特許第6018888号(P6018888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6018888-エレクトレットシート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018888
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】エレクトレットシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/32 20060101AFI20161020BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   B32B5/32
   H04R17/02
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-255217(P2012-255217)
(22)【出願日】2012年11月21日
(65)【公開番号】特開2014-100868(P2014-100868A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】村岡 仁美
(72)【発明者】
【氏名】八田 文吾
(72)【発明者】
【氏名】岡林 賞純
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊一
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−089495(JP,A)
【文献】 特開2011−084735(JP,A)
【文献】 特開2010−089494(JP,A)
【文献】 特開2010−089496(JP,A)
【文献】 特開昭49−130978(JP,A)
【文献】 特開平04−059225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/32
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の多孔質シートを積層一体化してなる積層シートに電荷を注入してなるエレクトレットシートであって、上記多孔質シートは延伸されており、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向に平行な直線同士がなす角度が70〜90°であり、更に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率E1と、他方の多孔質シートにおける上記一方の多孔質シートの主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E2との比(E2/E1)が0.7以下であることを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
積層方向に互いに隣接する多孔質シートの延伸方向が直交していることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
多孔質シートにおける120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率が7%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレクトレットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用環境の温度変化にもかかわらず優れた圧電性を保持し且つ機械的強度に優れたエレクトレットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトレットは絶縁性の高分子材料に電荷を注入することにより、内部に帯電を付与した材料である。エレクトレットは繊維状に成形して集塵フィルターなどとして広く用いられている。
【0003】
又、合成樹脂シートはこれを帯電させることによってセラミックスに匹敵する非常に高い圧電性を示すことが知られている。このような合成樹脂シートを用いたエレクトレットは、その優れた感度を利用して音響ピックアップや各種圧力センサーなどへの応用が提案されている。
【0004】
エレクトレットシートとして、特許文献1には、空孔を有する高分子多孔体に電荷を注入してなるエレクトレットであり、空孔の平均アスペクト比が7以上30以下、空孔率が80%以上、厚み方向の平均空孔数が1以上10以下であり、厚み方向の平均空孔径が30μm以上200μm以下であるエレクトレットシートが開示されており、このエレクトレットシートは有機高分子発泡体を二軸延伸することによって得られる高分子多孔体に電荷を注入して得ることが好ましい旨の記載があり、実施例においても、ポリプロピレン発泡体を同時二軸延伸して得られた高分子多孔体に電荷を注入することによって製造されている。
【0005】
しかしながら、上記エレクトレットシートは、二軸延伸された単層の高分子多孔体に電荷を注入してなるものであり、高分子多孔体に延伸による歪みが残存しており、エレクトレットシートの使用環境の温度変化に伴って、高分子多孔体に残存する歪みが原因となって高分子多孔体に収縮を生じやすい。
【0006】
エレクトレットシートはその空孔部において電荷が分極状態にて保持されており、エレクトレットシートに収縮が生じると、空孔部において分極状態にて保持されている電荷が消失し、エレクトレットシートの圧電性が低下するという問題が生じると共に、エレクトレットシートの表面性が低下し、エレクトレットシートをセンサーとして用いた場合にセンサーの精度が低下するという問題点を生じる。
【0007】
