【文献】
FEBS Journal,2009年,Vol. 276,pp.1383-1397
【文献】
J. Biol. Chem.,2003年,Vol. 278, No. 4,pp.2479-2483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
60%の非プロトン性極性有機溶媒中で30分間処理した後も、該処理前と比較して50%以上のビオチン結合活性を維持する、請求項1に記載の改変型ビオチン結合タンパク質。
【背景技術】
【0003】
アビジンは卵白由来の塩基性糖タンパク質で、ビオチン(ビタミンH)と強く結合する。ストレプトアビジンは放線菌(Streptomyces avidinii)由来のアビジン様タンパク質で、等電点は中性付近で糖鎖を含まない。両タンパク質とも、四量体を形成し、その分子量は60kDa程度である。この四量体は、二量体同士の弱い結合で形成されているが、この二量体は単量体が強く結合したものである。アビジンおよびストレプトアビジンは、単量体当たり1分子のビオチンと結合する性質をもつ。アビジンとビオチン、あるいはストレプトアビジンとビオチンの親和性は非常に高く(Kd=10
−15〜
−14 M)、生体二分子間の相互作用としては最も強い。そのため、アビジン/ストレプトアビジン−ビオチン相互作用は、生化学、分子生物学、あるいは医学の分野で広く応用されている。
【0004】
ビオチンの分子量は244と小さく、pH変化や熱にも安定であるため、物質の標識によく用いられている。ビオチン化の方法としては、化学修飾を施したビオチンを、所望の物質の官能基に結合させる方法がある。このようなビオチン化試薬は市販されており、これらを利用してタンパク質や核酸等をビオチン化することができる。またタンパク質のビオチン化の方法の一つとして、生体内のビオチンリガーゼによってビオチン化される配列と、目的のタンパク質との融合タンパク質を、組換えタンパク質として発現させ、宿主細胞内の同酵素によって、融合タンパク質をビオチン化させる方法がある。
【0005】
本発明者らは、食用キノコタモギタケ(Pueurotus conucopiae)から、新規なアビジン様ビオチン結合タンパク質である、タマビジン1とタマビジン2を発見した(WO02/072817)。タマビジン1及びタマビジン2は、大腸菌で大量に発現させることができ、特にタマビジン2はイミノビオチンカラムを用いた精製により容易に調製できた(WO02/072817)。タマビジン1及びタマビジン2は四量体を形成し、ビオチンと極めて強く結合した。またタマビジン2はアビジンやストレプトアビジンと比べて高い耐熱性を有し、さらにアビジンよりも非特異的な結合が少ないといった点で優れたビオチン結合タンパク質であった。
【0006】
アビジン、ストレプトアビジン、タマビジンの耐熱性は、通常のタンパク質に比べて高く、蛍光ビオチンを用いた測定法によるアビジン、ストレプトアビジン、タマビジンの耐熱性(活性が半分になる温度)はそれぞれ79℃、74℃、85℃である(Takakura et al. 2009 FEBS J 276: 1383−1397)。
【0007】
しかし、産業応用の幅を広げるため、アビジンやストレプトアビジンの耐熱性をさらに高めようとする試みがなされている。ストレプトアビジンでは、Reznik et al. 1996 (Nat. Biotechnol. 14: 1007−1011)による報告がある。彼らはストレプトアビジンの二量体同士の弱い結合を強めるために、遺伝子工学的に127番目のヒスチジン(His)をシステイン(Cys)に変異させ、二量体間にジスルフィド結合を形成させた変異型ストレプトアビジンを構築し、耐熱性を向上させた。野生型のストレプトアビジンでは70℃10分の熱処理後に約55%のビオチン結合活性が残存していたが、この変異体では90℃10分処理後に、約70%のビオチン結合活性が保持されていた。
【0008】
一方、アビジンの耐熱化は、Nordlund et al. 2003(J. Biol. Chem. 278: 2479−2483.)による報告があり、遺伝子工学的にアビジンサブユニット間に様々なジスルフィド結合を形成させ、耐熱性を向上させている。99.9℃2分処理後のビオチン結合の残存活性は、アビジンではほぼゼロであったのに対し、I117C(アビジンの117番目のイソロイシンをシステインに変えたもの)で30%強であり、D86CI106CI117C(アビジンの86番目のアスパラギン酸、106番目と117番目のイソロイシンをそれぞれシステインに変えたもの)で50%弱であった。
【0009】
また、ジスルフィド結合の形成によらないアビジン耐熱化の報告もある(Hytonen et al. (2005) J. Biol. Chem. 280: 10228−10233)。アビジンよりも耐熱性の高いAVR4(Avidin−related gene 4にコードされたタンパク質)とアビジンのキメラを作成し、99.9℃32分処理後のビオチン結合の残存活性を98%にまで高めたアビジン変異体ChiAVD(I117Y)が作成された(アビジンの残存活性は4%、AVR4では72%)。
【0010】
上記の耐熱性の変異型アビジンは、殆んどすべてバキュロウイルスを用いた昆虫細胞における発現系を用いて製造される。一方、変異型ストレプトアビジンは、大腸菌発現系を用いて製造されるが、工程中に不溶性の封入体からの可溶化過程が必要となる。このようにいずれのタンパク質も、その製造にかなりのコストと労力を必要とし、いまだ実用化には至っていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好ましい形態について説明する。
【0020】
タマビジン
タマビジンは、食用キノコである担子菌タモギタケ(Pleurotus conucopiae)から発見された新規ビオチン結合タンパク質である(WO02/072817)。当該文献には、
−タマビジン1とタマビジン2の相互のアミノ酸相同性は65.5%で、ビオチンと強く結合する;
−タマビジン2は、大腸菌で可溶性画分に高発現する;そして
−タマビジン2を大腸菌で発現させた場合、4.5時間の培養で、50mlの培養当たり約1mgの純度の高い精製組換えタンパク質が得られた。これはビオチン結合タンパク質として知られているアビジンやストレプトアビジンと比較しても、非常に高い値である;
ことが記載されている。
【0021】
