特許第6018946号(P6018946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018946
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】原子炉格納容器
(51)【国際特許分類】
   G21C 13/02 20060101AFI20161020BHJP
   G21C 13/028 20060101ALI20161020BHJP
   E04B 1/68 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G21C13/02 Q
   G21C13/02 F
   E04B1/68 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-27369(P2013-27369)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-157054(P2014-157054A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 志郎
(72)【発明者】
【氏名】大坂 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】今村 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】薄田 浩平
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−265677(JP,A)
【文献】 実開昭62−083996(JP,U)
【文献】 特開2013−234889(JP,A)
【文献】 特開昭59−206797(JP,A)
【文献】 特開昭61−120089(JP,A)
【文献】 特開2002−116277(JP,A)
【文献】 特開平10−186078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 13/02
G21C 13/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収納されている構造物を取り囲む格納容器側壁に設けられ、その格納容器側壁を内側から外側に貫通する貫通部と、該貫通部内の外側端部に設置された機器ハッチとを備え、前記機器ハッチは、フランジを有する円筒部材と、該円筒部材のフランジ端面に開閉可能に設置され運転時には閉止される蓋部と、該蓋部と前記フランジの接合面をシールするシール部とから成る原子炉格納容器であって、
前記シール部を少なくとも含む前記フランジの内周側に、外側遮蔽板と内側遮蔽板の2枚から成る遮蔽構造物が設置され、該遮蔽構造物は、前記外側遮蔽板と内側遮蔽板の間に空間が形成されていると共に、前記フランジとの間にギャップが形成され、かつ、前記ギャップ及び空間に、非凝縮性ガスが密閉されているか或いは断熱材が設置されていることを特徴とする原子炉格納容器。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉格納容器において、
前記遮蔽構造物は、一方側が前記フランジに固定された閉塞用構造物に嵌め込まれて支持され、他方側が前記蓋部のフランジとの接合部に固定された前記閉塞用構造物とは別の閉塞用構造物に嵌め込まれて支持されていることを特徴とする原子炉格納容器。
【請求項3】
請求項1に記載の原子炉格納容器において、
前記フランジの外周側に、該フランジの熱を放熱する放熱構造物が設置されていることを特徴とする原子炉格納容器。
【請求項4】
請求項1に記載の原子炉格納容器において、
前記遮蔽構造物の外側遮蔽板は、前記ギャップに設置されたスペーサを介して前記フランジに固定されていることを特徴とする原子炉格納容器。
【請求項5】
請求項1に記載の原子炉格納容器において、
