(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記安定性評価装置は、前記画像に基づいて、前記中心軸線および前記回転面を算出し、該回転面と前記走行面に対して鉛直投影した前記中心軸線とが交差する点を、前記接地点として算出することを特徴とする、請求項1または2に記載の安定性評価システム。
前記安定性評価装置は、走行中の前記車両に対して前記走行面から作用する走行面反力のうち、前記車両の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力を算出して、該走行面反力を前記車両の安定性評価指標として提供する、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の安定性評価システム。
前記安定性評価装置は、前記車両の進行方向と前記回転面とが成す角度を、走行中の前記車両のスリップアングルとして算出して、該スリップアングルを前記車両の安定性評価指標として提供することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の安定性評価システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、走行中の車両の接地点の位置を把握するとともに、車両の操縦主体の挙動を考慮して、走行中の車両の安定性を定量的に評価することができる、安定性評価システム、および安定性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明に係る安定性評価システムは、走行面を走行中の車両の安定性を評価する安定性評価システムであって、前記車両および該車両を操縦する操縦主体の合成重心位置を特定可能に配置された重心識別特徴と、前記車両の車輪が前記走行面に接する点である接地点を特定可能な接地点識別特徴であって、前記車輪の回転中心を含む回転面と、該回転中心を通り前記回転面に対して垂直な中心軸線とを検出可能に配置された、接地点識別特徴と、前記走行面、前記重心識別特徴、および前記接地点識別特徴を撮像する少なくとも2台の撮像装置と、前記少なくとも2台の撮像装置により撮像した画像に基づいて、前記合成重心位置を算出し、且つ、前記接地点識別特徴の位置情報から接地点を算出して、少なくとも前記合成重心位置および前記接地点を含む前記車両の安定性評価指標として提供する安定性評価装置と、を備えることを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記重心識別特徴は、前記車両の重心位置を特定可能な車両重心識別特徴と、前記操縦主体の重心位置を特定可能な操縦主体重心識別特徴とを含み、前記安定性評価装置は、前記車両重心識別特徴および前記操縦主体重心識別特徴の位置情報に基づいて、前記合成重心位置を算出することが好ましく、この構成によれば、合成重心位置情報を簡易に取得することができる。
【0007】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記安定性評価装置は、前記画像に基づいて、前記中心軸線および前記回転面を算出し、該回転面と前記走行面に対して鉛直投影した前記中心軸線とが交差する点を、前記接地点として算出する、ことが好ましく、この構成によれば、走行中の車両の接地点の情報を簡易に取得することができる。
【0008】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記車両は二輪車であり、前記安定性評価装置は、前記二輪車の前輪および後輪についてそれぞれ算出した前記接地点を結ぶ直線を接地線として算出し、該接地線と、前記走行面に対して投影した前記合成重心位置との距離である重心変位量を算出
すると共に、90度から前記回転面と前記走行面とが成す角度を減じた角度である、前記車両のバンク角を算出して、前記重心変位量および前記バンク角を前記車両の安定性評価指標として提供することが好ましく、この構成によれば、走行中の車両について重心変位量およびバンク角に基づいて安定性を評価することができる。
【0009】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記安定性評価装置は、前記重心変位量の時系列変化および前記バンク角の時系列変化を算出し、前記重心変位量の時系列変化から重心変位量時系列波形を取得して、該重心変位量時系列波形に基づいて重心変位量の振幅値を算出し、且つ、前記バンク角の時系列変化からバンク角時系列波形を取得して、該バンク角時系列波形と前記重心変位量時系列波形との位相差を算出して、前記振幅値および前記位相差を前記車両の安定性評価指標として提供することが好ましく、この構成によれば、客観的な数値を用いて自転車の走行安定性評価を実施することが可能になる。
