(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018942
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】クランプ装置及びそのクランプ装置を利用したクランピングシステム
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/06 20060101AFI20161020BHJP
B23Q 3/02 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B23Q3/06 304F
B23Q3/02 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-19785(P2013-19785)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-148035(P2014-148035A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003989
【氏名又は名称】株式会社コスメック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉村 画
(72)【発明者】
【氏名】梶 健太
【審査官】
長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/032760(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/100958(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/037091(WO,A1)
【文献】
特開2006−231501(JP,A)
【文献】
米国特許第04391451(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/06
B23Q 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)内に設けたシリンダ孔(11)と、
そのシリンダ孔(11)に軸心方向へ移動可能に挿入されたピストン(12)と、
そのピストン(12)から先端方向へ一体的に突出された出力ロッド(15)と、
その出力ロッド(15)と連動するように当該出力ロッド(15)の外周側に配置される共に被固定物(17)の孔(18)に係合可能な係合部材(20)と、
前記ピストン(12)の外周面に軸心(C)を挟んで対向するように設けた一対の突起部(70,70)(72,72)であって、前記シリンダ孔(11)に嵌合された突起部と、
前記一対の突起部の間で周方向へ延びるように形成された一対の逃がし部(71,71)(73,73)と、
を備える、ことを特徴とするクランプ装置。
【請求項2】
前記ピストン(12)は、基端側に設けた大径部(13)と先端側に設けた小径部(14)とを有し、前記大径部(13)と前記小径部(14)との少なくも一方に前記一対の突起部(70,70)(72,72)を設けた、請求項1のクランプ装置。
【請求項3】
前記大径部(13)に前記一対の突起部(70,70)を設けると共に、前記小径部(14)にも前記一対の突起部(72,72)を設けた、請求項2のクランプ装置。
【請求項4】
前記シリンダ孔(11)は、その基端側に設けた大径孔(11a)と先端側に設けた小径孔(11b)とを有し、
前記大径部(13)の基端側に形成された第1大径部(53)に前記一対の突起部(70,70)を設け、その突起部(70)と前記大径孔(11a)との間に形成された第1隙間(G1)を、当該大径部(13)の先端側に形成された第2大径部(54)と前記大径孔(11a)との間に形成された第2隙間(G2)よりも小さい値に設定し、
前記小径部(14)の先端側に形成された第1小径部(58)に前記一対の突起部(72,72)を設け、その突起部(72)と前記小径孔(11b)との間に形成された第3隙間(G3)を、当該小径部(14)の基端側に形成された第2小径部(59)と前記小径孔(11b)との間に形成された第4隙間(G4)よりも小さい値に設定した、
請求項3のクランプ装置。
【請求項5】
ハウジング(2)内に設けたシリンダ孔(11)であって、その基端側に設けた大径孔(11a)と先端側に設けた小径孔(11b)とを有するシリンダ孔(11)と、
前記シリンダ孔(11)に軸心方向へ移動可能に挿入されたピストン(12)であって、前記大径孔(11a)に挿入された大径部(13)と前記小径孔(11b)に挿入された小径部(14)とを有するピストン(12)と、
