特許第6018847号(P6018847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018847回転電機巻線コイルの加熱処理装置及び加熱処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018847
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】回転電機巻線コイルの加熱処理装置及び加熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/12 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   H02K15/12 D
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-196762(P2012-196762)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-54073(P2014-54073A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 克之
(72)【発明者】
【氏名】石附 潤一
【審査官】 柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−109637(JP,A)
【文献】 特許第4691448(JP,B2)
【文献】 特開2006−158094(JP,A)
【文献】 特開平01−225008(JP,A)
【文献】 特開昭59−145068(JP,A)
【文献】 米国特許第04792462(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子を予備加熱する予備加熱ユニットと、
固定子にワニスを塗布するワニス滴下ユニットと、
ワニスが塗布された固定子を硬化加熱する加熱硬化ユニットと、
前記各ユニットへ固定子を搬送する搬送機構と、
この搬送機構で搬送される固定子の温度を測定する測定子と、
この測定子で測定された温度に基づいて前記予備加熱ユニットまたは前記加熱硬化ユニットを制御する制御装置と、
を備えた回転電機巻線コイルの加熱処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記測定子は前記搬送機構によって前記予備加熱ユニットに搬送される固定子の温度を測定し、前記制御装置は測定された温度に基づいて前記予備加熱ユニットでの加熱時間を制御することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記測定子は前記搬送機構によって前記硬化加熱ユニットに搬送される固定子の温度を測定し、前記制御装置は測定された温度に基づいて前記硬化加熱ユニットでの加熱時間を制御することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理装置。
【請求項4】
請求項2記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記制御装置は、前記測定子によって測定された温度と予め定められた基準温度とを対比し、前記測定子によって測定された温度が予め定められた基準温度より高い場合には予備加熱時間を短く設定することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理装置。
【請求項5】
請求項3記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記制御装置は、前記測定子によって測定された温度と予め定められた基準温度とを対比し、前記測定子によって測定された温度が予め定められた基準温度より高い場合には硬化加熱時間を短く設定することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理装置。
【請求項6】
固定子を予備加熱する予備加熱工程と、
固定子にワニスを塗布するワニス滴下工程と、
ワニスが塗布された固定子を硬化加熱する加熱硬化工程と、を有する回転電機巻線コイルの加熱処理方法であって、
前記各工程前に搬送される固定子の温度を測定し、この測定された温度に基づいて前記予備加熱工程または前記加熱硬化工程の加熱時間を制御する回転電機巻線コイルの加熱処理方法。
【請求項7】
請求項6記載の回転電機巻線コイルの加熱処理方法において、