【0010】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記車両重心識別特徴は、前記車両のハンドル舵角を検出可能に配置されたハンドル舵角識別特徴を含み、前記安定性評価装置は、前記ハンドル舵角識別特徴の位置情報から、ハンドル舵角を算出して、該ハンドル舵角を前記車両の安定性評価指標として提供することが好ましく、この構成によれば、ハンドル舵角を考慮して走行中の車両の安定性評価を実施することが可能になる。
【0011】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記安定性評価装置は、走行中の前記車両に対して前記走行面から作用する走行面反力のうち、前記車両の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力を算出して、該走行面反力を前記車両の安定性評価指標として提供することが好ましく、この構成によれば、走行面反力のうち車両の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力を考慮して、走行中の車両の安定性評価を実施することが可能になる。
【0012】
また、本発明に係る安定性評価システムにおいては、前記安定性評価装置は、前記車両の進行方向と前記回転面とが成す角度を、走行中の前記車両のスリップアングルとして算出して、該スリップアングルを前記車両の安定性評価指標として提供することが好ましく、この構成によれば、走行中の車両のスリップアングルを取得するとともに、スリップアングルを考慮して走行中の車両の安定性評価を実施することが可能になる。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明に係る他の安定性評価システムは、走行面を走行中の二輪車の安定性を評価する安定性評価システムであって、前記
二輪車および該
二輪車を操縦する操縦主体の合成重心位置を特定可能に配置された重心識別特徴と、前記
二輪車の車輪が前記走行面に接する点である接地点を特定可能な接地点識別特徴であって、前記車輪の回転中心を含む回転面と、該回転中心を通り前記回転面に対して垂直な中心軸線とを検出可能に配置された、接地点識別特徴と、前記
二輪車のハンドル舵角を検出可能に配置された、ハンドル舵角識別特徴と、前記走行面、前記重心識別特徴、前記接地点識別特徴、および前記ハンドル舵角識別特徴を撮像する少なくとも2台の撮像装置と、前記少なくとも2台の撮像装置により撮像した画像に基づいて、前記合成重心位置を算出し、且つ、前記接地点識別特徴の位置情報から接地点を算出して、前記合成重心位置および前記接地点を前記
二輪車の安定性評価指標として提供する安定性評価装置とを備え、前記安定性評価装置は、前記二輪車の前輪および後輪についてそれぞれ算出した前記接地点を結ぶ直線を接地線として算出し、該接地線と、前記走行面に対して投影した前記合成重心位置との距離である重心変位量を算出し、さらに、90度から前記回転面と前記走行面とが成す角度を減じて
算出されうる、前記
二輪車のバンク角、前記ハンドル舵角識別特徴の位置情報から
算出されうる、ハンドル舵角、走行中の前記
二輪車に対して前記走行面から作用する走行面反力のうち、前記
二輪車の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力、
及び前記
二輪車の進行方向と前記回転面とが成す角度
である、走行中の前記
二輪車のスリップアングル、
のうちの少なくとも一つを算出し、さらに、前記重心変位量の時系列変化から重心変位量時系列波形を取得して、該重心変位量時系列波形に基づいて重心変位量の振幅値を算出し
て、前記バンク角、前記ハンドル舵角、前記
二輪車の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力、および前記スリップアングルのうちの1つまたは2つの時系列変化から時系列波形を取得して、該1つまたは2つの時系列波形および前記重心変位量時系列波形のうちの2つの時系列波形について位相差を算出して、少なくとも前記振幅値および前記位相差を含む前記
二輪車の安定性評価指標として提供することを特徴とするものである。
