【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、光干渉現象を利用したホモダイン位相ダイバーシティ検出技術(特許第4564948号公報)が、光断層観察においても有用な技術であることを見出した。
【0017】
更に、本発明者は、このホモダイン・位相ダイバーシティ検出を用いた光断層観察(本明細書では、以下HOCTと云う)は、従来のOCTのみならず、同じように観察物の3次元観察可能な共焦点顕微鏡と比較しても、所定の条件を満たすことにより、3次元の高倍率観察において光軸方向、すなわち垂直分解能に対して優位性があることを発見した。
【0018】
更に3次元観察の高速化を目的とした面検出によるHOCT(フルフィールドHOCT)についても、光検出器上での工夫にて高垂直分解能が実現できる構成を見出したので、続けて説明を行う。
【0019】
以下、
図4から
図6に示す簡単なモデルにて、本発明のHOCT、従来のOCT、共焦点顕微鏡について検討する。
【0020】
図4は、従来のOCT装置の構成を示した模式図である。低コヒーレンス光源4101から出射した光束はコリメートレンズ4102にて平行光となり、ビームスプリッタ(BS)にて信号光と参照光に分けられる。信号光は試料に照射され、もう一方の参照光は別の光路中に置かれたミラー4103で反射され、最終的に光検出器4104上にて光干渉する構成となっている。
【0021】
図5は、本発明のHOCT装置の構成例を示した模式図である。光源4201から出射した光束をコリメートレンズ4202にて平行光とし、ビームスプリッタで信号光と参照光に分け、信号光は対物レンズ4205で収束して試料に照射し、参照光は別の光路中に置かれたミラー4203に入射させる。信号光・参照光を最終的に検出部4204で光干渉させる構成は従来のOCTと同様である。しかし、用いる光源4201が高コヒーレンス光源でも問題ない点、また検出部4204がホモダイン・位相ダイバーシティ検出と呼ばれる偏光干渉光学系と光検出器によって構成されている点が大きく異なっている。なお、光路分岐に偏光ビームスプリッタ(PBS)や、一部に1/4波長板(QWP)が置かれているのは、検出部の偏光干渉光学系に合わせたためであり、従来のOCT装置でも同様の部品を用いた光学系が存在する。
【0022】
図6は、一般的な共焦点顕微鏡装置の構成を示した模式図である。光源4301から出射した光束をコリメートレンズ4302によって平行光とし、対物レンズ4305によって試料に収束させる。試料からの戻り光は対物レンズ4305及び検出レンズ4306を介して光検出器4304で検出される。ここでは比較しやすいように平行光を用いた光学系(無限系)を示したが、収束・発散光を用いた光学系(有限系)でも同様の共焦点光学系を構成することは可能である。
図5の構成と大きく異なる点は、光検出器4304の検出面にピンホール4307と呼ばれる遮光体が配置されており、ピンホール4307によって観察試料の焦点面以外からの反射、散乱光が光検出器4304に入らないようになっている点である。
【0023】
これら3つのモデル光学系を用いて、各方式での垂直分解能を見積もった結果を以下に示す。信号光は対物光学素子(集光レンズ)で測定対象に集光され、測定対象は焦点近傍で平らな反射面を持つ場合を考える。なお、実際の観察物は焦点深さ方向に複数の反射面を持つ集合体と考えれば良い。ここでは、ひとつの反射面からの影響を考え、対物光学素子の光軸方向の位置(焦点位置からずれ)をzとする。
【0024】
(A)HOCTにおける垂直分解能
HOCTで得られる信号I
HOCTは、次式(A−1)の通りである。
【0025】
[A−1]
ここでr=(x,y)は光束断面の座標ベクトル、Dは検出領域を表し、∫
Ddrは光束内全域での積分演算を意味する。また、添え字のs,rは信号光(
signal)、参照光(
reference)を表わす。φ
sは信号光波面、φ
rは参照光波面を表す。参照光はミラーで反射するだけであるので波面は理想状態(無収差)とみなすことができ、φ
