特許第6018639号(P6018639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018639固体酸化物形燃料電池ハーフセル及び固体酸化物形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018639
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池ハーフセル及び固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20161020BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20161020BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01M4/86 T
   H01M8/12
   H01M8/02 K
   H01M8/02 E
   H01M4/86 U
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-538207(P2014-538207)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013005796
(87)【国際公開番号】WO2014050148
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-215369(P2012-215369)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-215371(P2012-215371)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-57523(P2013-57523)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】下村 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】古性 和樹
(72)【発明者】
【氏名】細井 浩平
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−326623(JP,A)
【文献】 特表2003−510788(JP,A)
【文献】 特開2004−259691(JP,A)
【文献】 特開2009−064640(JP,A)
【文献】 特開2010−282772(JP,A)
【文献】 特開平08−180885(JP,A)
【文献】 特開平09−050814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物を含む導電成分及びイットリアの含有量が9.00mol%を超え11mol%以下であるイットリア安定化ジルコニアを含むアノード機能層と、
前記アノード機能層の一方の主面に形成され、イットリアの含有量が9.00mol%を超え11mol%以下であるイットリア安定化ジルコニアを主成分とする第1電解質層と、
前記第1電解質層の前記アノード機能層と反対側の主面に形成され、スカンジア安定化ジルコニアを主成分として含む第2電解質層と、を備えた、
体酸化物形燃料電池ハーフセル。
【請求項2】
2とN2との体積比が1:9、気圧1atmの混合気体雰囲気であり、温度750℃である電気炉の内部に前記固体酸化物形燃料電池ハーフセルを4時間静置した後に、前記導電成分と、前記アノード機能層における前記イットリア安定化ジルコニアとの剥離度が10%以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池ハーフセル。
【請求項3】
2とN2との体積比が1:9、気圧1atmの混合気体雰囲気であり、温度750℃である電気炉の内部に前記固体酸化物形燃料電池ハーフセルを4時間静置した後に、前記導電成分と、前記第1電解質層における前記イットリア安定化ジルコニアとの界面剥離度が10%以下である、請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池ハーフセル。
【請求項4】
前記金属酸化物が酸化ニッケルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池ハーフセル。
【請求項5】
前記第2電解質層の厚みは、前記第1電解質層及び前記第2電解質層の厚みの和の30%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池ハーフセル。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池ハーフセルと、
前記第電解質層の前記第1電解質層と反対側に形成されたカソードと、
を備えた、固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
前記カソードは、La1-xSrxCoO3系複合酸化物、La1-xSrxFeO3系複合酸化物、La1-xSrxCo1-yFey3系複合酸化物、La1-xSrxMnO3系複合酸化物、Pr1-xBaxCoO3系複合酸化物、及びSm1-xSrxCoO3系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
前記カソードは、ガドリニアドープセリア(GDC)又はサマリアドープセリア(SDC)を含む請求項6又は7に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
前記カソードは、前記第2電解質層側に配置された第1カソード層と、前記第1カソード層に対して前記第2電解質層と反対側に配置された第2カソード層とを含み、
前記第2カソード層における酸素イオン伝導性材料の含有率は、前記第1カソード層における酸素イオン伝導性材料の含有率よりも低い、請求項6〜8のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項10】
前記カソードは、前記第電解質層側に配置された第1カソード層と、前記第1カソード層に対して前記第電解質層と反対側に配置された第2カソード層とを含み、
前記第1カソード層は、元素比が(LaXSr1-X1-aMn(Xの範囲:0.5〜0.9、aの範囲:0.0〜0.2)の酸化物であるランタンストロンチウムマンガナイトを含み、
前記第2カソード層は、元素比が(LaXSr1-X1-aMn(Xの範囲:0.5〜0.9、aの範囲:0.0〜0.2)の酸化物であるランタンストロンチウムマンガナイトを主成分として含む、請求項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
前記第1カソード層は、スカンジア安定化ジルコニア又は金属酸化物をドープしたスカンジア安定化ジルコニアである酸素イオン伝導性材料をさらに含み、
前記第2カソード層における前記酸素イオン伝導性材料の含有率は、前記第1カソード層における前記酸素イオン伝導性材料の含有率よりも低い、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池のハーフセル及び固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、クリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックスを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と記載することがある)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
SOFCは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックスからなる固体電解質層が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、固体電解質層及びアノードを重ね合せたものがSOFC用単セル(以下、「SOFCセル」という)であり、この単セルにインターコネクターを挟んで複数積み重ねることによって高出力を得る。このような平型のSOFCには、電解質を支持体としてセルの強度を維持する電解質支持型セル(ESC)、アノードを支持体としてセルの強度を維持するアノード支持型セル(ASC)及びカソードを支持体とするカソード支持型セル(CSC)等がある。また、SOFCセルの半製品として、例えば単セルの構造のうちカソードを形成していないハーフセルが提供されることもある。
【0004】
特許文献1には、SOFCのアノードとして、ニッケルとイットリア安定化ジルコニア(以下、「YSZ」ということがある)とのサーメットを用いることが記載されている。また、特許文献1には、SOFCの電解質層として、3mol%イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)、6mol%イットリア安定化ジルコニア(6YSZ)、8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)、10mol%イットリア安定化ジルコニア(10YSZ)が例示されている。
【0005】
特許文献2には、SOFCのアノードとして、ニッケル−ジルコニアサーメットからなるアノード材料を用いることが望ましいと記載されている。ここで、ジルコニアとしては、3〜10重量%のイットリアで安定化されたジルコニアが例示されている。
【0006】
特許文献3には、ASCのアノード電極の材質として、NiとYSZとのサーメットが選定されることが記載されている。また、固体電解質として、例えば8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−228093号公報
【特許文献2】特表2006−505094号公報
【特許文献3】特開2012−104407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の文献において、アノードに用いるYSZのイットリア含有量及び電解質層に用いるYSZのイットリア含有量とSOFCセルの発電性能との関係について具体的な検討はなされていない。
【0009】
