(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018893
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】揺動式コンクリート斜面搬送設備
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
E04G21/02 102
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-262145(P2012-262145)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-105568(P2014-105568A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114100
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 昭
(72)【発明者】
【氏名】三浦 裕一
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−027228(JP,A)
【文献】
特開2002−138668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
E02B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に固定された架台上に揺動自在且つ傾斜面下方向に移動不能に支持された搬送管と、該搬送管を揺動する揺動装置とから構成された、斜面上方から斜面下方の打設個所に向けて生コンクリートを運搬する揺動式コンクリート斜面搬送設備であって、
前記搬送管は、上方が開放されたU字状管であり、その内壁には内方に向かって断続的に立設された螺旋体である整流板を備え、
前記揺動装置は、駆動モータの出力軸に取付けられて回転駆動される回転体と前記搬送管の外壁に固定された連結部材に枢着され、前記回転体の回転運動を前記搬送管の揺動運動に変換するクランクロッドからなる、
揺動式コンクリート斜面搬送設備。
【請求項2】
前記搬送管は、各々その軸方向上端が拡開するテーパ部を備え、該テーパ部は搬送管の軸方向下端部を外側から包むように相対移動自在に収容して、複数の搬送管が連結され、各々の搬送管は独立した揺動装置を備えており、搬送管および揺動装置は取り外すことが可能とされていることを特徴とする請求項1に記載された揺動式コンクリート斜面搬送設備。
【請求項3】
前記整流板は、前記搬送管の内壁から内方に向かって断続的に立設された螺旋体であり、搬送管軸心となす螺旋体取付角度は、コンクリートの流下速度を調整するため変更可能とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載された揺動式コンクリート斜面搬送設備。
【請求項4】
前記搬送管の上部には、直射日光および降雨を防止するための開閉可能な蓋が取付けられ、前記搬送管内のコンクリート温度が上がらないよう、前記搬送管および蓋の少なくとも表面に遮熱塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載された揺動式コンクリート斜面搬送設備。
【請求項5】
斜面上方に配設された搬送管下端部のU字状管側壁には、斜面下方に配設される搬送管の上端部に形成されたテーパ部に内嵌めされて軸方向において両者が重なる部位が切欠かれて半円筒部のみが残されて、搬送管下端部が前記テーパ部と干渉しないようにされていることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載された揺動式コンクリート斜面搬送設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揺動式コンクリート斜面搬送設備に関し、詳しくは、斜面の上方から下方のコンクリート打設箇所へ、コンクリートの品質を低下させることなく短時間かつ安価に運搬する揺動式コンクリート斜面搬送設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートを斜面の上方から下方に移動する場合、一般的にはダンプトラックやケーブルクレーン等を使用するが、この方法は極めて作業効率が悪く、また、危険な作業を伴うことから、これを改善するため、例えば、
図7乃至