その小径部(14)から先端方向へ一体的に突出された出力ロッド(15)と、
その出力ロッド(15)と連動するように当該出力ロッド(15)の外周側に配置される共に被固定物(17)の孔(18)に係合可能な係合部材(20)と、を備え、
前記大径部(13)の基端側に形成された第1大径部(53)と前記大径孔(11a)との間に形成された第1隙間(G1)を、当該大径部(13)の先端側に形成された第2大径部(54)と前記大径孔(11a)との間に形成された第2隙間(G2)よりも小さい値に設定し、
前記小径部(14)の先端側に形成された第1小径部(58)と前記小径孔(11b)との間に形成された第3隙間(G3)を、当該小径部(14)の基端側に形成された第2小径部(59)と前記小径孔(11b)との間に形成された第4隙間(G4)よりも小さい値に設定した、
ことを特徴とするクランプ装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載したクランプ装置と請求項5に記載した別のクランプ装置とを所定の間隔を空けて配置したクランピングシステムであって、
前記の別のクランプ装置の軸心(C)の回りに前記クランプ装置の軸心(C)が回転するのを阻止するように、当該クランプ装置の前記一対の突起部(70,70)(72,72)が対向する方向を方向付けた、
ことを特徴とするクランピングシステム。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載したクランプ装置を所定の間隔を空けて2つ配置したクランピングシステムであって、
前記2つのクランプ装置のうちの一方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部(70,70)(72,72)が対向する方向と、他方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部が対向する方向とを交差させた、
ことを特徴とするクランピングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークや金型等の被固定物に形成した孔の内周面に係合部材を係合させることによって、被固定物をベースプレート等の固定側部材にクランプする装置に関し、より詳しくいえば、その被固定物を固定側部材に位置決めしてクランプする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の位置決め機能付きのクランプ装置として、特許文献1(特開2010-137343号公報(2010年6月24日公開))に記載されたものがある。その従来技術は、次のように構成されている。
【0003】
ハウジングとしてのクランプ本体に設けたシリンダ孔にピストンが上下移動可能に挿入される。そのピストンにクランプロッド(出力ロッド)が水平移動可能に連結される。そのクランプロッドの上部にグリップ部材(係合部材)が外嵌めされ、そのグリップ部材にワークの穴が上側から嵌合可能とされる。その穴の下側で前記ワークに位置決め用の嵌合凹部が形成される。その嵌合凹部に嵌合してワークを水平方向へ位置決めする嵌合部が、グリップ部材の外周側でクランプ本体の上端部に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-137343号公報(2010年6月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術は、ピストンにクランプロッドを水平移動可能に連結したため、そのクランプロッドに外嵌めしたグリップ部材とワークの穴との心ズレを吸収できるものの、下記の問題がある。
【0006】
クランプ本体の上部に設けた嵌合部は、ワークの嵌合凹部と嵌合するため、クランプ本体の上方へ突出させて外部に開放させる必要がある。このため、ワークの機械加工時に発生する塵埃や切粉等の異物が前記嵌合部と嵌合凹部との間に噛み込んで、クランプ装置の位置決め機能を低下させるおそれがある。
【0007】
また、前記ワークには嵌合凹部を加工する必要があるので、その加工に手間がかかる。
【0008】
本発明の目的は、異物の噛み込みによる位置決め機能の低下を防止すると共にワーク等の被固定物に施す加工を削減できるクランプ装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記クランプ装置を利用したクランピングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明のクランプ装置は、例えば、
図1と
図2A及び
図2Bに示すように、次のように構成される。
【0010】
