(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018769
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】温度管理システム
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20161020BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
E04G21/02 104
C04B40/02
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-48420(P2012-48420)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-185296(P2013-185296A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】柳井 修司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢三
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】熊部 淳
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 有寿
(72)【発明者】
【氏名】温品 達也
【審査官】
津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】
特公平05−084348(JP,B2)
【文献】
特開平07−243260(JP,A)
【文献】
特開2000−328786(JP,A)
【文献】
特開2006−008431(JP,A)
【文献】
特開平04−031564(JP,A)
【文献】
特開2004−360333(JP,A)
【文献】
特開平11−141129(JP,A)
【文献】
特開平07−145668(JP,A)
【文献】
特開2001−073557(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2006−0098407(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、
前記コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、
前記第一の配管から前記冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、
前記第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、
前記コンクリート構造物に埋設された温度センサと、
前記貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、
前記温度センサにより測定された温度に基づいて、前記貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記貯留槽に貯留された液体を前記コンクリート構造物の外側に供給する第三の配管と、
を備え、
前記冷却孔は、前記コンクリート構造物の内部において鉛直方向に延在し、前記冷却孔の上端部は開口されており、前記冷却孔の下端部は有底とされている、温度管理システム。
【請求項2】
コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、
前記コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、
前記第一の配管から前記冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、
前記第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、
前記コンクリート構造物に埋設された温度センサと、
前記貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、
前記温度センサにより測定された温度に基づいて、前記貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記貯留槽に貯留された液体を前記コンクリート構造物の内部であって外面近傍に設けられた加温孔に供給する第三の配管と、
を備え、
前記冷却孔は、前記コンクリート構造物の内部において鉛直方向に延在し、前記冷却孔の上端部は開口されており、前記冷却孔の下端部は有底とされている、温度管理システム。
【請求項3】
前記冷却孔は、前記コンクリート構造物を形成するセメント系材料の硬化物により構成されている、請求項1又は2に記載の温度管理システム。
【請求項4】
前記コンクリート構造物は、超高強度コンクリートの硬化物により構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度管理システム。
【請求項5】
コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、
前記コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、
前記第一の配管から前記冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、