図8に示すSP-TOMと称する螺旋状の羽根31'を取付けた鋼管製の搬送管3'を回転駆動装置にて回転することにより、コンクリートを斜面の上方から下方へ運搬するコンクリート斜面搬送設備が提案されるに至っている。
このコンクリート斜面搬送設備は、上記の管が大口径のものにあっては作業員が管内に入り羽根を設置・交換したり、管の清掃を行なっており、また、小口径管では特殊な工具を使って製作し、清掃は
勘にたよって行うほかない。
【0003】
このため、大口径の搬送設備は、製作・メンテナンスの両面において作業員による作業が限られた空間内で行う必要があるため困難を極め作業時間の長期化を免れず、また、小口径管の搬送設備は、製作精度が低下し清掃の仕上がりにばらつきが生ずるという問題が生じる。
【0004】
また、大口径の搬送設備は、鋼管製の搬送管重量が重いため、これを回転するための電力やガソリン等のエネルギーを多く消費する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−9432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した種々の課題を解決するために創作されたもので、コンクリートを斜面の上方から下方に移動する作業を省エネルギーで実施可能とし、作業中の直射日光や降雨のコンクリートに対する悪影響を極力排除して、作業中のコンクリート温度の上昇に伴うコンクリートの品質低下を防
止することができる揺動式コンクリート斜面搬送設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、斜面に固定された架台上に揺動自在且つ軸方向移動不能に支持された搬送管と、該搬送管を揺動する揺動装置とから構成された、斜面上方から斜面下方の打設個所に向けて生コンクリートを運搬する揺動式コンクリート斜面搬送設備に係り、前記搬送管は、上方が開放されたU字状管であり、その内壁には内方に向かって断続的に立設された螺旋体である整流板を備え、前記揺動装置は、駆動モータの出力軸に取付けられて回転駆動される回転体と前記搬送管の外壁に固定された連結部材に枢着され、前記回転体の回転運動を前記搬送管の揺動運動に変換するクランクロッドからなる構造とした。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記搬送管が、各々その軸方向上端が拡開するテーパ部を備え、該テーパ部は搬送管の軸方向下端部を外側から包むように相対移動自在に収容して、複数の搬送管が連結され、各々の搬送管は独立した揺動装置を備えており、搬送管および揺動装置は取り外すことが可能とされた構造としたことを特徴としている。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記整流板が、前記搬送管の内壁から内方に向かって断続的に立設された螺旋体であり、搬送管軸心となす螺旋体取付角度は、コンクリートの流下速度を調整するため変更可能とされた構造としたことを特徴としている。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記搬送管の上部には、直射日光および降雨を防止するための開閉可能な蓋が取付けられ、前記搬送管内のコンクリート温度がその質が低下するまで上がらないよう、前記搬送管および蓋の少なくとも表面に遮熱塗料が塗布された構造としたことを特徴としている。
【0011】
請求項5に係る発明は、下方に配設される搬送管のテーパ部に収納される、上方に配設された搬送管下端の側壁は、切欠きが形成されて前記テーパ部と干渉しない構造としたことを特徴としている。
【0012】
請求項1に係る発明によれば、搬送管は上方が開放されたU字状管であり、その内壁には内方に向かって断続的に立設された螺旋体である整流板を備え、揺動装置は、駆動モータの出力軸に取付けられて回転駆動される回転体と搬送管の外壁に固定された連結部材に枢着され、回転体の回転運動を搬送管の揺動運動に変換するクランクロッドから構成されているから、生コンクリートを斜面の上方から下方に移動する作業を大幅な省エネルギーで実施することが可能である。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、複数の搬送管が連結され、各々の搬送管は独立した揺動装置を備えており、最下端に位置する架台、搬送管および揺動装置は取り外すことが可能とされているから、生コンクリート打設場所の変更に極めて容易に追随して作業の進捗に応じた最適の揺動式コンクリート斜面搬送設備を構築することができる。
