【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエレクトレットシートは、複数枚、即ち、二枚又は三枚以上の多孔質シートを積層一体化してなる積層シートに電荷を注入してなるエレクトレットシートであって、上記多孔質シートは延伸されており、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向同士が実質的に直交しており、更に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率E
1と、他方の多孔質シートにおける上記一方の多孔質シートの主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E
2との比(E
2/E
1)が0.7以下であることを特徴とする。
【0011】
多孔質シートとしては、内部に空孔部(空隙部)を有しており、電荷を注入して電荷を分極状態にて保持させることができるシートであれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂発泡シート、多孔質の合成樹脂非発泡シートなどが挙げられる。
【0012】
合成樹脂発泡シート及び多孔質の合成樹脂非発泡シートを構成している合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン−プロピレンゴムなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリシクロオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのジエン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレンなどの塩素系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、四フッ化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などのフッ素系樹脂、ポリシアン化ビニル、ポリシアン化ビニリデンなどのシアノ系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸樹脂などのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
上記合成樹脂としては、エレクトレットシートの圧電性に優れているので、ポリオレフィン系樹脂を含有していることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂を含有していることがより好ましく、ホモポリプロピレンを含有していることが特に好ましい。
【0014】
合成樹脂は絶縁性に優れていることが好ましく、合成樹脂としては、JIS K6911に準拠して印可電圧500Vにて電圧印可1分後の体積固有抵抗値(以下、単に「体積固有抵抗値」という)が1.0×10
10Ω・m以上である合成樹脂が好ましい。
【0015】
合成樹脂の上記体積固有抵抗値は、エレクトレットシートがより優れた圧電性を有することから、1.0×10
13Ω・m以上が好ましく、1.0×10
15Ω・m以上がより好ましい。
【0016】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、又は、エチレン成分を50重量%を超えて含有する、エチレンと少なくとも1種のエチレン以外の炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。エチレン単独重合体としては、高圧下でラジカル重合させた低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中低圧で触媒存在下で重合させた中低圧法高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)などを挙げることができる。エチレンとα−オレフィンとを共重合させることで直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を得ることができ、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。上記α―オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、炭素数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。なお、直鎖状低密度ポリエチレン中におけるα−オレフィンの含有量は通常、1〜15重量%である。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分を50重量%を超えて含有しておれば、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体などが挙げられ、ホモポリプロピレンが好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂は単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。又、プロピレンと少なくとも1種のプロピレン以外の炭素数3〜20のオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体の何れであってもよい。
【0018】
なお、プロピレンと共重合されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、エチレンが好ましい。
【0019】
