(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1温度は、前記硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点未満の温度であり、前記第2温度は前記硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点以上の温度であることを特徴とする請求項1に記載の内張り材の設置方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、硬質熱可塑性樹脂からなる内張り材を、地上に設置された加温装置で加熱した後に、縦坑を経由して地中に埋設された管路内に挿入している。しかし、加温装置で、内張り材が所定の温度まで加熱されて一旦軟化しても、その後、縦坑を通過する際の放熱で、内張り材の温度が低下してしまう。従って、管路に挿入する前の状態では内張り材の軟化が不十分となり、内張り材を変形させることが困難となって管路に挿入することが難しくなる。それ故、例えば、大型のウインチを準備して内張り材を強力に引き込むといったことが必要になる。また、管路へ挿入した後の内張り材の温度もかなり低くなってしまっており、次工程で内張り材を膨らませるための加熱に時間がかかり、全体の施工時間が長くなってしまうという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、硬質熱可塑性樹脂を含む内張り材を十分に軟化させた状態で、管路内に挿入することが可能な、内張り材の設置方法を提供することである。
【0007】
第1の発明の内張り材の設置方法は、硬質熱可塑性樹脂からなる筒状の内張り材を管路内に設置する方法であって、
前記内張り材を前記管路内に挿入する挿入工程と、前記管路内に挿入された前記内張り材を加熱しながら内圧を作用させて、前記管路の内面に沿うように前記内張り材を膨張させる膨張工程と、を備え、
前記挿入工程において、加熱媒体を噴出可能な加熱手段を内部に有する可撓性の加熱筒体を前記管路の管路口付近まで設置し、この加熱筒体に前記内張り材を挿通して、前記内張り材が前記加熱筒体を通過する間に前記加熱手段によって前記内張り材を加熱
し、
前記管路内に設置される前の前記内張り材は加熱ボックスに収容されており、前記挿入工程において、前記加熱ボックス内で、前記内張り材を第1温度まで加熱し、前記加熱ボックスから引き出された前記内張り材を、前記加熱筒体内で前記第1温度よりも高い第2温度まで加熱することを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、まず、加熱媒体を噴出可能な加熱手段を内部に有する可撓性の加熱筒体を管路の管路口付近まで設置する。そして、この加熱筒体に内張り材を挿通することで、管路に挿入される直前まで加熱筒体内で内張り材を加熱する。また、加熱筒体内で、加熱手段から加熱媒体が噴出され、この加熱媒体によって内張り材が直接加熱される。これにより、内張り材を十分に軟化させた状態で管路へ挿入でき、挿入時の内張り材の移動抵抗を抑えることができるため挿入作業が容易になる。また、内張り材の温度を高く維持したまま管路内に挿入できることから、次の膨張工程での内張り材の加熱に要する時間が短くて済む。また、本発明において、熱可塑性樹脂が「硬質」とは、常温の状態では可撓性がほとんどないことを意味する。
【0009】
また、本発明では、加熱筒体が可撓性を有することから、加熱筒体を管路口付近に設置する、あるいは、内張り材の挿入後に加熱筒体を取り外すといった作業が容易である。また、可撓性を有する加熱筒体は外力を加えることによって容易に位置を変えたり、変形させたりすることができることから、加熱筒体が剛体である場合と比べて、加熱筒体の周囲での作業スペースの確保が容易であるという利点もある。
