(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工サイズ管理装置は、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応付けて補正値を記憶保持しておき、当該記憶保持した補正値を用いて、前記眼鏡レンズの材質および前記加工ツールの種類ごとに、前記加工ツールのツール径の値を補正する
請求項1に記載のレンズ加工システム。
前記眼鏡レンズの玉型加工を1回行うたびに、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応付けて、前記加工サイズの実測値および前記加工サイズの理論値を加工履歴データとして順に記憶する加工履歴記憶部と、
前記今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで前記加工履歴記憶部に記憶されている複数個の加工履歴データを抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記複数個の加工履歴データを用いて、前記加工サイズの実測値と前記加工サイズの理論値との差分の平均値を求め、この求めた平均値が予め設定された規定範囲を超えている場合に、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで用いられる前記補正値を変更する変更部と、
を備える請求項1または2に記載のレンズ加工システム。
玉型形状データから演算によって得られる三次元の加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズの玉型加工を行う玉型加工装置に接続して用いられる加工サイズ管理装置であって、
前記玉型加工装置によって玉型加工された眼鏡レンズの加工サイズを三次元で測定して得られる加工サイズの実測値と計算上得られる加工サイズの理論値との差分を演算する演算部と、
前記演算した差分に基づいて、前記加工軌跡データの演算に用いる加工ツールのツール径の値を補正する補正部と、
を備える加工サイズ管理装置。
玉型形状データから演算によって得られる三次元の加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズの玉型加工を行う玉型加工装置によって玉型加工された眼鏡レンズの加工サイズを管理する加工サイズ管理方法であって、
前記玉型加工装置によって玉型加工された眼鏡レンズの加工サイズを三次元で測定して得られる加工サイズの実測値と計算上得られる加工サイズの理論値との差分を演算する工程と、
前記演算した差分に基づいて、前記加工軌跡データの演算に用いる加工ツールのツール径の値を補正する工程と、
を備える加工サイズ管理方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は本発明を適用可能な眼鏡レンズの受発注システムの構成例を示すブロック図である。この受発注システムにおいては、発注側である眼鏡店1の端末と、受注側である加工センタ2の端末とが、通信回線3を介して相互に通信可能に接続されている。通信回線3は、公衆通信回線でもよいし、専用通信回線でもよい。加工センタ2にはレンズ加工システム4が構築されている。レンズ加工システム4を構成する装置(機器、端末を含む)などの台数は、それぞれ一台に限らず、複数台であってもよい。また、発注側は眼鏡店1に限らず、たとえば、加工センタ2に対して外部の加工工場や他のレンズメーカーが眼鏡レンズの加工を委託する場合は、加工工場やレンズメーカーが発注側となる。
【0017】
眼鏡店1には、発注端末5とトレーサ6とが設置されている。加工センタ2には、サーバ装置7とクライアント装置8と玉型加工装置9と三次元周長測定装置10とが設置され、これらの装置によってレンズ加工システム4が構成されている。また、クライアント装置8には、一つのクライアント装置8につき複数(図例では2つのみ表記)の玉型加工装置9が接続されている。複数の玉型加工装置9には、それぞれ固有の加工装置識別情報が割り当てられている。加工センタ2に設置された装置は、加工センタ2のネットワーク11を介して通信可能に接続されている。
【0018】
(発注端末)
発注端末5は、コンピュータ装置を用いて構成されるものである。コンピュータ装置は、演算機能、制御機能、記憶機能、入出力機能等を備えるものである。具体的には、コンピュータ装置は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard disk drive)等のハードウェア資源を用いて構成されるものである。
【0019】
発注端末5は、図示せぬルータ等を介して通信回線3と接続され、その通信回線3を通じて外部の端末(本形態例では加工センタ2のサーバ装置7)とデータの受け渡しを行えるように構成されている。発注端末5は、眼鏡レンズの玉型加工を加工センタ2に依頼(発注)するために必要な発注データの入力を受け付けるとともに、受け付けた発注データを加工センタ2のサーバ装置7宛に送信する。発注端末5の操作は通常、眼鏡店1の店員が行う。
【0020】
(トレーサ)
トレーサ6は、眼鏡フレームのフレーム形状を三次元で測定するものである。トレーサ6による測定によって得られる眼鏡フレームのフレーム形状データは、眼鏡フレームのフレーム形状を三次元の座標空間で特定可能なデータである。トレーサ6は、形状測定のための接触子と、この接触子を支持する支持軸とを有する。トレーサ6は、測定対象の眼鏡フレームのリム部分(眼鏡レンズが枠入れされる部分)の溝に接触子を接触させて眼鏡フレームのフレーム形状を測定する。トレーサ6が測定対象とする被測定物のなかには、眼鏡フレームだけでなく、たとえば「縁なし眼鏡」で眼鏡フレームに取り付けられているオリジナルレンズ(ダミーレンズやパターン)も含まれるが、いずれにしてもトレーサ6の測定によって得られるフレーム形状データは、眼鏡フレームのフレーム形状を特定可能な三次元のデータとなる。トレーサ6としては周知(たとえば、特開2009−243952号公報、国際公開第2007/077848号に記載)のものを使用可能である。
【0021】
(サーバ装置)
サーバ装置7は、コンピュータ装置を用いて構成されるもので、データ管理部14とデータベース部15とを備えている。データ管理部14は、データベース部15を用いて各種のデータを管理するものである。たとえば、データ管理部14は、眼鏡店1の発注端末5から送信された発注データを通信回線3を介して受信し、この受信したデータを受注データとしてデータベース部15に登録する。また、データ管理部14は、受注データをデータベース部15に登録するにあたって、その都度、眼鏡レンズの玉型加工に係るジョブのジョブ識別情報を生成し、このジョブ識別情報と対応付けて受注データをデータベース部15に登録する。このため、眼鏡レンズの玉型加工を1回行うたびに一つのジョブ識別情報が生成される。また、データベース部15に登録されるジョブ識別情報と受注データの関係は、一対一の関係となる。
