特許第6018958号(P6018958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018958
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】タングステン酸ナトリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20161020BHJP
   C22B 34/36 20060101ALN20161020BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   C01G41/00 B
   !C22B34/36
   !C22B7/00 F
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-52810(P2013-52810)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-177383(P2014-177383A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(72)【発明者】
【氏名】板倉 剛
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 明彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 良治
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−505801(JP,A)
【文献】 特表2009−541596(JP,A)
【文献】 川北晃平 他,廃超硬工具からのタングステン等の回収,環境資源工学会シンポジウム「各種レアメタルの分離・回収技術」資料集,2008年 9月15日,Vol.17,pp.19-23
【文献】 天満屋泰彦,希少金属等高効率回収システム開発事業「廃超硬工具からのタングステン等の回収」,金属資源レポート,2008年11月,Vol.38, No.4,p.407-413
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 − 47/00
C01G 49/10 − 99/00
C22B 7/00
C22B 34/36
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン及びコバルトを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得る際、前記金属酸化物として、前記超硬スクラップを焙焼してタングステン酸コバルトまたは三酸化タングステンを得、得られた前記タングステン酸コバルトまたは前記三酸化タングステンを前記超硬スクラップ重量の14wt%以上、20wt%未満添加して、前記溶融塩と反応させ、副生成物である水溶性硫化物を固定化することによって、タングステン酸ナトリウムを得る、タングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項2】
タングステン及びコバルトを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得る際、前記タングステン酸ナトリウムを得る際に発生する前記コバルトを主成分とする残渣を酸化焙焼することによって前記金属酸化物を得、該コバルトを主成分とする前記残渣を酸化焙焼することによって得た前記金属酸化物を、前記超硬スクラップ重量の14wt%以上、20wt%未満添加することで、副生成物である水溶性硫化物を固定化することによって、タングステン酸ナトリウムを得ることを特徴とする、タングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項3】
タングステンを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得る際、前記金属酸化物として鉄、ニッケル、コバルトを含む酸化物を用い、前記金属酸化物を前記超硬スクラップ重量の10wt%以上、30wt%未満添加することによって、前記タングステン酸ナトリウムを得ることを特徴とするタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項4】
(a)硫酸ナトリウムを含む前記溶融塩中の硫酸ナトリウムと、前記超硬スクラップ中のタングステンカーバイドを反応させてタングステン酸ナトリウムの溶融塩を生成し、
(b)硫酸ナトリウムと前記タングステンカーバイドの反応の際に生じる硫化物イオンを、前記金属酸化物と反応させて固定化する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項5】
(c)生成した前記タングステン酸ナトリウムを水に溶解し、タングステン酸ナトリウム水溶液を得る、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物は、前記溶融塩の生成の前または後に添加される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物を前記超硬スクラップ重量の10wt%以上、20wt%未満添加する、請求項3に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項8】
生成した前記タングステン酸ナトリウムを水に溶解し、硫化物イオン混入比率(%)が0.2%以下のタングステン酸ナトリウム水溶液を得る、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項9】
前記硫酸ナトリウムを超硬スクラップ重量の70wt%以上、150wt%以下添加する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項10】