また、本発明では、まず、内張り材が収容されている加熱ボックス内で低い第1温度まで加熱する。これにより、内張り材の硬質熱可塑性樹脂を少し柔らかくして加熱ボックスから引き出しやすくする。次に、加熱筒体にて、第1温度よりも高い第2温度まで加熱してさらに軟化させ、内張り材を十分に軟化させて管路への挿入を容易にする。本発明では、予め加熱ボックス内において第1温度まで加熱しておいてから加熱筒体で第2温度まで加熱することから、加熱筒体のみで内張り材を加熱する場合に比べて、内張り材を短時間で高い温度まで加熱することができる。つまり、施工準備中も加熱ボックスで内張り材を予熱しておけるため、時間に制限のある実工事上は非常に有益である。また、加熱ボックス内の内張り材を予熱しておけるため、内張り材の挿入速度を上げつつも、短時間で通過する加熱筒体内で内張り材を第2温度まで確実に加熱することができ、挿入工程を短時間で終えることが可能となる。また、加熱ボックス内だけでなく、加熱ボックスから引き出された後も加熱筒体内で加熱されるため、内張り材を十分に加熱した状態で管路内に挿入することができる。逆に言うと、加熱ボックス内で内張り材を予熱しておくことで、加熱筒体の長さを抑えることが可能であり、施工場所をコンパクトにすることができて、多くの施工条件で適用可能な方法となる。
【0012】
第
2の発明の内張り材の設置方法は、前記第
1の発明において、前記第1温度は、前記硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点未満の温度であり、前記第2温度は前記硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点以上の温度であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、加熱ボックス内では、内張り材を、硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点未満の温度に抑えておくことで、内張り材の収納状態が崩れず、加熱ボックス内からの内張り材の引き出し時の抵抗が大きくならない。また、加熱ボックスから引き出した後においては、加熱筒体にて、内張り材を、硬質熱可塑性樹脂のビカット軟化点以上の温度まで加熱して、内張り材を十分に軟化させるため、管路口までの間に屈曲や段差等がある場合でも、管路への内張り材の挿入作業が容易になる。
【0014】
第
3の発明の内張り材の設置方法は、前記第1
又は第2の発明において、前記加熱筒体の端部が、前記管路口から前記管路の内部まで挿入されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、管路口から管路の内部まで加熱筒体が挿入されているので、内張り材を管路内に挿入するときに、内張り材が管路口付近の角部に直接接触して損傷することが防止される。また、加熱筒体の端部から漏れ出る加熱媒体が管路の内面を暖めるため、管路内に挿入された途端に内張り材の外面が急冷されてしまうことがなく、内張り材が管路の内面の凹凸になじみやすくなる。また、内張り材の温度が比較的高い状態で膨張工程を開始することができるため、膨張工程における加熱時間を短縮できる。さらに、施工中に、内張り材の動きに引きずられるなどして加熱筒体が管路に対して多少ずれても、加熱筒体が管路口から外れにくいので、内張り材を管路口まで確実に加熱することができる。
【0016】
第
4の発明の内張り材の設置方法は、前記第1〜第
3の何れかの発明において、前記管路は、地上と縦坑を介して接続された埋設管路であり、前記挿入工程において、前記縦坑から前記管路まで前記加熱筒体を設置し、前記縦坑と前記管路との接続部に、前記加熱筒体を、前記接続部の角部から離すための管口ガイドを設置することを特徴とするものである。
【0017】
