【実施例1】
【0020】
図1に、本発明の原子炉格納容器が採用される原子力発電プラントの例として、改良沸騰水型原子炉(ABWR)の構成を示す。
【0021】
該図に示す如く、原子炉格納容器2内には原子炉圧力容器1が配置され、原子炉格納容器2の外側には原子炉建屋3が設けられている。原子炉建屋3の上部には、使用済み燃料貯蔵プール又は機器仮置き場としての保管部25が設けられている。
【0022】
原子炉格納容器2は鉄筋コンクリート製で、気密性を有するように内壁面に鋼製ライナを内張りしている。また、原子炉格納容器2の形状は、全高約36m、内径29m程度の円筒形状であり、原子炉圧力容器1は、原子炉格納容器2の軸芯とほぼ同軸に配置されている。
【0023】
原子炉格納容器2の内部は、原子炉圧力容器1などを取り囲むドライウェル4、サプレッション・チェンバ5から構成される。ドライウェル4とサプレッション・チェンバ5は鉄筋コンクリート製のダイヤフラム・フロア6により区画され、ベント管7によって相互に連通されている。そして、苛酷な事態が生じることにより原子炉圧力容器1が破損してドライウェル4内に蒸気が放出された場合、蒸気はベント管7を通ってサプレッション・チェンバ5内の水中に導かれ、サプレッション・チェンバ5内にプールされた水で蒸気を凝縮することで原子炉格納容器2内の圧力上昇を抑制している。
【0024】
原子炉格納容器2の格納容器側壁8は、例えば、その厚さが2m程度であり、格納容器側壁8の内側から外側に貫通する貫通部9が設けられている。この貫通部9は、サプレッション・チェンバ5内への作業員の出入口や機器搬出入に利用されている。また、貫通部9は、原子炉格納容器2の格納容器側壁8の外部に設けられた後述する機器ハッチ10により、運転時には閉止されている。
【0025】
図2は、本発明に係る原子炉格納容器2の機器ハッチ10近傍の詳細を示すものである。該図に示す原子炉格納容器2の貫通部9は、直径4m程度の円筒部材であり、その貫通部端
面には、機器ハッチ10が開閉可能なように取り付けられている。
【0026】
この機器ハッチ10は、フランジ11を有する円筒部材10aと、円筒部材10aのフランジ11の端面に開閉可能に設置され運転時には閉止される蓋部10bと、フランジ11に設けられ、蓋部10bとフランジ11の接合面をシールして内部流体の漏洩を抑制するシール部材12とから構成されている。シール部材12は、例えば、シリコン系ゴムにより形成された2つのガスケットにより構成されている。なお、ガスケットの数は、2つに限られるものではない。
【0027】
また、シール部材12は十分な耐熱性を有するが、高い温度になるとシール性能が劣化する可能性が考えられる。特に、原子炉の過酷事故発生時には、原子炉格納容器2内に蒸気が発生するが、この蒸気が高温になると、シール部材12のシール性能が劣化する可能性が考えられる。
【0028】
そこで、
図2に示す本実施例では、シール部材12が設置されたフランジ11面の内周側に、外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b及び外側遮蔽板13aと内側遮蔽板13b間に形成される空間14bから成る円筒状の遮蔽構造物13が、フランジ11との間にギャップ14aを形成してフランジ11を覆うように設置されている。この際、ギャップ14a及び空間14b内には、非凝縮性ガスが密閉されている。
【0029】
遮蔽構造物13は、一方側がフランジ11に固定された閉塞用構造物15aに嵌め込まれて支持され、他方側が蓋部10のフランジ11との接合部に固定された閉塞用構造物15bに嵌め込まれて支持されている。即ち、この閉塞用構造物15a及び15bにより、遮蔽構造物13の外側遮蔽板13aが、ギャップ14aに設置されたスペーサ19を介してフランジ11に固定されている。また、閉塞用構造物15a及び15b及びスペーサ19とフランジ11面の間には、これらの材料(例えば、鉄等の炭素鋼)より熱抵抗の大きい(熱伝導の低い)物質(例えば、セラミックス)で作られた部材20が挟み込まれている。
【0030】
本実施例での遮蔽とは、貫通部9内の大きい空間に生じた自然対流等の大規模な高温の流れが直接機器ハッチ10のフランジ11面に沿って流れないこと、ギャップ14a及び空間14b内に非凝縮性ガスを滞留させること、蒸気からの熱伝達を抑制すること、機器ハッチ10のフランジ11面への熱輻射を抑制することを意味する。
【0031】
このように、上述した機器ハッチ10のフランジ11の内周側に形成されたギャップ14a及び空間14bを閉塞し、かつ、ギャップ14aと空間14bで多重化(2重化以上)することにより、シール部材12近傍の温度を目標温度(シール部材12の耐熱温度)以下にすることができる。
【0032】
即ち、空間14bに非凝縮性ガスが密封された遮蔽構造物13が、非凝縮性ガスが密封されるギャップ14aを介してシール部材12を含むフランジ11に設置したことにより、発生した高温の蒸気等の流れ(自然対流等)は、直接熱をフランジ11面には伝達しない。蒸気の熱は、遮蔽構造物13及び非凝縮性ガスを介してからフランジ11に伝わる。そのため、非凝縮性ガスと固体面で生じる境界層の熱抵抗により、熱の伝達が妨げられることになる。特に、蒸気は凝縮すると高い熱伝達性能となるが、非凝縮性ガスは凝縮することが無いので、大きな熱抵抗を維持できる。また、設置されたギャップ14a及び空間14bは狭く、フランジ11面は強い流れを受けないため、熱伝達を低下できる。
