(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018801
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】避雷器の故障判定方法及び故障判定装置
(51)【国際特許分類】
H01T 4/02 20060101AFI20161020BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20161020BHJP
H01C 7/12 20060101ALI20161020BHJP
H01T 15/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
H01T4/02 A
G01R31/00
H01C7/12
!H01T15/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-120811(P2012-120811)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-247015(P2013-247015A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242644
【氏名又は名称】北陸電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】松浦 進
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁志
【審査官】
段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−043379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 4/02
G01R 31/00
H01C 7/12
H01T 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
避雷素子と直列ギャップを直列に接続してなる試料避雷器の両端に直流電圧発生装置を接続する接続ステップと、
当該直流電圧発生装置で直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する印加ステップと、
試料避雷器の放電電流を検出する検出ステップと、
検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流を、互いに減衰する交流電流として比較する比較ステップと、
当該比較の結果前記減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は半波からなる第二波以降の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する主要な判定ステップを経ることを特徴とする避雷器の故障判定方法。
【請求項2】
避雷素子と直列ギャップを直列に接続してなる試料避雷器にインダクタ等の共振補助手段を直列に接続し、当該試料避雷器と共振補助手段からなる直列回路の両端に直流電圧発生装置を接続する接続ステップと、
当該直流電圧発生装置で直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する印加ステップと、
試料避雷器の放電電流を検出する検出ステップと、
検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流を、互いに減衰する交流電流として比較する比較ステップと、
当該比較の結果前記減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は半波からなる第二波以降の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する主要な判定ステップを経ることを特徴とする避雷器の故障判定方法。
【請求項3】
前記比較ステップと前記主要な判定ステップとの間に前提の判定ステップを採用し、
前提の判定ステップは、当該比較の結果直列ギャップが放電を開始する電圧が規定値以下の場合にはその試料避雷器を故障と判定すると共に、規定値を超える場合には主要な判定ステップに移行することを特徴とする前記請求項1又は請求項2のいずれかに記載の避雷器の故障判定方法。
【請求項4】
避雷素子と直列ギャップを直列に接続してなる試料避雷器の両端に接続し試料避雷器の直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置と、
試料避雷器の放電電流を検出する電流測定器と、
検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流を、互いに減衰する交流電流として比較する比較手段と、
当該比較の結果前記減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は半波からなる第二波以降の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する主要な判定手段を備えることを特徴とする避雷器の故障判定装置。
【請求項5】
避雷素子と直列ギャップを直列に接続してなる試料避雷器に直列に接続するインダクタ等の共振補助手段と、
前記試料避雷器と共振補助手段からなる直列回路の両端に接続し試料避雷器の直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置と、