【0014】
この安定性評価システムによれば、走行中の車両の接地点の位置を把握するとともに、少なくとも、車両とその操縦主体との合成重心位置の車両重心変位量と、バンク角、ハンドル舵角、車両の進行方向に対して垂直方向に作用する走行面反力、およびスリップアングルのうちの少なくとも1つに基づいて、車両の操縦主体の挙動を考慮して走行中の車両の安定性を評価することができる。
【0015】
上記目的を達成する本発明に係る安定性評価方法は、走行面を走行中の車両の安定性を評価する安定性評価方法であって、前記走行面と、前記車両および該車両を操縦する操縦主体の合成重心位置を特定可能に配置された重心識別特徴と、前記車両の車輪が前記走行面に接する点である接地点を特定可能な接地点識別特徴であって、前記車輪の回転中心を含む回転面と、該回転中心を通り前記回転面に対して垂直な中心軸線とを検出可能に配置された、接地点識別特徴とを撮像するステップと、撮像された画像に基づいて、前記合成重心位置を算出し、且つ、前記接地点識別特徴の位置情報から接地点を算出して、少なくとも前記合成重心位置および前記接地点を含む前記車両の安定性評価指標として提供するステップと、を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、走行中の車両の接地点の位置を把握するとともに、車両の操縦主体の挙動を考慮して、走行中の車両の安定性を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
図1は、本発明による安定性評価システムの一例を説明する図である。本実施形態では、車両を自転車として、また、操縦主体を操縦者(ヒト)として説明する。
図1に示す安定性評価システム1は、自転車2の前輪3に取り付けられた接地点識別特徴4Aおよび4B、後輪5に取り付けられた接地点識別特徴6Aおよび6B、撮像装置7Aおよび7B、ならびに安定性評価装置8を備える。なお、自転車2は操縦者9によって操縦される。
【0019】
さらに、安定性評価システム1は、自転車2および操縦者9の合成重心位置を特定可能な重心識別特徴を構成する、操縦主体重心識別特徴10および車両重心識別特徴11を有する。操縦主体重心識別特徴10は、操縦主体の重心位置を特定可能に配置される。具体的には、操縦主体重心識別特徴10は、既知の人体特性理論に基づいて、操縦者9の頭部、胸部、腰部、上腕部、前腕部、手部、大腿部、下腿部、足部に付されている。
車両重心識別特徴11は、車両の重心位置を特定可能に配置される。例えば、車両重心識別特徴11は、自転車2のハンドル、フレーム、および静止状態(ハンドルがまっすぐの状態)における自転車2の重心位置に付されている。
図1では明確のため、操縦主体重心識別特徴10は、頭部に付した操縦主体重心識別特徴10についてのみ、車両重心識別特徴11は、静止状態における自転車2の重心位置に付した車両重心識別特徴11についてのみ、参照符号を付して図示する。
【0020】
接地点識別特徴4Aおよび4B、ならびに接地点識別特徴6Aおよび6Bは、位置特定可能であり、車輪の回転中心を含む仮想の回転面と、該回転中心を通り回転面に対して垂直な仮想の中心軸線と、を検出することができるように、それぞれ、前輪3および後輪5に取り付けられている。具体的には、例えば、接地点識別特徴6Aおよび6Bは、車輪の回転中心から前輪3および後輪5のそれぞれの両側に向かって回転面に対して垂直に等距離で突出している取付部材上に取り付けられる。接地点識別特徴4Aおよび4B、ならびに接地点識別特徴6Aおよび6Bを用いて車輪の接地点を計測する方法は、
図3を参照して後述する。
【0021】
撮像装置7Aおよび7Bは、走行面、車輪(前輪3および後輪5)、接地点識別特徴4A、4B、6A、および6B、車両重心識別特徴11、および操縦主体重心識別特徴10を撮像する。撮像装置7Aおよび7Bにより撮像される画像は、例えば、時系列画像である。撮像装置7Aおよび7Bは、取得した画像の3次元計測を行って接地点識別特徴4A、4B、6A、および6B、車両重心識別特徴11、および操縦主体重心識別特徴10の3次元位置情報が得られるように適宜離間して配置される。撮像装置7Aおよび7Bは、例えば、いわゆるモーションキャプチャシステムを構築する少なくとも2台のカメラとして構成される。
【0022】