かかる事情に鑑み、本発明は、アノード及び電解質層にYSZを含み、高い発電性能を有する新規なSOFCハーフセル又はSOFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物を含む導電成分及びイットリア安定化ジルコニアを含むアノード機能層と、
前記アノード機能層の一方の主面に形成され、イットリア安定化ジルコニアを主成分とする第1電解質層と、を備え、
前記アノード機能層の前記イットリア安定化ジルコニア及び前記電解質層の前記イットリア安定化ジルコニアにおいて、イットリアの含有量が9.00mol%を超え11mol%以下である、固体酸化物形燃料電池ハーフセルを提供する。
【0011】
また、本発明は、
上記の固体酸化物形燃料電池ハーフセルと、
前記第1電解質層の前記アノード機能層と反対側に形成されたカソードと、
を備えた、固体酸化物形燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、アノード機能層のYSZ及び第1電解質層のYSZのイットリア含有量をともに9.00mol%を超え11mol%以下とすることで、高い発電性能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るSOFCハーフセルの概略断面図
図2】第1実施形態に係るSOFCセルの概略断面図
図3】第1実施形態の変形例に係るSOFCセルの概略断面図
図4】第2実施形態に係るSOFCハーフセルの概略断面図
図5】第2実施形態に係るSOFCセルの概略断面図
図6】第2実施形態の変形例に係るSOFCセルの概略断面図
図7】実施例1〜3及び比較例1〜3に係るSOFCセルの発電性能を示すグラフ
図8】実施例1に係るSOFCハーフセル断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真
図9】比較例1に係るSOFCハーフセル断面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0015】
<第1実施形態>
図1に示す通り、ハーフセル1aは、アノード10と、アノード10の一方の主面に形成された第1電解質層21と、第1電解質層21のアノード10と接する面と反対側の面に形成されたバリア層30とを有している。図2に示す通り、SOFCセル2aは、ハーフセル1aと、第1電解質層21のアノード10と反対側に形成されたカソード40aとを備えている。
【0016】
アノード10は、アノード機能層11とアノード支持基板12とからなる。アノード機能層11は導電成分と電解質成分とを主な成分としており、電気化学反応が実質的に行われる層である。電解質成分はセラミックス質からなる骨格成分ということもできる。具体的には、アノード機能層11は導電成分の粉末と電解質成分の粉末とを混合して焼結した焼結体である。アノード支持基板12は、導電成分と電解質成分とを主な成分としており、アノード機能層11に水素などの燃料ガスを導くとともに、第1電解質層21及びカソード40aを支持し、ハーフセル1a又はSOFCセル2a全体の支持体として機能する。つまり、本実施形態のハーフセル1aはASCのハーフセルである。アノード支持基板12に含まれる電解質成分はセラミックス質からなる骨格成分でもある。アノード支持基板12がアノードとして十分に機能する場合には、アノード機能層11は省略してもよい。
【0017】
アノード機能層11に含まれる導電成分は、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように燃料電池稼働時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物;あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物、が挙げられる。これらは単独で使用し得るほか、必要により、2種以上を適宜組み合わせて使用できる。これらの中でも、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄が望ましい。
【0018】
アノード機能層11に含まれる電解質成分としては、安定化ジルコニアが選ばれる。具体的には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が選ばれる。このYSZのイットリアの含有量は9.00mol%を超え11mol%以下である。ここで、「11mol%以下」とは、小数点第1位以下を四捨五入することにより「11mol%」となる場合を含む。このYSZのイットリアの含有量は9.20〜10.8mol%がより好ましく、9.50〜10.5mol%がさらに望ましい。とりわけ、イットリアを10mol%添加した安定化ジルコニウム(10YSZ)を用いるのが望ましい。また、後述する通り、イットリアの含有量が上記の通りであるYSZに替えて、又はそのYSZとともに、プラセオジア、ネオジア、サマリア、ガドリニア、ジスプロシア、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビア等を添加した安定化ジルコニアを用いてもよい。それらの中でも、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビアを添加した安定化ジルコニアが好ましく用いられる。
【0019】
アノード機能層11の含まれる導電成分と電解質成分との成分比は特に限定されない。導電成分と電解質成分との成分比(導電成分:電解質成分)は、例えば重量基準で30:70〜80:20であり、40:60〜70:30が好ましく、50:50〜60:40がより望ましい。ここで、導電成分と電解質成分との成分比は、還元性雰囲気に曝される前の導電成分の重量に基づいている。
【0020】
アノード支持基板12に含まれる導電成分としては、アノード機能層11と同様の成分が選択される。一方、アノード支持基板12に含まれる電解質成分としては、アノード機能層11と同様の成分に限られない。アノード支持基板12の電解質成分としては、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、チタニア、窒化アルミ、ムライトなどの単独もしくは複合物が使用される。これらの中でも最も汎用性の高いのは安定化ジルコニアであり、その安定化ジルコニアとしては、ジルコニアに、安定化剤としてMgO、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属の酸化物;Sc、Y、La、CeO、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Er、Tm、Yb等の希土類元素の酸化物;Bi、In等から選ばれる1種若しくは2種以上の酸化物を固溶させたもの、あるいは更に、これらに分散強化剤としてアルミナ、チタニア、Ta、Nbなどが添加された分散強化型ジルコニア等が望ましいものとして例示される。また、CeOやBiにCaO,SrO,BaO,Y,La,Ce,Pr,Nb,Sm,Eu,Gd,Tb,Dr,Ho,Er,Yb,PbO,WO,MoO,V,Ta,Nbの1種もしくは2種以上を添加したセリア系またはビスマス系、更には、LaGaOの如きガレート系セラミックスも使用可能である。これらの中でも2.5〜12mol%のイットリアで安定化されたジルコニアが望ましい。さらに、アノード支持基板12の強度を高める観点から2.5〜6mol%のイットリアで安定化されたジルコニアが好ましく、2.8〜5mol%のイットリアで安定化されたジルコニアがより望ましい。
【0021】
アノード機能層11の厚さは特に限定されないが、例えば5μm〜30μmである。アノード支持基板12の厚さは特に限定されないが、例えば150μm〜1500μmである。
【0022】
第1電解質層21は、セラミックス質でもある電解質成分を主成分として含む。ここで、「主成分」とは、重量基準で最も多く含まれる成分のことをいう。具体的には、第1電解質層21の電解質成分として、アノード機能層11と同様に、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が選ばれる。このYSZのイットリアの含有量は9.00mol%を超え11mol%以下である。このYSZのイットリアの含有量は9.20〜10.8mol%がより好ましく、9.50〜10.5mol%がさらに望ましい。とりわけ、イットリアを10mol%添加した安定化ジルコニウム(10YSZ)を用いるのが望ましい。また、後述する通り、イットリアの含有量が上記の範囲であるYSZに替えて、又はそのYSZとともに、プラセオジア、ネオジア、サマリア、ガドリニア、ジスプロシア、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビア等を添加した安定化ジルコニアを用いてもよい。それらの中でも、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビアを添加した安定化ジルコニアが好ましく用いられる。また、このYSZに、アルミナ、シリカ、チタニア等を焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。第1電解質層21においてイットリアの含有量が上述の範囲であるYSZの含有量は、第1電解質層21に対して例えば95質量%以上であり、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに望ましい。また、第1電解質層21が実質的にイットリアの含有量が上述の範囲であるYSZからなっていてもよい。
【0023】
高い発電性能を示すSOFC用単セル(以下、「SOFCセル」)を実現する観点から、アノード機能層11に含まれるYSZのイットリアの含有量及び第1電解質層21のYSZのイットリアの含有量が近似している、又は同一であるとよい。具体的には、アノード機能層11に含まれるYSZのイットリアの含有量をAmol%、第1電解質層21のYSZのイットリアの含有量Bmol%とすると、0.96<A/B<1.04が好ましく、0.98<A/B<1.02がより望ましい。とりわけ、A/B=1であることが望ましい。ただし、9.00<A≦11、9.00<B≦11である。
【0024】
第1電解質層21の厚みは特に限定されないが、例えば0.5〜20μmである。
【0025】