試料避雷器の放電電流を検出する電流測定器と、
検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流を、互いに減衰する交流電流として比較する比較手段と、
当該比較の結果前記減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は半波からなる第二波以降の電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する主要な判定手段を備えることを特徴とする避雷器の故障判定装置。
【請求項6】
前記比較手段と前記主要な判定手段との間に前提の判定手段を採用し、
前提の判定手段は、当該比較の結果直列ギャップが放電を開始する電圧が規定値以下の場合にはその試料避雷器を故障と判定すると共に、規定値を超える場合には主要な判定手段に移行することを特徴とする前記請求項4又は請求項5のいずれかに記載の避雷器の故障判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電設備に用いられる避雷器(接地があるもの、ないものの双方を含む)、特に、内部に続流遮断機能を有する避雷素子(酸化亜鉛素子等)とギャップを直列に接続した避雷器(以下、直列ギャップを具備する避雷器と記す。)における点検・保守に関する。
【背景技術】
【0002】
直列ギャップを具備する避雷器の故障態様には、直列ギャップと避雷素子の両方が故障する場合(両故障)、直列ギャップのみが故障する場合(ギャップ故障)、及び避雷素子のみが故障する場合(素子故障)の三態様がある。
故障した避雷器は、導入当初の性能を有していないため、電力設備に対する信頼度の低下を招く。従って、配電設備に用いられる避雷器にあっては、故障態様に応じて実効性のある故障判定方法の確立が要請されている。
【0003】
直列ギャップを具備する避雷器の故障を判定する方法には、絶縁抵抗測定、放電開始電圧測定、インパルス電圧印加時の端子間電圧測定、及び漏れ電流測定(例えば下記特許文献1参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−159909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
絶縁抵抗測定及び放電開始電圧測定による故障判定は、前記両故障又はギャップ故障の場合における絶縁抵抗及び放電開始電圧の低下に基づいて可能となる。従って、前記素子故障の場合には、直列ギャップの良好な絶縁性能により、絶縁抵抗及び放電開始電圧の低下が生じないため、絶縁抵抗測定及び放電開始電圧測定による故障判定はできないという問題がある。
【0006】
インパルス電圧印加時の端子間電圧測定による故障判定は、前記素子故障の場合でも故障判定が可能であるが、一般的に装置が大型であるために、現場作業への適用が困難であるという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示された避雷器において避雷素子の状態を判定するには、避雷素子の端子間に電源装置を設置するため、避雷器の解体が必要である。従って、仮に判定の結果が正常品であったとしてもその避雷器を再度使用する事は不可能であり、事実上は避雷器の交換作業となる。この様な作業を全ての避雷器に実施していたのでは、多大な費用と労力を要し保守・メンテナンスの実用性が問題となる。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、続流遮断機能を有する避雷素子とギャップを直列に接続した避雷器において、正常品を使用不能とすることなく前記素子故障等の故障判定を正確に行うことが出来る故障判定方法及び故障判定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明による第一の避雷器の故障判定方法は、避雷素子と直列ギャップを直列に接続してなる試料避雷器(以下、直列ギャップを具備する試料避雷器と記す。)の両端に直流電圧発生装置を接続する接続ステップと、当該直流電圧発生装置で直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧(例えば約20kV以上)を印加する印加ステップと、試料避雷器の放電電流を検出する検出ステップと、検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として比較する比較ステップと、当該比較の結果前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する
主要な判定ステップを経ることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明による第二の避雷器の故障判定方法は、直列ギャップを具備する試料避雷器にインダクタ等の共振補助手段を直列に接続し、当該試料避雷器と共振補助手段からなる直列回路の両端に直流電圧発生装置を接続する接続ステップと、当該直流電圧発生装置で直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧(例えば約20kV以上)を印加する印加ステップと、試料避雷器の放電電流を検出する検出ステップと、検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として比較する比較ステップと、当該比較の結果前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する