すなわち、搬送管を乗り継いでコンクリート打設位置まで到達した生コンクリートは、横取りホッパを介してホッパの下段に設置されたベルトコンベヤに載置されてダム斜面の横方向に移動し、スリップフォームに達することができる。
この横取りホッパ位置でのコンクリート積み替えが、スリップフォームの移動(2.0〜2.5m/h)によって適合しなくなった場合は、搬送管の移動台車により最下段の搬送管を撤去し、下方の鋼製架台に仮置くのである。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、整流板は搬送管の内壁から内方に向かって断続的に立設された螺旋体であり、搬送管軸心となす螺旋体取付角度は変更可能とされているので、斜面の傾斜の強さやコンクリートの流動性の大きさに拘わらずコンクリートの流下速度を所定の速度に調整して、セメント成分の粉や骨材の粒度の差異に基づく分離を防ぐことができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、搬送管の上部には開閉可能な蓋35が取付けられているので、コンクリートの適切な養生や水セメント比に悪い影響を与える直射日光や降雨を遮ることができ、しかも、搬送管および蓋の少なくとも表面に例えば中空粒子や赤外線反射性被服粒子を含有した公知の遮熱塗料が塗布されているので、搬送管内のコンクリート温度を適正範囲に留めることができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、斜面上方に配設された搬送管下端部のU字状管側壁には、斜面下方に配設される搬送管の上端部に形成されたテーパ部に内嵌めされて軸方向において両者が重なる部位が切欠かれて半円筒部のみが残されているので、各々独立して揺動運動する上下の搬送管同士が干渉することはない。
特に搬送管のU字状管の上端に外側に向かって水平に伸びる補強フランジを形成する場合には、この補強フランジをも切除する構成とすれば、搬送管の強度を向上しつつ上下の搬送管同士の干渉を防止し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の揺動式コンクリート斜面搬送設備の実施例を示す側面図である。
【
図2】上記実施例の主として整流板を示す搬送管の平面図である。
【
図3】(a)は整流板と蓋の状況を示す
図2のA−A線矢視図である。(b)は同じく整流板と蓋の状況を示す
図2のB−B線矢視図である。
【
図4】本発明の揺動式コンクリート斜面搬送設備の揺動装置を示す
図1のC−C線矢視図である。
【
図5】上記実施例の搬送管の傾斜下方向への移動を阻止するストッパー機構を示す
図1のD−D線矢視図である。
【
図6】上記実施例の搬送管の浮き上がり防止機構を示す
図1のE−E線矢視図である。
【
図7】従来の回転式コンクリート斜面搬送設備を概略的に示す概略図である。
【
図8】従来の回転式コンクリート斜面搬送設備の搬送管の断面を示す断面図である。
【実施例】
【0018】
この実施例の揺動式コンクリート斜面搬送設備は、すべてのダムコンクリート打設工事に使用可能であるが、特にCFRD(コンクリートフェーシングダム)の表面遮水壁コンクリート打設に適合するものである。
【0019】
以下に、
図1乃至
図6を参照しながら、本実施例について詳しく説明する。
図1に示されるように、この揺動式コンクリート斜面搬送設備1は、ダムを構築する斜面Sに固定された架台2上に揺動自在且つ傾斜面下方向に移動不能に連結されて支持された搬送管3と、個々の搬送管3を揺動する独立した揺動装置4とから構成されている。
【0020】
この揺動式コンクリート斜面搬送設備1は、例えばダム斜面上方に設置されたコンクリートプラントからダム斜面下方の打設個所に向けてダム用コンクリートを運搬する斜面搬送設備である。
架台2は、施工現場以外の工場等の場所にて予めアングル材を組み立てて製作されており、施工現場の例えばダム斜面にアンカー等で固定されて取外し自在に据え付けられている。
最上位置に据え付けられる架台2の上端部には、図示を省略するコンクリートプラントから生コンクリートの供給を受けるシュート31が配設されている。
【0021】
搬送管3は、上方が開放されたU字状管であり、その内壁には内方に向かって断続的に立設された螺旋体である整流板36を備えている。
図2は搬送管3の平面図であり、
図3(a)は
図2のA−A線矢視図、
図3(b)は
図2のB−B線矢視図である。
この整流板36は、
図2と
図3(a)(b)に示されるように、搬送管3内面右下と内面左下に千鳥状に管内壁から管の軸心に向かって立設された螺旋体である。