前記硫酸ナトリウムを超硬スクラップ重量の70wt%以上、100wt%以下添加する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項11】
前記超硬スクラップはクロムを含み、
前記タングステン酸ナトリウムを得る際に、クロムの酸化を6価未満とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項12】
前記反応を900℃以上、1100℃以下の温度で行うことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項13】
前記反応を900℃以上、1000℃以下の温度で行うことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【請求項14】
前記硫酸ナトリウムと前記タングステンの反応の際に生じる硫化物イオンを、前記溶融塩を攪拌しながら前記金属酸化物と反応させて固定化する請求項1〜13のいずれか1項に記載のタングステン酸ナトリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸ナトリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンカーバイドを主成分とし、コバルトやニッケルなどを結合金属として、チタンやタンタル、クロムなどの炭化物等が性能改善のために添加された超硬合金は、硬度や耐摩耗性に優れているため、金属加工用の工具などに広く用いられている。
【0003】
このような超硬合金を用いた工具は、使用時の欠損や摩耗などにより使用できなくなった工具やその欠損部が、ハードスクラップと呼ばれるスクラップとして廃棄される。
【0004】
また超硬工具の製造時に発生した超硬合金粉末の一部や、超硬工具を、研削砥石を用いて加工することにより発生した研削屑等は、ソフトスクラップと呼ばれるスクラップとして廃棄されることになる。
【0005】
なお、以下の説明では、超硬スクラップとは、タングステンカーバイドを50wt%以上含む、コバルトまたはニッケルを結合相として持つ合金の、使用済みスクラップとする。
【0006】
これらのハードスクラップやソフトスクラップには希少金属であるタングステンが多量に含まれている。タングステン資源の60%以上は、超硬工具に使用されている。さらに、タングステン材料の中間原料となるパラタングステン酸アンモニウム(APT)や酸化タングステンの価格は、近年上昇を続けており、超硬工具に含まれるタングステンのリサイクル技術の確立が望まれている。
【0007】
そこで、例えば非特許文献1では、使用済みの超硬工具等からタングステンカーバイドを再生する超硬工具のリサイクル方法が提案されている。具体的には、非特許文献1の超硬工具のリサイクル方法は、以下のようにして行なわれる。まず、超硬工具のハードスクラップやソフトスクラップを硝酸ナトリウムの溶融塩と反応(溶融塩溶解反応)させた後に水に溶解させてタングステン酸ナトリウム水溶液を作製する。次に、タングステン酸ナトリウム水溶液からイオン交換樹脂を用いたイオン交換法によりタングステン酸アンモニウム水溶液を作製し、タングステン酸アンモニウム水溶液からパラタングステン酸アンモニウム(APT)を晶出させる。その後、上記のように晶出させたパラタングステン酸アンモニウムをか焼、還元および炭化することによってタングステンカーバイドを得ることができる。
【0008】
一方、特許文献1には、硝酸ナトリウム溶融塩と超硬スクラップの反応の際に生成する6価クロムを、有害性が低く、水に不溶の3価クロムへと還元する処理や、効率的に反応を制御し、半連続で処理する方法について記載されている(特許文献1)。
【0009】
また、特許文献2には、硬質合金のスクラップおよび/または重金属のスクラップの溶融塩浴中での酸化によりタングステン酸ナトリウムを製造する際に、水酸化ナトリウムを60〜90wt%、硫酸ナトリウムを10〜40wt%含む溶融塩を用いることが提案されている(特許文献2)。また、上記のスクラップと溶融塩との反応は、バッチ式で運転され、直接加熱できるロータリーキルン中で行なわれることも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2010/104009号
【特許文献2】特表平11−505801号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】天満屋泰彦、希少金属等高効率回収システム開発事業「廃超硬工具からのタングステン等の回収」、金属資源レポート、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、Vol.38、No.4、2008年11月,pp.407−413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記文献に記載された技術には以下のような問題があった。
【0013】
まず、非特許文献1および特許文献1に記載のように、硝酸ナトリウムを溶融塩として用いた場合、以下のような問題があった。
【0014】
(1)硝酸ナトリウムの酸化力が硫酸ナトリウムと比較して非常に強いことから、超硬スクラップとの反応が極めて激しく進行し、制御が困難であるため、設備が複雑となる。
【0015】
(2)硝酸ナトリウムの酸化力が硫酸ナトリウムと比較して非常に強いことから、超硬スクラップに添加されているクロムが最大酸化数である6価まで酸化される。6価クロムは有害な化合物であり、特許文献1に記載するような、水溶液中の6価クロムを除去するために還元処理が必要となる。
【0016】
(3)硝酸ナトリウムの融点が308℃、分解点が380℃と低く、超硬スクラップと効率的に反応させることが可能な温度域では、硝酸ナトリウムの自己分解が生じる。このため、投入した硝酸ナトリウムを効率的に反応させることが困難となる場合がある。
【0017】
(4)硝酸ナトリウムは、硫酸ナトリウムと比較して高価であり、コストの増大につながる。