内張り材を管路内に挿入する際に、内張り材を覆っている可撓性の加熱筒体が、縦坑と管路との接続部の角部に強く押し付けられると、加熱筒体が前記接続部の角部との間で擦れて破損する虞がある。また、その際、内張り材にも前記接続部の角部によって折れや捩れ等が生じやすくなり、次の膨張工程で内張り材の内部に加圧流体を供給しにくくなる。本発明では、縦坑と管路との接続部に、加熱筒体を前記接続部の角部から離すように管口ガイドが設置されている。これにより、加熱筒体が前記接続部の角部に押し付けられることがない。また、内張り材に折れや捩れ等が生じにくくなる。
【0018】
第
5の発明の内張り材の設置方法は、前記第
4の発明において、前記管口ガイドは、鉛直方向から水平方向に向けて湾曲する湾曲面を有し、前記加熱筒体を前記湾曲面に沿って設置することを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、管口ガイドの湾曲面に沿って加熱筒体が設置されることから、加熱筒体が管口ガイドに強く押し付けられても接触摩擦は小さい。また、湾曲面によって内張り材が管路へ向けて案内されることで、内張り材に折れや捩れ等がさらに生じにくくなる。
【0020】
第
6の発明の内張り材の設置方法は、前記第1〜第
5の何れかの発明において、 前記加熱手段は、蒸気を噴出する複数の孔が形成された蒸気供給管からなることを特徴とするものである。
【0021】
本発明では、加熱筒体内に設置された蒸気供給管の複数の孔からそれぞれ蒸気が噴出することによって、加熱筒体内を通過する内張り材が加熱される。また、蒸気供給管が加熱筒体内に存在することによって、加熱筒体の内部に適当な空間が形成される。そのため、加熱筒体内への内張り材の挿入時に、特に、内張り材の先端部分を通す際の抵抗が小さくなる。また、蒸気供給管の剛性によって加熱筒体が極端に折れ曲がることもないため、挿入時に加熱筒体内で内張り材が引っ掛かることもない。
【0022】
第
7の発明の内張り材の設置方法は、前記第1〜第
6の何れかの発明において、前記内張り材は、前記硬質熱可塑性樹脂の層の厚さ方向に筒状織物が配置された構成を有し、前記筒状織物は、その熱変形温度が、前記硬質熱可塑性樹脂の熱変形温度よりも高い糸で構成されていることを特徴とするものである。
【0023】
本発明において、内張り材は、硬質熱硬化性樹脂の層の厚さ方向に筒状織物が配置された構成を有する。また、筒状織物は、熱変形温度が、硬質熱硬化性樹脂の熱変形温度よりも高い糸で構成されている。そのため、加熱によって樹脂層が軟化しても筒状織物によって引張強度が維持される。従って、加熱筒体内における挿入時における引張りによって内張り材が伸びることがないので、管路に挿入したときに内張り材の厚さが減少するなどの問題が生じない。また、内張り材の長さ方向に引張応力が残留しにくいため、内張り材の膨張工程で内張り材が収縮することがない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態は、下水道管などの地中に埋設された既設管路(以下では、単に管路と称す)に補修又は補強のための内張り材を設置する場合に、本発明を適用した一例である。管路Pは、マンホールM1,M2(縦坑)を介して、地上と接続されている(
図1、
図2、
図9、
図10参照)。以下では、2つのマンホールM1,M2間の管路P内に内張り材1を設置する場合について説明する。
【0026】
本実施形態では、まず、硬質熱可塑性樹脂層を含む筒状の内張り材1を、マンホールM1に設置された加熱筒体2内に通して加熱し、軟化させた上で管路P内に挿入する(挿入工程:
図1、
図2参照)。次に、管路P内に挿入された内張り材1を膨張させる(膨張工程:
図9参照)。これにより、筒状の内張り材1を管路Pの内面に沿うように設置する(
図10参照)。
【0027】
(1)挿入工程
図1は、加熱筒体の設置工程を示す図、
図2は、内張り材の引き込み工程を示す図である。
図1に示すように、まず、マンホールM1の開口近くに、筒状の内張り材1が巻かれたリール4を収容した加熱ボックス3を設置する。
【0028】
図3は、内張り材の断面図である。