主要な判定ステップを経ることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明による第三の避雷器の故障判定方法は、
前記比較ステップと前記主要な判定ステップとの間に前提の判定ステップを採用し、前提の判定ステップは、当該比較の結果直列ギャップが放電を開始する電圧が規定値以下の場合
にはその試料避雷器を故障と判定すると共に、規定値を超える場合には主要な判定ステップに移行する。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明による第一の避雷器の故障判定装置は、直列ギャップを具備する試料避雷器の両端に接続し試料避雷器の直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置と、試料避雷器の放電電流を検出する電流測定器と、検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として比較する比較手段と、当該比較の結果前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する
主要な判定手段を備えることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明による第二の避雷器の故障判定装置は、直列ギャップを具備する試料避雷器に直列に接続するインダクタ等の共振補助手段と、前記試料避雷器と共振補助手段からなる直列回路の両端に接続し試料避雷器の直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置と、試料避雷器の放電電流を検出する電流測定器と、検出した試料避雷器の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として比較する比較手段と、当該比較の結果前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する
主要な判定手段を備えることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するためになされた本発明による第三の避雷器の故障判定装置は、
前記比較手段と前記主要な判定手段との間に前提の判定手段を採用し、前提の判定手段は、当該比較の結果直列ギャップが放電を開始する電圧が規定値以下の場合
にはその試料避雷器を故障と判定すると共に、規定値を超える場合には主要な判定手段に移行する。
【発明の効果】
【0015】
以上の如く、本発明による避雷器の故障判定方法によれば、従来の方法では不十分であった直列ギャップを具備する避雷器の故障判定を非破壊で行うことができ、電力設備に用いられる直列ギャップを具備する避雷器の保守・メンテナンスの技術向上及び効率化が図られる。
【0016】
また、直流電圧印加時の直列ギャップを具備する試料避雷器の放電電流を測定する方法を採ったことにより、大掛かりな装置が不要であり、試料避雷器への接続を現地において行うことが可能となる。
【0017】
更に、放電電流の第一波と第二波以降の形状が異なることに着目し、第一波の
電荷量または波高値と第二波以降の
電荷量または波高値に分けて、規定値以上の較差がある場合にその試料避雷器を故障と判定する判定ステップ(手段)を採用することによって、比較的単純な比較手法でありながらも、従来に増して正確な判定結果を得ることができる(
図6参照)。
【0018】
固有のインダクタンスやキャパシタンスが小さい避雷素子を具備する避雷器(直列ギャップを具備する避雷器)を試料避雷器とした場合であっても、当該避雷器に対して共振補助手段を直列に挿入することによって、故障判定を可能とする放電電流(波形)を検出することができる。
また、直列ギャップが放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加することによって能動的に直列ギャップを放電させ、その際に避雷器を通過する放電電流を測定することによって、直列ギャップを具備する避雷器の故障を非破壊の下で判定することができる。
【0019】
この様に、事前に同じ条件下で正常品の放電電流を取得しておき、測定した試料避雷器の放電電流と比較することにより故障判定を行う方法を採ることによって(
図5参照)、当該試料避雷器についての特性を適宜監視することができ、前記素子故障等に至っている避雷器を早期に発見することができる(
図6参照)。その結果、各避雷器において所望の品質を特性上においても確実に維持することができるので、電力設備の信頼度維持が図られ、電力設備に用いられる直列ギャップを具備する避雷器の保守・メンテナンスの技術向上及び効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による第一及び第二の避雷器の故障判定方法の判定ステップの一例を説明する表及びフローチャートである。
【
図2】本発明による第三の避雷器の故障判定方法の判定ステップの一例を説明するフローチャートである。
【
図3】本発明による避雷器の故障判定方法が用いられる避雷器及び測定回路並びにそれらの等価回路の一例である。
【
図4】本発明による避雷器の故障判定方法に用いられる装置の一例を示す構成図である。
【
図5】本発明による避雷器の故障判定方法が用いられた避雷器(正常品及び故障品)の放電電流の減衰特性の比較例を示すグラフである。
【
図6】本発明による避雷器の故障判定方法の実績の一部を示す表である。
【
