(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維製の手袋本体が、パラフェニレンテレフタルアミド繊維、高強度ポリエチレン繊維、金属の細線またはグラスファイバーを含む複合繊維のうち、少なくとも1つを含む請求項1から請求項6の何れか1項に記載の滑止加工手袋。
【背景技術】
【0002】
滑止加工手袋は、例えば工場等において作業者が着用したり、運搬作業に際して作業者が着用したり、ドライブに際してドライバーが着用して使用されている。
【0003】
この種の滑止加工手袋としては、例えば(1)着用者の手を覆う繊維製の手袋本体の掌領域の外面に、ゴム等からなる複数の凸状部を散点状に固着したものが公知である。
【0004】
また、(2)繊維製の手袋本体の掌領域に、ゴム又は樹脂のコート層を設け、このコート層が通気性を有するものも公知である。
【0005】
さらに、(3)編手袋の外面のうち掌領域に凸状部を散点状に固着し、この掌領域にコート層が塗着されているものが公知である(特開2000−328328号公報及び実用新案登録第3004374号公報参照)。また、特開昭60−236737号公報には、手袋の表面に硬質樹脂突起を点在させて付着した後に、柔軟性樹脂皮膜を手袋の表面に被着形成することが開示ざれている。
【0006】
また、(4)手袋本体にコート層を設けて、このコート層の外面に凸状部を形成するものも公知である(実用新案登録第3164008号公報参照)。
【0007】
しかし、(1)掌領域に単に凸状部を固着した滑止加工手袋にあっては、着用して被把持物を把持した際に、凸状部において十分な摩擦力が発揮されるものの、凸状部同士の間において手袋本体の繊維が露出しているため、この部分において十分な摩擦力が得られず、被把持物を把持にくいという問題がある。
【0008】
また、(2)掌領域にコート層を設けた滑止加工手袋にあっては、加工処理を施していない繊維製の手袋よりも摩擦力が大きいものの、段ボール等の被把持物を把持した際に十分な摩擦力が得られず、把持しにくいという問題がある。
【0009】
さらに、(3)特開2000−328328号公報、実用新案登録第3004374号公報及び特開昭60−236737号公報に記載された滑止加工手袋にあっては、凸状部を有するものの、この凸状部がコート層に埋没してしまっている。つまり、例えば特開昭60−236737号公報に記載された滑止加工手袋は、硬質樹脂突起と柔軟性樹脂皮膜とはともに塩化ビニルベーストレジンを用いるため、硬質樹脂突起が柔軟性皮膜から突出せずに柔軟性皮膜に埋没してしまう。このように、これらの滑止加工手袋は、凸状部(突起)が樹脂に埋没し、結果として十分な摩擦力が得られず、このため実際の商品化に至っていないのが現状である。また、特開2000−328328号及び実用新案登録第3004374号公報に記載された滑止加工手袋にあっては、コート層が通気性を有していないために、長時間着用していると手が蒸れるという問題を有している。さらに、特開昭60−236737号公報に記載された滑止加工手袋にあっては、通気性を持たせるために柔軟性皮膜を発泡させているが、発泡された部位が使用に際して千切れて離脱するおそれがあり、また発泡させる工程が必要となるという問題を有している。
【0010】
また、(4)実用新案登録第3164008号公報に記載された滑止加工手袋にあっては、凸状部がコート層の外面に設けられているものであるので、使用している際に凸状部が離脱してしまいやすい。このため、長期間にわたって使用していると凸状部の離脱により、グリップ力が低下してしまうという問題を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、長時間着用していても手が蒸れることを防止できるとともに、十分な摩擦力を発揮して被把持物を確実に把持することができ、凸状部が手袋本体に固着され離脱しにくく長期間にわたり使用してもグリップ力が低下しにくい滑止加工手袋およびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた発明は、
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体と、
この手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に固着された樹脂製又はゴム製の複数の凸状部と、
上記手袋本体の外面のうち上記掌領域の少なくとも凸状部以外の領域に積層され、通気性を有するコート層とを備え、
上記凸状部がコート層外面より突出しており、上記凸状部の根元部が手袋本体の少なくとも表層に含浸されている滑止加工手袋である。
【0014】
当該滑止加工手袋は、凸状部がコート層外面より突出しているので、複数の凸状部の部位によって被把持物を把持することができ、また凸状部同士の間等の凸状部以外の領域にはコート層が設けられ、手袋本体の繊維が露出していないため、十分なグリップ力を発揮し、被把持物を確実に把持することができる。
また、長時間着用していても、コート層が通気性を有するので、手が蒸れにくく、快適に着用することができる。
また、凸状部の根元部が手袋本体の少なくとも表層に含浸されているため、凸状部が手袋本体に強固に固着され、使用時に凸状部が手袋本体から離脱することを的確に防止することができる。
【0015】
なお、当該滑止加工手袋において、「凸状部がコート層外面より突出」とは、凸状部がコート層の外面を突き破って露出しているような状態と、凸状部の外面にコート層形成材料が被覆しているが、凸状部がコート層外面の平均的界面より突出している状態とを含む概念である。また、「掌領域」とは、被把持物を握った際に内側の面であって手首よりも指先までの領域(指を含む)を意味する。