r=0とする。また、簡略化のために、光束内での信号光と参照光の強度(電場振幅)分布は平らであると仮定する。このとき、式(A−1)は次式(A−2)に簡略化される。
【0026】
[A−2]
測定対象の反射面が対物レンズの焦点位置からずれると、信号光波面φ
sはデフォーカス収差を持つ。絶対値の小さい3次以上の高次成分を無視して、信号光波面φ
sは往復でデフォーカスの影響を受けるため、次式(A−3)で記述できる。
【0027】
[A−3]
ここで、式(A−2)のcos,sinの積分項を整理すると、sinc(x)=sin(x)/xを用いることで、次式(A−4),(A−5)が得られる。
【0028】
[A−4]
[A−5]
上式(A−2),(A−4),(A−5)と、位相ダイバーシティ検出を示す式(I
HOCT=√(I
2+Q
2))を用いて、HOCTで得られる信号I
HOCTは式(A−6)で表わすことができる。
【0029】
[A−6]
ここで、垂直分解能を半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)で定義すると、HOCTにおける垂直方向のFWHMは次式(A−7)で表わすことができる。
【0030】
[A−7]
すなわち、HOCTにおける垂直分解能は、信号光の参照光による増幅度具合(波面の一致度)、言い換えると焦点深度と似た関係があることが分かる。従って、HOCTは対物光学素子のNA、すなわちレンズ倍率を大きくすればするほど、物体面の平面分解能のみならず、垂直分解能も同時に向上することができるため、観察物の高分解能3次元観察に好適な技術である。
【0031】
(B)従来のOCTにおける垂直分解能
SLD(スーパールミネッセントダイオード)を含む低干渉光のスペクトルは、次式(B−1)に示すガウス型パワースペクトル密度を取ると仮定する。
【0032】
[B−1]
ここで、νは光の周波数(ν=c/λ)、ν
0、Δνは入射光の中心周波数及びスペクトル幅である。cは光速、λは光の波長を示す。式(B−1)で表わされる光の干渉を考えると、OCT検出部において受光される強度I
dは、次式(B−2)で表わされる。
【0033】
[B−2]
ここで、I
r,I
sはそれぞれ参照光路及び計測光路からの反射光強度であり、E
r,E
sはそれぞれ反射光複素振幅である。ダッシュ(’)は計測サンプルによって変化を受けたことを表す。≦≧は時間平均を示す。干渉光成分≦E
r*(t+τ)E
s’(t)≧は相互コヒーレンス関数として定義され、複素数同士の内積を時間平均で表わした形となる。
【0034】
計測サンプルとして理想的なミラー(反射率=1)を想定し、式(B−1)で表されるガウススペクトル光源からの光を干渉させた際の干渉光成分|G(ν)|を求める。干渉光成分|G(ν)|は、先の単一波長光源による干渉の計算を拡張することで求めることができる。すなわち、スペクトル及び強度が異なる光が無数に重ね合わされたものとして次式(B−3)で表わされる。
【0035】
[B−3]
以下、式(B−3)に式(B−1)を代入して解を求めていく。
【0036】
[B−3’]
ここで、以下の式(B−4−1),(B−4−2)の関係を利用し、式(B−3’)を簡略化していく。
【0037】
[B−4−1]
[B−4−2]
式(B−3’)は、最終的に次式(B−5)に簡略化される。
【0038】
[B−5]
τは光が干渉する際の時間差であり、τ=(L
s−L
r)/cである。L
sをL
rを基準として、L
s=L
r−VT(Vは参照ミラー移動速度、Tは時間)として表せば、次式(B−6)で示すような速度に依存したものとなる。
【0039】
[B−6]
式(B−5)は、ガウス型のスペクトル分布をもつ光源は紡錘型の干渉波形(インターフェログラム)をもち、その強度は速度に依存して指数関数的な減衰をすることを示している。ガウス型のパワースペクトル分布は低コヒーレンス光源に関わらず、LED、レーザ等にもあてはまる。つまり、理想的な単一波長光源でない限り速度に依存して干渉光強度が減衰することになる。
