流体管
25 流体制御システム
26 バルブセクション
27 壁
28 力制御要素
29 連結ユニット
30 連結力位置
31 作動装置
32 スプリング要素
33 入口−出口ペア
34 層流チャネル
図13a
図13b
図13c
図13d
図13e
図13f
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15