本明細書における「タマビジン2」は、タマビジン2(TM2)又はそれらの変異体を意味する。本発明は、TM2又はその変異体の特定のアミノ酸残基を改変させることにより、耐熱性を有する改変型TM2を提供するものである。本明細書において「タマビジン2」、「TM2」と記載した場合には、特に言及しない限り野生型のTM2及びその変異体を意味する。ただし、文意により、本発明の改変型TM2も含めてTM2の野生型、変異型、本発明の改変型の総称として使用する場合もある。また、TM2はビオチン結合性を示すことから、本明細書においてTM2を「ビオチン結合タンパク質」と呼称することがある。
【0022】
具体的には、TM2(野生型)は典型的には、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、又は、配列番号1の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、であってよい。あるいは、TM2は、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、又は、配列番号1の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、の変異体であって、タマビジン2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってよい。TM2の変異体は、配列番号2のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を含むアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であってもよい。置換は、保存的置換であってもよく、これは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることである。保存的置換の非限定的な例には、Ile、Val、LeuまたはAla相互の置換のような脂肪族基含有アミノ酸残基の間の置換、Lys及びArg、Glu及びAsp、Gln及びAsn相互の置換のような極性残基の間での置換などが含まれる。
【0023】
アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加による変異体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、例えば周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, p.6487−6500, 1982参照、引用によりその全体を本明細書に援用する)を施すことにより作成することができる。本明細書において、「1又は複数のアミノ酸」とは、部位特異的変異誘発法により欠失、置換、挿入及び/又は付加できる程度のアミノ酸を意味する。また、本明細書において「1又は複数のアミノ酸」とは、場合により、1又は数個のアミノ酸を意味してもよい。
【0024】
限定されるものではないが、本発明におけるTM2は、配列番号2において1ないしは10個、好ましくは9個以下、7個以下、5個以下、3個以下、2個以下、より好ましくは1個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ビオチン結合活性を有するタンパク質である。
【0025】
また本発明において、限定されるものではないが、TM2の変異体として、例えば、高結合能・低非特異結合性タマビジン(WO2010/018859)等を用いることもできる。このようなタマビジン2変異体は、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中に1から数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、以下のグループ
1)配列番号2の104番目のアルギニン残基;
2)配列番号2の141番目のリジン残基;
3)配列番号2の26番目のリジン残基;及び
4)配列番号2の73番目のリジン残基
から選択される1又は複数の残基が、酸性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基に置換されていることを特徴とする、ビオチン結合タンパク質であってよい。
【0026】
より好ましくは、配列番号2において、104番目のアルギニン残基がグルタミン酸残基に置換されており、そして、141番目のリジン残基がグルタミン酸残基に置換されている、ビオチン結合タンパク質(R104E−K141E);
配列番号2において、40番目のアスパラギン酸残基がアスパラギン残基に置換されており、そして、104番目のアルギニン残基がグルタミン酸残基に置換されている、ビオチン結合タンパク質(D40N−R104E);
配列番号2において、40番目のアスパラギン酸残基がアスパラギン残基に置換されており、そして、141番目のリジン残基がグルタミン酸残基に置換されている、ビオチン結合タンパク質(D40N−K141E);並びに、
配列番号2において、40番目のアスパラギン酸残基がアスパラギン残基に置換されており、104番目のアルギニン残基がグルタミン酸残基に置換されており、そして、141番目のリジン残基がグルタミン酸残基に置換されている、ビオチン結合タンパク質(D40N−R104E−K141E)、
からなるグループから選択される、ビオチン結合タンパク質であってよい。
【0027】
部位特異的変異誘発法は、例えば、所望の変異である特定の不一致の他は、変異を受けるべき一本鎖ファージDNAに相補的な合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて次のように行うことができる。即ち、プライマーとして上記合成オリゴヌクレオチドを用いてファージに相補的な鎖を合成させ、得られた二重鎖DNAで宿主細胞を形質転換する。形質転換された細菌の培養物を寒天にプレーティングし、ファージを含有する単一細胞からプラークを形成させる。そうすると、理論的には50%の新コロニーが一本鎖として変異を有するファージを含有し、残りの50%が元の配列を有する。上記所望の変異を有するDNAと完全に一致するものとはハイブリダイズするが、元の鎖を有するものとはハイブリダイズしない温度において、得られたプラークをキナーゼ処理により標識した合成プローブとハイブリダイズさせる。次に該プローブとハイブリダイズするプラークを拾い、培養してDNAを回収する。