バリア層30は、SOFCセル2aの作製過程においてカソード40aを焼成する際やSOFCの運転中に、第1電解質層21とカソード40aとが反応して高抵抗物質層が形成されて発電性能が低下することを防ぐ。バリア層30の材料としてはセリア及び希土類元素を主成分とする材料を用いることができる。例えば、ガドリニアをドープしたセリア(GDC)、サマリアをドープしたセリア(SDC)等を用いることができる。バリア層30の厚みは特に限定されないが、例えば0.5〜20μmである。また、バリア層30は必須の構成ではなく、第1電解質層21の電解質とカソード40との組み合わせによっては省略してもよい。
【0026】
図2に示すように、カソード40aは、第1電解質層21のアノード機能層11と反対側に形成されている。カソード40aは、例えば、バリア層30の第1電解質層21と接する主面と反対側の主面上に形成される。また、バリア層30が省略される場合には、カソード40aは、第1電解質層21のアノード機能層11と接する主面と反対側の主面上に形成されてもよい。
【0027】
カソード40aの材料としては、例えば金属、金属の酸化物、金属の複合酸化物等を用いることができる。このうち金属としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Ru等の金属又は2種以上の金属を含有する合金を挙げることができる。また、金属の酸化物としては、La、Sr、Ce、Co、Mn、Fe等の酸化物(例えば、La、SrO、Ce、Co、MnO、FeO等)を挙げることができる。また、金属の複合酸化物としては、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn等のうちの少なくとも1種を含有する各種の複合酸化物(例えば、La1−xSrCoO系複合酸化物、La1−xSrFeO系複合酸化物、La1−xSrCo1−yFe系複合酸化物、La1−xSrMnO系複合酸化物、Pr1−xBaCoO系複合酸化物、Sm1−xSrCoO系複合酸化物等)を挙げることができる。ここで、0<x<1、0<y<1である。これらの中でも、カソード40aの材料としては、La1−xSrCo1−yFe系複合酸化物(以下、「LSCF」ということがある)が好ましく用いられる。この場合、熱膨張によるバリア層30との剥離の抑制及び酸素イオン伝導度の向上のために、カソード40aは、GDC又はSDCを含んでいてもよい。
【0028】
次に、アノード機能層11及び第1電解質層21に使用可能な安定化ジルコニアの安定化剤について考察する。さらに、アノード機能層11に用いられるYSZ及び第1電解質層21に用いられるYSZにおける、イットリアの含有量と発電性能との関係について考察する。
【0029】
一般に、SOFCの電解質層の材料としては、発電性能の観点から酸素イオン伝導度が高い材料が望ましいと考えられていた。例えば、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)は、酸素イオン伝導度が高く、高い発電性能を示すSOFCを実現できると考えられていた。しかしながら、実際には、ScSZの酸素イオン伝導度よりも低い酸素イオン伝導度を示すYSZをアノード機能層11及び第1電解質層21に用いたSOFCセル2aの発電性能が、ScSZをアノード機能層11及び第1電解質層21に用いたSOFCセル2aの発電性能よりも高いことが本発明者らによって見出された。
【0030】
アノード機能層11の導電成分である金属酸化物は、SOFC稼働時の還元性雰囲気において導電性金属に変化する。例えば、導電成分が酸化ニッケルである場合、この酸化ニッケルはSOFC稼働時の還元性雰囲気において金属ニッケルに変化する。これにより、導電成分は収縮する。この収縮により、導電成分と、アノード機能層11の電解質成分又は第1電解質層21のアノード機能層11との界面に存在する電解質成分とが剥離しようとする力が生じると考えられる。これらの電解質成分と導電成分との剥離がSOFCの発電性能を低下させるものと本発明者らは考えている。そして、アノード機能層11及び第1電解質層21にScSZを用いたSOFCセルとアノード機能層11及び第1電解質層21にYSZを用いたSOFCセルとを比較すると、後者のSOFCセルにおいて、より高い程度で剥離の発生が抑制されていると考えられる。このため、YSZをアノード機能層11及び第1電解質層21に用いたSOFCセルの発電性能が、ScSZをアノード機能層11及び第1電解質層21に用いたSOFCセルの発電性能よりも高くなったと考えられる。
【0031】
アノード機能層11及びアノード機能層11との界面における第1電解質層21における結晶粒界の結合の強さは、ジルコニウムイオンZr4+のイオン半径と安定化ジルコニアに安定化剤として添加される金属酸化物に由来する金属イオンのイオン半径との差が大きいほど強くなると考えられる。そして、その結晶粒界の結合の強さが上記の剥離の抑制に影響すると本発明者らは考えている。Y3+のイオン半径とZr4+のイオン半径との差は、Sc3+のイオン半径とZr4+のイオン半径との差よりも十分大きい。従って、アノード機能層11の電解質成分及び第1電解質層21にScSZを用いたSOFCセルと、アノード機能層11の電解質成分及び第1電解質層21にYSZを用いたSOFCセルとを比較すると、後者のSOFCセルにおいてより高い程度で剥離が抑制されると考えられる。このため、アノード機能層11の電解質成分及び第1電解質層21にYSZを用いたSOFCセルは、アノード機能層11の電解質成分及び第1電解質層21にScSZを用いたSOFCセルの発電性能よりも高い発電性能を示すと考えられる。
【0032】
上述の考察からすると、アノード機能層11又は第1電解質層21に含まれる安定化ジルコニアに、安定化剤として添加される金属酸化物に由来する金属イオンのイオン半径がY3+と同程度であれば、アノード機能層11の電解質成分及び第1電解質層21にYSZを用いたSOFCセルと同様に導電成分の剥離を抑制する効果を奏すると考えられる。Yb3+、Er3+、Eu3+、Dy3+、Ga3+等のイオン半径は、Y3+のイオン半径と同程度である。従って、アノード機能層11又は第1電解質層21に含まれる安定化ジルコニアとして、プラセオジア、ネオジア、サマリア、ガドリニア、ジスプロシア、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビア等を添加した安定化ジルコニアを用いてもよい。それらの中でも、ユウロピア、エルビア、又はイッテルビアを添加した安定化ジルコニアが好ましく用いられる。
【0033】
YSZの酸素イオン伝導度は、イットリアの含有量が8mol%近傍でピーク値をとり、イットリアの含有量が8mol%を超えると低下することが分かっている。従って、発電性能の観点からは、アノード機能層11及び第1電解質層21に、イットリアを8mol%添加した安定化ジルコニウム(8YSZ)を用いることが望ましいと考えられていた。一方、本発明者らは、YSZへのイットリアの含有量により、上述した導電成分の剥離の抑制の程度が異なる可能性があることに着目した。そこで、本件発明者が検討を重ねたところ、アノード機能層11のYSZ及び第1電解質層21のYSZのイットリアの含有量が9.00mol%を超え11mol%以下の範囲であると、SOFCセルにおける導電成分の剥離の抑制効果が最も顕著であることが示唆された。実際に、アノード機能層11のYSZのイットリアの含有量及び第1電解質層21のYSZのイットリアの含有量が上述の範囲であるSOFCセルの発電性能は、アノード機能層11に8YSZを用い、かつ、第1電解質層21に8YSZを用いたSOFCセルの発電性能と同等以上であることを本発明者らは見出した。
【0034】
とNとの体積比が1:9、気圧1atmの混合気体雰囲気であり、温度750℃である電気炉の内部にハーフセル1aを4時間静置してアノード機能層11の導電成分である金属酸化物を還元したときに、導電成分と、アノード機能層11における電解質成分であるYSZとの剥離度は10%以下である。剥離度は望ましくは9%以下であり、より望ましくは、8%以下である。また、HとNとの体積比が1:9、気圧1atmの混合気体雰囲気であり、温度750℃である電気炉の内部にハーフセル1aを4時間静置してアノード機能層11の導電成分である金属酸化物を還元したときに、導電成分と、第1電解質層21における電解質成分であるYSZとの界面剥離度は10%以下である。界面剥離度は望ましくは8%以下であり、より望ましくは6%以下である。このように、ハーフセル1aにおいては、導電成分と、アノード機能層11の電解質成分との剥離、又は、導電成分と、第1電解質層21のアノード機能層11との界面における電解質成分であるYSZとの剥離が抑制されるので、SOFCセル2aが高い発電性能を示す。
【0035】
剥離度及び界面剥離度は以下のようにして求めることができる。上記の雰囲気に曝した後のハーフセル1aの、アノード支持基板12、アノード機能層11、第1電解質層の積層方向に沿って、ハーフセル1aをガラスカッターによって切断して形成されたハーフセル1aの断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影する。具体的には、アノード機能層又はアノード機能層11と第1電解質層21との界面付近の断面をSEMによって2万倍の倍率で撮影する。この撮影画像を画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro)で画像解析し、アノード機能層11中の任意の6個以上の導電成分の粒体の周長(空孔と接している部分を除く)の総和Laを求める。次に、導電成分の粒体がアノード機能層11中の電解質成分と接していない部分の長さの総和Lbを求める。アノード機能層における導電成分の剥離度は以下の式で定義される。
アノード機能層における導電成分の剥離度[%]=(Lb/La)×100
【0036】
界面剥離についても同様に、第1電解質層21のアノード機能層11との界面付近の断面のSEMによる撮影画像を画像解析し、アノード機能層11の中の導電成分のうち、第1電解質層21のアノード機能層11との界面に面している任意の6個以上の導電成分の粒体について、第1電解質層21の界面に面している周長の総和Naを求める。次に、この導電成分の第1電解質層21の界面に面している部分(空孔と接している部分を除く)のうち、第1電解質層21の電解質成分に接していない部分の長さの総和Nbを求める。アノード機能層11の導電成分と第1電解質層21との界面剥離度は以下の式で定義される。
アノード機能層の導電成分と第1電解質層との界面剥離度[%]=(Nb/Na)×100
【0037】
