特許第6018947号(P6018947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6018947固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018947
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20161020BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20161020BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/052
   !H01B1/06 A
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-29894(P2013-29894)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2013-219017(P2013-219017A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-35479(P2012-35479)
(32)【優先日】2012年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】古川 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】本多 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 一博
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−103145(JP,A)
【文献】 特開2011−073963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 − 10/0587
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、該セラミックス材料が、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体であって、
前記酸化物合成粉末の合成直後又は前記酸化物焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下した前記セラミックス材料を、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において、650℃以上の温度域で熱処理し、それによりイオン伝導率を回復させることを含む、イオン伝導率回復方法。
【請求項2】
前記熱処理が、680℃以上の温度域で10分以上保持することを含む、請求項1に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項3】
前記熱処理が、800℃以上で行われる、請求項1に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項4】
前記熱処理が、800℃以上の温度域で10分以上保持することを含む、請求項3に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項5】
前記熱処理が、前記合成又は前記焼結時における最高到達温度よりも低い温度域で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項6】
前記熱処理が前記不活性ガス雰囲気下で行われ、前記不活性ガス雰囲気が、アルゴンガス、窒素ガス及びヘリウムガスから選択される少なくとも一種の雰囲気である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項7】
前記セラミックス材料が、添加元素としてAlをさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項8】
Laに対するAlのモル比Al/Laが0.004〜0.12である、請求項7に記載のイオン伝導率回復方法。
【請求項9】
Laに対するLiのモル比Li/Laが2.0〜2.5である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造が、Ta及び/又はNbをさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
