特許第6018842号(P6018842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018842ダイアフラムポンプおよびインクジェットプリンタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018842
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ダイアフラムポンプおよびインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   F04B 43/02 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   F04B43/02 E
   F04B43/02 B
   F04B43/02 M
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-188352(P2012-188352)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-47624(P2014-47624A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 隆康
(72)【発明者】
【氏名】古川 普弘
(72)【発明者】
【氏名】竹本 博人
(72)【発明者】
【氏名】西川 源之
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭42−012373(JP,B1)
【文献】 特開平03−206378(JP,A)
【文献】 特開平01−142284(JP,A)
【文献】 実開平03−112587(JP,U)
【文献】 特開2002−168176(JP,A)
【文献】 特開昭62−082286(JP,A)
【文献】 特開2000−130334(JP,A)
【文献】 特開平01−148319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアフラムの変形に伴って拡大および縮小するポンプ室を有し、当該ポンプ室の拡縮動作に伴って液体を吸込みかつ吐出するダイアフラムポンプであって、
前記ダイアフラムとして、前記液体と接する側に配置された第1の樹脂膜と、前記液体と接しない側に配置された第2の脂膜を重ね合わせたものを用い
前記第1および第2の樹脂膜の中心部にポンプ軸を挿入する孔が形成され、かつ前記第1および第2の樹脂膜は、前記ポンプ軸に取り付けられたディスクとディスクナットで挟まれ、
前記ポンプ室は、前記ポンプ軸の往復動により拡大および縮小し、
また、前記第2の樹脂膜の2面のうち前記第1の樹脂膜に対向する面に一対の極が形成され、
当該一対の極によって、前記第1の樹脂膜の破損による液体の漏洩を検出することを特徴とするダイアフラムポンプ。
【請求項2】
前記第1の樹脂膜はフッ素樹脂で作製され、前記第2の樹脂膜はポリアミド樹脂で作製されたものであることを特徴とする、請求項に記載のダイアフラムポンプ。
【請求項3】
前記ダイアフラムの近傍に、前記第1および第2の樹脂膜の破損による液体の漏洩を、一対の導線の先端部で検出するコードが設置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のダイアフラムポンプ。
【請求項4】
前記ダイアフラムとして、前記第1および第2の樹脂膜に加えて第3の樹脂膜が重ね合わされたものを用い
前記第1の樹脂膜と第3の樹脂膜で前記第2の樹脂膜を挟むように配置されていることを特徴とする、請求項1ないしのいずれかに記載のダイアフラムポンプ。
【請求項5】
タンクに貯留されたインクをプリンタヘッドに移送し、当該プリンタヘッドから被印刷物の表面に向けて噴射して印刷を行うと共に、印刷に使用されなかったインクを回収して前記タンクに戻すインクジェットプリンタであって、
前記タンクから前記インクヘッドへインクを移送する手段、前記回収されたインクを前記タンクに移送する手段、またはインクを前記タンク内で循環させる手段として、請求項1ないしのいずれかに記載のダイアフラムポンプを用いることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラムポンプおよびそれを用いたインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、大別すると、連続的にインクの液滴を吐出させ、帯電させたインクの電荷量に応じてインクの飛行方向を変更させて印字を行うコンティニュアス方式と、必要な位置に必要なときだけインク液滴を吐出するドロップオンデマンド方式とに分類される。
