(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018867
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】埋戻し材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20161020BHJP
C04B 18/30 20060101ALI20161020BHJP
C04B 18/04 20060101ALI20161020BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20161020BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20161020BHJP
E02D 3/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/30
C04B18/04
C04B18/14 A
E02D3/12 102
E02D3/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-219577(P2012-219577)
(22)【出願日】2012年10月1日
(65)【公開番号】特開2014-70007(P2014-70007A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510042024
【氏名又は名称】株式会社エヌジェイ・エコサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100127155
【弁理士】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100163267
【弁理士】
【氏名又は名称】今中 崇之
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 寿博
(72)【発明者】
【氏名】村田 光也
(72)【発明者】
【氏名】小野 義広
(72)【発明者】
【氏名】関 勇治
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−175413(JP,A)
【文献】
特開平08−109377(JP,A)
【文献】
特開2012−012795(JP,A)
【文献】
下水道未普及解消検討委員会事務局,下水道未普及解消技術利用ガイド(案),2009年10月,P.4,URL,http://www.mlit.go.jp/crd/sewerage/mifukyu/06/PDF/guide-ryudouka.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
E02D 3/00,3/12
C09K 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機汚泥にセメントもしくはセメント系固化材を添加して造粒処理を行い、造粒物を形成する工程と、
材齢28日における埋戻し材の一軸圧縮強度が100kPa以上200kPa以下となるように設定した混合比で、廃棄物溶融スラグと前記造粒物を混合処理して埋戻し材を製造する工程とを備えることを特徴とする埋戻し材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の埋戻し材の製造方法において、前記廃棄物溶融スラグと前記造粒物を混合処理する際にセメントもしくはセメント系固化材を添加することを特徴とする埋戻し材の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の埋戻し材の製造方法において、前記廃棄物溶融スラグと前記造粒物を混合処理する際に前記セメントもしくはセメント系固化材に代えて高炉スラグを使用することを特徴とする埋戻し材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の埋戻し材の製造方法において、前記廃棄物溶融スラグと前記造粒物の混合比を、埋戻し材の一軸圧縮強度試験結果に基づいて設定することを特徴とする埋戻し材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋戻し材の製造方法に関し、特に、液状化せず再掘削も可能な埋戻し材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表層地盤に埋設される電話、ガス、上下水道等の管路施設の埋戻し工事では、埋戻しに使用可能な土砂が枯渇してきたことから、掘削等で発生した建設残土(現地発生土)に水と固化材を加えて混合撹拌することにより、流動性と自硬性を有する流動化処理土を製造して埋戻しに使用する技術が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2では、建設汚泥を埋戻し等の施工材料として再資源化してリサイクル率を向上させることを目的として、建設汚泥を処理して含水率を所定の割合に調整した調整汚泥に、水又は泥水と固化材を混合してなる流動化処理土の発明が開示されている。
さらに、特許文献3では、高品質と安全性とを両立させた埋戻し再生流動化処理材を得ることを目的として、再資源化加工が施された加工溶融スラグと、汚泥を造粒固化して加工された加工再生処理土とを混ぜ合わせて主材を得る主材製造工程と、セメント系固化材と水と現地発生土とを前記主材に加えて混合撹拌する処理材製造工程とを有する埋戻し再生流動化処理材の製造方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−233115号公報
【特許文献2】特開2001−336145号公報