前記遮蔽構造物は、前記フランジにボルト及びナットで固定されていることを特徴とする原子炉格納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉格納容器に係り、特に、格納容器側壁に設けられた貫通部に開閉可能に設置され、運転時には閉止する機器ハッチを備えているものに好適な原子炉格納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおいて、炉心の冷却水として軽水を用いた沸騰水型原子炉(BWR)の原子炉建屋には、炉心内の放射性物質が放出されるような苛酷な事態に備えて、原子炉格納容器が設けられている。この原子炉格納容器は、サプレッション・チェンバを備えており、サプレッション・チェンバが原子炉圧力容器を取り囲んで設けられている。そして、原子炉圧力容器が破損して蒸気が放出された場合でも、サプレッション・チェンバ内にプールされた冷却水により、蒸気を冷却して凝縮し、原子炉圧力容器内の圧力上昇を抑制する機能を備えている。
【0003】
通常、原子炉格納容器の格納容器側壁には、機器搬入用或いはサプレッション・チェンバへの作業員の出入口としての貫通部が設けられている。この貫通部の端面には、運転時には閉止する機器ハッチが開閉可能に設けられており、この機器ハッチのフランジ面で、原子炉格納容器の貫通部をシール部で密閉(シール)している。また、原子炉格納容器が異常に高温になった場合でも、シール機能は維持されることが必要である。
【0004】
なお、原子炉格納容器の格納容器側壁に、機器搬入用或いはサプレッション・チェンバへの作業員の出入口としての貫通部が設けられ、この貫通部の端面に、運転時には閉止する機器ハッチが開閉可能に設けられているものとして、特許文献1及び2を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−242277号公報
【特許文献2】特開平8−248171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した如く、原子炉格納容器が異常に高温になった場合でも、原子炉格納容器の貫通部を密封する機器ハッチのシール部の温度上昇を抑制してシール機能を維持する必要がある。これを可能とする手法として、冷却水を外面から水スプレーして、シール部の温度上昇を抑制することが考えられる。
【0007】
しかしながら、この手法では、冷却水を確保する必要があることから、その冷却水の確保等の課題が生じ、冷却水が確保できない場合は、何らかの他の手法を用いる必要があり、長時間の冷却を可能にするためには、極力、必要な冷却水流量を低減する必要がある。また、定期検査時における貫通部の出入りや機器搬入出作業の障害とならないように、貫通部に設置された構造物は取り外しが容易であることが望まれるし、更には、貫通部に設置される構造物は、強度を十分に確保して温度上昇を抑制する必要がある。しかし、上述した特許文献1及び2では、上記した点に対する対策については触れられていない。
【0008】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、冷却水等を用いることなくシール部の温度上昇を抑制してシール機能を維持することができる原子炉格納容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の原子炉格納容器は、上記目的を達成するために、内部に収納されている構造物を取り囲む格納容器側壁に設けられ、その格納容器側壁を内側から外側に貫通する貫通部と、該貫通部内の外側端部に設置された機器ハッチとを備え、前記機器ハッチは、フランジを有する円筒部材と、該円筒部材のフランジ端面に開閉可能に設置され運転時には閉止される蓋部と、該蓋部と前記フランジの接合面をシールするシール部とから成る原子炉格納容器であって、前記シール部を少なくとも含む前記フランジの内周側に、外側遮蔽板と内側遮蔽板の2枚から成る遮蔽構造物が設置され、該遮蔽構造物は、前記外側遮蔽板と内側遮蔽板の間に空間が形成されていると共に、前記フランジとの間にギャップが形成され、かつ、前記ギャップ及び空間に、非凝縮性ガスが密閉されているか或いは断熱材が設置されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記遮蔽構造物は、一方側が前記フランジに固定された閉塞用構造物に嵌め込まれて支持され、他方側が前記蓋部のフランジとの接合部に固定された別の閉塞用構造物に嵌め込まれて支持されていることを特徴とする。
【0013】
また、前記フランジの外周側に、該フランジの熱を放熱する放熱構造物が設置されていることを特徴とする。
【0014】
また、前記遮蔽構造物の外側遮蔽板は、前記ギャップに設置されたスペーサを介して前記フランジに固定されていることを特徴とする。
【0015】