Laに対するTa及びNbの合計量のモル比(Ta+Nb)/Laが0.03〜0.20である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セラミックス材料が、リチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記熱処理後に、前記セラミックス材料を不活性ガス雰囲気下、酸素雰囲気下及び減圧雰囲気下のいずれかにおいて降温させる工程をさらに含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器、更にはハイブリッド車、電気自動車等の低公害車(エコカー)等の開発に伴い、それらの電源としての二次電池の需要が急速に拡大している。このような用途に用いられる二次電池においては、液状電解質(電解液)が広く用いられているが、安全性向上の観点から、液状電解質の代わりに固体電解質を用いて全ての電池要素を固体で構成した全固体二次電池等の開発が現在進められている。このような全固体二次電池は、電解質がセラミックス焼結体で構成されるため、発火や漏液の恐れが無い上、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じにくいといった利点がある。特に、リチウム金属を電極に用いた全固体リチウム二次電池は、高エネルギー密度を実現しやすい二次電池として期待されている。
【0003】
二次電池の電池特性の向上には、正負極材料間の電位差拡大と、正負極に用いる各材料の容量密度の向上が重要となる。特に負極材料については、リチウム金属やリチウム合金類の使用が特性向上に大きく寄与することが知られている。しかしながら、リチウム金属を負極に用いると、充放電に伴い負極にデンドライト(樹枝状結晶)が析出して、最悪の場合はセパレータを突き破り、正負極間の短絡を引き起こす。その結果、短絡部に電流集中が起こり発熱することで電池の熱暴走の引き金になるため、安全性の問題が懸念されている。この点、電解質部分が固体電解質で形成される全固体電池は、析出物が固体電解質を突き破ることができないため、安全性がより高いものとして期待されている。
【0004】
一方で、電気自動車向けなど高容量電池への期待も高く、そのような候補の一つとしてリチウム空気電池が挙げられる。リチウム空気電池は、正極活物質として大気中の酸素を用い、負極活物質をリチウム金属とした、理論上最大容量が期待できる電池である。しかしながら、このような空気電池においても上記デンドライトの問題があり、上記同様、その解決が強く望まれている。
【0005】
固体電解質として、ガーネット型のセラミックス材料が注目されている。例えば、非特許文献1(Ramaswamy Murugan et al., Angew. Chem. Int. Ed.2007, 46, 1-5)には、LiLaZr12(以下、LLZという)が耐リチウム性に優れており、全固体リチウム二次電池の固体電解質として利用できる可能性が報告されている。
【0006】
また、特許文献1(特表2007−528108号公報)には、L5+x12の組成を有するガーネット型の固体イオン伝導体が開示されている。特許文献2(特開2011−051800号公報)には、LLZの基本元素であるLi,La及びZrに加えてAlを加えることで、緻密性やリチウムイオン伝導率を向上できることが開示されている。特許文献3(特開2011−073962号公報)には、LLZの基本元素であるLi,La及びZrに加えてNb及び/又はTaを加えることで、リチウムイオン伝導率を更に向上できることが開示されている。特許文献4(特開2011−073963号公報)には、Li、La、Zr及びAlを含み、Laに対するLiのモル比を2.0〜2.5とすることで、緻密性を更に向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−528108号公報
【特許文献2】特開2011−051800号公報
【特許文献3】特開2011−073962号公報
【特許文献4】特開2011−073963号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ramaswamy Murugan et al.,Angew.Chem. Int. Ed.2007, 46, 1-5
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、ガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料を大気中に放置しておくと、合成又は焼結直後よりもイオン伝導率が低下してしまい、この材料の本来有する優れた固体電解質性能を最大限に発揮できなくなくなるという問題があることがわかった。
【0010】
本発明者らは、今般、ガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料を、不活性ガス雰囲気下、650℃以上の温度域で熱処理することにより、合成又は焼結直後よりも低下したイオン伝導率を回復させることができるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料である、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体について、合成又は焼結直後よりも低下したイオン伝導率を回復させることにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、該セラミックス材料が、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体であって、
