特許第6018750号(P6018750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018750
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】タイヤおよびタイヤ成形用金型
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20161020BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20161020BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   B60C11/00 H
   B29C33/42
   B29L30:00
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-289383(P2011-289383)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136363(P2013-136363A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月15日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】勝野 弘之
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118856(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B29C 33/42
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部踏面の全体にわたって、半球状の突起部が多数形成されているとともに、十点平均粗さRzが1〜50μmであり、
前記トレッド部踏面の全体にわたって、20μmを超える高さHを有する半球状の突起部が、80個/mm以上の個数密度で形成されていることを特徴とする、タイヤ。
【請求項2】
タイヤ成形用の金型であって、
タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面を有し、
前記踏面成形面の全体にわたって、半球状の凹部が多数形成されているとともに、十点平均粗さRzが1〜50μmであり、
前記踏面成形面の全体にわたって、20μmを超える深さhを有する半球状の凹部が、80個/mm以上の個数密度で形成されていることを特徴とする、タイヤ成形用金型。
【請求項3】
前記トレッド部踏面の全体にわたって、前記突起部の局部山頂の平均間隔Sが5〜100μmである、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記踏面成形面の全体にわたって、前記凹部の局部山頂の平均間隔Sが5〜100μmである、請求項2に記載のタイヤ成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤおよびタイヤ成形用金型に関し、特には、氷上性能および雪上性能に優れるタイヤ、および、該タイヤの製造に用いるタイヤ成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冬用のタイヤでは、氷上性能および雪上性能の向上を図るため、様々な工夫がなされてきた。
例えば、特許文献1では、トレッド部に形成した各ブロックに複数のサイプを設けることにより、接地面内のエッジ成分を増大させると共に、雪噛み効果を向上させて、タイヤの氷雪路面(凍結路面や積雪路面)上での走行性能を向上させる技術が提案されている。
また、例えば、特許文献2では、キャップゴムとベースゴムとからなる、いわゆるキャップアンドベース構造のトレッドゴムを有するタイヤにおいて、キャップゴムとして発泡ゴムを用いることにより、除水性を大幅に向上させ、タイヤの氷上性能および雪上性能を向上させる技術が提案されている。
【0003】
更に、例えば、特許文献3では、図1(a)に示すように、タイヤのトレッド部1の表面性状に関し、先端が尖った形状の突起部2をトレッド部の表面に設けることにより、表面粗さを増大させ、タイヤ表面と路面との間の摩擦力を増大させて、タイヤの氷上性能および雪上性能を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−192914号公報
【特許文献2】特開平11−301217号公報