また、前記遮蔽構造物は、前記フランジにボルト及びナットで固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷却水等を用いることなくシール部の温度上昇を抑制してシール機能を維持することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の原子炉格納容器が適用される改良沸騰型原子炉(ABWR)の概略構成を示す断面図である。
図2】本発明の原子炉格納容器の実施例1におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図3】従来構造におけるフランジ近傍のハッチ半径方向距離とシール部温度との関係を示す図である。
図4図2に示した本発明の実施例1の構造におけるフランジ近傍のハッチ半径方向距離とシール部温度との関係を示す図である。
図5】本発明の原子炉格納容器の実施例2におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図6】本発明の原子炉格納容器の実施例3におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図7】本発明の原子炉格納容器の実施例4におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図8】本発明の原子炉格納容器の実施例5におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図9】本発明の原子炉格納容器の実施例6におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図10】本発明の原子炉格納容器の実施例7におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図11】本発明の原子炉格納容器の実施例8におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図12】本発明の原子炉格納容器の実施例9におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図13】本発明の原子炉格納容器の実施例10におけるハッチ近傍の詳細を示す部分断面図である。
図14図13のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の原子炉格納容器について説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
【実施例1】
【0020】
図1に、本発明の原子炉格納容器が採用される原子力発電プラントの例として、改良沸騰水型原子炉(ABWR)の構成を示す。
【0021】
該図に示す如く、原子炉格納容器2内には原子炉圧力容器1が配置され、原子炉格納容器2の外側には原子炉建屋3が設けられている。原子炉建屋3の上部には、使用済み燃料貯蔵プール又は機器仮置き場としての保管部25が設けられている。
【0022】
原子炉格納容器2は鉄筋コンクリート製で、気密性を有するように内壁面に鋼製ライナを内張りしている。また、原子炉格納容器2の形状は、全高約36m、内径29m程度の円筒形状であり、原子炉圧力容器1は、原子炉格納容器2の軸芯とほぼ同軸に配置されている。
【0023】
原子炉格納容器2の内部は、原子炉圧力容器1などを取り囲むドライウェル4、サプレッション・チェンバ5から構成される。ドライウェル4とサプレッション・チェンバ5は鉄筋コンクリート製のダイヤフラム・フロア6により区画され、ベント管7によって相互に連通されている。そして、苛酷な事態が生じることにより原子炉圧力容器1が破損してドライウェル4内に蒸気が放出された場合、蒸気はベント管7を通ってサプレッション・チェンバ5内の水中に導かれ、サプレッション・チェンバ5内にプールされた水で蒸気を凝縮することで原子炉格納容器2内の圧力上昇を抑制している。
【0024】
原子炉格納容器2の格納容器側壁8は、例えば、その厚さが2m程度であり、格納容器側壁8の内側から外側に貫通する貫通部9が設けられている。この貫通部9は、サプレッション・チェンバ5内への作業員の出入口や機器搬出入に利用されている。また、貫通部9は、原子炉格納容器2の格納容器側壁8の外部に設けられた後述する機器ハッチ10により、運転時には閉止されている。
【0025】