【0040】
インターフェログラムは光源の可干渉性を示すものであり、その干渉する距離(可干渉距離)は光源のスペクトル幅に依存する。光源のスペクトル幅は理想的な単一波長光源から出射した光がその一定の周波数を維持する時間Δtに直接依存した量として解釈でき、次式(B−7)の関係を満足する。
【0041】
[B−7]
この可干渉距離をコヒーレンス長l
cとして表す。OCTにおいて干渉光の可視度(Visibility)は、次式(B−8)の様に表わされる。
【0042】
[B−8]
ここでは、コヒーレンス長l
cは、干渉光の可視度(Visibility)が√1/2となる時の光路差ΔL(=L
r−L
s)で定義した。つまり、干渉光の項を表した式(B−5)において、|G(τ)|=1/2となる時の光路差となる。このとき、(ν=c/λ)の関係を用いて、光源波長(中心波長λ
0及び波長半値半幅Δλ)に対するコヒーレンス長は、次式(B−9)で表わすことができる。
【0043】
[B−9]
垂直分解能とコヒーレンス長の関係はほぼ一致しているため、FWHMは次式にて表わすことができる。
【0044】
[B−10]
すなわち、従来のOCTでは、波長半値半幅Δλの大きな光源を用いることで、高い垂直分解能が実現できることが分かる。なお、検出信号の信号処理によって検出可能な干渉光の可視度(Visibility)は異なる。上式(B−10)では、可視度を√1/2と仮定したが、現行製品を想定すると、可視度は√1/e
2〜√1/2の範囲が望ましい。このとき式(B−10)の右辺の定数0.441に相当する定数をk
1とすると、定数k
1は0.441≦k
1≦0.750となる。
図7に、上記k
1の範囲における光源波長半値半幅と垂直分解能の関係を示す。
図7からも、従来OCT装置の波長半値半幅と分解能の関係が上式(B−10)と良く一致することが分かる。
【0045】
(C)共焦点顕微鏡における垂直分解能
共焦点顕微鏡で得られる信号I
CONは、直接強度検出となるため、検出器に入射する光強度の積分として次式(C−1)にて表わすことができる。
【0046】
[C−1]
物体面上(=試料集光面)でのスポット半径r
s,objを幾何学的に考えると次式(C−2)になる。
【0047】
[C−2]
さらに、復路光学系の倍率(対物光学素子[対物レンズ]と検出系対物光学素子[検出系集光レンズ]の焦点距離の比)をMとすると、物体面と結像面の関係から、次式(C−3)のようにスポット径r
s,detは結像面上、すなわち光検出器上ではM倍の大きさとなる。
【0048】
[C−3]
ここで簡略化のために検出器上での光の強度分布は一定であると仮定すると、結像面すなわち光検出器上での“実効的な面積S”の光検出器に入射して検出される信号I
CONは、次式(C−4)となる。ここでの“実効的な面積S”とは、一般的な共焦点顕微鏡で用いられるような光検出器面上に配置されたピンホール等の遮光素子等の影響を含めた上での面積である。つまり、光検出器のサイズを小さくすればSは小さくなるし、一方で光検出器サイズを変えず光検出器上に小さなピンホールを配置してもSは小さくなる。
【0049】
[C−4]
式(C−4)から分かるように、共焦点顕微鏡での信号強度は検出される光量が光検出器に入るか否かで決まることになる。共焦点顕微鏡におけるFWHMは次式(C−5)で表わすことができる。
【0050】
[C−5]
共焦点顕微鏡では、分解能は横倍率で規格化した光検出器の実効的な面積S/M
2とNAに依存する(光検出器の実効的な面積Sが小さいほど、またNAが大きいほど分解能が上がる)ことになり、また波長λには依存しないことが分かる。
【0051】
(D)HOCTによる高分解能化が実現される条件
以上の検討により、HOCTは下式(D−1),(D−2)を満たす場合に高い垂直分解能が得られることが分かる。
【0052】
[D−1]
[D−2]
式(D−1)で用いた0.441という定数は、式(B−9)で用いたように干渉光の可視度(Visibility)が√1/2となる時の光路差で与えられるものであり、可視度の閾値を何%まで許容するかで定数が変化するため、ここで定数k