次に、本実施形態のハーフセル1a及びSOFCセル2aの製造方法について説明する。アノード支持基板12、アノード機能層11、第1電解質層21、バリア層30及びカソード40aは、それぞれ、これらを構成する原料の粉体にバインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリー又はペーストを調製し、このスラリー又はペーストを乾燥させてグリーンシート又はグリーン層を形成し、これを焼成することによって得ることができる。アノード支持基板12、アノード機能層11、第1電解質層21、バリア層30及びカソード40aを作製するために調製されるスラリー又はペーストのバインダー及び溶剤としては、従来の製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤の中から適宜選択できる。
【0038】
ASCにおいては、まずアノード10が準備される。アノード支持基板12は、導電成分を構成する材料の粉体、電解質成分を構成する材料の粉体及び空孔形成剤に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加してスラリーを調整し、このスラリーをシート状に形成した後に乾燥させてアノード支持基板12用のグリーンシートを作製する。
【0039】
続いて、アノード支持基板12用のグリーンシートの一方の主面に、アノード機能層11を構成する導電成分及び電解質成分、空孔形成剤、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加して調整したアノード機能層用ペーストを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによってアノード機能層11用のグリーン層を形成する。
【0040】
アノード機能層11用のペーストは、アノード機能層11を構成する導電成分の粉体原料及び電解質成分の粉体原料を含み、バインダー、溶剤等が添加された混合物を所定の条件で解砕することにより得られる。この解砕の条件は、本実施形態のハーフセル1aのアノード機能層11における上述の剥離度が低い値を示すことに関連しているものと考えられる。この解砕は例えば3本ロールミルを用いて行うことができる。
【0041】
続いて、アノード機能層11用のグリーン層の上に、第1電解質層21用のペーストを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって第1電解質層21用のグリーン層を形成する。また、第1電解質層21用のグリーン層の上に、バリア層30用のペーストを所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによってバリア層30用のグリーン層を形成する。
【0042】
続いて、アノード機能層11のグリーン層、第1電解質層21のグリーン層及びバリア層30のグリーン層が形成されたアノード支持基板12のグリーンシートを焼成することにより、本実施形態のハーフセル1aが得られる。
【0043】
上述のようにして得られたハーフセル1aのバリア層30上にカソード40a用のペーストを塗布して、この塗膜を乾燥させることによりカソード40a用のグリーン層を形成する。その後、カソード40a用のグリーン層が形成されたハーフセルを焼成することにより、本実施形態のSOFCセル2aが得られる。
【0044】
上述の実施形態ではASCについて説明したが、本発明はESCとして実施することもできる。この場合、ESCのハーフセル及びESCであるSOFCセルは例えば以下の方法により製造するとよい。まず、電解質層用のスラリーを調製し、これをシート状に成形し乾燥させることで電解質層用のグリーンシートを作製する。この電解質層用のグリーンシートの一方の主面にアノード用のペーストを塗布し、この塗膜を乾燥させてアノード用のグリーン層を形成する。また、必要に応じて電解質層用のグリーンシートの他方の主面にバリア層用のペーストを塗布してこの塗膜を乾燥させてバリア層用のグリーン層を形成する。アノード用のグリーン層及びバリア層用のグリーン層が形成された電解質層用のグリーンシートを焼成することにより、ESCのハーフセルを得ることができる。また、このESCのハーフセルのバリア層上にカソード用のペーストを塗布し、この塗膜を乾燥させてカソード用のグリーン層を形成し、これを焼成することにより、ESCであるSOFCセルを得ることができる。
【0045】
<変形例>
図3に示すように、本実施形態において、カソード40aを、二層構造のカソード40b(41、42)に変更してもよい。変形例に係るSOFCセル2bは、ハーフセル1aからバリア層が省略されたハーフセル1bに、二層構造のカソード40bが用いられている点を除き、上記の実施形態と同様に構成されている。
【0046】
カソード40bは、第1電解質層21側に配置された第1カソード層41と、第1カソード層41に対して第1電解質層21と反対側に配置された第2カソード層42とを含んでいる。第1カソード層41又は第2カソード層42を構成する材料としては、カソード40aの材料として例示した材料の中から選択してもよい。特に、第1カソード層41は、元素比が(LaSr1−X1−aMn(Xの範囲:0.5〜0.9、aの範囲:0.0〜0.2)の酸化物であるランタンストロンチウムマンガナイト(以下、「LSM」ということがある)と、酸素イオン伝導性材料とを含むことが望ましい。第2カソード層42は、LSMを主成分として含むことが望ましい。
【0047】
第1カソード層41は電気化学反応が実質的に行われる層であり、カソード活性層ということもできる。第1カソード層41は、LSMと酸素イオン伝導性材料以外の成分、例えば、白金や銀などを含んでいてもよい。第1カソード層41に含まれてもよい、LSMと酸素イオン伝導性材料以外の成分の含有率は、例えば5質量%以下であり、4質量%以下がより望ましく、3質量%以下がさらに望ましい。特に、第1カソード層41は、LSMと酸素イオン伝導性材料以外の成分を実質的に含まないことが望ましい。ここで、実質的に含まないとは、その成分の含有率が1質量%以下であることを意味する。とりわけ、第1カソード層41は、LSM及び酸素イオン伝導材料以外の成分を全く含まず、LSMと酸素イオン伝導性材料のみからなることが望ましい。
【0048】
第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料は、スカンジア安定化ジルコニア又は金属酸化物をドープしたスカンジア安定化ジルコニアであることが望ましい。スカンジア安定化ジルコニアは、例えば、4〜11mol%のスカンジアで安定化されたジルコニアである。スカンジア安定化ジルコニアにドープされる金属酸化物は、例えば、CeO、Al、Biである。望ましい酸素イオン伝導性材料としては、(Sc0.10(CeO0.01(ZrO0.89を挙げることができる。これらの材料が2種以上混合されて用いられてもよく、単独で用いられてもよい。本実施形態のように、第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料がスカンジア安定化ジルコニア又は金属酸化物をドープしたスカンジア安定化ジルコニアであると、他の酸素イオン伝導性材料(例えば、イットリア安定化ジルコニア)を第1カソード層41に含む場合と比較して、SOFCセル全体の出力が高まる。
【0049】
高い出力を示すSOFCを得る観点から、第1カソード層41の厚さは第1カソード層41で電気化学反応が実質的に起こることを考慮して、例えば2.5〜40μmの範囲が望ましい。第1カソード層41の厚さが2.5μm以上であると、反応場である気相/LSM/酸素イオン伝導性材料の三相界面が増加するので、SOFCセルの出力を高めることができる。また、第1カソード層41の厚さが40μm以下であると、電気化学反応の反応場へガス(空気)を効率的に供給できるので、SOFCセルの出力を高めることができる。SOFCセルの出力をより高める観点から、第1カソード層41の厚さは、2.5〜35μmの範囲がより望ましく、3〜27μmの範囲がさらに望ましく、4〜18μmの範囲がとりわけ望ましい。
【0050】
第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料の含有率は、51質量%以上80%以下とするのが望ましく、52質量%以上75質量%以下とするのがより望ましく、55質量%以上70質量%以下とするのがさらに望ましい。第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料の含有率が51質量%以上であると、SOFCセルは高い出力を示し、55質量%以上70質量%以下とすれば、さらに高い出力を示す。
【0051】
また、第1カソード層41について、材料の抵抗率の抑制と、LSMと電解質との熱膨張率の差によるSOFCセルの作製または稼働の際に発生する電極剥がれの抑制とのバランスを図るという観点から、第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料の含有率は以下の範囲であってもよい。すなわち、第1カソード層41の酸素イオン伝導性材料の含有率は、10質量%以上49質量%以下とするのが望ましく、15質量%以上47質量%以下とするのがより望ましく、20質量%以上45質量%以下とするのが望ましい。
【0052】
第1カソード層41は、厚さ方向に対して酸素イオン伝導性材料の濃度が均一であってもよく、変化していてもよい。第1カソード層41の厚さ方向の酸素イオン伝導性材料の濃度が変化する場合には、第1電解質層21から離れるほど酸素イオン伝導性材料の濃度が低くなっていてもよい。
【0053】
第2カソード層42は、電子及び空気を第1カソード層41に送り込むための層であり、カソード集電層ということもできる。第2カソード層42は、LSMを主成分として含む層である。ここで、「主成分」とは、第2カソード層42において60質量%以上含まれる成分をいう。第2カソード層42における酸素イオン伝導性材料の含有率は、第1カソード層41における酸素イオン伝導性材料の含有率よりも低い。第2カソード層42に含まれる酸素イオン伝導性材料の含有量は、例えば、40質量%以下であり、35質量%以下が望ましく、30質量%以下がより望ましい。第2カソード層42には酸素イオン伝導性材料が実質的に含まれないことがさらに望ましい。ここで、「実質的に含まれない」とは、酸素イオン伝導性材料の含有量が1質量%以下の場合を指す。第2カソード層42は、酸素イオン伝導性材料が全く含まれないことがとりわけ望ましい。ここで、第2カソード層42における酸素イオン伝導性材料は、第1カソード層41に含まれる酸素イオン伝導性材料と同様の材料であることが望ましい。