図7】本発明による避雷器の故障判定方法が用いられた避雷器(正常品)の放電電流の共振補助手段別減衰特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による直列ギャップを具備する避雷器の故障判定方法の実施の形態を図面に基づき説明する。
図3(A)は、直列ギャップを具備する避雷器の一例を示す概略図、及び故障判定装置の回路図である。
前記試料避雷器1は、図の通り避雷素子2と直列ギャップ3とが直列に接続された避雷器であって、これは、
図3(B)の破線内に示す簡略化した等価回路で表現することができる。
【0022】
本発明は、避雷器固有の時間対放電電流特性を利用することにより、前記素子故障を含む避雷器の故障判定を可能とするものである。具体的には、直列ギャップ3が放電する電圧を印加した際の瞬時電圧に伴う放電電流の過渡現象であって、印加時間が制限された直流パルス電圧を印加した場合や、印加後も継続して印加され続ける所謂直流電圧を印加した場合の過渡現象を含む。
【0023】
一般的に、この様な避雷器には、固有の抵抗R、インダクタンスL、又はキャパシタンスCの各成分が含まれている。直流電圧(パルス状のものを含む)を印加すると、当該インダクタンスLとキャパシタンスCに基づく周波数f1の共振(下記数1参照)が生じているものと考えられ、上記避雷器固有の放電電流特性について、試料避雷器1と正常な避雷器とを比較する方法においては、この共振が、故障判定に有利な固有の振幅や周期等の減衰特性をもたらし正確な故障判定に寄与しているものと考えられるに至った。
本発明による避雷器の故障判定方法は、前記試料避雷器1を含む回路の両端に直流電圧発生装置5を接続する接続ステップを経る(
図3から共振補助手段4を取り除いた形となる)。
【0025】
今日供給されている種々の避雷器には、故障判定に十分な固有の振幅や減衰特性が得られる固有のインダクタンスLやキャパシタンスCを持つ避雷器も存在するが、なかには固有のインダクタンスLやキャパシタンスCが小さい避雷器も少なからず存在し、共振が抑えられることによって故障判定に有利な固有の振幅や減衰特性が得られず、正確な故障判定ができない場合もある。
【0026】
この様に、固有のインダクタンスLやキャパシタンスCが小さい試料避雷器1については、試料避雷器1の一方の端子に、共振補助手段4としてインダクタを直列に接続することによって試料避雷器1と共振補助手段4からなる直列回路を形成し、当該直列回路の両端に直流電圧発生装置5を接続する接続ステップを経る(
図3参照)。
【0027】
次に、当該直流電圧発生装置5で直列ギャップ3が放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する印加ステップを経て、前記試料避雷器1又は上記の如く共振補助手段4を直列に挿入した直列回路に直流電圧を印加することによって、試料避雷器1が持つ固有のインダクタンスL及びキャパシタンスCによる前記周波数f1の共振、又は当該共振補助手段4のインダクタンスLoと試料避雷器1が持つ固有のインダクタンスL及びキャパシタンスCが相俟った故障判定に有利な周波数f2の共振(下記数2参照)を誘発させる。
【0029】
一方、避雷器が故障すると、内部の避雷素子2の抵抗RやキャパシタンスCの値が変化し、放電電流の振幅、振動数、又は振動周期が変化する(前記数1及び数2参照)。
この様な事象を検出することによって故障判定が可能となる。
【0030】
本発明による直列ギャップを具備する避雷器の故障判定方法は、その際、試料避雷器1の放電電流を電流測定器6で検出する検出ステップと、検出した試料避雷器1の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として計算機7(
図4参照)の比較手段で比較する比較ステップと、当該計算機7の
主要な判定手段で当該比較の結果、前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合に、その試料避雷器1を故障と判定する
主要な判定ステップを経るものである。
なお「半波の電荷量」とは、交流電流において正・負の両方の方向に交互に流れている電流のうち半波の波形と、電流が0の値をとる時間軸とで挟まれた領域の面積、言い換えれば振幅の積分値のことである。
また「第一波」とは、直流電圧印加後最先の隣接ゼロクロス点間に生じる最大の半波のことであり、「第二波」とは、第一波の直後の半波であって、第一波とは正・負を逆にした半波のことである。
なお電荷量および波高値は、振動する放電電流に関する比較対象の値(量)であり、図1及び図2においては、これら値(量)を総称して、振動量と表示している。
【0031】
上記避雷器の故障判定方法を実施するには、前記試料避雷器1の両端に接続し試料避雷器1の直列ギャップ3が放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置5と、試料避雷器1の放電電流を検出する電流測定器6と、検出した試料避雷器1の放電電流と正常な避雷器の同じ条件下における放電電流
を、互いに減衰する交流電流として比較する比較手段と、当該比較の結果、前記
減衰する交流電流のうち放電直後の半波からなる第一波の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合、又は
半波からなる第二波以降の
電荷量または波高値に規定値以上の較差がある場合に、その試料避雷器1を故障と判定する
主要な判定手段を備える避雷器の故障判定装置を用いる(
図4参照)。
【0032】
当該例における比較手段は、振動
する放電電流、即ち、印加後における各時点の瞬時値を
