特許第6018877号(P6018877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018877円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018877
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20161020BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20161020BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20161020BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20161020BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20161020BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20161020BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20161020BHJP
   B29L 23/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   B29C67/14 P
   B29C67/14 A
   F02C7/00 C
   F02C7/00 D
   F02C7/00 E
   F02C7/00 F
   F01D25/00 L
   F01D25/24 D
   F01D25/24 N
   F01D25/24 R
   B29K101:10
   B29K105:08
   B29L23:00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-235353(P2012-235353)
(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-83792(P2014-83792A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 崇
(72)【発明者】
【氏名】盛田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】重成 有
(72)【発明者】
【氏名】原田 敬
(72)【発明者】
【氏名】段 祐輔
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−98523(JP,A)
【文献】 特開2011−98524(JP,A)
【文献】 特開2004−160927(JP,A)
【文献】 特開2009−107337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00−70/68
F01D 25/00−25/36
F02C 7/00− 7/36
F04D 29/00−29/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状ケースであって、
円筒状を成すケース本体と、
前記ケース本体の端部において周方向に沿って環状に配置された遠心側に開口する溝を備え、
前記ケース本体を構成する周壁は、前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の2軸織物を含む複数の2軸織物層と、前記ケース本体の周方向に沿う強化繊維を束ねて成るロービングを含む複数のロービング層とを交互に積層して形成され、
前記溝を構成する溝壁は、前記ケース本体の周壁における前記複数の2軸織物層に連続する複数の2軸織物層と、前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯及び前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が0°の1軸の強化繊維帯の合計3軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の3軸織物を含む複数の3軸織物層とを交互に積層して形成されている
ことを特徴とする円筒状ケース。
【請求項2】
前記ケース本体の周壁及び前記溝の溝壁における各表裏面がいずれも強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る保護膜で被覆されている請求項1に記載の円筒状ケース。
【請求項3】
前記溝を構成する溝壁がTi合金製又はNi合金製のカバーで被覆され、航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる請求項1又は2に記載の円筒状ケース。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の円筒状ケースの製造方法であって、
