(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る溶接ユニット6の構成を示す図である。溶接ユニット6は、溶接ロボット1と、駆動電源2と、温度センサ3と、記憶部41と、制御部42と、表示部43とを備える。以下では、溶接ユニット6により、焼却施設や発電所等に設置された鋼製の排気筒の外面に、鋼板が溶接される場合について説明する。
【0019】
図2は、排気筒91の外面92に取り付けられた溶接ロボット1の側面図である。
図2では、溶接の対象物である排気筒91および鋼板94を断面にて図示する。排気筒91の外面92および内面93はそれぞれ、溶接が行われる対象物の表面および裏面である。排気筒91の内面93には、塗膜やライニング材等の保護膜が設けられる。溶接ロボット1は、排気筒91および鋼板94に対し、アーク溶接の1種であるMAG溶接(metal active gas welding)を行う。溶接ロボット1は、多自由度(例えば、6自由度)のロボットアーム11と、溶接トーチ12とを備える。溶接トーチ12は、ロボットアーム11の先端部111に取り付けられ、ロボットアーム11により3次元的に移動される。
【0020】
溶接トーチ12の先端部には、耐風ノズル13が設けられる。耐風ノズル13により、シールドガスの流量を毎分約200リットルまで増加可能である。これにより、風速約10m/秒の環境下でも溶接を行うことができる。溶接トーチ12には、駆動電源2(
図1参照)から溶接用の電力が供給される。駆動電源2として、低電圧のデジタルパルス電源が利用される。
【0021】
温度センサ3は、排気筒91上の溶接部の表面温度を測定する。具体的には、温度センサ3は、排気筒91の外面92上の溶接部を撮像して溶接部の温度分布の画像を取得する。温度センサ3から出力された画像は、表示部43(
図1参照)に表示される。温度センサ3は、ロボットアーム11の先端部111に取り付けられ、ロボットアーム11により、溶接トーチ12と共に3次元的に移動される。温度センサ3の測定領域は、溶接トーチ12に対して相対的に固定される。
【0022】
図3は、表示部43に表示される溶接部の温度分布の一例を示す図である。図中の左側の部分は鋼板94であり、
図3では、鋼板94のR処理された角部近傍が図示されている。
図3では、後述する第1ビード961の形成途上の様子を示す。符号81を付す実線にて囲まれる部分は、溶接トーチ12により溶接が行われている部位に対応し、最も高温である。符号82を付す破線にて囲まれる部分は、溶接によるビードが形成済みの部位に対応し、温度は、上述の最高温部81よりも低い。最高温部81の温度は、例えば、約1500℃である。符号82にて囲まれる部分の温度は、約1500℃未満であり、最高温部81に近づくに従って高温となる。
【0023】
図1に示す記憶部41および制御部42は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶するROM、および、各種情報を記憶するRAMをバスラインに接続した一般的なコンピュータシステムの構成となっている。記憶部41は、溶接ロボット1により行われる溶接に関する様々な情報を記憶する。制御部42は、ロボットアーム11による溶接トーチ12の移動、並びに、溶接の開始、停止、中断および再開等、溶接ロボット1の動作を制御する。
【0024】
図2に示すように、溶接ユニット6は、ロボット支持部51と、複数のボルト52とをさらに備える。複数のボルト52は、排気筒91の外面92に接合される。本実施の形態では、6本のボルト52が排気筒91に接合される。具体的には、上下方向に3本のボルト52が配列されたボルト列が、左右方向に2列設けられる。
【0025】
ロボット支持部51は、複数のボルト52に取り付けられて溶接ロボット1を支持する。ロボット支持部51は、水平方向に広がる略板状の第1部位511と、垂直方向に広がる略板状の第2部位512と、第1部位511と第2部位512とに接続される板状の第3部位513とを備える。第2部位512は、第1部位511の排気筒91側の端部に接合されて排気筒91の外面92に対向する。第2部位512には、6つの貫通孔が設けられている。第3部位513は、第1部位511の下面、および、第2部位512の排気筒91とは反対側の面に接合され、第1部位511と第2部位512との接合を補強する。