即ち、ハウジング2内に設けたシリンダ孔11にピストン12を軸心方向へ移動可能に挿入する。そのピストン12から出力ロッド15を先端方向へ一体的に突出させる。その出力ロッド15の外周側に、被固定物17の孔18に係合可能な係合部材20を、出力ロッド15と連動するように配置する。前記ピストン12の外周面に、前記シリンダ孔11に嵌合される一対の突起部70,70(72,72)を、軸心Cを挟んで対向するように設ける。前記一対の突起部70,70(72,72)の間に一対の逃がし部71,71(73,73)を周方向へ延びるように形成する。
【0011】
ここで、前記の「一体的に」とは、前記ピストンと前記出力ロッドとの両者を一体形成する場合と、前記両者を別体に形成して当該両者をネジ止め等によって固定する場合とが考えられる。
【0012】
本発明の前記クランプ装置は次の作用効果を奏する。
【0013】
そのクランプ装置の位置決め時には、前記ハウジングのシリンダ孔と前記ピストンに設けた突起部との間の隙間が、位置決め用の嵌合隙間として機能する。従って、前記シリンダ孔に対して前記ピストンが、前記一対の突起部が対向する方向へ位置決めされる。このため、前記ハウジングに対して、ピストンと当該ピストンから一体的に突出された出力ロッドと係合部材とを介して、被固定物を位置決めできる。なお、前記一対の突起部の間に形成された一対の逃がし部は、当該一対の逃がし部が対向する方向の位置決め誤差を吸収するように機能する。
【0014】
また、前記シリンダ孔と前記突起部との間に形成される位置決め用の嵌合隙間は、ハウジング内に配置されるので、機械加工時に発生する塵埃や切粉等の異物が噛み込むのを防止できる。このため、クランプ装置の位置決め機能を長期間にわたって良好に保てる。さらに、本発明は、前記の従来技術とは異なり、被固定物に嵌合凹部を加工する必要がないので、その被固定物に施す加工を削減できる。
【0015】
前記発明において、前記ピストン12の基端側に設けた大径部13と当該ピストン12の先端側に設けた小径部14との少なくも一方に、前記一対の突起部70,70(72,72)を設けることが考えられる。
【0016】
前記発明においては、前記大径部13に前記一対の突起部70,70を設けると共に、前記小径部14にも前記一対の突起部72,72を設けることが好ましい。この構成によれば、ピストンの大径部に形成された一対の突起部とピストンの小径部に形成された一対の突起部との間の軸心方向の長さが大きいので、その大きな距離でシリンダ孔にピストンを支持できる。このため、ピストン及び出力ロッドの傾きを小さくして、位置決め精度をより向上させることができる。
【0017】
また、前記発明においては、次のように構成することが好ましい。
【0018】
即ち、前記シリンダ孔11は、その基端側に設けた大径孔11aと先端側に設けた小径孔11bとを有する。前記大径部13の基端側に形成された第1大径部53に前記一対の突起部70,70を設ける。その突起部70と前記大径孔11aとの間に形成された第1隙間G1を、当該大径部13の先端側に形成された第2大径部54と前記大径孔11aとの間に形成された第2隙間G2よりも小さい値に設定する。また、前記小径部14の先端側に形成された第1小径部58に前記一対の突起部72,72を設ける。その突起部72と前記小径孔11bとの間に形成された第3隙間G3を、当該小径部14の基端側に形成された第2小径部59と前記小径孔11bとの間に形成された第4隙間G4よりも小さい値に設定する。
【0019】
この構成によれば、ピストンの第1大径部に形成された一対の突起部とピストンの第1小径部に形成された一対の突起部との間の軸心方向の長さがさらに大きくなるので、その大きな距離でシリンダ孔にピストンを支持できる。このため、ピストン及び出力ロッドの傾きをさらに小さくして、位置決め精度をさらに高められる。
【0020】
また、前記目的を達成するために、本発明に係る別のクランプ装置は、例えば、
図1と
図3A及び
図3Bに示すように、次のように構成される。
【0021】
即ち、ハウジング2内に設けたシリンダ孔11は、その基端側に設けた大径孔11aと先端側に設けた小径孔11bとを有する。前記シリンダ孔11に軸心方向へ移動可能に挿入されたピストン12は、前記大径孔11aに挿入された大径部13と前記小径孔11bに挿入された小径部14とを有する。その小径部14から出力ロッド15を先端方向へ一体的に突出せる。その出力ロッド15の外周側に、被固定物17の孔18に係合可能な係合部材20を、出力ロッド15と連動するように配置する。前記大径部13の基端側に形成された第1大径部53と前記大径孔11aとの間に形成された第1隙間G1を、当該大径部13の先端側に形成された第2大径部54と前記大径孔11aとの間に形成された第2隙間G2よりも小さい値に設定する。また、前記小径部14の先端側に形成された第1小径部58と前記小径孔11bとの間に形成された第3隙間G3を、当該小径部14の基端側に形成された第2小径部59と前記小径孔11bとの間に形成された第4隙間G4よりも小さい値に設定する。