半波ごとに比較し、振幅のゼロクロスの時点を比較するものであって、当該例における
主要な判定手段は、
半波のゼロクロスの時点における各瞬間での振幅の積分値(電荷
量)について、正常品に対する比率等を以って規定値を設定したものである(電荷
量比較)が、波高値そのものについて、正常品に対する比率等を以って規定値を設定してもよい(波高値比較)。
【0033】
尚、固有のインダクタンスLやキャパシタンスCが小さい試料避雷器1については、先に記した如く、更に、前記試料避雷器1に直列に接続する共振補助手段4と、前記試料避雷器1と当該共振補助手段4からなる直列回路の両端に接続し試料避雷器1の直列ギャップ3が放電を開始する電圧以上の直流電圧を印加する直流電圧発生装置5が必要となる(
図4参照)。
【0034】
<共振補助手段の選定>
前記共振補助手段4の選定は、以下の通りである。
直列ギャップを具備する避雷器の故障判定に適した共振補助手段4を選定するために、
サンプル1:インダクタンス=5μH、
サンプル2:インダクタンス=15μH、
サンプル3:インダクタンス=25μH、
からなる三つのインダクタを共振補助手段4として前記直列回路へ個別に挿入し、20kV以上の直流電圧を印加した場合について放電電流を測定した(
図7参照)。
その結果、サンプル1は、共振時間が短く、サンプル3は、振幅が小さいので故障判定が困難である。よってサンプル2が共振補助手段4として望ましい。
【0035】
<故障判定>
サンプル2を共振補助手段4として採用し、事前に商用周波大電流を注入して内部の避雷素子2を故障させた配電設備に用いられる試料避雷器1の38個について故障判定を行った。
例えば、
図5(A)では、避雷素子2の抵抗RとキャパシタンスCが低下したことによって、振幅の低下、振動数の減少、及び振動周期の減少がみられる。
【0036】
測定された正常品と故障品の放電電流波形を比較すると、一般的に、正常品では五回程度の顕著な振動が見られるが、故障品では全ての振幅が低下し、振動数も三回程度に減少する傾向が見られる。第一波と第二波以降を分離観察すれば、少なくとも、第一波で過渡現象における放電規模が評価でき、第二波以降で減衰特性を簡略に評価できる。
【0037】
<判定精度>
前記試料避雷器1の38個について、電荷比較及び波高値比較(共振補助手段あり)による故障判定方法と、第一の方法:直流放電開始電圧測定と第二の方法:絶縁抵抗測定からなる2通りの方法とで判定精度を比較した(
図6参照)。これらの結果、本発明による故障方法では、故障した試料避雷器の検出率が電荷比較で89.5%、波高値比較で63.2%であった。一方、第一の方法では、39.5%、第二の方法では、5.3%であった。
【0038】
以上の如く、第一の方法又は第二の方法では不十分であった直列ギャップ3を具備する避雷器の故障判定が、避雷器を解体することなく実施可能となる他、インダクタンスLやキャパシタンスCが小さい避雷器に対しても、精度よく故障判定ができ、故障している避雷器を精度よく発見することにより、故障避雷器が原因となる停電を未然に防止できるという実用効果が検証できた。
【0039】
また、装置にあっても、20kV前後の直流電圧を発生できる直流電圧発生装置5と、前記直列回路を通過する電流を検出する電流測定器6、並びにその測定器の出力を記録・演算する(保存し比較し評価する)計算機7のみからなる簡易な装置であることから(
図4参照)、持ち運びに不便となるほどの大型になることはなく、現地において避雷器を取り外さずに故障判定できる。尚、比較は、上記手法の他、数値、チャートのパターン等のいずれで比較しても良い。
【0040】
本発明による避雷器の故障判定方法の第一の実施の形態は、試料避雷器1における第一波の振幅の積分値s1又は波高値h1(
図1及び
図2においては、振動量1)が、同じ製品の正常品の平均値に対して所定範囲(当該例では±20%の範囲)を超える場合に故障と判定する第一のステップと、故障と判定されなかった場合には、更に、第二波以降の個々の波の積分値(絶対値)の総和s2+s3+s4+s5+s6+・・・(
図1及び
図2の例では、s2+・・+s6)又は第二波の波高値h2(
図1及び
図2における振動量2)が、同じ製品の正常品の平均値に対して所定範囲(当該例では±20%の範囲)を超える場合に故障と判定する第二のステップ
からなる主要な判定ステップを、計算機の主要な判定手段が行うステップとして備え、
この主要な判定ステップを経て故障と判断されなかったものを正常品と判定するものである(
図1(B)参照)。
尚、
図5(B)は、振動量1で判定可能な例であり、
図5(C)は、振動量2で判定可能な放電電流の例である。
【0041】
<直列ギャップ故障判定機能の付与>
第二の実施の形態は、更に直列ギャップの故障判定を行う機能を付与すべく、前記第一のステップ及び第二のステップ
からなる主要な判定ステップの前段に、試料避雷器1の直列ギャップ3が放電を開始する電圧が規定値以下の場合に、その試料避雷器1を故障と判定する第三のステップ
からなる前提の判定ステップを
、計算機の前提の判定手段が行うステップとして置くものである。即ち、当該第三のステップで正常品と判断された試料避雷器1について、続けて前記第一の実施の形態を施すものである(
図2参照)。
上記手法を採用したことにより、直列ギャップ3の故障を発見する機能が加わり、試料避雷器1の故障をより精度よく判定することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 試料避雷器,2 避雷素子,3 直列ギャップ,
4 共振補助手段,5 直流電圧発生装置,6 電流測定器,7 計算機,