【0026】
図4は、溶接ロボット1の設置方法の流れを示す図である。複数のボルト52は、スタッド溶接用の溶接機により、排気筒91の外面92に略垂直にスタッド溶接される(ステップS01)。各ボルト52は、スタッド溶接により接合されるスタッドである。続いて、各ボルト52にナット53が取り付けられ、ナット53は、排気筒91近傍にてボルト52に溶接される(ステップS02)。
【0027】
次に、第2部位512の6つの貫通孔に6本のボルト52がそれぞれ挿入される。第2部位512は、各ボルト52に溶接されたナット53に接する。そして、各ボルト52にナット54が取り付けられ、ナット53とナット54とにより第2部位512が挟まれる。これにより、ロボット支持部51が複数のボルト52に取り付けられ、ロボット支持部51の排気筒91に対する相対位置が決定される(ステップS03)。また、複数のナット54の締め付けの程度を変更することにより、第1部位511の水平方向に対する傾きが調整される。
【0028】
その後、溶接ロボット1が、ロボット支持部51の第1部位511上に、ボルト等により着脱可能に取り付けられる(ステップS04)。通常、排気筒91の外面92は曲面であるため、外面92を基準として溶接ロボット1の位置決めを行うと、溶接ロボット1の位置精度の向上に限界がある。上述のように、各ボルト52にナット53を溶接し、ナット53を基準としてロボット支持部51の位置決めを行うことにより、溶接ロボット1の排気筒91に対する相対位置を精度良く決定することができる。
【0029】
ステップS01にてボルト52が溶接される際には、排気筒91においてボルト52が溶接される部位の内面93の温度(以下、「裏面温度」という。)が上昇する。スタッド溶接では、ボルト52の直径dが大きくなると、裏面温度の上昇量も大きくなる。一方、ボルト52が溶接される部位における排気筒91の板厚tが大きいと、裏面温度の上昇量は小さくなる。
【0030】
図5は、ボルト52の直径dおよび排気筒91の板厚tと裏面温度との関係を示す図である。
図5中において符号85を付す直線が、d=2
0.5・t(=√(2)・t)を示し、符号86を付す直線が、d=0.4tを示す。スタッド溶接において通常使用されるボルト52については、ボルト52の直径dを、直線85以下とする、すなわち、排気筒91の板厚tの(2
0.5)倍以下とすることにより、裏面温度の最高温度を80℃以下とすることができる。また、排気筒91に対するボルト52の接合強度を確保するという観点からは、ボルト52の直径dは、直線86以上、すなわち、排気筒91の板厚tの0.4倍以上であることが好ましい。上述の溶接ロボット1の設置方法では、ボルト52の直径dは、排気筒91の板厚tの約0.9倍である。
【0031】
これにより、ボルト52のスタッド溶接時における裏面温度の上昇を抑制することができる。その結果、排気筒91の内面93に設けられた塗膜やライニング材が、スタッド溶接時の熱により劣化したり損傷することを抑制、または、防止することができる。また、ボルト52の直径を比較的小さくすることにより、溶接ユニット6を排気筒91から撤去する際に、作業員がハンマ等でボルト52を叩いて排気筒91の外面92から容易に除去することができる。
【0032】
次に、溶接ユニット6による鋼板94の排気筒91に対する溶接について説明する。
図6は、排気筒91に溶接された鋼板94を示す図である。鋼板94は、鋼板94の全周に亘って設けられた環状の溶接部95に対し、上述の溶接ユニット6により溶接が行われてビード96が形成されることにより、排気筒91の外面92に溶接される。溶接部95は、鋼板94の排気筒91に接する面の全周に亘るエッジ、並びに、鋼板94および排気筒91の当該エッジ近傍の部位である。
【0033】
図7は、
図6中のA−Aの位置にて切断した断面を拡大して示す図である。