前記予備加熱工程前に搬送される固定子の温度を測定し、この測定された温度に基づいて前記予備加熱工程での加熱時間を制御することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理方法。
【請求項8】
請求項6記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記硬化加熱工程前に搬送される固定子の温度を測定し、この測定された温度に基づいて前記硬化加熱工程での加熱時間を制御することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理方法。
【請求項9】
請求項7記載の回転電機巻線コイルの加熱処理方法において、
前記予備加熱工程前に測定された温度と予め定められた基準温度とを対比し、測定された温度が予め定められた基準温度より高い場合には予備加熱時間を短く設定することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理方法。
【請求項10】
請求項8記載の回転電機巻線コイルの加熱処理装置において、
前記硬化加熱工程前に測定された温度と予め定められた基準温度とを対比し、測定された温度が予め定められた基準温度より高い場合には硬化加熱時間を短く設定することを特徴とする回転電機巻線コイルの加熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機巻線コイルの加熱処理装置及び加熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機用の固定子を構成する固定子コア、コイル及び絶縁物の加熱処理装置として、例えば、特許文献1がある。この特許文献1により既に知られるように、モータや発電機などの回転電機は、固定子に巻線された電線コイルや固定子を加熱する方式として、予備加熱時や滴下したワニスの硬化加熱を行うために、誘導加熱により加熱する方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−5283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では所定の温度パターンに即した加熱処理が行われる(例えば、特許文献1の図6参照)。このような加熱時の温度管理は重要であるが、加熱処理を行う周囲環境は必ずしも一定の温度に管理されるとは限らず、例えば、同様の制御を行っても日時や季節によって温度が異なることになる。
【0005】
このような場合、十分な加熱を行うために周囲環境の温度が最も低い場合を想定し、この温度条件に合わせて加熱時間を管理する必要がある。しかし、加熱処理を行う環境の温度が高い場合には、時間のロスや誘導加熱に必要な電気エネルギーのロスが発生するという課題がある。
【0006】
また、想定以上に環境の温度が低くなってしまうと、硬化に必要な温度・時間を確保できなくなってしまい、完全に硬化が終わらないため、製品としての回転電気を使用中に不具合が発生する可能性がある、という課題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、環境の温度が変化した場合であってもワニスの硬化を行うことが可能な加熱処理装置及び加熱処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、特許請求の範囲に記載の構成を採用する。その一例を示すならば、本発明の回転電機巻線コイルの加熱処理装置は、
固定子を予備加熱する予備加熱ユニットと、
固定子にワニスを塗布するワニス滴下ユニットと、
ワニスが塗布された固定子を硬化加熱する加熱硬化ユニットと、
前記各ユニットへ固定子を搬送する搬送機構と、
この搬送機構で搬送される固定子の温度を測定する測定子と、
この測定子で測定された温度に基づいて前記予備加熱ユニットまたは前記加熱硬化ユニットを制御する制御装置と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境の温度が変化した場合であってもワニスの硬化を行うことが可能な加熱処理装置及び加熱処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加熱処理装置の外観を示す図である。
図2】搬送機構の外観を示す図である。
図3】加熱処理の工程を示す図である。
図4】固定子の誘導加熱時における温度プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の実施例となる、回転電機巻線コイルの加熱処理装置の外観を示す。本実施例の加熱処理装置は、大別して予備加熱ユニット1、ワニス滴下ユニット2、及び、硬化加熱ユニット3を備えている。これらの各ユニットは、加熱処理される固定子の各処理を担当する。すなわち、まず、予備加熱ユニット1にて固定子が予備加熱され、予備加熱された固定子がワニス滴下ユニット2に搬送される。ワニス滴下ユニット2に搬送された固定子にはワニスが滴下され、さらに、硬化加熱ユニット3へと搬送され、搬送された固定子の硬化加熱が行われる。