また、上記エレクトレットシートの機械的強度を向上させるために二軸延伸の延伸倍率を上げることも考えられるが、二軸延伸の延伸倍率を上げるとエレクトレットシートが更に収縮し易くなるという問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−186960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、使用環境の温度変化にもかかわらず優れた圧電性を保持し且つ機械的強度に優れたエレクトレットシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエレクトレットシートは、複数枚、即ち、二枚又は三枚以上の多孔質シートを積層一体化してなる積層シートに電荷を注入してなるエレクトレットシートであって、上記多孔質シートは延伸されており、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向同士が実質的に直交しており、更に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率E1と、他方の多孔質シートにおける上記一方の多孔質シートの主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E2との比(E2/E1)が0.7以下であることを特徴とする。
【0011】
多孔質シートとしては、内部に空孔部(空隙部)を有しており、電荷を注入して電荷を分極状態にて保持させることができるシートであれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂発泡シート、多孔質の合成樹脂非発泡シートなどが挙げられる。
【0012】
合成樹脂発泡シート及び多孔質の合成樹脂非発泡シートを構成している合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン−プロピレンゴムなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリシクロオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのジエン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレンなどの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、ポリシアン化ビニル、ポリシアン化ビニリデンなどのシアノ系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸樹脂などのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
上記合成樹脂としては、エレクトレットシートの圧電性に優れているので、ポリオレフィン系樹脂を含有していることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含有していることがより好ましく、ホモポリプロピレンを含有していることが特に好ましい。
【0014】
合成樹脂は絶縁性に優れていることが好ましく、合成樹脂としては、JIS K6911に準拠して印可電圧500Vにて電圧印可1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×1010Ω・m以上である合成樹脂が好ましい。
【0015】
合成樹脂の上記体積固有抵抗値は、エレクトレットシートがより優れた圧電性を有することから、1.0×1013Ω・m以上が好ましく、1.0×1015Ω・m以上がより好ましい。
【0016】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50重量%を超えて含有する、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)などを挙げることができる。エチレンとα−オレフィンとを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を得ることができ、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。上記α―オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、炭素数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα−オレフィンの含有量は通常、1〜15重量%である。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%を超えて含有しておれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、ホモポリプロピレンが好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0018】
なお、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。
【0019】
多孔質シートの製造方法としては、例えば、(1)合成樹脂及び熱分解型発泡剤を押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満にて溶融、混練し、押出機から発泡性樹脂シートを押出し、この発泡性樹脂シートに必要に応じて電子線、α線、β線、γ線などの電離性放射線を照射して架橋した上で加熱して熱分解型発泡剤を分解させて発泡させ合成樹脂発泡シートを製造する方法、(2)合成樹脂及び物理型発泡剤を押出機に供給して溶融、混練し、押出機から押出発泡させて合成樹脂発泡シートを製造する方法、(3)粒子を含有している合成樹脂シートを延伸することによって粒子と合成樹脂との界面において剥離を生じさせて空孔部(空隙部)を形成してなる多孔質の合成樹脂非発泡シートなどが挙げられる。
【0020】
なお、熱分解型発泡剤としては、発泡体の製造に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。又、物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサンなどが挙げられる。
【0021】