図7に示すように、ビード96は、溶接部95上にて重ねて形成された第1ビード961、第2ビード962、第3ビード963、第4ビード964、第5ビード965、第6ビード966および第7ビード967を含む。ビード96は、第1ビード961〜第7ビード967が溶接部95上にて重なるように設定された複数の溶接パスに沿って複数回の溶接を順次行うことにより形成される。
【0034】
具体的には、溶接部95の全周に亘って設定された環状の第1の溶接パスに沿って、溶接ロボット1の溶接トーチ12が移動しつつMAG溶接を行うことにより、第1ビード961が形成される。第1ビード961の形成は、
図6中の時計回りに行われる。第1ビード961が形成されると、溶接部95の全周に亘って設定された環状の第2の溶接パスに沿って、溶接ロボット1による溶接が行われて第2ビード962が形成される。第2の溶接パスの始点は、第1の溶接パスの始点を含むとともに第1の溶接パスに垂直な断面上におよそ位置する。第2ビード962の形成も、
図6中の時計回りに行われる。
【0035】
以下同様に、第3ないし第7の溶接パスに沿って、第3ビード963、第4ビード964、第5ビード965、第6ビード966および第7ビード967の形成が、
図6中の時計回りに順次行われる。第3ないし第7の溶接パスはそれぞれ、第1および第2の溶接パスと同様に、溶接部95の全周に亘って環状に設定される。また、第3ないし第7の溶接パスのそれぞれの始点は、第2の溶接パスの始点と同様に、第1の溶接パスの始点を含むとともに第1の溶接パスに垂直な断面上におよそ位置する。
【0036】
以下では、
図8.Aないし
図8.Cを参照しつつ、排気筒91に対する鋼板94の溶接方法について、より詳細に説明する。まず、排気筒91の溶接部95の内面93(すなわち、裏面)における加熱制限に基づいて、第1ないし第7の溶接パスのそれぞれの溶接開始条件、および、第1ないし第7の溶接パスのそれぞれの溶接継続条件が決定される。以下の説明では、第1の溶接パスの溶接開始条件および溶接継続条件をそれぞれ、「第1開始条件」および「第1継続条件」という。また、第2の溶接パスの溶接開始条件および溶接継続条件をそれぞれ、「第2開始条件」および「第2継続条件」という。第3ないし第7の溶接パスの溶接開始条件および溶接継続条件においても同様である。
【0037】
加熱制限とは、溶接部95の内面93において許容される加熱状態である。第1開始条件とは、第1の溶接パスの始点において、第1の溶接パスに沿う溶接の開始の可否を判断するための条件であり、第1開始条件が満たされると、第1の溶接パスに沿う溶接、すなわち、第1ビード961の形成が開始される。第2開始条件は、第2の溶接パスの始点において、第2の溶接パスに沿う溶接の開始の可否を判断するための条件であり、第2開始条件が満たされると、第2の溶接パスに沿う溶接、すなわち、第2ビード962の形成が開始される。第3ないし第7開始条件も同様に、第3ないし第7の溶接パスの始点において、第3ないし第7の溶接パスに沿う溶接の開始の可否を判断するための条件である。
【0038】
本実施の形態では、溶接部95の内面93における加熱制限は、溶接部95の内面93の温度(以下、「裏面温度」という。)が80℃以上に連続的に維持される時間が25秒以下であること、である。第1開始条件および第2開始条件は、溶接部95の裏面温度が所定の閾値温度以下であること、である。第3開始条件ないし第7開始条件も同様に、溶接部95の裏面温度が閾値温度以下であること、である。閾値温度は、例えば、40℃である。
【0039】
第1継続条件とは、第1の溶接パスに沿う溶接の実施中に、溶接を継続して行うことの可否を判断するための条件である。第1継続条件が満たされている間、第1の溶接パスに沿う溶接、すなわち、第1ビード961の形成が継続される。第1継続条件が満たされない場合、溶接は一旦中断され、第1継続条件が満たされると、第1の溶接パスに沿う溶接が再開される。第2継続条件は、第2の溶接パスに沿う溶接の実施中に、溶接を継続して行うことの可否を判断するための条件である。第2継続条件が満たされている間、第2の溶接パスに沿う溶接、すなわち、第2ビード962の形成が継続される。第2継続条件が満たされない場合、溶接は一旦中断され、第2継続条件が満たされると、第2の溶接パスに沿う溶接が再開される。第3ないし第7継続条件も同様に、第3ないし第7の溶接パスに沿う溶接を継続して行うことの可否を判断するための条件である。