安定性評価装置8は、撮像装置7Aおよび7Bにより撮像した画像から取得した接地点識別特徴4A、4B、6A、および6Bの位置情報に基づいて、前輪3および後輪5の中心軸線15および回転面16を算出し、該回転面16と走行面に対して鉛直投影した投影中心軸線13とが交差する点を接地点14として算出する。さらに、安定性評価装置8は、前輪3および後輪5のそれぞれの接地点を結んだ直線を接地線として算出する。
【0023】
さらに、安定性評価装置8は、撮像装置7Aおよび7Bにより撮像した画像から、操縦主体重心識別特徴10および車両重心識別特徴11の位置情報を取得して、取得した位置情報から合成重心位置を算出する。
【0024】
図2は、本発明による安定性評価方法の一例を説明するフローチャートである。先ず、撮像装置7Aおよび7Bにより、走行面と、操縦主体重心識別特徴10および車両重心識別特徴11と、接地点識別特徴4A,4B,6A,6Bと、を撮像する(ステップS01)。そして、安定性評価装置8は接地点識別特徴4A,4B,6Aおよび6B、ならびに重心識別特徴(操縦主体重心識別特徴10および車両重心識別特徴11)の3次元位置情報を取得する(ステップS02)。さらに、安定性評価装置8は、ステップS02で取得した3次元位置情報に基づいて、少なくとも自転車2および操縦者9の合成重心位置を算出し、また、
図3を参照して後述するような方法で接地点および接地線を算出する(ステップS03)。さらに、安定性評価装置8は、ステップS03で算出した合成重心位置、接地点、および接地線を含む自転車2の安定性評価指標を、例えば、図示しない表示部等に表示し、および図示しない記憶部等に記憶することで、安定性評価指標として提供する(ステップS04)。
【0025】
安定性評価装置8は、ステップS01〜S04の一連の処理を、撮像装置7Aおよび7Bにより撮像された時系列画像(動画)について繰り返すことで、走行中の自転車2および操縦者9の合成重心位置、接地点、および接地線の経時変化を簡易に取得・提供することができる。
【0026】
以下、上述のステップS03における安定性評価装置8の計算処理方法を説明する。
[接地点計算処理]
図3は、
図2のステップS03における接地点計算処理の一例を説明する図である。本例では、接地点識別特徴6Aおよび6Bは、車輪の中心軸線15上で回転面16の両側に回転中心Oから等距離離隔した位置に配置された2つの例えば小球状のマーカーとして構成される。取付部材20は、例えば治具により構成される。
図3は、後輪5を正面から見た図であり、接地点識別特徴(小球状マーカー)6Aおよび6Bは、後輪5の回転中心Oから後輪5の両側に向かって、回転面16に対して垂直に等距離で突出する取付部材20に対して取り付けられる。なお、前輪3の接地点識別特徴4Aおよび4Bについても同様に配置されている。
【0027】
安定性評価装置8は、接地点を算出するにあたって、撮像装置7Aおよび7Bにより撮像した画像から接地点識別特徴6Aおよび6Bの中心位置の3次元位置情報を取得し、当該中心位置をつなぐ直線を中心軸線15として算出する。さらに、安定性評価装置8は、中心軸線15を垂直二等分する面を後輪5の回転面16として算出する。さらに、安定性評価装置8は、回転面16と、地面等の走行面12に対して中心軸線15を鉛直投影した投影中心軸線13とが交差する点を、接地点14として算出する。安定性評価装置8は、
図3には示さない接地点識別特徴4Aおよび4Bについても、同様の計算処理を実施して、前輪3の接地点を算出することができる。そして、算出した前輪3および後輪5の両接地点を通る直線を接地線として算出することができる。
【0028】
[合成重心計算処理]
安定性評価装置8は、まず、操縦主体重心識別特徴10の位置情報に基づいて操縦者9の重心位置を特定し、車両重心識別特徴11の位置情報に基づいて自転車2(車両)の重心位置を特定する。操縦者9の重心位置は、人体特性に基づく各体節の重心位置の計測結果を合成することにより特定する。自転車2の重心位置は、例えば、懸垂法や秤量法により求めた静止状態における自転車2の重心位置と、ハンドルやフレームに付された車両重心識別特徴11の走行中の位置情報と、に基づいて特定する。
【0029】
そして、安定性評価装置8は、操縦者9(操縦主体)の重心位置および自転車2の重心位置と、操縦者9および自転車2の各質量に基づいて、合成重心位置を計算する。具体的な計算原理の一例を以下に説明する。まず、操縦者9の質量(体重)をMa(kg)、および任意に設定したXYZ平面における重心位置座標を(Xa,Ya,Za)、自転車2の質量(重量)をMb(kg)、重心位置座標を(Xb,Yb,Zb)とする。この場合、合成重心位置座標を(Xg,Yg,Zg)とすると、かかる合成重心位置において、X,Y,Z方向のモーメントは0となるはずである。よって、自転車2および操縦者9の合成重心位置のX座標について、