図2は、本発明に係る原子炉格納容器2の機器ハッチ10近傍の詳細を示すものである。該図に示す原子炉格納容器2の貫通部9は、直径4m程度の円筒部材であり、その貫通部端面には、機器ハッチ10が開閉可能なように取り付けられている。
【0026】
この機器ハッチ10は、フランジ11を有する円筒部材10aと、円筒部材10aのフランジ11の端面に開閉可能に設置され運転時には閉止される蓋部10bと、フランジ11に設けられ、蓋部10bとフランジ11の接合面をシールして内部流体の漏洩を抑制するシール部材12とから構成されている。シール部材12は、例えば、シリコン系ゴムにより形成された2つのガスケットにより構成されている。なお、ガスケットの数は、2つに限られるものではない。
【0027】
また、シール部材12は十分な耐熱性を有するが、高い温度になるとシール性能が劣化する可能性が考えられる。特に、原子炉の過酷事故発生時には、原子炉格納容器2内に蒸気が発生するが、この蒸気が高温になると、シール部材12のシール性能が劣化する可能性が考えられる。
【0028】
そこで、図2に示す本実施例では、シール部材12が設置されたフランジ11面の内周側に、外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b及び外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b間に形成される空間14bから成る円筒状の遮蔽構造物13が、フランジ11との間にギャップ14aを形成してフランジ11を覆うように設置されている。この際、ギャップ14a及び空間14b内には、非凝縮性ガスが密閉されている。
【0029】
遮蔽構造物13は、一方側がフランジ11に固定された閉塞用構造物15aに嵌め込まれて支持され、他方側が蓋部10のフランジ11との接合部に固定された閉塞用構造物15bに嵌め込まれて支持されている。即ち、この閉塞用構造物15a及び15bにより、遮蔽構造物13の外側遮蔽板13aが、ギャップ14aに設置されたスペーサ19を介してフランジ11に固定されている。また、閉塞用構造物15a及び15b及びスペーサ19とフランジ11面の間には、これらの材料(例えば、鉄等の炭素鋼)より熱抵抗の大きい(熱伝導の低い)物質(例えば、セラミックス)で作られた部材20が挟み込まれている。
【0030】
本実施例での遮蔽とは、貫通部9内の大きい空間に生じた自然対流等の大規模な高温の流れが直接機器ハッチ10のフランジ11面に沿って流れないこと、ギャップ14a及び空間14b内に非凝縮性ガスを滞留させること、蒸気からの熱伝達を抑制すること、機器ハッチ10のフランジ11面への熱輻射を抑制することを意味する。
【0031】
このように、上述した機器ハッチ10のフランジ11の内周側に形成されたギャップ14a及び空間14bを閉塞し、かつ、ギャップ14aと空間14bで多重化(2重化以上)することにより、シール部材12近傍の温度を目標温度(シール部材12の耐熱温度)以下にすることができる。
【0032】
即ち、空間14bに非凝縮性ガスが密封された遮蔽構造物13が、非凝縮性ガスが密封されるギャップ14aを介してシール部材12を含むフランジ11に設置したことにより、発生した高温の蒸気等の流れ(自然対流等)は、直接熱をフランジ11面には伝達しない。蒸気の熱は、遮蔽構造物13及び非凝縮性ガスを介してからフランジ11に伝わる。そのため、非凝縮性ガスと固体面で生じる境界層の熱抵抗により、熱の伝達が妨げられることになる。特に、蒸気は凝縮すると高い熱伝達性能となるが、非凝縮性ガスは凝縮することが無いので、大きな熱抵抗を維持できる。また、設置されたギャップ14a及び空間14bは狭く、フランジ11面は強い流れを受けないため、熱伝達を低下できる。
【0033】
また、本実施例の遮蔽構造物13は、製作性及び設置性に優れていて、固定のための溶接或いはボルト締めは不要であり、スペーサ19に載せて開塞用構造物15aに嵌め込み、蓋部10に固定されている閉塞用構造物15bを閉じるだけで設置できる。また、遮蔽構造物13を取外す際は、遮蔽構造物13の端部を開塞用構造物15aにはめ込むだけで支持できる構造になっており、蓋部10bを取外すと遮蔽構造物13の反対側(蓋部10b側)に固定されている閉塞用構造物15も蓋部10bと共に外されるため、この状態で遮蔽構造物13を開塞用構造物15aから簡単に取り外すことができる。
【0034】