【特許文献3】特開2009−67378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の、ブロックにサイプを設ける技術には、サイプ数を増加しすぎると、ブロック剛性が低下してブロックの倒れこみが発生しやすくなるため、接地面積が減少し、却って氷上性能および雪上性能が低下するという問題があった。
また、特許文献2に記載の、キャップゴムに発泡ゴムを用いる技術では、発泡ゴムの使用によりブロック全体の剛性が低下する場合があり、タイヤの耐磨耗性が必ずしも十分ではなかった。
更に、特許文献3に記載の、先端が尖った突起部をトレッド部の表面に設ける技術では、突起部の剛性が低いため、特に車両のノーズダイブによる前輪への荷重増大時など、タイヤに大きな荷重が負荷された際に、突起部が潰れて所望の性能が得られなくなる場合があった。即ち、先端が尖った突起部をトレッド部の表面に設ける技術では、図1(b)に示すように、路面Tとの接触により突起部2が潰れ、除水用の空隙3の体積が減少し、除水性が低下してしまう結果、所望の氷上性能および雪上性能が得られない場合があった。従って、特許文献3に記載の技術には、氷上性能および雪上性能をさらに向上させる余地があった。
更にまた、特許文献1〜3に記載の技術を採用したタイヤについて発明者らが検討を重ねた結果、それらの従来のタイヤには、タイヤ製造過程でタイヤ表面に付着した化学物質の影響等により、特に新品時に十分な氷上性能および雪上性能が得られないという問題点があることも分かった。そのため、特許文献1〜3に記載の技術には、特にタイヤ新品時の氷上性能および雪上性能を改善する余地があった。
更にまた、特許文献1〜3に記載の技術を採用したタイヤについて発明者が検討を重ねた結果、それらの従来のタイヤには、原因は明らかでないが、特に新品時に十分な氷上性能および雪上性能が得られないという問題点があることも分かった。そのため、特許文献1〜3に記載の技術には、特にタイヤ新品時の氷上性能および雪上性能を改善する余地があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、氷上性能および雪上性能を向上させたタイヤ、並びに、該タイヤの製造(成形)に用いるタイヤ成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。
その結果、本発明者は、トレッド部踏面に所定の微細構造を形成すれば、ブロック剛性の低下や除水性の低下を抑制してタイヤの氷上性能および雪上性能をさらに向上させ得ること、並びに、タイヤ新品時であっても十分な氷上性能および雪上性能を発揮させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
本発明のタイヤは、トレッド部踏面の全体にわたって、半球状の突起部が多数形成されているとともに、十点平均粗さRzが1〜50μmであることを特徴とする。
本明細書において、「輪郭曲線要素の平均高さRc」とは、JIS B 0601(2001年)に規定の「輪郭曲線要素の平均高さRc」を意味する。なお、Rcは、単位長さ(1mm)に存在する山の高さを測定し、高さ基準で上下それぞれ10%の範囲に含まれる山の高さを除外して平均をとることにより、求めることができる。
なお、前記トレッド部踏面の全体にわたって、前記突起部の局部山頂の平均間隔Sが5〜100μmであると、好適である。
また、本発明のタイヤでは、前記トレッド部踏面の全体にわたって、20μmを超える高さHを有する半球状の突起部が、80個/mm以上の個数密度で形成されている。
【0009】
また、本発明のタイヤ成形用金型は、タイヤ成形用の金型であって、タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面を有し、前記踏面成形面の全体にわたって、半球状の凹部が多数形成されているとともに、十点平均粗さRzが1〜50μmであることを特徴とする。
なお、前記踏面成形面の全体にわたって、前記凹部の局部山頂の平均間隔Sが5〜100μmであると、好適である。
また、本発明のタイヤ成形用金型では、前記踏面成形面の全体にわたって、20μmを超える深さhを有する半球状の凹部が、80個/mm以上の個数密度で形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、氷上性能および雪上性能を向上させたタイヤ、並びに、該タイヤを成形し得るタイヤ成形用金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)従来のタイヤのトレッド部踏面を模式的に示す概略断面図である。(b)タイヤの負荷荷重時に、タイヤのトレッド部踏面と路面とが接触する様子を模式的に示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるタイヤのタイヤ幅方向断面図である。