図3に示すように、内張り材1は、硬質の熱可塑性樹脂層6の厚さ方向に筒状織物5が配置された構成を有する。
図3では、筒状織物5の内面と外面にそれぞれ熱可塑性樹脂層6が貼り合わされた構成が示されているが、内面と外面の何れか一方にのみ熱可塑性樹脂層6が貼り合わされてもよい。あるいは、熱可塑性樹脂層6内に筒状織物5が埋め込まれた構成であってもよい。また、
図3に示すように、筒状の内張り材1は、偏平な形状に押し潰された状態でリール4に巻かれている。
【0029】
硬質熱可塑性樹脂層6は、例えば、硬質塩化ビニル樹脂や高密度ポリエチレン等で形成される。この硬質熱可塑性樹脂層6は、常温(例えば20℃)ではほとんど可撓性を示さず、変形もしない。筒状織物5は、経糸(筒軸方向の糸)に対して緯糸がスパイラル状に織り込まれ、経糸がほぼ直線状に延びる一方で、緯糸は屈曲した構造を有する。経糸及び緯糸には、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系の糸を使用できる。また、緯糸には、伸びのある嵩だか加工糸を使用する。そのため、筒状織物5が内側から加圧されたときには、緯糸が周方向に伸びるとともに屈曲部分が直線状に近づくため、筒状織物5は拡径することになる。
【0030】
尚、筒状織物5は、後述する内張り材1の挿入時に、硬質熱可塑性樹脂層6を加熱して軟化させたときに、内張り材1の引張強度を確保する役割を果たす。硬質熱硬化性樹脂である硬質塩化ビニル樹脂の熱変形温度は54〜74℃であり、また、高密度ポリエチレンは40〜54℃である、これに対して、筒状織物5で使用されるポリエチレンテレフタレートの熱変形温度は、240〜245℃である。従って、加熱によって硬質熱硬化性樹脂が軟化しても筒状織物5を構成する糸は軟化していないことから、内張り材1全体の引張強度が維持される。従って、挿入時に内張り材1に引っ張り力が作用しても、内張り材全体が伸びることが抑えられ、また、伸びることによる厚みの減少や樹脂のひずみに起因する冷却時の収縮も抑制される。
【0031】
図1に戻り、加熱ボックス3は図示しない加熱装置を有し、この加熱装置を用いて加熱ボックス3内の内張り材1を所定温度に加熱しておく。尚、この加熱ボックス3では、内張り材1を、リール4から引き出しやすくなる程度に軟化すれば十分であり、その加熱温度は、硬質熱可塑性樹脂層6のビカット軟化点未満の温度でよい。また、その程度の加熱にとどめることによって、内張り材1の収納状態が崩れず、加熱ボックス3内からの内張り材1の引き出し時の抵抗が大きくならない。例えば、硬質熱可塑性樹脂層6が塩化ビニル樹脂(ビカット軟化点65℃)である場合、加熱ボックス3での加熱温度は55〜60℃程度とする。
【0032】
(加熱筒体の設置)
次に、
図1に示すように、加熱ボックス3の、内張り材1が引き出される引出部3aに、可撓性を有する加熱筒体2の一端部を固定するとともに、この加熱筒体2をマンホールM1内に設置する。
図4は、内張り材が挿通される加熱筒体の平面図である。
図5は、
図4のV-V線断面図である。
【0033】
加熱筒体2は、耐熱性及び気密性を具備する素材で形成された、可撓性を有するホースであり、例えば、内面又は外面が熱可塑性樹脂で被覆されたホース状物等で形成できる。また、加熱筒体2には、その長手方向に沿ってファスナー7が設けられ、このファスナー7によって加熱筒体2の内部を開放することが可能である。ファスナー7は、線ファスナーであってもよいし、面ファスナーであってもよい。また、
図4に示すように、加熱筒体2の長手方向に2つのファスナー7が並べて設けられ、これら2つのファスナー7によって、加熱筒体2はその全長にわたって内部開放可能となっている。また、2つのファスナー7のうちの一方のみを開いて加熱筒体2の一方側のみを開放し、他方側は閉止したままとすることも可能である。
【0034】
加熱筒体2の内部には、2本の蒸気供給管8が、加熱筒体2の長手方向に沿って配されている。蒸気供給管8は、耐熱性と保形性に加え、可撓性も兼ね備えたフレキシブルパイプである。
