(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の板材の折曲げ加工方法において、前記ワークの前記両切断縁の残留応力によりワークの曲げ稜線に発生する曲げモーメントMrsを演算すると共に、ワークの折曲げにより前記曲げ稜線に発生する曲げモーメントMzを演算し、ワークの折曲げ加工中に発生する曲げーモーメントMを、(Mrs−Mz)により演算し、この曲げモーメントMにより長手方向の反り曲率ρzを演算し、この反り曲率ρzと目標値の反り曲率ρz0との差を許容範囲内にすべく、前記残留応力を増減することを特徴とする板材の折曲げ加工方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
たとえば、矩形な平板状のワークの幅寸法が比較的小さく、折曲げた稜線の長さが比較的長い場合、ワークに折曲げ加工を行うと、ワークに舟型の反り(舟反り)や鞍反り(
図3、
図4(C)、
図5、
図6参照)が発生することが知られている。そこで、ワークの長手方向の切断縁の残留応力が反り量に与える影響を調べるために、板厚t=1.2mmの冷間圧延鋼板SPCCを、レーザ切断機による切断、シャーリングマシンによる切断及びワイヤカットによる切断を行い、幅方向の両側を90°に折曲げてU字形状(「コ」字状)の折曲げ加工を行ったときの反り量δw(mm)は、
図1に示すとおりであった。なお、上記「コ」字状の折り曲げ加工における曲げ線は、2本であり、お互いが平行になってワークの長手方向に延伸している。また、ワークの長さl=400mm、曲げ後の底フランジの幅fb=50mm、幅方向の両側のフランジ高さfs=7.5mmである。
【0015】
図1より明らかなように、レーザ切断、シャーリングによる切断においては、切断縁における残留応力が大きく、ワークの折曲げ加工後には舟反りが発生する。そして、残留応力がより大きなレーザ切断によるワークの長手方向の中央部の反り量は、シャーリングによる切断のワークの長手方向の中央部の反り量の約5倍位大きくなっている。
【0016】
次に、同一材質、同一厚さのワークを、折曲げ加工後のフランジ高さが種々の寸法になるようにレーザ切断を行い、V字形状、U字形状の折曲げ加工を行ったところ、長手方向の中央部の反り量は、
図2に示すとおりであった。
図2より明らかなように、U字形状の折曲げ加工よりも、V字形状の折曲げ加工の方が反り量は大きくなる。そして、V字形状及びU字形状の折曲げ加工ともに、フランジ高さが大きくなるほど反り量が小さくなっている。
【0017】
次に、板状のワークWの折曲げ加工時の加工特性を考察すると、ワークWの曲げ部の外側表面には、
図3に示すように、a−a方向に引張ひずみが発生し伸びようとする外力が働く。そして、a−a方向と直角方向のb−b方向では圧縮ひずみが発生し、縮もうとする外力が働く。ワークWの曲げ部の内側表面ではc−c方向に圧縮ひずみが発生し、縮もうとする外力が働く。そして、c−c方向と直交するd−d方向には引張りひずみが発生し、伸びようとする外力が働く。上述したワークWの曲げ部の外側表面、内側表面は、ワークWの曲げ部で円弧状になっている部位(ワークWの長手方向に対して直交する平面によるワークWの断面のうちでワークWの曲げ部のところで円弧状になっている部位)である。
【0018】
したがって、曲げ部分の曲げ線方向の外側b−bには、圧縮ひずみが発生し、内側d−dには引張りひずみが発生するため、反り量δwの反りが発生する。
【0019】
板状のワークWの長手方向(曲げ線の方向)の中央部は、曲げ変形時に材料の稜線方向(折曲げ線の長手方向)の移動が拘束されるため、平面ひずみの応力状態に近い。ワークWの長手反り(稜線の長手方向の中央部の反り)は、ワークWの折曲げ加工後の除荷時に生じる弾性的戻り変形により生じる。この長手反りは、ワークWの断面二次モーメント(ワークWの長手方向に対して直交する平面における断面二次モーメント)が小さく、長尺の曲げ加工製品に生じ易い。
【0020】
曲げ領域が平面ひずみ状態であるため、ワークの折曲げ加工時には、長手方向の稜線には塑性ポアソン比に相当する曲げモーメントνpMb(
図4(A)参照)が作用する。そして、除荷時には、曲げ加工終了時の曲げモーメントMbに、反対方向の曲げモーメントMbが加えられた結果として、相殺して「0」になるとすると、長手方向の稜線には弾性ポアソン比に相当する曲げモーメントνeMb(