外周面を成形面とした筒状のマンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記2軸織物を該マンドレルの前記成形面上に巻き付けて前記2軸織物層を形成する2軸織物層形成工程と、
前記マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記強化繊維を束ねて成るロービングを該マンドレルの前記成形面における前記ケース本体の成形部位上に周方向に沿ってらせん状に巻き付けて前記ロービング層を形成するロービング層形成工程と、
前記マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記3軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記3軸織物を該マンドレルの前記成形面における前記溝の成形部位上に巻き付けて前記3軸織物層を形成する3軸織物層形成工程と、を繰り返し行って前記ケース本体に相当する部分を有する積層体を成形した後、
溝成形型と前記マンドレルの端部に位置する溝成形部とにより、前記積層体における前記ケース本体に相当する部分の端部に前記溝に相当する部分を成形する溝成形工程と、
この溝成形工程によって前記ケース本体に相当する部分の端部に前記溝に相当する部分が成形された前記積層体を加熱することにより、前記織物層の各強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程と、を経る
ことを特徴とする円筒状ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、上記した航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースには、軽量であること、及び、高強度を有していることが求められ、これらの要求を満たすべく、ファンケースの素材として強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料を適用する試みが成されている。
【0003】
上記ファンケースにおいて、ファンブレードを覆うケース本体の端部に、通常エンジンナセルと連結する環状の外向きフランジが一体形成される。したがって、素材として炭素繊維等の強化繊維とエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との複合材料を用いると、ケース本体及び環状のフランジは、いずれも炭素繊維等の強化繊維から成る織物を含む複数の織物層を有することになる。
【0004】
上記したファンケース(円筒状ケース)を強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料を用いて製造するに際しては、筒状のマンドレルをその軸心周りに回転させつつ、織物をマンドレルの成形面上に巻き付けて織物層の積層体を成形し、この積層体を加熱することにより、該積層体に予め含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0005】
上記したファンケースにおいて、十分な強度及び剛性を確保するためには、複数の織物層間にケース本体の周方向に対する傾斜角が±0〜75°の強化繊維を含ませることが必要であり、このようなファンケースは、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−107337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記したファンケース(円筒状ケース)のように、ケース本体の端部に環状の外向きフランジが位置する場合において、複数の織物層間に周方向に対する傾斜角が0〜10°の強化繊維を含ませて、積層体の十分な強度及び剛性を確保しようとすると、織物層に含まれる織物の柔軟性が損なわれるが故に、積層体の成形時には、外向きフランジの屈曲する根本に相当する部分に皺や繊維の蛇行が生じてしまい、外向きフランジの強度及び剛性が低下する虞がある。その結果、ファンケース全体の強度及び剛性を高めることができないという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、例えば、強化繊維と熱硬化性樹脂との複合材料を素材として成り、外向きの環状の溝や環状フランジを有するファンケースである場合において、ケース全体の高い強度及び剛性を確保することが可能である円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するべく、本発明の請求項1に係る発明は、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る円筒状ケースであって、円筒状を成すケース本体と、前記ケース本体の端部において周方向に沿って環状に配置された遠心側に開口する溝を備え、前記ケース本体を構成する周壁は、前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の2軸織物を含む複数の2軸織物層と、前記ケース本体の周方向に沿う強化繊維を束ねて成るロービングを含む複数のロービング層とを交互に積層して形成され、前記溝を構成する溝壁は、前記ケース本体の周壁における前記複数の2軸織物層に連続する複数の2軸織物層と、前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が±15〜75°の2軸の強化繊維帯及び前記ケース本体の軸心方向に対する配向角が0°の1軸の強化繊維帯の合計3軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の3軸織物を含む複数の3軸織物層とを交互に積層して形成されている構成としたことを特徴としており、この構成の円筒状ケースを前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