前記酸化物合成粉末の合成直後又は前記酸化物焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下した前記セラミックス材料を、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において、650℃以上の温度域で熱処理し、それによりイオン伝導率を回復させることを含む、イオン伝導率回復方法が提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料であって、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体であり、かつ、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において、少なくとも650℃以上の温度域での再熱処理が施されてなる、固体電解質セラミックス材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】例1〜3で得られた各試料のX線回折スペクトルを示す図である。
図2図1に示されるX線回折スペクトルの低強度の部分を拡大した図である。
図3】例2において測定された、ガーネット型焼結体の大気放置時間と伝導率との関係を示すグラフである。
図4】例3において測定された、ガーネット型焼結体の熱処理温度と伝導率との関係を示すグラフである。
図5】例3において測定された、ガーネット型焼結体の熱処理時間と伝導率との関係を示すグラフである。
図6】例4においてアルゴン雰囲気下で測定された、大気放置したガーネット型セラミックス粉末の熱重量測定(TG)結果である。
図7】例4においてヘリウム雰囲気下で測定された、大気放置したガーネット型セラミックス粉末の熱重量測定(TG)結果である。
図8】例4において窒素雰囲気下で測定された、大気放置したガーネット型セラミックス粉末の熱重量測定(TG)結果である。
図9】例4において減圧雰囲気下で測定された、大気放置したガーネット型セラミックス粉末の熱重量測定(TG)結果である。
図10】例4において得られた、炭酸リチウムの熱重量測定(TG)結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
イオン伝導率回復方法
本発明による方法は、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法である。このセラミックス材料は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体である。したがって、このセラミック材料はガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料であるということができるが、Li、La、Zr及びO以外の他の元素を結晶格子又はそれ以外の部分(例えば粒界)に含むものであってよい。そして、前述のとおり、このような材料を大気中に放置しておくと、合成又は焼結直後よりもイオン伝導率が低下してしまい、この材料の本来有する優れた固体電解質性能を最大限に発揮できなくなくなるという問題がある。
【0016】
本発明によれば、このような合成直後又は焼結直後よりもイオン伝導率が低下したセラミックス材料を、不活性ガス雰囲気下、650℃以上の温度域で熱処理することで、イオン伝導率を回復させることができる。その結果、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料の本来有する優れた特性を、所望のタイミングで十分に発揮させることが可能となる。これは、大気放置によってセラミックス材料内に生じた何らかの高抵抗要因が本発明の熱処理によって除去されるためではないかと考えられる。そのような高抵抗要因の主なものとしては、大気中の水分や炭酸ガス等に起因して形成される異相等が考えられる。
【0017】
したがって、本発明の方法が適用されるセラミックス材料は、リチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いられるものであるのが好ましい。この場合、本発明によるイオン伝導率回復方法は、セラミックス材料がリチウムイオン二次電池用の固体電解質として出荷される直前若しくはその際、又はリチウムイオン二次電池に固体電解質として組み込まれる直前若しくはその際に行われるのがリチウムイオン二次電池の品質を向上する上で特に好ましい。
【0018】