この螺旋体の図示を省略する搬送管3の軸心となす取付角度は、ダム斜面の傾斜の強さやコンクリートの流動性の大きさに応じた適宜の速度でコンクリートを流下させる速度となるよう設定されている。
【0022】
本実施例においては、この整流板36の搬送管3の軸心となす取付角度は固定的なものではなく、傾斜や流動性のうちいずれかが変化することが予想されるときは、整流板36の取付角度を変更して生コンクリートが蛇行して流れ落ちる流下速度を調整することにより、コンクリートのセメント粉体成分や骨材の粒径の差異に基づく分離を防ぐようにすることができる。
【0023】
前記揺動装置4は搬送管3毎に独立して設置され、駆動モータ41の出力軸に取付けられて回転駆動される回転体42と搬送管3の外壁に固定された連結部材32に枢着され、前記回転体42の回転運動を前記搬送管3の揺動運動に変換するクランクロッド43から構成されている。
【0024】
図4は
図1のC−C線矢視図であり、この図に示される21は搬送管3を支持するキャリアローラ)である。
34は搬送管3のキャリアローラ21との接触部位を外側から重ねて補強する搬送管補強部である。
搬送管3は駆動モータ41の回転運動が、回転体42とクランクロッド43からなる揺動装置4によって揺動運動に変換され、図示を省略するコンクリートプラントから供給された生コンクリートは、整流板36にて直線的な流下を妨げられてその傾斜に沿って蛇行を繰り返しつつ下方に向けて搬送される。
【0025】
この揺動式コンクリート斜面搬送設備1は、多数の搬送管3が斜面に沿って継ぎ足されて構成されており、継ぎ足し部の下流側の搬送管3は、各々その軸方向上端が拡開するテーパ部33を備えている。
このテーパ部33は、上流側の搬送管3の軸方向下端部を外側から包むように相対移動自在に収容するものである。
多数の搬送管3が継ぎ足されて連結され、各々の搬送管3は独立した揺動装置4を備えており、斜面Sの最下端に位置する架台2、搬送管3および揺動装置4は取り外すことが可能とされている。
【0026】
この揺動式コンクリート斜面搬送設備1は、特にコンクリートフェージングダム(CFRD)の表面遮水壁コンクリート打設に適合しており、打設面が上昇するにしたがって不必要となる搬送管3を下から順次切り離しながらコンクリートを打設するものである。
【0027】
図5は
図1のD−D線矢視図であり、搬送管3の斜面下方への移動を規制するための機構を示している。
37は搬送管3の外壁に径方向に突出形成されたスラスト受板であり、カムフォロア22によって搬送管3の揺動運動は自由に行えるが軸方向移動を規制するものである。
【0028】
図6は
図1のE−E線矢視図であり、搬送管3の架台2からの浮き上がりを防止する浮上り防止機構を示す図である。
搬送管3の底面には左側面視L字状の浮上り防止板38が突出形成されており、浮上り防止ローラ23が浮上り防止板38を下方に押さえつけて搬送管3の浮上りを防止している。
【0029】
多数の搬送管3は相互に拘束されていない。したがって、搬送管3は平面視して継ぎ足し部において屈折した状態で連結することが可能とされている。
斜面上流側に配設された搬送管3の軸方向下端部のU字状管側壁には、斜面下流側に配設される搬送管の上端部に形成されたテーパ部33に内嵌めされて軸方向において両者が重なる部位に切欠き39が形成されて搬送管3の半円筒部のみが残されて、搬送管の軸方向下端部が前記テーパ部と干渉しないようにされている
。
【0030】
搬送管3の上部には開閉可能な蓋35が取付けられているので、コンクリートの適切な養生や水セメント比に悪い影響を与える直射日光や降雨を遮ることができる。
また、整流板36を搬送管3に新規に固定したりその取付角度を調整する場合、あるいは、搬送管3内を清掃する場合には、この蓋35を取除くだけでこれらの作業を容易に進めることが可能である。
【0031】
さらに、搬送管3内のコンクリート温度が上がらないように、搬送管3および蓋35の少なくとも表面に例えば中空粒子や赤外線反射性被服粒子を含有した公知の遮熱塗料が塗布されているので、搬送管内のコンクリート温度を適正範囲に留めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1 揺動式コンクリート斜面搬送設備
2 架台
21 キャリアローラ
22 カムフォロア
23 浮上り防止ローラ
3 搬送管
31 シュート
32 連結部材
33 テーパ部
34 搬送管補強部
35 蓋
36 整流板
37 スラスト受板
38 浮上り防止板
39 切欠き
4 揺動装置
41 駆動モータ
42 回転体
43 クランクロッド