合成樹脂シートに含有させている粒子としては、特に限定されず、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機微粒子、ポリスチレン系樹脂粒子、ポリアクリル酸エステル系樹脂粒子などの有機微粒子などが挙げられる。
【0022】
なお、多孔質シートには、その物性を損なわない範囲内において、酸化防止剤、金属害防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0023】
本発明のエレクトレットシートは、複数枚の多孔質シートを積層一体化して形成されている。各多孔質シートは延伸されており、複数枚の多孔質シートは、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向が実質的に直交するように積層一体化されている。なお、多孔質シートの延伸としては、一軸延伸又は二軸延伸が挙げられ、多孔質シートの延伸は、汎用の方法を用いて行われればよい。
【0024】
ここで、多孔質シートの主延伸方向とは、多孔質シートが二軸延伸のように複数の方向に延伸されている場合には最も延伸倍率の高い延伸方向をいい、多孔質シートが一軸延伸されている場合にはその延伸方向をいう。多孔質シートが複数の方向に延伸されている場合、多孔質シートは、最も延伸倍率の高い延伸方向を一つのみ有するように延伸される。又、多孔質シートの延伸倍率とは、延伸方向において、延伸前後の寸法差を延伸前の寸法で除した値に100を乗じた値をいう。
延伸倍率(%)=100×延伸前後の寸法差/延伸前の寸法
【0025】
又、多孔質シート同士の延伸方向が実質的に直交しているとは、図1及び図2に示したように、多孔質シートF1、F2の延伸方向D1、D2に平行な直線L1、L2同士がなす角度αが70〜90°であることを意味する。角度αは90℃又は鋭角の値をとる。
【0026】
エレクトレットシートを構成している多孔質シートはそれぞれ延伸されていることから、多孔質シートは引裂強度や靱性などの機械的強度に優れており、このような機械的強度に優れた多孔質シートを複数枚、積層一体化させることによって形成されているエレクトレットシートは、引裂強度や靱性などの機械的強度に優れており、長期間に亘って破損することなく安定的に使用することができると共に、切断加工などの加工性にも優れている。
【0027】
又、多孔質シートは、引裂強度及び靱性などの機械的強度を向上させるために延伸され、延伸に伴う歪みが残存しており、多孔質シートは延伸された方向に収縮し易い。そこで、本発明のエレクトレットシートは、互いに隣接して積層一体化された多孔質シートの延伸方向が実質的に直交した状態、好ましくは、直交した状態となるように構成されていると共に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率E1と、他方の多孔質シートにおける上記一方の多孔質シートの主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E2との比(E2/E1)が0.7以下となるように構成されている。このように、互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向が実質的に直交し且つ延伸倍率の比(E2/E1)が0.7以下となるように複数枚の多孔質シートを積層一体化し、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートが収縮し易い方向と、他方の多孔質シートが収縮し易い方向とが重複しないように調整することによって、一方の多孔質シートが他方の多孔質シートの収縮をできるだけ抑制していると共に、他方の多孔質シートが一方の多孔質シートの収縮をできるだけ抑制し、その結果、本発明のエレクトレットシートは全体として収縮しにくいように構成されている。
【0028】
そして、エレクトレットシートを構成している多孔質シートの収縮をこの多孔質シートに隣接している多孔質シートが概ね抑制することから、各多孔質シートの延伸倍率を高くすることができ、その結果、エレクトレットシート全体の機械的強度を高くすることができる。
【0029】
多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率は、低いと、エレクトレットシートの機械的強度が低下することがあり、高いと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって、加熱収縮によって圧電性が低下することがあるので、1.1〜10倍が好ましく、2〜8倍がより好ましく、2〜7倍が特に好ましい。
【0030】
多孔質シートが複数の方向に延伸されている場合、多孔質シートの主延伸方向とは異なる方向における延伸倍率は、低いと、エレクトレットシートの機械的強度が低下することがあり、高いと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって、加熱収縮によって圧電性が低下することがあるので、1.1〜1.9倍が好ましく、1.1〜1.5倍がより好ましい。
【0031】
更に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートF1の主延伸方向の延伸倍率E1と、他方の多孔質シートF2における上記一方の多孔質シートF1の主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E2との比(E2/E1)は、大きいと、他方の多孔質シートF2が一方の多孔質シートF1の主延伸方向の収縮を抑える効果が発現しないので、0.7以下に限定され、0.5以下が好ましい。他方の多孔質シートF2において、一方の多孔質シートF1の主延伸方向に合致する方向に延伸されていない場合、一方の多孔質シートF1の主延伸方向に合致する方向の延伸倍率は1倍とする。
【0032】