本発明の請求項2に係る円筒状ケースは、前記ケース本体の周壁及び前記溝の溝壁における各表裏面がいずれも強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る保護膜で被覆されている構成としている。
【0011】
本発明の請求項3に係る円筒状ケースは、前記溝を構成する溝壁がTi合金製又はNi合金製のカバーで被覆され、航空機用ジェットエンジンのファンブレードを覆うファンケースとして用いられる構成としている。
【0012】
一方、本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の円筒状ケースの製造方法であって、外周面を成形面とした筒状のマンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記2軸織物を該マンドレルの前記成形面上に巻き付けて前記2軸織物層を形成する2軸織物層形成工程と、前記マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記強化繊維を束ねて成るロービングを該マンドレルの前記成形面における前記ケース本体の成形部位上に周方向に沿ってらせん状に巻き付けて前記ロービング層を形成するロービング層形成工程と、前記マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記3軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記3軸織物を該マンドレルの前記成形面における前記溝の成形部位上に巻き付けて前記3軸織物層を形成する3軸織物層形成工程と、を繰り返し行って前記ケース本体に相当する部分を有する積層体を成形した後、溝成形型と前記マンドレルの端部に位置する溝成形部とにより、前記積層体における前記ケース本体に相当する部分の端部に前記溝に相当する部分を成形する溝成形工程と、この溝成形工程によって前記ケース本体に相当する部分の端部に前記溝に相当する部分が成形された前記積層体を加熱することにより、前記織物層の各強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程と、を経る構成としており、この構成の円筒状ケースの製造方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0013】
本発明の参考例は、請求項1〜3のいずれかに記載の円筒状ケースの製造方法であって、外周面をケース本体成形面とした筒状のマンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記2軸織物を該マンドレルの前記成形面上に巻き付けて前記2軸織物層を形成する2軸織物層形成工程と、前記マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記強化繊維を束ねて成るロービングを該マンドレルの前記成形面上に周方向に沿ってらせん状に巻き付けて前記ロービング層を形成するロービング層形成工程と、を繰り返し行って前記ケース本体に相当する部分の積層体を成形すると共に、外周面を溝成形面とした筒状の溝用マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記2軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記2軸織物を該溝用マンドレルの前記溝成形面上に巻き付けて前記2軸織物層を形成する2軸織物層形成工程と、前記溝用マンドレルをその軸心周りに回転させつつ、前記3軸の強化繊維帯から成るノンクリンプ構造の前記3軸織物を該溝用マンドレルの前記溝成形面上に巻き付けて前記3軸織物層を形成する3軸織物層形成工程と、を繰り返し行って溝用積層体を成形した後、溝成形型と前記溝用マンドレルとにより、前記溝用積層体を前記溝に相当する部分とすべく成形する溝成形工程と、この溝成形工程によって前記溝に相当する部分として成形された前記溝用積層体と、前記ケース本体に相当する部分として成形された積層体とを一体化させる一体化工程と、この一体化工程によって互いに一体化された前記ケース本体に相当する部分の前記積層体と、前記溝に相当する部分として成形された前記溝用積層体とを加熱することにより、前記織物の各強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる加熱工程と、を経る構成としている。
