特許第6018712号(P6018712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018712
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】不飽和脂肪酸の吸収促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20060101AFI20161020BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   A61K47/44
   A61K9/48
   A61K31/202
   A61K47/12
   A61P9/00
   A61P25/28
   A61P37/02
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-538190(P2015-538190)
(86)(22)【出願日】2015年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2015059907
(87)【国際公開番号】WO2015163091
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2015年8月3日
【審判番号】不服2016-9835(P2016-9835/J1)
【審判請求日】2016年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-91281(P2014-91281)
(32)【優先日】2014年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 睦行
(72)【発明者】
【氏名】佐道 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中塚 裕美
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴行
【合議体】
【審判長】 蔵野 雅昭
【審判官】 前田 佳与子
【審判官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112784(JP,A)
【文献】 特開2007−314439(JP,A)
【文献】 特表2010−501632(JP,A)
【文献】 特開平9−238615(JP,A)
【文献】 特開2003−180295(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/81833(WO,A1)
【文献】 特開昭52−110818(JP,A)
【文献】 特開平9−234019(JP,A)
【文献】 J Am Oil Chem Soc.,2001年,78(5),477−84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31,9,47
A61P9,25,37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックスを有効成分として含有する、不飽和脂肪酸の吸収促進剤であって、
前記ワックスが、蜜蝋、ウルシロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラックロウ、ホホバロウ、モクロウ及びラノリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記不飽和脂肪酸が、分子中に不飽和結合を1〜7個含み、かつ/又は炭素数が16〜24である、吸収促進剤(ただし、卵黄レシチンを含有するものを除く。)。
【請求項2】
前記ワックスが蜜蝋である、請求項1に記載の吸収促進剤。
【請求項3】
前記不飽和脂肪酸がn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の吸収促進剤。
【請求項4】
前記不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の吸収促進剤。
【請求項5】
カプセル皮膜と、前記カプセル皮膜の内部に封入されたワックス及び不飽和脂肪酸を含む組成物とを備え、
前記ワックスが、蜜蝋、ウルシロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラックロウ、ホホバロウ、モクロウ及びラノリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記不飽和脂肪酸が、分子中に不飽和結合を1〜7個含み、かつ/又は炭素数が16〜24である、不飽和脂肪酸の吸収促進用カプセル剤(ただし、卵黄レシチンを含有するカプセル剤を除く。)。
【請求項6】
ワックスを含むカプセル皮膜と、前記カプセル皮膜の内部に封入された不飽和脂肪酸を含む組成物とを備え、