多孔質シートの製造方法としては、例えば、(1)合成樹脂及び熱分解型発泡剤を押出機に供給して熱分解型発泡剤の分解温度未満にて溶融、混練し、押出機から発泡性樹脂シートを押出し、この発泡性樹脂シートに必要に応じて電子線、α線、β線、γ線などの電離性放射線を照射して架橋した上で加熱して熱分解型発泡剤を分解させて発泡させ合成樹脂発泡シートを製造する方法、(2)合成樹脂及び物理型発泡剤を押出機に供給して溶融、混練し、押出機から押出発泡させて合成樹脂発泡シートを製造する方法、(3)粒子を含有している合成樹脂シートを延伸することによって粒子と合成樹脂との界面において剥離を生じさせて空孔部(空隙部)を形成してなる多孔質の合成樹脂非発泡シートなどが挙げられる。
【0020】
なお、熱分解型発泡剤としては、発泡体の製造に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。又、物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサンなどが挙げられる。
【0021】
合成樹脂シートに含有させている粒子としては、特に限定されず、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機微粒子、ポリスチレン系樹脂粒子、ポリアクリル酸エステル系樹脂粒子などの有機微粒子などが挙げられる。
【0022】
なお、多孔質シートには、その物性を損なわない範囲内において、酸化防止剤、金属害防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、ブロッキング防止剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0023】
本発明のエレクトレットシートは、複数枚の多孔質シートを積層一体化して形成されている。各多孔質シートは延伸されており、複数枚の多孔質シートは、積層方向に互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向が実質的に直交するように積層一体化されている。なお、多孔質シートの延伸としては、一軸延伸又は二軸延伸が挙げられ、多孔質シートの延伸は、汎用の方法を用いて行われればよい。
【0024】
ここで、多孔質シートの主延伸方向とは、多孔質シートが二軸延伸のように複数の方向に延伸されている場合には最も延伸倍率の高い延伸方向をいい、多孔質シートが一軸延伸されている場合にはその延伸方向をいう。多孔質シートが複数の方向に延伸されている場合、多孔質シートは、最も延伸倍率の高い延伸方向を一つのみ有するように延伸される。又、多孔質シートの延伸倍率とは、延伸方向において、延伸前後の寸法差を延伸前の寸法で除した値に100を乗じた値をいう。
延伸倍率(%)=100×延伸前後の寸法差/延伸前の寸法
【0025】
又、多孔質シート同士の延伸方向が実質的に直交しているとは、
図1及び
図2に示したように、多孔質シートF
1、F
2の延伸方向D
1、D
2に平行な直線L
1、L
2同士がなす角度αが70〜90°であることを意味する。角度αは90℃又は鋭角の値をとる。
【0026】
エレクトレットシートを構成している多孔質シートはそれぞれ延伸されていることから、多孔質シートは引裂強度や靱性などの機械的強度に優れており、このような機械的強度に優れた多孔質シートを複数枚、積層一体化させることによって形成されているエレクトレットシートは、引裂強度や靱性などの機械的強度に優れており、長期間に亘って破損することなく安定的に使用することができると共に、切断加工などの加工性にも優れている。
【0027】
又、多孔質シートは、引裂強度及び靱性などの機械的強度を向上させるために延伸され、延伸に伴う歪みが残存しており、多孔質シートは延伸された方向に収縮し易い。そこで、本発明のエレクトレットシートは、互いに隣接して積層一体化された多孔質シートの延伸方向が実質的に直交した状態、好ましくは、直交した状態となるように構成されていると共に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率E
1と、他方の多孔質シートにおける上記一方の多孔質シートの主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E
2との比(E
2/E
1)が0.7以下となるように構成されている。このように、互いに隣接する多孔質シートの主延伸方向が実質的に直交し且つ延伸倍率の比(E
2/E
1)が0.7以下となるように複数枚の多孔質シートを積層一体化し、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートが収縮し易い方向と、他方の多孔質シートが収縮し易い方向とが重複しないように調整することによって、一方の多孔質シートが他方の多孔質シートの収縮をできるだけ抑制していると共に、他方の多孔質シートが一方の多孔質シートの収縮をできるだけ抑制し、その結果、本発明のエレクトレットシートは全体として収縮しにくいように構成されている。
【0028】
そして、エレクトレットシートを構成している多孔質シートの収縮をこの多孔質シートに隣接している多孔質シートが概ね抑制することから、各多孔質シートの延伸倍率を高くすることができ、その結果、エレクトレットシート全体の機械的強度を高くすることができる。
【0029】
多孔質シートの主延伸方向の延伸倍率は、低いと、エレクトレットシートの機械的強度が低下することがあり、高いと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって、加熱収縮によって圧電性が低下することがあるので、1.1〜10倍が好ましく、2〜8倍がより好ましく、2〜7倍が特に好ましい。
【0030】
多孔質シートが複数の方向に延伸されている場合、多孔質シートの主延伸方向とは異なる方向における延伸倍率は、低いと、エレクトレットシートの機械的強度が低下することがあり、高いと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって、加熱収縮によって圧電性が低下することがあるので、1.1〜1.9倍が好ましく、1.1〜1.5倍がより好ましい。
【0031】
更に、互いに隣接する多孔質シート間において、一方の多孔質シートF
1の主延伸方向の延伸倍率E
1と、他方の多孔質シートF