【特許文献3】特開2012−012795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、日本では、大型地震に起因する液状化現象によって下水道管路やマンホール等が浮き上がったり、路面が沈下したりする被害が多発している。一方、これら被害箇所の周辺では、液状化の痕跡が見られないことが報告されている。従って、これらの被害は、管路施設埋設時の埋戻し土が液状化したことが原因であると考えられている。
学識経験者等からなる下水道地震対策技術検討委員会による「管路施設の本復旧にあたっての技術的緊急提言」では、埋戻し土にセメントあるいはセメント系固化剤(セメント系固化材)を添加することにより液状化の発生を防止する場合には、一軸圧縮強度(28日強度)が100kPa〜200kPa、現場強度が50kPa〜100kPaとなるように、セメントを添加することが提言されている。また、採用に当たっては、再掘削の必要性もあわせて検討することとされている。
【0006】
このように、管路施設等の埋戻しに使用される埋戻し材(埋戻し土)には、液状化の発生を防止することに加え、再掘削が可能な一軸圧縮強度を有することが求められている。しかし、上述した従来の流動化処理土の場合、一軸圧縮強度の調整が難しいという問題がある。
また、現地発生土の土質、土性は様々であり、特許文献1、3記載の工法の場合、流動化処理土の配合設計が容易ではないという問題に加え、現地発生土に水と固化材を加えて混合撹拌、もしくはセメント系固化材と水と現地発生土とを主材に加えて混合撹拌しなければならないため、流動化処理土の製造に手間がかかるという問題がある。特許文献2記載の流動化処理土の場合も、建設汚泥の含水率を調整して作製した調整汚泥に、水又は泥水と固化材を添加して撹拌槽で混合撹拌しなければならないため、流動化処理土の製造に手間がかかるという問題がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、液状化せず再掘削も可能な一軸圧縮強度を有する埋戻し材を現地で手間をかけずに製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る埋戻し材の製造方法は、無機汚泥に
セメントもしくはセメント系固化材を添加して造粒処理を行い、造粒物を形成する工程と、材齢28日における埋戻し材の一軸圧縮強度が100kPa以上200kPa以下となるように設定した混合比で、廃棄物溶融スラグと前記造粒物を混合処理して埋戻し材を製造する工程とを備えることを特徴としている。
ここで、「無機汚泥」は、建設汚泥、浄水場汚泥、採石場洗浄汚泥等の無機物を主体とする汚泥の総称である。また、「廃棄物溶融スラグ」は、廃棄物や下水汚泥の焼却灰等を約1300℃以上の高温で溶融した後、冷却固化させることで生成される生成物である。
【0009】
本発明では、無機汚泥に
セメントもしくはセメント系固化材を添加して造粒した造粒物と廃棄物溶融スラグを、材齢28日における埋戻し材の一軸圧縮強度が100kPa以上200kPa以下となるように予め設定した混合比で混合するだけで良い。そのため、材料を混合撹拌するための撹拌機を使用する必要が無く、現地で手間をかけずに、液状化せず再掘削も可能な一軸圧縮強度を有する埋戻し材を製造することができる。また、廃棄物溶融スラグと造粒物を混合することで、廃棄物溶融スラグのみの場合に比べて施工性が向上すると共に、造粒物のみの場合に比べて透水性を高めることができる。
【0010】
また、本発明に係る埋戻し材の製造方法では、前記廃棄物溶融スラグと前記造粒物を混合処理する際に
セメントもしくはセメント系固化材を添加してもよい。
廃棄物溶融スラグの性状に応じて
セメントもしくはセメント系固化材を添加することで、埋戻し材の一軸圧縮強度を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る埋戻し材の製造方法では、埋戻し材の一軸圧縮強度を向上させる際に、前記
セメントもしくはセメント系固化材に代えて高炉スラグを使用してもよい。
【0012】
また、
本発明に係る埋戻し材の製造方法では、前記廃棄物溶融スラグと前記造粒物の混合比を、埋戻し材の一軸圧縮強度試験結果に基づいて設定することが望ましい。
廃棄物溶融スラグと造粒物の混合比は、使用する廃棄物溶融スラグと造粒物の性状に依存する。このため、廃棄物溶融スラグと造粒物の混合比が異なるサンプルを数種類作製し、当該サンプルの一軸圧縮強度試験結果に基づいて、廃棄物溶融スラグと造粒物の混合比を決定すれば、施工する埋戻し材の一軸圧縮強度(28日強度)を高い精度で設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、無機汚泥に
セメントもしくはセメント系固化材を添加して造粒した造粒物と廃棄物溶融スラグを、材齢28日における埋戻し材の一軸圧縮強度が100kPa以上200kPa以下となるように設定した混合比で混合するだけで良いので、現地で手間をかけずに、液状化せず再掘削も可能な一軸圧縮強度を有する埋戻し材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法のフロー図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0017】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法について、
図1のフロー図を用いて説明する。なお、埋戻し材15の製造は、全工程を工場で実施してもよいが、STEP1を工場で実施し、STEP2を現地で実施しても良いし、あるいは全工程を現地で実施することも可能である。
【0018】
(STEP1)無機汚泥10と固化材A11を、ミキサーなどの造粒機(図示省略)に投入して造粒処理ST1し、造粒物18を形成する。無機汚泥10と固化材A11の配合割合は、例えば、1m
3の無機汚泥10に対して固化材A11を10kg〜50kg程度とすれば良い。
なお、造粒物18は、ペレット状とする必要は無く、塊状化していれば良い。いわゆるダマ状になっていればよく、その大きさは例えば20mm〜30mm程度である。