【0035】
2本の蒸気供給管8は、加熱筒体2の中心に関してほぼ点対称な位置に配置されている。各蒸気供給管8の、加熱筒体2の中心側に向いた部分には、その長手方向(
図5の紙面垂直方向)に沿って複数の蒸気噴射孔8aが形成されている。2本の蒸気供給管8は図示しないボイラとそれぞれ接続される。ボイラから各蒸気供給管8に供給された蒸気は、複数の蒸気噴射孔8aから加熱筒体2内へ蒸気が噴出する。尚、ボイラに接続された2本の蒸気供給管8が、本発明の「加熱手段」に相当する。
【0036】
蒸気供給管8としては、例えば、経糸がポリエステル繊維等からなる一般繊維、緯糸がポリエステル等のモノフィラメント糸で織成された筒状織物の内面に、熱可塑性樹脂(例えばウレタン樹脂)のチューブを接着一体化したホース状物を使用できる。緯糸のモノフィラメント糸の線径が太いことから保形性(剛性)を有するパイプ状となる。そして、このホース状物の外面から、適宜熱した針状物で蒸気噴射孔8aとなる細孔を形成する。
【0037】
加熱筒体2をマンホールM1内に設置する前に、このマンホールM1の下部の、管路Pとの接続部9に管口ガイド10を設置しておく。
図6は、管口ガイドの斜視図、
図7(a)はマンホール下部の鉛直断面図、(b)はマンホール下部の水平断面図である。
【0038】
図6、
図7に示すように、管口ガイド10は、棒状の第1フレーム部11と、T字状の第2フレーム部12と、ガイド部13とを有する。第1フレーム部11は、筒部14と、この筒部14の内部に挿通されたネジ棒15と、ネジ棒15に螺合されたナット部材16とを有する。第1フレーム部11の両端部(筒部14の端部及びネジ棒15の端部)にはそれぞれ受圧板17,18が取り付けられている。T字状の第2フレーム部12は、筒状の基部19と、この基部19の内部に挿通されたネジ棒20と、ネジ棒20に螺合されたナット部材21とを有する。第2フレーム部12の基部19の端部にも受圧板22が取り付けられている。ガイド部13は、第1フレーム部11とT字状の第2フレーム部12の両方に連結されており、また、このガイド部13は、中心角が略90度の湾曲面23を有する。
【0039】
図7に示すように、棒状の第1フレーム部11が管路Pと直交し、且つ、T字状の第2フレーム部12の基部19が管路Pと平行となる姿勢で、管口ガイド10を、マンホールM1の下部の、管路Pとの接続部9に設置する。このとき、ガイド部13は、その湾曲面23が、鉛直方向から水平方向に向けて延びるように配置される。この状態で、2つのナット部材16,21をそれぞれ回転させて2本のネジ棒15,20を延ばし、3つの受圧板17,18,22をマンホールM1の内面にそれぞれ押し付けることにより、管口ガイド10の位置を固定する。
【0040】
上記の管口ガイド10の設置後に、加熱筒体2をマンホールM1内に挿入し、管路Pの管路口Pa付近まで加熱筒体2を設置する。加熱筒体2は可撓性を有するホースであるから、マンホールM1内への加熱筒体2の設置は容易である。また、マンホールM1の下部の、管路Pとの接続部9においては、加熱筒体2を管口ガイド10に掛けて、接続部9の角部9aに加熱筒体2が接触しないようにする。より具体的には、加熱筒体2を管口ガイド10の第1フレーム部11に掛け、さらに、加熱筒体2をガイド部13の湾曲面23に沿って配置し、湾曲面23によって加熱筒体2が鉛直方向から水平方向に案内されるようにする。また、管口ガイド10から先の加熱筒体2の先端部は、管路口Paから管路Pの内部まで挿入しておく。加熱筒体2の管路Pへの挿入長さは、例えば、100〜200mm程度とする。
【0041】
尚、加熱筒体2が剛直な材料で形成されていると、加熱筒体2が設置されているマンホールM1内の作業スペースが小さく、内張り材1の挿通作業等が行いにくいという問題がある。本実施形態では加熱筒体2は可撓性を有するため、加熱筒体2に外力を加えてマンホールM1内で加熱筒体2を押しのけたり、加熱筒体2を変形させたりして、加熱筒体2の周囲に作業スペースを確保することは比較的容易である。