【0054】
第2カソード層42の酸素イオン伝導性材料の含有率が第1カソード層41の酸素イオン伝導性材料の含有率より低いため、第2カソード層42は良好な電子伝導性を示す。従って、第1カソード層41に効率的に電子が送り込まれ、第1カソード層41における電気化学反応が高い活性を示す。このことに起因して、SOFCセル全体で高い出力を得ることができる。特に、第2カソード層42に酸素イオン伝導性材料が実質的に含まれていないと、第2カソード層42はとりわけ良好な電子伝導性を示し、SOFCセルの出力をより高めることができる。
【0055】
第2カソード層42の厚さは、良好な電子伝導性を達成する観点から、例えば2.5μm以上である。第2カソード層42の厚さが2.5μm以上であると、第1カソード層41の全面を均質に覆うように第2カソード層42を形成できるので、良好な電子伝導性が達成される。また、第2カソード層42の厚さは、電気化学反応の反応場へガス(空気)を効率的に供給するために、例えば、100μm以下である。第2カソード層42の厚さが100μm以下であると、多孔構造を維持しつつ第2カソード層42自体の電気的な損失を少なくできるので、電気化学反応の反応場へガス(空気)を効率的に供給しつつ、カソードの電気的な損失を低減できる。これらの特性をより向上させる観点から、第2カソード層42の厚さは、望ましくは4〜50μmであり、より望ましくは5〜40μmである。
【0056】
第2カソード層42の厚さT2に対する第1カソード層41の厚さT1の比(T1/T2)が所定の範囲にあると、良好な電気化学反応の進行、良好な電子伝導性、及び電気化学反応の反応場への効率的なガス(空気)の供給の全てを達成しやすい。さらに、T1/T2が所定値以上(例えば0.0250)であると、第2カソード層42の表面から実質的な反応場である三相界面までの距離が短くなるので、反応場へガス(酸素)を効率的に供給できる。また、第1カソード層41を均質に成膜できるので、反応場である三相界面の偏りを少なくできる。このため、高い性能のSOFCセルを提供することができる。また、T1/T2が所定値(例えば15.5)以下であると、カソード40bの表面から実質的な反応場である三相界面までの距離が短いので、反応場へガス(酸素)を効率的に供給できる。また、第1カソード層41の全面を均質に覆うように第2カソード層42を形成できる。このため、良好な電子伝導性を達成し、高い性能のSOFCセルを提供できる。このような観点から、T1/T2は、例えば0.0250〜15.5であり、望ましくは0.0500〜10であり、より望ましくは0.0625〜8である。
【0057】
また、本変形例のSOFCセル2bは、カソード40bとしてLSMと酸素イオン伝導性材料との混合物を用いているにもかかわらず、比較的低い作動温度を実現している。このことにより、単セル同士の間に積層されるインターコネクターのような周辺部品を金属材料で作製することができるようになる。金属材料は安価で加工がしやすいため、低コストでSOFCを用いた発電装置を実現することができる。
【0058】
従来、比較的低い作動温度を実現するために、カソードとして、La1−YSrCo1−ZFe(Yの範囲:0.1〜0.5、Zの範囲:0.2〜0.8)で表わされるランタンストロンチウムコバルトフェライト(以下、「LSCF」ということがある)を用いることが知られている。しかし、このLSCFを用いたカソードは耐久性が低い。本実施形態のSOFCセル2bは、カソードとしてLSMと酸素イオン伝導性材料との混合物を用いているので、LSCFをカソードとして用いるSOFCセルよりも高い耐久性を示す。
【0059】
ところで、第1カソード層41は電気化学反応が実質的に行われる層である。電極材料であるLSM、酸素イオン伝導性材料、及び気相の三相界面が多いほど電気化学反応が活発になり、SOFCが高出力化される。第1カソード層41の形成にはLSMの粉体材料が用いられる。このLSMの粉体材料の平均粒子径が小さいと上述の三相界面が増えて、SOFCの高出力化に有利である。この観点から、第1カソード層41の形成に用いられるLSMの粉体材料の望ましい平均粒子径は、例えば2.0μm以下である。
【0060】
第2カソード層42は、第1カソード層41に電子を送り込むとともに空気を送り込む層でもある。従って、第2カソード層42において空気の拡散性を確保することがSOFCの高出力化に有利である。第2カソード層42の形成にはLSMの粉体材料を用いる。第2カソード層42における空気の拡散性を考慮すると、このLSMの粉体材料の平均粒子径は、所定の大きさを有していることが望ましい。この観点から、第2カソード層42の形成に用いられるLSMの粉体材料の望ましい平均粒子径は、例えば0.5μm以上20μm以下である。
【0061】
なお、平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した粒度分布において、体積累積が50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0062】
変形例に係るSOFCセル2bは、アノード支持基板12、アノード機能層11、及び第1電解質層21からなるハーフセル1bの第1電解質層21の上に、第1カソード層41及び第2カソード層42を形成することによって、製造される。
【0063】
第1カソード層41を構成する材料、ここでは、LSMと酸素イオン伝導性材料の粉末に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤、及び消泡剤等を添加してペーストを作製する。このペーストをハーフセル1bの第1電解質層21の上に塗布して乾燥させて第1カソード層41用のグリーン層を形成する。
【0064】
第2カソード層42を構成する材料、ここでは、LSMの粉末にバインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤、及び消泡剤等を添加してペーストを作製する。このペーストを第1カソード層41用のグリーン層上に塗布して乾燥させて第2カソード層42用のグリーン層を形成する。第1カソード層41のグリーン層及び第2カソード層42のグリーン層が積層されたハーフセルを焼成することによって、SOFCセル2bを得ることができる。焼成温度の条件は、第1カソード層41及び第2カソード層42に用いられる材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。また、第1カソード層41用のペースト及び第2カソード層42用のペーストの作製に用いられるバインダー及び溶剤等の種類には制限がなく、従来のSOFCのカソードの製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0065】
なお、第1カソード層41はLSMと酸素イオン伝導性材料の粉末の混合比を変化させて調製した複数のペーストを用いて、塗布と乾燥を繰り返して複数層からなる第1カソード層41のグリーン層を形成することとしてもよい。この場合の第1カソード層41のグリーン層において、第1電解質層21から離れるほど酸素イオン伝導性材料の粉末の含有量を少なくすればよい。これにより、厚み方向で酸素イオン伝導性材料の濃度を低下させた第1カソード層41を有する、SOFCセルを製造することができる。
【0066】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るハーフセル1c及びSOFCセル2cを説明する。第2実施形態は、特に説明する場合を除き、第1実施形態と同様に構成される。第1実施形態及びその変形例に係る説明は、技術的に矛盾しない限り、第2実施形態についても適用される。
【0067】
図4に示すように、ハーフセル1cは、第2電解質層22を備える。第2電解質層22は、第1電解質層21のアノード機能層11と反対側の主面に形成されている。また、第2電解質層22は、スカンジア安定化ジルコニウムを主成分として含んでいることが望ましい。ここで、「主成分」とは質量基準で最も多く含まれる成分を意味する。
【0068】
第2電解質層22に主成分として含まれるスカンジア安定化ジルコニアは、例えば、4〜11mol%のスカンジアで安定化されたジルコニアである。第2電解質層22に主成分として含まれるスカンジア安定化ジルコニアには、所定の金属酸化物がドープされていてもよい。このドープされる金属酸化物は、例えば、CeO、Al、Biである。第2電解質層22に主成分として含まれるスカンジア安定化ジルコニアとしては、例えば、10mol%スカンジア1mol%セリア安定化ジルコニアが望ましい。第2電解質層22は、上記のスカンジア安定化ジルコニア以外の成分を含んでいてもよい。また、第2電解質層22は、上記のスカンジア安定化ジルコニアからなることが望ましい。
【0069】
第1電解質層21及び第2電解質層22の厚みの和は、特に制限されないが、例えば、1〜30μmである。スカンジア安定化ジルコニアの酸素イオン伝導度は、イットリア安定化ジルコニアの酸素イオン伝導度よりも大きい。このため、高い発電性能を有する、SOFCハーフセル、SOFCセル及びSOFCを提供するためには、第2電解質層22の厚みは相対的に大きい方がよい。そこで、第2電解質層22の厚みは、第2電解質層22の厚み及び第1電解質層21の厚みの和の例えば30%以上である。第2電解質層22の厚みは、第1電解質層21及び第2電解質層22の厚みの和の35%以上であることが望ましく、40%以上であることがより望ましく、45%以上であることがさらに望ましい。また、第2電解質層22の厚みは、例えば、第2電解質層22の厚み及び第1電解質層21の厚みの和の95%以下である。これにより、第1電解質層21は所定の厚みを有する。このため、第1電解質層21を第2電解質層22の全体に対して貫通孔等の欠陥を生じさせることなく均質に作製することができる。その結果、SOFCハーフセル又はSOFCセル生産時の歩留まりを高めることでき、SOFCセルの出力のばらつきを抑制できる。
【0070】
図4に示す通り、ハーフセル1cは、バリア層30を備えている。このバリア層30は、第1実施形態と同様に構成される。
【0071】
SOFCセル2cは、ハーフセル1cと、第1電解質層21のアノード機能層11と反対側に形成されたカソード40aとを備える。カソード40aは、第1実施形態と同様に構成される。
【0072】