前記第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、
前記コンクリート構造物に埋設された温度センサと、
前記貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、
前記温度センサにより測定された温度に基づいて、前記貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記貯留槽に貯留された液体を前記コンクリート構造物の外側に供給する第三の配管と、
を備え、
前記温度センサは、鉛直方向において前記コンクリート構造物の略中央部であり且つ水平方向において前記コンクリート構造物の外面及び前記冷却孔の内面から最も離れた部分に埋設されている、温度管理システム。
【請求項6】
コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、
前記コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、
前記第一の配管から前記冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、
前記第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、
前記コンクリート構造物に埋設された温度センサと、
前記貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、
前記温度センサにより測定された温度に基づいて、前記貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように前記加熱手段を制御する制御手段と、
前記貯留槽に貯留された液体を前記コンクリート構造物の内部であって外面近傍に設けられた加温孔に供給する第三の配管と、
を備え、
前記温度センサは、鉛直方向において前記コンクリート構造物の略中央部であり且つ水平方向において前記コンクリート構造物の外面及び前記冷却孔の内面から最も離れた部分に埋設されている、温度管理システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記貯留槽に貯留された液体の温度が式(1)で表される設定温度T1となるように前記加熱手段を制御する、請求項5又は6に記載の温度管理システム。
T1=T0−α・・・(1)
式(1)中、T0は前記温度センサにより測定された温度(℃)を示し、αは調整温度(℃)を示し且つ以下の条件を満たす。
α≦15
【請求項8】
αが0<α≦15の条件を満たす、請求項7に記載の温度管理システム。
【請求項9】
前記貯留槽に設けられた温度センサをさらに備え、
前記制御手段は、当該温度センサにより測定された温度に基づいて、フィードバック制御をすることによって前記加熱手段を制御する、請求項5〜8のいずれか一項に記載の温度管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート構造物の施工に使用されるセメント系材料(コンクリート、モルタル、セメントペースト等)は、硬化する際に水和熱を発する。この際、コンクリート構造物の外面は放熱しやすく、内部は放熱しにくいため、コンクリート構造物の内外に温度差が生じる。この温度差が大きいと、コンクリート構造物の内外における熱膨張量の差が大きくなり、ひび割れ等が発生する場合がある。このようなひび割れ等を防止するための様々な技術が従来から提案されている(例えば特許文献1〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−84348号公報
【特許文献2】特開平7−145668号公報
【特許文献3】特開2008−254254号公報
【特許文献4】特開平8−338129号公報
【特許文献5】特開2009−30246号公報
【特許文献6】特許第4437072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、高層ビル等の建設分野においては、構造物における空間を確保しつつ、構造物全体の強度を確保するために、強度の高い超高強度コンクリートが使用される場合がある。超高強度コンクリートは、セメント系材料中におけるセメントの割合が比較的高いため、発熱量が大きく、構造物の内外の温度差が大きくなりやすい。また、橋脚等の土木分野においては、構造物全体の強度を確保するために、構造物が大きく設計される場合がある。構造物が大きくなる程、構造物の内部はより放熱しにくくなるため、構造物の内外の温度差が大きくなりやすい。このため、コンクリート構造物の内外の温度差をより小さくすることができる技術の開発が望まれている。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、コンクリート構造物の打設後に、コンクリート構造物の内外の温度差を小さくすることができる温度管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る温度管理システムは、コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、第一の配管から冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、コンクリート構造物に埋設された温度センサと、貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、温度センサにより測定された温度に基づいて、貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように加熱手段を制御する制御手段と、貯留槽に貯留された液体をコンクリート構造物の外側に供給する第三の配管と、を備える。