【0022】
データ管理部14は、上述のように生成したジョブ識別情報を、たとえば二次元のバーコードに変換し、このバーコードを図示しない印刷装置に送ることにより、バーコード付きのワークシートを印刷出力させる。ワークシートは、たとえば、シート状の紙媒体である。ワークシートは、受注データで特定される、加工前の眼鏡レンズ(アンカットレンズ)と一緒に、図示しないトレイに入れられる。
【0023】
なお、眼鏡レンズには左眼用と右眼用があり、それぞれ個別に加工、測定その他の処理が行われるが、それらの処理内容は左眼用、右眼用で共通する。このため、以降の段落においては、左眼用、右眼用の区別をつけずに、それらに共通の事項として説明する。
【0024】
データベース部15は、眼鏡レンズの受発注システム(レンズ加工システム4を含む)の運用に必要な種々の情報(データ)を記憶して保持するものである。たとえば、データベース部15には、上述した受注データの他に、眼鏡レンズの設計データや、加工履歴データなどが記憶される。眼鏡レンズの設計データは、眼鏡レンズの2つの光学面の面形状を三次元で特定可能なデータである。加工履歴データについては後段で説明する。
【0025】
(クライアント装置)
クライアント装置8は、上述したサーバ装置7とともに、加工サイズ管理装置を構成するものである。クライアント装置8は、コンピュータ装置を用いて構成されるもので、加工制御部16、加工サイズ監視部17、演算部18および記憶部19を備えている。
図1においては、サーバ装置7とクライアント装置8をそれぞれ独立した構成要素として表記しているが、これに限らず、サーバ装置7とクライアント装置8を一つのコンピュータ装置で実現することも可能である。また、加工センタ2内に複数のクライアント装置8を設置する場合は、これら複数のクライアント装置8をネットワーク11を介して共通のサーバ装置7に接続した構成を採用することもが可能である。
【0026】
加工制御部16は、クライアント装置8に接続された各々の玉型加工装置9を用いて眼鏡レンズの玉型加工を行う場合に、種々の制御処理を行うものである。加工サイズ監視部17は、玉型加工装置9で玉型加工された眼鏡レンズのサイズを監視し、必要に応じて加工サイズ調整のための処理を行うものである。
【0027】
演算部18は、眼鏡レンズの玉型加工に関する各種の演算処理を行うものである。演算部18が行う演算項目には、少なくとも、玉型形状データ、加工サイズの差分データ、などが含まれる。各々の玉型加工装置9では、玉型形状データを用いて三次元の加工軌跡データを演算し、この加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズの玉型加工を行う。
【0028】
玉型形状データは、上述した眼鏡フレームのフレーム形状データ等を用いて計算されるデータであって、玉型加工後の眼鏡レンズの三次元形状(立体形状)を示すデータである
加工サイズは、玉型加工された状態の眼鏡レンズのサイズである。本実施の形態においては、一例として、玉型加工された状態の眼鏡レンズの周長を加工サイズとする。
【0029】
加工サイズの差分データは、三次元測定装置の測定によって得られる加工サイズの実測値と計算上得られる加工サイズの理論値との差分を示すデータである。本実施の形態においては、三次元測定装置として三次元周長測定装置10を用いる。このため、加工サイズの差分データは、三次元周長測定装置10の測定で得られる実測周長と計算上得られる理論周長との差分を示すデータとなる。
加工軌跡データは、玉型形状データを用いて切削点毎に、各駆動軸毎の移動量を算出したもので、玉型加工の対象となる眼鏡レンズを、眼鏡フレームのフレーム形状にあわせて玉型加工するための加工条件を決定するデータとなる。玉型加工の加工条件とは、玉型加工装置9が眼鏡レンズの玉型加工を行うときの切削圧や研削圧、加工ツールの切り込み量、ツールの回転数、レンズ軸の回転スピードなどの駆動条件をいう。具体的には、玉型加工装置9が有する複数の加工ツールをどのような順序で選択し、かつ、選択した加工ツールの保持軸やレンズ軸、その他のアクチュエータをどのように駆動して眼鏡レンズを加工するかといった条件をいう。
【0030】
記憶部19は、眼鏡レンズの玉型加工に関連する情報のうち、データベース部15に記憶される情報以外の情報を記憶するものである。記憶部19に記憶される情報の中には、少なくとも、加工軌跡データの演算に用いる演算パラメータと、この演算パラメータの補正に用いる補正値を格納した補正テーブル(詳細は後述)が含まれる。加工軌跡データの演算に使用する演算パラメータは複数あるが、補正の対象となる演算パラメータは、眼鏡レンズの加工サイズを変更可能なパラメータである。このため、演算パラメータの値を変更(補正)すると、変更前の演算パラメータを用いて演算した加工軌跡データと、変更後の演算パラメータを用いて演算した加工軌跡データとが、相異なるものとなり、その結果、玉型加工に得られる眼鏡レンズのサイズ(加工サイズ)も相異なるものとなる。
【0031】
本実施の形態においては、一例として、演算パラメータの補正によって調整可能な眼鏡レンズのサイズが、眼鏡レンズの周長である場合を想定している。また、眼鏡レンズの周長を調整可能な演算パラメータとしては、玉型加工装置9が有する加工ツールのツール径の値を想定している。加工ツールのツール径は、たとえば、眼鏡レンズを円筒状の研削ホイールで加工する場合に、この研削ホイールの半径に相当するものである。
【0032】
(玉型加工装置)
玉型加工装置9は、眼鏡レンズの玉型加工を行うものである。眼鏡レンズの玉型加工とは、アンカットレンズと呼ばれる眼鏡レンズを、この眼鏡レンズが枠入れされる眼鏡フレームのフレーム形状にあわせて加工することをいう。玉型加工装置9による眼鏡レンズの玉型加工は、荒加工と仕上げ加工といった2つの加工ステップを経て行われる。荒加工は、眼鏡レンズの最終的な仕上げ形状よりも一回り大きい形状に眼鏡レンズを加工する加工ステップである。仕上げ加工は、眼鏡レンズの最終的な仕上げ形状にあわせて、荒加工後の眼鏡レンズを加工するもので、ヤゲン加工を含む加工ステップである。
【0033】
荒加工と仕上げ加工は、工程ごとに加工ツールを変えて行ってもよいし、同じ加工ツールを用いて行ってもよい。また、荒加工と仕上げ加工は、たとえば、荒加工を切削加工、仕上げ加工を研削加工で行うなど、工程ごとに加工方式を変えてもよいし、同じ加工方式を適用してもよい。さらに、仕上げ加工には、必要に応じて、鏡面加工を含めてもよい。鏡面加工は、レンズのコバ面を目の細かいツールで研磨して光沢を出す加工である。