本発明における熱処理温度は、650℃以上の温度であり、好ましくは680℃以上であり、より好ましくは700℃以上であり、さらに好ましくは800℃以上であり、特に好ましくは873℃以上である。熱処理温度の上限温度は特に限定されないが、合成又は焼結時における最高到達温度よりも低い温度域で行えば十分であり、例えば1250℃が上限温度の目安として挙げられる。熱処理時間は、イオン伝導率が所望のレベルに回復しさえすれば任意の時間であってよく、イオン伝導率の低下レベルや熱処理温度に応じて適宜決定すればよい。典型的には、上記熱処理温度で10分以上保持するのが好ましく、より好ましくは15分以上であり、一方で製造コスト面では処理時間は短い方が良く2時間を越えない範囲で処理することが望ましい。例えば、680℃以上の温度域で10分以上保持するのが好ましく、より好ましくは800℃以上の温度域で10分以上保持する。
【0019】
本発明による熱処理は不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において行われる。これにより望ましくない化合物の形成を回避して、低下したイオン伝導率を確実に回復させることができる。本発明の方法に使用可能な不活性ガスは、酸化物合成粉末又は酸化物焼結体と化学反応を起こさない気体であれば特に限定されない。不活性ガスの例としては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及びラドンなどが挙げられ、好ましくは窒素、ヘリウム及びアルゴンである。減圧雰囲気の圧力は100Pa以下が好ましく、より好ましくは10Pa以下であり、さらに好ましくは1Pa以下である。本発明の好ましい態様によれば、熱処理後においても、セラミックス材料を不活性ガス雰囲気下、酸素雰囲気下及び減圧雰囲気下のいずれかにおいて降温させてもよい。熱処理時を上記雰囲気で行うことにより伝導率に変化をもたらす二酸化炭素や水分等あるいはそれらに起因する望ましくない化合物を除去することができるが、降温をも上記雰囲気下で行うことで、二酸化炭素や水分等が降温中にセラミックス材料に吸着するのを防止できるとの利点がある。
【0020】
固体電解質セラミックス材料
本発明のイオン伝導率回復方法が適用可能なセラミックス材料は、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体である。したがって、このセラミック材料はガーネット型又はガーネット型類似のLLZ系固体電解質セラミックス材料であるということができるが、Li、La、Zr及びO以外の他の元素を結晶格子又はそれ以外の部分(例えば粒界)に含むものであってよい。このような固体電解質セラミックス材料はリチウムイオン伝導性を有する。LLZ結晶構造の特徴としては、同じガーネット型結晶構造を有する材料の一例として、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(LiLaZr12)に類似のXRDパターンを有する点が挙げられる。なお、No.422259と比較すると構成元素が異なり、またセラミックス中のLi濃度などが異なる可能性があるため、回折角度や回折強度比が異なる場合もある。
【0021】
Laに対するLiのモル数の比Li/Laは2.0以上2.5以下であることが好ましい。この範囲であると良好な密度とリチウムイオン伝導性を得ることができる。特に、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気での合成では、Li/La比が2.05以上2.5以下であるのがリチウムイオン伝導性に優れる点で好ましく(例えばリチウムイオン伝導率は0.1mS/cm以上)、より好ましくは2.15以上2.3以下であり、リチウムイオン伝導率は0.5mS/cm以上である。大気等の雰囲気下での合成でも、Li/La比が2.05以上2.5以下であるのがリチウムイオン伝導性に優れる点で好ましく、より好ましくはLi/La比が2.15以上2.3以下であり、リチウムイオン伝導率が0.5mS/cm以上である。更には酸素雰囲気下での合成でも、同様にLi/La比が2.05以上2.5以下であるのがリチウムイオン伝導性に優れる点で好ましく、より好ましくはLi/La比が2.15以上2.3以下であり、リチウムイオン伝導率が0.5mS/cm以上である。なお、Laは合成プロセスにおいて損失しにくい元素であるため、Liの添加量を、Laに対するモル比として適切に規定することができる。また、Laに対するZrのモル比Zr/Laは0.5以上0.67以下であるのが好ましい。
【0022】
Li、La及びZrの各含有量は、LLZ結晶構造が得られている限り特に限定されない。本発明のセラミックス材料におけるLiサイト,Laサイト及びZrサイトの各モル比は、非特許文献1に記載のLiLaZr12における各元素のモル比であるLi:La:Zr=7:3:2とは必ずしも一致せず、むしろそれよりもずれる傾向がある。
【0023】
