特許第6018650号(P6018650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018650
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】表皮材及び表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20161020BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20161020BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B32B27/12
   D06N3/00DAA
   B60N2/58
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-5630(P2015-5630)
(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-129994(P2016-129994A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】竹下 正人
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢治
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214211(JP,A)
【文献】 特開2010−248644(JP,A)
【文献】 特開2011−094273(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/097999(WO,A1)
【文献】 特開平07−216756(JP,A)
【文献】 特開平02−026737(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/022772(WO,A1)
【文献】 特開2011−153389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
D06N 1/00− 7/06
B60N 2/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、及び綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種の芯繊維と、融点120℃〜180℃の合成樹脂を含む合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布と、基布の少なくとも一方の面に、接着剤層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有する表皮材。
【請求項2】
前記芯繊維が、17フィラメント〜72フィラメントの撚り糸である、請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記芯繊維が、ポリエステル繊維である請求項1又は請求項2に記載の表皮材。
【請求項4】
前記基布が、前記合成樹脂被覆層を有する繊維を含む撚り糸を編成又は織成してなる基布である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の表皮材。
【請求項5】
離型材表面に、表皮層と、接着剤層とをこの順に積層する工程と、
ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、及び綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種の芯繊維と、融点120℃〜180℃の合成樹脂を含む合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成された基布を準備する工程と、
前記基布の少なくとも一方の表面に、前記表皮層と接着剤層とを積層した離型材の接着剤層を接触させて、前記基布と前記接着剤層とを密着する工程と、
前記基布と前記接着剤層と表皮層と離型材とを加熱して、前記基布の少なくとも一方の表面に、接着剤層と表皮層と離型材とをこの順に形成し、表皮層表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、
前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程と、を有し、
前記積層体に通気孔を穿孔する工程の前に、前記合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を含む、表皮材の製造方法。
【請求項6】
前記合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成された基布を準備する工程が、合成樹脂被覆層を有する繊維を含む撚り糸を用いて基布を作製する工程であり、前記基布を準備する工程の後、前記基布と前記接着剤層とを密着する工程の前に、前記合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を行なう、請求項に記載の表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表皮材及び表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井などの自動車内装部品、トリム、座席、天井などの鉄道車輌及び航空機内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材及び裏地、壁装材などには、天然皮革や繊維製シートに代えて、耐久性に優れる合成樹脂表皮材が多用されている。例えば、自動車内装品については、車両の高級化に伴い、内装用の表皮材についても高級感を付与させることが重要になってきている。また、天然皮革と同等又はそれ以上の通気性を有することも求められている。
透湿性及び通気性を得るため、合成皮革として用いる積層シートに穿孔加工(パーフォレーション加工)を施すことが行われるが、穿孔により、合成皮革の引裂き強度、平面磨耗強度を始めとする強度低下をきたす場合がある。
【0003】
表皮材は、一般的には、基材として布を使用し、布の少なくとも一方の面にウレタンフォーム層を設けてクッション性を付与し、最表面には意匠性を付与するための表皮層を設けたものが使用されている。
【0004】
