(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018902
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20161020BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B60C11/13 A
B60C11/03 300A
B60C11/03 300D
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-273803(P2012-273803)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118016(P2014-118016A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 早智雄
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−180063(JP,A)
【文献】
特開2010−030596(JP,A)
【文献】
特開2007−030718(JP,A)
【文献】
特開2010−120427(JP,A)
【文献】
特開平10−076810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/13
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面に、主溝と横溝を形成することにより得られたブロックを有する空気入りタイヤであって、
前記ブロックの側面に沿って、連続して又は実質的に連続して変位し、かつ、複数箇所で変位方向を逆転させる鋸歯状の突条部と、
前記突条部に交差する補助突条部と、
を形成したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記突条部は、ブロックの溝底側の角部から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ブロックの側面に、アーチ状の第2の突条部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤとして、主溝を構成する溝面に格子状の突起体を形成した突起形成域を設けたものが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記従来の空気入りタイヤでは、溝面のうち、溝底面にも突起体が形成されている。このため、主溝内での排水性が損なわれるという問題がある。
また、溝底にはブロックとの境界部分にグルーブクラックが発生しやすいが、前記従来の空気入りタイヤでは、そのようなグルーブクラックの発生については全く考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−76810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、排水性能を維持しつつ、溝底の耐グルーブクラック性に優れた構成とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
トレッド面に、主溝と横溝を形成することにより得られたブロックを有する空気入りタイヤであって、
前記ブロックの側面に沿って、連続して又は実質的に連続して変位し、かつ、複数箇所で変位方向を逆転させる突条部を形成したものである。
【0007】
この構成により、側面に形成した突条部によってブロックを十分に補強することができる。また、この突条部は、連続又は実質的に連続し、かつ、変位方向を逆転させるため、走行時にブロックの基部すなわちブロックと溝底との境界部分に歪みが集中することがない。したがって、境界部分にグルーブクラック等が発生しにくい。また、突条部は溝底に形成されていないだけではなく、溝壁の全体に形成されているわけでもない。したがって、全体として溝容積をそれ程低下させることがないので、排水性能を十分に発揮させることができる。
【0008】
前記突条部は、鋸歯状に形成するのが好ましい。
【0009】
この構成により、ブロックと溝底との境界部分に発生する歪みを低減すると同時に分散することができるので、耐グルーブクラック性能を高めることが可能となる。
【0010】
前記突条部は、ブロックの溝底側の角部から形成されているのが好ましい。
【0011】
この構成により、最もグルーブクラックの発生しやすい箇所を補強して、耐グルーブクラック性能をより一層高めることが可能となる。
【0012】
前記突条部に交差する補助突条部を形成するのが好ましい。
【0013】
この構成により、単に連続又は実質的に連続する突条部を設けただけの構成に比べて、さらに耐グルーブクラック性能を高めることが可能となる。
【0014】
前記ブロックの側面に、アーチ状突条部を形成するのが好ましい。
【0015】
この構成により、アーチ状突条部により溝壁に配置した突条部に作用する力を分散させることができ、ブロックの補強効果を発揮させて、さらに溝底の耐グルーブクラック性能を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブロックの側面に沿って、連続又は実質的に連続して変位するように突条部を形成したので、ブロックの変形を抑制し、ブロックと溝底の境界部分への歪みの集中を防止することができる。このため、この境界部分でのグルーブクラックの発生を防止して耐グルーブクラック性能を高めることが可能となる。また、突条部は溝底には形成されていないだけではなく、溝壁の全体に形成されているわけでもない。したがって、全体として溝容積をそれ程低下させることがなくので、排水性能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド面の部分平面図である。
【
図2】
図1のトレッド面の一部を示す斜視図である。
【
図6】他の実施形態に係るブロックの側面図である。
【
図7】他の実施形態に係るブロックの側面図である。
【
図8】他の実施形態に係るブロックの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るタイヤのトレッド面1の部分平面図を示し、
図2は、トレッド面1の一部を示す。このトレッド面1には、周方向に延びる主溝2が幅方向に複数列で形成されている。また、トレッド面1には、主溝2に交差する複数の横溝3が形成されている。ここでは、横溝3は、主溝2に対して同一方向に傾斜(ここでは直交)し、周方向に間隔をあけて設けられている。そして、トレッド面1には、主溝2と横溝3とにより、複数のブロック4が形成されている。
【0020】
各ブロック4の側面には第1突条部5と第2突条部6とが形成されている。
図2及び