【0022】
ここで、前記の「一体的に」とは、前記ピストンの小径部と前記出力ロッドとの両者を一体形成する場合と、前記両者を別体に形成して当該両者をネジ止め等によって固定する場合とが考えられる。
【0023】
前記の別のクランプ装置は、次の作用効果を奏する。
【0024】
その別のクランプ装置の位置決め時には、前記ハウジングに形成したシリンダ孔の大径孔と前記ピストンの第1大径部との間に形成された第1隙間および当該シリンダ孔の小径孔と前記ピストンの第1小径部との間に形成された第3隙間が、位置決め用の嵌合隙間として機能する。従って、シリンダ孔の大径孔に対して前記第1大径部が半径方向へ位置決めされると共に当該シリンダ孔の小径孔に対して前記第1小径部が半径方向へ位置決めされる。このため、前記ハウジングに対して、前記ピストンと当該ピストンの小径部から一体的に突出された出力ロッドと係合部材とを介して、被固定物を半径方向へ位置決めできる。その位置決め時には、前記第1大径部と前記第1小径部との間の軸心方向の長さが大きいので、その大きな距離でシリンダ孔にピストンを支持できる。その結果、ピストン及び出力ロッドの傾きを小さくして、位置決め精度を高められる。
【0025】
また、前記第1隙間および前記第3隙間としての位置決め用の嵌合隙間は、ハウジング内に配置されるので、機械加工時に発生する塵埃や切粉等の異物が噛み込むのを防止できる。このため、クランプ装置の位置決め機能を長期間にわたって良好に保てる。さらに、本発明は、前記の従来技術とは異なり、被固定物に嵌合凹部を加工する必要がないので、その被固定物に施す加工を削減できる。
【0026】
また、本発明に係るクランピングシステムは、例えば、
図1〜
図3Bに示すように、次のように構成される。
【0027】
即ち、前記クランプ装置と前記別のクランプ装置とを所定の間隔を空けて配置する。前記の別のクランプ装置の軸心Cの回りに前記クランプ装置の軸心Cが回転するのを阻止するように、当該クランプ装置の前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向を方向付けた。
【0028】
上記クランピングシステムによれば、前記クランプ装置の係合部材と前記別のクランプ装置の係合部材とがそれぞれ挿入される被固定物の2つの孔の中心間距離に誤差がある場合であっても、前記クランプ装置に設けた前記一対の突起部が対向する方向へ被固定物を位置決めできると共に、当該クランプ装置に設けた前記一対の逃がし部が上記誤差を吸収できるので、クランプ装置を円滑に動作できる。
【0029】
さらに、本発明に係る他のクランピングシステムは、例えば、
図1と
図2A及び
図2Bに示すように、次のように構成される。
【0030】
即ち、前記クランプ装置を所定の間隔を空けて2つ配置する。これら2つのクランプ装置のうちの一方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向と、他方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部が対向する方向とを交差させる。
【0031】
上記他のクランピングシステムによれば、一方のクランプ装置の係合部材と他方のクランプ装置の係合部材とがそれぞれ挿入される被固定物の2つの孔の中心間距離に誤差がある場合であっても、各クランプ装置に設けた前記一対の突起部が対向する方向へ被固定物を位置決めできると共に、各クランプ装置に設けた前記一対の逃がし部が上記誤差を吸収できるので、クランプ装置を円滑に動作できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るクランプ装置の立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0034】
まず、
図1〜
図2Bにより、クランプ装置の構成を説明する。
【0035】
(クランプ装置の構成)
工作機械のテーブルに載置されたベースプレート1に、クランプ装置のハウジング2が固定される。そのハウジング2は、下ハウジング3と上ハウジング4とを備える。下ハウジング3の下半部が、ベースプレート1の取付け穴1aに保密状に挿入される。上ハウジング4は、下ハウジング3を覆うように配置され、複数の締結ボルト(図示せず)によってベースプレート1の上面に固定される。
【0036】