例えば、着色層及びその上に積層される着色層とは異色の不透明表皮層を有する装飾性積層シートであって、少なくとも上記着色層及び不透明表皮層を貫通し、かつ、表皮層側から見たときに不透明表皮層の下にある着色層の色を視認することが可能な孔を複数個設けてなる装飾性積層シートが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−256483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に合成皮革等の表皮材は、基布に加工を施さず表皮と貼り合せる乾式合成皮革と、基布に湿式加工を施し、湿式ベースとした後、表皮と貼り合せる湿式合成皮革に大別される。
基布に樹脂を含浸した湿式合成皮革は、含浸した樹脂により基布の強度が向上し、穿孔加工した場合の基布の糸ほつれが抑制される。しかし、強度向上、糸ほつれの抑制に十分な量の合成樹脂を使用した場合、作製された合成皮革の重量が重くなると言う問題が生じることがある。
表皮材は軽量であることも重要であり、このため、車両の内装材などには、軽量で柔軟性に優れた乾式法による表皮材が多く用いられている。
【0007】
乾式法により得られた表皮材は、通気などの目的で穿孔加工を施すことにより、基布の種類によっては、孔の歪み、強度の低下等が生じる場合がある。さらに、穿孔加工により、基布を構成する繊維のほつれが孔から見える、合皮が柔らかいため孔が歪むという外観上の不具合が生じることがある。
また、基布に接着剤層を介して表皮層を貼り合わせる前に、接着性を向上させるための粗面化加工(バフ加工)を施す際、基布を構成する糸が傷つくことにより、強度がより低下することがある。
【0008】
本発明の課題は、通気孔を有し、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材を提供することにある。
本発明の別の課題は、通気孔を有し、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材を簡易な工程により製造することができる表皮材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、検討の結果、基布として、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布を用いることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下に示すとおりである。
<1> ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、及び綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種の芯繊維と、融点120℃〜180℃の合成樹脂を含む合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布と、基布の少なくとも一方の面に、接着剤層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有する表皮材。
<2> 前記芯繊維が、17フィラメント〜72フィラメントの撚り糸である、<1>に記載の表皮材。
<3> 前記芯繊維が、ポリエステル繊維である<1>又は<2>に記載の表皮材。
> 前記基布が、前記合成樹脂被覆層を有する繊維を含む撚り糸を編成又は織成してなる基布である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の表皮材。
【0010】
> 離型材表面に、表皮層と、接着剤層とをこの順に積層する工程と、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、及び綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種の芯繊維と、融点120℃〜180℃の合成樹脂を含む合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成された基布を準備する工程と、前記基布の少なくとも一方の表面に、前記表皮層と接着剤層とを積層した離型材の接着剤層を接触させて、前記基布と前記接着剤層とを密着する工程と、前記基布と前記接着剤層と表皮層と離型材とを加熱して、前記基布の少なくとも一方の表面に、接着剤層と表皮層と離型材とをこの順に形成し、表皮層表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程と、を有し、前記積層体に通気孔を穿孔する工程の前に、前記合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を含む、表皮材の製造方法。
> 前記合成樹脂被覆層を有する繊維の撚り糸を含んで構成された基布を準備する工程が、合成樹脂被覆層を有する繊維を含む撚り糸を用いて基布を作製する工程であり、前記基布を準備する工程の後、前記基布と前記接着剤層とを密着する工程の前に、前記合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を行なう、<>に記載の表皮材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通気孔を有し、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材を提供することができる。
また、本発明によれば、通気孔を有し、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材を簡易な工程により製造することができる表皮材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の表皮材の一態様を示す概略断面図である。
図2】本発明の表皮材に用いられる繊維の一態様を示す概略図である。
図3図3(A)は、本実施形態の表皮材に用いられる基布に含まれる繊維の加熱処理前の断面を示す顕微鏡写真であり、図3(B)は、基布に含まれる繊維の加熱処理後の断面を示す顕微鏡写真である。
図4図4(A)は、実施例1の表皮材に用いられた基布の加熱処理前の態様を示す顕微鏡写真であり、図4(B)は、基布の加熱処理後の態様を示す顕微鏡写真でありである。
図5】基布面バフ加工後の実施例1の表皮材の基布面を撮影したマイクロスコープ写真であり、図5(B)は、バフ加工後の比較例1の表皮材の基布面を撮影したマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔表皮材〕
合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布と、基布の少なくとも一方の面に、接着剤層と、表皮層と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔を有する表皮材である。