【0028】
なお、生物活性ペプチドのアミノ酸配列にその活性を保持しつつ1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加を施す方法としては、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法、及び遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、置換、挿入又は付加し、次いで連結する方法もある。
【0029】
TM2の変異体はさらに、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上、より好ましくは99.2%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、TM2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってもよい。
【0030】
2つのアミノ酸配列の同一性%は、視覚的検査および数学的計算によって決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の同一性パーセントは、Needleman, S. B. 及びWunsch, C. D. (J. Mol. Biol., 48: 443−453, 1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータ・プログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)Henikoff, S. 及びHenikoff, J. G. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 10915−10919, 1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;及び(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。
【0031】
当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、用いてもよい。同一性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl. Acids. Res., 25, p.3389−3402, 1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。又は、2つのアミノ酸配列の同一性%は、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス製)などのプログラム、又は、FASTAアルゴリズムなどを用いて決定してもよい。その際、検索はデフォルト値を用いてよい。
【0032】
2つの核酸配列の同一性%は、視覚的検査と数学的計算により決定可能であるか、またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マディソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereux, et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12: 387)。この「GAP」プログラムの使用により、2つの核酸配列の比較の他に、2つのアミノ酸配列の比較、核酸配列とアミノ酸配列との比較を行うことができる。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、及び非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、Schwartz及びDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide Sequence and Structure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、GribskovおよびBurgess, Nucl. Acids Res., 14: 6745, 1986の加重アミノ酸比較マトリックス;又は他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;又はヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:及び(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry, 1993)により決定される;WoottonおよびFederhen, 1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol., 266: 544−71も参照されたい)、又は、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry, 1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、及び(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul, 1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
【0033】
TM2の変異体はまた、配列番号1の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であって、TM2と同様の結合活性を有するタンパク質であってもよい。
【0034】
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第3版,第6章,Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示され、例えば5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約42℃での、約50%ホルムアミド、2×ないし6×SSC、好ましくは5×ないし6×SSC、0.5% SDS(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、及び例えば、約50℃ないし68℃、0.1×、ないし、6×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSC、0.5% SDSのハイブリダイゼーション条件(及び洗浄条件)を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。