【0040】
本実施の形態では、第1継続条件は、表示部43に表示される溶接部95の温度分布において、
図3に示す第1ビード961の高温領域961aの長さL1が、所定の第1長さ以下であること、である。高温領域961aとは、第1ビード961の表面温度が、所定の第1温度以上、かつ、所定の第2温度以下である領域である。第1温度は常温よりも高く、上記閾値温度よりも高い200℃であり、第2温度は第1温度よりも高い800℃である。
図3中では、高温領域961aを、符号83を付す実線にて囲む。高温領域961aの長さは、第1の溶接パスに沿って測定される。第1長さは、例えば37mmである。
【0041】
第2継続条件は、表示部43に表示される溶接部95の温度分布において、第2ビード962の高温領域の長さが、所定の第2長さ以下であること、である。高温領域は、上述のように、第2ビード962の表面温度が第1温度(200℃)以上第2温度(800℃)以下の領域である。第2長さは、例えば42mmである。第3ないし第7継続条件も同様に、第3ビード963ないし第7ビード967の高温領域の長さが、第3ないし第7長さ以下であること、である。例えば、第3長さは51mmであり、第4長さは50mmであり、第5長さは37mmである。第6長さは36mmであり、第7長さは48mmである。
【0042】
加熱制限に係る裏面温度や維持時間は、排気筒91の内面93に設けられる保護膜の種類等により様々に変更される。第1ないし第7開始条件に係る閾値温度は、上記加熱制限、および、排気筒91の材質や板厚等により様々に変更される。第1ないし第7継続条件に係る第1ないし第7長さも同様に、上記加熱制限、および、排気筒91の材質や板厚等により様々に変更される。加熱制限、第1ないし第7開始条件、および、第1ないし第7継続条件は、実験やシミュレーションにより決定される。決定された第1ないし第7開始条件、および、第1ないし第7継続条件は、予め記憶部41(
図1参照)に記憶されて準備される(ステップS11)。
【0043】
溶接ユニット6では、制御部42により溶接ロボット1のロボットアーム11が制御され、溶接トーチ12および温度センサ3が、第1の溶接パスの始点に対応する位置に移動する。鋼板94は、排気筒91の外面92に予め仮付けされている。続いて、制御部42により、第1開始条件の成否が判断される(ステップS12)。具体的には、第1の溶接パスの始点を含む溶接部95の表面温度の分布が、温度センサ3により測定され、測定結果が制御部42に送られる。制御部42では、当該測定結果に基づいて、第1開始条件の成否、すなわち、溶接部95の裏面温度が40℃以下であるか否かが判断される。ステップS12では、例えば、溶接部95の表面温度から、事前のシミュレーション等に基づいて裏面温度が求められてもよい。また、表面温度が40℃以下である場合に、裏面温度が40℃以下であると判断してもよい。
【0044】
第1開始条件が満たされない場合は、第1開始条件が満たされるまで待機する。外気温等の影響により第1開始条件が満たされにくい場合は、例えば、溶接部95全体を冷却してもよい。第1開始条件が満たされると、第1の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS13)。そして、第1継続条件を満たしつつ、溶接トーチ12および温度センサ3が移動し、第1の溶接パスに沿う溶接が継続され、第1の溶接パスの終点にて溶接を終了する(ステップS14)。
【0045】
図9.Aおよび
図9.Bは、第1の溶接パスに沿う溶接中の溶接ユニット6の動作の詳細を示す図である。溶接が開始されると、第1の溶接パス上に形成される第1ビード961の表面温度が、温度センサ3により測定される(ステップS41)。温度センサ3による測定結果は制御部42に送られ、制御部42により、表面温度が200℃以上800℃以下の高温領域961aの長さL1(