図3図2に示すタイヤのトレッド部踏面の一部の形状を拡大して模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)はタイヤ幅方向断面図である。
図4】本発明のタイヤの一例のトレッド部踏面のSEM像(走査型電子顕微鏡像)である。
図5】本発明の一実施形態にかかるタイヤ成形用金型の一部を模式的に示す概略部分斜視図である。
図6図5に示すタイヤ成形用金型の踏面成形面の一部の形状を拡大して模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は幅方向断面図である。
図7】(a)〜(c)は、タイヤのトレッド部踏面の一部の形状の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のタイヤおよびタイヤ成形用金型について説明する。本発明のタイヤは、トレッド部の踏面(路面と接地する面)の少なくとも一部に所定の微細構造を形成し、トレッド部の表面性状(踏面性状)を所定の性状としたことを特徴とする。そして、本発明のタイヤ成形用金型は、本発明のタイヤの製造に用いられ、金型内表面、具体的にはタイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面の少なくとも一部に、所定の微細構造を形成して踏面成形面の表面性状を所定の性状としたことを特徴とする。
【0013】
<タイヤ>
図2は、本発明のタイヤの一実施形態のタイヤ幅方向断面図である。
図2に示すように、本実施形態のタイヤ20は、一対のビード部4と、各ビード部4からそれぞれタイヤ径方向外方に延びる一対のサイドウォール部5と、該サイドウォール部5間に跨って延びるトレッド部6とを有している。
また、本実施形態のタイヤ20は、一対のビード部4に埋設された一対のビードコア4a間にトロイダル状に跨るカーカス7と、該カーカス7のタイヤ径方向外側に配設された2層のベルト層8a、8bからなるベルト8とを有している。更に、ベルト8のタイヤ径方向外側には、非発泡ゴムよりなるトレッドゴムが配設されている。
【0014】
ここで、このタイヤ20では、トレッド部踏面の少なくとも一部(この実施形態では全部)に、所定形状の微小突起部が形成されている。具体的には、図3(a)にトレッド部踏面6aの拡大平面図を示し、図3(b)にトレッド部踏面6a側のタイヤ幅方向に沿う拡大断面図を示し、図4にトレッド部踏面のSEM写真を示すように、本実施形態にかかるタイヤでは、トレッド部踏面6aの全体に、タイヤ径方向外側に凸な形状の(図示例では半球状の)微小突起部9が多数形成されており、トレッド部踏面6aの少なくとも一部が、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となる表面粗さを有する。
なお、図3では、突起部9が半球状の突起部である場合を示しているが、本発明のタイヤでは、突起部は、裁頭円錐状、裁頭角錐状といった、図7(a)に示すような断面台形状のものや、円柱状、角柱状といった、図7(b)に示すような断面矩形状のものや、図7(c)に示すような裁頭半球状のものなど、様々な形状のものとすることができる。
【0015】
そして、このタイヤ20では、トレッド部踏面の表面の粗さが、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となるため、ブロック剛性の低下や徐水性の低下を抑制しつつ、タイヤの氷上性能および雪上性能を十分に向上させることができる。
即ち、このタイヤ20では、トレッド踏面の表面性状について、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上であるため、除水用の空間を確保することができ、一方で、輪郭曲線要素の平均高さRcが、50μm以下であるため、タイヤと路面との摩擦力を確保することができる。
なお、このタイヤ20では、所定の形状を有する微小突起部9の形成により除水性の低下の抑制および氷上性能および雪上性能の向上を達成しているので、過剰な数のサイプを形成したり、発泡ゴムを使用したりする必要がない。
また、このタイヤ20では、原因は明らかではないが、新品時(未使用状態)であっても十分な氷上性能および雪上性能を発揮することができる。
【0016】
従って、このタイヤ20によれば、ブロック剛性の低下や除水性の低下を抑制して、新品時であっても、タイヤの氷上性能および雪上性能をさらに向上させることができる。
【0017】