前記ハウジング2の下部内に、駆動機構としての油圧シリンダ10が配置される。その油圧シリンダ10は、下ハウジング3の下面から上向きに形成されたシリンダ孔11と、シリンダ孔11に挿入されたピストン12とを備える。シリンダ孔11は、大径孔11aと小径孔11bとを上向きに(先端方向へ)連ねて形成される。ピストン12は、大径孔11aに挿入される大径部13と小径孔11bに挿入される小径部14とを有する。ここでは、大径部13と小径部14とが一体に形成されている。また、小径部14から上方(先端方向)へ突出された出力ロッド15もピストン12と一体的に形成されている。
【0037】
なお、この実施形態においては、出力ロッド15は、ピストン12で上方(先端方向)へ移動されることによってリリース駆動され、当該ピストン12で下方(基端方向)へ移動されることによってロック駆動される。
【0038】
出力ロッド15の上部の外周には、ワーク(被固定物)17の穴18に挿入される複数の係合部材20と、筒状の支持部材21とが、上下に配置される。係合部材20の外周側で上ハウジング4の上面には、ワーク17の下面を受け止める着座面23が環状に形成される。この実施形態では、係合部材20は、周方向へ所定の間隔をあけて4つ配置される。各係合部材20は、上部に設けた薄肉のグリップ部26と途中高さに設けた胴部27と下フランジ28とを備える。前記グリップ部26の外周には、鋸刃状の突起29が上下方向へ複数形成される。また、各グリップ部26の内周には、下方へ向かうにつれてピストン12の軸心Cに近づくように傾斜面30が形成される。前記傾斜面30に上側から係合する楔面32が出力ロッド15の上部に形成される。その楔面32は、前記傾斜面30に対応して、4つ設けられる。この実施形態では、前記の楔面32と傾斜面30とが平面によって構成されている。
【0039】
前記4つの係合部材20の胴部27には、ゴム等の弾性体からなるOリング34が装着される。そのOリング34の弾性力が係合部材20を半径方向の内方へ付勢している。また、上ハウジング4の上孔4aの周壁にはスクレーパ36が装着される。そのスクレーパ36の弾性力が、前記出力ロッド15及び係合部材20を、ピストン12の軸心Cへ向けて半径方向の内方へ付勢している。
【0040】
前記の筒状の支持部材21は、前記4つの係合部材20を下方から受け止める上壁40と、その上壁40の外周部から下方へ突出させた環状壁41とを備える。その支持部材21が、上ハウジング4の下部に設けた収容孔44に上下移動可能に挿入される。また、支持部材21の下側に配置したバネ室46に、複数の皿バネからなる進出バネ47が装着され、その進出バネ47が支持部材21を介して係合部材20を上方へ付勢している。即ち、この実施形態では、進出バネ47と支持部材21とが、係合部材20を所定の力で押し上げる支持機構49を構成している。
【0041】
前記ピストン12の大径部13は、下側に形成された第1大径部53と、上側に形成された第2大径部54と、これら第1大径部53と第2大径部54との間に形成された大径溝55とを有する。大径溝55には封止部材56が装着される。前記ピストン12の小径部14は、上側に形成された第1小径部58と、下側に形成された第2小径部59と、これら第1小径部58と第2小径部59との間に形成された小径溝60とを有する。小径溝60には封止部材61が装着される。
【0042】
前記の第1大径部53に一対の突起部70,70が前記軸心Cを挟んで対向するように設けられる。その突起部70と前記大径孔11aとの間に形成された第1隙間G1が、第2大径部54と大径孔11aとの間に形成された第2隙間G2よりも小さい値に設定される。例えば、第1隙間G1は、0.02mm以上で0.03mm以下の値であり、第2隙間G2は、0.1mm以上で0.2mm以下の値である。
【0043】
そして、前記一対の突起部70,70の間で、一対の逃がし部71,71が周方向へ延びるように形成される(
図2B)。逃がし部71と大径孔11aとの間の隙間は、例えば、0.1mm以上で0.2mm以下の値である。
【0044】
また、前記の第1小径部58にも一対の突起部72,72が前記軸心Cを挟んで対向するように設けられる。その突起部72と前記小径孔11bとの間に形成された第3隙間G3が、第2小径部59と小径孔11bとの間に形成された第4隙間G4よりも小さい値に設定される。例えば、第3隙間G3は、0.02mm以上で0.03mm以下の値であり、第4隙間G4は、0.1mm以上で0.2mm以下の値である。
【0045】
そして、前記一対の突起部72,72の間で、一対の逃がし部73,73が周方向へ延びるように形成される(
図2A)。逃がし部73と小径孔11bとの間の隙間は、例えば、0.1mm以上で0.2mm以下の値である。
【0046】