図4(B)参照)が作用する。完全除荷時には、長手方向には塑性と弾性のポアソン比の違いによって、(νp−νe)Mbの曲げモーメントが発生する(
図4(C)参照)。
【0021】
ここで、板材の完全除荷状態における曲げ角度が2θのV曲げ製品は、
図5に示すとおりである。この場合、ワークWの長手方向に(νp−νe)Mbの曲げモーメントの垂直方向成分であるMzが作用して反りが発生するものと考え、この曲げモーメントMzを求める。前記曲げモーメント(νp−νe)MbはワークWの板面に沿った縦軸周りの単位長さ当りの曲げモーメントであり、スプリングバック後の曲げ領域に均等に作用しているとすると、曲げモーメントMzは、(νp−νe)Mbの曲げモーメントの中立軸方向成分の積分値に等しく、次式で求めることができる。なお、ρは曲げ後の内側曲げ半径である。
【数1】
【0022】
前記曲げモーメントMzが長さLのワークに作用することによって、長手方向に次式の曲率1/ρzが生じる。ここで、ρz;曲率半径、E:ヤング率、Iz;断面二次モーメント
【数2】
【0023】
ワークWの長手方向の中心部の反り量δwと曲率半径ρzとの関係は、L/2ρzは1に対して極めて小さいので、近似的には次式とすることができる。
【0024】
δw=ρz(1−cos(l/2ρz)) (3)
そして、中立面の長さは変化しないので、曲率の関係は次式で与えられる。
【数3】
【0025】
前記式(1)〜(4)をまとめると、反り量δwは次式のようになる。
【数4】
【0026】
上記(5)式では、薄板の曲げでのスプリングバックΔθが必要となる。もし、ポアソン比νpとνeとがお互いに等しければスプリングバックΔθが生じたとしても反り量Δwは「0」となり、反りは発生しない。異方性パラメータであるランクフォード値rを用い、ポアソン比νpを体積一定の条件から表わすと、次のようになる。
【数5】
【0027】
上記式より明らかなように、ランクフォード値rが低い材料ではポアソン比νpは小さくなり、反りは小さくなる。
【0028】
ところで、
図1より明らかなように、レーザ切断によって切断したワークの折曲げ加工後の反り量と、シャーリングマシンによって切断したワークの折曲げ加工後の反り量とを比較すると、レーザ切断によって切断したワークの反り量の方が大きい。すなわち、折曲げ加工前のワークの切断工程においての残留応力は、シャーリングマシンによる切断時の切断縁の残留応力よりも、レーザ切断による切断縁の残留応力が大きいためと思われる。
【0029】
曲げ加工前のワークの切断工程において、ワークの切断縁に残留応力が生じると、
図6に示すように、ワークの曲げによって生じる曲げモーメントMzと逆方向の曲げモーメントMrsが発生し、反りに影響するものと思われる。
【0030】
ここで、ワークの曲げ加工中に発生するモーメントMは次式で表わされる。
【0031】
M=Mrs−Mz (9)
M<0:鞍反り
M=0:反りなし (10)
M>0:舟反り
【数6】
【0032】
前記式(1),(4),(11)から
【数7】
【0033】
ここで、レーザ切断により切断面に発生する残留応力を切断面から距離の関数とすると、
σ=σ(l)
レーザ切断面付近に最大の残留応力が発生する。
【数8】
【0034】
なお、上記式(15)におけるeは、Y軸を中心としてワークをV字形状に折曲げ加工したときの重心(図心)とワークの中立軸とのY軸方向の距離である。
【0035】
ワークをレーザ切断した場合の、ワークの切断縁における残留応力分布を調べるために、ワークの試験片としてSPCC、t=1.2mm、CO
2の連続レーザ、出力2.7kW、アシストガスN
2、ガス圧0.8MPa、切断速度83mm/s、焦点位置はワーク表面の条件でレーザ切断を行った。残留応力の分布は、
図7に示すとおりであった。
【0036】
なお、切断面の残留応力分布の測定は、レーザ切断による切断面を0mmとし、残留応力の少ないワイヤカットによって、例えば0.5mm幅で切り離しを行ったときの、切り離し片の湾曲度合によって求めている。
【0037】
図7より明らかなように、切断面に近接した位置の残留応力は+方向であり、大きな引張の残留応力が存在する。そして、残留応力が−方向(圧縮応力)に変化する領域があり、切断面から離れるに従って次第に残留応力が小さくなり、約10mmの位置で消失している。したがって、試験片の場合には、レーザ切断による切断面から約10mm離れた位置まで残留応力が存在することになる。