Ma・g・Xa+Mb・g・Xb−(Ma+Mb)・g・Xg=0 (g:重力加速度)
が満たされるはずである。したがって、合成重心位置のX座標は、
Xg=(Ma・Xa+Mb・Xb)/(Ma+Mb)
として算出することができる。同様にしてYg,Zgも下式により算出することができる。
Yg=(Ma・Ya+Mb・Yb)/(Ma+Mb)
Zg=(Ma・Za+Mb・Zb)/(Ma+Mb)
【0030】
次に、安定性評価装置8によって算出された、接地点(接地線)および合成重心の位置関係について
図4を参照して説明する。
図4は、安定性評価装置8で取得した各識別特徴、合成重心位置、および接地線の位置関係を説明する図である。図中の黒丸は、
図1を参照して説明した操縦主体重心識別特徴10に対応し、白丸は、車両重心識別特徴11に対応する。特に
図1の自転車2のハンドルに付された車両重心識別特徴を17Aおよび17Bとして図示する。前輪接地点14Aおよび後輪接地点14Bを通る直線は、接地線18である。操縦者および自転車の合成重心位置は合成重心位置Gとして図示する。合成重心位置Gを走行面に対して投影した位置を投影合成重心位置G
pとして図示する。投影合成重心位置G
pと接地線18との位置関係に着目すると、操縦者が自転車により直進する場合には、接地線18に対して左右に投影合成重心位置G
pが変動する。
【0031】
操縦者は、自転車を安定して走行させるために、投影合成重心位置G
pが接地線18上にくるように操縦者が重心移動やハンドル制御を実施している。そこで、本発明者らは、接地線18−投影合成重心位置G
p間の距離(重心変位量)の変動と、自転車のハンドル舵角、バンク角、スリップアングル、走行面反力のような走行中の自転車において変動しうる種々の安定性評価指標との関係に着目した。以下、本実施形態による安定性評価システム1における種々の安定性評価指標の算出方法を説明する。
【0032】
ハンドル舵角とは、ハンドルを切った角度を言う。安定性評価装置8は、ハンドル舵角を、
図1および
図4に示したような、ハンドルに付されたハンドル舵角識別特徴17Aおよび17Bを走行面に投影したポイント17A
pおよび17B
pを通る直線と、フレームに付された車両重心識別特徴11より導かれる、フレームに対して垂直な直線(例えば、直線17C−17C´)とのなす角として算出することができる。
【0033】
バンク角とは、車両を垂直状態から傾けた時の角度を言う。本実施形態では、バンク角を自転車の後輪の傾きに基づいて算出するものとする。安定性評価装置8は、自転車2の後輪5について
図2のステップ03で算出した回転面16と、走行面12に対して垂直な面とがなす角を、バンク角として算出することができる。すなわち、安定性評価装置8は、90度から回転面16と走行面12とが成す鋭角側の角度を減じて、バンク角を算出する。このようにして、本実施形態による安定性評価システム1は、安定性評価指標の一つとしてバンク角を算出および提供することができる。車両を直線走行させる際には、バンク角が生じることにより車体が不安定になると考えられるため、バンク角を算出することは、車両の安定性を評価する上で重要である。
【0034】
スリップアングルとは、車両の前輪の向きと車両の進行方向とのずれの角度を言う。安定性評価装置8は、走行中の自転車2の進行方向と前輪3の回転面とが成す角度を、スリップアングルとして算出することができる。安定性評価装置8は、走行中のある時点における自転車2の進行方向を、撮像装置7Aおよび7Bにより取得した時系列画像から任意の時間間隔の2枚の画像を抽出して、それらの画像における前輪3の接地点を結んだ直線の方向として取得する。そして、安定性評価装置8は、取得した自転車2の進行方向と、上述の2枚の画像のうちのいずれかにおける前輪3の回転面とが成す角度を、当該画像の時点における自転車2のスリップアングルとして取得する。2枚の画像の時間間隔を短くするほど、各時点における、より正確な進行方向の情報およびスリップアングルを取得することができる。このようにして、本実施形態による安定性評価システムは、従来は算出することが非常に難しかった走行中の車両のスリップアングルを、安定性評価指標の一つとして算出することができる。車両のスリップアングルを算出することにより、走行中の車両に生じるコーナリングフォースを推測できると共に、当該コーナリングフォースに起因する車両挙動を予測することも可能となる。
【0035】