【0003】
これらのうちコンティニュアス方式のインクジェットプリンタでは、ガターで回収したインクがポンプによりタンクに戻され、必要に応じて粘度が調整された後に、プリントヘッドに送られて再利用される(特許文献1参照)。
【0004】
以下、図6を参照して、コンティニュアス方式のインクジェットプリンタの構成と動作を簡単に説明する。図6にインクジェットプリンタの概略構成を示す。
【0005】
インクジェットプリンタ100は、インクを貯留するメインタンク110、インクを被印刷物Pの表面に向けて噴射するプリントヘッド120、プリントヘッド120から噴射されたインクのうち印刷に使用されないインク滴Kdをメインタンク110に回収するガター131とインク回収管132、およびこれら各部材の間でインクを移送する供給管133を備えている。
【0006】
プリントヘッド120のノズル121から噴射されたインク滴Kdのうち印刷に供されるものは、帯電電極122および検知電極123の間を飛行した後、偏向電極124で偏向され、被印刷物Pの表面に付着する。一方、噴射されたインク滴Kdのうち、飛行軌道の修正を受けない、印字に無関係なインク滴Kdは、ガター131に吸込まれる。
【0007】
ガター131で収容されたインクKは、回収ポンプ141の駆動により、インク回収管132から吸引回収されてインクタンク111に戻される。インクタンク111に戻されたインクKは、必要に応じて溶剤タンク112からの溶剤と混合されて粘度調整された後、ポンプ142の駆動によりメインタンク110に移送され、更にポンプ143の駆動によりフィルタ150等を経てプリントヘッド120に送られて再利用される。
【0008】
またメインタンク110に回収されたインクは、ポンプ144を用いてインクタンク内で常に循環され、インクを攪拌することによりインクの成分を溶液中に均一に分散させるようにしている。
【0009】
上述したコンティニュアス方式のインクジェットプリンタでは、一般に、インクの移送にダイアフラムポンプが用いられる。ダイアフラムポンプは、容積移送式ポンプの一種であり、ゴム製や樹脂製の膜で形成されたダイアフラムの往復運動と、適当な逆止弁を組み合わせて流体を移送するものである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−98492号公報
【特許文献2】特開2001−342852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のダイアフラムポンプでは、ダイアフラムとして、フッ素樹脂やポリアミド樹脂で作製された複数の樹脂膜を重ねたものを使用することが多い。これらの樹脂膜は、機械的強度に優れたものであるが、長時間インクの移送に用いていると破損する場合がある。
【0012】
その第1の理由は、インクの成分によって樹脂膜が磨耗して薄くなるためである。特にカーボン系の顔料を含むインクのように粘度が高いインクを用いた場合、膜の磨耗が激しい。第2の理由は、上述したようにインクタンク内でインクを常に循環させ、インクを攪拌することによりインクの成分を溶液中に均一に分散させており、ポンプの駆動時間が長いために、機械的な疲労によって樹脂膜が破損するためである。
【0013】
上述したダイアフラムの損傷に対応するため、従来のインクジェットプリンタでは、ケーシング内に液漏れセンサーを設置し、樹脂膜の破損を検知してポンプを止めると共に、警告音等を発して樹脂膜の破損を作業者に知らせていた。
【0014】
しかし、このような従来の対策では、樹脂膜の破損箇所からケーシング内にインクが漏れ出してケーシング内の部材を汚損する。このため、ダイアフラムを取り替えるだけでなく、ケーシング内の部材を分解掃除する必要が生じ、その間ポンプが使用できなくなるため、インクジェットプリンタの稼働率を低下させる原因となっていた。
【0015】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたもので、インクがケーシング内に漏れ出すのを未然に防止できるダイアフラムポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため本発明にかかるダイアウラムポンプは、ダイアフラムの変形に伴って拡大および縮小するポンプ室を有し、当該ポンプ室の拡縮動作に伴って液体を吸込みかつ吐出するダイアフラムポンプであって、