【0035】
一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、0.5%程度のSDSを含み、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、より好ましくは0.2×SSC、あるいは0.1×SSCのハイブリダイゼーション)及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ65℃、ないし68℃、0.2×ないし0.1×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaH
2PO
4、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間ないし1時間程度行う。
【0036】
また、プローブに放射性物質を使用しない市販のハイブリダイゼーションキットを使用することもできる。具体的には、ECL direct labeling & detection system(Amersham社製)を使用したハイブリダイゼーション等が挙げられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションとしては、例えば、キット中のhybridization bufferにBlocking試薬を5%(w/v)、NaClを0.5Mになるように加え、42℃で4時間行い、洗浄は、0.4% SDS、0.5xSSC中で、55℃で20分を2回、2xSSC中で室温、5分を一回行う、という条件が挙げられる。
【0037】
TM2の変異体のビオチン結合活性は、公知の手法のいずれかにより測定することが可能である。例えば、Kadaら(Biochim. Biophys. Acta., 1427: 33−43 (1999))に記載されるように蛍光ビオチンを用いる方法により測定してもよい。この方法は、ビオチン結合タンパク質のビオチン結合サイトに蛍光ビオチンが結合すると、蛍光ビオチンの蛍光強度が消失する性質を利用したアッセイ系である。あるいは、表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサー(例えばビアコアなど)、タンパク質とビオチンの結合を測定することが可能なセンサーを用いて、変異体タンパク質のビオチン結合活性を評価することもできる。あるいはまた、HABA(2-(4'-Hydroxyazobenzene)Benzoic Acid)を用いた方法やビオチン化HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)を用いた方法によっても評価することが出来る。
【0038】
本発明の耐熱性を向上させた改変タマビジン
本発明の改変型TM2は、配列番号2に記載のアミノ酸配列、あるいはこの配列中において1から複数個のアミノ酸変異を有するアミノ酸配列、又はこの配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、タンパク質としての構造を維持する、好ましくはビオチン結合活性を示すタンパク質において、配列番号2の115番目のアスパラギン残基がシステインに置換されていることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の改変型TM2は、野生型TM2または変異体TM2において、配列番号2の115番目のアスパラギン残基に相当するアミノ酸残基が、システインに置換されていることを特徴とする。
【0040】
本発明の耐熱性の改変型タマビジン2は以下のように作製された。
【0041】
タマビジン2のN115をシステイン(Cys)に変えた変異体を設計し、遺伝子を作成した。この遺伝子を発現ベクターに組み込み、大腸菌で発現させた。発現した変異体(TM2−N115C)は可溶性タンパク質としてタマビジン2(TM2)と同様、高レベルに発現した。イミノビオチンアガロースによるアフィニティクロマトグラフィーを用いて精製したところ、300mLの培養液からおよそ14mgのTM2−N115Cが得られた。
【0042】
そして作製した改変型タマビジン2を以下のように解析した。
【0043】
精製したTM2−N115Cのビオチン結合活性を、生体試料相互作用測定装置ビアコアを用いて測定した。その結果、TM2−N115CはTM2と同じレベルの極めて強いビオチン結合活性を有していた。また、TM2−N115C、TM2、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジンを、99.9℃で30−32分処理した後、マイクロプレートに固定化し、さらにビオチン化Horse Radish Peroxidase(HRP)を反応させて、HRP活性を測定した。その結果、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジンはほとんど活性が検出されなかったのに対し、TM2は12%の活性を、さらにTM2−N115Cはほぼ完全な(92%−100%)ビオチン結合活性を有していた。アビジンのI117C変異は、99.9℃で5分処理すると活性はほぼゼロになること(Nordlund et al. 2003 J. Biol. Chem. 278: 2479−2483.)、またストレプトアビジンのH127C変異は95℃10分で活性が20%にまで減少すること(Reznik et al. 1996 Nat. Biotechnol. 14: 1007−1011.)が報告されているので、TM2−N115Cが99.9℃で約30分処理してもほぼ完全に活性を保持できたことは驚くべきことである。この耐熱性は、アビジンのキメラ化により構築された、先述のアビジン変異体ChiAVD(I117Y)(Hytonen et al. (2005) J. Biol. Chem. 280: 10228−10233)に匹敵する。