ここで、このタイヤ20では、突起部9が形成されている部分は、同様の理由により、輪郭曲線要素の平均高さRcが、10μm以上40μm以下となる表面粗さを有するような表面性状を有していることがさらに好ましい。
【0018】
また、このタイヤ20では、突起部9の形状が半球状であることが好ましい。突起部9の形状が半球状であれば、突起部9が潰れ難くなり、除水性を確保することができるからである。
【0019】
更に、このタイヤ20では、トレッド部踏面に形成した突起部9の高さHが1〜50μmであることが好ましい。突起部9の高さHを1μm以上とすれば、突起部9間の空隙の体積を十分に確保して、除水性を高めることができるからである。また、突起部9の高さHを50μm以下とすれば、突起部9の剛性を大きくして、十分な除水性を確保することができるからである。
突起部の高さは、突起部の先端(タイヤ径方向外端)を通って延びるタイヤ径方向線に直交する第1仮想平面と、突起部の外輪郭線に接し且つ前記タイヤ径方向線に直交する仮想平面のうち前記第1仮想平面に最も近い第2仮想平面との間のタイヤ径方向に沿う距離をいうものとする。なお、本発明において「突起部の個数」、及び「突起部の高さ」は、例えば、トレッド部踏面をSEM、マイクロスコープにより拡大して測定することができる。
【0020】
加えてまた、本発明のタイヤでは、トレッド部踏面の少なくとも一部に、高さHが20μmを超える突起部を80個/mm2以上の個数密度で形成することが好ましい。
これにより、ブロック剛性の低下をさらに抑制しつつ、さらに除水性の低下を抑制して、タイヤの氷上性能および雪上性能をさらに向上させることができる。
即ち、トレッド部踏面の表面性状について、20μm以上の高さを有する突起部を形成したことにより、突起部間に除水用の空間を確保することができ、一方で、20μm以上の高さを有する突起部を80個/mm2以上の個数密度で形成するため、突起部の接地面積を確保することができる。
なお、突起部9が形成されている部分は、同様の理由により、高さが20μmを超える突起部の個数密度が、150個/mm2以上となることがさらに好ましい。より好適には、高さが20μmを超える突起部の個数密度が、150個/mm2以上、250個/mm2以下となることがさらに望ましい。
また、好適な突起部の高さとしては、30μmを超える突起部が100個/mm2以上の個数密度であることが望ましい。また、突起部の高さは50μm未満であることが望ましく、50μm以上だと、突起部の剛性が低下し、タイヤに大きな荷重が負荷された際に突起部が潰れて制動力を発現できない可能性があるからである。
ここで、本発明において「突起部の個数」、及び「突起部の高さ」は、例えば、トレッド部踏面をSEM、マイクロスコープにより拡大して測定することができる。
【0021】
ここで、本発明のタイヤでは、トレッド部踏面の少なくとも一部が、粗さモチーフ上限長さAが、5μm以上100μm以下となる表面粗さを有することが好ましい。この構成によれば、トレッド部踏面の表面粗さが、粗さモチーフ上限長さAが、5μm以上100μm以下となるため、ブロック剛性の低下や除水性の低下をさらに抑制しつつ、タイヤの氷上性能および雪上性能をさらに十分に向上させることができる。
即ち、トレッド部踏面の表面性状について、粗さモチーフ上限長さAが、5μm以上であるため、除水用の空間を確保することができ、一方で、粗さモチーフ上限長さAが、100μmであるため、タイヤと路面との摩擦力を確保することができる。
なお、突起部9が形成されている部分は、同様の理由により、粗さモチーフ上限長さAが、20μm以上80μm以下となる表面粗さを有するような表面性状を有していることがさらに好ましい。
ここで、「粗さモチーフ上限長さA」とは、JIS B 0631(2000年)に規定の「粗さモチーフ上限長さA」を意味し、無負荷条件でマイクロスコープ等を用いて計測するものである。
【0022】
さらにまた、本発明のタイヤは、トレッド部踏面の少なくとも一部が、輪郭曲線の最大山高さRpが、5μm以上70μm以下となる表面粗さを有することが好ましい。
これにより、ブロック剛性の低下をさらに抑制しつつ、除水性の低下をさらに抑制して、タイヤの氷上性能および雪上性能をさらに向上させることができる。また、トレッド部踏面の表面粗さを、輪郭曲線の最大山高さRpが、5μm以上70μm以下となるようにすれば、ブロック剛性の低下や除水性の低下をさらに抑制しつつ、タイヤの氷上性能および雪上性能をさらに十分に向上させることができる。即ち、トレッド部踏面の表面性状について、輪郭曲線の最大山高さRpを、5μm以上とすれば、除水用の空間を確保することができ、一方で、輪郭曲線の最大山高さRpを、70μm以下とすれば、突起部の剛性を確保することができる。なお、同様の理由により、突起部が形成されている部分は、輪郭曲線の最大山高さRpが、10μm以上40μm以下となることがさらに好ましい。