ヤゲン加工は、眼鏡レンズの外周面にヤゲンを形成する加工である。眼鏡レンズのヤゲンには複数のタイプ(形状)がある。ヤゲンタイプの一例としては、山形状のヤゲン、溝状のヤゲン、平らなヤゲンなどがある。仕上げ加工で使用する加工ツールの種類は、ヤゲンタイプごとに異なる。
【0034】
玉型加工装置9にはバーコードリーダが付属している。バーコードリーダは、上述したワークシートに印刷されたバーコードを光学的に読み取って、そのバーコードが示すジョブ識別情報を取得するものである。玉型加工装置9は、バーコードリーダの読み取り結果として得られたジョブ識別情報をクライアント装置8に送信することにより、眼鏡レンズの玉型加工に必要な情報をクライアント装置8から受け取る。
【0035】
(三次元周長測定装置)
三次元周長測定装置10は、玉型加工装置9によって玉型加工された眼鏡レンズの加工サイズを三次元で測定する加工サイズ測定装置の一例として設けられたものである。三次元周長測定装置10は、玉型加工装置9で玉型加工(仕上げ加工)を終えた眼鏡レンズの周長を三次元で測定する。三次元周長測定装置10は、周長測定のための測定子であるスタイラスを有する。三次元周長測定装置10は、測定対象とする眼鏡レンズのヤゲンタイプが山形状のヤゲンである場合は、コバ面に形成されたヤゲンの頂部にスタイラスを接触させ、この接触状態を維持しながら眼鏡レンズを回転させることにより、眼鏡レンズの周長を測定する。また、ヤゲンタイプが平らなヤゲン(平ヤゲン)やコバ面に溝を有するヤゲンである場合は、平らなヤゲンを形成するコバ面にスタイラスを接触させ、この接触状態を維持しながら眼鏡レンズを回転させることにより、眼鏡レンズの周長を測定する。その場合、三次元周長測定装置10は、眼鏡レンズの回転に伴うスタイラスの変位量および変位方向を三次元の座標空間で認識し、この認識結果に基づいて眼鏡レンズのヤゲン頂部の周長を計測する。三次元周長測定装置10の測定によって得られた眼鏡レンズの実測周長のデータは、ネットワーク11を介してサーバ装置7に送られる。なお、三次元周長測定装置10としては、たとえば、特許第3208566号公報に記載されたものを用いることができる。
【0036】
三次元周長測定装置10にはバーコードリーダが付属している。バーコードリーダは、上述したワークシートに印刷されたバーコードを光学的に読み取って、そのバーコードが示すジョブ識別情報を取得するものである。三次元周長測定装置10は、バーコードリーダの読み取り結果として得られたジョブ識別情報を、当該ジョブ識別情報に対応する眼鏡レンズの実測周長のデータと一緒にサーバ装置7に送信する。
【0037】
(眼鏡レンズの受発注に関する処理の流れ)
図2は眼鏡レンズの受発注に関する処理の流れを示すフロー図である。
まず、眼鏡店1においては、顧客が希望(選択)した眼鏡フレームをトレーサ6にセットし、眼鏡フレームのフレーム形状を測定する(S1)。トレーサ6で測定したデータは、発注端末5に取り込まれる。次に、眼鏡店1の店員は、発注端末5を用いて発注データを入力する(S2)。発注データには、眼鏡フレーム情報、眼鏡レンズ情報、レイアウト情報、処方情報などが含まれる。眼鏡フレーム情報には、上述した眼鏡フレームのフレーム形状データの他に、フレームメーカ、モデル名、フレーム材質、フレームサイズ、フレームパターン、フレームカラーなどが含まれる。眼鏡レンズ情報には、レンズ材質、機能性膜(調光・偏光)の有無、レンズカラー、ハードコート膜の有無、商品コードなどが含まれる。レイアウト情報には、瞳孔間距離、瞳孔高さなどが含まれる。処方情報には、球面度数、乱視度数、乱視軸、加入度、プリズム処方などが含まれる。次に、発注端末5から通信回線3を介して加工センタ2のサーバ装置7に発注データを送信する(S3)。発注データの送信は、発注端末5のモニタに表示された発注用の画面を見ながら入力操作する店員が、発注データの入力を終えた後、マウスのクリック操作などで発注を確定したときに行われる。
【0038】
一方、加工センタ2においては、眼鏡店1の発注端末5から送信された発注データを、サーバ装置7が受注データとして受信する(S4)。次に、サーバ装置7のデータ管理部14は、受注データを受信したとき、またはその後の適切なタイミングで、ジョブ識別情報を生成する(S5)。次に、データ管理部14は、生成したジョブ識別情報と対応付けて受注データをデータベース部15に登録する(S6)。
【0039】
次に、加工センタ2では、玉型加工前の準備作業として、図示しない印刷装置を用いてバーコード付きのワークシートを印刷出力する(S7)。以上で受発注に関する処理が完了する。その後、加工センタ2内では、作業者が、受注データで指定された眼鏡レンズ(アンカットレンズ)を、バーコード付きのワークシートと一緒にトレイに入れて、玉型加工を受け持つ玉型加工装置9の設置場所まで移送する。その際、トレイに入れる眼鏡レンズは、在庫レンズのアンカットレンズであってもよいし、特注レンズのアンカットレンズであってもよい。
【0040】
(眼鏡レンズの玉型加工に関する処理の流れ)
図3および
図4は眼鏡レンズの玉型加工に関する処理の流れを示すフロー図である。
まず、玉型加工装置9の操作者は、上記のトレイからワークシートを取り出し、そのワークシートに印刷されているバーコードを、玉型加工装置9に付属のバーコードリーダで読み取る(S11)。そうすると、玉型加工装置9は、バーコードリーダの読み取り結果として得られたジョブ識別情報を、自装置に割り当てられた加工装置識別情報と一緒に、ネットワーク11を介してクライアント装置8に送信する(S12)。
【0041】
次に、クライアント装置8の加工制御部16は、玉型加工装置9から送信されたジョブ識別情報と加工装置識別情報を受信する(S13)。次に、加工制御部16は、受信したジョブ識別情報および加工装置識別情報をサーバ装置7に送信(転送)する(S14)。
【0042】
次に、サーバ装置7のデータ管理部14は、クライアント装置8から送信されたジョブ識別情報および加工装置識別情報を受信する(S15)。次に、データ管理部14は、受信したジョブ識別情報および加工装置識別情報のうち、ジョブ識別情報を検索キーとしてデータベース部15を検索する(S16)。次に、データ管理部14は、検索キーに一致するジョブ識別情報に対応付けて、先ほど受信した加工装置識別情報を登録する(S17)。これにより、データベース部15においては、受注データとこの受注データを基に玉型加工を行う玉型加工装置9とが、同一のジョブ識別情報を用いて紐付けされる。次に、データ管理部14は、データベース部15に登録されている受注データの中から、眼鏡レンズの玉型加工に必要な情報を読み出す(S18)。眼鏡レンズの玉型加工に必要な情報とは、眼鏡フレーム情報、眼鏡レンズ情報、レイアウト情報、処方情報などをいう。次に、データ管理部14は、読み出した情報をクライアント装置8に送信する(S19)。