図3参照)が取得される(ステップS42)。そして、制御部42により、高温領域961aの長さL1が上述の第1長さ(37mm)以下であるか否か、すなわち、第1継続条件の成否が判断される(ステップS43)。第1継続条件が満たされている場合は、溶接が継続される。
【0046】
一方、第1継続条件が満たされていない場合、すなわち、高温領域961aの長さL1が第1長さよりも長い場合は、溶接トーチ12による溶接が中断され、溶接トーチ12および温度センサ3の移動が停止する(ステップS44)。そして、溶接が中断された状態で、ステップS41,S42と同様に、第1ビード961の表面温度の測定、および、高温領域961aの長さL1の取得が行われる(ステップS45,S46)。溶接ユニット6では、第1継続条件が満たされるまで(ステップS47)、すなわち、高温領域961aの長さL1が第1長さ以下となるまで、ステップS45,S46が繰り返される。第1継続条件が満たされると、溶接が再開される(ステップS48)。
【0047】
溶接ユニット6では、溶接トーチ12が第1の溶接パスの終点に至るまで(ステップS49)、上述のステップS41〜S43(溶接が中断された場合は、ステップS41〜S48)が繰り返される。第1の溶接パスの終点まで第1ビード961が形成されると、当該終点にて第1の溶接パスに沿う溶接が終了する。
【0048】
第1ビード961の形成が終了すると、溶接トーチ12による溶接が停止され、溶接トーチ12および温度センサ3の移動も停止される。溶接トーチ12および温度センサ3は、第2開始条件が満たされるまで停止した状態で待機する(ステップS15)。
【0049】
具体的には、
図10に示すように、第2の溶接パスの始点を含む溶接部95の表面温度の分布が、温度センサ3により測定され、測定結果が制御部42に送られる(ステップS51)。制御部42では、当該測定結果に基づいて、第2開始条件の成否、すなわち、溶接部95の裏面温度が40℃以下であるか否かが判断される(ステップS52)。ステップS52では、例えば、溶接部95の表面温度から、事前のシミュレーション等に基づいて裏面温度が求められてもよい。また、表面温度が40℃以下である場合に、裏面温度が40℃以下であると判断してもよい。第2開始条件が満たされない場合、第2開始条件が満たされるまで、ステップS51,S52が繰り返される。外気温等の影響により第2開始条件が満たされにくい場合、あるいは、待機時間を短くしたい場合は、例えば、溶接部95全体を冷却してもよい。
【0050】
第2開始条件が満たされると、溶接待機状態が解除され、第2の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS16)。そして、第2継続条件を満たしつつ、溶接トーチ12および温度センサ3が移動し、第2の溶接パスに沿う溶接が継続され、第2の溶接パスの終点にて溶接が終了する(ステップS17)。
【0051】
図11.Aおよび
図11.Bは、第2の溶接パスに沿う溶接中の溶接ユニット6の動作の詳細を示す図である。第2の溶接パスに沿う溶接の流れは、第1の溶接パスに沿う溶接の流れと同様である。溶接が開始されると、第2の溶接パス上に形成される第2ビード962の表面温度が、温度センサ3により測定される(ステップS61)。温度センサ3による測定結果は制御部42に送られ、制御部42により、表面温度が200℃以上800℃以下の高温領域の長さが取得される(ステップS62)。そして、制御部42により、高温領域の長さが上述の第2長さ(42mm)以下であるか否か、すなわち、第2継続条件の成否が判断される(ステップS63)。第2継続条件が満たされている場合は、溶接が継続される。
【0052】
一方、第2継続条件が満たされていない場合、すなわち、高温領域の長さが第2長さよりも長い場合は、溶接トーチ12による溶接が中断され、溶接トーチ12および温度センサ3の移動が停止する(ステップS64)。そして、溶接が中断された状態で、ステップS61,S62と同様に、第2ビード962の表面温度の測定、および、高温領域の長さの取得が行われる(ステップS65,S66)。溶接ユニット6では、第2継続条件が満たされるまで(ステップS67)、すなわち、高温領域の長さが第2長さ以下となるまで、ステップS65,S66が繰り返される。第2継続条件が満たされると、溶接が再開される(ステップS68)。