1(0.441≦k
1≦0.750)を用いて再記述すると、下式(D−3),(D−4)を導くことができる。
【0053】
[D−3]
[D−4]
すなわち、上式(D−3)は、HOCTの対物光学素子の開口数NA(対物レンズの倍率)を高くすることにより、従来OCTで得られている光源の干渉性を示す“λ/Δλ”の効果よりも優れた垂直分解能が得られることを示している。
【0054】
また、上式(D−4)は、波面の立ち具合(λ/(NA√1−NA
2))を選ぶことで、共焦点顕微鏡で得られている横倍率にて規格化した実効的な検出器サイズ“√S/M
2”の効果よりも優れた垂直分解能が得られることを示している。これらの条件については、以下発明の具体的構成にて詳しく述べる。
【0055】
なお、一例として次式(D−5)で示される範囲を選択すると、上式(D−3),(D−4)を満たすことができる。
【0056】
[D−5]
400≦λ≦850(nm)
0≦Δλ≦25(nm)
0.25≦NA≦0.9
4≦S≦100(μm
2)
2≦M≦10
(ただし、2≦√(S/M
2)≦10(μm))
(E)フルフィールド化HOCTの構成
高速測定を実現できるOCTとしてフルフィールドOCTが知られている。従来のOCTでは平面画像取得を行う際にレーザ光を試料面上で走査していたのに対し、フルフィールドOCTではOCT同様参照光を用いた上で、信号光としては一般的な光学顕微鏡同様に照明光を用いて試料が置かれた観察面視野の全面を面検出器に再投影し、面検出器上で信号光と参照光を干渉させることで面内の信号を一括取得する。一般的なOCTにて平面画像の取得に必要な時間は、測定で用いるレーザを走査する時間、すなわち取得画像の解像度に比例した時間であった。一方、フルフィールドOCTでは適切な光学系を準備することで、取得画像の解像度は使用する面検出器のみで決めることができ、特に高解像度検出器を使用した際でも測定時間の短縮化、すなわちOCT装置の高速化が可能となる。
【0057】
これらフルフィールドOCTとしては、検出器にCCDカメラを使用し面光源を観察試料にあてながらOCT信号を取得することで500μm視野のxy平面画像の一括取得を行った研究報告がある(Optics Letters, Vol.23, Issue 4 (1998), pp.244-246)。また、2台のカメラを用いることで、断層画像取得に要する時間を高速化したxy平面OCT画像の一括取得を行った研究報告がある(Optics Letters, Vol.28, No.10 (2003), pp.816-818)。このとき、構成部品として従来のOCT装置と大きく異なる点は、検出器サイズである。
【0058】
フルフィールド化HOCTを実現する場合でも、HOCTによる高い垂直分解能を得るために必要な条件は上式(D−3),(D−4)と同様である。ただし、検出器として、ひとつの光検出器(PD)でなく平面一括取得のために複数の検出回路が2次元配置された光検出器が必要である。代表的な光検出器としては、CCD(電荷結合素子)イメージセンサやCMOS(相補型金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)イメージセンサ等の撮像素子が良く知られている。これら光検出器を構成するひとつの検出回路の大きさは、数μm〜数十μmであり、一般的なPD(フォトダイオード)の数百μmと比較すると非常に小さくなる。
【0059】
HOCTでは複数のPDを用いて位相の異なる干渉信号を検出することが可能であるが、フルフィールドHOCTを複数のCCDあるいはCMOS等を用いて実現する方法は、複数光検出器の位置調整が困難なだけでなく、信号取得時の複数光検出器からの信号同期等を含めて、数多くの課題が存在する。そこで、本発明者は、光検出器の検出回路の大きさが小さくなることに注目し、ひとつの光検出器にて位相ダイバーシティ検出を高分解能が維持された状態で実現する構成を見出した。
【0060】