【0014】
本発明に係る円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法において、円筒状ケースを構成する複合材料の強化繊維には、例えば、炭素繊維,ガラス繊維,有機繊維(アラミド,PBO,ポリエステル,ポリエチレン),アルミナ繊維,炭化ケイ素繊維を用いることができ、マトリックスとして、熱硬化性樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,ビニルエステル樹脂,フェノール樹脂,ビスマレイミド樹脂,オキサゾリン樹脂,メラミン樹脂を用いることができる。
【0015】
本発明に係る円筒状ケースにおいて、ケース本体を構成する周壁が、炭素繊維等の強化繊維帯から成る2軸織物を含む複数の2軸織物層と、ケース本体の周方向に沿う炭素繊維等の強化繊維を束ねて成るロービングを含む複数のロービング層とを交互に積層して形成されているので、円筒状ケース全体の強度及び剛性が確保されることとなる。
【0016】
また、本発明に係る円筒状ケースでは、溝を構成する溝壁が、ケース本体の周壁に連続する複数の2軸織物層と、3軸方向の強化繊維帯のうちの1つの強化繊維帯の配向角をケース本体の軸心方向に合わせて成る複数の3軸織物層とを交互に積層して形成されているので、円筒状ケース全体の強度及び剛性を保持したまま、溝壁の軸心方向への荷重に対する強度及び剛性を向上させ得ることとなる。
【0017】
加えて、溝の溝壁に、1つの強化繊維帯の配向角をケース本体の軸心方向に合わせた3軸織物層を採用しているので、溝の溝壁の周方向への拡張が許容されることとなって、溝の成形が皺や繊維の蛇行を生じさせることなく成されることとなり、省力化や工期の短縮化を図るうえでの自動成形が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る円筒状ケースでは、ケース全体の高い強度及び剛性を確保することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例によるファンケースを採用した航空機用ジェットエンジンの概略断面説明図である。
図2図1のファンケースの部分拡大断面説明図である。
図3図2のF部分,C部分及びR部分における織物(又はロービング)の積層状態を一部を破断して示す部分平面説明図(a)〜(c)である。
図4図1のファンケースの製造方法における製造開始時の状況及び織物の積層終了時の状況をそれぞれ示す工程説明図(a),(b)である。
図5図1のファンケースの製造方法における成形から製造終了までを示す工程説明図(a)〜(f)である。
図6】本発明の一参考例によるファンケースの製造に用いるマンドレルの部分断面説明図(a)及び全体斜視説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1図5は本発明に係る円筒状ケースの一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る筒状ケースが航空機用ジェットエンジンのファンケースである場合を例に挙げて説明する。
【0021】
図1に示すように、航空機用ジェットエンジン1は、前方(図示左方)から取り入れた空気を複数のファンブレードを有するファン2で圧縮機3に送り込み、この圧縮機3で圧縮された空気に燃料を噴射して燃焼室4で燃焼させ、これで生じる高温ガスの膨張により高圧タービン5及び低圧タービン6を回転させるようになっている。
【0022】
ファン2の複数のファンブレードを覆うファンケース9は、炭素繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成っていて、円筒状を成すケース本体10を備えている。
【0023】
このケース本体10の前端部(図示左端部)には、エンジンカウル7と連結可能な外向き環状フランジ11が形成されていると共に、後端部(図示右端部)には、遠心側に開口する溝12が環状に形成されており、この環状の溝12には、例えば、エンジンナセル8の金属製内向きフランジが嵌合される。
【0024】
この場合、図2に示すように、環状フランジ11を構成する立壁11aは、複数の2軸織物層13を積層して形成されており、この2軸織物層13は、図3(a)に示すように、炭素繊維等の強化繊維帯13a,13bから成る2軸織物13Aを含んでいる。この2軸織物13Aは、2軸の強化繊維帯13a,13bから成るノンクリンプ構造を成すものであって、2軸の強化繊維帯13a,13bのケース本体10の軸心CL方向に対する配向角は、±15〜75°に設定されるようになっており、この実施例において、図3(a)の拡大円内に示すように、配向角は、±45°に設定されている。なお、図3(a)において破線で示した部位はステッチ糸である。
【0025】
ここで、2軸の強化繊維帯13a,13bの軸心CL方向に対する配向角の絶対値が15°未満である場合には、ファンケース9の強度及び剛性を確保することが難しいので好ましくなく、一方、2軸の強化繊維帯13a,13bの軸心CL方向に対する配向角の絶対値が75°を超える場合には、ファンケース9の製造過程において皺や繊維の蛇行が生じる虞があるのでやはり好ましくない。