ここで、「隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している」との記載は、基布に含まれる繊維のうち、隣接する繊維の少なくとも一部が、それぞれの繊維の少なくとも一部において互いに融着している態様を包含する。基布に含まれる合成樹脂被覆層を有する多数の繊維のうち、少なくとも一部の繊維同士が、互いに接している領域、即ち、当該繊維の少なくとも一部において融着していれば、穿孔工程における基布のほつれを効果的に抑制することができる。
図1は、本発明の表皮材10の一態様を示す概略断面図である。図2は、本発明の表皮材の基布に含まれる繊維の一態様を示す概略図である。
本実施形態の表皮材10は、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含んで構成され、隣接する繊維同士が少なくとも一部において互いに融着している基布12と、基布12の少なくとも一方の面に、接着剤層14と、表皮層16と、をこの順に備え、厚さ方向に貫通する複数の通気孔18を有する。
本実施形態では、表皮層16の表面には、表皮材10の外観、及び表面の耐摩耗性を向上する目的で表面処理層19が設けられているが、表面処理層19は必ずしも必要ではない。
なお、本明細書では、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された基布であり、加熱処理により繊維同士が互いに融着する前の状態の基布を便宜上「布」と称して、加熱処理により繊維同士が互いに融着した後の「基布」と区別することがある。
【0014】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本発明の表皮材は、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された基布を使用している。表皮材の形成工程のいずれかにおいて基布を加熱処理することで、基布に含まれる合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部が互いに融着し、ほつれにくい基布が形成される。このため、ほつれにくい基布上に、接着剤層、表皮層を順次備える積層体に、貫通孔を形成してなる本発明の表皮材は、貫通孔の形成による基布の著しい強度低下、及び、貫通孔周縁部の基布を構成する繊維のほつれによる外観の低下が抑制され、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材となるものと考えられる。
基布は、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された基布を予め加熱処理することで得ることができる。また、加熱処理前の布に、接着剤層と表皮層とを積層した後、加熱処理を行なって、本発明に係る基布を形成してもよい。加熱処理して基布を予め形成した場合と同様に、積層後に加熱処理することによっても、布における繊維同士の融着による基布の強度向上、及び、基布を構成する繊維のほつれの抑制効果を有するものと考えられる。
本発明の表皮材の製造方法においては、基布表面に乾式法により表皮層を形成している。このため、本発明の製造方法により得られる表皮材は、貫通孔を形成する穿孔工程における強度の低下、基布を構成する繊維のほつれが抑制され、軽量で風合がよく、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れた表皮材となったものと推定される。
【0015】
〔基布〕
本発明の表皮材10における基布12に含まれる構成する繊維20は、図2(A)の概略図に一例として示すように、基材となる芯繊維22の周囲に、鞘部としての合成樹脂被覆層24を有する、所謂、芯鞘構造を有する複合繊維であることが好ましい。図2(B)は、合成樹脂被覆層24が加熱処理により溶融し、複数の繊維20が互いに融着した状態を示す概略図である。
繊維20が芯鞘構造を有する場合の芯繊維22には、特に制限はなく、一般に合成皮革などの表皮材に使用しうる繊維であればいずれも使用することができる。
芯繊維22としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、綿繊維からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも、強度と柔軟性の観点からは、ポリエステル繊維が好ましい。
芯繊維20は1種単独の繊維であっても、2種以上の繊維の混紡でもあってもよい。
【0016】
基布12に含まれる繊維20を構成する芯繊維22の太さには特に制限はないが、強度と柔軟性とを両立するという観点からは、56dtex〜167dtexが好ましい。また、撚り糸とする場合には、繊維を17フィラメント〜72フィラメントの範囲とすることが好ましい。
【0017】
基布12含まれる繊維20としては、芯繊維22の周囲に合成樹脂被覆層24を有する繊維20であることが好ましい。合成樹脂被覆層24は必ずしも、芯繊維22の周囲を全域に亘って被覆していなくてもよい。
合成樹脂被覆層24の形成に用いられる合成樹脂は、芯繊維22を構成する繊維よりも融点が低い合成樹脂であることが好ましい。
合成樹脂被覆層の形成に用いられる合成樹脂としては、融点が120℃〜180℃の合成樹脂が好ましい。合成樹脂としては、より具体的には、ポリプロピレン、低融点ポリエステルなどが挙げられ、低融点ポリエステルが好ましい。
ポリエステル繊維の融点は、一般に255℃〜260℃であるが、低融点ポリエステルとして、融点が80℃〜180℃程度のポリエステルがある。低融点ポリエステルの市販品としては、例えば、日本合成化学工業(株)製、ポリエスターSP170(融点83℃)等が挙げられる。このような低融点ポリエステル樹脂を、合成樹脂被覆層を形成する樹脂として用いることができる。
合成樹脂被覆層24の厚みは、隣接する繊維20同士を融着しうる限りにおいて特に制限はないが、平均的な厚みとして2μm〜10μmの範囲であることが好ましい。
合成樹脂被覆層24の厚みの測定方法としては、加熱処理する前の基布の断面を、電子顕微鏡写真等により拡大写真として撮影し、拡大写真の画像を用いて合成樹脂被覆層の厚みを測定する方法等が挙げられる。
【0018】
基布を形成する布としては、合成樹脂被覆層24を有する芯鞘構造の繊維20のみにより作製された布でもよく、合成樹脂被覆層24を有する芯鞘構造の繊維20と、合成樹脂被覆層を有しない繊維との混紡繊維を用いて作製された布でもよい。
ここで、合成樹脂被覆層を有しない繊維として、合成樹脂被覆層24の形成に用いられる合成樹脂からなる繊維、即ち、繊維20の少なくとも一部を融着させるための加熱処理により軟化、或は溶融しうる合成樹脂からなる繊維を用いてもよい。
表皮材10に通気孔18を形成する際の基布12のほつれをより効果的に抑制するという観点からは、基布12を構成する繊維としては、合成樹脂被覆層24を有する芯鞘構造の繊維20の含有割合が高いことが好ましく、合成樹脂被覆層24を有する芯鞘構造の繊維20のみを用いることがさらに好ましい。