【0038】
次に、切断縁の残留応力によって反り量δwが影響されるか否かを調べるために、試験片と同一材質、同一厚さの複数のワークを同一条件でレーザ切断を行い、
図8に示す新たな試験片を複数作成した。なお、
図8で示す直線CLは、ワークWにおいて曲げ線になるところである。そして、
図7を参考にして、両側の残留応力の範囲lcを、切断面から0mm(レーザ切断を行った状態のまま)、0.1mm,0.5mm,1.0mm,2.0mm,5.0mm,10.0mmの幅でもって、残留応力の少ないワイヤカット放電加工により切断除去した後、前記切断面から等距離の中間位置を折曲げ線の位置として、90°の折曲げ加工を行い、長手方向の中央部の反り量δwを測定した結果は、
図9に示すとおりであった。
【0039】
図9から明らかなように、レーザ切断した状態のままの場合の反り量δwが最大であり、1mm程度の舟型の反りである。そして、ワイヤカット放電加工によって残留応力部分の除去を行うと、反りが抑制されるが、0.1mmの除去においては、残留応力が僅かにしか減少しないので、0.8mm程度の反りが発生している。0.5mm除去した場合には0.15mm程度の反りとなり、反りを有効に抑制できる。そして、1mm以上除去すると、引張り残留応力領域がほとんど除去されるので、長手反りが小さくなると共に舟反りから鞍反りに変わる。
【0040】
すなわち、ワークの切断縁の残留応力が、ワークの折曲げ加工後の反りに影響していることは明らかである。そして、ワークの舟反りを抑制するには、切断縁の残留応力を除去又は減少することが望ましいものであることが理解できる。
【0041】
逆に
図1のワイヤカットの状態の様に鞍反りの場合には、材料端部に残留応力を加える事によって曲げモーメントMrsを増加させ鞍反りを舟反り方向に変化させる事もできる。
【0042】
前述したように、板状のワークの折曲げ加工における舟型の反り(舟反り)や鞍反りなどの長手反り(折曲げ線、折曲げ後の稜線の長手方向の中央部の反り)は、ワークを切断するための前加工工程で生じた残留応力の影響を受け易いものである。なお、残留応力により発生する長手反りの各曲げモーメントは、次のとおりである(
図6参照)。
【0043】
(1)切断面の残留応力より板材のフランジ面内にモーメントが発生する。そのモーメントの垂直成分のモーメントMrsが長手方向の稜線に作用する。
【0044】
(2)すでに説明した様に、曲げモーメントMzも同様に発生する。
【0045】
(3)完全除荷時には、曲げにより生じる曲げモーメントMzと残留応力により生じるモーメントMrsの和のモーメントM(M=Mrs−Mz)が曲げ稜線に作用し、長手反りが発生する。
【0046】
そして、レーザ切断中に発生する残留応力により生じるモーメントMrsが曲げにより生じるMzの曲げモーメントより大きくなると、舟反りが発生する。曲げモーメントMrsが曲げモーメントMzより小さくなると鞍反りが発生する。そのため、長手反りに対し、適切な残留応力を制御(調節)するのが大切である。
【0047】
適宜の切断手段によって切断したワークの切断縁における残留応力を除去、増減する調節を行うための残留応力増減手段(装置)の構成としては、例えば、
図10(A)に示すように、ワークWのレーザ切断加工による切断面WFに近接した位置に、低出力のレーザ光LBを照射して加熱する構成とすることも可能である。また、
図10(B)に示すように、ワークWの切断面WFに近接した領域をパンチP、ダイDによって打圧する構成とすることも可能である。さらには、
図10(C)に示すように、ワークWの切断面WFに近接した領域を一対の押圧ローラR1,R2によって加圧する構成とすることも可能である。
【0048】
なお、
図10(A)、(C)で示すラインCLは、ワークWの曲げ線であり、ワークWの長手方向に延伸している。したがって、残留応力増減手段によって残留応力が調整されるワークWの部位は、ワークWの曲げ線CLと平行に延びている部位であって、たとえば、ワークの曲げ線CLとワークWの厚さ方向とに直交する方向(ワークWの幅方向)における、ワークWの端部近傍の部位もしくは端部からこの端部近傍にかけての所定の幅の部位(たとえば、長さがワークWの長さと等し
い細長い矩形状の部位)ということになる。
【0049】