ハーフセル1c及びSOFCセル2cは、ハーフセル1a及びSOFCセル2aの製造工程において、第2電解質層22用のペーストを調製し、このペーストを第1電解質層21用のグリーン層の上に塗布して第2電解質層22用のグリーン層を形成する工程を加えることによって、製造できる。第2電解質層22用のペーストは、第2電解質層22を構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤、可塑剤、潤滑剤及び消泡剤等を添加して調整される。
【0073】
図6に示すように、ハーフセル1cからバリア層30を省略したハーフセル1dを用い、かつ、カソード40aの代わりに二層構造のカソード40bを用いて変形例に係るSOFCセル2dを構成してもよい。SOFCセル2dのカソード40bは、第1実施形態の変形例に係るカソード40bと同様に構成される。
【実施例】
【0074】
次に、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例に関するものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
各実施例及び各比較例の評価方法について説明する。
【0076】
<イットリア安定化ジルコニア粉末の組成分析法および計算法>
イットリア安定化ジルコニア粉末が、ジルコニア(ZrO)と、イットリア(Y)のみからなるとし、イットリア(Y)含有量(質量%)をICP(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、型式:i CAP 6500 Duo)で分析した。イットリア含有量の残部がジルコニアであるとしてジルコニア(ZrO)含有量(質量%)を求めた。得られた各酸化物の含有量(質量%)から、イットリア(Y)の含有量(mol%)、ジルコニア(ZrO)含有量(mol%)を求めた。
【0077】
<電池性能評価試験>
電池性能評価試験について説明する。SOFCセルのアノードに100mL/分で窒素を、カソードに100mL/分で空気を供給しつつ、100℃/時間の速度で測定温度(750℃)まで昇温した。昇温後、アノード及びカソードの出口側のガスについて、流量計で流量を測定し、漏れが無いことを確認した。次いで、6mL/分の水素、194mL/分の窒素の加湿した混合ガスをアノードへ、400mL/分の空気をカソードへ供給した。10分以上経過後に、起電力が発生し漏れが無いことを再度確認した後、加湿水素(水蒸気:18体積%)を200mL/分の流量でアノードへ供給した。起電力が安定してから、電流密度を0〜0.4A/cm2まで掃引して電池性能を測定した。電流密度が0.36A/cm2のときの電圧を求めた。
【0078】
<剥離度>
剥離度の測定は、以下で説明する水素還元処理後の実施例及び比較例のハーフセルの、アノード支持基板、アノード機能層、第1電解質層の積層方向に沿った断面をSEMで観察することによって実施した。水素還元処理は、実施例及び比較例のハーフセルを、HとNとの体積比が1:9、気圧1atmの混合気体の雰囲気にあり、温度750℃である電気炉(光洋サーモシステム社製、KTF045N)の内部に4時間静置することにより、実施した。これにより、アノード機能層の導電成分である金属酸化物を還元した。
【0079】
水素還元処理したハーフセルの断面をSEMにより2万倍の倍率で撮影した。撮影した画像において、アノード機能層でみられる導電成分の粒体に注目し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro)を用いて画像解析を行った。まず、撮影画像において任意に選んだ7個のアノード機能層における導電成分の粒体の周長の総和Laを求めた。ここで、導電成分の粒体の周長からは、空孔と接している部分の長さを除いた。次に、その7個の導電成分の粒体の周長のうち、アノード機能層の電解質成分の粒体と接していない部分の長さの総和Lbを求めた。そして、以下の式により、アノード機能層における導電成分の電解質成分に対する剥離度を算出した。
アノード機能層における導電成分の剥離度=(Lb/La)×100
【0080】
<界面剥離度>
上記の水素還元処理をしたハーフセルをガラスカッターによって切断し、その断面をSEMにより2万倍の倍率で撮影した。撮影した画像において、第1電解質層のアノード機能層との界面にみられる導電成分の粒体に注目し、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、Image-Pro)を用いて画像解析を行った。アノード機能層の中の導電成分のうち第1電解質層のアノード機能層との界面に面している任意の7個の導電成分の粒体について、第1電解質層のアノード機能層との界面に面している周長の総和Naを求めた。次に、この導電成分の粒体の第1電解質層のアノード機能層との界面に面している部分のうち、第1電解質層の電解質成分に接していない部分の長さの総和Nbを求めた。そして以下の式により、第1電解質層とアノード機能層との界面における、アノード機能層の導電成分の第1電解質層の電解質成分に対する界面剥離度を算出した。
アノード機能層の導電成分の第1電解質層との界面剥離度[%]=(Nb/Na)×100
【0081】
<耐久性試験>
SOFCセルのアノードに100mL/分の窒素を、カソードに100mL/分の空気を供給しつつ、100℃/時間の速度で測定温度(750℃)まで昇温した。昇温後、アノード、カソードの出口側ガスについて、流量計で、流量を測定し、漏れが無いことを確認した。
【0082】
次いで、水素を6mL/分、窒素を194mL/分の加湿した混合ガスをアノードへ、400mL/分の空気をカソードへ供給した。10分以上経過後に起電力が発生し、漏れが無いことを再度確認した後、カソード側のガスを、加湿水素を200mL/分の流量でアノードへ供給し、起電力が安定してから、10分以上経過後に回路中に流れる電流を0.4A/cmで一定になる様に調節した。
【0083】
電流を0.4A/cmに切り替えてから、50時間経過後の電圧を初期値(V50h)とし、2000時間経過後の電圧を計測(V2000h)し、以下の式により1000時間当たりの劣化率Dを求めた。
劣化率D=(V50h-V2000h)/{(V50h)×(2000−50)}×100×1000
【0084】
<電解質層の厚み測定>
上記の電池性能評価試験の後に、水素6mL/分、窒素を194mL/分の混合ガスをアノードへ供給してSOFCの降温を行うことによって、アノード機能層の導電成分である酸化ニッケルが金属ニッケルに変化した状態を常温においても維持しているサンプルを得た。この各サンプルをガラスカッターによって切断し、断面観察用サンプルを作製した。この断面観察用サンプルの断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM−7600F)を用いて撮影した。
【0085】
断面観察用サンプルの断面の撮影は、カソードが形成されている部分に対する中央部分及びカソードの端部から約2mm離れた位置において行い、3つの視野の写真を得た。それぞれの視野について任意の5点(合計15点)で測定した電解質層の厚みの算術平均値を、電解質層の厚みとした。なお、アノード側電解質層とカソード側電解質層との境界は、エネルギー分散型X線分析装置を用いて各金属酸化物の分布を調べることによって判断した。
【0086】
第1カソード層及び第2カソード層の厚みの測定は、ガラスカッターを用いて切断した断面観察用サンプルを作製して行った。電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製:JSM−7600F)を用いてその断面観察用サンプルの断面観察を行い、第1カソード層の厚みを測定した。第1カソード層の厚みは、電極の中央部分および電極の端部から約2mm離れた2か所の3視野で測定した。それぞれの視野について任意の5点(合計15点)で測定した第1カソード層の厚みの平均値を、第1カソード層の厚みとした。第2カソード層についても同様にして第2カソード層の厚みを測定した。
【0087】
<実施例1>
(アノード支持基板グリーンシートの作製)
導電成分である酸化ニッケル(正同化学社製)60質量部、電解質成分である3mol%イットリア安定化ジルコニアの粉末(3YSZ、東ソー社製、商品名:「TZ3Y」)40質量部、空孔形成剤である市販のカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量部)30質量部、可塑剤であるジブチルフタレート2質量部及び分散媒であるトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製した。得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、70℃で5時間乾燥させて、乾燥後の厚さが300μmのアノード支持基板グリーンシートを作製した。
【0088】
(アノード機能層用ペーストの作製)
導電成分である酸化ニッケル(キシダ化学社製)55質量部、電解質成分である10mol%イットリア安定化ジルコニアの粉末(10YSZ、第一稀元素化学工業社製、商品名「HSY−10」、)45質量部、気孔形成剤である市販のカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)3質量部、溶剤であるα−テルピネオール(和光純薬工業社製)56質量部、バインダーであるエチルセルロース(和光純薬工業社製)14質量部、可塑剤であるジブチルフタレート(和光純薬工業社製)5質量部及び分散剤である市販のソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤8質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」)を用いて解砕し、アノード機能層用ペーストを作製した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、10YSZのイットリア含有量は10.04mol%であった。
【0089】
(第1電解質層用ペーストの作製)