【0017】
また、当該滑止加工手袋にあっては、上記コート層を構成する材料が手袋本体に含浸され、手袋本体の内面にコート層が表出している構成を採用することが好ましい。これにより、当該滑止加工手袋の内面と着用者の掌との間に十分な摩擦力が働き、被把持物を把持している際に当該滑止加工手袋が手からずれることを的確に防止することができる。つまり、手袋本体の内面にまでコート層が形成されずに手袋本体の内面から繊維が露出した状態となっている場合には、手袋本体の内面の繊維が着用者の掌と接することになり、両者の間に十分な摩擦力が働かずに、被把持物を把持している際に手袋本体が手から離脱する方向にずれてしまうおそれがある。これに対して、手袋本体の内面にコート層が表出した構成によれば、着用者の掌がコート層と接することになり、両者の間に十分な摩擦力が働くため、被把持物を把持している際に当該滑止加工手袋が手からずれることを的確に防止することができ、このため被把持物を確実に把持することができる。
【0018】
また、当該滑止加工手袋にあっては、上記コート層を構成する材料が、上記凸状部に対して非浸透性を有する構成を採用することが好ましい。これにより、当該滑止加工手袋の製造にあたって、例えば、手袋本体に凸状部を固着した後に、手袋本体の掌領域において凸状部を含む範囲にコート層を構成する材料を塗布した際に、凸状部の外面にコート層が形成されにくい。つまり、例えば凸状部とコート層とを同一の材料、もしくは互いに付着しやすい材料を用いた場合(浸透性を有する材料で構成した場合)、上述した方法により製造すると、凸状部の外面にコート層が厚く形成されてしまうおそれがある。これに対して、上述のようにコート層を構成する材料が凸状部に対して非浸透性を有することにより、凸状部の外面には、コート層が形成されない、又は形成されたとしても比較的薄いコート層となり、複数の凸状部の部位によって被把持物を的確に把持することができる。
【0019】
なお、上記の「非浸透性」とは、上述のような製造に要する時間内において凸状部に浸透しない材料であれば足り、製造に要する時間よりも長時間経過すると凸状部に浸透してしまうような材料であっても「非浸透性」の技術的範囲内である。
【0020】
上記構成を採用する場合には、上記凸状部を構成する材料が主成分として塩化ビニル樹脂又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を含み、上記コート層を構成する材料が主成分としてポリウレタンを含む構成を採用することができる。これにより、コート層を構成する材料が凸状部に対して非浸透性を有することになる。なお、上記凸状部を構成する材料に可塑剤、安定剤等を配合することも可能であるが、この場合において上記した「主成分」とはこれらの配合物以外を除き樹脂成分のうち最も多い成分を意味する。また、コート層を構成する材料の「主成分」も同様に、ゴム成分のうち最も多い成分を意味する。
【0021】
また、当該滑止加工手袋にあっては、凸状部が中空に形成されている構成を採用することが好ましい。これにより、被把持物を把持した際に、凸状部が変形しやすく、この変形により凸状部の部位と被把持物との接触面積が広くなり、より十分な摩擦力が得られることになる。
【0022】
また、本発明は、
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に樹脂又はゴムを主成分とする凸状部形成材料を複数箇所に塗工する凸状部形成工程と、
上記手袋本体の外面のうち上記掌領域の少なくとも凸状部以外の領域に、上記凸状部よりも外面が低くなるようコート層を形成したコート層形成工程とを有し、
上記コート層形成工程が、
上記手袋本体に主成分の樹脂又はゴム並びに溶剤を含むコート層形成材料を浸漬により被着するコート層材料被着工程と、
上記手袋本体に被着したコート層形成材料の溶剤を抽出する多孔質化工程と
を有する滑止加工手袋の製造方法である。
【0023】
当該製造方法によって製造された滑止加工手袋にあっては、コート層が通気性を有するので、長時間着用していても手が蒸れることを防止できるとともに、上述のように凸状部及びコート層によって十分なグリップ力を発揮して被把持物を確実に把持することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、当該滑止加工手袋にあっては、長時間着用していても手が蒸れることを防止できるとともに、十分なグリップ力を発揮して被把持物を確実に把持することができ、しかも凸状部が手袋本体に固着されており、凸状部が離脱しにくいので、長期間にわたり使用してもグリップ力が低下しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0027】
図1の滑止加工手袋1は、着用者の手を覆う繊維製の手袋本体3と、この手袋本体3の外面のうち掌領域に散点状に固着された複数の凸状部5と、手袋本体3の外面のうち掌領域に積層されたコート層7とを備えている。
【0028】
手袋本体3は、ウーリーナイロン等からなる繊維によって手袋状に編製されて形成されており、通気性を有している。なお、手袋本体3の生地の厚みは、0.6mm程度とすることができ、掌中央部において0.2mm以上1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.4mm以上0.8mm以下である。上記下限値よりも薄いと手袋本体3の強度に欠け、また上記上限値よりも大きいと着用時における作業性が低下するためである。なお、この厚みは、例えば商品名「ダイヤルシクネスゲージDS−1211(新潟精機株式会社製)」を用い、5箇所において測定した結果の平均値とすることができる。