【0044】
本明細書において「タマビジン2(TM2)」とは、上記で既に定義した通りである。
【0045】
このような改変型TM2は加熱処理した後もタンパク質としての構造を維持する。好ましくは本発明の改変型TM2は、該処理前と比較して75%以上、80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、92%以上、最も好ましくは95%以上のビオチン結合活性を維持する。加熱処理の温度は、少なくとも90℃、好ましくは93℃以上、95℃以上、97℃以上、98℃以上、99℃以上、最も好ましくは99.9℃である。加熱処理の温度の上限は100℃以下である。加熱処理の時間は、少なくとも10分間以上、好ましくは20分間以上、30分間以上、最も好ましくは32分間である。
【0046】
またこのような改変型TM2は非プロトン性極性有機溶媒中で処理した後も、該処理前と比較して50%以上のビオチン結合活性を維持する。非プロトン性極性有機溶媒中で処理する際の有機溶媒の濃度は、少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、最も好ましくは80%である。有機溶媒の濃度の上限は90%未満である。非プロトン性極性有機溶媒中で処理する時間は、少なくとも10分間、好ましくは20分間以上、最も好ましくは30分間以上である。なお、限定するものではないが、これらの処理は室温(25℃)で行うことができる。
【0047】
ここで用いられる非プロトン性極性有機溶媒には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、アセトニトリル、およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。特に好ましい非プロトン性極性溶媒はDMSOである。
【0048】
本明細書において加熱した後も「タンパク質としての構造を維持する」とは、本発明の改変型TM2が、加熱した後も元のTM2が有しているタンパク質と同じ高次構造を維持することを意味する。タンパク質の高次構造とはタンパク質の二次構造以上を示し、好ましくは三次構造あるいは四次構造を意味する。
【0049】
本明細書において「50%以上のビオチン結合活性を維持する」とは、本発明の改変型TM2タンパク質の熱処理および/または有機溶媒処理を行った後にビオチン結合活性を測定した場合に、そのような処理を行う前と比較して50%以上の結合活性を維持することを意味する。ここで、加熱処理の温度の上限は100℃以下である。
【0050】
また本発明の改変型TM2は、好ましくは配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ビオチン結合活性を示すタンパク質において、配列番号2の115番目のアスパラギン残基をシステインに置換されていることを特徴とする。更に好ましくは本発明の改変型TM2は、配列番号2の115番目のアスパラギン残基がシステインに置換されている(TM2 N115C)ことを特徴とする(配列番号4)。
【0051】
本発明の改変型TM2において改変されないことが望ましいアミノ酸残基
本発明の改変型TM2におけるアミノ酸残基の改変については、ビオチン結合能に影響を及ぼさないことが求められる。このことを考慮すると、非限定的に、タマビジン2の変異体は、配列番号2のアミノ酸配列において、4つのトリプトファン残基(W69、W80、W96、W108)が改変されないことが好ましい。あるいは、これらを改変する場合には、性質あるいは構造が類似したアミノ酸、例えばフェニルアラニン(F)への改変が好ましい。また、ビオチンと直接相互作用すると考えられるアミノ酸残基(N14、S18、Y34、S36、S76、T78、D116)についても改変されないことが望ましい。あるいは、これらを改変する場合にはビオチンとの結合を維持できるよう、性質あるいは構造が類似したアミノ酸に改変することが好ましく、例えばアスパラギン(N14)の場合は、グルタミン(Q)やアスパラギン酸(D)へ、好ましくはアスパラギン酸へ、アスパラギン酸(D40)の場合は、アスパラギン(N)へ、セリン(S18、S36、S76)の場合は、スレオニン(T)あるいはチロシン(Y)へ、好ましくはスレオニンへ、チロシン(Y34)の場合は、セリン(S)やスレオニン(T)あるいはフェニルアラニン(F)へ、好ましくはフェニルアラニンへ、スレオニン(T78)の場合は、セリン(S)やチロシン(Y)へ、好ましくはセリンへ、アスパラギン酸(D116)の場合は、グルタミン酸(E)やアスパラギン(N)へ、好ましくはアスパラギンへ、それぞれ改変することが好ましい。
【0052】
アミノ酸の改変方法
TM2のアミノ酸を改変して、本発明の改変型TM2を得るための方法は、公知のアミノ酸配列に変異を施す方法を使用でき、特に限定されない。好ましくは本発明の改変タンパク質をコードする核酸の塩基配列に修飾を施し改変する。
【0053】
例えば、アミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸を改変するには、例えばPCRを利用した方法が挙げられる(Higuchi et al (1988) Nucleic Acid Res 16:7351−7367, Ho et al.(1989) Gene 77:51−59)。すなわち、標的変異のミスマッチコドンを含むプライマーを利用してPCRを行い、目的の改変体をコードするDNAを作成しこれを発現させることにより、目的の改変体を得ることができる。
【0054】
また、アミノ酸の欠失、置換、挿入及び/又は付加による改変体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、前述の周知技術である部位特異的変異誘発を施すなどの方法により作成することができる。
【0055】
改変型TM2タンパク質をコードする核酸
本発明は、本発明の改変型TM2タンパク質をコードする核酸を提供する。このような核酸の塩基配列は、野生型TM2タンパク質をコードする塩基配列(配列番号1)を、改変型TM2タンパク質の改変アミノ酸をコードする塩基配列に改変したものである。改変される塩基配列は、改変後のアミノ酸をコードする塩基配列であれば限定されない。例えば、配列番号1の塩基配列からなる核酸(以下、「TM2遺伝子」)、またはそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ビオチンとの結合を可能とする、適切なビオチン結合活性を有するタンパク質をコードする核酸であって、本発明の改変を施すために塩基配列を改変させたものを含む。