10mol%イットリア安定化ジルコニアの粉末(10YSZ、第一稀元素化学社製、商品名「HSY−10」)100質量部、バインダーであるエチルセルロース(和光純薬工業社製)10質量部、溶剤であるα−テルピネオール(和光純薬工業社製)70質量部、可塑剤であるジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部及び分散剤である市販のソルビタン酸エステル系界面活性剤10質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」)を用いて解砕し、第1電解質層用ペーストを作製した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、10YSZのイットリア含有量は10.04mol%であった。
【0090】
(バリア層用ペーストの作製)
20mol%ガドリニアドープセリア(GDC、セイミケミカル社製)100質量部に対し、バインダーであるエチルセルロース(和光純薬工業社製)10質量部、溶剤であるα−テルピネオール(和光純薬工業社製)70質量部、可塑剤であるジブチルフタレート(和光純薬工業社製)10質量部及び分散剤である市販のソルビタン酸エステル系界面活性剤20質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」)を用いて解砕し、バリア層用ペーストを作製した。
【0091】
(アノード機能層用グリーン層の形成)
アノード機能層用ペーストを、上記のアノード支持基板グリーンシートの上に焼成後の厚さが20μmとなるようにスクリーン印刷した。これを100℃で30分間乾燥させ、アノード機能層用グリーン層を形成した。
【0092】
(第1電解質層用グリーン層の形成)
第1電解質層用ペーストを、上記で得たアノード機能層用グリーン層の上に焼成後の厚さが15μmとなるようにスクリーン印刷した。これを100℃で30分間乾燥させ、電解質層用グリーン層を形成した。
【0093】
(バリア層用グリーン層の形成)
バリア層用ペーストを、上記で得た電解質層用グリーン層の上に焼成後の厚さが8μmとなるようにスクリーン印刷した。これを100℃で30分間乾燥させ、バリア層用グリーン層を形成した。
【0094】
(ハーフセル焼成)
バリア層用グリーン層の乾燥後、バリア層用グリーン層、電解質層用グリーン層及びアノード機能層用グリーン層が形成されたアノード支持基板グリーンシートを、正方形状に打ち抜いた。その後、1300℃で2時間焼成して実施例1に係るハーフセルを得た。焼成後のハーフセルは6cm×6cmの正方形であった。
【0095】
(カソード用のペーストの調製)
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8の粉末(セイミケミカル社製)80質量部、20mol%ガドリニアドープセリア(セイミケミカル社製)を20質量部、バインダーであるエチルセルロース3質量部及び溶剤であるα−テルピネオール30質量部を、乳鉢を用いて混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」)を用いて混練し、カソード用ペーストを得た。
【0096】
(カソードの形成)
上述のハーフセルのバリア層の表面に、スクリーン印刷により、カソード用ペーストを1cm×1cmの正方形に塗布した。これを90℃で1時間乾燥させてカソード用グリーン層を形成した。その後、1100℃で2時間焼成して実施例1に係るSOFCセルを得た。焼成後のカソードの厚さは20μmであった。
【0097】
<実施例2>
アノード機能層の10YSZの代わりに9.10mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(9.1YSZ)を使用し、第1電解質層の10YSZの代わり9.10mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(9.1YSZ)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るハーフセル及び実施例2に係るSOFCセルを作成した。
【0098】
<実施例3>
アノード機能層の10YSZの代わりに10.98mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(11YSZ)を使用し、第1電解質層の10YSZの代わり10.98mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(11YSZ)を使用した以外は、実施例1と同様にして実施例3に係るハーフセル及び実施例3に係るSOFCセルを作成した。
【0099】
<実施例4>
カソードを二層構造とした(第1カソード層及び第2カソード層)、図3に示す構成の実施例4について説明する。
【0100】
(LSM粉末の調製)
第1カソード層及び第2カソード層に用いられるLSM粉末を以下の通り調製した。市販の純度99.9%のLa、SrCO、及びMnの粉末を元素比がLa0.8Sr0.2Mnとなるように混合した。得られた混合物にエタノールを加えて、これをビーズミルで1時間粉砕混合した。次いで、得られた混合物を乾燥させてから、800℃で1時間仮焼した。仮焼後の混合物に対し、さらにエタノールを加えてビーズミルで1時間粉砕混合してから、乾燥させた。その後、1200℃で混合物を5時間固相反応させることによって、粉末を得た。
【0101】
得られた粉末にエタノールを加え、さらにこれをボールミルで10時間粉砕混合してから乾燥させて、LSM粉末を得た。なお、得られた粉末はX線回折によって、ペロブスカイトからなる単一相であることが確認された。さらにその後、遊星ボールミルを用い、回転数と回転時間を調整しながら粉砕することによって、平均粒子径(D50)が0.49μmの第1カソード層用の粉体材料(第1粉体材料)及び平均粒子径(D50)が1.90μmの第2カソード層用の粉体材料(第2粉体材料)を得た。
【0102】
(第1カソード層用のペーストの調製)
上記の第1粉体材料50質量部、酸素イオン伝導材料の粉末として第一稀元素社製(Sc0.10(CeO0.01(ZrO0.89(以下、「ScSZ」という)50質量部、バインダーとしてエチルセルロース3質量部、及び溶剤としてα−テルピネオール30質量部を、乳鉢を用いて混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、第1カソード層用のペーストを得た。
【0103】
(第2カソード層用のペーストの調製)
第2カソード層用のペーストは粉体として第2粉体材料のみを用い、その他は第1カソード層用のペーストと同様の方法によって作製した。
【0104】
(第1カソード層及び第2カソード層の形成)
バリア層30の形成を省略した以外は、実施例1と同様な構成にした実施例4に係るハーフセルを作製した。ハーフセルの第1電解質層の表面に、スクリーン印刷により、第1カソード層用のペーストを、焼成後の厚さが約8μmになるように、1cm×1cmの正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させ、第1カソード層用グリーン層を形成した。その後、第1カソード層用グリーン層上に、第2カソード層用のペーストを、焼成後の厚さが約26μmになるように、スクリーン印刷により、1cm×1cmに正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させ、第2カソード層用グリーン層を形成した。その後、積層された2層のグリーン層を、1150℃で2時間焼成した。これにより、実施例4に係るSOFCセルを作製した。実施例4に係るSOFCセルの第2カソード層の厚さT2に対する第1カソード層の厚さT1の比は、0.298(T1=7.6μm、T2=25.5μm)であった。また、実施例4に係るSOFCセルの第1カソード層は、50質量%のLSMと、50質量%の酸素イオン伝導性材料であるScSZとからなる。また、実施例4に係るSOFCセルの第2カソード層は、ScSZを全く含んでおらず、LSMのみからなる。
【0105】
<実施例5>
第1電解質層及び第2電解質層を備えた図5に示す構成の実施例5について説明する。
【0106】
(アノード支持基板グリーンシートの作製)
実施例1と同様にしてアノード支持基板グリーンシートを作製した。
【0107】
(アノード機能層用ペーストの作製)
導電成分としての酸化ニッケル(キシダ化学社製)36質量部、電解質成分としての10mol%イットリア安定化ジルコニア(10YSZ、第一稀元素社製、商品名「HSY−10」)24質量部、気孔形成剤としてのカーボンブラック(SECカーボン社製、SGP−3)2質量部、溶剤としてのα−テルピネオール(和光純薬工業社製)36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース(和光純薬工業製)4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、アノード機能層用ペーストを作製した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、10YSZのイットリア含有量は10.04mol%であった。
【0108】
(第1電解質層用ペーストの作製)
10mol%イットリア安定化ジルコニア(10YSZ、第一稀元素社製、商品名「HSY−10」)60質量部、バインダーとしてエチルセルロース(和光純薬工業社製)5質量部、溶剤としてα−テルピネオール(和光純薬工業社製)40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、及び分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、第1電解質層用ペーストを作製した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、10YSZのイットリア含有量は10.04mol%であった。
【0109】
(第2電解質層用ペーストの作製)
10mol%スカンジア1mol%セリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ、第一稀元素社製、商品名「10Sc1CeSZ」)60質量部、バインダーとしてエチルセルロース(和光純薬工業社製)5質量部、溶剤としてα−テルピネオール(和光純薬工業社製)40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、及び分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、第2電解質層用ペーストを作製した。
【0110】
(バリア層用ペーストの作製)