基布の形成に用いられる合成樹脂被覆層24を有する芯鞘構造の繊維20は、1種のみでもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
基布12は、織り地であっても編み地であってもよい。なお、既述のように、基布を構成する織り地及び編み地であって、加熱処理前の態様を単に「布」と称することがあり、本明細書における布とは、織り地及び編み地を包含する意味で用いられる。
基布12を構成する糸、即ち、基布12に含まれる繊維20は、撚り糸であってもよく、モノフィラメントの如き単繊維であってもよい。
また、芯鞘繊維20を含む撚り糸を加熱処理することにより、条件によっては、撚り糸を構成する繊維同士の融着により撚り糸がモノフィラメントの状態となることがある。このようにして形成されたモノフィラメント繊維も、本発明に係る基布12の糸として使用することができる。
芯繊維22の周囲に合成樹脂被覆層24を有する繊維20を織るか編むことで布を作製し、作製された布を基布に用いればよい。
【0020】
本発明の表皮材における「合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布」は、芯繊維22の周囲に合成樹脂被覆層24を有する繊維20を織るか編むことで作製された布を、合成樹脂被覆層24を構成する合成樹脂の軟化点よりも高い温度、より好ましくは合成樹脂の融点近傍の温度、例えば、80℃〜190℃で加熱処理することにより得ることができる。前記加熱処理により、布を構成する繊維20のうち、少なくとも一部が互いに融着して繊維同士が固定化され、本発明の表皮材に用いる基布12を得ることができる。
織り地又は編み地としての布を形成した後、加熱処理して繊維の少なくとも一部を融着させる前に、所望により布の染色を行なってもよい。
加熱処理前に布の染色を行なうことで、目的に応じた色相を有する基布12を得ることができる。
なお、以下の製造方法において詳述するが、繊維の少なくとも一部を融着させるための加熱処理は、穿孔工程を実施する前に基布12に含まれる繊維の少なくとも一部が融着している限り、穿孔工程前のいずれの時点で行なってもよい。繊維の少なくとも一部を融着させるための加熱処理は、例えば、接着剤層及び表皮層の形成前に行なってもよく、布の上に接着剤層及び表皮層を形成した後に行なってもよい。
【0021】
基布12の厚み、編組織、又は織組織の密度は、表皮材10の使用目的に応じて、適宜選択することができる。
例えば、本発明の表皮材10を座席シートの表皮材として用いる場合には、柔軟性と強度がより向上するという観点から、基布12の厚みは0.5mm〜1.2mmであることが好ましい。
【0022】
基布12は市販品を用いてもよい。本発明の表皮材に使用しうる基布12の市販品としては、例えば、東洋染工(株)製、T7407(商品名)、KBセーレン(株)製、ベルカップル(登録商標)等が挙げられる。T7407(商品名)は、芯繊維としてのポリエステル繊維の周囲に低融点ポリエステルを含む合成樹脂被覆層を有する繊維である。
【0023】
〔表皮層〕
本発明の表皮材10は、既述の基布12の少なくとも一方の表面に、接着剤層14を介して表皮層16を有する。
表皮層16には、表皮材の使用目的に応じた意匠性を付与することができる。表皮層16の形成方法には特に制限はなく、公知の合成皮革、及び表皮材に用いられる表皮層の形成方法を適用して表皮層を設けることができる。
【0024】
表皮層16の形成に用いられる合成樹脂には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。表皮層16の形成に用いられる合成樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル等が挙げられる。なかでも、耐久性、及び、弾力性が良好であるという観点から、ポリウレタンが好ましい。
表皮層16の形成に使用されるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。本発明の表皮材が自動車用シート、椅子等の長期耐久性が必要な用途に用いられる観点からは、表皮材に用いるポリウレタンとして、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタンは市販品を用いてもよく、例えば、DIC(株)製のクリスボン等が好適に用いられる。
【0025】
表皮層16の形成にポリウレタンを使用する場合、ポリウレタンとしては、JIS K−6301に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98N/cm〜3500N/cmであり、望ましくは196N/cm〜588N/cmが好適である。
なお、ポリウレタンの硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、又はポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法等が挙げられる。
【0026】
表皮層16の厚みは、表皮材の使用目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、乾燥前の付量(以下、Wet付量と称することがある)は、20μm〜300μm程度であり、Wet付量で100μm〜250μmであることが好ましい。
【0027】
また、表皮層を形成するための組成物には、主剤となる樹脂に加え、表皮層16に感触向上等種々の機能を付与する目的で、本発明の効果を損なわない限りにおいて公知の添加剤を加えてもよい。
【0028】
表皮層を形成するための組成物に用いうる添加剤としては、架橋剤、架橋促進剤、着色剤、成膜助剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
例えば、表皮層16に着色剤を含有させることで意匠性が向上する。また、表皮層16にリン系、ハロゲン系、無機金属系等の公知の難燃剤を添加することで表皮材10の難燃性向上が図れる。
絞型転写用離型材、又は平滑な離型材の表面に表皮層を形成するための組成物を付与する方法は、絞型転写用離型材表面に表皮層を形成するための組成物を塗布し、乾燥する方法でもよく、絞型転写に支障がない場合には、転写法を用いてもよい。
【0029】
〔接着剤層〕
表皮層16は、接着剤層14を介して基布12に接着される。
接着剤層14を構成する接着剤としては、特に制限はなく、ポリウレタン、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂を含有する接着剤等が挙げられる。
より具体的には、例えば、(1)2液硬化型ポリエステル系接着剤、(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤、(3)2液硬化型アクリル粘着剤等が好適に挙げられる。