前記ワックスが、蜜蝋、ウルシロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラックロウ、ホホバロウ、モクロウ及びラノリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記不飽和脂肪酸が、分子中に不飽和結合を1〜7個含み、かつ/又は炭素数が16〜24である、不飽和脂肪酸の吸収促進用カプセル剤(ただし、卵黄レシチンを含有するカプセル剤を除く。)。
【請求項7】
前記ワックスが蜜蝋である、請求項5又は6に記載のカプセル剤。
【請求項8】
前記不飽和脂肪酸がn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【請求項9】
前記不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5〜8のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和脂肪酸の吸収促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蜜蝋は、ミツバチの蝋分泌腺から分泌された蝋を構成材料とするミツバチの巣を原料として精製したものである(非特許文献1)。蜜蝋は、化粧品、ろうそく等の用途に使用されている。また、サラシミツロウとして医療、医薬用途にも用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
魚油に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、α−リノレン酸等のn−3系多価不飽和脂肪酸は、心血管疾患、血液流動性改善効果、抗アレルギー効果、認知症の予防効果等の様々な生理機能を有することが報告されている。また、アラキドン酸等のn−6系多価不飽和脂肪酸は、乳幼児の脳及び体の発達に不可欠であり、また、免疫機能の調整、学習力及び記憶力の増強等の効果を有することが報告されている。これらの不飽和脂肪酸は、体内でほとんど生合成できないため、体外から摂取する必要がある。厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)では、成人で一日に約2gのn−3系脂肪酸の摂取が必要とされ、EPA及びDHAについては一日に約1gの摂取が必要とされている。近年では、EPA、DHA等のn−3系多価不飽和脂肪酸を含むサプリメントが多く販売されている。
【0004】
しかしながら、EPA、DHA等のn−3系多価不飽和脂肪酸は、体内への吸収率が低いという問題がある。これらの不飽和脂肪酸の吸収率を高めるための検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献2には、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸又はこれらの混合物を含有する食用油を含む栄養補助食品において、レシチンを用いることにより、食用油の体内吸収性を向上させることが開示されている。特許文献3には、DHA及び、ホスファチジルコリンとリゾホスファチジルコリンの比率が90:10〜10:90である混合物を含有する組成物を投与することを特徴とする血中DHA濃度を高める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−131514号公報
【特許文献2】特開昭59−82070号公報
【特許文献3】特開2009−249354号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「養蜂の科学」佐々木正己著、サイエンスハウス 1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでの一般的な吸収促進剤は、天然由来の原料を使用したいという消費者のニーズに合致しないものが多い。また、特許文献2において用いられているレシチンは、経口摂取の副作用として、下痢、吐き気、腹痛、肥満等が起きうることが言われている(独立行政法人国立健康・栄養研究所ホームページ http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail53.html)。特許文献3で用いられているホスファチジルコリンは、その製造コストが高いことが問題である。このように、不飽和脂肪酸の吸収を促進することができる成分の選択肢は今まで限られており、その他に利用できる代替品が求められていた。
【0009】
本発明は、不飽和脂肪酸の吸収率を高めることができる吸収促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ワックスを有効成分として含有する不飽和脂肪酸の吸収促進剤を提供する。
【0011】
本発明は、ワックスに不飽和脂肪酸の吸収を促進する効果があることを本発明者らが初めて見出したことによりなされたものである。本発明の吸収促進剤は、ワックスを用いることにより、不飽和脂肪酸の体内への吸収を促進することができる。
【0012】