【0018】
(5)サーメットには、タングステンカーバイドを20wt%程度しか含まないものがあり、その場合、硝酸ナトリウムでの溶融塩溶解処理では反応しない成分が含まれることが多く、未反応物が反応容器内に残留する問題がある。
【0019】
一方で、特許文献2のように、硫酸ナトリウムを溶融塩として用いた場合は、硝酸ナトリウムと比較して酸化力が弱いことから、反応の制御が容易であること、6価クロムが生成しないこと、低コストであること、等の長所があるものの、以下に示すような問題があった。
【0020】
(1)硫酸ナトリウムが硫黄を含んでいることから、溶融塩溶解反応に伴い、有害な酸化硫黄ガスが発生し、その無害化処理が必要である。特に、引用文献2では酸化反応を促進させるために、空気の吹き込みを実施しているため、上記の有害ガスを含む排ガス量が増大し、排ガス処理設備の負荷が増大する。
【0021】
(2)硫酸ナトリウムが硫黄を含んでいることから、溶融塩溶解処理では、硫化ナトリウム等の水溶性硫化物が反応副生成物として生成する。タングステンの精錬のためには、製造したタングステン酸ナトリウムを水に溶解する必要があるが、この水溶液中で水溶性硫化物が硫化物イオンとなり、水素と結合して硫化水素ガスが発生する。このガスは有害であり、排ガス処理やタンクの密閉などが必要となる。また、硫化水素は環境省制定の「水環境保全に向けた取組のための要調査項目リスト」に記載されており、水中への硫化水素の溶解を最小限に抑える必要がある。さらに、次工程において硫黄沈殿の析出が起こり、タングステン材料の中間原料であるAPTの純度が低下する。
【0022】
(3)特許文献1では水酸化ナトリウムが溶融塩の60〜90%を占めているが、水酸化ナトリウムは硫酸ナトリウムと比較して高価であり、コストの増大につながる。
【0023】
このように、従来のタングステン酸ナトリウムの製造方法では、硝酸ナトリウムを用いた場合も、硫酸ナトリウムを用いた場合もいずれも問題を抱えており、特に、上記の有害な副生成物の発生を抑制可能な製造方法は無いのが現状であった。
【0024】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は従来よりも超硬スクラップを効率よく溶融塩と反応させることができ、かつ有害な副生成物の発生を抑制可能なタングステン酸ナトリウムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記した課題を解決するため、本発明者は、溶融塩として硫酸ナトリウムを用いた場合に生成する、硫黄由来の副生成物の発生を抑制する方法について検討した。
【0026】
その結果、溶融塩に金属酸化物を添加することにより、溶融塩中に含まれている水溶性硫化物を分解し、水に不溶性の硫化遷移金属塩として硫黄を固定することができ、6価クロムの生成を防止しながら、有害な硫化水素ガスの原因となる水溶性硫化物の生成を抑えることができることを見出し、本発明をするに至った。
【0027】
即ち、本発明の第1の態様は、タングステンを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得る、タングステン酸ナトリウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来よりも超硬スクラップを効率よく溶融塩と反応させることができ、かつ有害な副生成物の発生を抑制可能なタングステン酸ナトリウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のタングステン酸ナトリウムの製造方法を示すフローチャートである。
図2】表1をグラフにした図である。
図3】表2をグラフにした図である。
図4】表3をグラフにした図である。
図5】表4をグラフにした図である。
図6】表5をグラフにした図である。
図7】表6をグラフにした図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0031】
<本発明の原理>
まず、本発明の原理について、簡単に説明する。
前述のように、本発明のタングステン酸ナトリウムの製造方法は、タングステンを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得るものである。
【0032】
まず、硫酸ナトリウムは安価で、硝酸ナトリウムと比べて超硬スクラップ中のWCと穏やかに反応する利点があるが、その過程で、式1に示す反応によって硫化ナトリウムに代表される水溶性硫化物が生成してしまう問題があった。
3Na2SO4 + 2WC → Na2S + 2Na2WO4 + 2CO↑ + 2SO↑ …(式1)
【0033】
水溶性硫化物は、タングステン酸ナトリウムとともに水溶液に溶解し、硫化物イオンを生成する。タングステン酸ナトリウム水溶液は、イオン交換や溶媒抽出等の公知の方法でタングステン酸アンモニウムへと変換する。この工程で水溶液のpHを下げることが多く、その際に式2の反応によって硫化物イオンが硫化水素ガスとして排出される。硫化水素ガスは有害で、その除去のためにスクラバー等の方法で除去、固定化する必要があった。
Na2S + H2SO4 → Na2SO4 + H2S↑ …(式2)
【0034】
さらに、タングステン酸ナトリウム水溶液に、タングステンに対し0.2%以上の濃度で硫化物イオンが含まれている場合、上記の処理では完全に硫化物イオンの除去がされず、水溶液中に残留することとなる。水溶液中の硫化物イオン濃度が高い場合、次工程におけるイオン交換や溶媒抽出処理において硫黄沈殿の析出が起こる。タングステンカーバイドと硫酸ナトリウムの反応は、式1に示した通りであるが、実際の反応は、より複雑で、Na2S2などの硫化物も同時に生成することが分かっている。この化合物は、水溶液のpHを下げることで徐々に式3の反応によって硫黄沈殿を析出させると考えられる。その結果、タングステン材料の中間原料であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)に硫黄が混入することとなり、その純度が大幅に低下してしまう。