【0029】
なお、手袋本体3を構成する繊維は、ウーリーナイロンに限定されるものではなく、種々の繊維を採用することが可能であり、例えばポリエステル、綿、レーヨン、アクリル、アラミド、高強度ポリエチレン、ポリウレタン等の有機繊維のほか、ステンレスやグラスファイバーなどから構成することも可能である。この手袋本体3を構成する繊維は、発塵を嫌う用途向けには、ナイロンやポリエステルの長繊維を使用することが好ましい。この手袋本体3を構成する繊維は、耐切創性を必要とする用途向けには、パラ系のアラミド(パラフェニレンテレフタルアミド、例えば商品名「ケブラー(デュポン株式会社製)」、高強度ポリエチレン(例えば商品名「ダイニーマ(東洋紡株式会社製)」、金属の細線またはグラスファイバーを含む複合繊維などを使用することが好ましい。この手袋本体3を構成する繊維は、上述した各種繊維を単独でまたは組合せて使用できる。また、手袋状に形成する手段としては、例えば縫い目なく編み上げるシームレス編製を採用することが可能であるが、その他、例えば甲部を構成する生地と掌部を構成する生地とを縫い合わせて手袋状に設けることも可能である。
【0030】
また、手袋本体3の袖部3aは、周方向に伸縮性を有しており、これにより径方向に拡縮可能に設けられている。また、手袋本体3の袖部3aよりも指先側の部分も、周方向に伸縮性を有し、径方向に拡縮可能に設けられている。ここで、袖部3aは、他の部分(袖部3aから指先側の部分)よりも大きな伸縮性を有し、想定される着用者の手首よりも収縮状態が小さくなるよう設けられていることが好ましく、これにより着用した際により高いフィット感が得られることになる。
【0031】
複数の凸状部5は、手袋本体3の掌部領域の全面にわたって形成されている。なお、本発明において、凸状部5は、掌領域の一部のみに形成することも可能であり、例えば掌領域の指部分のみに形成することも可能であり、また掌領域の指以外の部分(掌領域の扁平部分)のみに形成することも可能である。また、散点状に設けられる複数の凸状部5は、凸状部5の形成領域(掌領域の全面)において、略均等に分散して配設されている。
【0032】
また、各凸状部5は、正面視(掌領域を垂直方向から見て)略円形の粒状に設けられている。本実施形態においては、凸状部5は、直径2mm程度に設けられているが、この略円形の凸状部5の直径は、1.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5mm以上5.0mm以下である。上記下限値よりも小さいと凸状部5において十分なグリップ力が得られにくく、上記上限値よりも大きいと凸状部5付近における通気性に欠け、着用者の手が蒸れやすいためである。また、凸状部5の形成領域(掌領域の全面)の面積に対して、複数の凸状部5全体で占める面積は、1%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは、5%以上50%以下である。上記下限値よりも小さいと凸状部5において十分なグリップ力が得られにくく、上記上限値よりも大きいと掌領域における通気性に欠け、着用者の手が蒸れやすいためである。
【0033】
また、凸状部5は、断面(掌領域を垂直方向に切断した面)形状が、根元部から先端(外面側)につれて細くなる略半楕円状に形成されている。そして、凸状部5の根元部は、手袋本体3の表層に含浸されている。これにより、凸状部5が手袋本体3に強固に固着され、使用時に凸状部5が手袋本体3から離脱することを的確に防止することができる。なお、
図3の凸状部5の根元部において、凸状部5のみを図示しており手袋本体3を図示していないが、この根元部においては凸状部5のみならず手袋本体3の繊維が存在しており、つまり手袋本体3の繊維の隙間に凸状部5の根元部が入り込んだ状態となっている。また、凸状部5の根元部は、手袋本体3の表層から50μm以上含浸していることが好ましく、より好ましくは100μm以上である。上記下限値より小さいと、手袋本体3との固着が強固なものとすることができないためである。なお、上限値は手袋本体3の厚みである。また、複数の凸状部5のうちの一部の凸状部5の根元部が上記のように手袋本体3の表層に含浸されていない場合であっても良い。但し、複数の凸状部5のうち、指骨に相当する部位(指及び扁平部分の指の付け根部分)に設けられた凸状部5の半数以上が上記のように手袋本体3の表層に含浸されていることが好ましい。
【0034】
また、上記凸状部5は、中空に形成されており、具体的には、凸状部5内部に空洞部5aが形成されていることが好ましい。なお、かかる空洞部5aは複数の凸状部5の全てに形成されていても良く、一部の凸状部5のみに形成されていても良い。但し、複数の凸状部5のうち、指骨に相当する部位に設けられた凸状部5の半数以上が中空に形成されていることが好ましい。
【0035】
凸状部5は、コート層7外面より突出して設けられている。なお、本発明において凸状部5がコート層7の外面を突き破って露出するよう設けることも可能であるが、本実施形態においては、