【0042】
(内張り材の引き込み)
加熱筒体2の設置が完了したら、次に、
図2に示すように、内張り材1を、加熱筒体2に挿通し、加熱筒体2を介して管路P内に挿入する。まず、加熱ボックス3から引き出した内張り材1の先端部に引き込み用のワイヤ30を接続する。加熱筒体2には長手方向に延びる2つのファスナー7が設けられていることから、内張り材1の挿入前の準備工程において、ファスナー7を開いて、加熱筒体2内にワイヤ30を簡単に通線することができる。ワイヤ30の通線が完了すると、2つのファスナー7を閉じてから2本の蒸気供給管8に蒸気を供給し、加熱筒体2内で2本の蒸気供給管8から蒸気を噴出させる。
【0043】
この状態で、加熱筒体2を通過する間に加熱されて軟化した内張り材1を、加熱筒体2を経由して管路P内へ挿入する。具体的には、内張り材1の挿入側とは反対側のマンホールM2から、ワイヤ30をウインチ31で巻取る。すると、内張り材1が、まず、加熱筒体2内へ挿入されていく。加熱筒体2内では、2本の蒸気供給管8から内張り材1へ向けて蒸気が噴出することにより、内張り材1が蒸気で直接加熱される。尚、内張り材1を加熱筒体2内に挿入する際には、
図4、
図5に示すように、加熱筒体2内において、内張り材1が2本の蒸気供給管8の間に内張り材1が位置するようにする。
【0044】
ここで、加熱筒体2に供給する蒸気量(蒸気圧力)等を制御することによって、加熱筒体2内において、加熱ボックス3内の加熱温度(第1温度)よりも高い温度まで内張り材1を加熱する。また、内張り材1の硬質熱可塑性樹脂層6が十分に軟化するように、加熱筒体2内の加熱温度(第2温度)は、硬質熱可塑性樹脂層6のビカット軟化点以上の温度であることが好ましい。例えば、硬質熱可塑性樹脂層6が塩化ビニル樹脂である場合、加熱筒体2内での加熱温度は80℃以上とする。これにより、内張り材1を十分に軟化させることができ、管路口Paまでの間に屈曲や段差などがあっても、管路Pへの内張り材1の挿入作業が容易になる。
【0045】
尚、蒸気供給管8が加熱筒体2内に存在することによって、加熱筒体2の内部に適当な空間が形成される。そのため、加熱筒体2内への内張り材1の挿入時に、特に、内張り材1の先端部を通す際の抵抗が小さくなる。また、蒸気供給管8の剛性によって加熱筒体2が極端に折れ曲がることもないため、挿入時に加熱筒体2内で内張り材1が引っ掛かることもない。また、加熱筒体2には長手方向に延びるファスナー7が設けられていることから、内張り材1の挿入作業中に何らかの異常が生じたときには、一旦内張り材1の挿入と蒸気の供給を止めて、ファスナー7を開き、内張り材1の状態を直ちに確認することが可能である。
【0046】
加熱筒体2を通って管路P内に挿入された内張り材1の先端部が、マンホールM2の管路口Pbまで到達したら、ワイヤ30の巻取りを終了し、挿入工程を完了する。
図8は、内張り材が挿入された管路の断面図である。
【0047】
上記のように、本実施形態では、内部に蒸気供給管8(加熱手段)を有する加熱筒体2を管路Pの管路口Pa付近まで設置する。そして、この加熱筒体2に内張り材1を挿通することで、管路Pに挿入される直前まで加熱筒体2内で内張り材1を加熱する。また、加熱筒体2内で、蒸気供給管8から蒸気が噴出され、この蒸気によって内張り材1が直接加熱される。これにより、内張り材1を十分に軟化させた状態で管路Pへ挿入でき、挿入時の内張り材1の抵抗(引き込み抵抗)を抑えることができるため挿入作業が容易になる。また、内張り材1の温度を高く維持したまま管路P内に挿入できることから、次の膨張工程での内張り材1の加熱に要する時間が短くて済む。
【0048】