【0053】
溶接ユニット6では、溶接トーチ12が第2の溶接パスの終点に至るまで(ステップS69)、上述のステップS61〜S63(溶接が中断された場合は、ステップS61〜S67)が繰り返される。第2の溶接パスの終点まで第2ビード962が形成されると、当該終点にて第2の溶接パスに沿う溶接が終了する。
【0054】
第2ビード962の形成が終了すると、溶接トーチ12による溶接が停止され、溶接トーチ12および温度センサ3の移動も停止される。溶接トーチ12および温度センサ3は、第3開始条件が満たされるまで停止した状態で待機する(ステップS18)。待機時の具体的な動作は、
図10に示すステップS51〜S52と同様である。第3開始条件が満たされると、溶接待機状態が解除され、第3の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS19)。そして、第3継続条件を満たしつつ、溶接トーチ12および温度センサ3が移動し、第3の溶接パスに沿う溶接が継続され、第3の溶接パスの終点にて溶接が終了する(ステップS20)。溶接時の具体的な動作は、
図9.Aおよび
図9.Bに示すステップS41〜S49、および、
図11.Aおよび
図11.Bに示すステップS61〜S69と同様である。
【0055】
以下同様に、第4開始条件が満たされるまで待機し、第4開始条件が満たされると、第4の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS21,S22)。第4継続条件を満たしつつ第4の溶接パスに沿う溶接が継続され、第4の溶接パスの終点にて溶接が終了する(ステップS23)。続いて、第5開始条件が満たされるまで待機し、第5の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS24,S25)。溶接は、第5継続条件を満たしつつ継続され、第5の溶接パスの終点にて終了する(ステップS26)。
【0056】
次に、第6開始条件が満たされるまで待機し、第6の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS27,S28)。溶接は、第6継続条件を満たしつつ継続され、第6の溶接パスの終点にて終了する(ステップS29)。そして、第7開始条件が満たされるまで待機し、第7の溶接パスに沿う溶接が開始される(ステップS30,S31)。溶接は、第7継続条件を満たしつつ継続され、第7の溶接パスの終点にて終了する(ステップS32)。これにより、
図6および
図7に示すように、鋼板94の周囲の溶接部95にビード96が形成され、排気筒91の外面92に対する鋼板94の溶接が終了する。
【0057】
以上に説明したように、溶接ユニット6では、溶接部95上にてビードが重なるように設定された複数の溶接パスに沿って、複数回の溶接を溶接ロボット1により行うことにより、1回のみの溶接で鋼板94を排気筒91に溶接する場合に比べ、溶接部95の裏面温度の上昇を抑制することができる。
【0058】
また、第1の溶接パスに沿う溶接と、第2の溶接パスに沿う溶接との間にて溶接が一旦停止され、上述の加熱制限に基づいて決定された第2開始条件が満たされるまで、溶接を開始することなく待機する。他の溶接パス間における待機工程においても同様である。このように、加熱制限に基づいて溶接パス間の待機工程が管理されることにより、溶接部95の裏面温度を、所定の加熱制限の範囲内とすることができる。
【0059】
さらに、第1の溶接パスに沿う溶接が、加熱制限に基づいて決定された第1継続条件を満たしつつ継続され、第2の溶接パスに沿う溶接が、加熱制限に基づいて決定された第2継続条件を満たしつつ継続される。他の溶接パスに沿う溶接においても同様である。このように、加熱制限に基づいて各溶接パスに沿う溶接の継続が管理されることにより、各溶接パスに沿う溶接の実施時における溶接部95の裏面温度を、所定の加熱制限の範囲内とすることができる。
【0060】
図12は、溶接部95上の所定の位置における裏面温度の変化を示す図である。