前記ダイアフラムとして、前記液体と接する側に配置された第1の樹脂膜と、前記液体と接しない側に配置された第2の脂膜を重ね合わせたものを用い
前記第1および第2の樹脂膜の中心部にポンプ軸を挿入する孔が形成され、かつ前記第1および第2の樹脂膜は、前記ポンプ軸に取り付けられたディスクとディスクナットで挟まれ、
前記ポンプ室は、前記ポンプ軸の往復動により拡大および縮小し、
また、前記第2の樹脂膜の2面のうち前記第1の樹脂膜に対向する面に一対の極が形成され、
当該一対の極によって、前記第1の樹脂膜の破損による液体の漏洩を検出することを特徴とする。
【0018】
ここで、前記第1の樹脂膜はフッ素樹脂で作製され、前記第2の樹脂膜はポリアミド樹脂で作製されたものであることが好ましい。更に、前記ダイアフラムの近傍に、前記第1および第2の樹脂膜の破損による液体の漏洩を、一対の導線の先端部で検出するコードが設置されていることが好ましい。
【0019】
なお、前記ダイアフラムとして、前記第1および第2の樹脂膜に加えて第3の樹脂膜が重ね合わされたものを用い、前記第1の樹脂膜と第3の樹脂膜で前記第2の樹脂膜を挟むように配置してもよい。
【0020】
また本発明にかかるインクジェットプリンタは、タンクに貯留されたインクをプリンタヘッドに移送し、当該プリンタヘッドから被印刷物の表面に向けて噴射して印刷を行うと共に、印刷に使用されなかったインクを回収して前記タンクに戻すインクジェットプリンタであって、
前記タンクから前記インクヘッドへインクを移送する手段、前記回収されたインクを前記タンクに移送する手段、またはインクを前記タンク内で循環させる手段として、上述のいずれかのダイアフラムポンプを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかるダイアフラムポンプを用いれば、樹脂膜の破損を早期に検知して、インクがケーシング内に漏れ出すのを未然に防止できるため、インクジェットプリンタの稼働率が低下するのを避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態にかかるダイアフラムポンプの外観を示す正面図である。
図2図1のダイアフラムポンプの一部をA−A線で切断して示した側面図である。
図3図1に示すダイアフラムポンプのダイアフラムの近傍を展開して示した断面図である。
図4】ダイアフラムを構成する樹脂膜の形状を示す平面図である。
図5】樹脂膜の破損によるインクの漏洩を検出する電気系の構成を示すブロック図である。
図6】コンティニュアス方式のインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態にかかるダイアフラムポンプについて、図面を参照して説明する。
【0024】
<ダイアフラムポンプの構成と動作>
図1は、本実施の形態にかかるダイアフラムポンプ1の外観を示す正面図、図2は、図1のダイアフラムポンプ1の一部をA−A線で切断して示した側面図、図3は、図1に示すダイアフラムポンプ1のダイアフラムの近傍を展開して示した断面図である。
【0025】
ダイアフラムポンプ1は、駆動源であるインダクションモータ(以降、単に「モータ」と略す)2と、ダイアフラム3を備え、ポンプ室4Rを拡縮させて、インクの吸入と吐出を行うポンプ部4と、モータ2の動力を、ポンプ室4Rを拡縮させるためのポンプ軸45に伝達する駆動部5と、インダクションモータ2およびポンプ部4を支持し、かつ駆動部5が収容されたケーシング6とで構成されている。
【0026】
本実施の形態では、ケーシング6の対向する側面に2つのポンプ4、4が配置され、それぞれのポンプ軸45、45を1つの駆動部5で往復動させる形態のダイアフラムポンプ1を採用している。2つのポンプ部4、4の構造と機能は同じであるため、以下、紙面に向かって左側に配置されたポンプ部4の構造と動作について説明する。
【0027】
ポンプ部4を支持し、かつ駆動部5が収容されたケーシング6の両側面にはサイドプレート61、61が取り付けられている。サイドプレート61、61の下部は折り曲げられ、図示しないボルトを用いて基台に固定されている。またモータ2は、図示しないボルトを用いてケーシング6に固定されている。
【0028】
ポンプ部4は、内部にポンプ室4Rと流路4Pが形成された円柱状のベースボディ41の下部に吸込側ポート42が取り付けられ、上部に吐出側ポート43が取り付けられたものである。ベースボディ41とケーシング6との間には円筒状のリングベース44が設置されており、ベースボディ41との間で円板状のダイアフラム3の外周部を挟んで固定している。またベースボディ41とリングベース44は、4本のビス91によりケーシング6に固定されている。