なお、遮蔽構造物13を支持する仕方として、閉塞用構造物15a及び15bでの嵌め込みに代えて、遮蔽構造物13を点溶接だけでフランジ11に固定しても良い。遮蔽構造物13を点溶接だけで固定することにより、全溶接に比べて遮蔽構造物13の取り外しが容易であり、貫通部9で行う作業等の支障にはならない。
【0035】
更に、閉塞用構造物15a及び15b、スペーサ19とフランジ11面の間には、これらの材料より熱抵抗の大きい(熱伝導の低い)物質で作られた部材20が挟み込まれているため、熱抵抗性能を向上できる効果がある。
【0036】
なお、ギャップ14a及び空間14bを多重化する場合、外側遮蔽板13aは軸方向(図2の左方向)からの熱伝導の影響を受けるため、外側遮蔽板13aの厚さを薄く作る必要がある。一方、内側遮蔽板13bは強度が必要なため、内側遮蔽板13bの厚さを厚くする必要がある。そのため、ギャップ14a及び空間14bを多重化する場合、遮蔽構造物13を形成する板材の厚みは、半径方向(図2の上下方向)位置によって変化させる必要がある(本実施例では、内側遮蔽板13bの厚さを外側遮蔽板13aの厚さより厚くしてある)。これにより、遮蔽構造物13の強度を十分に確保して、温度上昇を抑制することができる。
【0037】
図3及び図4を用いて本発明の効果について説明する。図3は従来構造、図4は本実施例の構造における機器ハッチ10の半径方向距離と機器ハッチ10内部の温度との関係をそれぞれ示す。
【0038】
図3に示す如く、従来構造(フランジ11の内面に遮蔽構造物13とギャップ14a及び空間14bのない構造)の場合は、機器ハッチ10内部の温度は、半径方向距離がフランジ11に近づいても殆ど変化が見られない。
【0039】
これに対して、図4に示す如く、本実施例の構造(フランジ11の内面に、空間14bが形成された遮蔽構造物13をギャップ14aを介してフランジ11に設置した構造)の場合は、機器ハッチ10内部の温度は、半径方向距離がフランジ11に近づくに従って低下していることが分かる。
【0040】
これは、本実施例の遮蔽構造物13の設置により、フランジ11の内側にギャップ14a及び空間14bが形成されるため、これらが熱抵抗となって、シール部の温度を低下させていることに他ならない。特に、気体と固体面との熱伝達抵抗により温度が低下し、これを2重化すると目標温度以下にすることが容易になる。
【0041】
遮蔽を2重化すれば、原子炉格納容器2内の温度が約600℃に達しても、空間14bで約400℃、ギャップ14aで約200℃となるため、シール部は200℃以下となる。なお、シール部が200℃以下であれば、例えば、シール部材12にシリコン系材質を用いることで耐熱性能を確保できる。また、2重化のメリットとしては、少なくとも空間14bは完全に非凝縮性ガスで密閉できることである。
【0042】
このような本実施例によれば、原子炉格納容器2のフランジ11のシール部を含む内側に空間14bが形成された遮蔽構造物13が、その遮蔽構造物13とフランジ11面の間にギャップ14aを形成して設置され、しかも、ギャップ14a及び空間14bには窒素、空気等の非凝縮性ガスが封入されており、事故時でも、ギャップ14a及び空間14bの内部には窒素、空気等の非凝縮性ガスが残留する。従って、上記遮蔽構造物13の設置により、発生した高温の蒸気の流れ(自然対流等)は、直接熱をフランジ11面には伝達しない。蒸気の熱は、遮蔽構造物13、ギャップ14a内の非凝縮性ガスを介してからフランジ11に伝わることになる。
【0043】
そのため、非凝縮性ガスと固体面で生じる境界層の熱抵抗により、熱の伝達が妨げられ、特に、蒸気は伝熱面で凝縮すると高い熱伝達性能となるが、非凝縮性ガスは凝縮することが無いので、大きな熱抵抗を維持できる。また、形成されたギャップ14a及び空間14bは狭く、フランジ11面での対流は抑制されるため、高い熱抵抗(低い熱伝達率)を維持できる。従って、冷却水等を用いることなくシール部の温度上昇を抑制してシール機能を維持することができる効果がある。
【0044】
また、シール部への熱の伝達経路としては熱輻射もあるが、高温物体からフランジ11面への熱輻射を、本実施例の遮蔽構造で遮ることができる。即ち、本実施例での遮蔽構造は、貫通部9内の大きい空間に生じた自然対流等の大規模な高温の蒸気流れによる熱伝達を抑制すると共に、ギャップ14a及び空間14b内の熱抵抗となる非凝縮性ガスを滞留させることができる。
【0045】