【0043】
次に、クライアント装置8の加工制御部16は、上述のようにサーバ装置7から送信された、眼鏡レンズの玉型加工に必要な情報を受信する(S20)。次に、クライアント装置8の演算部18は、先ほど加工制御部16が受信した情報を用いて玉型形状データを演算する(S21)。玉型形状データの演算には種々のデータが用いられる。その中には玉型加工装置9に関するデータの一つとして、玉型加工装置9が有するツール径の値(設計値)が含まれる。玉型加工装置9に関するデータ(加工ツールの種類や各ツール径の値を含む)は、たとえば、ネットワーク11に玉型加工装置9を接続した段階で、玉型加工装置9からクライアント装置8に自装置に関するデータを通知することにより、玉型加工装置9ごとに記憶部19に記憶される。なお、玉型加工装置9に関するデータは、クライアント装置8の記憶部19に代えて、サーバ装置7のデータベース部15に玉型加工装置9ごとに記憶し、そこから必要に応じてクライアント装置8が玉型加工装置9に関するデータを読み出す構成としてもよい。
【0044】
また、演算部18は、上述した玉型形状データの他にも、眼鏡レンズの理論周長を演算する(S22)。理論周長は、玉型加工後の眼鏡レンズの加工サイズとして計算上得られる理論値に相当する。理論周長とは、アンカットレンズを、指定されたヤゲンサイズ、ヤゲン位置、ヤゲンモードなどに準じて玉型加工する際に、顧客によって選択されたフレームに加工後のレンズがしっかりと枠入れされるようにするために、フレーム形状データを補正して得られる玉型形状データに基づく眼鏡レンズの周長をいう。理論周長は、玉型加工の仕上げ加工を終えた眼鏡レンズを眼鏡フレームに枠入れする際に、フィッティング率向上の観点から好ましいとされる眼鏡レンズの周長として算出される。したがって、玉型加工後の眼鏡レンズの周長がこの理論周長に一致するときが理想的な状態となる。理論周長の計算については、たとえば、特許第2994870号公報に記載された計算手法を採用すればよい。演算部18は、加工計算のための演算プログラムを有し、この演算プログラムを実行することにより、玉型形状データおよび理論周長を求める。これらの演算に必要な情報には、ここで記述した情報以外にも、種々の情報があるが、ここでは説明を省略する。
【0045】
次に、クライアント装置8の加工制御部16は、先ほど演算部18が演算した玉型形状データを玉型加工装置9に送信する(S23)。このとき、加工制御部16は、加工軌跡データの演算パラメータの一つとなる「加工ツールのツール径の値」を補正するときに用いる補正値を、玉型形状データと一緒に玉型加工装置9に送信する。補正値は、加工制御部16が記憶部19から読み出す。
【0046】
図5は加工ツールのツール径の値を補正するときに用いられる補正値の格納形態の一例を説明する図である。
図5において、パラメータ補正用フォルダは、加工軌跡データの演算に用いられる演算パラメータを補正するための補正テーブルを格納するフォルダである。パラメータ補正用フォルダには、玉型加工装置9ごとに補正テーブルが用意されている。複数の玉型加工装置9は、便宜上、1号機、2号機、…と分かれている。
【0047】
補正テーブルには、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応付けて補正値が登録(格納)されている。具体的には、眼鏡レンズの材質がM1〜M5の5種類に分かれ、加工ツールの種類がT1〜T6の6種類に分かれている。そして、眼鏡レンズの材質と加工ツールの種類の組み合わせの数に応じて、合計30個の補正値(H11〜H65)が登録されている。補正値の格納数は、加工ツールの種類や眼鏡レンズの材質の種類に応じて適宜、増減可能である。
【0048】
各々の補正値は、実測周長と理論周長の差分を半径に換算した値となっている。補正テーブルに登録する加工ツールT1〜T6は、この補正テーブルが適用される1台の玉型加工装置9が有する加工ツールのうち、少なくとも玉型加工の仕上げ加工(ヤゲン加工)に用いる加工ツールである。玉型加工の仕上げ加工では、眼鏡レンズのコバ面に形成されるヤゲンのタイプに応じて異なる種類の加工ツールが選択される。このため、補正テーブルには、加工ツールの種類の代わりに、眼鏡レンズのヤゲンタイプを登録してもよい。
【0049】
補正値の読み出しは、次のように行われる。まず、先ほど加工制御部16がサーバ装置7から受け取った受注データに含まれる眼鏡レンズ情報を参照して、加工対象となる眼鏡レンズの材質を特定する。ここでは眼鏡レンズの材質がM3であったとする。また、玉型加工に使用する玉型加工装置9が1号機であって、仕上げ加工に用いる加工ツールの種類がT2であったとする。そうした場合、加工制御部16は、1号機の玉型加工装置9に対応して記憶部19に記憶されている補正テーブルから補正値H23を読み出し、この補正値T23を玉型形状データと一緒に玉型加工装置9に送信する。
【0050】
次に、加工制御部16は、先ほど演算部18が演算した理論周長をジョブ識別情報と一緒にサーバ装置7に送信する(S24)。これにより、サーバ装置7のデータ管理部14は、クライアント装置8から理論周長を受信し(S25)、この受信した理論周長をジョブ識別情報に対応付けてデータベース部15の加工履歴テーブルに登録する(S26)。
【0051】
データベース部15には、たとえば
図6に示すデータ形式で、加工履歴テーブルが格納されている。図示した加工履歴テーブルは、玉型加工装置9ごとに用意されている。加工履歴テーブルには加工履歴データが登録されている。加工履歴データは、各々のジョブ識別情報(ジョブID)につき、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応付けて、理論周長および実測周長を時系列で登録したものである。ジョブ識別情報は、眼鏡レンズの玉型加工を1回行うたびに一つ生成されるものである。このため、加工履歴データは、眼鏡レンズの玉型加工を1回行うたびに一つ記憶され、玉型加工の回数を重ねることによって順に蓄積されていく。眼鏡レンズの材質の欄には、受注データから取り出した眼鏡レンズの材質を登録する。加工ツールの種類の欄には、その眼鏡レンズのヤゲンタイプに対応する加工ツールの種類を登録する。理論周長の欄には、クライアント装置8から受信した理論周長を登録する。実測周長の欄は、この段階では空欄になっている。
なお、加工履歴テーブルは、必ずしも玉型加工装置9ごとに分けて用意する必要はない。具体的には、加工履歴テーブルを一つとし、この加工履歴テーブルにすべての玉型加工装置9に関する加工履歴データを登録してもよい。その場合は、ジョブ識別情報ごとに加工履歴データを登録するとともに、いずれの玉型加工装置9を使用して玉型加工したかが分かるように、加工履歴データに加工装置識別情報を含めるようにすればよい。