【0033】
また、本実施例の遮蔽構造物13は、製作性及び設置性に優れていて、固定のための溶接或いはボルト締めは不要であり、スペーサ19に載せて開塞用構造物15aに嵌め込み、蓋部10に固定されている閉塞用構造物15bを閉じるだけで設置できる。また、遮蔽構造物13を取外す際は、遮蔽構造物13の端部を開塞用構造物15aにはめ込むだけで支持できる構造になっており、蓋部10bを取外すと遮蔽構造物13の反対側(蓋部10b側)に固定されている閉塞用構造物15
bも蓋部10bと共に外されるため、この状態で遮蔽構造物13を開塞用構造物15aから簡単に取り外すことができる。
【0034】
なお、遮蔽構造物13を支持する仕方として、閉塞用構造物15a及び15bでの嵌め込みに代えて、遮蔽構造物13を点溶接だけでフランジ11に固定しても良い。遮蔽構造物13を点溶接だけで固定することにより、全溶接に比べて遮蔽構造物13の取り外しが容易であり、貫通部9で行う作業等の支障にはならない。
【0035】
更に、閉塞用構造物15a及び15b、スペーサ19とフランジ11面の間には、これらの材料より熱抵抗の大きい(熱伝導の低い)物質で作られた部材20が挟み込まれているため、熱抵抗性能を向上できる効果がある。
【0036】
なお、ギャップ14a及び空間14bを多重化する場合、外側遮蔽板13aは軸方向(
図2の左方向)からの熱伝導の影響を受けるため、外側遮蔽板13aの厚さを薄く作る必要がある。一方、内側遮蔽板13bは強度が必要なため、内側遮蔽板13bの厚さを厚くする必要がある。そのため、ギャップ14a及び空間14bを多重化する場合、遮蔽構造物13を形成する板材の厚みは、半径方向(
図2の上下方向)位置によって変化させる必要がある(本実施例では、内側遮蔽板13bの厚さを外側遮蔽板13aの厚さより厚くしてある)。これにより、遮蔽構造物13の強度を十分に確保して、温度上昇を抑制することができる。
【0037】
図3及び
図4を用いて本発明の効果について説明する。
図3は従来構造、
図4は本実施例の構造における機器ハッチ10の半径方向距離と機器ハッチ10内部の温度との関係をそれぞれ示す。
【0038】
図3に示す如く、従来構造(フランジ11の内面に遮蔽構造物13とギャップ14a及び空間14bのない構造)の場合は、機器ハッチ10内部の温度は、半径方向距離がフランジ11に近づいても殆ど変化が見られない。
【0039】
これに対して、
図4に示す如く、本実施例の構造(フランジ11の内面に、空間14bが形成された遮蔽構造物13をギャップ14aを介してフランジ11に設置した構造)の場合は、機器ハッチ10内部の温度は、半径方向距離がフランジ11に近づくに従って低下していることが分かる。
【0040】
これは、本実施例の遮蔽構造物13の設置により、フランジ11の内側にギャップ14a及び空間14bが形成されるため、これらが熱抵抗となって、シール部の温度を低下させていることに他ならない。特に、気体と固体面との熱伝達抵抗により温度が低下し、これを2重化すると目標温度以下にすることが容易になる。
【0041】
遮蔽を2重化すれば、原子炉格納容器2内の温度が約600℃に達しても、空間14bで約400℃、ギャップ14aで約200℃となるため、シール部は200℃以下となる。なお、シール部が200℃以下であれば、例えば、シール部材12にシリコン系材質を用いることで耐熱性能を確保できる。また、2重化のメリットとしては、少なくとも空間14bは完全に非凝縮性ガスで密閉できることである。
【0042】
このような本実施例によれば、原子炉格納容器2のフランジ11のシール部を含む内側に空間14bが形成された遮蔽構造物13が、その遮蔽構造物13とフランジ11面の間にギャップ14aを形成して設置され、しかも、ギャップ14a及び空間14bには窒素、空気等の非凝縮性ガスが封入されており、事故時でも、ギャップ14a及び空間14bの内部には窒素、空気等の非凝縮性ガスが残留する。従って、上記遮蔽構造物13の設置により、発生した高温の蒸気の流れ(自然対流等)は、直接熱をフランジ11面には伝達しない。蒸気の熱は、遮蔽構造物13、ギャップ14a内の非凝縮性ガスを介してからフランジ11に伝わることになる。
【0043】
そのため、非凝縮性ガスと固体面で生じる境界層の熱抵抗により、熱の伝達が妨げられ、特に、蒸気は伝熱面で凝縮すると高い熱伝達性能となるが、非凝縮性ガスは凝縮することが無いので、大きな熱抵抗を維持できる。また、形成されたギャップ14a及び空間14bは狭く、フランジ11面での対流は抑制されるため、高い熱抵抗(低い熱伝達率)を維持できる。従って、冷却水等を用いることなくシール部の温度上昇を抑制してシール機能を維持することができる効果がある。
【0044】
また、シール部への熱の伝達経路としては熱輻射もあるが、高温物体からフランジ11面への熱輻射を、本実施例の遮蔽構造で遮ることができる。即ち、本実施例での遮蔽構造は、貫通部9内の大きい空間に生じた自然対流等の大規模な高温の蒸気流れによる熱伝達を抑制すると共に、ギャップ14a及び空間14b内の熱抵抗となる非凝縮性ガスを滞留させることができる。
【0045】
更に、本実施例の遮蔽構造は、フランジ11面への熱輻射を抑制することができ、また、遮蔽構造物13は取り外しが容易であり、定期検査時における貫通部9の出入りや機器搬入出作業の障害とならないように考慮されている。