ここで、「輪郭曲線の最大山高さRp」とは、JIS B 0601(2001年)に規定の「輪郭曲線の最大山高さRp」を意味する。なお、Rpは、単位長さ(1mm)に存在する山の高さを測定して求めることができる。
【0023】
ここで、半球状の突起部によるタイヤのトレッド部踏面の十点平均粗さRzは、1.0〜50μmであることが好ましい。
なぜなら、Rzが1.0μm以上であることにより、除水用の空隙を確保することができ、一方で、Rzが50μm以下であることにより、路面との接触面積を確保することができるからであり、これらにより、タイヤの氷上性能及び雪上性能をさらに向上させることができるからである。
ここで、「十点平均粗さRz」とは、JIS B 0601(1994年)の規定に準拠して測定されるものであり、基準長さを0.8mm、評価長さを4mmとして求めたものである。
【0024】
また、タイヤのトレッド部踏面に形成した突起部9の局部山頂の平均間隔Sは、5.0〜100μmであることが好ましい。
なぜなら、間隔Sが5.0μm以上であることにより、除水用の空隙を確保することができ、一方で、間隔Sが100μm以下であることにより、路面との接触面積を確保することができるからであり、これらにより、タイヤの氷上性能及び雪上性能をさらに向上させることができるからである。
ここで、「局部山頂の平均間隔」は、JIS B 0601(1994年)に準拠して計測されるものであり、基準長さを0.8mm、評価長さを4mmとして求めるものとする。
【0025】
そして、上述したタイヤは、特に限定されることなく以下のタイヤ成形用金型を用いて製造することができる。なお、下記のタイヤ成形用金型を用いたタイヤの成形は常法に従い行うことができる。
【0026】
<タイヤ成形用金型>
図5は、本発明のタイヤを成形するのに用いるタイヤ成形用金型の一部を示す概略部分斜視図である。
図5に示すように、この金型10は、タイヤを加硫成形する成形面11を有する。
この成形面11は、トレッド部踏面を形成する踏面成形面11aを有し、図示例では、サイドウォール部の外表面を成形するサイドウォール成形面11b、及びビード部の外表面を成形するビード部成形面11cも有する。
この成形面11は、特には限定しないが、例えばアルミニウムで形成することができる。
本発明のタイヤの、上述した表面性状を有するトレッド部踏面は、当該表面性状に対応した表面性状を有する踏面成形面11aを備えるタイヤ加硫金型10によって形成することができる。具体的には、図6(a)に踏面成形面11aの拡大平面図を示し、図6(b)に金型10の踏面成形面11a側の幅方向に沿う拡大断面図を示すように、本実施形態にかかるタイヤ成形用金型10は、タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面11aの全体に、凹部12を多数有している。そして、踏面成形面の少なくとも一部(図示例では全面)が、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となる表面粗さを有する。なお、図6では、凹部12が半球状の凹部である場合を示しているが、本発明の金型では、凹部12は、裁頭半球状、裁頭円錐状、裁頭角錐状、円柱状または角柱状の凹部であっても良い。
すなわち、この金型10を用いた、タイヤの加硫工程では、金型10の踏面成形面11aの表面形状が、タイヤのトレッド部踏面の表面形状として転写される。そして、製造されたタイヤのトレッド部踏面には、突起部9が多数形成され、トレッド部踏面は、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となる表面粗さとなる。従って、氷上性能および雪上性能に優れたタイヤを成形することができる。
以下、金型10の踏面成形面11aを形成する方法について説明する。
【0027】
上記踏面成形面11aは、図7に示すような、特定の形状の投射材を投射して成形面に衝突させる、投射材投射工程によって形成することができる。そして、この投射材投射工程を経て得られるタイヤ成形用金型は、踏面成形面が、上記のような、凹部12を多数有し、踏面成形面の少なくとも一部が、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となる表面粗さを有するものとなるため、この金型を用いて加硫成形されるタイヤのトレッド部踏面が、上記のような、輪郭曲線要素の平均高さRcが、1μm以上50μm以下となる表面粗さを有するものとなる。