多孔質シートの一軸延伸を、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法変化を許容した状態で行うと、多孔質シートの延伸方向に直交する方向において多孔質シートに収縮が生じるので、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法が延伸前後において変化しないように、多孔質シートがその延伸方向に直交する方向において拘束した状態で多孔質シートの延伸を行ってもよい。この場合のみ例外的に、多孔質シートにおける延伸方向に直交する方向の延伸倍率を算出するにあたって、多孔質シートの延伸前後の寸法差は、多孔質シートの延伸方向に直交する方向において、寸法変化を許容して行った場合の延伸後の多孔質シートの寸法と、寸法変化しないように拘束して行った場合の延伸後の多孔質シートの寸法との差をいう。多孔質シートの延伸前の寸法は、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法変化を許容して行った場合における、多孔質シートの延伸後の寸法をいう。
【0033】
多孔質シートを延伸した後にアニーリング処理を施すことが好ましい。多孔質シートにアニーリング処理を施すことによって、多孔質シートに生じた延伸時の残存歪みを緩和して多孔質シートに温度変化に伴う収縮が生じるのを緩和することができ、ひいては、エレクトレットシートに温度変化に伴う収縮が生じるのを緩和して、エレクトレットシートの優れた圧電性を長期間に亘って安定的に維持することができる。
【0034】
多孔質シートにおける120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率は、大きいと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって圧電性が短期間のうちに低下することがあるので、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0035】
なお、多孔質シートにおける120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率は下記の要領で測定された値をいう。多孔質シートの表面に長さが50mmの直線Lをその長さ方向が多孔質シートの主延伸方向に合致するように描く。次に、多孔質シートを120℃に保持されたオーブン内に24時間に亘って放置する。多孔質シートをオーブンから取り出して、多孔質シートの表面に描いた直線Lの長さL1を測定する。次に示した式に基づいて加熱寸法変化率を算出する。
加熱寸法変化率(%)=100×(L1−50)/50
【0036】
本発明のエレクトレットシートは、複数の多孔質シートが積層一体化されてなるが、複数の多孔質シートを積層一体化させる方法としては、特に限定されず、例えば、(1)複数枚の多孔質シートをその厚み方向に重ね合わせて加熱して多孔質シートを必要に応じて厚み方向にプレスして多孔質シート同士を熱融着一体化させる方法、(2)多孔質シート同士をホットメルト接着剤、溶剤系接着剤、水系接着剤などの接着剤によって接着一体化する方法などが挙げられる。
【0037】
複数の多孔質シートを積層一体化して形成された積層シートに電荷を注入して分極状態にて電荷を保持させることによってエレクトレットシートが構成されている。積層シートに電荷を注入する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)積層シートを一対の平板電極で挟持し、第一の平板電極をアースすると共に第二の平板電極を高圧直流電源に接続して、積層シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法、(2)電子線、X線などの電離性放射線や紫外線を積層シートに照射して、積層シートの近傍部の空気分子をイオン化することによって合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法、(3)積層シートの第一の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、積層シートの第二の面に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設し、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法などが挙げられる。上記方法の中で積層シートに容易に電荷を注入することができるので、上記(2)(3)の方法が好ましく、上記(2)の方法がより好ましい。
【0038】
上記(1)(3)の方法において、積層シートに印加する電圧の絶対値は、小さいと、積層シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあり、大きいと、アーク放電してしまい、却って、積層シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあるので、3〜100kVが好ましく、5〜50kVより好ましい。
【0039】
上記(2)の方法において、積層シートに照射する電離性放射線の加速電圧の絶対値は、小さいと、空気中の分子を十分に電離することができず、積層シートに十分な電荷を注入することができず、圧電性の高いエレクトレットシートを得ることができないことがあり、多いと、電離性放射線が空気を透過するので、空気中の分子を電離させることができないことがあるので、5〜15kVが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明のエレクトレットシートは、上述の通り、延伸された多孔質シートが積層一体化されてなり、引裂耐性及び靱性などの機械的強度に優れ且つ使用環境下における温度変化に伴う収縮が略抑制されており、よって、切断加工性に優れており種々の用途に好適に用いることができると共に、使用環境の温度変化に伴う収縮によって表面性が低下して圧電性が低下するようなこともなく、優れた圧電性を使用環境の温度変化にもかかわらず安定的に保持することができる。
【0041】