(2)2液硬化型ポリウレタン接着剤は、2液硬化型ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤のいずれであってもよい。
なお、接着剤層の形成に使用される接着剤は市販品としても入手可能であり、例えば、ウェルダー用接着剤No.3660〔2液硬化型ポリウレタン接着剤:ノーテープ工業(株)〕、ダイカラック7250NT〔2液硬化型ポリエステル接着剤:大同化成工業(株)〕、TA265〔2液硬化型ポリエーテル系接着剤:DIC(株)、クリスボンTA205〔ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤:DIC(株)〕等が好適である。
【0030】
接着剤層の形成に用いられる組成物は、上記接着剤に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて、種々の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、着色剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
【0031】
接着剤層14が、リン系等の難燃剤を含有することで、表皮材10の難燃性が向上する。しかし、難燃剤の含有量が多過ぎる場合、得られる接着剤層の柔軟性が低下する懸念があるため、難燃剤を使用する場合の含有量は、接着剤に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
〔他の層〕
本発明の表皮材10には、基布12、接着剤層14、及び表皮層16に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の任意の層を設けることができる。
他の層としては、中間層、表面処理層等が挙げられる。
表面処理層は、水系エマルジョン樹脂、又はディスパージョン樹脂を含む表面処理剤組成物を、表皮層16の表面に塗布することで形成される。
表面処理層の形成に使用される水系エマルジョン樹脂又はディスパージョン樹脂に含まれる樹脂としては、水系の媒体又は非水系の有機溶媒に対して均一なエマルジョンを形成しうる限り、何れの樹脂を用いてもよい。用いうる樹脂としては、例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、エラストマー等が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
水系媒体としては、水、アルコール等、及びこれらを2種以上混合した混合媒体が挙げられる。水系溶媒としては、水、及び水を90質量%〜99質量%とアルコールを10質量%〜1質量%含有する混合溶媒等が好ましい。
非水系有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチルn−ブチルケトン(MBK)、イソプロピルアルコール(IPA)、トルエン等、及びこれらを2種以上混合した混合溶媒が挙げられる。
表皮層16表面に表面処理剤層19を形成することで、外観がより良化する。
表面処理層19には、架橋剤、有機フィラー、滑剤、難燃剤等を含有させることができる。例えば、表面処理層19に有機フィラー、滑剤等を含有することで、表皮材10に滑らかな感触が付与され、耐摩耗性がより向上する。
【0033】
本発明の表皮材10は、接着剤層14と表皮層16との間に中間層を設けてもよい。中間層の形成に用いる樹脂としては特に制限はないが、ポリウレタン、アクリル樹脂などが挙げられ、ポリウレタンが好ましい。
中間層に用いられるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物が挙げられ、長期耐久性が必要な場合には、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン中間層の厚みは、10μm〜200μmの範囲とすることができる。厚みは、10μm〜100μmの範囲であることが好ましく、30μm〜60μmの範囲であることがより好ましい。
中間層として使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで98N/cm〜1176N/cmが適する。
【0034】
本発明の表皮材は、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布を用いており、基布表面に接着剤層と表皮層とを順次備える積層体を穿孔してなる通気孔を有しており、高質感で、透湿性及び通気性を有することにより、人体と接触した状態で使用しても蒸れ難く、快適性に優れ、且つ、軽量で十分な強度を有し、通気孔の外観に優れる。
従って、本発明の表皮材は、自動車内装部品、鉄道車輌及び航空機内装部品、靴を主体とした履物用、椅子張り用シート、内装材に好適な合成皮革として使用することができ、特に、自動車用シート、椅子等の座席用表皮材として好適であり、その応用範囲は広い。
【0035】
〔表皮材の製造方法〕
次に、本発明の表皮材の製造方法について説明する。
前記本発明の表皮材は、以下に詳述する本発明の表皮材の製造方法により製造されることが好ましい。
本発明の表皮材10は、離型材表面に、表皮層16と、接着剤層14とを設ける工程と、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含んで構成された基布12を準備する工程と、前記基布12の少なくとも一方の表面に、前記表皮層16と接着剤層14とを設けた離型材の接着剤層14を接触させて、前記基布12と前記接着剤層14とを密着する工程と、前記基布12と前記接着剤層14と表皮層16と離型材とを加熱して、前記基布12の少なくとも一方の表面に、接着剤層14と表皮層16と離型材とをこの順に形成し、表皮層14表面より離型材を剥離して積層体を形成する工程と、前記積層体に、前記積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔18を穿孔する工程と、を有し、前記積層体に通気孔18を穿孔する工程の前に、前記合成樹脂被覆層24に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層24を有する繊維22の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を含む。
【0036】
本発明の製造方法においては、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含んで構成された布を加熱処理して、合成樹脂被覆層24を有する繊維22の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程、及び、予め離型材表面に形成された表皮層16と、接着剤層14とを形成し、基布12に密着させる工程を有し、乾式法により基布上に接着剤層14と密着層とを形成することを特徴とする。