2における上記一方の多孔質シートF
1の主延伸方向に合致する方向の延伸倍率E
2との比(E
2/E
1)は、大きいと、他方の多孔質シートF
2が一方の多孔質シートF
1の主延伸方向の収縮を抑える効果が発現しないので、0.7以下に限定され、0.5以下が好ましい。他方の多孔質シートF
2において、一方の多孔質シートF
1の主延伸方向に合致する方向に延伸されていない場合、一方の多孔質シートF
1の主延伸方向に合致する方向の延伸倍率は1倍とする。
【0032】
多孔質シートの一軸延伸を、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法変化を許容した状態で行うと、多孔質シートの延伸方向に直交する方向において多孔質シートに収縮が生じるので、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法が延伸前後において変化しないように、多孔質シートがその延伸方向に直交する方向において拘束した状態で多孔質シートの延伸を行ってもよい。この場合のみ例外的に、多孔質シートにおける延伸方向に直交する方向の延伸倍率を算出するにあたって、多孔質シートの延伸前後の寸法差は、多孔質シートの延伸方向に直交する方向において、寸法変化を許容して行った場合の延伸後の多孔質シートの寸法と、寸法変化しないように拘束して行った場合の延伸後の多孔質シートの寸法との差をいう。多孔質シートの延伸前の寸法は、多孔質シートの延伸方向に直交する方向の寸法変化を許容して行った場合における、多孔質シートの延伸後の寸法をいう。
【0033】
多孔質シートを延伸した後にアニーリング処理を施すことが好ましい。多孔質シートにアニーリング処理を施すことによって、多孔質シートに生じた延伸時の残存歪みを緩和して多孔質シートに温度変化に伴う収縮が生じるのを緩和することができ、ひいては、エレクトレットシートに温度変化に伴う収縮が生じるのを緩和して、エレクトレットシートの優れた圧電性を長期間に亘って安定的に維持することができる。
【0034】
多孔質シートにおける120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率は、大きいと、エレクトレットシートに収縮が生じやすくなって圧電性が短期間のうちに低下することがあるので、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0035】
なお、多孔質シートにおける120℃で24時間放置した後の主延伸方向の加熱寸法変化率は下記の要領で測定された値をいう。多孔質シートの表面に長さが50mmの直線Lをその長さ方向が多孔質シートの主延伸方向に合致するように描く。次に、多孔質シートを120℃に保持されたオーブン内に24時間に亘って放置する。多孔質シートをオーブンから取り出して、多孔質シートの表面に描いた直線Lの長さL
1を測定する。次に示した式に基づいて加熱寸法変化率を算出する。
加熱寸法変化率(%)=100×(L
1−50)/50
【0036】
本発明のエレクトレットシートは、複数の多孔質シートが積層一体化されてなるが、複数の多孔質シートを積層一体化させる方法としては、特に限定されず、例えば、(1)複数枚の多孔質シートをその厚み方向に重ね合わせて加熱して多孔質シートを必要に応じて厚み方向にプレスして多孔質シート同士を熱融着一体化させる方法、(2)多孔質シート同士をホットメルト接着剤、溶剤系接着剤、水系接着剤などの接着剤によって接着一体化する方法などが挙げられる。
【0037】
複数の多孔質シートを積層一体化して形成された積層シートに電荷を注入して分極状態にて電荷を保持させることによってエレクトレットシートが構成されている。積層シートに電荷を注入する方法としては、特に限定されず、例えば、(1)積層シートを一対の平板電極で挟持し、第一の平板電極をアースすると共に第二の平板電極を高圧直流電源に接続して、積層シートに直流又はパルス状の高電圧を印加して合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法、(2)電子線、X線などの電離性放射線や紫外線を積層シートに照射して、積層シートの近傍部の空気分子をイオン化することによって合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法、(3)積層シートの第一の面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、積層シートの第二の面に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極又はワイヤー電極を配設し、針状電極の先端又はワイヤー電極の表面近傍への電界集中によりコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極又はワイヤー電極の極性により発生した空気イオンを反発させて合成樹脂に電荷を注入して積層シートを帯電させる方法などが挙げられる。上記方法の中で積層シートに容易に電荷を注入することができるので、上記(2)(3)の方法が好ましく、上記(2)の方法がより好ましい。
【0038】
上記(1)(3)の方法において、積層シートに印加する電圧の絶対値は、小さいと、積層シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあり、大きいと、アーク放電してしまい、却って、積層シートに十分に電荷を注入することができず、高い圧電性を有するエレクトレットシートを得ることができないことがあるので、3〜100kVが好ましく、5〜50kVより好ましい。
【0039】
上記(2)の方法において、積層シートに照射する電離性放射線の加速電圧の絶対値は、小さいと、空気中の分子を十分に電離することができず、積層シートに十分な電荷を注入することができず、圧電性の高いエレクトレットシートを得ることができないことがあり、多いと、電離性放射線が空気を透過するので、空気中の分子を電離させることができないことがあるので、5〜15kVが好ましい。