【0012】
また、この加熱処理装置には、ワークである固定子が投入される投入部Aと、加熱処理された固定子を排出する排出部Bとを有している。したがって、投入部Aに載置された固定子は、各ユニット1〜3において各処理が施され、全ての処理が完了すると排出部Bへと搬送されて、回転電機製造の全体工程上の次の工程へと送られることになる。
【0013】
図1に示すように、加熱処理装置は、予備加熱ユニット1を二つ、硬化加熱ユニット3を三つ、ワニス滴下ユニット2を一つ有しており、投入部A及び排出部Bと各ユニット間のワーク搬送を自動で行う搬送機構4を有している。各ユニットの数については後述する。
【0014】
各ユニット1〜3、投入部A及び排出部B間の固定子搬送を行う搬送機構4の外観を図2に示す。図2は、搬送機構4にワークである固定子6が保持されている状態を示した外観図である。
【0015】
搬送機構4はワークを上下、左右、前後に移動することができ、ワークである固定子6の外径を保持して搬送を行う。そのため、搬送機構4はワーク保持部5を備えている。このワーク保持部5は、その内面側が固定子6の受面となって固定子6を保持した状態で左右上下へと移動し、固定子6を所望の場所まで搬送する。
【0016】
例えば、投入部Aに載置された固定子に対し、搬送機構4は投入部Aの位置まで移動する。図1図2に示すように、搬送機構4は、例えばレール上を左右に移動するとともに、ワーク保持部5の高さを投入部Aに対応する所定の高さまで移動させる。その後、ワーク保持部5を投入部Aに向かって前後移動させて、固定子6を保持する。
【0017】
固定子6を保持した搬送機構4は、予備加熱ユニット1のうち、空席となっている加熱室へと固定子を設置して、ワーク保持部5が加熱室から退避する。その後、同様の要領で、予備加熱ユニット1からワニス滴下ユニット2へ、さらに、硬化加熱ユニット3へと固定子6を搬送する。
【0018】
本実施例の加熱処理装置は、このワーク保持部5に温度を測定するための測定子7を設けている。測定子7は例えば温度センサであり、ワーク保持部5によって保持された固定子6に接触可能な部位に設けられている。このため、ワークを保持する際に測定子7をワークに接触させることでワークの温度を測定することが可能となっている。
【0019】
なお、予備加熱ユニット1内での加熱、ワニス滴下ユニット2内でのワニスの滴下、硬化加熱ユニット3内での加熱、及び、搬送機構4の駆動、は、制御装置8によって行われ、この制御装置は予め定められた条件に即して各部を制御する。また、各ユニットの状態に係る情報や測定子7によって検出された温度情報も制御装置8に把握されている。
【0020】
なお、図1においては、制御装置8が各ユニット1〜3や搬送機構4と破線で接続された状態を示しているが、当該破線は物理的な配線を示しているものではなく、配線は加熱処理装置内に適宜格納されている。また、制御指令を送受信可能であればよく、有線/無線の別を問わない。
【0021】
上記の機構を有する本実施例の加熱処理装置によって、固定子のワニス硬化処理が行われる。
【0022】
図3は、固定子の誘導加熱時における温度プロファイルであり、図4は、本実施例の加熱処理装置における加熱処理の工程を示す図である。
【0023】
これらの図に示すように、本実施例の加熱処理は、ワークとしての固定子を投入するワーク投入工程、固定子の予備加熱を行う予備加熱工程、予備加熱後の固定子にワニスを滴下するワニス滴下工程、ワニス滴下後に加熱することによってワニスを硬化させる硬化加熱工程、硬化加熱された固定子を冷却する冷却工程、冷却された固定子を排出する排出工程とに大別される。
【0024】
予備加熱工程から冷却工程までの各工程で温度管理がなされるが、特に予備加熱から硬化加熱までの温度管理が重要となる。本実施例のように、室温が管理された加熱室等による加熱ではなく、誘導電流によって加熱する場合には、加熱前の初期条件の把握が極めて重要であるといえる。
【0025】
まず、全工程について説明する。投入されたワークは、本加熱(硬化加熱)前にまず予備加熱を行う。これはワークに含まれている水分を蒸発する目的と、巻線された電線の絶縁被膜には固定子コアに電線を組込む際にダメージを受けるため、このダメージを緩和する目的がある。これらの目的を果たすための温度、時間を維持したのち、ワニス滴下に適した温度まで冷却させ、その後、ワニス滴下を行う。ワニス滴下後に、ワニスを硬化させるために硬化加熱を行う。使用するワニスに合わせて必要な温度、時間を維持したのち作業者が取扱いできる温度まで冷却し、ワークは搬出される。