図3では、第1突条部5及び第2突条部6はブロック4の主溝2側の側面4aに形成されている。
【0021】
図3及び
図5に示すように、第1突条部5は、主溝2と横溝3が交差する角部7から立ち上がり、斜め上方に向かった後、折り返して斜め下方に向かい、主溝2の溝底2aに至ることにより山型部8が形成される。そして、この山型部8を主溝2の周方向に連続して複数(ここでは、3つ)設けることにより鋸歯状となっている。
図4に示すように、ブロック4の基部は円弧状に形成されており、主溝2の溝底2aに向かって徐々に水平となっている。第1突条部5は、溝底2aとの境界部分まで形成されているが、円弧面に沿って徐々に突出寸法が小さくなっている。
【0022】
図5に示すように、第2突条部6は、山型部8の中央部の頂点9を結ぶ、曲率半径Rのアーチ状に形成されている。
【0023】
第1突条部5及び第2突条部6の各寸法は、次のようにして決められている。
すなわち、第1突条部5及び第2突条部6の側面からの突出寸法a(
図4参照)は、次式(1)を満足するように決定されている。
T/20 ≦ a ≦ T/5 ・・・(1)
T:主溝2の幅寸法
【0024】
また、第1突条部5及び第2突条部6の幅寸法b(
図5参照)は、次式(2)を満足するように決定されている。
H/40 ≦ b ≦ H/5 ・・・(2)
H:主溝2の深さ寸法(ブロック4の高さ寸法)
【0025】
また、第2突条部6のブロック4での形成範囲(主溝2の溝底2aからの距離)h(
図5参照)は、次式(3)を満足するように決定されている。
H/4 ≦ h ≦ H ・・・(3)
【0026】
さらに、3箇所ある山型部8のうち、中央に位置するものの頂点9の、第2突条部6の最上点を結ぶ直線からの距離l(
図5参照)は、次式(4)を満足するように決定されている。
0 ≦ l ≦ h/4 ・・・(4)
【0027】
そして、第2突条部6は、中央部の山型部8の頂点と、ブロック4での形成範囲の主溝方向両端最上点とを結ぶ、曲率半径Rのアーチ状に形成される。両側に位置する山型部8は、その中央部の頂点9が第2突条部6上に位置するように形成される。
【0028】
このように、ブロック4の側面に第1突条部5を形成することにより、ブロック4の強度が向上している。そして、この第1突条部5は複数の山型部8からなる鋸歯状に形成しているので、ブロック4の基部側に歪みが集中しにくくなるように工夫されている。特に、第1突条部5を、ブロック4の基部のうち、主溝方向の端部から開始させている。このため、最もグルーブクラックの発生しやすい箇所を十分に補強することが可能となっている。すなわち、この位置には、路面走行時にブロック4が主溝方向に撓むことにより最も歪みが集中しやすいが、第1突条部5をこの位置から始めることで、グルーブクラックの発生を抑制することができる。また、第1突条部5の各山型部8の頂点を結ぶアーチ状の第2突条部6を形成することで、作用した応力をうまく分散させることができる。したがって、この第2突条部6によっても歪み集中を防止してグルーブクラックの発生を適切に防止することができる。その上、主溝2の溝底には突条部は形成されていないだけではなく、溝壁の全体に形成されているわけでもない。したがって、全体として溝容積をそれ程低下させることがなくので、排水性能を十分に発揮させることができる。
【実施例】
【0029】
比較例1及び2、実施例1〜5のテストタイヤについて性能評価実験を行った。
【0030】
ここでは、タイヤサイズ195/65R15のタイヤを使用し、熱劣化(70℃の雰囲気温度で2週間放置)させた後、ドラム式試験機を用いて、グルーブクラックが発生するまでの時間を指数化した。走行条件は、試験ドラム径:505mm、評価リム:15×6.0J、スリップ角度:1°、空気圧:180kPa、荷重:540kgf、速度40km/hとした。
【0031】
比較例1は、溝壁の全面に格子状の突条部を形成した。
比較例2は、溝底の全面と、溝壁の下半分に格子状の突条部を形成した。
実施例1〜4は、突条部を
図2に示す構成とし、それぞれh、l、a、bを表1に示す値とした。
実施例5は、実施例1の構成に、後述する補助突条部10を追加した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1中、指数の数値が大きいほど、耐グルーブクラック性能及び排水性能が高いことを示している。この結果から分かるように、実施例1及び2で、比較例1及び2に比べて十分な耐グルーブクラック性能及び排水性能を発揮した。
【0034】
(他の実施形態)
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0035】
例えば、前記実施形態では、ブロック4の主溝2側の側面4aに第1突条部5を形成するようにしたが、横溝3側の側面4b、あるいは、その両方に形成するようにしてもよい。
【0036】
また、前記実施形態では、第1突条部5を連続する鋸歯状に形成するようにしたが、例えば、
図6に示すような波形等としてもよく、その形態は限定されない。また、第1突条部5は、必ずしも完全に連続していなくてもよい。実質的に連続することにより、路面を走行する際に作用する負荷に対して十分に耐えうるものであれば、例えば、
図7に示すように、不連続な部分を含んでいても構わない。
【0037】
また、前記実施形態では、第1突条部5を鋸歯状等に形成しただけとしたが、さらに、各突条部に交差する突条部を設けるようにしてもよい。例えば、
図8に示すように、第1突条部5の中央部分で交差する補助突条部10を設けるようにしてもよい(例えば、ニールセン・ローゼ橋のような形態とすることができるが、これに限られず、突条部が交差するものであればよい。)。この構成によれば、単に連続又は実質的に連続した第1突条部5を設ける場合に比べてより耐グルーブクラック性能を高めることができる(表1の実施例5の指数参照)。
【0038】
また、前記実施形態では、アーチ状の第2突条部6を形成するようにしたが、この第2突条部6がなくても、耐グルーブクラック性能を向上させることは可能である。また、第2突条部6は、第1突条部5の各山型部8の頂点と交差していなくてもよく、第1突条部5から離れた位置に形成することも可能である。但し、交差している方が、より歪みを分散させて耐グルーブクラック性能を高めることが可能となる。また、アーチの形状は中央部分で上方に突出するような上下逆形状であっても構わない。
【0039】
また、前記実施形態では、突条部を断面矩形状としたが、これに限らず、例えば、三角形、半円、半楕円等とすることもできる。加工が容易で、その後の使用により損傷しにく形状を選択するのが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1…トレッド面
2…主溝
3…横溝
4…ブロック
5…第1突条部
6…第2突条部
7…角部
8…山型部
9…頂点
10…補助突条部