【0026】
また、ケース本体10を構成する周壁10aは、環状フランジ11の立壁11aに連続する複数の2軸織物層13、すなわち、軸心CL方向に対する配向角が±15〜75°(この実施例では配向角±45°)に設定された2軸の強化繊維帯13a,13bから成る2軸織物13Aを含む複数の2軸織物層13と、複数のロービング層14とを交互に積層して形成されており、このロービング層14は、図3(b)に示すように、ケース本体10の周方向に沿う炭素繊維等の強化繊維を束ねて成るロービング(繊維束)14Aを含んでいる。
【0027】
ここで、ケース本体10の周方向に対するロービング14Aの傾斜角が15°を超えると、ファンケース9の製造過程における強度及び剛性を確保することが難しいので、上記傾斜角は15°以下とすることが望ましい。
【0028】
なお、ケース本体10には、例えば、バードストライクに遭遇した際に、折れて飛散するファンブレードの先端側が周壁10aを貫通するのを防ぐことが求められるのは言うまでもなく、この実施例において、ケース本体10の周壁10aに、軸心CL方向に対する配向角が30°に設定された強化繊維帯を含む図示しない複数の織物層を積層するようにしている。このように、周壁10aに配向角が30°の強化繊維帯を含む複数の織物層を積層すると、ファンブレードが、例えば、軸心CLに対して60°の角度で捩じれている場合には、配向角が30°の強化繊維帯がファンブレードの先端側とほぼ直交するようになるので、ファンブレードの破片が貫通するのを阻止し得ることとなる。
【0029】
さらに、溝12を構成する溝壁12aは、ケース本体10の周壁10aに連続する複数の2軸織物層13、すなわち、軸心CL方向に対する配向角が±45°に設定された2軸の強化繊維帯13a,13bから成る2軸織物13Aを含む複数の2軸織物層13と、複数の3軸織物層15とを交互に積層して形成されている。
【0030】
この3軸織物層15は、図3(c)に示すように、ケース本体10の軸心CL方向に対する配向角が±15〜75°(この実施例では配向角±45°)の2軸の強化繊維帯15a,15b及びケース本体10の軸心CL方向に対する配向角が0°の1軸の強化繊維帯15cの合計3軸の強化繊維帯15a,15b,15cから成るノンクリンプ構造の3軸織物15Aを含んでいる。
【0031】
さらにまた、ケース本体10の周壁10aと、環状フランジ11の立壁11aと、溝12の溝壁12aにおける各表裏面は、いずれもガラス繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料より成る保護膜G(図2の拡大長円内にのみ示す)で被覆されている。この保護膜Gは、例えば、ケース本体10の成形後における機械加工時には切削代としての役割を果たし、電食防止材としての役割も担っている。加えて、完成品であるファンケース9を取り扱う際の保護層としての役割も担っている。
【0032】
さらにまた、ケース本体10と環状フランジ11との間、及び、ケース本体10と溝12との間には、ガラス繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた複合材料から成る保護層16,17が、いずれもセグメント化された状態で配置されている。
【0033】
そして、上記のように保護用複合材料Gで被覆された溝12の溝壁12aは、Ti合金製又はNi合金製のカバー18で被覆されるようになっており、例えば、エンジンナセル8に形成されたTi合金製の内向きフランジとの嵌合時における摩耗を回避するようになっている。
【0034】
そこで、上記したファンケース9の製造方法を説明する。
まず、図4(a)に示すように、成形装置20を構成する筒状のマンドレル20C,このマンドレル20Cの前端部(図示左端部)に対して接近離間可能なフランジ成形型20F及びマンドレル20Cの後端部(図示右端部)に対して接近離間可能な溝成形型20Rの各成形面に離型剤Lを吹き付ける。
【0035】
続いて、マンドレル20Cから離間させたフランジ成形型20F及び溝成形型20Rの代わりに、スペーサSをマンドレル20Cの前後端部にそれぞれセットする。
【0036】
この後、図4(b)に示すように、マンドレル20C及びスペーサSをその軸心CL周りに回転させつつ、2軸織物13Aをマンドレル20Cの成形面上に巻き付けて2軸織物層13を形成する2軸織物層形成工程と、ロービング14Aをマンドレル20Cの成形面におけるケース本体10の成形部位上に周方向に沿ってらせん状に巻き付けてロービング層14を形成するロービング層形成工程と、3軸織物15Aをマンドレル20Cの成形面における溝12の成形部位上に巻き付けて3軸織物層15を形成する3軸織物層形成工程とを繰り返し行って、ケース本体10に相当する部分を有する積層体9Aを成形し、これらの工程後において、積層体9Aの表面を保護膜Gで被覆する
【0037】
次に、図5(a)に示すように、マンドレル20Cの前後端部からスペーサSをそれぞれ離間させるのに続いて、マンドレル20Cの前後端部に対してフランジ成形型20F及び溝成形型20Rをそれぞれ接近させる。
【0038】