図3に示すように、凸状部5の外面にコート層7の薄膜が被覆しているものの、凸状部5がコート層7の外面の平均的界面より突出している状態となっている。ここで、コート層7の外面に比較した凸状部5の突出高さは、0.02mm以上0.50mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.04mm以上0.40mm以下である。上記下限値より小さいと、凸状部5において十分なグリップ力が得られず、また上記上限値よりも大きいと被把持物を把持した際に凸状部5が破壊されやすくなるためである。なお、複数の凸状部5のうち一部の凸状部5がコート層7外面より突出していない場合も本発明の意図する範囲内である。但し、複数の凸状部5のうち、指骨に相当する部位に設けられた凸状部5の半数以上が、コート層7から突出して設けられていることが好ましい。
【0036】
また、凸状部5は、樹脂又はゴムから構成され、弾性変形可能に形成されている。ここで、凸状部5は、液体状の凸状部形成材料が散点状に手袋本体3の外面に付着して、固化することによって形成される。
【0037】
上記凸状部5の材料としての樹脂又はゴムは、従来公知のものを採用可能であり、例えば天然ゴム、ニトリルブタジエンゴム、シリコーンエラストマー、アクリルゴム、アクリルエラストマー、ポリウレタンゴム、ポリウレタンエラストマー等から適宜採用可能であるが、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂を採用することが好ましい。このように塩化ビニル樹脂等の合成樹脂を採用することにより、ラテックス系のゴム等に比べて、形成工程における固化の前後の体積変化が少ないため、凸状部5の大きさ(例えば突出高さ)の調整が容易且つ確実に行うことができ、製造が容易且つ確実に行い得る。
【0038】
さらに、凸状部5を構成する樹脂として塩化ビニル樹脂を採用する場合には、軟質塩化ビニル樹脂を採用することができる他、塩化ビニル樹脂又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を採用することが可能である。この樹脂の具体例としては、例えば商品名PSM−30(株式会社カネカ製)や商品名PSH−31(株式会社カネカ製)や商品名PCH−843(株式会社カネカ製)等を用いることができる。
【0039】
また、凸状部5の材料に、従来公知の可塑剤、安定剤、増粘剤、顔料等を配合することも可能である。ここで、可塑剤としては、フタル酸エステルのほか、アジピン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、安息香酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル共重合体系可塑剤等が挙げられる。
【0040】
また、可塑剤の配合量は、樹脂100質量部に対して、90質量部以上180質量部以下であることが好ましく、より好ましくは120質量部以上160質量部以下である。上記下限値より少ないと、凸状部5が硬くなり、凸状部5による十分なグリップ力が得られず、また上記上限値よりも多いと、凸状部5が柔らかくなり過ぎ、把持している際に凸状部5が破壊され易くなるためである。
【0041】
また、増粘剤は粘度の調整のために添加され、凸状部5を構成するための材料の粘度が、BH型粘度計にてV2粘度で10万mPa・s以上150万mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは20万mPa・s以上100万mPa・s以下である。上記下限値より小さいと、材料の流動性が高くなりすぎ、凸状部5が平らになってしまいやすい。また、上記上限値より大きいと材料に泡が混入しやすく凸状部5の外面に不用意に凹み等が形成されてしまうおそれがある。しかも、上記上限値より大きいと、手袋本体3に散点状に凸状部5の材料を配設するために凸状部5に相当する部位に穿孔を設けたマスキング板を用いた場合に、このマスキング板の穿孔の中に凸状部5の材料が流れ込みにくく、所望の凸状部5の形成が困難となるおそれがある。
【0042】
上記コート層7は、手袋本体3の外面のうち掌領域の少なくとも凸状部5以外の領域に積層され、本実施形態においては、凸状部5を含む掌領域の全面にわたってコート層7を構成する液状のコート層形成材料が被着され、この材料が固化することによって形成されている。なお、図示例では、手袋本体3の掌領域のみならず掌領域の裏面側である甲領域(被把持物を握った際に外側の面であって手首よりも指先までの領域)の外周にも
図2に示すように形成されているが、甲領域の中央部には形成されない所謂背抜き状にコート層7は設けられている。なお、このコート層7は袖部3aに形成されないことが好ましいが、製造工程上、袖部3aにコート層7が形成されるものであっても、本願発明の意図する範囲内である。また、手を保護する目的から甲領域において指先から指の付け根の間接部位までコート層が設けられているものであっても良い。
【0043】
このコート層7は、多孔質状態に設けられ、通気性を有している。ここで、コート層7を構成する材料としては、機械発泡させたラテックスや塩化ビニルゾル、または化学発泡剤を含んだラテックスや塩化ビニルゾル等を用いることも可能である。しかし、機械発泡させた材料では粘度が高く、コート層7が厚くなり、凸状部5がコート層7に埋没するおそれがある。また、化学発泡剤を含んだ材料では発泡層の厚みのコントロールが困難であり、やはり凸状部5がコート層7に埋没してしまうおそれがある。このため、コート層形成材料としては湿式加工用のポリウレタン溶液を採用することが好ましい。これにより、ポリウレタン溶液をディッピング加工により容易且つ確実に所望のコート層7を形成することが可能となる。つまり、湿式加工用のポリウレタン溶液は粘度が低いので、コート層7を比較的薄い層に形成することができ、コート層7外面より凸状部5を突出して設けやすい。また、コート層形成材料としてポリウレタン溶液を採用した場合にあっては、例えば湿式加工用ポリウレタン樹脂をDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解したものを用いることができ、この湿式加工用ポリウレタン樹脂としては例えば商品名クリスボン8006HVLD(DIC株式会社製)を用いることができる。