上記ワックスは、蜜蝋であることが好ましい。蜜蝋は天然由来成分であって、かつホスファチジルコリン等に比べて安全性が高く安価に入手可能であるため、蜜蝋を用いることにより、近年の天然志向の消費者のニーズに合致し得る、より多くの消費者に受け入れられやすい吸収促進剤を提供することができる。
【0013】
上記吸収促進剤において、上記不飽和脂肪酸がn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。上記吸収促進剤をn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上の吸収促進剤として用いることによって更に高い吸収促進効果を得ることができる。また、上記不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。上記吸収促進剤をエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の吸収促進剤として用いると、特に高い吸収促進効果を得ることができる。
【0014】
本発明はまた、カプセル皮膜と、上記カプセル皮膜の内部に封入されたワックス及び不飽和脂肪酸を含む組成物とを備える、カプセル剤を提供する。カプセル剤は、ワックスを含むカプセル皮膜と、上記カプセル皮膜の内部に封入された不飽和脂肪酸を含む組成物とを備えるものであってもよい。本発明のカプセル剤は、ワックス及び不飽和脂肪酸を組み合わせて摂取することができるものであるため、不飽和脂肪酸の体内への吸収を効率的に促進することができる。
【0015】
上記カプセル剤において、上記不飽和脂肪酸がn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。上記カプセル剤は、不飽和脂肪酸としてn−3系多価不飽和脂肪酸及びn−6系多価不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上を用いることによって、より吸収を効率的に促進することができる。また、上記不飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。これにより、特に高い吸収促進効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の吸収促進剤を用いることにより、不飽和脂肪酸の吸収を促進することができる。また、本発明のカプセル化剤によれば、不飽和脂肪酸を高い効率で吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)はEPA、(b)はDHAの血漿中濃度の経時的変化を示すグラフである。
図2】(a)はDPA、(b)はパルミトレイン酸の血漿中濃度の経時的変化を示すグラフである。
図3】(a)はα−リノレン酸、(b)はオレイン酸の血漿中濃度の経時的変化を示すグラフである。
図4】アラキドン酸の血漿中濃度の経時的変化を示すグラフである。
図5】(a)はEPA、(b)はDHAのリンパ液中濃度の経時的変化を示すグラフである。
図6】EPA及びDHAの血漿中濃度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の不飽和脂肪酸の吸収促進剤は、ワックスを有効成分として含有する。
【0020】
ワックスとしては、摂取可能なものであれば制限なく使用することができる。ワックスは、天然由来のワックスであることが好ましい。ワックスとしては、例えば、公益財団法人日本食品化学研究振興財団作成の「既存添加物名簿収載品目リスト」に掲載されたワックス類を用いることができる。具体例としては、蜜蝋、ウルシロウ、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、サトウキビロウ、シェラックロウ、ホホバロウ、モクロウ、ラノリン等が挙げられる。ワックスは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのワックスの中でも、特に不飽和脂肪酸の吸収を促進する効果が高いことから、蜜蝋が好ましい。
【0021】
蜜蝋とは、ミツバチの蝋分泌腺から分泌される蝋を主な構成材料とするミツバチ(働き蜂)の巣を原料として精製したものである。蜜蝋の主成分はミツバチの蝋分泌腺から分泌される蝋であるが、巣に付着した花粉、プロポリス等の一部も含まれる。精製方法としては、公知の方法を制限なく用いることができ、例えば、太陽熱を利用した陽熱法、加熱圧搾法等がある。
【0022】
蜜蝋の原料となるミツバチの巣は、特に制限がなく、例えばヨーロッパミツバチ(Apis mellifera Linne)、アフリカミツバチ(Apis mellifera scutellata及びApis mellifera adansonii)トウヨウミツバチ(Apis cerana Fabricius(Apidae))、オオミツバチ(Apis dorsata)、コミツバチ(Apis florea)等の巣であってよい。中でも、不飽和脂肪酸の吸収促進効果がより高く、入手がしやすいことから、ヨーロッパミツバチ又はアフリカミツバチの巣が好ましい。蜜蝋の融点は、例えば60〜67℃であり、62〜65℃であってもよい。