【0029】
ダイアフラム3の中心部には孔が形成され、この孔に円柱状のポンプ軸45が挿入されている。図3に示すように、ポンプ軸45の先端部にねじが形成されており、この先端部をディスクナット47のねじ穴に螺合すると、ダイアフラム3はディスク46とディスクナット47によって挟持される。ディスク46とディスクナット47はポンプ軸45と一体となって移動するため、矢印で示したようにポンプ軸45が水平方向に往復動すると、ダイアフラム3は、それに合わせて変形する。
【0030】
ポンプ室4Rは、ディスクナット47と同様に円錐台状に形成されており、ベースボディ41、ディスクナット47およびダイアフラム3で囲まれている。ディスクナット47が左右に移動するとダイアフラム3が変形する。ポンプ室4Rの容積はディスクナット47が紙面に向かって右方向に移動すると拡大し、左方向に移動すると縮小する。
【0031】
吸込側ポート42と流路4Pとの間には逆止弁48が配置され、同様に吐出側ポート43と流路4Pとの間には逆止弁49が配置されている。逆支弁48の内部にはボール48aとOリング48bが配置されている。同様に、逆支弁49の内部にはボール49aとOリング49bが配置されている。
【0032】
ディスクナット47が右方向に移動し、ポンプ室4Rの容積が拡大すると、ポンプ室4R内の圧力が低下し、逆止弁49のボール49aはOリング49bに押さえつけられて弁が閉じる。一方、逆支弁48のボール48aは上方に移動して弁が開き、吸込側ポート42から吸引されたインクが流路4Pを通ってポンプ室4R内に流入する。
【0033】
一方、ディスクナット47が左方向に移動し、ポンプ室4Rの容積が縮小すると、ポンプ室4R内の圧力が増加し、逆止弁48のボール48aがOリング48bに押さえつけられて弁が閉じる。これに対し、逆支弁49のボール49aが上方に移動して弁が開き、吐出側ポート43からインクがポンプ室4Rの外に吐出される。このようにディスクナット47が左右に移動することにより、吸込側ポート42からインクが吸引され、吐出側ポート43からインクが吐出される。
【0034】
次に、駆動部5について説明する。駆動部5は、モータ2の回転運動をポンプ軸45の往復運動に変換するものであり、モータ2の回転軸に接続されたシャフト51、このシャフト51の外周部に固定された偏心カム52、この偏心カム52の外周部に取り付けられたニードルベアリング53、両腕部でニードルベアリング53を挟んだU字状のスラストプレート54、およびスラストプレート54と一体となって移動するプレッシャプレート55で構成されている。
【0035】
スラストプレート54の両腕部の上端は、ポンプ軸45を挟むように二股に分かれている。また、ポンプ軸45には、径方向に貫通する一対の孔が形成され、その孔にピン56および57が挿通されている。更に、ピン57の左側にはディスク46の位置を規制するワッシャー58が、右側にはプレッシャプレート55の位置を規制するワッシャー59がそれぞれ配置されている。
【0036】
シャフト51の先端部は、図1に示すように軸受63を介してベアリングキャップ64で支持されており、ベアリングキャップ64は2本のビス92、92によりケーシング6に固定されている。また図2に示すように、スラストプレート54の下部には円筒状の孔が形成され、その孔に棒状のガイドバー65が挿入されている。ガイドバー65は一対のビス93、93によりサイドプレート61、61に固定されている。またスラストプレート54とガイドバー65の間にライナーベアリング66が取り付けられており、スラストプレート54はガイドバー65に沿って水平方向に移動できるように構成されている。
【0037】
モータ2が駆動されると、シャフト51と偏心カム52が回転する。偏心カム52の外側に取り付けられたニードルベアリング53の外周部はスラストプレート54の両腕部に挟まれているため、シャフト51の回転に伴い、スラストプレート54はガイドバー65に沿いながら往復動する。ポンプ軸45はピン56、57およびワッシャー59により位置が規制されているため、スラストプレート54が往復動すると、それに併せて矢印で示す方向に往復動する。
【0038】
ポンプ軸45に挿入されたディスク46はピン57とワッシャー58によって右方向への移動が規制されているため、ディスクナット47をポンプ軸45にねじ締めしたとき、ダイアフラム3はディスク46とディスクナット47によって挟まれた状態となる。前述したように、ダイアフラム3の外周部はリングベース44とベースボディ41に挟まれた状態でケーシング6に固定されているため、ポンプ軸45が水平方向に往復動すると、ダイアフラム3はそれに伴って変形する。