【0044】
コート層7は、上記凸状部5が形成されていない領域(複数の凸状部5同士の間)において、その界面(外表面)が手袋本体3の外表面(表層の表面)よりも外面側に位置するよう設けられている。具体的には、手袋本体3の外面よりも外面側に位置するコート層7の表層は、例えば0.23mmの厚み(手袋本体3の外面からコート層7の外面までの距離)に設けられている。なお、このコート層7の表層の厚みは、0.05mm以上0.80mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.10mm以上0.40mm以下である。上記下限値よりも薄いとコート層7の表層の形成が困難であり、また上記上限値よりも厚いと着用者にゴワゴワ感を与えるおそれがあるためである。
【0045】
また、コート層形成材料が手袋本体3に含浸されて形成されることで、コート層7は、手袋本体3の内面に表出して設けられている。つまり、着用者との掌と接触する面に、コート層7が設けられている。また、このコート層7を構成する材料は、凸状部5の形成箇所の手袋本体3の内面側(凸状部5の根元部の直下)にも含浸されている。
【0046】
また、コート層7は、上記凸状部5の埋没部分の外周に密着して設けられる。ここで、凸状部5の埋没部分とは、上記コート層7の表層より内面側に位置する凸状部5の部分(凸状部5の突出していない部分)である。
【0047】
なお、上記凸状部5を構成する樹脂材料の主成分として塩化ビニル樹脂又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂を採用し、またコート層7を構成するゴム材料の主成分としてポリウレタンを採用することによって、コート層7を構成するゴム成分の主材料が凸状部5に対して非浸透性を有することになる。このため、凸状部5の外表面には、コート層7が形成されにくく、形成されたとしても比較的薄い膜(コート層7)とすることができる。
【0048】
また、当該滑止加工手袋1は、掌側における外面と内面との間の透湿度が、1000g/m
2・24h以上15000g/m
2・24h以下であることが好ましく、より好ましくは、4000g/m
2・24h以上12000g/m
2・24h以下である。上記下限値よりも小さいと着用者が長時間着用すると掌が蒸れてしまうという問題があり、上記上限値よりも大きいとコート層7が不十分となり十分なグリップ力が得られないためである。なお、上記透湿度は、JIS−L−1099A法(繊維製品の透湿度試験方法)にて測定される数値である。
【0049】
上記構成からなる本実施形態の滑止加工手袋1にあっては、凸状部5がコート層7外面より突出しているので、被把持物を把持した際に複数の凸状部5の部位により的確にグリップ力が作用する。特に、凸状部5は弾性変形可能に設けられているので、把持に際して凸状部5が的確に変形し、この変形により凸状部5の部位と被把持物との接触面積が広くなり、十分なグリップ力が得られることになる。しかも、凸状部5は中空に形成されているので、上記変形がより容易に起こりやすく、より十分なグリップ力を得ることができる。
【0050】
また、コート層7を構成する材料が、上記凸状部5に対して非浸透性を有するため、凸状部5の外面にコート層7が形成されにくい。このため、凸状部5の外面にコート層7が形成されない、又は形成されたとしても比較的薄いコート層7であるため、被把持物を把持した際に凸状部5が的確に変形しやすく、十分なグリップ力が発揮される。また、凸状部5の外面にコート層7が形成されていない場合には、被把持物と凸状部5とが直接接触して、この凸状部5を構成する材料(樹脂)と被把持物との間により摩擦力(グリップ力)が得られる。さらに、凸状部5の外面に薄いコート層7が形成される場合であっても、この部位のコート層7は薄いため、使用等に際して剥離して凸状部5が表出することも考えられ、これにより上記のように凸状部5を構成する材料と被把持物との間により摩擦力が得られる。このため、コート層7と異なる凸状部5の素材との接触による摩擦力が得られ、種々の被把持物に対して的確なグリップ力を発揮することができる。
【0051】
なお、コート層7として、凸状部5が離脱しないように、凸状部5と同一の材料又は凸状部5と固着しやすい材料を用いることが一般的に考えられる。しかし、コート層7と凸状部5とを同一の材料とした場合には、凸状部5の外面にコート層が厚く形成されてしまい、凸状部5がコート層7に埋没してしまいやすい。特に、コート層7を多孔質状態に設ける場合には、コート層形成材料が高粘度となるため、上記のように凸状部5がコート層7に埋没しやすい。このため、当該滑止加工手袋のように凸状部5がコート層7から突出した構成は画期的な構成であり、この構成によって的確なグリップ力が発揮できるという効果を奏する。
【0052】
さらに、凸状部5の根元部が手袋本体3の表層に含浸されているため、凸状部5が手袋本体3に強固に固着され、使用時に凸状部5が手袋本体3からの離脱を的確に防止できる。特に、コート層7が凸状部5の埋没部分の外周に密着して設けられているので、上記凸状部5の離脱をより的確に防止することができる。このように、凸状部が手袋本体に強固に固着されているので、当該滑止加工手袋から凸状部が離脱しにくく、このため長期間にわたり使用してもグリップ力が低下しにくい。