光検出器を構成する検出回路直近に、それぞれの検出回路に対し、位相の異なる光だけを通過させる素子、すなわち偏光子を配置する。配置された偏光子は、隣接検出回路(画素)毎に異なる方位を向いており、位相ダイバーシティ検出に必要な信号を2×2画素から取得できるような領域分割偏光子を光検出器上に設ける。この方式では、解像度が見かけ上半分(縦横半分)となるが、2×2画素サイズが横倍率を加味した上での光スポットに比べ小さければ、得られる像は高倍率画像に比べ大きく劣化することはない。
【0061】
上記条件を次式(E−1)で表わす。
【0062】
[E−1]
上式(E−1)の左辺は、レイリーの判定基準より算出したスポットサイズに横倍率を掛けたものであり、右辺は2×2画素に相当する検出器サイズである。
【0063】
上式(E−1)と式(D−4)に注目し、規格化横倍率(√(S/M
2))を消去して関係式を整理すると、フルフィールドHOCTを実現する際に好適なNAの条件を求めることができる。
【0064】
[E−2]
NAの下限は式(D−1)でも規定されており、可視域から近赤外域の波長帯で考えるとNAは0.3以上が望ましいので、次式(E−3)が得られる。このNAの下限についての詳細は実施例にて詳しく述べる。
【0065】
[E−3]
上式(D−3),(D−4)に加え、式(E−3)を満たす構成のフルフィールドHOCTは、共焦点顕微鏡と比べても高い垂直分解能も実現できる。
【0066】
(F)発明の具体的な構成
本発明では、上記第1の目的を達成するために以下の手段を用いた。
【0067】
光源から出射した光束を第1と第2の光束とに分割し、第1の光束を対物光学素子によって試料に集光して照射し、試料から反射された信号光を複数の検出器に導き、第2の光束を試料に照射せずに参照光として複数の検出器に導き、複数の検出器上で信号光と参照光を両者の光学的な位相関係が互いに異なる状態で光学的に干渉させる。その後、複数の検出器からの出力を入力とする演算を行い、演算の結果を第1の光束の集光点での試料内構造を反映した検出信号として取得する。更に、試料に第1の光束を集光する位置を変えながら検出信号を取得することにより、試料の断層観察が可能となる。こうした光断層観察装置において、光源ユニットの波長をλ、波長半値半幅をΔλ、対物光学素子の開口数をNA,検出器の実効面積をS、集光面に対する検出面の検出倍率をMとするとき、式(D−3),(D−4)の関係式を満たすことで、高い垂直分解能を有する光断層観察装置を提供できる。
【0068】
更に、具体的な構成として、各構成パラメータは式(D−5)を満たすようにした。この条件を満たすHOCTは、従来のOCTや共焦点顕微鏡に比べても高い垂直分解能を有している。
【0069】
更に、演算の調整を行うことで、光学系が不完全又は不安定な状況においても、干渉状態によらない検出信号を得ることができる。具体的には、干渉信号を取得する検出器が4個の場合、参照光と信号光の間の位相関係は、第1の検出器上と第2の検出器上では互いに180度異なり、第3の検出器上と第4の検出器上では互いに180度異なり、第1の検出器上と第3の検出器上では90度異なるようにする。これにより、360度の位相関係のうち、90度ずつずれた4つの位相状態を同時に検出することができる。検出信号は光の位相状態の360度の変化に応じて正弦波状に変化するため、90度ずつ位相状態のずれた4つの信号を観測することで、任意の位相状態での信号状態を演算によって再現することが可能になる。すなわち任意の位相状態での安定した検出が実現される。前記の演算として、第1の検出器と第2の検出器の差動信号と、第3の検出器と第4の検出器の差動信号との2乗和とした。このとき、4つの干渉信号を取得する光学系などが理想的な状態からずれている場合にも、位相ダイバーシティ検出と呼ばれる上記演算により干渉位相に依存しない一定の出力信号を得ることができる。
【0070】