【0039】
一方、ポンプ軸45にはワッシャー59が取り付けられ、このワッシャー59に接する状態で、断面がコ字状に成形されたプレッシャプレート55が取り付けられている。プレッシャプレート55の下端部には孔が開けられ、その孔にシャフト71が挿入されている。スラストプレート54にもプレッシャプレート55に対応する位置に孔が開けられ、シャフト71がその孔を貫通している。このようにスラストプレート54を取り囲むように配置されたプレッシャプレート55は、シャフト71によりスラストプレート54に対し回動可能な状態で支持されている。一方、プレッシャプレート55の上端部の側面には一対のバネ座72、72を介してスプリング73が取り付けられている。
【0040】
プレッシャプレート55およびスプリング73はスラストプレート54と一体となって移動する。またスプリング73は、プレッシャプレート55、ワッシャー59およびピン57を介して、ポンプ軸45を、一対のポンプ軸間の距離が離れる方向に付勢している。ディスクナット47が左方向に移動してポンプ室4R内の容積が小さくなると、ポンプ軸45はインクの圧力により右方向に押される。スプリング73は、このときポンプ軸45を左方向に押し返すように作用し、スラストプレート54の腕部がポンプ室4Rの圧力に負けて変形するのを防止している。
【0041】
<ダイアフラムの構成と機能>
次に、前述の図3、および図4図5を参照して、ダイアフラム3の構成と機能について説明する。図4はダイアフラム3を構成する樹脂膜の形状を示す平面図、図5はダイアフラム3の破損によるインクの漏洩を検出する電気系の構成を示すブロック図である。
【0042】
図3に示すように、ダイアフラム3は、3枚の樹脂膜31、32および33で構成されており、これらの膜を重ね合わせて密着させた状態で使用する。ダイアフラム3の外側には、図4(a)に示す形状の第1および第3の樹脂膜31と33が配置されている。これらの樹脂膜はフッ素樹脂で作製されている。なお、各樹脂膜31および33の中心には、ポンプ軸45が通る孔34が形成されている。
【0043】
一方、ダイアフラム3の内側には、図4(b)に示す形状の第2の樹脂膜32が配置されている。第2の樹脂膜32はポリアミド樹脂で作製されており、下側に突き出た部分には一対の電極35、35が形成されている。この電極35、35は、第1の樹脂膜32が破れたときにインクの漏洩を検出するものであり、電極35、35は第1の樹脂膜31と対向する面に形成されている。
【0044】
第1および第3の樹脂膜31、33をフッ素樹脂で作製したのは、インクの成分に対する耐性を考慮したためである。これに対し、第2の樹脂膜32をポリアミド樹脂で作製したのは、フッ素樹脂より強度のあるポリアミド樹脂を配置することで、ダイアフラム3の機械的強度を高めるためである。
【0045】
上述したように、ダイアフラム3を3枚の樹脂膜を重ねて構成することにより、仮に第1の樹脂膜31が破れても、ポリアミド樹脂製の第2の樹脂膜32によって、インクがケーシング6内に漏れるのを防止できる。
【0046】
なお、第3の樹脂膜33は必ずしも必要ではないが、ダイアフラム3を第1と第2の樹脂膜31、32の2枚で構成すると、ディスクナット47をポンプ軸45にねじ締めする際、摩擦によってポリアミド樹脂製の第2の樹脂膜によじれが生じる。それを防止するために、フッ素樹脂製の第3の樹脂膜を配置している。ただし、第2の樹脂膜として、よじれの生じない材質で作製された樹脂膜を用いれば、第3の樹脂膜を省略することができる。
【0047】
次に、ダイアフラム3の設置方法について説明する。図3に示すように、ポンプ軸45の外周部にはディスク46とリングベース44が同軸状に配置されており、ディスクナット47をポンプ軸45にねじ締めすると、ダイアフラム3を構成する3枚の樹脂膜31、32および33の中心孔34の周辺部は、ディスク46とディスクナット47に挟まれた状態でポンプ軸45に固定される。
【0048】
一方、3枚の樹脂膜31、32および33の周辺部は、リングベース44とベースボディ41に挟まれた状態でビス91によりケーシング6に固定されている(図2参照)。ポンプ室4Rは、このようにして設置されたダイアフラム3と、ベースボディ41およびディスクナット47によって取り囲まれている。
【0049】