図12は、溶接ユニット6による排気筒91に対する鋼板94の溶接と同様の溶接を、溶接部95の裏面温度を計測可能な状態で再現した場合の裏面温度を示す。図中の裏面温度の7つのピークは、第1ないし第7の溶接パスに沿う溶接において、溶接トーチ12が、上記所定の位置上を通過した際の温度である。各ピーク温度は、約110℃以上、かつ、約140℃以下であり、各ピーク近傍において、裏面温度が80℃以上に連続的に維持される時間は、25秒以下である。
【0061】
図13は、溶接ユニット6により形成されたビード96の断面マクロ写真である。また、
図14は、溶接ユニット6による溶接とは異なる比較例の溶接方法により形成されたビードの断面マクロ写真である。比較例の溶接方法では、1つの溶接パスに沿う1回の手棒溶接により、ビード96とおよそ等しい脚長を有するビードが形成される。
図13における希釈率は、
図14における希釈率の約40%である。
【0062】
このように、溶接ユニット6では、溶接部95の裏面温度を、所定の加熱制限の範囲内とすることができる。また、比較例の溶接方法に比べて、溶接部95における希釈率を低くする(すなわち、溶接部95への溶け込みを小さくする)ことができる。その結果、排気筒91の内面93に設けられた保護膜の損傷を抑制または防止することができる。
【0063】
上述のように、溶接ユニット6では、第2の溶接パスに沿う溶接開始前の待機工程(ステップS15)において、溶接部95の表面温度を測定する工程、および、表面温度の測定結果に基づいて第2開始条件の成否が判断される工程(ステップS51,S52)が、第2開始条件が満たされるまで繰り返される。これにより、第2開始条件の成否を精度良く判断することができる。第3ないし第7の溶接パスに沿う溶接開始前の待機工程においても同様である。
【0064】
溶接ユニット6では、第1の溶接パスに沿う溶接において、第1ビード961の表面温度を測定する工程、および、表面温度が第1温度以上第2温度以下(200℃以上800℃以下)の高温領域961aの長さL1を取得する工程(ステップS41,S42)が、第1の溶接パスの終点まで繰り返される。そして、高温領域961aの長さL1が第1長さ(37mm)以下であるという第1継続条件が満たされていれば溶接を継続し、第1継続条件が満たされていない場合は、第1継続条件が満たされるまで溶接が中断される。これにより、第1の溶接パスに沿う溶接において、第1継続条件の成否を容易かつ精度良く判断することができる。
【0065】
また、第2の溶接パスに沿う溶接において、第2ビード962の表面温度を測定する工程、および、表面温度が第1温度以上第2温度以下(200℃以上800℃以下)の高温領域の長さを取得する工程(ステップS61,S62)が、第2の溶接パスの終点まで繰り返される。そして、高温領域の長さが第2長さ(42mm)以下であるという第2継続条件が満たされていれば溶接を継続し、第2継続条件が満たされていない場合は、第2継続条件が満たされるまで溶接が中断される。これにより、第2の溶接パスに沿う溶接において、第2継続条件の成否を容易かつ精度良く判断することができる。第3ないし第7の溶接パスに沿う溶接においても同様である。
【0066】
上述のように、溶接ユニット6では、溶接トーチ12の先端部に耐風ノズル13が設けられることにより、風速約10m/秒の環境下でも溶接を行うことができる。このため、溶接ユニット6は、屋外構造物である排気筒91の外面92に対する溶接等、屋外における溶接に特に適している。溶接ユニット6では、駆動電源2としてデジタルパルス電源が利用される。これにより、溶接部95への低入熱を容易に実現することができる。
【0067】
さらに、溶接ユニット6では、溶接対象物である排気筒91の外面92にロボット支持部51を取り付け、ロボット支持部51により溶接ロボット1が支持される。これにより、排気筒91が風等の影響により揺れている状態であっても、溶接部95に対して溶接ロボット1が相対的に固定されることになり、精度良く溶接を行うことができる。
【0068】
上述の溶接ユニット6および溶接方法では、様々な変更が可能である。
【0069】