前記ピストン12の大径部13の上側にロック室62が形成されると共に、当該大径部13の下側にリリース室63が形成される。前記ロック室62が、下ハウジング3内の縦路64及び上ハウジング4内の横路65を経てロック用の給排口68へ連通される。大径部13の上面には、ピストン12の回転を拘束するためのピン66の下部が圧入される。そのピン66の上部は、縦路64に挿入される。また、前記リリース室63がリリース用の給排口67へ連通される。
【0047】
(クランプ装置の動作)
前記構成のクランプ装置は、
図1〜
図2Bに示すように、以下のように動作する。
【0048】
図1に示すリリース状態では、前記ロック室62の圧油を排出するとともに、前記リリース室63に圧油を供給している。これにより、ピストン12及び出力ロッド15が上昇し、前記の支持部材21と複数の係合部材20とが進出バネ47によって上昇位置に保持され、係合部材20がOリング34の弾性力によって縮径状態に切り換えられている。また、係合部材20及び出力ロッド15がスクレーパ36の弾性力によってピストン12の軸心Cと同軸上に位置されている。
【0049】
前記リリース状態で、ハウジング2の上側にワーク17を搬入し、そのワーク17を、何らかの昇降手段または自重によって下降させ、ワーク17の孔18に係合部材20を挿入させていく。すると、ワーク17の下面が、ハウジング2の着座面23に受け止められる(
図1中の二点鎖線図を参照)。
【0050】
クランプ装置を前記
図1のリリース状態からロック状態へ切り換えるときには、リリース室63の圧油を排出するとともに、前記ロック用の給排口68に圧油を供給する。すると、その圧油は、横路65を通って縦路64に供給され、その縦路64の内周面とピン66との間の隙間によって絞られてロック室62へ緩やかに流入していく。このため、ロック室62へ供給された圧油がピストン12に与える衝撃力が小さくなり、そのピストン12に連結された細径の出力ロッド15が破損するのを防止できる。
【0051】
次に、進出バネ47の付勢力によって上昇位置に保持された支持部材21及び係合部材20に対してピストン12及び出力ロッド15が下降していく。これにより、出力ロッド15の楔面32によって係合部材20が拡径され(半径方向の外方へ移動され)、係合部材20がワーク17の孔18の内周面に係合する。引き続いて、出力ロッド15の下降力により、孔18の内周面に密着した状態の係合部材20が孔18を介してワーク17を下向きに引っ張り、これと同時に、係合部材20及び支持部材21が進出バネ47の付勢力に抗して下降する。これによりワーク17が前記の着座面23に強力に押圧される。
【0052】
なお、クランプ装置を前記ロック状態から
図1のリリース状態へ切り換えるときには、ロック室62の圧油を排出すると共にリリース室63へ圧油を供給すればよい。これにより、クランプ装置は、上述したロック動作とはほぼ逆の手順でリリース状態へ切り換えられる。
【0053】
前記構成のクランプ装置は次の長所を奏する。
【0054】
そのクランプ装置の位置決め時には、ハウジング2の大径孔11aとピストン12の第1大径部53に設けた突起部70との間の第1隙間G1と、小径孔11bと第1小径部58に設けた突起部72との間の第3隙間G3とが、位置決め用の嵌合隙間として機能する。従って、前記シリンダ孔11に対して前記ピストン12が、前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する水平方向へ位置決めされる。このため、前記ハウジング2に対して、ピストン12と当該ピストン12から一体的に突出された出力ロッド15と係合部材20とを介して、ワーク17を位置決めできる。なお、前記一対の突起部70,70(72,72)の間に形成された一対の逃がし部71,71(73,73)は、当該一対の逃がし部が対向する方向の位置決め誤差を吸収するように機能する。
【0055】
また、前記大径孔11aと前記突起部70との間に形成される第1隙間G1と、前記小径孔11bと前記突起部72との間に形成される第3隙間G3とは、ハウジング2内に配置されるので、機械加工時に発生する塵埃や切粉等の異物が噛み込むのを防止できる。このため、クランプ装置の位置決め機能を長期間にわたって良好に保てる。さらに、本発明は、前記の従来技術とは異なり、ワーク17に前記嵌合凹部を加工する必要がないので、そのワーク17に施す加工を削減できる。
【0056】
さらには、ピストン12の第1大径部53に形成された一対の突起部70,70と当該ピストン12の第1小径部58に形成された一対の突起部72,72との間の軸心方向の長さが大きいので、その大きな距離でシリンダ孔11にピストン12を支持できる。このため、ピストン12及び出力ロッド15の傾きを小さくして、位置決め精度をより向上させることができる。