【0037】
(離型材表面に、表皮層と、接着剤層とを設ける工程)
まず、離型材の表面に表皮層16を形成する。
離型材は、公知の離型材を目的に応じて、適宜選択して用いることができる。離型材は、絞型転写用離型材を用いてもよく、平滑な離型材を用いてもよい。
離型材の表面に表皮層16を形成する方法は、公知の方法を適用することができる。一般的には、表皮層16を形成する方法として、既述の表皮材を形成するための組成物を離型材表面に付与し、乾燥して表皮層16を形成する方法が挙げられる。また、絞型転写に支障がない場合には、表皮層16を離型材表面に転写法により設けてもよい。
【0038】
表皮層16表面には、皮革様等の任意の凹凸模様(絞)を設けることができる。
絞は、基布12上に接着剤層14を介して表皮層16を形成した後、或は、表皮層16を含む積層体と基布12とを加圧密着させ、加熱して接着剤層14を硬化させた後、絞を有する絞型転写用ロールを加熱圧着させることで形成してもよい。また、予め絞が形成された絞型転写用離型材表面に、表皮層16、及び接着剤層14を形成し、形成された接着剤層16と基布12とが接するように配置して、加圧密着させ、加熱した後、絞型転写用離型材を剥離することで形成してもよい。
【0039】
絞型転写用離型材は、所望される絞形状が形成されたものであればいずれを使用してもよく、例えば、市販品を用いてもよく、或いは、コンピュータグラフィックス等により、離型材の表面に所望の絞用パターンを形成したものを用いてもよい。
【0040】
接着剤層14は、表皮層16の表面に、既述の接着剤層を形成するための組成物を付与することで形成される。表皮層16表面に接着剤層を形成するための組成物を付与する方法は、塗布法でも転写法でもよい。
このようにして、離型材表面に、表皮層16、及び接着剤層14をこの順で有する積層体が形成される。
【0041】
(合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された布を準備する工程)
本工程では、本発明の表皮材に係る基布12を作製するため、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含んで構成された布を準備する。
布の準備は、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含む糸を用いて布を作製する工程を含んでいてもよい。
また、既述のように、合成樹脂被覆層24を有する繊維20を含んで構成された市販品の布を準備する工程であってもよい。
合成樹脂被覆層24及び芯繊維22を有する繊維20の詳細は、表皮材の説明において述べた通りである。
【0042】
本工程は、作製した布、又は入手した布を染色する工程を含んでいてもよい。
本工程の後に、後述する加熱工程を実施して、予め合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成され、隣接する繊維の少なくとも一部が互いに融着している基布12を作製し、その後、次工程である離型材表面に表皮層16と接着剤層14とを設けた積層体の接着剤層14と基材12とを密着させる工程を行なうことが好ましい。なお、加熱工程は、所望により行なわれる基布12を染色する工程の後に行なうことが好ましい。
【0043】
前記離型材表面に、表皮層と、接着剤層とを設ける工程と、基布を準備する工程とは、いずれを先に行なってもよい。また、別の工程として並行して行なってもよい。
予めこれらの工程により得られた、離型材表面に、表皮層と、接着剤層とを設けた積層体と、基布とを、次工程において密着させて乾式法により基布12上に接着剤層14と表皮層16とを形成する。
【0044】
(基布の少なくとも一方の表面に、表皮層と接着剤層とを設けた離型材の、接着剤層を接触させて、基布と接着剤層とを密着する工程)
本工程では、既述のようにして得られた積層体の接着剤層14側を、予め形成された基布12、又は加熱処理前の布の、いずれか一方の表面と接触させ、加圧密着する。
加圧密着の際、加熱処理を行なってもよく、加圧密着後に加熱処理を行なってもよい。
積層体と基布とを加圧する際の圧力は、10MPa〜50MPaが好ましく、15MPa〜30MPaがより好ましい。加圧する際は、表皮層16上に接着剤層14を形成した後、接着剤層が硬化する前に行なうことが、表皮材10における基布12と表皮層16との剥離強度をより向上させる観点から好ましい。
【0045】
基布12又は布と、接着剤層14と表皮層16とを含む積層体の加熱は、公知の方法により行なうことができる。加熱手段には特に制限はなく、熱ロールを用いた加熱、温風加熱、加熱乾燥炉内での加熱など、公知の加熱手段を用いればよい。
加熱温度は、布に含まれる芯繊維22、接着剤層14、及び表皮層16に影響を与えない温度であることが好ましい。
【0046】
基布12又は布と、接着剤層14と表皮層16とを含む積層体を加熱して、接着剤層などを硬化させるための加熱温度としては、例えば、40℃〜70℃の範囲が好ましく、40℃〜60℃の範囲がより好ましい。加熱時間は、上記温度条件で、24時間以上加熱することが好ましい。
なお、加熱処理の温度条件、加熱時間は、表皮層16及び接着剤層14の形成に用いられる合成樹脂、及び基布12に用いられる繊維の種類等により、適切な条件を選択すればよい。
本工程における加熱処理により、接着剤層14に含まれる樹脂が十分に硬化される。表皮層16は、接着剤層14を形成するための組成物を付与する前に硬化される場合もあるが、この加熱工程により表皮層16に含まれる樹脂の硬化がさらに進行する可能性がある。
加熱処理により、表皮層16上に接着剤層14が形成される。
【0047】
表面層16における絞の形成に絞型転写用離型材を用いる場合には、前記加熱処理の後、絞型転写用離型材を剥離することにより、基布12又は布上に、接着剤層14を介して、表面に絞型を有する表皮層16が形成される。
表皮層16の表面に絞を形成する他の方法としては、前記絞型転写用離型材に代えて、絞型を有しない平滑な離型材を用いて、平滑な離型材表面に、表皮層16、及び接着剤層14を形成した積層体を用い、平滑な離型材を剥離した後、表皮層16と絞型転写用離型材(絞形成用エンボスロール)とを接触させて、加熱エンボスを行ない、表皮層16表面に絞を形成する方法が挙げられる。
【0048】
基布12と接着剤層14とを密着させる本工程において行なわれる加熱処理は、離型材上に表皮層16、及び接着剤層14を形成した後、速やかに行なうことが好ましい。