【0053】
また、このように凸状部5の埋設部分の外周をコート層7が囲むよう設けられているので、被把持物を把持した際に凸状部5が手袋本体3の生地の一端側を外面側に引き上げつつ、着用者の掌から根元部が逃げるような動作を規制することができる。つまり、コート層7を設けずに単に手袋本体3に凸状部5を設けた場合には、被把持物を把持した際に凸状部5に掌の平面方向(例えば指先方向)に力が作用すると、凸状部5は固着される手袋本体3の一端側(袖側)の部分を外面側に引っ張り、凸状部5の根元部が掌から離反するよう移動してしまい、的確なグリップ力が作用しないおそれがある。これに対して、当該滑止加工手袋1は、凸状部5の埋設部分の外周にコート層7が密着して設けられており、単なる手袋本体3の場合に比してコート層7が設けられた手袋本体3は剛性が高いため、手袋本体3及びコート層7の一端側の部分が外面側に引っ張り上げられにくく、このため的確なグリップ力を発揮することができる。特に、コート層7は、凸状部5の形成箇所の手袋本体3の内面(根元部の直下)にも形成されているので、コート層7が凸状部5を周囲のみならず内面(下面)からも支持しているので、凸状部5の上記のような掌からの離反をより的確に防止することができ、グリップ力を的確に発揮することができる。
【0054】
手袋本体3の外面には、凸状部5以外の領域にコート層7が設けられており、手袋本体3の繊維が露出していないため、コート層7が十分なグリップ力を発揮し、被把持物を確実に把持することができる。
【0055】
また、手袋本体3の内面にコート層7が表出しているので、当該滑止加工手袋1の内面と着用者の掌との間に十分な摩擦力が働き、被把持物を把持している際に当該滑止加工手袋1が手からずれることを的確に防止することができる。
【0056】
また、コート層7が通気性を有するため、着用者の掌が蒸れにくく、特にコート層7は背抜き状に形成されているため、着用者の手が蒸れにくい。
【0057】
次に、上記構成からなる本実施形態の滑止加工手袋1の製造方法について概説するが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。また、以下の製造方法の説明において、上記滑止手袋の説明と重複する場合には、その説明を省略することがある。
【0058】
本実施形態の製造方法は、着用者の手を覆う繊維製の手袋本体3を形成する手袋形成工程S1と、形成された手袋本体3の掌領域に樹脂を主成分とする凸状部形成材料を散点状に塗工する凸状部形成工程S2と、上記凸状部5が形成された手袋本体3の掌領域に凸状部5より外面(平均界面)が低くなるようコート層7を形成するコート層形成工程S3とを有している。
【0059】
上記手袋形成工程S1は、ウーリーナイロン等からなる繊維により手袋状に編製して、手袋本体3を形成する工程である。
【0060】
上記凸状部形成工程S2は、上記手袋形成工程S1により形成された手袋本体3の掌領域に、マスキング板を載せて、マスキング板に設けられた穿孔に凸状部5を構成する材料を充填して手袋本体3に付着して、その後マスキング板を手袋本体3の掌領域から離脱して、凸状部5の材料が付着した手袋本体3を加熱することにより凸状部5の固着した手袋本体3を得る工程である。上記のようにマスキング板を手袋本体3の掌領域から離脱すべく上方に持ち上げる際に、まずマスキング板の穿孔内部の凸状部5の材料のうち穿孔の内側面と接している凸状部5の外周部分がマスキング板とともに上方に持ち上がり、さらにマスキング板が上昇することにより上記凸状部5の外周部分がマスキング板から離脱し、この離脱により上記外周部分が中心側に傾きつつ自重により落下することで、この外周部分同士が合体して、凸状部5の内部に空洞部5aが形成されることになる。
【0061】
また、上記コート層形成工程S3は、上記手袋本体3に主成分の樹脂又はゴム並びに溶剤を含むコート層形成材料を被着するコート層材料被着工程S31と、上記手袋本体3に被着したコート層形成材料の溶剤を抽出する多孔質化工程S32とを有する。
【0062】
上記コート層材料被着工程S31は、手袋本体3を立体型に被せて、手袋本体3の掌領域をコート層形成材料に浸漬させる工程である。
【0063】
また、上記多孔質化工程S32は、上記手袋本体3に浸透したコート層形成材料のうち溶媒を水に置換すべく手袋本体3を一定時間以上湯浴し、その後乾燥してコート層7を多孔質化する工程である。
【0064】
上記方法によれば、上記利点を有する当該滑止加工手袋1を製造することができる。
【0065】
尚、本発明は上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0066】
つまり、上記実施形態においては、凸状部5として点状のものについて説明したが、凸状部5の形状は特に限定されるものではなく、種々の形状の凸状部5を採用することができ、例えば
図7に示すように長細い方形状の凸状部5を複数設けるものも本願発明の意図する範囲内である。
【0067】
また、凸状部を構成する材料とコート層を構成する材料とは、既述のように、コート層を形成する材料が凸状部に対して非浸透性を有するよう選定されることが好ましい。具体的には、凸状部を構成する材料として塩化ビニル樹脂を採用した場合には、コート層を構成する材料としてポリウレタンゴム又はポリウレタンエラストマーを採用することが好ましい。また、凸状部を構成する材料としてシリコーンエラストマーを採用した場合には、コート層を構成する材料としてポリウレタンゴム、ポリウレタンエラストマー、天然ゴム又はニトリルブタジエンゴムを採用することが好ましい。さらに、凸状部を構成する材料として天然ゴムを採用した場合には、コート層を構成する材料としてポリウレタンゴム、ポリウレタンエラストマー又はニトリルブタジエンゴムを採用することが好ましい。