Alがセラミックス材料にさらに含まれるのが好ましい。Alの含有により、LLZ結晶構造を有するセラミックス材料をハンドリング可能な焼結体ペレットとして得ることができ、しかも、リチウムイオン伝導率も向上する。Alの存在形態は特に限定されず、構成金属元素としてLi、La、Zr及びAlを含有し、さらにOを含有し、単相のLLZ結晶構造を確認できれば、Alは結晶格子に存在してもよいし、結晶格子以外に存在してもよい。Alの存在は、例えば、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析やEPMA(電子線マイクロアナライザ)等により検出することができ、また、その含有量を決定することができる。Alは、焼結性(焼結体の密度)及び/又はリチウムイオン伝導率が改善される範囲で含まれていることが好ましい。また、Alは、セラミックス材料中にLLZ結晶構造を得ることができる範囲で含まれていることが好ましい。このような特性改善等が得られるAl含有量は、当業者であれば、例えば、LLZの理論量比及び当該理論量比に基づく適切なモル比で混合したLi成分、La成分、Zr成分、並びに所望によりNb成分及び/又はTa成分に対して適当量のAl成分の存在下で焼成工程を行って焼結体を形成し、その特性や結晶構造を測定することで、必要量のアルミニウム添加量又は含有量を容易に決定することができる。一例として、最終的に得られるLLZ−Al系セラミックス粉末や焼結体ペレットの全重量に対して、0.01〜1質量%とするのが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上である。このような量でアルミニウムが含有されているとき、改善された密度及びリチウムイオン伝導率が得られる。また、Al含有量は2質量%を大きく超えるとリチウムイオン伝導率が低下する傾向にあり、好ましくは、1.2質量%以下である。Laに対するAlのモル比Al/Laは、0.004〜0.12であるのが好ましい。
【0024】
Ta及び/又はNbがガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造に含まれていてもよい。すなわち、LLZのZrの一部がNb及びTaのいずれか一方又は双方で置換されることにより、置換前に比べて伝導率を向上させることができる。Nb及び/又はTaによるZrの置換率(モル比)は、良好な焼結体密度及び伝導率が得られるように焼成条件等も考慮して適宜設定することができる。例えば、Li成分、La成分、Zr成分、Nb成分及び/又はTa成分を含む原料をガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造のセラミックス材料を得るために準備する際に、ZrのNb及び/又はTaによる置換量(モル比)は、(Nb+Ta)/Laのモル比が0.03以上0.20以下となる量にすることが好ましい。この範囲であると、良好な焼結性とリチウムイオン導電率を得ることができる。なお、Nb+Taは、NbとTaの総モルを表し、Nbのみを含有する場合にはNbの総モルを表し、Taのみを含有する場合にはTaの総モルを表す。また、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を考慮すると、(Zr+Nb+Ta)/Laのモル比が0.6〜0.7であることが好ましい。なお、こうした比率の範囲は、原料及び焼結体のいずれにおいても適用される。このような構成金属元素の組成(モル比)は、例えば、以下のようにして出発原料に適用できる。すなわち、LLZ系セラミックス組成(LiLaZr12)をセラミックス材料に適用して、LiLaZr(ただし、Mは、NbとTaの総モル数を表す。)としたとき、Nb及びTaを含む構成金属元素のモル比を、a:b:x+y:y=7:3:2:0.1以上0.6以下とすることができる。
【0025】
本発明に適用可能な固体電解質セラミックス材料の密度は、4.0以上であることが好ましく、より好ましくは4.5g/cc以上、さらに好ましくは5.0g/cc以上である。特に5.0g/cc以上の密度であると、ハンドリング性が良好でかつ良好なリチウムイオン伝導率を得ることができる上に、薄板化した場合でも空孔等の欠陥に起因する貫通孔の生成が抑制でき、リチウムデンドライト短絡の抑制に効果的である。セラミックス材料の密度は、例えば、ペレットの重量と体積を測定し算出することができる。例えば円柱状のペレットの場合、重量を測定した後、マイクロメーターにてペレットの直径を数箇所測定して平均値とし、厚みも同様にマイクロメーターにて複数箇所測定して平均値として、これらの数値から体積を算出して、それぞれの値から密度を測定する方法又はそれと同等又はそれ以上の精度と正確性が得られる方法で測定することが好ましい。
【0026】
本発明に適用可能なセラミックス材料は、リチウムイオン伝導性を有している。本発明に適用可能なセラミックス材料のリチウムイオン伝導率は、0.1mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上である。リチウムイオン伝導率は、例えば、交流インピーダンス法又はそれと同等の精度と正確性が得られる方法で測定することが好ましい。
【0027】
本発明に適用可能なセラミックス材料は、粉末であってもよいし、焼結体(成形体)であってもよい。リチウム二次電池等の固体電解質としては、焼結体であることが好ましい。他物質を配合した固体電解質を得るためのセラミックス材料としては、粉末であることが好ましい。