図10では、ワークWの幅方向(ワークWの長手方向と厚さ方向とに直交する方向)の一方の側のみで、残留応力を除去、増減する調節をするようになっている。このように、一方の側のみで残留応力を調整する場合もあるが、通常は、ワークWの幅方向の両側(たとえば、
図10(C)におけるワークWの右側と左側)で残留応力を調整するのである。
【0050】
ワークWの幅方向の両側で残留応力を調整する場合には、ワークWの幅方向の一方の側での残量応力の調整の形態と、ワークWの幅方向の他方の側での残量応力の調整の形態とが、お互いに同じ形態であってもよいし、異なる形態であってもよい。たとえば、
図10(C)において、曲げ線CLの位置が、ワークWの中央でなくて右側もしくは左側に偏った位置に存在する場合、押圧ローラR1,R2による押圧力を、ワークWの右側と左側とで変えてもよいし、押圧ローラR1,R2によって押圧される部位の幅lcを、ワークWの右側と左側とで変えてもよいし、押圧力と幅lcとの両方を変えてもよい。
【0051】
さらに、ワークWの残留応力を、たとえば、
図10(C)で示す形態で調整する場合、ワークWを押圧する押圧力は、ワークWの部位にかかわらず一定(ほぼ一定)になるが、ワークWを押圧する押圧力(押圧力が「0」の場合を含む)やワークWの押圧される部位の幅lcをワークWにおける曲げ線の延伸方向で変化させてもよい。
【0052】
ここで、
図10(B)や
図10(C)等で示す態様でワークWの残留応力を調整する場合におけるワークWの加圧力(押圧力;挟み込みの圧力)について説明する。
【0053】
ワークWには、上記加圧力によって、たとえば、降伏点(上降伏点もしくは下降伏点)の応力、もしくは、降伏点の応力よりも僅かに小さいか僅かに大きい応力が発生するようになっている。
【0054】
なお、降伏点の応力よりも小さい応力(比例限度や弾性限度での応力)であっても、ワークWに僅かな塑性歪(永久歪;残留歪)が発生するので、上記加圧力の値を、ワークWに弾性限度もしくは比例限度の大きさの応力しか発生しない程度にしてもよい。
【0055】
さらに、時間効果におけるクリープによってワークWに僅かな塑性変形(塑性歪)が起こるような形態で残留応力の調整をしてもよい。
【0056】
結局は、
図10等で示す残留応力の調整において、ワークWに加圧跡等残らないか目立たないようにすることが望まれる。
【0057】
残留応力増減手段としては、すでに理解されるように、全体を加熱するための加熱手段や、ワークの切断縁付近を加圧する加圧手段を採用することができる。そして、加熱手段としては、前述したレーザ光の照射に代えて、ガスの火災によって加熱することや、ワークを炉内において加熱することも可能である。
【0058】
次に、ワークWの残留応力を増減し、長手反りを抑制して折曲げ加工を行う方法及び残留応力を増減するための残留応力増減装置について説明する。
【0059】
適宜の切断手段によって切断されたワークの切断縁の残留応力を増減する残留応力増減装置1は、
図11に概念的、概略的に示すように、例えばコンピュータからなるものであって、CPU3、入力手段5、表示手段7、ROM9、RAM11を備えていると共に、切断端部残留応力データベース13を備えている。
【0060】
前記切断端部残留応力データベース13は、各種材質、板厚のワークを、各種の切断条件で切断したときの切断縁における残留応力の分布データが格納されている。すなわち、各種材質、板厚のワークを、例えばレーザ出力や切断速度などのレーザ切断条件を変更した各種の切断条件でもって切断加工を行ったときの残留応力の分布を予め測定し、材質、板厚と切断条件と切断縁の残留応力の分布とを相互に関連付けて格納してある。
【0061】
なお、切断条件としては、レーザ切断条件に限ることなく、例えばシャーリングマシンによって切断した場合には、材質、板厚と切断条件(例えばシャー角、クリアランス等)と切断縁の残留応力の分布とを相互に関連付けて格納してある。すなわち、各種材質、板厚のワークを各種の切断条件で切断したときの切断縁における残留応力の分布を予め測定して格納してある。したがって、ワークの材質、板厚と切断条件が分かれば、その切断条件に対応した切断縁の残留応力分布を検索することができるものである。
【0062】
また、前記残留応力増減装置1には、前記切断端部残留応力データベース13の検索を行うデータベース検索手段15が備えられていると共に、このデータベース検索手段15によって検索された残留応力分布(σ=σ(l))を基にして、例えばV字形状の場合には、