【0052】
次に、玉型加工装置9では、クライアント装置8から送信された玉型形状データと演算パラメータ補正用の補正値を受信する(S27)。次に、玉型加工装置9では、加工軌跡データの演算に用いる演算パラメータを、上記の補正値を用いて補正する(S28)。具体的には、演算パラメータに用いる加工ツールのツール径の値を、玉型形状データと一緒に受信した補正値を用いて補正する。たとえば、加工軌跡データの演算に用いるツール径の値がツール半径Raであり、ツール径の設計値がツール半径Rbであり、上記の補正値H23が正負の値をとる場合は、以下の(1)式に基づいてツール半径Raを補正し、補正後のツール半径Raを演算パラメータに用いて加工軌跡データを演算する。
Ra=Rb+H23 …(1)
【0053】
なお、演算パラメータの補正に用いる補正値は、演算部18が加工軌跡データを演算する前であれば、どのようなタイミングで玉型加工装置9が取得してもかまわない。また、補正値の取得方式についても、玉型加工装置9がクライアント装置8にアクセスし、演算部18に記憶されている自装置用の補正テーブルから、加工軌跡データの演算に必要な補正値を読み出して取得する方式であってもよい。
【0054】
次に、玉型加工装置9では、玉型形状データに基づいて加工軌跡データを演算する(S29)。加工軌跡データの演算には、先ほど補正値により補正した演算パラメータ(ツール径の値)を用いる。この演算によって得られる加工軌跡データは三次元のデータである。このため、加工軌跡データの演算に用いるツール径の値を補正した場合は、補正後のツール径の値を三次元の加工軌跡データに反映させることができる。
【0055】
ここで、加工軌跡データの演算に用いるツール径の値と、この加工軌跡データにしたがって玉型加工された眼鏡レンズの周長との関係について説明する。
まず、加工軌跡データの演算に用いるツール径に関し、補正値で補正する前のツール径の値に比べて、補正後のツール径の値が小さくなると、玉型加工で仕上げられた眼鏡レンズの周長は短くなる。これに対し、補正値で補正する前のツール径の値に比べて、補正後のツール径の値が大きくなると、玉型加工で仕上げられた眼鏡レンズの周長は長くなる。以下に、その理由を
図7〜
図9を用いて説明する。
【0056】
図7は加工軌跡データの演算に用いるツール径の値を補正しない場合、つまり補正値がゼロの場合を示している。この場合は、玉型形状データ31の演算に用いた規定のツール径(加工ツールの設計値)32の値をそのまま用いて加工軌跡データ33を演算することになる。このため、規定のツール径32で玉型加工したときの眼鏡レンズの外形34は、玉型形状データ31に一致したものとなる。
【0057】
図8は加工軌跡データの演算に用いるツール径の値が小さくなるように補正する場合、つまり補正値が負の値をとる場合を示している。この場合は、玉型形状データ31に対して規定のツール径32よりも小さいツール径35の値を用いて加工軌跡データ36を演算することになる。この加工軌跡データ36は、規定のツール径32をもとに演算される加工軌跡データ33よりも内側に設定される。このため、演算上想定している加工ツールのツール径が小さくなった分だけ、眼鏡レンズに対する加工ツールの送り込み量が増加させられる。ただし、演算に用いるツール径の値を補正しても、現物の加工ツールのツール径は変わらない。よって、規定のツール径32で玉型加工したときの眼鏡レンズの外形37は、玉型形状データ31よりも内側に形成される。したがって、ツール径の値を補正する前に比べて眼鏡レンズの外形サイズが小さくなり、これにともなって眼鏡レンズの周長も短くなる。
【0058】
図9は加工軌跡データの演算に用いるツール径の値が大きくなるように補正する場合、つまり補正値が正の値をとる場合を示している。この場合は、玉型形状データ31に対して規定のツール径32よりも大きいツール径38の値を用いて加工軌跡データ39を演算することになる。この加工軌跡データ39は、規定のツール径32をもとに演算される加工軌跡データ33よりも外側に設定される。このため、演算上想定している加工ツールのツール径が大きくなった分だけ、眼鏡レンズに対する加工ツールの送り込み量が減少させられる。ただし、演算に用いるツール径の値を補正しても、現物の加工ツールのツール径は変わらない。よって、規定のツール径32で玉型加工したときの眼鏡レンズの外形40は、玉型形状データ31よりも外側に形成される。したがって、ツール径の値を補正する前に比べて眼鏡レンズの外形サイズが大きくなり、これにともなって眼鏡レンズの周長も長くなる。
【0059】
以上のことから、実測周長が理論周長よりも短い場合は、補正前のツール径の値に比べて、補正後のツール径の値が適量だけ大きくなるように、ツール径の値を補正値によって補正することにより、その後の玉型加工で実測周長を理論周長に近づけることができる。また、実測周長が理論周長よりも長い場合は、補正前のツール径の値に比べて、補正後のツール径の値が適量だけ小さくように、ツール径の値を補正値によって補正することにより、その後の玉型加工で実測周長を理論周長に近づけることができる。
【0060】
その後、オペレータが玉型加工装置9のレンズ軸に眼鏡レンズを装着した後、ボタン操作等によって加工の開始を指示する。そうすると、この指示を受けて玉型加工装置9が眼鏡レンズの玉型加工を実施する(S30)。この場合、玉型加工装置9では、各々のアクチュエータを適宜駆動制御することにより、玉型加工装置9が有する加工ツールを用いて、上述した荒加工と仕上げ加工を順に行う。そして、眼鏡レンズの玉型加工が終了すると、玉型加工装置9では、アクチュエータの駆動が停止する。荒加工と仕上げ加工は、同じ加工ツールを用いて行ってもよいし、異なる加工ツールを用いて行ってもよい。その後、オペレータは、玉型加工装置9のレンズ軸から加工済みの眼鏡レンズを取り外し、元のトレイに戻す。
【0061】
次に、玉型加工済みの眼鏡レンズが収容されたトレイを三次元周長測定装置10の設置場所に移送する。そこで、三次元周長測定装置10のオペレータは、まず、トレイからワークシートを取り出し、そのワークシートに印刷されているバーコードを、三次元周長測定装置10に付属のバーコードリーダで読み取る(S31)。次に、オペレータは、三次元周長測定装置10に眼鏡レンズをセットし、眼鏡レンズの周長測定を実行させる(S32)。
【0062】
より詳しく説明すると、三次元周長測定装置10のオペレータは、測定対象の眼鏡レンズを三次元周長測定装置10にセットした後、ボタン操作等によって測定の開始を指示する。そうすると、この指示を受けて三次元周長測定装置10では、各々のアクチュエータが駆動を開始する。これにより、眼鏡レンズのコバ面のヤゲン部分にスタイラスが接触し、その状態で眼鏡レンズが回転することにより、眼鏡レンズの径方向および厚み方向にスタイラスが変位する。三次元周長測定装置10においては、上述のように変位するスタイラスの変位量および変位方向を眼鏡レンズの回転角度ごとに検知し、この検知結果を基に眼鏡レンズの周長を三次元で測定する。