【0028】
本発明に適用可能なセラミックス材料は、その伝導率や緻密性を利用して各種用途の固体電解質材料として用いられるものである。例えば、リチウム二次電池や、SOx、NOx、炭酸ガス及び酸素等の各種ガスセンサ材料に用いることができるが、全固体リチウム二次電池の固体電解質として用いるのが特に好ましい。例えば、電解液を用いる通常のリチウムイオン二次電池のセパレータ部分に本発明によるセラミックス材料を重ねる又は置換することで、正極側と負極側の電解液を完全に分離することができる。また、正極に硫黄を用いる電池(例えば負極リチウムとの組合せによるLiS電池)においても、セパレータの少なくとも一部を本発明によるセラミックス材料で置換して正負極の電解液を完全に分離することで、正極多硫化物の電解液への溶出に起因する電池容量低下を回避又は抑制することができる。さらに、リチウム空気電池等の空気二次電池においても、液状電解質の少なくとも一部を本発明によるセラミックス材料で置換することで、有機電解液の使用を回避又は抑制でき、電池構造を簡素化すると同時に有機電解液に起因する副反応を抑制することが可能となる。
【0029】
このように、本発明で対象とするセラミックス材料の適用が想定される電池には、リチウム金属を負極に用いることを想定したリチウム空気電池やリチウム硫黄電池をはじめ、全固体電池や現状のリチウムイオン電池に至るまで様々な電池が挙げられる。これらの電池のいずれにおいても、デンドライト短絡を本質的に防止する手段として、セラミックス製の緻密な固体電解質を正負極間の隔壁として用いる方法が有効と考えられる。この点、過去において、リチウム金属を負極に用いた二次電池では、デンドライト(樹脂状結晶)析出物による正負極の短絡事故が多発していた。デンドライト短絡が起こると、その短絡部に電流集中して過剰発熱を起こし電池の熱暴走を誘発して発熱・発火する事故に発展したため、現在ではリチウム金属を負極に用いた電池は一次電池用以外では使われていない。このような現状において、本発明で対象とするセラミックス材料には、このデンドライト短絡を本質的に防止して、上記各種の電池を二次電池として利用可能にできるとの利点がある。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0031】
例1:酸化物焼結体の作製及び評価
焼成用原料調製のための各原料成分として、水酸化リチウム(関東化学株式会社)、水酸化ランタン(信越化学工業株式会社)、酸化ジルコニウム(東ソー株式会社)、酸化タンタルを用意した。これらの粉末を LiOH:La(OH):ZrO:Ta=7:3:1.625:0.1875になるように秤量及び配合し、ライカイ機にて混合して焼成用原料を得た。
【0032】
第1の熱処理工程として、上記焼成用原料をアルミナ坩堝に入れて大気雰囲気で600℃/時間にて昇温し900℃にて6時間保持した。
【0033】
第2の熱処理工程として、第1の熱処理工程で得られた粉末に対しγ−Alを1.5質量%の濃度で添加し、この粉末と玉石を混合し振動ミルを用いて3時間粉砕した。粉砕後、本粉末を篩通しした後、これらの粉末を、金型を用いて約100MPaにてプレス成形してペレット状にした。得られたペレットをアルミナセッター上に乗せ、セッターごとアルミナ製のサヤ内に入れて、Ar雰囲気にて200℃/時間で昇温し、1000℃で36時間保持することにより焼結体ペレット(以下、ペレットという)を得た。なお、Ar雰囲気として、事前に容量約3Lの炉内を真空引きした後、純度99.99%以上のArガスを電気炉に2L/分で流した。
【0034】
得られたペレットの上下面を研磨した後、以下に示されるように、構造評価、化学分析及び電気化学測定を行った。
【0035】
構造評価
ペレットのX線回折測定を行ったところ、図1及び2に示されるスペクトルが得られた(図中の「焼結体焼成直後」を参照)。また、ペレットの重量を測定した後、マイクロメーターを用いてペレットの直径を数箇所測定して平均値を算出した後、同様にペレットの厚みを測定してペレットの体積を算出し、密度を算出した。その結果、焼成したペレットの密度は5.02g/cmであった。
【0036】
化学分析
ペレットのLi及びLa含有量を把握するため化学分析を行った。この分析は誘導結合プラズマ発光分析(ICP分析)により行った。その結果、焼成したペレットの組成は、Li:5.51wt%、La:50.37wt%、Li/Laモル比:2.19であった。
【0037】
リチウムイオン伝導率の測定
焼成したペレットにAuスパッタを施し、更に110℃以上で5時間以上真空乾燥させ、そのままAr雰囲気のグローブボックス内に導入し、CR2032コインセルに組み込んだ。本コインセルを大気中に取り出し、ソーラトロン社製電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタッド,周波数応答アナライザ)を用い、周波数1MHz〜0.1Hz、電圧10mVにて交流インピーダンス測定を行い、リチウムイオン伝導率を算出した。その結果、焼成したペレットのリチウムイオン伝導率は0.7mS/cmであった。