10mol%ガドリニアがドープされているセリアの粉末(阿南化成株式会社製)60質量部、バインダーとしてのエチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)5質量部、溶剤としてのα−テルピネオール(和光純薬工業株式会社製)40質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート(和光純薬工業株式会社製)6質量部、及び分散剤としてのソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。このようにして、バリア層用ペーストを作製した。
【0111】
(アノード機能層用グリーン層の形成)
アノード機能層用ペーストを、上記のアノード支持基板用グリーンシートに焼成後の厚さが約20μmとなるようにスクリーン印刷によって印刷し、100℃で30分間乾燥させ、アノード機能層用グリーン層を形成した。
【0112】
(電解質層用グリーン層の形成)
上記のアノード機能層用グリーン層の上に、第1電解質層用ペーストを焼成後の厚さが約2μmとなるようにスクリーン印刷によって印刷した。さらにその上に、第2電解質層用ペーストを焼成後の厚さが約10μmとなるようにスクリーン印刷によって印刷し、100℃で30分間乾燥させ、第1電解質層用グリーン層及び第2電解質層用グリーン層を形成した。ここで、第1電解質層用ペーストによって形成されたグリーン層が第1電解質層用グリーン層であり、第2電解質層用ペーストによって形成されたグリーン層が第2電解質層用グリーン層である。
【0113】
(バリア層用グリーン層の形成)
第2電解質層用グリーン層の上に、上記のバリア層用ペーストを焼成後の厚さが3μm以下となるようにスクリーン印刷によって印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、バリア層用グリーン層を形成した。
【0114】
(焼成)
バリア層用グリーン層、第2電解質層用グリーン層、第1電解質層用グリーン層、及びアノード機能層用グリーン層が形成されたアノード基板用グリーンシートを、焼成後の1辺が60mmの正方形になるように打ち抜いた。打ち抜いた後、1300℃で2時間焼成してバリア層を有する実施例5に係るハーフセルを得た。
【0115】
(LSCFの粉体材料の調製)
LSCFカソードの原料となる粉体材料として、市販の純度99.9%のLa、SrCO、純度99%のCoO及びFeの粉末を元素比がLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8となるように混合した。得られた混合物にエタノールを加えて、これをビーズミルで1時間粉砕混合した。次いで、得られた混合物を乾燥させてから、800℃で1時間仮焼した。仮焼後の混合物に対し、さらにエタノールを加えてビーズミルで1時間粉砕混合してから、乾燥させた。その後、1200℃で混合物を5時間固相反応させることによって、粉末を得た。この粉末にエタノールを加え、さらにボールミルで10時間粉砕混合してから乾燥させて、粉末を得た。この粉末は、X線回折によって、ペロブスカイトからなる単一相であることが確認された。その後、遊星ボールミルを用い、回転数と回転時間を調整しながら粉砕することによって、平均粒子径(D50)が0.52μmのLSCF粉末を得た。なお、本明細書で平均粒子径(D50)とは、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定した粒度分布において、体積累積が50%に相当する粒径を意味する。
【0116】
(カソード用ペーストの調製)
上記のLSCF粉末100質量部、バインダーとしてのエチルセルロース3質量部、及び溶剤としてのα−テルピネオール30質量部を乳鉢に加え、乳鉢で混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、カソード用ペーストを得た。
【0117】
(カソードの形成)
上記のハーフセルのバリア層の上に、上記カソード用ペーストを1cm×1cmの正方形状にスクリーン印刷によって塗布し、90℃で1時間乾燥させ、カソード用グリーン層を形成した。このカソード用グリーン層を、1000℃で2時間焼成し、実施例5のSOFCセルを得た。
【0118】
<実施例6>
第2電解質層用グリーン層の焼成後の厚み及び第1電解質層用グリーン層の焼成後の厚みがともに約5μmとなるように、第1電解質層用グリーン層及び第2電解質層用グリーン層の印刷条件を変更した以外は、実施例5と同様にして実施例6のSOFCセルを作製した。
【0119】
<実施例7>
第1電解質層用グリーン層の焼成後の厚みが約1μm、第2電解質層用グリーン層の焼成後の厚みが約10μmになるように印刷条件を変更した以外は、実施例5と同様にして実施例7のSOFCセルを作製した。
【0120】
<実施例8>
アノード機能層用ペーストの作製において、酸化ニッケルと10mol%イットリア安定化ジルコニアの粉末とをボールミルで混合/粉砕する処理を行い、その処理した混合粉を使用してアノード機能層用ペーストを作製した以外は、実施例7と同様にして実施例8のSOFCセルを作製した。
【0121】
<参考例1>
第1電解質層用グリーン層の焼成後の厚みが約10μmとなるように印刷条件を変更し、第2電解質層用ペーストの印刷を省略した以外は、実施例5と同様にして、第1電解質層からなる単層の電解質層を備えた参考例1のSOFCセルを作製した。
【0122】
<参考例2>
実施例4において、第2カソード層の塗布を行わなかったこと以外は、実施例4と同様にして、参考例2のSOFCセルを作製した。
【0123】
<比較例1>
実施例1のアノード機能層の電解質成分及び実施例1の第1電解質層の材料に8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(8YSZ、第一稀元素化学工業社製、商品名「HSY−8」)を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例1に係るハーフセル及び比較例1に係るSOFCセルを作製した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、8YSZのイットリア含有量は7.97mol%であった。
【0124】
<比較例2>
アノード機能層の10YSZの代わりに8mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(8YSZ、第一稀元素化学工業社製、商品名「HSY−8」)を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例2に係るハーフセル及び比較例2に係るSOFCセルを作成した。ICP(誘導結合プラズマ)組成分析の結果、8YSZのイットリア含有量は7.97mol%であった。
【0125】
<比較例3>
アノード機能層の10YSZの代わりに12.01mol%イットリア安定化ジルコニア粉末(12YSZ)を使用した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係るハーフセル及び比較例3に係るSOFCセルを作成した。
【0126】
実施例1〜3に係るSOFCセル及び比較例1〜3に係るSOFCセルについて電池性能評価試験を行った。結果を図7に示す。図7に示すように、実施例1〜3に係るSOFCセルの電流密度が0.36A/cmのときの電圧は、比較例1〜3に係るSOFCセルの電流密度が0.36A/cmのときの電圧よりも高かった。
【0127】
表1に、実施例1〜3に係るハーフセル及び比較例1〜3に係るハーフセルにおいて、アノード機能層における導電成分の電解質成分に対する剥離度又は第1電解質層のアノード機能層との界面における導電成分の電解質成分に対する界面剥離度の算出結果を表1に示す。以下の表において、剥離度は、アノード機能層における導電成分の電解質成分に対する剥離度を意味する。また、界面剥離度は、第1電解質層とアノード機能層との界面における、アノード機能層の導電成分の第1電解質層の電解質成分に対する界面剥離度を意味する。
【0128】
【表1】
【0129】
実施例1〜3に係るハーフセルのアノード機能層の導電成分の電解質成分に対する剥離度及び第1電解質層とアノード機能層との界面におけるアノード機能層の導電成分の第1電解質層の電解質成分に対する界面剥離度は10%未満であったが、比較例1〜3に係るハーフセルでは、剥離度及び界面剥離度は10%を超えていた。
【0130】
図7に示すように、9.10YSZ、10.04YSZ、及び10.98YSZの酸素イオン伝導度は8YSZの酸素イオン伝導度よりも低いにもかかわらず、実施例1〜3に係るSOFCセルは、比較例1〜3に係るSOFCセルの発電性能を上回る発電性能を示した。これにより、実施例1〜3において、アノード機能層の電解質成分と導電成分との剥離の抑制、及び電解質層のアノード機能層との界面における導電成分の電解質層に対する剥離の抑制が、比較例1〜3よりも高い程度で実現されていることが示唆された。実際に、表1における実施例1〜3に係るハーフセルの剥離度及び界面剥離度は、10%未満であり、比較例1〜3に係るハーフセルの剥離度及び界面剥離度よりも低かった。
【0131】
図8に水素還元処理後の実施例1に係るハーフセルの断面のSEM写真を示す。また、図9に水素還元処理後の比較例1に係るハーフセルの断面のSEM写真を示す。
【0132】
図3に示す二層構造のカソード(41及び42)に変更したSOFCセルである実施例4のSOFCセルの劣化率は、0.01%であり、参考例2のSOFCセルの劣化率は1.21%であった。二層構造のカソードを有するSOFCセルは高い耐久性を有することが示唆された。
【0133】
実施例5〜8、及び参考例1に係るSOFCセルについて、上記の電池性能評価試験を実施し、0.8Vにおける出力密度(W/cm)を求めた。また、第1電解質層の厚み及び第2電解質層の厚みを測定し、第1電解質層の厚み及び第2電解質層の厚みの和に対する第2電解質層の厚みの割合を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0134】
実施例5〜8のSOFCセルの出力密度は、参考例1のSOFCセルの出力密度よりも高く、第1電解質層に加え、第2電解質層を備えることで、SOFCセルの出力密度が向上し、高い発電性能を有することが示された。
【0135】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9