【0023】
蜜蝋は、例えば、第十六改正日本薬局方に定義されるミツロウ(Yellow Beeswax、黄蝋)、サラシミツロウ(White Beeswax、白蝋)であってもよい。サラシミツロウはミツロウを漂白したものである。特に製造が容易という理由からミツロウが好ましく用いられる。
【0024】
本実施形態に係る吸収促進剤は、有効成分であるワックスのみからなるものであってもよく、ワックスの吸収促進効果を妨げられない限り、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)などが挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る吸収促進剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液、電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、ワックスとその他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0026】
本実施形態に係る吸収促進剤に含まれるワックスの割合は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されないが、最終形態等に応じて適宜調整することができ、例えば総量で0.01〜100質量%の範囲から適宜選択することができる。特に、0.5〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
不飽和脂肪酸は、分子中に炭素−炭素二重結合(不飽和結合)を持つ脂肪酸をいう。不飽和脂肪酸は、分子中に1つの不飽和結合を含んでいてもよく、複数の不飽和結合を含む高度不飽和脂肪酸であってもよい。高度不飽和脂肪酸としては、例えば分子中に不飽和結合を2〜7個含むものが挙げられ、分子中に不飽和結合を5〜7個含むものが好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は、例えば10以上であり、16〜24であってよい。不飽和脂肪酸は、分子中に含む全ての二重結合がシス型であることが好ましい。不飽和脂肪酸は、食品用又は医療用途に許容されるアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他の金属、アンモニウム等との塩、又はアミドであってもよく、メチルエステル、エチルエステル等の低級アルコールエステル、又はその他の誘導体であってもよい。
【0028】
高度不飽和脂肪酸としては、例えばn−3系多価不飽和脂肪酸、n−6系多価不飽和脂肪酸が挙げられ、n−3系多価不飽和脂肪酸であることがより好ましい。n−3系脂肪酸とは、ω−3位に炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸をいう。本実施形態に係る吸収促進剤をn−3系多価不飽和脂肪酸の吸収を促進するために用いると、更に効率よく吸収を促進することができる。n−3系多価不飽和脂肪酸としては、例えば、EPA、DHA、ドコサペンタエン酸(DPA)、α−リノレン酸(ALA)等が挙げられる。n−6系多価不飽和脂肪酸としては、アラキドン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸等が挙げられる。
【0029】
その他の不飽和脂肪酸としては、例えば、共役リノール酸(CLA)、α−又はβ−エレオステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸等が挙げられる。本実施形態に係る吸収促進剤は、2種類以上の不飽和脂肪酸の混合物の吸収を促進するために用いてもよい。不飽和脂肪酸は、EPA、DHA、DPA、パルミトレイン酸、ALA、オレイン酸及びアラキドン酸からなる群から選ばれる1つ以上であることが好ましく、EPA、DHA、DPA及びパルミトレイン酸からなる群から選ばれる1つ以上であることがより好ましく、EPA及びDHAの少なくとも一方であることが特に好ましい。
【0030】
EPAは、(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)−イコサ−5,8,11,14,17−ペンタエン酸で表される、5つのシス型不飽和結合を持つ不飽和脂肪酸である。DHAは、分子内に6個の二重結合を有する脂肪酸又はこれを構成成分とする化合物の総称であり、その誘導体の形態として利用してもよい。例えば(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)−ドコサ−4,7,10,13,16,19−ヘキサエン酸を用いることができる。DPAは、n−3系である4Z,7Z,10Z,13Z,16Z−ドコサペンタエン酸、又はn−6系である7Z,10Z,13Z,16Z,19Z−ドコサペンタエン酸を用いることができる。α−リノレン酸は、all−cis−9,12,15−オクタデカトリエン酸である。
【0031】