【数9】
【0063】
により切断端部の長手方向残留応力が曲げ稜線に発生するモーメントMrsを演算する演算手段17が備えられている。なお、演算手段17は、曲げモーメントMrsを演算する機能と、上記式(a)を基にして、曲げモーメントMrsが既知の場合に、数値解析によって残留応力分布σを演算する機能を有するものである。
【0064】
さらに、前記残留応力増減装置1には、前記入力手段5から入力された曲げ情報(例えば曲げ角度、内側曲げ半径など)を基にして、前記式(1)によって曲げモーメントMzを演算する演算手段19が備えられていると共に、前記曲げモーメントMを演算する演算手段21を備えている。また、残留応力増減装置1には、前記曲げモーメントMzに基き、前記式(13)によって長手反り曲率ρzを演算する曲率演算手段23が備えられている。さらに、残留応力増減装置1は、メモリ25に予め格納してある目標値の反り曲率ρz0と演算された前記反り曲率ρzとの差|ρz−ρz0|を演算すると共に、前記差|ρz−ρz0|と前記メモリ25に予め格納してある許容値ρとを比較する機能を有する比較演算手段27を備えている。なお、前記差|ρz−ρz0|の演算は、別個の演算手段で行ってもよいものである。
【0065】
前記比較演算手段27の比較結果がρ≧|ρz−ρz0|(ρの値が|ρz−ρz0|の値以上)なら問題ないが、ρ<|ρz−ρz0|の場合には、ワークWの切断縁における残留応力を増減する必要がある。したがって、前記残留応力増減装置1には、残留応力を増減する際に必要な処理条件データベース29が備えられている。この処理条件データベース29には、例えばレーザ切断によって切断されたワークにおける切断縁の残留応力を適正に増減するための処理条件が格納されているものである。
【0066】
すなわち、ワークをレーザ切断したときの切断縁における残留応力は前記切断端部残留応力データベース13に格納されているので、この切断端部残留応力テーブル13に格納されている各種の材質、板厚、切断条件に対応して残留応力を増減するために、予め実験し、残留応力の増減状態を測定したときの処理条件、残留応力分布がデータベース化してある。
【0067】
より詳細には、前記切断端部残留応力データベース13に格納されているワークの切断条件と同一条件で切断したワークに対して、処理条件としてのレーザ光を照射したときのレーザ出力、移動速度、切断面からレーザ光の照射位置までの距離、ワーク表面に対する焦点位置の上下方向の位置などの各種の処理条件データをそれぞれ変更し、この変更したそれぞれの処理条件によって残留応力増減処理を行った後のそれぞれの残留応力分布を予め測定する。そして、ワークの材質、板厚と前記各種の処理条件データと、処理後のそれぞれの残留応力分布のデータと関連付けて前記処理条件データベース29に格納してある。
【0068】
すなわち、1つのワークに対して複数の処理条件及び各処理条件による処理後の残留応力分布のデータが前記処理条件データベース29に格納されているものである。したがって、1つのワークに対して複数種の残留応力増減処理を行うことができるものである。
【0069】
なお、
図10(B)に示したように、パンチPとダイDによって残留応力除去、増減処理を行う場合の処理条件としては、例えば、パンチP、ダイDによってワークを挟圧するときの、切断面からの挟圧範囲、加圧力や繰り返し打圧する場合には打圧サイクル、切断面に沿う方向へのワークの送り速度などの各種の処理条件データと、各種の処理条件による処理後の残留応力分布のデータが予め測定されて、1つのワークに対して複数対応して格納されているものである。
図10(C)に示す構成の場合も、1つのワークに対する複数の処理条件及び各処理条件によって処理したときの残留応力分布のデータが前記処理条件データベース29に格納されているものである。
【0070】
前記比較演算手段27の比較結果がρ<|ρz−ρz0|の場合には、ワークの切断縁における残留応力を増減するための処理を行うために、前記データベース検索手段15によって処理データベース29の検索が行われる。そして、前記データベース検索手段15によって検索された処理条件に基いて、制御手段31が残留応力増減処理手段33を適正に制御して、ワークの切断縁の残留応力を増減するための処理を行うことになる。その後、プレスブレーキなどのごとき折曲げ加工機によって、残留応力の増減を行った対向する両側縁の間の位置に折曲げ加工を行うことになる。