更に、本実施例の遮蔽構造は、フランジ11面への熱輻射を抑制することができ、また、遮蔽構造物13は取り外しが容易であり、定期検査時における貫通部9の出入りや機器搬入出作業の障害とならないように考慮されている。
【実施例2】
【0046】
図5に、本発明の原子炉格納容器の実施例2を示し、図2に相当する図である。
【0047】
図2に示した実施例1は、遮蔽構造物13が外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b及び外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b間に形成される空間14bから構成されているが、本実施例では、1枚の板で円筒状の遮蔽構造物23を形成し、この円筒状の遮蔽構造物23がフランジ11との間にギャップ24を形成して、シール部材12が設置されたフランジ11面の内周側にフランジ11を覆うように設置されている。
【0048】
本実施例の遮蔽構造物23も実施例1と同様に、その両側が閉塞用構造物15a及び15bに嵌め込まれて固定され、ギャップ24に設置されたスペーサ19を介してフランジ11面に支持され、ギャップ24には非凝縮性ガスが密閉されている。
【0049】
このような本実施例の構成でも、シール部における温度低減効果は期待できる。また、本実施例の場合、本件出願人が既に出願済の特願2012−196131号に記載の「原子炉格納容器の冷却装置」による水冷と併用して用いると、冷却に用いる水量を大幅に低減することが可能である。
【実施例3】
【0050】
ところで、上述した実施例1及び2のギャップ14a、24及び空間14bには、初期の状態の非凝縮性ガスである窒素や空気が滞留している。過酷事故発生後、原子炉格納容器2内に蒸気が充満しても、このギャップ14a、24及び空間14bは、数日間は蒸気と置換しない程度に閉ざされている。また、蒸気や水が空間内に流入しても、拡散、対流しにくい程度に閉ざされているため熱抵抗となる。非凝縮性ガスの閉止方法としては、遮蔽構造物13、23を閉塞用構造物15a及び15bで支持固定することが望ましい。
【0051】
また、閉塞用構造物15a及び15bや遮蔽構造物13、23は、過酷事故に伴う温度上昇とともに熱伸びして、強く密閉されれば効果が高まる。この効果を高める方法として、貫通部9や機器ハッチ10で用いられている材料(例えば、鉄等の炭素鋼)よりも線膨張係数の高い部材(例えば、SUS)を用いることも考えられる。また、ラビリンス等のシール機構を用いると閉塞性が高まる。
【0052】
図6に示す実施例3は、遮蔽構造物23が温度上昇により熱伸びすることにより、閉塞用構造物15a及び15bが強く締め付けられ、ギャップ24が閉塞される様子を示している。
【0053】
図2図6に示した実施例の構造では、フランジ11を締め付け機器ハッチ10を密閉するときに、同時に、遮蔽構造物23を閉塞用構造部物15a及び15bに押しつけて、ギャップ24を密閉することができる。
【0054】
このような本実施例の構成でも、上述した実施例と同様な効果を得ることができる。
【実施例4】
【0055】
また、遮蔽構造物23の長さは、板厚の厚いフランジ11を覆う以上(傾斜部を含む)に長くする必要がある。この方法により、軸方向からの金属内熱伝導による温度上昇の影響を大幅に抑制できる。
【0056】
図7に示す実施例4は、この例を示すもので、図5に示した状態から機器ハッチ10の蓋部10bに沿って半径方向まで遮蔽構造物23を伸ばし長くした構造である。
【0057】
このような本実施例の構成でも、上述した実施例と同様な効果を得ることができる。
【実施例5】
【0058】
また、遮蔽構造物23を溶接にて固定する場合は、図8に示す実施例5ように、遮蔽構造物23を板厚の厚いフランジ11に取り付けると、製作上の利点がある。この場合、貫通部9側のフランジ11でも、機器ハッチ10側の蓋部10bの板圧の厚い部分でも同様の効果が得られる。
【0059】
このような本実施例の構成でも、上述した実施例と同様な効果を得ることができる。
【実施例6】
【0060】
また、ギャップ14a、24及び空間14b内での対流を考慮すると、断熱材を内包したり、仕切り板を設置すると熱遮蔽効果がより向上する。仕切り板を設置する場合は、ギャップ14a、24を閉じる必要は無い。
【0061】