尚、加熱筒体2内の加熱によって樹脂層6が軟化しても筒状織物5によって内張り材1の全体の引張強度が維持される。従って、加熱筒体2内における加熱によって内張り材1が伸びてしまうことはない。また、管路Pに挿入したときに内張り材1の厚さが減少するなどの問題が生じない。また、内張り材1の長さ方向に引張応力が残留しにくいため、後の膨張工程で引張応力が解放されて、内張り材1が収縮することがない。
【0049】
また、加熱ボックス3内において内張り材1を予備的に加熱した上で(例えば、55〜60℃)、加熱筒体2を通過する間にさらに高い温度(例えば、80℃以上)まで加熱する。この2段加熱を採用することにより、加熱筒体2のみで内張り材1を加熱する場合に比べて、短時間で内張り材1を所定温度まで加熱することができる。つまり、施工準備中も加熱ボックス3で内張り材1を予熱しておけるため、時間に制限のある実工事上は非常に有益である。また、加熱ボックス3内の内張り材1を予熱しておけるため、内張り材1の挿入速度(引き込み速度)を上げつつも、内張り材1を所定温度(例えば、樹脂層6のビカット軟化点)まで確実に加熱することができ、挿入工程を短時間で終えることが可能となる。また、加熱ボックス3内だけでなく、加熱ボックス3から引き出された後も加熱筒体2内で加熱されるため、内張り材1を十分に加熱した状態で管路P内に挿入することができる。逆に言うと、加熱ボックス3内で内張り材1を予熱しておくことにより、加熱筒体2の長さを抑えることも可能であり、施工場所をコンパクトにすることができて、多くの施工条件で適用可能な方法となる。
【0050】
また、
図2に示すように、加熱筒体2の端部は、管路口Paから管路Pの内部まで挿入されている。そのため、内張り材1を管路P内に挿入するときに、内張り材1が管路口Pa付近の角部9a(
図7)等に直接接触して損傷することが防止される。また、
図2に示すように、加熱筒体2の端部から漏れ出る蒸気が管路Pの内面を暖めるため、管路P内に挿入された途端に内張り材1の外面が急冷されてしまうことがなく、内張り材1が管路Pの内面の凹凸になじみやすくなる。また、内張り材1の温度が比較的高い状態で、後の膨張工程を開始することができるため、膨張工程における加熱時間を短縮できる。さらに、内張り材1の挿入時に、内張り材1の動きに引きずられるなどして加熱筒体2が管路Pに対して多少ずれても、加熱筒体2が管路口Paから外れにくい。
【0051】
また、ウインチ31で管路P内に内張り材1を引き込む際に、加熱筒体2が、マンホールM1と管路Pとの接続部9の角部9aに押し付けられると、加熱筒体2が接続部9の角部9aとの間で擦れて破損する虞がある。また、その際、管路Pに挿入される内張り材1にも前記接続部9の角部9aによって折れや捩れ等が生じやすくなり、次の膨張工程で内張り材1の内部に蒸気を供給しにくくなる。さらに、内張り材1が管路Pの下部から浮き上がるという問題がある。この点、本実施形態では、マンホールM1と管路Pとの接続部9に管口ガイド10を設置することで、マンホールM1から管路P内へ挿入される加熱筒体2が、接続部9の角部9aから離されることになり、加熱筒体2に角部9aとの接触による破損等が生じない。また、内張り材1に折れや捩れ等が生じにくくなる。さらに、内張り材1が管路Pの下部から浮き上がりにくくなる。また、管口ガイド10が湾曲面23を有し、加熱筒体2は前記湾曲面23に沿って設置される。そのため、加熱筒体2が管口ガイド10に強く押し付けられても接触摩擦は小さい。また、湾曲面23によって内張り材1が管路Pへ向けて案内されることで、内張り材1に折れや捩れ等がさらに生じにくくなる。
【0052】
(2)膨張工程
図8のように管路P内に内張り材1が挿入された後に、この内張り材1を内側から加熱しつつ内圧を作用させて内張り材1を膨張させる。まず、マンホールM1において管口ガイド10を取り外し、次いで、内張り材1を取り囲むように配置されている加熱筒体2を取り外す。具体的には、加熱筒体2のファスナー7を開いて加熱筒体2を開いてから、加熱筒体2をマンホールM1から引き抜いて取り外す。
【0053】