【0063】
その後、三次元周長測定装置10による周長測定が終了すると、この周長測定によって得られた実測周長は、先のバーコードの読み取りによって取得したジョブ識別情報と一緒に、三次元周長測定装置10がサーバ装置7に送信する(S33)。また、周長測定が終了すると、オペレータは、三次元周長測定装置10のレンズ保持部から眼鏡レンズを取り外し、元のトレイに戻す。
【0064】
次に、サーバ装置7のデータ管理部14は、上述のように三次元周長測定装置10から送信されたジョブ識別情報および実測周長を受信する(S34)。次に、データ管理部14は、受信したジョブ識別情報と対応付けて実測周長をデータベース部15内の加工履歴テーブルに登録する(S35)。この段階で加工履歴テーブル(
図6を参照)には、今回の玉型加工に係るジョブ識別情報に対応付けて、眼鏡レンズの材質、加工ツールの種類、理論周長、実測周長の各欄に、それぞれ情報が登録された状態となる。
【0065】
次に、データ管理部14は、上述のようにデータベース部15に登録された実測周長と理論周長とを用いて、実測周長と理論周長の差分(以下「周長差」ともいう)を計算する(S36)。次に、データ管理部14は、計算により求めた周長差が、最終製品の眼鏡レンズの品質上、あらかじめ設定されている適正範囲内に収まっているかどうかを判断する(S37)。そして、適正範囲内に収まっていれば、その旨をクライアント装置8に通知(送信)する(S38)。この通知には、玉型加工を正常に終えたジョブのジョブ識別情報が含まれる。周長差が適正範囲を外れている場合は、何らかの異常が発生している可能性が高いため、図示しないエラー処理を行って一連の処理を終える。
なお、ここでは周長差の計算およびその合否の判断をデータ管理部14で行うとしているが、これに限らず、それらの処理を三次元周長測定装置10で行うように構成することも可能である。
【0066】
次に、クライアントPCの加工制御部16は、サーバ装置7からの通知を受信した後(S39)、その通知に含まれるジョブ識別情報に対応付けてデータベース部15に登録されている加工履歴データの提供をサーバ装置7に要求する(S40)。
次に、サーバ装置7のデータ管理部14は、サーバ装置7からの要求を受け付けた後(S41)、この要求で指定された加工履歴データをデータベース部15から抽出する(S42)。
【0067】
データ管理部14は、サーバ装置7から要求のあった玉型加工装置9の加工履歴テーブルの中から、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで加工履歴テーブルに登録されている加工履歴データを、少なくとも一つ抽出する。加工履歴データをいくつ抽出するかは任意に設定可能である。一つの好ましい例を挙げると、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせの加工履歴データを、データベース部15への登録が新しい順に複数個(たとえば、10個)抽出する。具体例として、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質が「M1」であり、加工ツールの種類が「T3」であれば、これと同じ組み合わせの加工履歴データ(図中、星印で示す)を複数個抽出する。ただし、加工ツールの交換作業が行われた場合は、ツール交換後に加工履歴テーブルに登録された加工履歴データの中から、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせの加工履歴データを複数個抽出することが望ましい。
【0068】
次に、データ管理部14は、データベース部15から抽出した複数個の加工履歴データをクライアント装置8に送信する(S43)。このとき送信する加工履歴データには、少なくとも理論周長と実測周長が含まれる。
【0069】
次に、クライアント装置8の加工制御部16は、サーバ装置7から送信された複数個の加工履歴データを受信する(S44)。次に、クライアント装置8の演算部18は、受信した複数個の加工履歴データを用いて、周長差の平均値を求める(S45)。具体的には、まず、各々の加工履歴データごとに、実測周長と理論周長の差分を、周長差として求める。さらに、求めた周長差を、加工履歴データの個数で除算することにより、周長差の平均値を求める。
【0070】
次に、クライアント装置8の加工サイズ監視部17は、上記周長差の平均値を用いて、補正テーブルの補正値を変更する必要があるかどうかを判断する(S46)。補正値の変更の要否は、上述のように求めた周長差の平均値が、予め設定された規定範囲内に収まっているか否かにより行う。具体的には、周長差の平均値が、規定範囲内であれば、補正値の変更が不要であると判断し、ここで処理を終える。また、周長差の平均値が規定範囲を超えていれば、補正値の変更が必要であると判断し、以降の処理に進む。
【0071】
次に、加工サイズ監視部17は、上記
図5に示す補正テーブルに登録されている補正値のうち、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで補正テーブルに登録されている補正値を変更する(S47)。補正値の変更は、実測周長と理論周長の差分を小さくする(理想的にはゼロする)ために行われるものである。その場合、補正テーブルの補正値をどの程度変更するかは、上述した周長差の平均値に基づいて、この周長差の平均値を半径に換算して求めればよい。ただし、1回の補正によって周長差がゼロとなるように補正するとなると、補正頻度の増加につながるとともに、1回あたりの補正量が大きすぎてサイズ不良のリスクが高くなることが懸念される。このため、1回の補正で許容される最大の補正量を設定しておき、この補正量に基づいて補正値の変更を複数回にわけて行うことにより、実測周長を徐々に理論周長に近づけるように補正することが好ましい。たとえば、周長差をゼロにするために必要な補正量が0.05mmであり、1回の補正で許容される最大の補正量が0.02mmである場合は、3回にわけて補正値の変更を行うことが好ましい。その場合、1回の補正で許容される最大の補正量を予めレンズ材質ごとに設定しておき、レンズ材質ごとに最大の補正量を切り替えて使用することが望ましい。
【0072】