上記不飽和脂肪酸は、例えば、脂肪酸塩、グリセリン又はエタノールとのエステル、リン脂質の構成成分等であってもよい。上記不飽和脂肪酸は高純度品であってもよく、これを含有する組成物であってもよい。組成物は、魚油、微細藻類の抽出油等の天然に得られる組成物であってもよい。天然由来の魚油、微細藻類の抽出油には、EPA、DHA等の不飽和脂肪酸がトリグリセリドとして高い含有量で含まれているため好ましい。上記不飽和脂肪酸は特に魚油由来であることが好ましい。
【0032】
本実施形態に係る吸収促進剤は、不飽和脂肪酸を更に含んでいてもよい。吸収促進剤が不飽和脂肪酸を含むことにより、ワックスと不飽和脂肪酸とを同時に摂取できるため、より簡便に、より高い効率で不飽和脂肪酸を吸収することができる。
【0033】
本実施形態に係る吸収促進剤は、ワックス量換算で、例えば、体重60kgの成人に一日当たり、1mg以上10g以下の用量で用いることができ、10mg以上2g以下の用量で用いることが好ましく、20mg以上100mg以下の用量で用いることがより好ましい。当該用量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0034】
本実施形態に係る吸収促進剤は、経口投与(摂取)されてもよく、非経口投与されてもよい。不飽和脂肪酸の吸収を促進することができるため、本実施形態に係る吸収促進剤は、経口投与又は飲食品への添加によって摂取されることが好ましい。本実施形態に係る吸収促進剤は、一日当たりの有効成分量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。本実施形態に係る吸収促進剤は、食品、医薬用途等に用いることができる。
【0035】
本発明は、不飽和脂肪酸の吸収を促進するための、ワックスの使用ということもできる。本発明は、不飽和脂肪酸の吸収促進剤としてのワックスの応用、又は、不飽和脂肪酸の吸収促進剤の製造のためのワックスの応用ということもできる。
【0036】
本発明はさらに、ワックスを有効成分として含む組成物(上記不飽和脂肪酸の吸収促進剤)を投与する工程を含む、不飽和脂肪酸の吸収を促進する方法ということもできる。ワックスを有効成分として含む組成物、及び不飽和脂肪酸は、別々に投与してもよく、一緒に投与してもよい。ワックスを有効成分として含む組成物は、ヒトに投与しても、非ヒト哺乳動物に投与してもよい。
【0037】
(食品組成物)
本実施形態に係る吸収促進剤は、食品組成物として利用することができる。食品組成物には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる食品組成物が含まれる。
【0038】
食品組成物には、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0039】
食品組成物の種類は、特に限定されず、例えば、飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実種、ハチミツ酒等の酒など);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム、ハチミツ、プロポリス等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0040】
食品組成物の製法は特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。例えば、食品組成物の製造工程における中間製品又は最終製品に、ワックスを混合等して、上記の目的に用いられる食品組成物を得ることができる。
【0041】
また、食品組成物は、不飽和脂肪酸の吸収を促進する健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント又は特定保健用食品としても使用できる。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。中でも、不飽和脂肪酸の吸収効率がより高まること、保存性に優れること、取り扱いが容易であること、及び摂取が容易であること等から、カプセル剤が好ましい。
【0042】
本実施形態に係る吸収促進剤からなる医薬品若しくは食品、又は本実施形態に係る吸収促進剤を含む医薬品若しくは食品は、不飽和脂肪酸の吸収促進用であってよい。また、DHA、EPA等の不飽和脂肪酸には、血液をさらさらにする効果、記憶力及び集中力を高める効果等があるため、上記医薬品又は食品には、例えば、不飽和脂肪酸の吸収を促進する旨、血液をさらさらにする旨の表示、記憶力及び集中力を高める旨の表示が付されていてもよい。また、上記医薬品又は食品には、中性脂肪が気になる方に適する旨の表示、コレステロールが高めの方に適する旨の表示、脳の発達によい旨の表示、アトピー、アレルギー等によい旨の表示、高血圧を予防する旨の表示、血糖値を下げる旨の表示、動脈硬化、高脂血症、血栓症及び認知症等の予防並びに改善によい旨の表示、癌の発生及び転移を抑制する旨の表示、心血管系疾患を予防する旨の表示、糖尿病由来の神経障害及び関節リウマチの症状を軽減する旨の表示、免疫機能を調節する旨の表示等が付されていてもよい。