走行面反力とは、車両に対して走行面から作用する力を言う。そして、走行面反力のうち、車両の進行方向に対して垂直な方向の力の成分は、車両の横転に寄与し、走行中の車両の安定性評価に影響を及ぼすことが考えられる。安定性評価装置8は、バンク角および接地線18に基づいて、走行面反力のうち進行方向に対して垂直な方向に作用する力(以下、進路垂直反力という)、を算出することができる。まず、走行面反力の算出方法は、既知の方法に従う。具体的には、車両の走行面とするプレートの四隅に歪ゲージ、又は圧電素子を配置し、これらの歪ゲージ又は圧電素子により感知された力に基づいて、プレートに係る3軸(ピッチ軸、ロール軸、ヨー軸)の力及びモーメントを出力する。
【0036】
そして、安定性評価装置8は、このようにして算出した走行面反力から、
図5Aおよび
図5Bを参照して説明する方法によって、進路垂直反力を算出する。
図5Aおよび
図5Bは、進路垂直反力を算出するための方法の一例を説明するための図であり、
図5Aは後輪5を後輪5の正面から見た図であり、
図5Bは、上から見た図である。そして、進路垂直反力は、上述の通り走行面から作用する力を分解することによって得られる、進行方向に対して垂直に作用する力をいう。かかる進路垂直反力の影響により、自転車2が走行中に横転する虞がある。
【0037】
上述のようにして算出した走行面反力μについて、
図5Aに示すように、安定性評価装置8は、まず、バンク角θ
BAを用いて走行面に対して平行な力μsinθ
BAに分解する。次に、安定性評価装置8は、
図5Bに示すような力μsinθ
BAと進行方向線19とが成す角θ
Tを算出して、進路垂直反力μsinθ
BA・sinθ
Tに分解する。このようにして、安定性評価装置8は、進路垂直反力μsinθ
BA・sinθ
Tを算出する。安定性評価装置8は、進路垂直反力μsinθ
BA・sinθ
Tを安定性評価指標の一つとして算出することで、走行中の自転車2に対して進行方向に向かって横方向にどの程度の力が印加されているかを数値的に示すことができる。そして、安定性評価システム1は、進路垂直反力を用いて、例えば、走行中の自転車2がどの時点で横方向に倒れる蓋然性が高いかということを解析することができる。
【0038】
このように、本実施形態による安定性評価システムは、走行中の車両の安定性に寄与する様々な指標を算出し提供することができる。そして、かかる安定性評価システムは、そのような指標を用いて、走行中の車両の安定性を数値的に評価することができる。以下、
図6を参照して、上述のようにして算出された指標の一例を説明する。
【0039】
図6は、本発明により走行時の車両の安定性評価結果の一例を示す図であり、
図4を参照して説明した投影合成重心位置の変位量(重心変位量)と、ハンドル舵角の変動と、バンク角の変動を示す。それぞれについて、接地線上を0、自転車の進行方向に向かって接地線の右側方向の変位をマイナス、左側方向の変位をプラスとして図示した。走行時間の経過に伴い、各安定性評価指標の値の時系列変化から、各安定性評価指標の時系列波形が得られた。
【0040】
例えば、
図6に基づいて、走行時の自転車の安定性を以下のように評価することができる。まず、時刻t
1の時点で何らかの外的要因により重心が進行方向に向かって右側に変位することに伴い、一定の遅延をはさんで時刻t
2の時点で自転車に傾きが生じてバンク角の数値に影響が現れる。そして、時刻t
3の時点で操縦者が自転車の傾きを補正するためにハンドルを反対方向に切ると、それに続いてバンク角が小さくなり自転車の傾きが緩和される。
【0041】
このように、本実施形態による安定性評価システムによれば、自転車の走行時の車両の安定性を保持するための自転車および操縦者の挙動を数値的に表すことができる。さらに、本実施形態による安定性評価システムは、
図6に示すような時系列波形に基づいて、自転車の安定性を評価するための、更なる安定性評価指標を提供することもできる。以下、
図7を参照して時系列波形に基づく、更なる安定性評価指標の算出方法を説明する。
【0042】
図7は、本発明による安定性評価指標の算出方法の一例を説明する図である。
図7に示す時系列波形は、例えば重心変位量の時系列波形である。ここでは、時刻t
1〜t
nまでの平均振幅をA
ave、時刻t
kにおける振幅値をA
kとすると、
図8に示す時系列波形を代表する振幅値Aは下式で与えられる。
【数1】
【0043】
このようにして算出した、重心変位量、ハンドル舵角、バンク角、進路垂直反力、スリップアングルの時系列波形の振幅値を走行中の自転車の安定性評価指標の一つとして用いることができる。