上記エレクトレットシートにおいて、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向が直交している場合には、使用環境の温度変化に伴う収縮をより確実に抑制することができ、優れた圧電性をより安定的に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明のエレクトレットシートを構成している多孔質シートの延伸方向を模式的に示した分解斜視図である。
図2】本発明のエレクトレットシートを平面から見たときの多孔質シートの延伸方向を模式的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
表1に示した所定量のポリプロピレン系樹脂A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテック#WFW4」)、ポリプロピレン系樹脂B(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテック#EG8B」)、アゾジカルボンアミド、助剤A(共栄社化学社製 商品名「ライトエステルTND−46K15」)及び助剤B(ADEKA社製 商品名「アデカスタブ#SB−1002RG」)を押出機に供給し、溶融混練してTダイからシート状に押出して厚みが300μmの発泡性樹脂シートを製造した。
【0045】
発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300Vで照射線量20kGy照射して架橋した。発泡性樹脂シートをその上端を支持して垂直方向に吊支した状態で250℃に2分間に亘って加熱して発泡性樹脂シートを発泡させて平面矩形状の発泡シートを得た。この発泡シートをその表面温度が135℃となるように20分間に亘って放置してアニーリング処理を施した。得られた発泡シートの発泡倍率を表1に示した。なお、発泡シートの発泡倍率は、発泡性樹脂シートの密度を発泡シートの密度で除した値をいう。アニーリング処理後の発泡シートにおける120℃で24時間放置した後の加熱寸法変化率を表1に示した。
【0046】
(実施例1)
表1に示した配合で上述の要領でもって二種類の発泡シートF1、F2を製造した。発泡シートF1、F2をそれぞれ、幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率が1.5倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸した後に、押出方向に延伸倍率が3倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸することによって二段階で二軸延伸を行った。
【0047】
二軸延伸された発泡シートF1、F2に皺が発生しないように幅方向及び押出方向に張力を加えた状態で、二軸延伸された発泡シートF1、F2を135℃に加熱して50mm/分の収縮速度で収縮させて、発泡シートF1、F2にアニーリング処理を施した。発泡シートF1、F2における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。
【0048】
発泡シートF1、F2の片面を150℃の加熱ロールを用いて加熱し、加熱した面同士が対向した状態に発泡シートF1、F2を重ね合わせて発泡シートF1、F2同士を熱融着一体化させて積層シートを得た。なお、発泡シートF1、F2の主延伸方向が互いに直交するように発泡シートF1、F2を重ね合わせた。積層シートにおいて、一方の発泡シートが他方の発泡シートから突出している部分を切除した。
【0049】
得られた積層シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、積層シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧−10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させて積層シートに電荷を注入して積層シートを帯電させた。その後、電荷を注入した積層シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持してエレクトレットシートを得た。
【0050】
(実施例2)
表1に示した配合で上述の要領でもって二種類の発泡シートF1、F2を製造した。発泡シートF1、F2の幅寸法が延伸によって変化しないように幅方向の両端部を把持した上で、発泡シートF1、F2をその押出方向に延伸倍率6倍に延伸した。発泡シートF1、F2の幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率は1.25倍であった。発泡シートF1、F2の延伸方向は押出方向と一致していた。二軸延伸された発泡シートF1、F2に実施例1と同様の要領でアニーリング処理を施した。発泡シートF1、F2における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。発泡シートF1、F2を実施例1と同様の要領で積層一体化させて積層シートを製造した。積層シートに実施例1と同様にして電荷を注入して積層シートを帯電させてエレクトレットシートを得た。
【0051】
(比較例1)
表1に示した配合で上述の要領でもって二種類の発泡シートF1、F2を製造した。発泡シートF1、F2をそれぞれ、幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率が1.5倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸した後に、押出方向に延伸倍率が3倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸することによって二段階で二軸延伸を行った。発泡シートF1、F2にアニーリング処理は施さなかった。発泡シートF1、F2における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。
【0052】