また、本発明に係る温度管理システムは、コンクリート構造物の打設後に適用される温度管理システムであって、コンクリート構造物の内部に設けられた冷却孔に対して液体を供給する第一の配管と、第一の配管から冷却孔に供給された液体を回収する第二の配管と、第二の配管からの液体を貯留する貯留槽と、コンクリート構造物に埋設された温度センサと、貯留槽に貯留された液体を加熱する加熱手段と、温度センサにより測定された温度に基づいて、貯留槽に貯留された液体を所定の温度に加熱するように前記加熱手段を制御する制御手段と、貯留槽に貯留された液体をコンクリート構造物の内部であって外面近傍に設けられた加温孔に供給する第三の配管と、を備えるものであってもよい。
【0007】
これらの温度管理システムでは、第一の配管によりコンクリート構造物の冷却孔に供給された液体は、コンクリート構造物の内部の冷却に使用されることにより加温される。加温された液体は、第二の配管により回収され、貯留槽に貯留される。貯留槽に貯留された液体は、温度センサにより測定されたコンクリート構造物の温度に基づいて、制御手段によって制御された加熱手段により、自動的に所定の温度までさらに加熱される。そして、加熱された液体は、第三の配管によりコンクリート構造物の外側や外面近傍に設けられた加温孔に供給される。従って、コンクリート構造物は、コンクリート構造物の温度に基づいて自動的に加熱された液体により、外面側から好適に加温される。よって、上記構成の温度管理システムによれば、コンクリート構造物の打設後に、コンクリート構造物の内外の温度差を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物の打設後に、コンクリート構造物の内外の温度差を小さくし得る温度管理システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る温度管理システムの一実施形態の構成図である。
【
図2】
図1の温度管理システムの温度センサの配置位置を示す平面図である。
【
図3】本発明に係る温度管理システムの加温孔の一配置例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明に係る温度管理システムの一実施形態の構成図、
図2は
図1の温度管理システムの温度センサの配置位置を示す平面図である。
図1に示すように、温度管理システム1は、コンクリート構造物2の打設後に適用されるシステムであり、水和熱に起因するコンクリート構造物2の内外の温度差を小さくするために用いられる。温度管理システム1が適用されるコンクリート構造物2としては、建設分野においては、例えばビルの柱等があり、例えば高さ4〜8m程度、一辺0.8〜1m程度の四角柱状のものが想定される。また、土木分野においては、例えば、カルバートや橋梁の橋脚等があり、例えば高さ0.5〜10m程度、一辺0.3〜8m程度の四角柱状のものが想定される。
【0012】
コンクリート構造物2は、ここでは鉛直方向に延在する四角柱状とされている(
図2参照)。コンクリート構造物2の内部には、水(液体)を流すための冷却孔21が設けられている。冷却孔21は、ここでは四角断面の略中央部において鉛直方向に延在している。冷却孔21の上端部は開口されており、下端部は有底とされている。冷却孔21は、例えば、配管等により構成されてもよいし、コンクリート構造物2を形成するセメント系材料の硬化物により構成されてもよい。
【0013】
このようなコンクリート構造物2に適用される温度管理システム1は、冷却水槽3、第一の配管4、第二の配管5、養生水槽(貯留槽)6、熱電対(温度センサ)7、ヒーター(加熱手段)8,8、制御装置(制御手段)9、第三の配管10、型枠11及び第四の配管12を備えている。
【0014】
冷却水槽3は、冷却孔21に供給する水を貯留するための水槽である。冷却孔21に供給する水としては、例えば、工業用水、水道水、地下水、河川水、湧水等を利用できる。なお、冷却孔21に供給する水は、冷却水槽3を設けることなく、第一の配管4に直接引水されてもよい。
【0015】
第一の配管4は、冷却孔21に対して水を供給するための配管である。第一の配管4の一方端は冷却水槽3に接続され、他方端は冷却孔21の下端部付近まで挿入されている。第一の配管4には、冷却水槽3の水を吸引して冷却孔21に供給するためのポンプP1が設けられている。
【0016】
第二の配管5は、第一の配管4から冷却孔21に供給された水を回収するための配管である。第二の配管5の一方端は冷却孔21の上端部付近に配置されており、他方端は養生水槽6に接続されている。第二の配管5には、冷却孔21の水を吸引して養生水槽6に供給するためのポンプP2が設けられている。養生水槽6は、第二の配管5から送られた水を貯留する水槽である。
【0017】
熱電対7は、コンクリート構造物2の温度を測定するための温度センサであり、コンクリート構造物2に埋設されている。熱電対7は、鉛直方向において、コンクリート構造物2の略中央部に埋設されている。また、熱電対7は、水平方向において、コンクリート構造物2の四角断面の所定の角部Cと、冷却孔21の内面のうち角部Cから最も近い部分との間の略中央部に埋設されている(