そして、図5(b)に示すように、フランジ成形型20Fとマンドレル20Cの前端部とで、積層体9Aの前端部に環状フランジ11に相当する部分を成形すると共に、溝成形型20Rとマンドレル20Cの後端部に位置する溝成形部20aとで、積層体9Aの後端部に溝12に相当する部分を成形するフランジ溝成形工程を行う。
【0039】
次いで、図5(c)に示すように、積層体9Aのケース本体相当部分とフランジ相当部分との間、及び、ケース本体相当部分と溝相当部分との間に、保護層16,17をそれぞれ配置した後、図5(d)に示すように、成形装置20上の積層体9AをバッグBで覆って、このバッグB内部の真空引きを行いながら積層体9Aを加熱加圧する加熱加圧工程を行い、各層13,14,15の強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂を硬化させる。
【0040】
この加熱工程終了後に、図5(e)に示すように、各層13,14,15の強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂が硬化して成る積層体9Bを成形装置20から離型させ、続いて、図5(f)に示すように、成形装置20から離型させた積層体9Bに対して機械加工を施して、ファンケース9の形状に仕上げた後、溝12の溝壁12aをTi合金製又はNi合金製のカバー18で被覆する。
【0041】
上記したように、この実施例のファンケース9では、環状フランジ11を構成する立壁11aが、炭素繊維等の強化繊維束13a,13bから成る2軸織物13Aのみを含む複数の2軸織物層13を積層して形成されているので、ノンクリンプ構造の特徴である伸縮性が発揮されて環状フランジ11の成形が、皺や繊維の蛇行を生じさせることなく成されることとなる。
【0042】
また、この実施例のファンケース9では、ケース本体10を構成する周壁10aが、炭素繊維等の強化繊維帯13a,13bから成る2軸織物13Aを含む複数の2軸織物層13と、ケース本体10の周方向に沿う炭素繊維等の強化繊維を束ねて成るロービング14Aを含む複数のロービング層14とを交互に積層して形成されているので、ファンケース9全体の強度及び剛性が確保されることとなる。
【0043】
さらに、この実施例のファンケース9では、溝12を構成する溝壁12aが、ケース本体10の周壁10aに連続する複数の2軸織物層13と、3軸方向の強化繊維帯15a,15b,15cのうちの1つの強化繊維帯15cの配向角をケース本体10の軸心CL方向に合わせて成る複数の3軸織物層15とを交互に積層して形成されているので、ファンケース9の強度及び剛性を保持したまま、溝壁12aの軸心CL方向への荷重に対する強度及び剛性を向上させ得ることとなる。
【0044】
加えて、溝12の溝壁12aに、1つの強化繊維帯15cの配向角をケース本体10の軸心CL方向に合わせた3軸織物層15を採用しているので、溝12の溝壁12aの周方向への拡張が許容されることとなって、溝12の成形が皺や繊維の蛇行を生じさせることなく成されることとなり、省力化や工期の短縮化を図るうえでの自動成形が可能となる。
【0045】
なお、上記した実施例に係るファンケースの製造方法では、2軸織物層形成工程と、ロービング層形成工程と、3軸織物層形成工程と、を繰り返し行ってケース本体に相当する部分を有する積層体9Aを成形した後、この積層体9Aにおけるケース本体10に相当する部分の端部に溝12に相当する部分を一体で成形するようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、2軸織物層形成工程と、ロービング層形成工程と、を繰り返し行ってケース本体に相当する部分の積層体を成形すると共に、2軸織物層形成工程と、3軸織物層形成工程と、を繰り返し行って溝用積層体を成形した後、溝用積層体を溝に相当する部分とすべく成形する溝成形工程を経て、一体化工程によって、溝用積層体と、ケース本体に相当する部分として成形された積層体とを一体化させるようにしてもよい。
【0046】
また、上記した実施例に係るファンケースは、ケース本体10がストレート形状を成している場合を説明したが、例えば、図6(a)に示すように、ファンケース9のケース本体10が軸心CLに対して傾斜している場合には、成形後のファンケース9の離型を考慮して、図6(b)にも示す複数の分割片20Pから成るマンドレル20Cが採用される。
【0047】
本発明に係る円筒状ケース及び円筒状ケースの製造方法の構成は、上記した実施例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0048】
1 航空機用ジェットエンジン
9 ファンケース
9A 加熱前の積層体
9B 加熱後の積層体
10 ケース本体
10a 周壁
12 溝
12a 溝壁
13 2軸織物層
13A 2軸織物
13a,13b 2軸の強化繊維帯
14 ロービング層
14A ロービング
15 3軸織物層
15A 3軸織物
15a,15b,15c 3軸の強化繊維帯
18 カバー
20C マンドレル
20R 溝成形型
20a 溝成形部
CL 軸心
G 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6