更に、光源には、波長半値半幅が0≦Δλ≦25(nm)である気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、SLDの点光源を用いることができる。従来のOCTとは異なり、高コヒーレント光源、すなわち単一波長光源である半導体レーザを使用することができるだけでなく、フーリエドメインOCTで必要となる波長掃引装置、あるいは分光器も不要となるため、安価で小型な光断層観察装置の提供が可能となった。
【0071】
第2の目的を達成するために、一例として光断層観察装置を、光源ユニット、光ヘッドユニット、光検出ユニット、制御部、信号処理部を有する構成とし、以下の手段を用いることができる。光源ユニットはレーザ光束を出射する。光ヘッドユニットは、光源ユニットからの光束を第1の光束と第2の光束に分岐する第1の光学素子と、第1の光束を試料に集光し、反射光を受光する対物光学素子と、第2の光束の光路中に設けられた参照光束反射手段とを有する。光検出ユニットは、複数の検出素子の集合体からなる光検出器と、信号光と参照光とを光検出器面上において、複数の検出素子に互いに異なる位相関係で干渉させる干渉光検出光学系を有している。こうした光断層観察装置において、光源ユニットの波長をλ、波長半値半幅をΔλ、対物光学素子の開口数をNA,検出器の実効面積をS、集光面に対する検出面の検出倍率をMとするとき、式(D−3),(D−4),(E−3)の関係式を満たすことで、平面画像を一括取得可能な高い垂直分解能を有する光断層観察装置を提供できる。
【0072】
更に、光検出器は、少なくとも4つの光電変換により光量検出可能な回路が2次元配置された光検出部と、光検出部上、もしくは手前に位相変調板が設けられており、少なくとも4つの光電変換により光量検出可能な2次元の回路は、隣接する2×2の回路毎に組み合わされている。この位相変調板は、2×2の回路の各回路に対し、信号光と参照光の干渉位相が互いに略90度の整数倍だけ異なり、信号光と参照光の干渉位相が互いに略180度異なる干渉光の対が隣接する2×2の検出回路毎に入射するよう、入射光の位相を変調する機能を有しており、光検出部を構成する回路を(M×N)個とし、各回路にて取得される信号をD
(x,y)とすると、光検出器は後述する式(9)を満たすことで位相ダイバーシティ検出に必要な検出系をひとつの検出部で実現できる。これは複数検出器の煩雑な調整を不要とし、装置の小型化も同時に実現可能とする。更に、同検出器では同時に4つの位相情報を取得できるため、2×2の回路ペア毎に後述する式(10)のように位相がほぼ180度ずつ異なる干渉光の対を電流差動型の検出器で差動検出することで、位相ダイバーシティ演算の高速化が可能となる。
【0073】
制御部は、光ヘッド及び対物レンズの位置と、半導体レーザの発光状態を制御する。信号処理部は位相ダイバーシティ信号処理を行い、検査対象の断層分布結果を表示部に表示する。これにより、2次元光検出器で、参照光と試料に当たって反射してきた信号光を合成し、干渉効果により増幅して検出することができるため、微小な反射信号を高S/Nで一括検出することができる。すなわち、HOCTの高速光断層観察が可能になる。
【0074】
本発明の光断層観察装置に好適な光源ユニットは、波長半値半幅が0≦Δλ≦25(nm)である気体レーザ、固体レーザ、半導体レーザ、SLDの点光源を用いることができるだけでなく、波長半値半幅が0≦Δλ≦25(nm)となる発光ダイオード、面発光半導体レーザ、エレクトロルミネセンス素子等の面光源を用いることもできる。
【0075】
フルフィールドHOCTでは、集光点にて面照明が必要となるため、点光源・面光源それぞれにおいて光源拡大ユニットを用いて対応する。点光源向けには、光導波路とコリメートレンズにて構成された光源拡大ユニットを使用することができる。この構成によりコリメートレンズと対物レンズの横倍率に応じて光導波路出射端面での光スポットを観察試料の集光面上に拡大投影することができる。一方で、面光源向けには、複数レンズにて構成されるビームエクスパンダにて、集光点付近にて光源出射端面での光スポットを観察試料の集光面上に拡大投影することができる。いずれの方法でも、均一な強度分布の信号光を観察試料に照射可能となる。