図9は、内張り材の膨張工程を示す図である。加熱筒体2を取り外したら、次に、
図9に示すように、マンホールM1側の内張り材1の端部を切断して端部金具33を装着し、端部金具33とボイラ32とをホース34で接続する。また、反対側のマンホールM2側の内張り材1の端部には、消音器36付きの排気部35を備えた端部金具37を取り付ける。この状態で、ボイラ32から内張り材1の内部に蒸気を供給し、内張り材1を加熱しながら内圧を作用させる。尚、この際、マンホールM2側の端部においても内張り材1が十分に加熱されるように、マンホールM2側の排気部35から蒸気を少しずつ排出しつつ、マンホールM1側から蒸気を供給する。これにより、内張り材1の硬質熱可塑性樹脂層6をビカット軟化点以上に加熱して軟化させながら、内張り材1を断面円形に膨張させて管路Pの内面に沿わせる。
【0054】
内張り材1を膨張させた後は、内張り材1を冷却する。すると、内張り材1が管路Pの内面に沿った状態で、樹脂層6が硬化する。内張り材1の樹脂層6の硬化後、管路Pからはみ出した部分を切断し、内張り材1の設置を完了する。
図10は、内張り材の設置が完了した状態を示す図である。尚、
図10では、
図9とは異なり、内張り材1を断面で示している。尚、内張り材1の冷却期間を短縮するために、内張り材1に内圧が作用した状態を保ちながら、内張り材1内に大量のエアや水を供給して排出することで、内張り材1を強制的に冷却することも可能である。
【0055】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0056】
1]加熱筒体2の内部に設置されて内張り材1を加熱する加熱手段は、前記実施形態の蒸気供給管8には限られない。例えば、加熱筒体2内の内張り材1に向けて高温の温風を噴出可能な装置であってもよい。
【0057】
2]前記実施形態では、加熱ボックス3内で内張り材1を加熱した後、加熱筒体2で内張り材1をさらに高い温度に加熱する、2段加熱を採用している。これに対して、加熱筒体2への挿通前における内張り材1の加熱を省略し、加熱筒体2のみで内張り材1を所定温度まで加熱する構成であってもよい。
【0058】
3]前記実施形態のように、加熱筒体2において、硬質熱可塑性樹脂層6のビカット軟化点以上の温度まで加熱することが好ましいが、内張り材1をビカット軟化点まで加熱しなくとも、ある程度軟化していれば、内張り材1を管路内に引き込むことは可能である。
【0059】
4]
図11に示すように、加熱筒体2の先端部が管路P内に挿入されていなくてもよい。但し、内張り材1の管路Pへの挿入時に加熱筒体2が管路Pから外れてしまうことがないように、加熱筒体2の先端部を、適宜の固定手段40によって管路口Pa付近に固定しておくことが好ましい。
【0060】
5]管口ガイド10の形状は、前記実施形態のものには限られない。例えば、
図12に示す管口ガイド50のように、前記実施形態のガイド部13が省略されて、水平に延びる棒状の第1フレーム部11のみによって、加熱筒体2が鉛直方向から水平方向に向きを変えるようにガイドされる構成であってもよい。
【0061】
6]加熱筒体2が、ファスナー7等の開閉手段によって開放可能である必要は必ずしもない。但し、ファスナー7がない場合には、加熱筒体2を開放できないために、ワイヤ30の通線作業がやや面倒になる。また、何らかの異常があった場合に加熱筒体2内の内張り材1の状態を確認するには、一旦、内張り材1を加熱筒体2から抜き出す必要がある。
【0062】
7]前記実施形態の内張り材1は、硬質熱可塑性樹脂の層と筒状織物とを有するものであったが、筒状織物を有さない内張り材1を使用する場合でも、本発明は適用可能である。
【0063】
8]本発明の適用は、地中に埋設された既設管路の補修には限られない。即ち、地上や水中に敷設された管路や、建物等において上下方向に沿って配された管路など、様々な管路の補修に本発明を適用することも可能である。あるいは、未使用の新設管路の補強に適用することも可能である。