第2開始条件は、溶接部95の裏面温度が所定の閾値温度以下であることには限定されず、例えば、第1の溶接パスに沿う溶接終了後の経過時間が所定の閾値時間以上であること、であってもよい。閾値時間は、実験やシミュレーションにより求められた溶接終了後の経過時間と裏面温度との関係に基づいて予め決定される。あるいは、第2開始条件は、溶接部95の表面温度が所定の閾値温度以下であること、であってもよい。他の溶接開始条件においても同様である。
【0070】
第1継続条件に係る高温領域961aを規定する第1温度および第2温度は、適宜変更されてよい。ただし、第1温度は、常温よりも高く、上記閾値温度よりも高い温度に設定され、第2温度は第1温度よりも高い温度に設定される。
本発明に関連する技術では、第1継続条件は、高温領域961aの長さが第1長さ以下であることには限定されず、例えば、最高温部81の大きさが所定の大きさ以下であること、であってもよい。第2ないし第7継続条件においても同様である。
【0071】
駆動電源2および温度センサ3の種類は、様々に変更されてよい。例えば、温度センサ3として、溶接部95における各位置の温度を数値にて表示するものが利用されてもよい。また、温度センサ3は、必ずしもロボットアーム11の先端部111に取り付けられる必要はなく、例えば、溶接部95の全体の温度を同時に測定する温度センサが、排気筒91に対して相対的に固定されてもよい。
【0072】
溶接ロボット1による溶接は、MAG溶接以外のアーク溶接でもよく、レーザ溶接等、アーク溶接以外の溶接であってもよい。また、排気筒91に対する溶接ロボット1の相対位置が、風等により大きく変化しないのであれば、溶接ロボット1は、必ずしも、排気筒91に取り付けられたロボット支持部51に取り付けられる必要はない。溶接ロボット1は、例えば、排気筒91近傍に位置するゴンドラ内に設置されてもよい。
【0073】
上述の溶接方法では、溶接部95上にビードが重なるように設定された複数の溶接パスに沿って複数回の溶接が行われるのであれば、溶接パスの個数は7には限定されない。なお、ステップS01〜S04に示す溶接ロボットの設置方法は、複数の溶接パスに沿う上記溶接を行わない溶接ロボットの設置の際に利用されてもよい。
【0074】
上述の溶接方法では、第2開始条件の成否が制御部42により判断されるが、第2開始条件の成否は、作業員が、表示部43に表示された溶接部95の表面温度を目視して判断してもよい。作業員は、第2開始条件が満たされたと判断すると、溶接ロボット1に、第2の溶接パスに沿う溶接の開始を指示する。この場合も、第2開始条件の成否を精度良く判断することができる。他の溶接開始条件の成否の判断においても同様である。
【0075】
また、第1ないし第7継続条件の成否も、作業員が、表示部43に表示された溶接部95の表面温度の分布を目視して判断してもよい。あるいは、上述の高温領域の長さが制御部42により取得されて表示部43に表示され、作業員が、表示された長さを目視して第1ないし第7継続条件の成否を判断してもよい。作業員は、第1ないし第7継続条件が満たされていると判断すると、溶接ロボット1に溶接を継続させ、第1ないし第7継続条件が満たされていないと判断すると、溶接ロボット1による溶接を中断させる。この場合も、第1ないし第7継続条件の成否を容易かつ精度良く判断することができる。
【0076】
さらには、上記溶接方法では、溶接部95に対する溶接は、溶接ロボット1を利用することなく、作業員による半自動溶接や手棒溶接により行われてもよい。この場合であっても、上述のように、所定の加熱制限に基づいて決定された溶接開始条件により、溶接パス間の待機工程が管理されることにより、溶接部95の裏面温度を当該加熱制限の範囲内とすることができる。また、加熱制限に基づいて決定された溶接継続条件により、各溶接パスに沿う溶接の継続が管理されることにより、各溶接パスに沿う溶接の実施時における溶接部95の裏面温度を加熱制限の範囲内とすることができる。
【0077】
上記溶接ユニット6および溶接方法は、排気筒91に対する鋼板94の溶接以外の様々な対象物に対する溶接に利用されてよい。
【0078】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。