ここで、この投射材投射工程において、上記踏面成形面11a(全面又は一部)は、真球度15μm以下の球形の投射材を投射して衝突させることにより形成することが好ましい。
なぜなら、投射材の真球度を15μm以下とすることにより、金型の踏面成形面に、所望の性状の凹部を多数形成することができるからであり、この金型を用いて成形するタイヤのトレッド部踏面を所望の表面形状とすることができるからである。
【0028】
なお、投射材の真球度は、10μm以下であることがより好ましい。
投射材の真球度を10μm以下とすれば、金型の踏面成形面に、所望の性状の凹部を容易に多数形成することができるので、その金型を用いて形成したタイヤのトレッド部踏面に所望の形状の突起部を多数形成して、氷上性能および雪上性能にさらに優れたタイヤを成形することができるからである。
また、投射材の真球度は、5μm以下であることがさらに好ましい。
これにより、金型の踏面成形面に、所望の性状の凹部をより容易に形成することができるからである。
【0029】
ここで、投射材投射工程に用いる投射材の平均粒径は、10μm〜1mmであることが好ましい。
なぜなら、投射材の平均粒径を10μm以上とすることにより、踏面成形面に所望の凹部形状を有する金型が得やすくなり、また、投射材投射工程において、高圧下での投射の際に、投射材が周囲に飛散するのを抑制することができ、一方で、投射材の平均粒径を1mm以下とすることにより、金型表面を早期に摩耗させるのを抑制することができるからである。
同様の理由により、投射材の平均粒径は、20μm〜0.7mmとするのがより好ましく、30μm〜0.5mmとするのがさらに好ましい。
ここで、「平均粒径」とは、SEMにより投射材の写真を撮影し、投射材を任意に10個取り出し、それぞれの投射材に接する内接円の直径と外接円の直径との平均を求め、これらを当該10個の投射材で平均した値をいうものとする。
【0030】
また、投射材のモース硬度は、2〜10とするのが好ましい。
なぜなら、投射材のモース硬度を2以上とすることにより、踏面成形面に所望の凹部形状を有する金型が得やすくなるからである。一方、投射材のモース硬度を10以下とすることにより、金型が早期に痛むのを軽減することができるからである。
同様の理由により、投射材のモース硬度は、3.0〜9.0とするのがより好ましく、5.0〜9.0とするのがさらに好ましい。
また、タイヤ成形用金型のモース硬度は、2.0〜5.0であることが好ましく、タイヤ成形用金型と、投射材とのモース硬度の差は、3.0〜5.0であることが好ましい。
【0031】
さらに、投射材の比重は、0.5〜20とするのが好ましい。
なぜなら、投射材の比重を0.5以上とすることにより、投射工程における投射材の飛散を抑制して作業性を向上させることができるからである。一方、投射材の比重を20以下とすることにより、投射材を加速するためのエネルギーを低減することができ、また、金型の早期の摩耗を抑制することができるからである。
同様の理由により、投射材の比重は、0.8〜18とするのがより好ましく、1.2〜15とするのがさらに好ましい。
【0032】
ここで、投射材の材料は特には限定しないが、例えば、ジリコン、鉄、鋳鋼、セラミックス等を用いることが好ましい。
【0033】
また、投射材投射工程においては、投射材を、上記金型の踏面成形面に、100〜1000kPaの高圧空気で、30秒間〜10分間投射するのが好ましい。
なぜなら、投射材を100kPa以上で、30秒以上投射することにより、踏面成形面を満遍なく、上記した所望の形状にすることができ、一方で、投射材を1000kPa以下で、10分以下投射することにより、踏面成形面を損傷させるのを抑制することができるからである。
なお、投射材の比重や投射圧力を調整して、投射材の投射速度を0.3〜10(m/s)とするのが好ましく、0.5〜7(m/s)とするのがより好ましい。
このとき、投射材の投射用のノズルと、タイヤ成形用金型との距離を、50〜200(mm)とすることが好ましい。
ここで、上記投射材の投射時間とは、金型1個当たりの投射時間をいい、例えば金型9個でタイヤを成形する場合には、1個のタイヤを成形する金型9個の踏面成形面に、合計270秒間〜90分間投射することが好ましい。
なお、金型1個の踏面成形面への投射材の投射は、金型の形状等を考慮しながら、作業者が投射する位置をずらしつつ行うことができる。このようにすれば、投射材をより均一に投射することができる。
【0034】