【0038】
結晶構造に関し、Ar雰囲気焼成のペレットはCSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(LiLaZr12)類似の結晶構造が得られた。このことから、得られた全てのペレットがLLZ結晶構造の特徴を有することが分かった。
【0039】
例2:大気放置による伝導率低下
例1で得られたAr雰囲気焼成のペレットを大気中に、以下の表1に示される時間にて放置した後、交流インピーダンス測定を行い、リチウムイオン伝導率を算出した。交流インピーダンスの測定は、ソーラートロン社製の1287型ポテンショ/ガルバノスタットと1255B型周波数応答アナライザとを組み合せて用いることにより行った。その際、測定周波数は1MHzから0.1Hzまでとし、測定信号電圧10mVとした。得られた結果は、以下の表1及び図3に示されるとおりであり、大気放置時間が長いほど伝導率が低下する傾向にあることが分かる。
【表1】
【0040】
また、72時間大気放置されたペレットについて例1と同様にX線回折測定を行ったところ、図1及び2に示されるスペクトルが得られた(図中の「大気放置後」を参照)。図1及び2において、大気放置後のペレットには、焼結体焼成直後には観察されなかった異相としての炭酸リチウムの存在が確認された。
【0041】
例3:熱処理による伝導率回復
例1で得られたAr雰囲気焼成のペレットをアルゴン雰囲気下で以下の表2〜3に示される温度及び時間で、又は酸素雰囲気下で以下の表4に示される温度及び時間で熱処理した後、交流インピーダンス測定を行い、リチウムイオン伝導率を算出した。交流インピーダンスの測定は、ソーラートロン社製の1287型ポテンショ/ガルバノスタット(商品名)と1255B型周波数応答アナライザ(商品名)を組合せて使用することにより行った。その際、測定周波数は1MHzから0.1Hzまでとし、測定信号電圧10mVとした。得られた結果は、以下の表2、表3、図4及び図5に示されるとおりであり、ある程度高い温度で熱処理を行うことで伝導率が回復することが分かる。
【表2】
【表3】
【表4】
【0042】
また、熱処理温度800℃で15分間保持した試料について例1と同様にX線回折測定を行ったところ、図1及び2に示されるスペクトルが得られた(図中の「熱処理後」を参照)。図1及び2において、熱処理を行うことで、大気放置により形成された炭酸リチウムの異相が無くなることが確認された。
【0043】
例4:熱重量測定(TG)による分析
例2に従い72時間大気放置したガーネット型セラミックス粉末について、示唆熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)装置(Rigaku社製、製品名Thermo Plus2 TG8120)を用いてアルゴン雰囲気下で熱重量測定(TG)を行ったところ、図6に示される結果が得られた。同図に示される重量変化から、680℃を超えたところで重量減少が収束し、680℃以上の温度域では少なくとも983℃までの間は重量変化がほとんど無いことが分かる。983℃を超える温度域に重量減少が見受けられるが、これはリチウムの蒸散によるものと考えられる。また、ヘリウム、窒素、及び減圧雰囲気(6Pa)下においても同様の熱重量測定(TG)を行ったところ、それぞれ図7、8、及び9に示される結果が得られ、700℃を超えたところで重量減少が収束し、少なくとも800℃まで重量変化がほとんど無いことが分かった。これらの重量変化は、大気放置により大気中の水分や炭酸ガス等が吸着ないし反応して重量増を招いていたことに起因するものと考えられる。そして、これらの吸着/反応物が異相等を生成することが高抵抗の要因となっていたものと考えられる。すなわち、これらの重量増要因が本発明の熱処理によって除去された結果、伝導率が回復したものと考えられる。図6〜9に示される結果から、重量増要因を除去するのに適する熱処理温度は少なくとも680℃以上(あるいは700℃以上)であることが示唆される。また、これらの結果から、熱処理後の降温を上記同様の所定雰囲気下で行うことで大気中の水分や炭酸ガス等の吸着をも防止できるものと理解される。
【0044】
一方、例2におけるX線回折結果から大気放置により生成する異相であると想定される炭酸リチウムについても、上記同様にアルゴン雰囲気下で熱重量測定(TG)を行ったところ、図10に示される結果が得られた。同図において、680℃〜873℃の温度域で重量減少が確認され、この温度域で炭酸リチウムが分解するものと推察される。重量減少開始温度の680℃は、大気放置したガーネット材料の重量減少が収束する温度と一致する。図10に示される結果から、873℃以上の温度域での熱処理であれば、より短時間で処理できる可能性があることからより好ましいといえる。
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図1
図2