【実施例1】
【0068】
以下、実施例によって当該発明をさらに具体的に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
塩ビ−酢ビ樹脂(商品名PCH−843(株式会社カネカ製))100質量部、可塑剤(商品名メザモールアゼップ(ランクセス株式会社製))150質量部、安定剤(商品名SC−72(旭電化工業株式会社製))3質量部、及び、増粘剤(商品名レオロシールQS−102(徳山ソーダ株式会社製))7.5質量部の割合からなる凸状部形成材料を用意した。BH型粘度計(TOKIMEC INC.製(現東機産業株式会社))にて測定したところ、70万mPa・sであった。
【0070】
湿式加工用ポリウレタン樹脂(商品名クリスボン8006HVLD(DIC株式会社製))をDMFに溶解して、コート層形成材料を用意した。コート層形成材料は、固形分成分の濃度が10質量%となるよう調整した。
【0071】
13ゲージの手袋編機(商品名N−SFG(株式会社島精機製))によって、280デニールのウーリーナイロンを編製し、手袋本体を作製した。
【0072】
この手袋本体を平型に載置して、この手袋本体の上面にマスキング板を載置した。このマスキング板としては、厚みが0.50mmであり、複数の穿孔が配設され、各穿孔の内径が2mmのものを使用した。そして、マスキング板の上面から上記凸状部形成材料を供給し、マスキング板の穿孔に凸状部形成材料を充填させた。具体的には、マスキング板の上面に凸状部形成材料を載置して、ヘラによって凸状部形成材料を穿孔に流し込んだ。その後、マスキング板を上方に持ち上げて、手袋本体の上面から離脱させた。そして、平型を180℃で10分間加熱することにより、手袋本体に散点状に付着した凸状部形成材料を固化させて凸状部を形成した。
【0073】
そして、凸状部を形成した手袋本体を平型から取り外して、この手袋本体を立体型に装着してコート層形成材料に浸漬した。この浸漬作業は、手袋本体の掌領域がコート層形成材料に浸漬され、掌領域の裏面の甲領域はできるだけ浸漬されないよう行った。このように掌領域にコート層形成材料が浸透した手袋本体を50℃の水槽中に40分間浸漬した。そして、この手袋本体を120℃で30分間乾燥させた後に、手型から手袋を抜くことで実施例1の滑止加工手袋を作製した。なお、
図4の顕微鏡写真は、実施例1の滑止加工手袋のものである。
【0074】
(比較例1)
比較例1は、凸状部が形成されず、コート層のみが形成されたものであり、比較例1として商品名「パームフィットB0500(ショーワグローブ株式会社製)」を用いた。
【0075】
(比較例2)
比較例2は、手袋本体に先にコート層を形成し、このコート層に凸状部を形成した。なお、手袋本体、コート層形成材料及び凸状部形成材料は実施例1と同様のものを用いた。
【0076】
(比較例3〜5)
比較例3〜5は、手袋本体にコート層が形成されず単に凸状部が形成されたものである。比較例3としては、商品名「厚手作業用すべり止め手袋 品番W301(勝星産業株式会社製)」を、比較例4としては、商品名「シリコンフィットU3 品番SY−356(鈴与興業株式会社製)」、比較例5としては、商品名「DOT LINER 品番290(勝星産業株式会社製)」を用いた。
【0077】
(比較例6及び7)
比較例6及び7は、凸状部が形成されずに、単に天然ゴムからなるコート層が形成されたものであり、比較例6としては、商品名「340フィットグリップ(ショーワグローブ株式会社製)」を、比較例7としては、商品名「310グリップ(ショーワグローブ株式会社製)」を用いた。
【0078】
(透湿試験)
実施例1及び比較例1〜7について、手袋の掌領域側の透湿度を測定した。測定方法は、JIS−L−1099A−1法に基づいて温度40℃湿度90%中に置いたときの透湿度を測定した。
【0079】
この透湿試験の結果、
図8に示すように、比較例6及び7以外は透湿度が高く、長時間着用していても、手が蒸れにくい。
【0080】
(摩耗試験)
実施例1及び比較例1〜7について、摩耗試験を行った。摩耗試験は、学振型摩耗試験機(染色物摩擦堅牢度試験機RT−200(株式会社大栄科学精器製作所製))を用いて、摩擦子荷重500gとし摩擦子に試験片20×40mm(摩擦面20×20mm)を貼り付け、研磨用ペーパー(WATER PROOF ABRASIVE PAPER #1500 DCC CC‐Cw(三共理化学株式会社製))上で150回往復で研磨させたときにおける摩耗量を測定した。
【0081】
この摩耗試験の結果、
図8に示すように、比較例2、3及び6以外は、摩耗量が少なく、このため長期間の使用に際して摩耗による劣化が少なく、長期間にわたって的確なグリップ力を発揮することできる。
【0082】
(動摩擦係数の測定)
実施例1及び比較例1〜7について、ASTM D1894−01法に基づいて、摩擦面63.5×63.5mm、重さ200gの摩擦子に摩擦面が隠れるように試験片を貼り、水平な試験板上における引張速度150mm/minでの動摩擦係数を測定した。滑止加工手袋の外面(凸状部の突出側の面)とステンレスとの動摩擦係数、滑止加工手袋の外面と紙製の段ボールとの動摩擦係数、及び滑止加工手袋の内面(着用者の掌と接する面)とステンレスとの動摩擦係数をそれぞれ測定した。