【0019】
無機汚泥10は、前述したように、建設汚泥、浄水場汚泥、採石場洗浄汚泥等の無機物を主体とする汚泥である。
また、固化材A11は、セメントもしくはセメント系固化材(セメント系固化剤)である。
【0020】
(STEP2)廃棄物溶融スラグ13と造粒物18を、バックホウなどの重機を用いて混合処理ST2し、埋戻し材15を製造する。混合処理ST2における廃棄物溶融スラグ13と造粒物18の混合比は、材齢28日における埋戻し材15の一軸圧縮強度が100kPa以上200kPa以下となるように予め決定しておく。
廃棄物溶融スラグ13と造粒物18の混合比は、使用する廃棄物溶融スラグ13及び造粒物18の性状にもよるが、廃棄物溶融スラグ:造粒物=50体積%:50体積%〜70体積%:30体積%程度である。
【0021】
なお、廃棄物溶融スラグ13と造粒物18の混合比は、上述したように、使用する廃棄物溶融スラグ13及び造粒物18の性状に依存するため、JIS A1216「土の一軸圧縮試験方法」に従って、廃棄物溶融スラグ13と造粒物18の混合比が異なるサンプルを数種類作製し、当該サンプルの一軸圧縮強度試験結果に基づいて決定することが望ましい。
【0022】
廃棄物溶融スラグ13は、前述したように、廃棄物や焼却灰等を、ガス化溶融炉や灰溶融炉などの溶融炉で溶融した後、冷却固化させることで生成される生成物である。廃棄物溶融スラグ13の粒度は、例えば、静岡市が公表している「埋戻し材用溶融スラグ取扱基準」の「表2 溶融スラグの粒度範囲」程度とすればよい。
また、廃棄物溶融スラグ13に摩砕処理を施すことにより、スラグ表面に無数の凹凸が形成され、造粒物18との混合状態が向上する。
【0023】
製造された埋戻し材15は、液状化せず再掘削も可能な一軸圧縮強度(例えば、28日強度が100kPa以上200kPa以下)を有し、施工後直ちに重機が埋戻し部に進入して作業を行うことができる。また、造粒物のみの場合に比べて透水性も高く、透水係数は1.0×10
−4cm/sec以上である。
【0024】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法のフロー図を
図2に示す。本実施の形態では、造粒物18と廃棄物溶融スラグ13を混合する際に、固化材B12を添加する点が第1の実施の形態と異なっている。
廃棄物溶融スラグ13の性状に応じて固化材B12を添加することで、埋戻し材16の一軸圧縮強度を向上させることができる。
なお、固化材B12は、固化材A11と同じく、セメントもしくはセメント系固化材(セメント系固化剤)である。
【0025】
[第3の実施の形態]
本発明の第3の実施の形態に係る埋戻し材の製造方法のフロー図を
図3に示す。本実施の形態では、第2の実施の形態における固化材B12に代えて、高炉スラグ14を添加して埋戻し材17を製造するものであり、固化材B12と同様、埋戻し材17の一軸圧縮強度を向上させることができる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、造粒物と廃棄物溶融スラグを重機を用いて混合するとしているが、作業員がスコップ等を用いて造粒物と廃棄物溶融スラグを混合してもよい。
【実施例】
【0027】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。なお、以下では、「廃棄物溶融スラグ」を単に「溶融スラグ」と呼ぶ。
表1に、作製したサンプルの一覧を示す。サンプル1とサンプル2には、シャフト炉式直接溶融炉から排出された溶融スラグAを使用し、サンプル3には、プラズマ灰溶融炉から排出された溶融スラグBを使用した。サンプル4のみ、溶融スラグではなく、高炉スラグを使用した。
スラグと造粒物の混合比は、サンプル1、3、4がスラグ:造粒物=60体積%:40体積%、サンプル2のみスラグ:造粒物=70体積%:30体積%とした。
【0028】
【表1】
【0029】
使用した溶融スラグは、静岡市が公表している「埋戻し材用溶融スラグ取扱基準」の「表2 溶融スラグの粒度範囲」に適合する粒度を有している。静岡市が規定している溶融スラグの粒度範囲を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
また、造粒物は、無機汚泥と固化材Aをミキサー(造粒機)に投入して混練する(造粒処理)ことにより形成した。無機汚泥には、建設汚泥を脱水機により脱水処理して生成した脱水ケーキを使用し、固化材Aにはセメントを使用した。セメントの添加量は、脱水ケーキ1m
3当たり40kgとした。作製した造粒物の土質試験結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
作製したサンプル1〜4について、JIS A1216「土の一軸圧縮試験方法」に従って、一軸圧縮強度試験を実施した。一軸圧縮強度試験結果の一覧を表4に示す。同表より以下のことがわかる。
(1)サンプル1の材齢28日における一軸圧縮強度の平均値は259kN/m
2であり、液状化を抑止できる強度を有しているが、管路施設等の維持管理のための再掘削が困難であると予想される。
(2)サンプル2及び3の材齢28日における一軸圧縮強度の平均値は198kN/m
2及び165kN/m
2であり、液状化せず再掘削も可能な一軸圧縮強度である100kPa〜200kPaの範囲に入っている。
(3)サンプル4の材齢28日における一軸圧縮強度の平均値は2680kN/m
2と高強度であるため、液状化は十分に防止できるが、再掘削が非常に困難になると予想される。
【0034】
【表4】
【0035】
また、JIS A1218「土の透水試験方法」に従って、サンプル1〜4について実施した透水試験結果によれば、サンプル1〜4の透水係数は、4.46×10
−3cm/sec〜5.92×10
−3cm/sであった。
【符号の説明】
【0036】
10:無機汚泥、11:固化材A、12:固化材B、13:廃棄物溶融スラグ、14:高炉スラグ、15、16、17:埋戻し材、18:造粒物