【0057】
(別のクランプ装置)
図3Aと
図3Bは、前記実施形態における別のクランプ装置を示し、それぞれ、前記の
図2Aと
図2Bに類似する図である。
【0058】
その別のクランプ装置では、第1大径部53及び第1小径部58を除いた構成は、前記クランプ装置と同様であるので、同様の構成については説明を省略し、異なる構成について上記
図3Aと
図3B(及び
図1)を参照して説明する。
【0059】
第1大径部53と大径孔11aとの間の第1隙間G1は、全周に渡って例えば0.02mm以上で0.03mm以下の値に設定される(
図3Bを参照)。また、第1小径部58と小径孔11bとの間の第3隙間G3も、全周に渡って例えば0.02mm以上で0.03mm以下の値に設定されている(
図3Aを参照)。
【0060】
その別のクランプ装置の位置決め時には、第1隙間G1および第3隙間G3が、位置決め用の嵌合隙間として機能する。従って、シリンダ孔11の大径孔11aに対して前記第1大径部53が半径方向へ位置決めされると共に当該シリンダ孔11の小径孔11bに対して前記第1小径部58が半径方向へ位置決めされる。このため、前記ハウジング2に対して、前記ピストン12と当該ピストン12の小径部14から一体的に突出された出力ロッド15と係合部材20とを介して、ワーク17を半径方向へ位置決めできる。その位置決め時には、前記第1大径部53と前記第1小径部58との間の上下方向の長さが大きいので、その大きな距離でシリンダ孔11にピストン12を支持できる。その結果、ピストン12及び出力ロッド15の傾きを小さくして、位置決め精度を高められる。
【0061】
また、前記第1隙間G1および前記第3隙間G3としての位置決め用の嵌合隙間は、ハウジング2内に配置されるので、機械加工時に発生する塵埃や切粉等の異物が噛み込むのを防止できる。このため、クランプ装置の位置決め機能を長期間にわたって良好に保てる。さらに、本発明は、前記の従来技術とは異なり、ワーク17に前記嵌合凹部を加工する必要がないので、そのワーク17に施す加工を削減できる。
【0062】
(クランピングシステムの構成)
前記クランプ装置は、前記別のクランプ装置と協働してワークをクランプするクランピングシステムに適用される。そのクランピングシステムにおいては、前記クランプ装置と前記別のクランプ装置とを所定の間隔を空けて配置する。前記クランプ装置の前記一対の突起部70,70は、前記クランプ装置の軸心Cと前記別のクランプ装置の軸心Cとを結ぶ直線とほぼ直交する方向に配置される。前記一対の突起部72,72も、前記直線とほぼ直交する方向に配置される。なお、一対の突起部70,70は、前記軸心Cを結ぶ直線の両側に配置されていればよく、前記軸心を結ぶ直線と交差する方向に配置されていればよい。前記一対の突起部72,72は、前記一対の突起部70,70と同じ方向に配置されていればよい。即ち、前記の別のクランプ装置の軸心Cの回りに前記クランプ装置の軸心Cが回転するのを阻止するように、当該クランプ装置の前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向が方向付けられる。
【0063】
前記クランピングシステムは次の長所を奏する。
【0064】
前記クランプ装置の係合部材20と前記別のクランプ装置の係合部材20とがそれぞれ挿入されるワーク17の2つの孔18,18の中心間距離に誤差がある場合であっても、前記クランプ装置に設けた前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向へワーク17を位置決めできると共に、当該クランプ装置に設けた前記一対の逃がし部71,71(73,73)が上記誤差を吸収できるので、クランプ装置を円滑に動作できる。
【0065】
(他のクランピングシステムの構成)
前記クランプ装置を所定の間隔をあけて2つ配置することにより、これら2つのクランプ装置が協働してワークをクランプするクランピングシステムに適用される。上記の他のクランピングシステムにおいては、所定の間隔を空けて配置した2つのクランプ装置のうちの一方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向と、他方のクランプ装置に設けた前記一対の突起部が対向する方向とを交差させる。
【0066】
前記他のクランピングシステムは次の長所を奏する。
【0067】
一方のクランプ装置の係合部材20と他方のクランプ装置の係合部材20とがそれぞれ挿入されるワーク17の2つの孔18,18の中心間距離に誤差がある場合であっても、各クランプ装置に設けた前記一対の突起部70,70(72,72)が対向する方向へワーク17を位置決めできると共に、各クランプ装置に設けた前記一対の逃がし部71,71(73,73)が上記誤差を吸収できるので、クランプ装置を円滑に動作できる。