【0083】
この測定の結果、
図8に示すように、滑止加工手袋の外面の動摩擦係数は、対象物がステンレスであっても段ボールであっても、実施例1及び比較例2が高い数値を示し、被把持物の種類を問わずに高いグリップ力が発揮される。
【0084】
また、滑止加工手袋の内面の動摩擦係数は、実施例1並びに比較例1及び2が極めて高い数値を示し、手に着用した際に滑止加工手袋の内面と掌との間に十分な摩擦力が働くため、被把持物を把持している際に滑止加工手袋が手からずれることを的確に防止することができる。
【0085】
(官能試験)
実施例1及び比較例1〜7について、滑止加工手袋を実際に着用し、10kgの箱(ステンレス製箱と段ボール箱とそれぞれ)の対向する側面を両手で挟んで持ち上げて評価した。滑止加工手袋の外面及び内面並びに総合評価として、A=非常に良い、B=良い、C=普通、D=悪い、とのランクで評価した。なお
図8には5人のパネラーによる評価の平均を記載した。
【0086】
この試験の結果、
図8の官能試験1の欄に示すように、滑止加工手袋の外面の評価としては、実施例1並びに比較例2、6及び7について、ステンレス及び段ボールの何れにも高い評価が得られた。また、
図8の官能試験2の欄に示すように、滑止加工手袋の内面の評価としては、実施例1及び比較例2が極めて高い評価が得られた。さらに、
図8の官能試験3の欄に示すように、総合的な持ちやすさとしては、実施例1及び比較例2が極めて高い評価が得られた。
【0087】
(純曲げ試験)
実施例1及び比較例1〜7について、純曲げ試験を行った。純曲げ試験は、純曲げ試験機KES−FB2(カトーテック株式会社製)を用いて、滑止加工手袋の掌領域から採取幅6cmの試験片を採取し、試験条件をSENS50及び曲げ2cm
−1として手を握る際に曲がる方向と同方向に曲げて5回測定し、その平均値をとった。B値(柔らかさ)、2H
B値(戻ろうとする力)は、ともに低いほうが柔らかく感じることを示す。
【0088】
この純曲げ試験の結果、
図8に示すように、実施例1並びに比較例1、4及び5のものが柔らかく、手に着用した際にゴワゴワ感を着用者に与えにくい。
【0089】
(固着強度試験)
実施例1及び比較例2について、凸状部の固着強度試験を行った。固着強度試験は、EN ISO12947−1法に基づいて、試験機器「Nu−Martindale AA−K01」(James H.Heal&co.Ltd.製)を使用し、50回及び100回擦った時の凸状部の離脱個数を測定した(試験前の実施例1の試験片には44個、比較例2の試験片には50個の凸状部が固着していた)。なお、研磨用ペーパーは、Saint−Gobain Abrasives,Inc.製NORTON Oakey 117 Cabinet Quality Glasspaper grit 100 GRADE F2を用いて行った。
【0090】
この試験の結果、
図8に示すように、比較例2に比して実施例1は凸状部の固着強度が強く、長期間使用しても凸状部が離脱しにくく、長期間にわたり的確なグリップ力を発揮することできる。
【0091】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と略同様の構成からなるが、凸状部の突出高さを変化させた。具体的には、板厚0.30のマスキング板を使用して、凸状部の突出高さを、0.05mmとした。なお、実施例1では、凸状部の突出高さは0.20mmであった。なお、
図9に示す実施例1及び2の厚み等の数値(動摩擦係数を除く)については、単位はmmであり、商品名「ダイヤルシクネスゲージDS−1211(新潟精機株式会社製)」を用いて、5箇所において測定した結果の平均値を示している。なお、後述の比較例8及び9についても同様である。
【0092】
(比較例8)
比較例8は、上記実施例1及び2と同様の手法によりコート層を形成しているものであるが、凸状部を形成していない。
【0093】
比較例9は、上記実施例1及び2と同様の手法により凸状部及びコート層を形成しているものであるが、マスキング板として板厚0.18mmのものを用いたため、凸状部がコート層に埋没している。
【0094】
(動摩擦係数の測定)
実施例1及び2並びに比較例8及び9について、ASTM D1894−01法に基づいて、滑止加工手袋の外面とステンレスとの動摩擦係数、及び滑止加工手袋の外面と紙製の段ボールとの動摩擦係数をそれぞれ測定した。
【0095】
(官能試験)
実施例1及び2並びに比較例8及び9について、滑止加工手袋を実際に着用し、10kgの箱(ステンレス製箱と段ボール箱とそれぞれ)の対向する側面を両手で挟んで持ち上げて評価した。滑止加工手袋の外面の評価として、A=非常に良い、B=良い、C=普通、D=悪い、とのランクで評価した。
【0096】
(動摩擦係数及び官能試験の評価)
この試験の結果、
図9に示すように、比較例8及び9に比して、実施例1及び2は、ステンレス及び段ボールの何れ対しても動摩擦力が高く、高いグリップ力が発揮でき、高い評価が得られた。
【0097】
(実施例3)
実施例3は、実施例1と略同様の構成からなるが、手袋本体を10ゲージの手袋編機(商品名N−SFG(株式会社島精機製))によって、4番手相等のアラミド紡績糸(パラフェニレンテレフタルアミド)を使用して作成した。
【0098】
実施例3の手袋は手袋内面と外面の滑止めが効き、柔軟で、また耐切創性はEN388:2003 Protective gloves against mechanical risks、6.1Abrasion resistanceの試験方法でレベル3であり高い耐切創性を示した。