【0026】
上記の各工程において、通常、環境の温度が常温(仮に20℃とする)として、予備加熱、ワニス滴下前の冷却、硬化加熱の加熱条件が設定される。予備加熱及び硬化加熱は、上述の目的に即して加熱時間や温度が設定されているため、周囲環境の温度が異なる場合には、常温環境と同じ条件で加熱処理を行うと、それぞれに適した温度での処理が困難となる。
【0027】
そこで、本実施例では、測定子7によって検出された温度に基づいて加熱制御を行うこととしている。すなわち、例えば、予備加熱前のワークの測定温度と予め定められた基準温度(常温20℃)とを対比し、この結果に基づいて予備加熱時間を制御することとしている。
【0028】
また、基準温度(常温20℃)の条件下におけるワニス滴下後の基準温度が予め設定されており、当該基準温度と硬化加熱前に測定子7によって測定されたワークの温度とを対比し、この結果に基づいて硬化加熱時間を制御する。
【0029】
この具体的には次の通りである。
【0030】
まず、投入部Aに載置されたワークが搬送機構4によって予備加熱ユニット1へと搬送される。ワークは搬送機構4のワーク保持部5によって保持される際に測定子7によって温度が検出される。そして、実際に装置を稼働させる際に、予備加熱ユニット1にワークを搬送したときの温度と20℃を比較し、20℃より低ければ、予備加熱の加熱時間を長くし、高ければ、予備加熱の加熱時間を短くする。これにより、予備加熱の目的に必要な加熱条件にすることが可能となる。
【0031】
また、同様に、硬化加熱ユニット3にワークを搬送する際にも温度を測定する。環境温度が20℃として、予備加熱、ワニス滴下後に硬化加熱を開始する温度はあらかじめ決定し、設定している。この設定した温度と測定した温度を比較し、設定した温度より低ければ、硬化加熱の加熱時間を長くし、高ければ、硬化加熱の加熱時間を短くする。これにより、ワニスを完全に硬化させるのに必要な加熱条件にすることが可能となる。
【0032】
このように、本実施例では、予備加熱工程、硬化加熱工程の各工程の前に搬送機構4によってワークたる固定子が搬送されるため、この搬送時の温度を測定子7によって検出することで、その後の工程における加熱条件(時間または温度)を変化させることができる。予備加熱及び硬化加熱を行うことができる。
【0033】
加熱処理において、予備加熱工程や硬化加熱工程に必要な時間及びワニス滴下工程に必要な時間は異なるため、数多くの固定子を加熱処理するためには、各工程に必要な時間に合わせて、時間が長い工程のユニットを複数用意する必要がある。また、各ユニット間の固定子の搬送は、固定子が重い場合や作業の自動化を図るために、固定子を搬送する機構を設けることが望ましい。
【0034】
各工程での所要時間の概略は図3に示す通りであるが、硬化加熱工程が最も時間を必要とし、次いで、予備加熱工程、ワニス滴下工程の順で要する時間が短くなる。このため、本実施例の加熱処理装置ではそれに即して、予備加熱ユニット1を二つ、硬化加熱ユニット3を三つ、ワニス滴下ユニット2を一つ有するものとして構成されている。
【0035】
以上説明した通り、本実施例の加熱処理装置は、一つのワニス滴下ユニット2と複数の予備加熱ユニット1、複数の硬化加熱ユニット3と各ユニット間の固定子を搬送する機構4を有し、この固定子を搬送する機構部4に、固定子の温度を測定する測定子7を設け、各加熱ユニットに固定子を搬送する際に、測定子7を固定子6に接触させ温度を測定することで、その測定した温度により予備加熱や硬化加熱の条件を都度見直しすることが可能になり、必要最低限の加熱条件にすることができる。
【0036】
また、加熱工程が終了し、次工程に搬送する際にも固定子の温度を測定することで、都度見直した加熱条件により、固定子が所定の温度に達していることを確認することができ、完全に硬化を終わらせることが可能となる。
【0037】
上述した本実施例の加熱処理装置によれば、加熱処理に必要な時間及び電気エネルギーを最小限に抑えることができるため、省エネを図ることができる。また、周囲温度が変わっても硬化を確実に行うことが可能であり、製造される製品としての回転電機において不具合の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…予備加熱ユニット、2…ワニス滴下ユニット、3…硬化加熱ユニット、4…搬送機構、5…ワーク保持部、6…固定子、7…測定子、8…制御装置。
図1
図2
図3
図4