【0056】
本発明の核酸は、好ましくは、配列番号4のアミノ酸配列をコードする。本発明の核酸は、より好ましくは配列番号3の核酸配列からなる。
【0057】
本発明の核酸を含むベクター
また、本発明は、改変型TM2タンパク質をコードする核酸を含むベクターを提供する。好ましくは、改変型TM2タンパク質を発現するための発現ベクターである。
【0058】
本発明の改変型TM2のタンパク質をコードする核酸は、上記「改変型TM2タンパク質をコードする核酸」に記載された通りであり、特に限定されない。改変型TM2タンパク質をコードする核酸の上流には所望の宿主で機能するプロモーターが、またその下流にはターミネーターが配置されていることが望ましい。
【0059】
本発明のベクターは、好ましくは発現ベクターである。発現ベクターは、上記のような発現ユニット(プロモーター+改変型TM2コード領域+ターミネーター)の他に、所望の宿主で複製できるためのユニット、例えば複製開始点を有し、また所望の宿主細胞を選抜するための、薬剤抵抗性マーカー遺伝子を有してもよい。宿主は特に限定されないが、好ましくは大腸菌である。また、本発現ベクターに、例えば、大腸菌におけるラクトースリプレッサー系のような適当な発現制御系を組み込んでもよい。
【0060】
改変型TM2を固定化した担体
本発明は、本発明の改変型TM2タンパク質を固定化した担体を提供する。
【0061】
担体を構成する材料は公知のものを使用可能である。例えば、セルロース、テフロン(登録商標)、ニトロセルロース、高架橋アガロース、デキストラン、キトサン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ナイロン、
ポリビニリデンジフルオライド、ラテックス、シリカ、ガラス、ガラス繊維、金、白金、銀、銅、鉄、ステンレススチール、フェライト、シリコンウエハ、高密度ポリエチレン、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、樹脂、多糖類、炭素又はそれらの組合せ、などを含むがこれらに限定されない。また、一定の強度を有し、組成が安定し、かつ非特異結合が少ないものが好ましい。
【0062】
固体担体の形状は、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどを含むがこれらに限定されない。薄膜やプレートなどの平坦な固体担体は、当該技術分野で知られているように、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。
【0063】
発明の一態様において、ビーズは、約25nm〜約1mmの範囲の球体直径を有しうる。好ましい態様では、ビーズは約50nm〜約10μmの範囲の直径を有する。ビーズのサイズは特定の適用に応じて選択されうる。
【0064】
タンパク質の担体への結合は特に限定されず、タンパク質を担体に結合させるための公知の方法を使用することが可能である。具体的な結合方法は、担体の種類等によって、当業者が適宜選択可能である。
【0065】
改変型TM2の熱精製の方法
また本発明は、本発明の改変型TM2タンパク質を熱精製する方法を提供する。本発明の改変型TM2タンパク質は顕著な耐熱性を有するために、殆どのタンパク質が変性してしまう厳しい条件下で加熱処理を行っても変性せずに元の構造を維持する。そこで本発明の改変型TM2タンパク質を含む試料を少なくとも90℃の温度で少なくとも10分間加熱処理を行い、変性をしなかったタンパク質を回収することにより、当該タンパク質を精製することができる。加熱処理を含む該方法は本発明の改変型TM2タンパク質の精製のみならず、分離、濃縮、捕捉、および検出の目的にも使用することができる。
【0066】
ここで加熱処理する条件は、少なくとも90℃の温度で少なくとも10分間、好ましくは20分間、さらに好ましくは30分間、また好ましくは95℃で30分間、98℃で30分間、99℃で30分間、特に好ましくは99.9℃で30分間である。ここで変性しなかったタンパク質を回収する具体的な手段として、遠心分離により変性したタンパク質をペレット化し、上清を回収する方法や、フィルターろ過を行う方法、あるいは分子篩クロマトグラフィーなどを挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0067】
改変型TM2の有機溶媒を用いた検出方法
また本発明は、有機溶媒耐性を有する本発明の改変型TM2を利用して、ビオチンと連結した物質を、有機溶媒を含む系で精製する方法を提供する。本発明の方法は、1)改変型TM2が結合した担体とビオチンと連結した物質を接触させて、当該担体と連結した物質を結合させ;2)非プロトン性極性溶媒を60%ないし80%含む溶液で、当該担体に結合しなかった夾雑物を洗浄し;3)当該担体に結合したビオチンと連結した物質を回収することを含んでなる。非プロトン性極性溶媒を用いた洗浄工程を含む該方法は、ビオチンと連結した物質の精製のみならず、分離、濃縮、捕捉、および検出の目的にも使用することができる。
【0068】
ここでビオチンと連結した物質とは、ビオチンと直接的または間接的に連結した物質の双方をいう。ビオチンと物質との直接的な連結は、共有結合による連結によって達成される。ビオチンと物質の間接的な連結は、ビオチンと共有結合により連結したリガンドに対して、さらに物質が、共有結合、イオン結合、水素結合、または疎水性相互作用により連結することによって達成される。間接的な結合の具体的な例には、ビオチン化抗体を用いる場合の抗原抗体反応による抗原分子が挙げられる。
【0069】
例えば目的とする抗原タンパク質を精製する場合に、まず、該抗原タンパク質を含む検体を適当な緩衝液中で、該抗原タンパク質に特異的に結合する抗体をビオチン化したものとインキュベートする。抗体のビオチン化は例えばPierce等から市販されているキットを用いて行うことができる。次に、本発明の改変型TM2を連結した固体担体、例えば磁性ビーズを加え、混合する。その後に磁石を用いて、抗原タンパク質―ビオチン―本発明の改変型TM2―磁性ビーズの複合体を凝集させ、上清を除去し、非プロトン性極性溶媒を含む緩衝液中で洗浄を行った後、磁石をはずし、所望の緩衝液に懸濁し、抗原タンパク質の精製を完了する。このように本発明の方法は非プロトン性極性溶媒を含む緩衝液中で洗浄することができるために、夾雑物が少なく、効率的な抗原タンパク質の精製を行うことができる。