図2参照)。すなわち、熱電対7は、コンクリート構造物2において放熱面(コンクリート構造物2の外面及び冷却孔21の内面)から最も離れた部分、換言すると、コンクリート構造物2において水和熱により最も温度が高くなると想定される部分の温度を測定できるように埋設されている。熱電対7は制御装置9に接続されており、測定された測定温度T0(℃)が制御装置9により検知できるようになっている。なお、熱電対7は、上述の位置以外の位置に埋設されてもよい。また、熱電対7は、複数本埋設されてもよい。
【0018】
ヒーター8,8は、養生水槽6に貯留された水を加熱するものであり、養生水槽6の内部にそれぞれ取り付けられている。ヒーター8,8は、制御装置9にそれぞれ接続されている。制御装置9は、ヒーター8,8を制御するものであり、例えば、CPU、ROM、RAM等からなる電子制御ユニットである。制御装置9は、熱電対7により測定されたコンクリート構造物2の温度に基づいて、養生水槽6に貯留された水を所定の温度に加熱するように、ヒーター8,8を制御する。
【0019】
第三の配管10は、養生水槽6に貯留された水をコンクリート構造物2の外側に供給するための配管である。第三の配管10の一方端は養生水槽6に接続されており、他方端は後述する型枠11に接続されている。第三の配管10には、養生水槽6の水を吸引してコンクリート構造物2の外側に供給するポンプP3が設けられている。
【0020】
型枠11は、コンクリート構造物2の打設の際にセメント系材料を充填させると共に、コンクリート構造物2の打設後に第三の配管10からの水をコンクリート構造物2の外側に介在させるためのものである。型枠11は、例えば四角筒状を呈している。型枠11は、ここでは二重の壁を有する構造(ハニカム構造)とされており、内側の壁である内壁11aと、外側の壁である外壁11bとを有している。内壁11aの内側には、打設の際にセメント系材料が充填される。内壁11aと外壁11bとは離間して設けられており、その間は空洞部11cとされている。空洞部11cには、打設後に第三の配管10から水が供給される。第四の配管12は、空洞部11cの水を養生水槽6に供給するための配管である。第四の配管12の一方端は型枠11に接続されており、他方端は養生水槽6に接続されている。第四の配管12には、空洞部11cの水を吸引して養生水槽6に供給するポンプP4が設けられている。
【0021】
次に、コンクリート構造物2の施工方法及び温度管理システム1の動作について説明する。
【0022】
まず、型枠11にセメント系材料を充填し、コンクリート構造物2を打設する。なお、充填するセメント系材料としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート等を使用することができる。この際、例えば、セメント系材料を充填する前に型枠11の内側に配管を設けておくことで、冷却孔21を形成する。また、例えば、セメント系材料を充填する前に型枠11の内側に熱電対7を設けておくことで、熱電対7をコンクリート構造物2に埋設する。
【0023】
続いて、打設完了後、冷却孔21の下端部付近まで第一の配管4を挿入すると共に、上端部付近まで第二の配管5を挿入する。そして、第一の配管4により、冷却水槽3の水を冷却孔21に対して供給すると共に、第二の配管5により、第一の配管4から冷却孔21に供給された水を回収して養生水槽6に供給する。なお、冷却孔21には、水を連続的に供給することが好ましいが、水を断続的に供給して一定時間冷却孔21に滞留させてもよい。また、第一の配管4及び第二の配管5は、打設完了前に冷却孔21に挿入してもよい。
【0024】
冷却孔21に供給された水により、セメント系材料の硬化により発生する水和熱が吸収され、コンクリート構造物2が内側から冷却される。一方、水和熱を吸収した冷却孔21の水は、第一の配管4から供給されたときよりも温度が上昇した状態で養生水槽6に供給される。
【0025】
養生水槽6においては、貯留された水をヒーター8,8により加熱する。この際、制御装置9は、熱電対7により測定される測定温度T0に基づいて、養生水槽6に貯留された水の温度を自動的に調整する。すなわち、制御装置9は、養生水槽6に貯留された水を以下の式(1)を満たす設定温度T1(℃)に加熱するように、ヒーター8,8を制御する。
T1=T0−α・・・(1)
但し、
α(℃):調節温度
【0026】
式(1)に示されるように、養生水槽6に貯留された水は、測定温度T0よりも調節温度α(℃)低い設定温度T1に自動的に加熱される。これにより、養生水槽6に貯留された水は、測定温度T0に追従するように自動的に温度が調整される。調節温度αは、作業者により予め制御装置9に入力することが可能である。なお、調節温度αは、負の値、すなわち、設定温度T1が測定温度T0よりも高くなるような値に設定することも可能である。また、制御装置9によるヒーター8,8の制御は、例えば、養生水槽6に温度センサを設け、フィードバック制御により実行することが可能である。
【0027】
空洞部11cにおいては、養生水槽6に貯留された水を第三の配管10により注入することで、養生水槽6に貯留された水をコンクリート構造物2の外側に供給する。空洞部11cに注入された水は養生水槽6において設定温度T1に加熱されているため、コンクリート構造物2は外面側から加温される。従って、コンクリート構造物2の内外の温度差が小さくなる。
【0028】