次に、ダイアフラム3の損傷によるインクの漏洩を検出する電気系について説明する。図5に示すように、インクの漏洩を検出する電気系は、第1のコード81、第2のコード82、短絡検出器84および85、制御部86、警告灯87ならびにスピーカ88で構成されている。なお制御部86は、モータ2の起動や停止を制御する機能も果たしている。
【0050】
第1のコード81は、絶縁被膜で覆われた一対の導線80、80を含み、一対の導線80、80は、それぞれ第2の樹脂膜32に形成された一対の電極35、35に接続されている。第2のコード82は、絶縁被膜で覆われた一対の導線の先端部83、83がインクの漏洩を検出する電極を兼ねており、図3に示すように、先端部83がリングベース44の円筒部下部に形成された隙間に配置されている。
【0051】
ダイアフラムポンプ1の稼働中に、第1の樹脂膜31が破損し、インクが樹脂膜31の破損箇所から漏洩して、第2の樹脂膜32に設けられた一対の電極35、35の間に付着すると、第1の短絡検出器84が電極35、35間の短絡を検出して、制御部86に短絡検出信号を送信する。制御部86は短絡検出信号を受信すると、警告灯87を点灯させ、またスピーカ88から警告音を発して、第1の樹脂膜31が破損したことを作業者に知らせる。
【0052】
警告灯87およびスピーカ88による警告により第1の樹脂膜31が破損したことを知った作業者は、モータ2を止めてダイアフラムポンプ1の稼動を停止する。その後、作業者によりダイアフラム3の取り換えが行われた後、モータ2のスイッチを入れてダイアフラムポンプ1を再稼動する。
【0053】
一方、警告灯87およびスピーカ88による警告を行った際に、作業者が近くにいないことがある。そのような場合でも、第1の樹脂膜31の破損によりダイアフラム3内に漏洩したインクは、第2の樹脂膜32により止められ、それ以上、内部に浸入しないため、ケーシング6の内部がインクによって汚損されることはない。通常、第1の樹脂膜31が破損してから第2および第3の樹脂膜32、33が破損するまでに、複数の稼働日を確保できるため、作業者がダイアフラム3を取り替えるのに十分な時間的余裕がある。
【0054】
最悪、第1、第2および第3の樹脂膜31、32、33の全てが破損した場合、リングベース44の隙間に挿入されたコード82の一対の導線の先端部83にインクが付着して導線間が短絡するため、それを第2の短絡検出器85で検出する。制御部86は第2の短絡検出器85からの短絡検出信号を受信したとき、ケーシング6内へのインクの漏れを抑えるためにモータ2を強制的に停止する。また電極35の短絡の場合と同様に、警告灯87およびスピーカ88を用いて警告を行う。この場合、緊急性を考慮し、警告灯87を点滅させたり、スピーカ88から発する警告音を変えたりすることが好ましい。
【0055】
以上説明したように、本発明のダイアフラムポンプを用いれば、ダイアフラムの破損を早期に検知して、ケーシング内へインクが漏れ出すという最悪の事態を未然に防止できる。結果として、インクジェットプリンタの稼働率の低下を避けることができるため、その実用上の効果は多大である。
【0056】
なお、上述した実施の形態では、ダイアフラムポンプをインクの移送手段として用いる場合について説明したが、本発明のダイアフラムポンプの用途はこれに限定されない。導電性を有する液体を移送する場合であれば、他の多くの用途に使用できる。
【0057】
また、上述した実施の形態では、第1および第3の樹脂膜にフッ素樹脂膜を使用したが、これに限定されない。インクに対する耐性があれば、他の樹脂膜を使用してもよい。同様に、第2の樹脂膜にポリアミド樹脂膜を使用したが、機械的強度が一定以上あれば、他の樹脂膜を使用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 ダイアフラムポンプ
2 モータ
3 ダイアフラム
4 ポンプ部
5 駆動部
6 ケーシング
8 インクの漏洩を検出する電気系
31、32、33 樹脂膜
35 電極
4R ポンプ室
4P 流路
41 ベースボディ
42 吸込側ポート
43 吐出側ポート
44 リングベース
45 ポンプ軸
46 ディスク
47 ディスクナット
48、49 逆止弁
51、71 シャフト
52 偏心カム
53 二―ドルベアリング
54 スラストプレート
55 プレッシャプレート
56、57 ピン
58、59 ワッシャー
61 サイドプレート
63 軸受
64 ベアリングキャップ
65 ガイドバー
66 ライナーベアリング
72 バネ座
73 スプリング
81、82 コード
84、85 短絡検出器
86 制御部
87 警告灯
88 スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6