補正値の変更は、たとえば、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質が「M1」であり、加工ツールの種類が「T3」であれば、これと同じ組み合わせの補正テーブルに登録されている補正値H23の値を変更する。これにより、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで、次回以降に玉型加工を行う場合は、変更後の補正値で補正したツール径の値を演算パラメータに用いて、加工軌跡データの演算が行われることになる。また、玉型加工装置9においては、変更後の補正値で補正したツール径の値を反映した加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズの玉型加工が行われることになる。
【0073】
<実施の形態に係る効果>
本発明の実施の形態によれば、三次元周長測定装置10の測定によって得られる実測周長と計算上得られる理論周長の差分に基づいて、加工軌跡データの演算に用いる演算パラメータ(加工ツールのツール径の値)を補正している。これにより、眼鏡レンズの外形形状を崩すことなく、眼鏡レンズの周長を適切に調整(補正)することができる。また、従来のように加工ツールの保持軸とレンズ軸との間の軸間距離を調整する場合に比べて、更なる加工精度の向上を実現することが可能となる。以下、その理由を説明する。
【0074】
まず、加工ツールの保持軸とレンズホルダの回転軸との間の軸間距離の調整は、各軸の位置を物理的にずらして調整するわけではなく、玉型加工装置9の操作パネル等を用いてオペレータが軸間距離の値を設定変更することにより行う。このように軸間距離を調整すると、たとえば
図10(A)に示すように、眼鏡レンズの回転中心20から放射方向に同量Laずつサイズ補正が加えられる。このため、仮に軸間距離の調整なしで玉型加工した眼鏡レンズの輪郭線が直線21であるとすると、軸間距離の調整ありで玉型加工した眼鏡レンズの輪郭線は外側に湾曲(膨出)した曲線22になってしまう。したがって、軸間距離の調整によって眼鏡レンズのサイズを補正すると、眼鏡レンズの外形形状が崩れてしまう。実際に眼鏡レンズの外形形状が崩れると、仮に眼鏡レンズの周長が所望の寸法範囲に収まっていたとしても、眼鏡レンズを眼鏡フレームに枠入れした場合に、たとえば瞳孔間距離にズレが生じるおそれがある。
【0075】
これに対して、加工軌跡データの演算パラメータに用いる加工ツールのツール径の値をたとえば
図10(B)に示すように、補正前に比べて補正後のほうが小さくなるように補正した場合は、眼鏡レンズの輪郭線に対して必ず直交方向(法線方向)に同量Lbずつサイズ補正が加えられる。このため、仮にツール径の値を補正する前は眼鏡レンズの輪郭線が直線23であるとすると、ツール径の値を補正した後も眼鏡レンズの輪郭線も上記の直線23に平行な直線24になる。したがって、眼鏡レンズの外形形状を崩すことなく、眼鏡レンズのサイズ(周長)を補正することができる。
【0076】
また、軸間距離を調整した場合は、その調整の前後で加工干渉が変わる可能性がある。加工干渉とは、眼鏡レンズの一部を加工ツールで加工しているときに、その加工ツールが眼鏡レンズの他の部分に接触(干渉)することで、その部分を余分に加工してしまう現象である。玉型加工装置9では、この加工干渉を計算に入れて加工軌跡データを演算しているが、軸間距離を調整すると、計算上想定していない加工干渉が起こり得る。このため、たとえば眼鏡レンズのコバ面に山形状のヤゲンを形成する場合に、レンズ外周の一部でヤゲンの細りが生じるおそれがある。
【0077】
これに対して、加工ツールのツール径の値を補正した場合は、補正後のツール径の値を考慮して加工干渉を計算し、加工軌跡データを演算する。このため、加工軌跡データの演算で想定していない加工干渉がほとんど起こらない。したがって、演算によって得られた加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズの玉型加工を行うことにより、想定外の加工干渉による加工誤差を低減することができる。また、補正後のツール径の値を用いて加工軌跡データを演算することにより、加工ツールの摩耗、目詰まり等による加工性の悪化に起因した、眼鏡レンズの加工誤差を適切に補正することができる。
その結果、軸間距離を調整する場合に比べて、眼鏡レンズの加工サイズの更なる高精度化を実現することができる。
【0078】
また、本実施の形態においては、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応付けて補正テーブルに補正値を登録しておき、その補正テーブルから読み出した補正値を用いて、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類ごとに、演算パラメータ(加工ツールのツール径の値)を補正している。眼鏡レンズの材質が変わると、同じ加工ツールでかつ同じ加工軌跡データにしたがって眼鏡レンズを玉型加工しても、加工後の眼鏡レンズのサイズに差が生じる。これは、眼鏡レンズの材質(典型的にはガラスレンズとプラスチックレンズ)により、加工性(レンズの削れ易さなど)や加工条件(加工ツールの回転速度など)が異なるからである。このため、眼鏡レンズの材質に関係なく単に加工ツール単位でサイズ補正を行う場合に比べて、眼鏡レンズのサイズ補正を精度良く行うことができる。
【0079】
また、本実施の形態においては、眼鏡レンズの玉型加工を1回行うたびに、そのときの加工履歴データをデータベース部15に記憶しておき、その中から今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせの複数個の加工履歴データを用いて周長差の平均値を求めている。このため、1回の玉型加工の加工履歴データだけを用いる場合に比べて、たとえば、周長測定の誤差などの影響を低減し、補正値の変更の要否を的確に判断することができる。また、本実施の形態においては、上述のように求めた平均値が規定範囲を超えている場合に、補正値の変更が必要と判断し、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類と同じ組み合わせで補正テーブルに登録されている補正値を変更している。このため、加工軌跡データの演算に用いる演算パラメータの補正だけでなく、この演算パラメータの補正に用いる補正値についても、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせを考慮して適切に変更することができる。
【0080】
図11および
図12は本実施の形態に係るレンズ加工システムを用いて実行可能な処理の一例を示すフローチャートである。図示した処理は、クライアント装置8に接続されている複数の玉型加工装置9を、玉型加工装置9ごとに保守管理するために、クライアント装置8が行うものである。ここでは一例として、1号機の玉型加工装置9を保守管理の対象とする場合について説明する。