ここで、上述の調節温度α≦15であると、養生水槽6に貯留された水はコンクリート構造物2において最も温度が高くなると想定される部分の測定温度T0に近い温度まで充分加熱されるため、コンクリート構造物2を外面側から好適に加温することが可能となる。従って、コンクリート構造物2の内外の温度差をより小さくすることができる。また、調節温度α>0であると、養生水槽6に貯留された水はコンクリート構造物2において最も温度が高くなると想定される部分の測定温度T0よりは低い設定温度T1に加熱されるため、コンクリート構造物2を外面側から好適に加温しつつ、コンクリート構造物2全体としては好適に冷却することが可能となる。
【0029】
空洞部11cに注入した水は、第四の配管12により養生水槽6に供給され、これにより、養生水槽6と空洞部11cとの間を循環する。なお、空洞部11cに注入した水は、冷却水槽3に供給されることにより、冷却水槽3と空洞部11cとの間を循環してもよいし、温度管理システム1の外部に供給されてもよい。
【0030】
以上のように、上記構成の温度管理システム1では、第一の配管4によりコンクリート構造物2の冷却孔21に供給された水は、コンクリート構造物2の内部の冷却に使用されることにより加温される。加温された水は、第二の配管5により回収され、養生水槽6に貯留される。養生水槽6に貯留された水は、熱電対7により測定されたコンクリート構造物の測定温度T0に基づいて、制御装置9によって制御されたヒーター8,8により、自動的に設定温度T1までさらに加熱される。そして、加熱された水は、第三の配管10によりコンクリート構造物2の外側に供給される。このように、温度管理システム1では、例えば冷却孔21において加温された水をそのままコンクリート構造物2の外面側に供給するような場合に比して、より高温の水をコンクリート構造物2の外面側に供給することができる。よって、温度管理システム1によれば、コンクリート構造物2の打設後に、コンクリート構造物2の内外の温度差をより小さくすることができる。このような構成は、近年増加している超高強度コンクリートを使用したコンクリート構造物や、大きく設計されたコンクリート構造物など、構造物の内外の温度差が大きくなりやすいコンクリート構造物の施工の際に、特に有効である。
【0031】
また、温度管理システム1では、より高温の水をコンクリート構造物2の外面側に供給することができるため、セメント系材料の硬化を促進することが可能となり、コンクリート構造物2の品質を向上することができる。
【0032】
また、温度管理システム1では、制御装置9により、養生水槽6に貯留された水の温度が自動的に調整されるため、事前予測値ではなく現実の温度に基づいた管理により、より精度の高い情報で内外温度差を自動的にコントロールできると共に、作業者の負担を軽減することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、冷却孔21は、鉛直方向に延在するように設けられているが、コンクリート構造物2の内部を蛇行するように設けられていてもよい。また、冷却孔21は、複数個設けられていてもよい。
【0034】
また、上記実施形態においては、型枠11の空洞部11cに加熱された水を注入しているが、例えば、コンクリート構造物2がある程度硬化した時点で型枠11を脱枠し、コンクリート構造物2の外面に布等を当接させ、当該布等に加熱された水を浸み込ませるようにしてもよい。また、例えば、コンクリート構造物2がある程度硬化した時点で型枠11を脱枠し、コンクリート構造物2の外面にホース等を這わせ、当該ホース等に加熱された水を流すようにしてもよい。要は、養生水槽6において加熱された水によりコンクリート構造物2を外面側から加温できるように、養生水槽6に貯留された水をコンクリート構造物2の外側に供給すればよい。
【0035】
さらに、
図3は、本発明に係る温度管理システムの加温孔の一配置例を示す平面図であり、
図3に示すように、例えば、コンクリート構造物2の内部であって外面近傍に加温孔22を予め複数個(ここでは8個)設け、加熱された水を加温孔22に注入してもよい。この際、加温孔22からオーバーフローした水は、空洞部11cに貯めるようにしてもよい。また、冷却孔21を通過して温められた温水を加温孔22に配ってもよい。加温孔22について詳述すると、各加温孔22は、冷却孔21よりもコンクリート構造物2の外面に近い位置に配置され、外面に沿うように鉛直方向に延在している。各加温孔22は、ここでは、コンクリート構造物2の外面から距離d以内に収まるように設けられており、距離dの最小寸法は、鉄筋のかぶりと同等とする。構造物の条件によってかぶりは変わるため、距離dは、例えば3〜25cm程度とされている。各加温孔22の上端部は開口されており、下端部は有底とされている。なお、加温孔22は、外面に沿うように蛇行して設けられていてもよい。また、加温孔22は、1個であってもよい。各加温孔22は、例えば、配管等により構成されてもよいし、コンクリート構造物2を形成するセメント系材料の硬化物により構成されてもよい。要は、養生水槽6において加熱された水によりコンクリート構造物2を外面側から加温できるように、養生水槽6に貯留された水をコンクリート構造物2の内部のうち外面近傍に供給すればよい。
【0036】
また、上記実施形態においては、コンクリート構造物2の温度を測定する温度センサとして熱電対7を使用しているが、その他の種類の温度センサを使用できることは言うまでもない。加熱手段としてのヒーター8,8についても、同様である。
【符号の説明】
【0037】
1…温度管理システム、2…コンクリート構造物、21…冷却孔、4…第一の配管、5…第二の配管、6…養生水槽(貯留槽)、7…熱電対(温度センサ)、8…ヒーター(加熱手段)、9…制御装置(制御手段)、10…第三の配管。