【0071】
すなわち、ワークの対向した両側縁の残留応力の増減を行った後に、ワークの折曲げ加工を行うので、残留応力に起因する舟反りや鞍反りを抑制でき、精度のよい折曲げ加工を行い得るものである。
【0072】
以上のごとき構成において、ワークの材質、板厚などの材料情報を入力手段5から残留応力増減装置1に入力すると共に、製品の曲げ角度、フランジ(立上り部)の寸法などを入力する(ステップS1,S2)。また、ワークを切断したときの、ワークの切断条件の切断情報を入力すると(ステップS3)、データベース検索手段15によって切断端部残留応力データベース13の検索が行われる(ステップS4,S5)。そして、前記データベース検索手段15によって検索された切断端部(切断縁)の長手方向残留応力σを基にして、演算手段17によってワークの曲げ稜線に発生する曲げモーメントMrsが演算される(ステップS6)。
【0073】
また、曲げ情報としてワークの折曲げ加工に使用するパンチの先端半径、角度や、ダイのダイ径、角度、肩半径などのパンチ、ダイの幾何学的情報を入力すると(ステップS7)、製品の曲げ角度θや曲げ後の内側曲げ半径ρなどに基いて、曲げにより曲げ稜線に発生する曲げモーメントMzが演算手段19によって演算される(ステップS8)。そして、前記演算手段17,19によって演算された曲げモーメントMrs,Mzによって、曲げ稜線に発生する曲げモーメントMが演算手段21によって演算される(ステップS9)。そして、この演算した曲げモーメントMを基にして、長手反り曲率ρzが曲率演算手段23によって演算される(ステップS10)。このように、長手反り曲率ρzが演算されると、長手方向の中央部の反り量δwを、前記式(14)によって演算することができる。
【0074】
前述のごとく、長手反り曲率ρzが演算されると、メモリ25に予め格納してある目標値ρz0との差|ρz−ρz0|が演算され、この差|ρz−ρz0|とメモリ25に格納されている許容値ρとが比較演算手段27によって比較される(ステップS11)。比較の結果、|ρz−ρz0|≦ρ(ρの値が|ρz−ρz0|の値以上)ならば、反り量δwは許容値内となるので、ワークの切断縁における残留応力の除去処理等を行うことなく、ワークの折曲げ加工が行われることになる。
【0075】
しかし、比較の結果が|ρz−ρz0|>許容値ρの場合には、ワークの切断縁における残留応力を制御する処理を行う必要がある。ここで、前記式(13)により、Mrs=Mz+EI/ρz0となる。したがって、Mrs=Mz+EI/ρz0とするために、必要な残留応力を演算手段34において演算する(ステップ12)。なお、上記残留応力の演算に際しては、曲げモーメントMzは予め演算してあって既知であるからMrs=Mz+EI/ρz0となるときの長手方向残留応力を前記式(a)に基づいて、FEM、初等解析、データベースなどにより演算手段34により演算する。
【0076】
すなわち、
FEMの場合
FEMモデル作成し、初期応力と目標応力入力する。繰り返し計算を行い、押さえ応力をアウトプットする。
【0077】
データベースの場合
事前に大量の実験かFEMにより、
図13に示すようなデータベースを作成する。初期応力と目標応力を入力すると押さえ応力がアウトプットする。
【0078】
押さえ応力に押す幅とワークの長さかけ、押さえ荷重を決める。
【0079】
上記演算結果に基いて、演算した長手方向残留応力に一致又は近似する残留応力(残留応力分布)を、データベース検索手段15によって処理条件データベース29から検索する(ステップS13)。そして、処理条件データベース29から検索された残留応力(残留応力分布)に関連した処理条件に基いて、制御手段31によって、ワークの切断縁における残留応力を適正な残留応力とすべく残留応力増減処理手段33を制御する処理が行われる(ステップS14)。すなわち、ワークの切断縁に、例えばレーザ光を照射して残留応力除去、増減処理を行う場合には、前述したように、レーザ光の出力や移動速度などが適正に制御されて、残留応力除去、増減処理が行われる。
【0080】
したがって、切断縁における残留応力の増減処理を行った後のワークの折曲げ加工を行うと、ワークの長手反りは許容値内の反り量となるものである。