【0043】
カプセル剤は、カプセル皮膜と、カプセル皮膜の内部に封入されたワックス及び不飽和脂肪酸を含む組成物とを備えるものであってもよく、また、カプセル皮膜と、カプセル皮膜の内部に封入された不飽和脂肪酸を含む組成物とを備え、かつカプセル皮膜がワックスを含むものであってもよい。カプセル皮膜は、通常ゼラチン等により形成される。また、カプセルの形は特に制限なく、丸形、フットボール形、長形等、任意の形にすることができる。カプセル剤は、例えば、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤等であってよい。
【0044】
上記カプセル剤中の組成物について説明する。組成物中の不飽和脂肪酸の含有量は特に制限されるものではなく、例えば、組成物全量に対し、30質量〜99質量%とすることができ、50質量%〜99質量%とすることが好ましい。また、上記組成物がワックスを含む場合、ワックスの含有量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されないが、例えば、組成物全量に対し、0.01質量%〜99質量%とすることができ、0.5質量%〜10質量%とすることが好ましい。
【0045】
上記組成物は、更にプロポリス、イチョウ葉エキス、GABA、ビタミンE等の追加成分を更に含んでいてもよい。これらの追加成分を含むことにより、不飽和脂肪酸の酸化を抑制する等の効果が期待できる。追加成分を含む場合は、追加成分の含有量は、例えば、組成物全量に対し、追加成分が総量で、20〜80質量%とすることができる。
【0046】
ワックスは、カプセル皮膜に含まれていてもよい。この場合、カプセル皮膜中のワックスの含有量は、特に制限されるものではなく、例えば、カプセル皮膜全量に対し、0.01質量%〜100質量%とすることができ、1質量%〜10質量%とすることが好ましい。
【0047】
上記カプセル剤は、ワックスが上記組成物及びカプセル皮膜の双方に含まれているものであってもよい。なお、上記カプセル剤中の不飽和脂肪酸及びワックスの好ましい態様は、上述の吸収促進剤で説明したとおりである。
【0048】
上記カプセル剤は、ワックスと不飽和脂肪酸とが一体となっているため、当該カプセル剤を摂取することによって、簡便に、高い吸収効率で不飽和脂肪酸を摂取することができる。
【0049】
本発明の他の実施形態において、上述した組成物は、カプセル皮膜に封入せずに、当該組成物をそのまま用いてもよい。この場合、上記組成物は、その形態に応じて、上述の食品組成物又は後述する医薬組成物を製造する場合と同様の方法で得ることができる。
【0050】
(医薬組成物)
本実施形態に係る吸収促進剤は、医薬(特に、経口医薬)の形態で利用することができる。
【0051】
医薬組成物として調製する場合、ワックスを、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤又は賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液、電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。カプセル剤の好ましい形態は上述したとおりである。
【実施例】
【0052】
以下の実施例において本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例等になんら限定されるものではない。
【0053】
[試験例I]
精製魚油と蜜蝋とを質量比95:5で混合した組成物A、及び精製魚油とオリーブ油とを質量比95:5で混合した組成物Bを用意した。精製魚油としては三木化学社の「EPA45」、蜜蝋としては三木化学社の「ミツロウ」、オリーブ油としては日清オイリオ社の「日清さらっと軽〜いオリーブオイル」を用いた。用いた精製魚油中のEPA及びDHAの濃度は、それぞれ約47%、16%であった。
【0054】
(試験例I−1)摂取した不飽和脂肪酸の血中への移行
市販の固形飼料(日本チャールスリバー社の「CRF−1」)を与えて1週間予備飼育した11週齢の雄性DDY系マウスを2群に分け、16時間絶食させた。絶食後、2つの群にそれぞれ組成物A又は組成物Bをゾンデにて胃内投与した。胃内投与するサンプルの量は体重30グラムあたり0.1mLとした。投与直後(0時間後)、及び投与1、2、3、4、5、6時間後に解剖を行い、血液を採取した(n=3)。採取した血液を直ちに遠心分離(1900g、10min)し血漿を得た。血漿は分析に供するまで−30℃にて保存した。
【0055】
(試験例I−2)摂取したEPA及びDHAのリンパ液中への移行
市販の固形飼料(日本チャールスリバー社の「CRF−1」)を与えて1週間予備飼育した11週齢の雄性Wistar系ラットを2群に分け、16時間絶食させた。絶食後、2つの群にそれぞれ組成物A又は組成物Bをそれぞれゾンデにて胃内投与した。胃内投与するサンプルの量は体重100gあたり1mLとした。投与後1時間おきに6時間までリンパ液を採取した。本実施例における動物実験は全て、昭和女子大学動物実験委員会の承認を得た後、動物実験倫理規定に従い実施した。