ここで、この金型10では、踏面成形面が、輪郭曲線要素の平均高さRcが、10μm以上40μm以下となる表面粗さを有するものであることが好ましい。形成したタイヤのトレッド部踏面の少なくとも一部が、輪郭曲線要素の平均高さRcが、10μm以上40μm以下となる表面粗さを有するものとなるようにタイヤを成形することができ、タイヤの氷上性能および雪上性能にさらに優れたタイヤを成形することができるからである。なお、踏面成形面の輪郭曲線要素の平均高さRcは、投射速度を調整することにより、制御することができる。具体的には、投射速度を大きくすると、輪郭曲線要素の平均高さRcを大きくすることができる。
【0035】
また、この金型10では、凹部12の形状が半球状であることが好ましい。凹部12の形状が半球状であれば、タイヤのトレッド部踏面に半球状の突起部9を形成することができるからである。なお、凹部12の形状は、投射材の粒径及び噴射速度、投射角度を調整することにより、制御することができる。
【0036】
更に、この金型10では、凹部12の深さhが1〜50μmであることが好ましい。凹部12の深さhを1〜50μmとすれば、タイヤのトレッド部踏面に高さが1〜50μmの突起部9を形成することができるからである。なお、凹部12の深さhは、投射速度を調整することにより、制御することができる。具体的には、投射速度を大きくすると、深さhを大きくすることができる。
ここで、凹部12の深さは、凹部12の最深部(径方向内端)を通って延びる径方向線に直交する第3仮想平面と、凹部12の外輪郭線に接し且つ前記径方向線に直交する仮想平面のうち前記第3仮想平面に最も近い第4仮想平面との間の径方向に沿う距離をいうものとする。因みに、「径方向」とは、円環状の踏面成形面の径方向、即ち、金型10を用いて成形されるタイヤのタイヤ径方向に対応する方向を指す。
なお、凹部12の深さは、SEM、マイクロスコープにより測定することができる。
【0037】
加えてまた、本発明のタイヤ成形用金型は、タイヤ成形用の金型であって、タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面を有し、該踏面成形面の少なくとも一部に、深さhが20μmを超える凹部を80個/mm2以上の個数密度で形成することが好ましい。
これにより、上記した、トレッド部踏面の少なくとも一部に、高さが20μmを超える突起部を80個/mm2以上の個数密度で形成した、氷上性能および雪上性能に優れるタイヤを成形することができるからである。
同様に、さらに所望のトレッド部踏面の表面性状を得るために、深さが20μmを超える凹部の個数密度が、150個/mm2以上となることがさらに好ましい。より好適には、深さが20μmを超える凹部の個数密度が、150個/mm2以上、250個/mm2以下となることがさらに望ましい。また、好適な凹部の深さとしては、30μmを超える凹部が100個/mm2以上の個数密度であることが望ましい。また、凹部の高さは50μm未満であることが望ましい。
なお、金型の踏面成形面の凹部の個数密度は、投射材の粒径や粒個数を調整することにより、制御することができる。具体的には、投射材の粒個数を多くすると、個数密度を大きくすることができる。また、投射材の粒径を大きくすると、個数密度を小さくすることができる。また、金型の踏面成形面の凹部の深さは投射材の投射速度を調整することにより、制御することができる。具体的には、投射材の投射速度を大きくすると、深さを大きくすることができる。
ここで、本発明において「凹部の個数密度」及び「凹部の深さ」は、例えば、トレッド部踏面をSEM、マイクロスコープにより拡大して測定することができる。
【0038】
ここで、本発明のタイヤ成形用金型は、タイヤ成形用の金型であって、タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面を有し、該踏面成形面の少なくとも一部が、粗さモチーフ上限長さAが、5μm以上100μm以下となる表面粗さを有することが好ましい。
これにより、上記した、トレッド部踏面の少なくとも一部が、粗さモチーフ上限長さAが、5μm以上100μm以下となる表面粗さを有する、氷上性能および雪上性能に優れるタイヤを成形することができるからである。
ここで、金型の踏面成形面は、粗さモチーフ上限長さAが、20μm以上80μm以下となる表面粗さであるような表面性状を有していることが好ましい。形成したタイヤのトレッド部踏面を粗さモチーフ上限長さAが、20μm以上80μm以下となる表面粗さを有するような表面性状として成形することができ、タイヤの氷上性能および雪上性能にさらに優れたタイヤを成形することができるからである。
凹部12の粗さモチーフ上限長さAは、投射材粒径を調整することにより、制御することができる。具体的には、投射材粒径を大きくすると、粗さモチーフ上限長さAを大きくすることができる。
【0039】