具体的には、接着剤層14が未硬化のうちに、基布12又は布と接着剤層14とを密着させ、加熱処理を行なうことも好ましい態様の一つであるといえる。表皮層16表面に形成された接着剤層14が未硬化のうちに、基布12又は布と接触させ、加圧密着させることで、基布12又は布に含まれる繊維20の一部が接着剤層14内に侵入し易くなり、接着剤層14と基布12又は布との密着性がより向上する。さらに、その後の加熱処理により、接着剤層14の硬化が進行することで、基布12との密着性が向上し、得られた表皮材において、基布12と表皮層16との剥離強度がより良好となる。
加熱処理により、接着層14、及び表皮層16が硬化した後、表皮層16の表面より離型材を剥離することによって積層体が得られる。
【0049】
(合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、布に含まれる合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程)
本発明の製造方法においては、後述する積層体に通気孔を穿孔する工程の前に、合成樹脂被覆層24に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、前記合成樹脂被覆層24を有する繊維22の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を行なう。
本工程により、布に含まれる合成樹脂被覆層24を有する繊維20の少なくとも一部が互いに融着する。
【0050】
本工程における加熱は、繊維20の合成樹脂被覆層24に含まれる合成樹脂を軟化させる温度以上で加熱することが好ましい。
加熱温度としては、例えば、80℃〜190℃の範囲が好ましく、90℃〜180℃の範囲がより好ましく、120℃〜180℃の範囲がさらに好ましい。また、合成樹脂被覆層を構成する合成樹脂の軟化点が低い場合には、加熱温度は、90℃〜140℃の範囲が好ましい。
加熱時間は、上記温度条件で、30秒間〜10分間行なうことが好ましく、1分間〜5分間行なうことがより好ましい。
本工程における加熱処理の温度条件、加熱時間は、布に含まれる芯繊維22の物性、合成樹脂被覆層24に含まれる合成樹脂の融点、軟化点、必要な繊維同士の融着状態等を考慮して、適切な条件を選択すればよい。
【0051】
本工程は、後述する通気孔を穿孔する工程の前であれば、いずれのタイミングで行なってもよい。
なかでも、生産性がより向上すること、及び、表皮層16及び接着剤層14に含まれる合成樹脂等が熱的な影響を受ける懸念がより小さいことを考慮すれば、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された布を準備する工程の後であり、前記基布と接着剤層とを密着する工程の前に、前記合成樹脂被覆層に含まれる合成樹脂が軟化する温度以上に加熱して、基布に含まれる合成樹脂被覆層を有する繊維の少なくとも一部を互いに融着させる加熱工程を行なうことが好ましい。
【0052】
(積層体に、積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔を穿孔する工程)
次いで、得られた積層体に、積層体の厚さ方向に貫通する複数の通気孔18を穿孔する。例えば、パンチングロールにより積層体に所望の間隔で所望の径を有する通気孔18を穿孔する。これにより厚さ方向に貫通した多数の通気孔18を有する表皮材10が製造される。
【0053】
上記方法によれば、支持体となる基布12は、基布に含まれる繊維20の少なくとも一部が、繊維20の少なくとも一部において、合成樹脂被覆層24を介して互いに融着し、繊維20同士が固定化されて補強されているため、穿孔加工の際における積層体の変形が抑制され、開孔部が平面視において真円に近い通気孔18を形成することができる。
また、穿孔により基布12の布を構成する繊維20が切断されるが、基布12を構成する繊維20の少なくとも一部が合成樹脂被覆層24により互いに融着し、硬化した合成樹脂によって補強されているため、切断されたほつれ糸が通気孔18の内部や外に飛び出して外観を損ねることが抑制される。
さらに、基布12を構成する糸において繊維20の少なくとも一部が互いに融着することに加え、編成又は織成された布を構成する糸同士が交点において互いに融着して固定化される場合もあるため、本発明に係る基布12を用いた本発明の表皮材は耐摩耗性がより良好となり、本発明に係る基布12を用いた表皮材10は、従来品に比較し、耐久性に優れるという利点をも有する。
【0054】
さらに、積層体における接着剤層と表皮層が乾式法により形成されることで、湿式法で生じる布への樹脂含浸が無いために、得られた表皮材10は、湿式法で形成された表皮材よりも軽量となり、穿孔に必要な応力もより小さくなるという副次的な利点をも有する。
【0055】
従って、上記本発明の製造方法により製造された本発明の表皮材は、通気孔を有し、透湿性、及び通気性が高く、表皮材として十分な強度を有し、通気孔の外観に優れる。
本発明の表皮材の製造方法によれば、高質感で、透湿性及び通気性を有する表皮材を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
(1.積層体の形成)
離型材として、リリースペーパーARX196M(商品名、旭ロール(株)製)の表面に固形分15質量%にジメチルホルムアミド/メチルエチルケトン 1:1(質量比)の混合溶剤にて希釈したポリウレタン(DIC(株)、クリスボンNY−324:商品名)をナイフコーターにて、200g/mの量となるように塗工し、100℃の加熱乾燥炉にて2分間乾燥し、離型材表面に表皮層16を形成した。以下、ジメチルホルムアミドをDMFと称することがある。
ポリウレタン(TA205(商品名、DIC(株)製)に、DMFを5質量%加え希釈し、さらに、架橋剤(DIC(株)製、バーノックDN980)10質量%を加えて接着剤層形成用組成物を調製した。
前記離型材表面に形成した表皮層の離型材側とは反対の表面に、得られた接着剤層形成用組成物を150g/mの量で積層塗工し、表皮層16上に、接着剤層14を形成した。
【0058】
(2.基布の作製)
芯繊維22としてポリエステル繊維を用い、芯繊維22の周囲を合成樹脂である低融点ポリエステル(融点140℃)で形成された平均厚み3μmの合成樹脂被覆層を備えた、太さ75dの繊維を24ファイバー(24本)撚ってなる繊維20を用いて、編成密度:ウェール/コース:35/84〔本/インチ(=2.54cm)〕でデンビ編みし、布を作製した。
その後、アゾ染料を用いて布をグレー色に染色し、水洗、乾燥して着色された布を得た。得られた布を170℃で1分間加熱して、繊維20の少なくとも一部が隣接する繊維と融着した基布12を得た。
図3(A)は加熱前の布の断面を撮影した電子顕微鏡写真であり、図3(B)は、加熱後の基布の断面を同じ条件で撮影した電子顕微鏡写真である。図3(A)及び図3(B)に明らかなように、加熱処理により、基布の隣接する繊維20の一部が融着したことがわかる。