【0044】
また、本実施形態による安定性評価装置8は、
図6に示したような各安定性評価指標の時系列波形について位相差を算出することで、更なる安定性評価指標を算出することもできる。以下、位相差の算出方法の一例を、
図8を参照して説明する。
図8は、正規化した重心変位量およびバンク角の時系列波形の一例を示す図である。
【0045】
図8に示す時系列波形は、それぞれ、
図6に示したような重心変位量およびバンク角の時系列波形を、それぞれ、中心が0となるように平行移動して、ピークトゥーピークの値が1となるように正規化したものである。ここでは、バンク角の時系列波形y
1および重心変位量の時系列波形y
2をそれぞれ、下式によって表す。
y
1=A
1sinωt
y
2=A
2sin(ωt+δ)
ここで、A
1はバンク角振幅値、A
2は重心変位振幅値、ωは角周波数、tは時間、δは位相差である。
【0046】
そして、上述の式より下式を得て、リサージュ図形を得る。
y
1/A
1=sinωt
y
2/A
2=sin(ωt+δ)
ここで、リサージュ図形により定義される楕円面積について平均化処理を行うことは困難であるため、本実施形態による安定性評価装置8では、例えば、y
1=y
2からの距離x
iの平均値を下式により算出して、位相差PDとする。
【数2】
【0047】
このようにして、本実施形態による安定性評価システム1によれば、重心変位量、ハンドル舵角、バンク角、進路垂直反力、スリップアングル等から選択した2つの安定性評価指標の時系列波形について、位相差を算出して、更なる安定性評価指標を提供することができる。以下、
図9を参照して、本実施形態による安定性評価システム1による安定性評価結果の一例を説明する。
【0048】
図9は、本発明の一実施形態による安定性評価システム1により提供される安定性評価結果の一例を示す図である。横軸は、重心変位量を示し、縦軸は重心変位量―バンク角位相差を示す。ここでは、4種の自転車A〜Dについて一の操縦者が直線走行したデータに基づいて算出した安定性評価指標を示す。重心変位量は、走行面に対して投影した合成重心位置と接地線との距離の振幅値(mm)であり、この値が小さいほど直進走行が容易な、すなわち、進路保持性が良好な自転車であるといえる。重心変位量−バンク角位相差は、自転車の操作性を表す指標である。すなわち、この値が大きいほど、重心移動の影響がバンク角の変化に及ぶまでの時間が長く、応答がゆっくりとした自転車であるといえる。逆に、重心変位量−バンク角位相差の値が小さいほど、応答が速い自転車であるといえる。
【0049】
すなわち、自転車Aは進路保持性が高く、応答がゆっくりとした自転車である。一方、自転車Dは、進路保持性が比較的低いが、操作に対する応答が速い自転車である。自転車BおよびCは、自転車AおよびDの間の特性を示す自転車である。これらの自転車の操作性は、実際にヒトが自転車A〜Dで直線走行した場合の操作の体感ともよく一致していた。
【0050】
このように、本実施形態による安定性評価システム1によれば、自転車の走行安定性に関して評価指標となる数値データを提供することができる。これにより、従来なら官能評価に頼っていた自転車の走行安定性評価を、客観的な数値を用いて実施することが可能になる。なお、
図9における縦軸は、重心変位量−バンク角位相差に限定されるものではなく、重心変位量およびバンク角に加えて、ハンドル舵角、スリップアングル、および進路垂直反力から選択した2つの安定性評価指標について、位相差を算出して
図9のようなチャートの縦軸として適用することももちろん可能である。
【0051】
本発明の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。従って、本発明は、上述の実施形態によって制限されるものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能であり、例えば、上記実施形態では操縦主体が操縦者(ヒト)であるものとして説明したが、操縦主体を、車両に推進力を与えることができるあらゆる対象で置き換えて上述の安定性評価システムを構築することももちろん可能である。これにより、例えばロボットなどによる車両の走行安定性を評価することが可能となる。また、上記実施形態では車両が自転車であるものとして説明したが、車両として、一輪車や自動二輪車を用いることももちろん可能である。これにより、一輪車や自動二輪車の走行安定性を評価することが可能となる。