【0070】
ここで洗浄に用いる溶液中の非プロトン性極性溶媒の濃度は、少なくとも60%ないし80%、好ましくは65%ないし75%であり、特に好ましくは70%である。また非プロトン性極性溶媒は、好ましくはジメチルスルホキシドである。
【0071】
また、本発明のTM2 N115Cは、高いジメチルスルホキシド耐性を示すことから、脂質を含む化合物など、水溶性が低く高濃度(60%ないし80%)のジメチルスルホキシドにしか溶解しないような、ビオチン化物質との反応に利用することが可能である。
【実施例】
【0072】
1.耐熱性向上を志向した改変型タマビジン2の設計
タマビジン2のN115をシステイン(Cys)に変えた変異体TM2 N115Cを設計した。
【0073】
2.改変型タマビジン2遺伝子の構築と大腸菌における発現
2−1.遺伝子構築
タマビジン2遺伝子が大腸菌用発現ベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミドTM2/pTrc99A(WO02/072817)を鋳型としてPCRを行った。使用したプライマーの配列(配列番号5乃至配列番号8)を表1に示す。
【0074】
【表1】
下線は制限酵素サイト、斜体太字は開始および終止コドンを示す。置換したコドンは小文字で示した。
【0075】
TM2−N115C
TM2を含むプラスミドTM2/pTrc99Aを鋳型にして、Tm2NtermPciとTM2N115C RV、Tm2CtermBamとTM2N115C FWのプライマー組合せで別々にPCRを行った。得られた産物を、低融点アガロースを用いてアガロールゲル電気泳動を行った後、ゲルから精製した。精製した2種のPCR産物を鋳型にして、Tm2NtermPciとTm2CtermBamの組合せで2回目のPCR(オーバーラッピングPCR)を行った。なお、PCRは、50μl反応液中、プラスミド、10×PyroBestバッファー(TaKaRa社)5μl、2.5mMのdNTPs4μl、プライマー各25pmoles、PyroBestDNAポリメラーゼ(TaKaRa社)0.5μlをそれぞれ含み、96℃3分を1回、96℃1分、55℃1分、72℃1分を15回、72℃6分を1回行った。
【0076】
得られたPCR産物を、ベクターpCR4BluntTOPO(Invitrogen社)にクローニングした。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてプラスミドを導入し、常法(Sambrook et al.1989,Molecular Cloning,A laboratory manual, 2
nd edition)に従いプラスミドDNAを抽出し、PCR産物の塩基配列をその両端から決定した。
【0077】
目的の変異導入が確認されたクローンを、PciIとBamHIで消化した後、低融点アガロースを用いて電気泳動し、精製を行った。大腸菌用発現ベクターは、pTrc99Aを制限酵素NcoI、BamHIで消化し調製した。制限酵素処理したDNA断片とベクターを、ライゲーションキット(タカラ社)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌BL21に形質転換し、コロニーPCRにより挿入遺伝子を含むクローンを決定し、発現実験に用いた。
【0078】
2−2.大腸菌発現
タマビジン2および上記のように作製したタマビジン2変異体が組み込まれた大腸菌の単一コロニーを、抗生物質アンピシリン(最終濃度100μg/ml)を含むLB培地に接種し、37℃で一晩振とう培養した。これを、アンピシリンを含むLB培地に接種して、37℃で2時間培養した後、イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度で1mMとなるように加え、発現誘導してさらに5〜6時間培養した。
【0079】
菌体を遠心分離により回収し、50mM NaClを含む50mM CAPS(pH 12)中に懸濁し、超音波破砕を行った。破砕後に遠心分離を行い、その上清に2−イミノビオチンアガロース(SIGMA社)を加え、NaOHでpH12に調製した後、室温でインキュベートした。これを、オープンカラムに充填し、カラムの10倍量の500mM NaClを含む50mM CAPS(pH12)でカラムをよく洗浄した後、カラムの5倍量の50mM NH
4OAc(pH4)でタンパク質を溶出した。溶出画分を、50mM NaClを含む、0.1M HEPES(pH7.4)で透析したものを以下の解析に用いた。TM2−N115Cは、300mLの培養液からおよそ14mgの精製タンパク質が得られた。得られたTM2−N115Cの純度は95%以上であった。
【0080】
3.改変型タマビジン2の耐熱性試験
3−1.蛍光ビオチンアッセイ
精製したTM2ならびにTM2−N115Cの耐熱性を、蛍光ビオチンへの結合活性を用いて分析した。即ち蛍光ビオチンがビオチン結合タンパク質のビオチン結合サイトに結合すると、蛍光ビオチンの蛍光強度が消失する性質を利用して、TM2−N115Cの高温度条件下におけるビオチン結合能を、TM2と比較した。
【0081】
精製した各タンパク質濃度が、0.1μg/μL程度になるように20mM KPi(pH7)で希釈し、室温、50、60、70、80、90、99℃で20分間加熱した。150μLアッセイバッファー(50mM Na
2PO
4、100mM NaCl、1mM EDTA(pH7.5))中に、この熱処理後のそれぞれの溶液を、各々量を変えて段階的に加えた。この溶液に50pmol蛍光ビオチン溶液(ビオチン−4−フルオレセイン:モレキュラープローブ)を混和し、室温で20分間反応後、Infinite M200(TECAN)を用いてEx=460nm、Em=525nmにて蛍光強度を測定した。また、ジスルフィド(S−S)結合が与える影響について考察するため、希釈したタンパク質溶液に100mM DTTを加え30分室温で静置した後、上記の手順で加熱し、蛍光ビオチン測定を実施した。
【0082】