図4(A)は加熱前の布の表面を撮影した電子顕微鏡写真であり、図4(B)は、加熱後の基布の表面を同じ条件で撮影した電子顕微鏡写真である。図4(A)及び図4(B)に明らかなように、加熱処理により、基布において、隣接する繊維20の一部のみならず、基布を構成する糸も、糸同士の交点において互いに融着していることがわかる。
【0059】
(3.積層体の作製)
接着剤層形成用組成物層の形成後、上記で得られた基布と、接着剤層とを接触させ、圧力20MPaにてラミネートして加圧密着させた。その後、50℃雰囲気下で48時間放置し、接着剤層14を硬化した後、離型材を剥離して、基布12表面に、接着剤層14を介して表皮層16を備えた積層体を得た。
【0060】
(4.穿孔工程)
上記工程を経て得られた基布12、接着層14、及び表皮層16が積層された積層体(合成皮革)にパンチングロールにより孔を開けて通気孔18を有する表皮材10を得た。
表皮材10における通気孔18の径、間隔及び開孔率は以下の通りである。
孔径:1.4mm
ピッチ:5.0mm
開孔率:14%
【0061】
(比較例1)
実施例1において用いた基布に代えて、合成樹脂被覆層を有しないポリエステル繊維で編成したトリコットサテン編み地(組織:コース/ウェル=53/45)に変更したこと以外は実施例1と同様して、比較例1の表皮材を作製した。
【0062】
(表皮材の評価)
得られた実施例1、比較例1の表皮材に対し、通気性、通気孔の外観、基布面バフ後の通気孔の外観、引裂き強度、平面耐摩耗性、通気孔の歪みの各項目について以下の方法と基準により評価した。
(1.通気性)
表皮材の通気性を、JIS L1096 8.27.1 A法により測定し、以下に示す基準で、1点〜5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
5点:130cc/cm・s以上
4点:100cc/cm・s以上130cc/cm・s未満
3点:80cc/cm・s以上100cc/cm・s未満
2点:60cc/cm・s以上80cc/cm・s未満
1点:60cc/cm・s未満
【0063】
(2.通気孔の外観)
表皮材に形成された通気孔のうち10個について通気孔内のほつれ糸を目視で評価し、以下に示す基準で、1点〜5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
5点:目視にてほつれ糸が確認できない
4点:目視にて確認できるほつれ糸が1本〜2本
3点:目視にて確認できるほつれ糸が3本〜5本
2点:目視にて確認できるほつれ糸が6本〜9本
1点:目視にて確認できるほつれ糸が10本以上
【0064】
(3.基布面バフ後の通気孔の外観)
表皮材の基布の、表皮層が形成されていない裏面を、摩擦子として綿帆布を用い、摩擦子に荷重2.94Nを掛けて、5回擦るバフ加工を行ない、その後、通気孔のうち10個について、表皮層側から目視にて通気孔内のほつれ糸を評価し、以下に示す基準で、1点〜5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
5点:目視にてほつれ糸が確認できない
4点:目視にて確認できるほつれ糸が1本〜2本
3点:目視にて確認できるほつれ糸が3本〜5本
2点:目視にて確認できるほつれ糸が6本〜9本
1点:目視にて確認できるほつれ糸が10本以上
【0065】
また、表皮材をバフ加工した後の基布面について、マイクロスコープ写真で撮影し、状態を観察した。
図5(A)は、基布面バフ加工後の実施例1の表皮材の基布面を撮影したマイクロスコープ写真であり、図5(B)は、バフ後の比較例1の表皮材の基布面を撮影したマイクロスコープ写真である。図5(A)と図5(B)との対比により、本発明に係る基布を用いることで、表皮材裏面の基布面においても耐バフ加工性が向上し、本発明の表皮材は、裏面の基布側における耐久性にも優れることがわかる。
【0066】
(4.引き裂き強度)
表皮材の引き裂き強度を、JIS L1096 8.15.4 C法によって測定し、以下に示す基準で、1点〜5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
5点:引き裂き強度が100N以上
4点:引き裂き強度が80N以上100N未満
3点:引き裂き強度が60N以上80N未満
2点:引き裂き強度が40N以上60N未満
1点:引き裂き強度が60N未満
【0067】
(5.平面耐摩耗性)
得られた表皮材を切断し、幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片をタテ、ヨコ各方向からそれぞれ1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚み10mmの大きさのウレタンフォームを添えて、平面摩耗試験機T−TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定する。
綿布(綿帆布)をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて試験片の表面(表皮層を形成した側)を摩耗する。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで10000回往復摩耗する。摩擦子にかぶせた綿帆布は、摩耗回数2500回往復ごとに綿帆布を交換し、合計10000回往復摩耗する。摩耗後の試験片を観察し、下記の基準に従って判定した。
5点:外観に変化なし(亀裂、破れがない)
4点:わずかに摩耗が認められるが、目立たないもの
3点:摩耗が明らかに認められ、繊維質基材の露出があるもの(亀裂が認められる)
2点:繊維質基材の露出がやや著しいもの
1点:繊維質基材の露出が著しいもの(破れが認められる)
【0068】
(6.通気孔の歪み)
積層シートに形成された通気孔のうち10個について開口部の円の歪を目視によりにて観察し、以下に示す基準で、1点〜5点の5段階で評価した。結果を下記表1に示す。
5点:平面視にて円形の通気孔が観察された
4点:平面視により通気孔の円形の一方向に僅かな歪みが観察された
3点:平面視により通気孔の円形の複数の方向に僅かな歪みが観察された
2点:平面視により楕円形の通気孔が観察された
1点:平面視により歪みが著しい通気孔が観察された
【0069】
【表1】
【0070】
表1に明らかなように、実施例1の表皮材は、比較例1の表皮材と同等の通気性を有しており、比較例1の表皮材に対し、穿孔により形成された通気孔の外観に優れ、引き裂き強度、耐摩耗性が良好であることがわかる。このことから、本発明の表皮材は、通気孔を有し、良好な通気性を有しながらも、表皮材として十分な強度、及び耐摩耗性を有し、通気孔の外観に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
10 表皮材
12 基布
14 接着剤層
16 表皮層
18 通気孔
20 繊維
22 芯繊維
24 合成樹脂被覆層
図1
図2
図3
図4
図5