図9に示す実施例6は、上記のうち、遮蔽構造物13の空間14b内及び遮蔽構造物13とフランジ11間に形成されるギャップ14a内に断熱材16を設置したものである。なお、断熱材16は、ギャップ14a及び空間14b内の流れを止めるため、熱的観点からギャップ14a及び空間14bを閉鎖する必要性を低減できる利点がある。
【0062】
このような本実施例の構成でも、上述した実施例と同様な効果を得ることができる。
【実施例7】
【0063】
図10に示す実施例7は、遮蔽構造物23に追設シール17を設置し、遮蔽構造物23にシール機能を持たせ、閉塞用構造物15aとの接合部のシール性能を向上させたものである。
【0064】
これにより、シール部材12と追設シール17によるシールの多重防護となると共に、ギャップ24が完全に閉鎖されるため、シールの耐熱機能が格段に向上する。その結果、遮蔽構造物23に追設シール17を設置するだけで、シール多重防護及びシールの熱的損傷抑制の効果が大幅に向上できる。
【実施例8】
【0065】
図11に示す実施例8は、貫通部9内の内側端部に機器ハッチ10が設置された場合の例であり、この場合には、シール部を含むフランジ11の外周側に、フランジ11との間にギャップ24が形成されて遮蔽構造物23を設置している。
【0066】
即ち、本実施例は、1枚の板で形成された円筒状の遮蔽構造物23がフランジ11の外周面との間にギャップ24を形成して、シール部材12が設置されたフランジ11の外周側にフランジ11を覆うように設置され、その両側が閉塞用構造物15a及び15bに嵌め込まれて固定され、ギャップ24には、非凝縮性ガスが密閉されている。
【0067】
このような本実施例の構成でも、シール部材12の温度上昇を抑制することができる。
【実施例9】
【0068】
図12に示す実施例9は、貫通部9、フランジ11及び機器ハッチ10等の大気側(建屋側)の面に、貫通部9、フランジ11及び機器ハッチ10等の熱を放熱する放熱フィンのような放熱構造物18を設置したものである。
【0069】
このような本実施例の構成とすることにより、遮蔽構造物13によるシール部材12の温度上昇を抑制に加え、放熱構造物18により放熱が行われるのでより効果的である。
【0070】
なお、放熱フィンのような放熱構造物18に代えて、冷却設備(空冷、水冷)を設置したり、或いは貫通部9、フランジ11、機器ハッチ10等の大気側(建屋側)の金属面を、凸凹や粗く形成することで空冷性能を向上しても、本発明の効果は向上する。
【実施例10】
【0071】
図13及び図14に示す実施例10は、遮蔽構造物13の他の取り付け方を示す。該図に示す実施例10では、遮蔽構造物13をボルト及びナット21を用いて貫通部9及びフランジ11に取り付けている。
【0072】
このような本実施例の構成とすることにより、シール部の温度上昇を抑制することができることは勿論、ボルト及びナット21を用いると遮蔽構造物13の取り外しが可能であり、機器ハッチ10を閉止した後でも、他の入口から原子炉格納容器2内に入ることが可能となる。その場合、図14に示すように、遮蔽構造物13を周方向に幾つか分割して、設置することもできる。分割により生じた周方向の遮蔽構造物13同士のギャップは、周方向閉塞用構造物22により閉止することができる。この場合、遮蔽構造物13の周方向支持をフリーにして、自由に伸びるように設置できる。
【0073】
また、遮蔽構造物13やフランジ11の伝熱面に、耐熱塗料等の断熱性能を有する物質を付着させると効果が向上する。
【0074】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成を置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…原子炉圧力容器、2…原子炉格納容器、3…原子炉建屋、4…ドライウェル、5…サプレッション・チェンバ、6…ダイヤフラム・フロア、7…ベント管、8…格納容器側壁、9…貫通部、10…機器ハッチ、10a…円筒部材、10b…蓋部、11…フランジ、12…シール部材、13、23…遮蔽構造物、13aa…外側遮蔽板、13b…内側遮蔽板、14a、24…ギャップ、14b…空間、15a、15b…閉塞用構造物、16…断熱材、17…追設シール、18…放熱構造物、19…スペーサ、20…熱抵抗の大きい物質で作られた部材、21…ボルト及びナット、22…周方向閉塞用構造物、25…保管部。
図1
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