その結果、TM2における蛍光ビオチンとの結合活性は、90℃で減少してくるのに対して、TM2−N115Cに関しては99.9℃においても活性はほぼ維持された。蛍光強度の減少割合が、加熱していないサンプルの50%になる温度は、TM2は85℃であるのに対し、TM2−N115Cは99.9℃以上であった。またTM2−N115Cにおいて、99.9℃における加熱時間を60分まで延長したところ、結合活性はやや弱くなっていたが、結合活性を保持していることが確認できた。一方、TM2、アビジン、ストレプトアビジンでは、99.9℃ 60分加熱後は、ほとんど結合活性を保持していなかった。
【0083】
TM2 N115CはDTT処理を行うと90℃ 20分加熱で活性が弱くなることも確認された。このことから、TM2 N115Cにおいて、新たに挿入したシステインによりジスルフィド(S−S)結合が形成され、これが耐熱性の向上に寄与する可能性が示された。
【0084】
3−2.ビオチン化HRP結合試験
TM2−N115C、TM2、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジンを、99.9℃で1、2、4、10、20分間、または32分間処理した後、疎水結合用マイクロプレート(住友ベークライト社、タイプH)に固定化し、さらにビオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)(VECTOR社)を反応させて、HRP活性を測定した。99.9℃で1、2、4、10、20分間処理した結果を
図1に示す。99.9℃で32分間処理した結果を
図2と表2に示す。
図2において、白いカラムは熱処理を行っていないサンプルの結果を、黒いカラムは熱処理を行ったサンプルの結果を、それぞれ示す。
【0085】
その結果、99.9℃で32分間の熱処理後において、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジンでは活性がほとんど検出されなかったのに対し、TM2は10〜12%の活性を保持し(99.9℃で20分処理では40%の活性を保持していた)、さらにTM2−N115Cは、99.9℃で30分間または32分間の処理後でも、ほぼ完全に(92%〜100%)ビオチン結合活性を保持していた(表2)。これまでにアビジンのI117C変異は、99.9℃で5分処理すると活性はほぼゼロになること(Nordlund et al. 2003 J. Biol. Chem. 278: 2479−2483.)が、またストレプトアビジンのH127C変異は95℃10分で活性が20%にまで減少すること(Reznik et al. 1996 Nat. Biotechnol. 14: 1007−1011.)が報告されているが、TM2−N115Cの耐熱性は、これら従来技術と比較しても、顕著に高いことが明らかとなった。
【0086】
【表2】
【0087】
4.改変型タマビジン2の有機溶媒耐性試験
4−1. DMSO耐性試験
Dynabeads M270−Amine(Dynal社製)にNHS−PEG
12−ビオチン(PIERCE社製)を反応させることによりビオチン化磁性ビーズを調製した。
【0088】
25μg/mL(最終濃度)のアビジン様タンパク質溶液(TM2−N115C、TM2、アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン)を、ビオチン化磁性ビーズと、0%、20%、40%、50%、60%、70%、80%、90%(最終濃度)のジメチルスルホキシド(DMSO)存在下で混合し、室温(25℃)で30分間転倒混和した。この操作により、磁性ビーズ表面にアビジン様タンパク質を固定化させた。アビジン様タンパク質固定化磁性ビーズを0.2% Tween20/TBSで洗浄した後、5μLずつ96穴プレートに分注し、各ウェルに2% BSAを含むPBSで5,000倍希釈したビオチン化HRP(VECTOR社製)を200μLずつ添加し、室温で1時間振とう混和した。その後磁性ビーズを洗浄し、磁性ビーズに固定化されたHRPの活性を1−step Ultra TMB−ELISA(PIERCE社製)で検出した。
【0089】
その結果を
図3に示す。
図3AにはTM2の結果を、
図3BにはTM2−N115Cの結果を、
図3Cにはストレプトアビジンの結果を、
図3Dにはアビジンの結果を、それぞれ示す。
【0090】
図3より、野生型タマビジン(TM2)とアビジンは60%DMSO存在下で、ストレプトアビジンは40%DMSO存在下で、ビオチン結合能を殆んど失ったのに対して、TM2−N115Cは70%DMSO存在下でもビオチン結合能を完全に維持しており、80%のDMSO存在下でも50%の活性を維持していた。
【0091】
5.TM2−N115Cとビオチンとの相互作用
Biotin−Lc−BSAに対するアフィニティー解析
TM2 N115Cについて、BIAcore3000を用いて、ビオチンとの相互作用を解析した。Biotin−Lc−BSAの相互作用を解析した結果を表3に示す。TM2の結合速度定数kaは(1.0 ± 0.3)×10
6 (M
−1・S
−1)、解離速度定数kdはビアコア3000の検出限界以下(<5×10
−6 S
−1)(Takakura et al. 2009 FEBS J 276: 1383−1397)ゆえ、TM2 N115CはTM2とほぼ同レベルのビオチン結合活性を有することが分かった。
【0092】
【表3】
【0093】
加熱後のタンパク質のBiotin−Lc−BSAに対するアフィニティー解析
蛍光ビオチン試験より、90℃で20分加熱すると、TM2では蛍光ビオチン結合活性が低下するが、TM2N115Cでは蛍光ビオチン結合活性が低下しないことが示唆された。そこで、加熱後のタンパク質のBiotin−Lc−BSAに対するアフィニティーの測定を行った。TM2溶液とTM2N115C溶液を0.6mg/mL程度に希釈した(20mM KPi(pH7)。90℃ 20分加熱後、15000rpmで10分間(4℃)遠心分離を行い、上清を回収し、A280で濃度測定を行った後、上記と同様にBIAcoreによるBiotin−Lc−BSAとのアフィニティーの解析を行った。
【0094】
90℃で処理した後のBiotin−Lc−BSAとの相互作用をBIAcoreで解析した結果を表3に示す。TM2は90℃で処理することによりビオチンに対するアフィニティーが低下したのに対して、TM2 N115Cは90℃で処理してもビオチンに対するアフィニティーが全く低下しなかった。