さらにまた、本発明のタイヤ成形用金型は、タイヤ成形用の金型であって、タイヤのトレッド部踏面を成形する踏面成形面を有し、該踏面成形面の少なくとも一部が、輪郭曲線の最大山高さRpが、5μm以上70μm以下となる表面粗さを有することが好ましい。
これにより、上記した、トレッド部踏面の少なくとも一部が、輪郭曲線の最大山高さRpが、5μm以上70μm以下となる表面粗さを有する、氷上性能および雪上性能に優れるタイヤを成形することができるからである。
ここで、金型の踏面成形面は、輪郭曲線の最大山高さRpが、10μm以上40μm以下となるような表面性状を有していることがさらに好ましい。形成したタイヤのトレッド部踏面を、輪郭曲線の最大山高さRpが、10μm以上40μm以下となるような表面性状として成形することができ、氷上性能および雪上性能に優れたタイヤを成形することができるからである。
踏面成形面の輪郭曲線の最大山高さRpは、投射速度を調整することにより、制御することができる。具体的には投射速度を大きくすると、輪郭曲線の最大山高さRpを大きくすることができる。
【0040】
ここで、金型の踏面成形面の十点平均粗さRzは、1.0〜50μmであることが好ましい。トレッド部踏面の十点平均粗さRzが、1.0〜50μmであるタイヤを成形することができるからである。
なお、投射材投射工程において用いる投射材の平均粒径を50〜400μmとすることにより、上記の範囲の十点平均粗さRzを有する踏面成形面を備えるタイヤ成形用金型を得ることができる。
【0041】
また、金型の踏面成形面の凹部の局部山頂の平均間隔は、5.0〜100μmであることが好ましい。タイヤのトレッド部踏面に形成した突起部の局部山頂の平均間隔Sが5.0〜100μmである、タイヤを成形することができるからである。
なお、投射材投射工程において用いる投射材の平均粒径を50〜400μmとすることにより、上記の範囲の平均間隔Sを有する踏面成形面を備えるタイヤ成形用金型を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(タイヤ成形用金型の製造)
アルミニウム製のタイヤ成形用金型の踏面成形面に対し、投射条件(投射圧力、投射速度など)を変更して投射材(セラミック系)を投射し、表1に示す表面性状の踏面成形面を有するタイヤ成形用金型1〜4を製造した。なお、作製した金型の踏面成形面の表面性状は、SEMおよびマイクロスコープを用いて測定した。
【0044】
【表1】
【0045】
(タイヤの製造)
作製したタイヤ成形用金型1〜4をそれぞれ用いて、常法に従いタイヤサイズ205/55R16のタイヤ1〜4をそれぞれ製造した。そして、作製したタイヤのトレッド部踏面の表面性状をSEMおよびマイクロスコープを用いて測定した。結果を表2に示す。
また、作製した各タイヤの氷上性能および雪上性能を下記の評価方法で評価した。結果を表2に示す。
【0046】
<氷上性能>
作製直後のタイヤを適用リムに組み込み、JATMAに規定の正規内圧を充填して車両に装着した。そして、前輪1輪当たりの荷重を4.3kNとして、凍結路において、速度30km/hの条件下で氷上摩擦係数を測定した。タイヤ1の氷上摩擦係数を100として各タイヤの氷上摩擦係数を指数評価した。表2に結果を示す。表2中、数値が大きいほど氷上摩擦係数が大きく、氷上性能が優れていることを示す。
<雪上性能>
作製直後のタイヤを適用リムに組み込み、JATMAに規定の正規内圧を充填して車両に装着した。そして、前輪1輪当たりの荷重を4.3kNとして、積雪路において、速度30km/hの条件下で雪上摩擦係数を測定した。タイヤ1の雪上摩擦係数を100として各タイヤの雪上摩擦係数を指数評価した。表2に結果を示す。表2中、数値が大きいほど雪上摩擦係数が大きく、雪上性能が優れていることを示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すように、実施例にかかるタイヤは、比較例及び従来例にかかるタイヤよりも氷上性能及び雪上性能に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、氷上性能および雪上性能を向上させたタイヤ、並びに、該タイヤを成形し得るタイヤ成形用金型を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 突起部
3 空隙
4 ビード部
4a ビードコア
5 サイドウォール部
6 トレッド部
7 カーカス
8 ベルト
8a、8b ベルト層
9 突起部
10 金型
11 成形面
11a 踏面成形面
11b サイドウォール部成形面
11c ビード部成形面
12 凹部
20 タイヤ
T 路面
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図4