【0056】
上記試験例I−1及びI−2で得た血漿及びリンパ液から、Folch法によって総脂質を得た。この総脂質を塩酸−メタノール法によってメチルエステル化した後、ガスクロマトグラフィーに供し、血漿については、EPA、DHA、DPA、パルミトレイン酸、α−リノレン酸、オレイン酸及びアラキドン酸の濃度を、リンパ液については、EPA及びDHAの濃度を測定した。
【0057】
(結果)摂取した不飽和脂肪酸の血漿への移行
精製魚油と蜜蝋又はオリーブ油との混合物の胃内投与0、1、2、3、4、5、6時間後の血漿中のEPA濃度を図1〜3に示す。オリーブ油を添加した群の血漿EPA濃度、血漿DHA及び血漿DPA濃度はいずれも2時間後にピークを迎えた(図1(a)、図1(b)、図2(a))。一方、蜜蝋を添加した群の血漿EPA、DHA濃度及びDPA濃度は、投与6時間後まで上昇し続けた。血漿パルミトレイン酸濃度は、オリーブ油を添加した群ではおよそ2時間後にピークを迎えた後減少し、蜜蝋を添加した群では6時間後まで高い水準を維持した(図2(b))。これらの不飽和脂肪酸では、いずれも蜜蝋を添加した場合に、オリーブ油を添加した場合よりも高い最大濃度を示した。血漿α−リノレン酸濃度は、蜜蝋を添加した群では、オリーブ油を添加した群に比べて濃度の最大値が高かった(図3(a))。血漿オレイン酸濃度は、蜜蝋を添加した群ではおよそ3時間以降に高い値を示した一方、オリーブ油を添加した群では、投与直後からの減少が見られた(図3(b))。血漿アラキドン酸濃度は、オリーブ油を添加した場合に比べて蜜蝋を添加した場合に増加していた(図4)。これらの不飽和脂肪酸は、蜜蝋を添加して摂取することにより、吸収が促進されることが示された。
【0058】
血漿中の各種不飽和脂肪酸濃度について、サンプルの胃内投与0時間後を100%としたときの各経過時間における上昇率をそれぞれ表1に示す。胃内投与6時間後の血漿中濃度は、EPAでは3168%、DHAでは180%、DPAでは566%、パルミトレイン酸では230%に到達した。
【0059】
【表1】
表中の数値の単位は%である。
【0060】
摂取したEPA及びDHAのリンパ液中への移行
サンプルの胃内投与後0−1時間、1−2時間、2−3時間、3−4時間、4−5時間、5−6時間のリンパ液中のEPA及びDHAの濃度を図5に示した。図5(a)はEPAの、図5(b)はDHAの濃度を示す。オリーブ油を添加した群、蜜蝋を添加した群ともに、投与1時間後から5時間後にかけて、リンパ液中のEPA及びDHA濃度は上昇した。投与後5時間から6時間にかけては、オリーブ油を添加した群では、リンパ液中のEPA及びDHA濃度が低下した。一方、蜜蝋を添加した群では、EPA及びDHA濃度の低下はみられなかった。
【0061】
[試験例II]
蜜蝋のヒトにおける不飽和脂肪酸の吸収促進効果を調べた。BMI(体格指数)値が18.5以上25.0未満である20〜40歳の健康成人男性で、普段魚類を摂取する機会がほとんどなく、試験期間中に魚類摂取中止が可能であり、事前のスクリーニング検査を通過した5名の者を被験者とした。
【0062】
1球当たりEPA20mg、DHA80mg及び蜜蝋5mgを含有するソフトカプセルを試験食品として用いた。また、蜜蝋を含まないこと以外は試験食品と同様に製造された、1球当たりEPA20mg、DHA80mgを含有するソフトカプセルを対照食品として用いた。
【0063】
被験者を10時間以上絶食させた後、上記試験食品5球を水150mLとともに摂取させた(第I期摂取)。試験食品の摂取直前、及び摂取から6時間後に、各被験者の前腕静脈からヘパリンナトリウム含有真空採血管を用いて5mLずつ採血した。採取した血液を冷却遠心分離(4℃、3000rpm×10分)後、血漿を分取し、測定時まで−20℃で凍結保存した。
【0064】
血漿からFolch法によって取得した総脂質を塩酸−メタノール法によってメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーに供し、血漿中のEPA及びDHA濃度を測定した。各被験者の血漿中EPA及びDHA濃度の、摂取6時間後における摂取直前からの変化量(μg/mL)を表2に示す。5名の被験者の平均値を図6に示す。
【0065】
第I期摂取を行った日から7日間以上の休薬期間を経た後、同一の被験者に、試験食品を対照食品に置き換えた以外は第I期摂取と同様の方法で第II期摂取を行い、上記と同様の方法で血漿中のEPA及びDHA濃度を測定した。各被験者の血漿中EPA及びDHA濃度の、摂取6時間後における摂取直前からの変化量(μg/mL)を表2に示す。5名の被験者の平均値を図6に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
EPA及びDHAに加えて蜜蝋を含有する試験食品を摂取することにより、蜜蝋を含有しない対照食品を摂取した場合と比較して、摂取後の血漿中EPA及びDHA濃度の総量が高いことが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6