【0068】
(変更例)
図1に示すクランプ装置では、第1大径部53と大径孔11aとの間の第1隙間G1が第2大径部54と大径孔11aとの間の第2隙間G2よりも狭くなっており、第1小径部58と小径孔11bとの間の第3隙間が第2小径部59と小径孔11bとの間の第4隙間G4よりも狭くなっている例を示した。
【0069】
しかしながら、本発明はこれに限定されない。即ち、前記第1隙間G1と前記第2隙間G2とのいずれか一方が他方よりも狭くなっており、前記第3隙間G3と前記第4隙間G4とのいずれか一方が他方よりも狭くなっていればよい。例えば、第1隙間G1が第2隙間G2よりも狭くなっており、第4隙間G4が第3隙間G3よりも狭くなっていてもよい。また、第2隙間G2が第1隙間G1よりも狭くなっており、第3隙間G3が第4隙間G4よりも狭くなっていてもよい。さらに、第2隙間G2が第1隙間G1よりも狭くなっており、第4隙間G4が第3隙間G3よりも狭くなっていてもよい。
【0070】
突起部70及び逃がし部71を円弧状に形成する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1大径部53の外周面を楕円状に形成し、その外周面のうち長軸側の両端部を突起部70,70として構成すると共に、短軸側の外周面を逃がし部71,71として構成してもよい。その他に、突起部70(72)及び逃がし部71(73)の形状を種々に変更できることは、当業者であれば明らかである。
【0071】
また、ピストン12の大径部13に一対の突起部70,70を設けるとともに、小径部14に一対の突起部72,72を設ける例を示したが、本発明はこれに限定されない。一対の突起部は、大径部13と小径部14との少なくとも一方に設ければよい。
【0072】
また、複数のクランピング装置でワーク17を支持する例を示したが、円形状のワーク17の中央にクランプ装置用の孔を形成し、1個のクランプ装置でクランプしてもよい。
【0073】
図1に示す実施形態では、突起29を形成したグリップ部26を有する複数の係合部材20の例を示したが、本発明はこれに限定されない。係合部材20は、出力ロッド15と連動するように当該出力ロッド15の外周側に配置される共に被固定物17の孔18に係合可能であればよい。例えば、係合部材20は、環状に配置されて半径方向へ拡径・縮径する一体形のコレット部材でもよく、また、出力ロッド15の移動に応じて半径方向の外方へ移動してワーク17を引き下げる係合ボールであってもよい。
【0074】
さらに、
図1に示す実施形態では、大径孔11aと小径孔11bとを同一軸心C上に形成した例を示した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、ピストン12の軸心から出力ロッド15の軸心をオフセットさせた技術に対しても本発明を適用することができる。
【0075】
クランプ装置の配置姿勢は、図示の姿勢とは、上下逆にしたり、横向きにしたり、斜め向きにしてもよい。
【0076】
また、クランプ装置に使用する圧力流体は、例示した圧油に代えて、他の液体でもよく、圧縮空気等の気体でもよい。
【0077】
本発明が適用される被固定物は、例示したワーク17に代えてワークパレットや金型などであってもよい。
【0078】
前記の支持機構49は、例示したバネ等の弾性体の付勢力を利用することに代えて、油圧力や空圧力などの流体圧力を利用することも可能である。
【0079】
前記ベースプレート1の取付け穴1aを省略してもよい。この場合、下ハウジング3の下面が封止具(図示せず)を介してベースプレート1の上面に固定される。
【0080】
前記駆動機構は、例示した油圧シリンダ10に代えて空圧シリンダであってもよい。流体圧シリンダは、例示した複動式に代えて、圧力流体でロック駆動すると共にバネ力でリリース駆動する場合と、バネ力でロック駆動すると共に圧力流体でリリース駆動する場合が考えられる。
【0081】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
2:ハウジング,11:シリンダ孔,11a:大径孔,11b:小径孔,12:ピストン,13:大径部,14:小径部,15:出力ロッド,17:ワーク(被固定物),18:ワーク17の孔,20:係合部材,53:第1大径部,54:第2大径部,58:第1小径部,59:第2小径部,70:突起部,71:逃がし部,72:突起部,73:逃がし部,C:軸心,G1:第1隙間,G2:第2隙間,G3:第3隙間,G4:第4隙間.