【0081】
まず、総カウント数および総変更回数をクリアするかどうかを判断する(S61)。具体的には、玉型加工装置9で加工ツールの交換が行われた場合はYesと判断し、それ以外はNoと判断する。総カウント数は、1号機の玉型加工装置9に関して、加工ツールの交換後に眼鏡レンズの玉型加工を行った回数である。総カウント数は、加工ツールの交換の指標になる。変更回数は、1号機の玉型加工装置9に関して、補正テーブルに登録されている補正値を変更した回数である。これらの回数は、サーバ装置7のデータ管理部14がデータベース部15を用いて管理(計数)している。
【0082】
次に、上記のステップS61でYesと判断した場合は、総カウント数および総変更回数をクリアしてゼロを取得する(S62)。また、上記のステップS61でNoと判断した場合は、サーバ装置7のデータ管理部14が眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類ごとに管理している総カウント数および総変更回数を取得する(S63)。
【0083】
次に、クライアント装置8のモニタの画面上に、変更比率および総カウント数を表示する(S64)。変更比率は、玉型加工装置9の状態管理の指標になるものであって、以下の(2)式に基づいて求められる。
変更比率(%)=総変更回数÷総カウント数×100 …(2)
【0084】
次に、1号機の玉型加工装置9に関してデータベース部15に登録されている加工履歴テーブルから最新の加工履歴データを取得する(S65)。
次に、データベース部15に登録されている受注データを参照することにより、今回の玉型加工に使用する眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類を取得する(S66)。
次に、演算パラメータの補正に用いる補正値の変更を加工ツールのツール単位(種類別)で行うかどうかを判断する(S67)。補正値を変更する単位には、ツール単位の他に、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせ単位がある。いずれの単位で補正値を変更するかは、玉型加工装置9ごとに予め設定されている。このため、ステップS67においては、事前の設定にしたがって補正値の変更単位を判断する。
【0085】
上記ステップS67でYesと判断した場合は、今回の玉型加工に使用する加工ツールの種類に関して、眼鏡レンズの材質の違いによらず、すべてのレンズ材質の総カウント数に1を加える(S68)。次に、今回の玉型加工に使用する加工ツールの種類と同じ種類の加工ツールを用いて、過去に玉型加工したときに加工履歴テーブルに登録した指定個数分の加工履歴データを取得する(S69)。つまり、加工ツール単位で総カウント数に1を加えた後、加工ツールの種類が同じ加工履歴データを取得する。
【0086】
これに対して、上記ステップS67でNoと判断した場合は、今回の玉型加工に使用する眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせに関して、総カウント数に1を加える(S70)。次に、今回の玉型加工に使用する眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせと同じ組み合わせで、過去に玉型加工したときに加工履歴テーブルに登録した指定個数分の加工履歴データを取得する(S71)。つまり、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせ単位で総カウント数に1を加えた後、それと組み合わせが同じ加工履歴データを取得する。
【0087】
次に、上記ステップS69またはS71において、指定個数分の加工履歴データを取得できたどうかを判断する(S72)。このステップS72でNoと判断した場合は、上記ステップS65に戻り、Yesと判断した段階で次のステップS73に進む。
【0088】
ステップS73においては、今回の玉型加工に使用する眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類が、補正値の変更対象になっているかどうかを判断する。このステップS73でNoと判断した場合は、上記ステップS65に戻り、Yesと判断した段階で次のステップS74に進む。
【0089】
ステップS74においては、上記指定個数分の加工履歴データを用いて、実測周長と理論周長の周長差の平均値を計算によって求める。
次に、上記ステップS67と同様に、補正値の変更をツール単位で行うかどうかを判断する(S75)。このステップS75でYesと判断した場合は、ステップS76に進み、Noと判断した場合は、ステップS77に進む。
【0090】
ステップS76においては、上記ステップS74で求めた周長差の平均値が指定範囲内であるかどうかを判断する。指定範囲は適宜、変更可能である。
次に、上記ステップS76でYesと判断した場合はステップS65に戻る。また、ステップS76でNoと判断した場合は、今回の玉型加工で使用した加工ツールの種類に対応して補正テーブルに登録されている補正値を、眼鏡レンズの材質の違いによらず、すべてのレンズ材質につき適量ずつ変更する(S78)。次に、今回の玉型加工に使用する加工ツールの種類に関して、眼鏡レンズの材質の違いによらず、すべてのレンズ材質の総変更回数に1を加える(S79)。つまり、加工ツール単位で補正値を補正した後、総変更回数に1を加える。
【0091】
一方、ステップS77においては、上記ステップS74で求めた周長差の平均値が指定範囲内であるかどうかを判断する。指定範囲は適宜、変更可能である。
次に、上記ステップS77でYesと判断した場合はステップS65に戻る。また、ステップS77でNoと判断した場合は、今回の玉型加工で使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に対応して補正テーブルに登録されている補正値を適量だけ変更する(S80)。次に、今回の玉型加工に使用した眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類に関して、総変更回数に1を加える(S81)。
つまり、眼鏡レンズの材質および加工ツールの種類の組み合わせ単位で補正値を変更した後、総変更回数に1を加える。
【0092】
その後、ステップS82においては、上記(2)式に基づいて変更比率を再度計算し、この計算結果に基づいて、画面上に表示する変更比率の値を変更する。
【0093】
このような処理を行うことにより、加工センタ2においては、クライアント装置8のモニタ画面上に表示された情報(変更比率、総カウント回数)をオペレータ等が見て、玉型加工装置9の状態を把握したり、ツール交換等のメンテナンス時期を予測したりすることができる。