発泡シートF1、F2の主延伸方向が同一方向になるように発泡シートF1、F2を重ね合わせたこと以外は実施例1と同様にして積層シートを得た。積層シートに実施例1と同様にして電荷を注入して積層シートを帯電させてエレクトレットシートを得た。
【0053】
(比較例2)
表1に示した配合で上述の要領でもって二種類の発泡シートF1、F2を製造した。発泡シートF1、F2の幅寸法が延伸によって変化しないように幅方向の両端部を把持した上で、発泡シートF1、F2をその押出方向に延伸倍率6倍に延伸した。発泡シートF1、F2の幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率は1.25倍であった。発泡シートF1、F2の延伸方向は押出方向と一致していた。発泡シートF1、F2にアニーリング処理は施さなかった。発泡シートF1、F2における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。発泡シートF1、F2の主延伸方向が合致した状態で発泡シートF1、F2を重ね合わせたこと以外は発泡シートF1、F2を実施例1と同様の要領で積層一体化させて積層シートを製造した。積層シートに実施例1と同様にして電荷を注入して積層シートを帯電させてエレクトレットシートを得た。
【0054】
(比較例3)
表1に示した配合で上述の要領でもって二種類の発泡シートF1、F2を製造した。発泡シートF1をその押出方向に延伸倍率3倍に一軸延伸した。発泡シートF2を幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率が1.5倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸した後に、押出方向に延伸倍率が3倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸することによって二段階で二軸延伸を行った。発泡シートF1、F2にアニーリング処理は施さなかった。発泡シートF1、F2における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。発泡シートF1、F2の主延伸方向が合致した状態で発砲シートF1、F2を重ね合わせたこと以外は実施例1と同様の要領で積層一体化させて積層シートを製造した。積層シートに実施例1と同様にして電荷を注入して積層シートを帯電させてエレクトレットシートを得た。
【0055】
(比較例4)
表1に示した配合で上述の要領でもって三種類の発泡シートF1〜F3を製造した。発泡シートF1、F3をその押出方向に延伸倍率2倍に一軸延伸した。発泡シートF2を幅方向(押出方向に直交する方向)の延伸倍率が2倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸した後に、押出方向に延伸倍率が4倍となるように135℃にて200mm/分の延伸速度で延伸することによって二段階で二軸延伸を行った。発泡シートF1〜F3にアニーリング処理は施さなかった。発泡シートF1〜F3における120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率を表1に示した。
【0056】
発泡シートF1、F3の片面及び発泡シートF2の両面をそれぞれ、150℃の加熱ロールを用いて加熱した。発泡シートF1〜F3をこの順番で重ね合わせて発泡シートF1〜F3を互いに熱融着一体化させて積層シートを得た。なお、発泡シートF1〜F3の主延伸方向が全て合致するように、発泡シートF1〜F3を重ね合わせた。積層シートに実施例1と同様にして電荷を注入して積層シートを帯電させてエレクトレットシートを得た。
【0057】
得られたエレクトレットシートにおける120℃で24時間放置した後の加熱寸法変化率を上述の要領で測定し、得られたエレクトレットシートの引き裂き強度及び圧電性の変化率を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0058】
(引き裂き強度)
エレクトレットシート全体の引き裂き強度をJIS K7128−1(トラウザー引裂法)に準拠して測定した。具体的には、JIS K7128−1(トラウザー引裂法)に準拠して測定した。エレクトレットシートから幅50mm、長さ150mmの平面長方形状の試験片を2枚切り出した。2枚の試験片のうちの一方の試験片の長さ方向が、エレクトレットシートを構成している任意の一の発泡シートの主延伸方向に合致するように調整すると共に、他方の試験片の長さ方向と、一方の試験片の長さ方向が互いに90℃の角度をなすように調整した。23℃の恒温室下にて、各試験片をその長さ方向の端面から長さ方向に平行に長さ75mmに亘って厚み方向の全長に亘って切断し、分割片を形成した。試験片の切断は、その幅方向の中央部において行った。速度200mm/分の条件下にて試験片の分割片を試験片の幅方向に引っ張ることによって各試験片の引き裂き力(N)を測定した。二枚の試験片の引き裂き力のうち、小さい方の引き裂き力が1.2Nを超えている場合を「○」、1.2N未満の場合を「×」とした。
【0059】
(圧電性の変化率)
エレクトレットシートの両面に金を蒸着させて試験体を作製した。試験体に加振機を用いて荷重Fが2N、動的荷重が±0.25N、周波数が110Hzの条件下にて押圧力を加え、その時に発生する電荷Q(クーロン)を計測した。電荷Q(クーロン)を荷重F(N)で除することによって初期発生電荷d33(Q/N)を算出した。
【0060】
次に、試験体を80℃にて一週間に亘って放置した。試験体の加熱処理後発生電荷d33(Q/N)を上記と同様の要領で算出した。下記式に基づいて圧電性の加熱処理前後の変化率(圧電性の変化率)を算出した。下記基準に基づいて評価した。
圧電性の変化率(%)
=100×(初期発生電荷−加熱処理後発生電荷)/初期発生電荷
◎・・・圧電性の変化率が50%未満であった。
○・・・圧電性の変化率が50%以上で且つ80%未満であった。
×・・・圧電性の変化率が80%以上であった。
【0061】
【表1】
【符号の説明】
【0062】
1、F2 多孔質シート
図1
図2