Na2S2 → Na2S + S↓ …(式3)
【0035】
以上の理由から、タングステン酸ナトリウム水溶液を得る時に、水溶液中の硫化物イオン濃度を水溶液中のタングステン比で0.2%以下に抑えることが必要となる。そこで、本発明では、溶融塩に金属酸化物を添加することとした。
【0036】
金属酸化物を溶融塩に添加することによって、式4に示した反応により溶融塩中に含まれている水溶性硫化物を分解し、水に不溶性の硫化金属塩として硫黄を固定することができる。つまり、式1と式4の反応を同時に起こすことによって、後述するように、6価クロムの生成を防止しながら、有害な硫化水素ガスの原因となる水溶性硫化物の生成を抑えることができる。
Na2S + MO → Na2O + MS (式4, MO:金属酸化物)
【0037】
<製造方法>
次に、上記原理に基づく具体的なタングステン酸ナトリウムの製造方法について、図1を参照して説明する。
【0038】
(原料の投入)
最初に、タングステン酸ナトリウムの原料となる超硬スクラップ、および硫酸ナトリウムを含む溶融塩の原料を用意し、溶解炉に投入する(図1のS1)。
【0039】
超硬スクラップは前述のように、タングステンカーバイドを50%wt以上含む、コバルト及び/またはニッケルを結合相として持つ合金の、使用済みスクラップである。ただし、前述のサーメットが混入していたとしても、未反応物が反応容器内に残留する問題はない。
【0040】
スクラップや粒子の形状に限定は無く、投入時には必ずしも溶融塩の原料と混合する必要はない。
【0041】
溶融塩の原料は前述のように硫酸ナトリウムを用いる。投入時には粒状のものを用いることができる。
【0042】
硫酸ナトリウムの量は、反応させる超硬スクラップの重量に対し、70wt%以上、150wt%以下であることが好ましく、70wt%以上、100wt%以下であることが、より好ましい。
【0043】
これは、硫酸ナトリウムの量が70wt%未満では、超硬スクラップが完全に反応せず、未回収のタングステンが大幅に増大するためである。また、150wt%を超えると、使用した硫酸ナトリウムの多くが未反応で残り、薬剤(溶融塩の原料)コストが増大するためである。
【0044】
また、溶融塩の融点を下げ、流れ性を向上させるため、溶融塩に水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムを添加してもよい。この際の水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムの添加量は最大で、反応させる超硬スクラップに対して0〜40wt%程度である。これは、40wt%以上添加すると、溶融塩の融点が上昇するためである。さらに、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムは超硬スクラップの反応にほとんど寄与しないため、これらの添加量が多くなると溶融塩の反応性が低下し、薬剤コストが上昇するためである。
【0045】
なお、溶解炉は、溶融塩を攪拌し易くするためには回転炉であることが望ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、坩堝等を用いてもよい。
【0046】
(溶融塩溶解)
次に、上記原料が投入された溶解炉を加熱して硫酸ナトリウムの溶融塩を生成し、溶融塩と超硬スクラップを反応させ、溶融塩中に溶解させる(図1のS2)。
【0047】
具体的には、硫酸ナトリウムの溶融塩と超硬スクラップ中のWCを反応させてタングステン酸ナトリウム溶融塩を生成する。
【0048】
反応中は溶融塩を撹拌するのが望ましく、この点からは回転溶融炉の使用が好ましい。処理温度は900℃以上、1100℃以下で、より好ましくは900℃以上、1000℃以下である。これは、後述するように、900℃以下では溶融塩と超硬スクラップの反応が進まず、未反応の超硬スクラップが残留するためである。また、1100℃を超えると酸化タングステンの沸点に近くなり、タングステンのロスにつながるためである。具体的には、酸化タングステンは式5の反応などによって生成する。この際、処理温度が1100℃以下の場合であっても酸化タングステンは生成するが、式6の反応などによってタングステン酸ナトリウムへと変化する。しかし、処理温度が1100℃を超える場合には、一部の酸化タングステンが、式6の反応が起こる前に昇華し炉外へと排出されてしまう。
WC + Na2SO4 → WO3 + Na2S + CO↑ …(式5)
WO3 + Na2SO4 → Na2WO4 + SO2 + 1/2O2 …(式6)
そのため、処理温度は1100度以下とするのが望ましい。
【0049】
なお、前述のように、硫酸ナトリウムの溶融塩と超硬スクラップの反応は、硝酸ナトリウムと超硬スクラップの反応よりも穏やかであるため、硝酸ナトリウムを用いた場合のように薬剤の供給量を調整することにより反応を制御したり、反応時に生成した排ガスを脱熱のために炉外へ排気したり、炉を冷やしたりして適切な炉内温度を保つ制御等は不要である。
【0050】
(金属酸化物の添加)
次に、金属酸化物を溶融塩中に添加する(図1のS3)。
【0051】
添加した金属酸化物は、例えば酸化鉄の場合は硫化鉄、酸化コバルトの場合は硫化コバルト等の不溶性硫化物となり、水溶性硫化物を分解、固定化する。
【0052】
添加する金属酸化物としては、酸素を含む遷移金属化合物であれば特に種類を限定するものではないが、例えば、酸化鉄、酸化タングステン、酸化コバルト等の遷移金属酸化物、タングステン酸コバルト等の遷移金属化合物や、これらを含む複合酸化物が挙げられる。
【0053】
中でも、酸化コバルトやタングステン酸コバルトが特に金属酸化物として適している。これは、コバルトが超硬スクラップに7〜15wt%程度含まれているためである。
【0054】
即ち、超硬スクラップを溶融塩溶解してタングステン酸ナトリウムを生成し、後述するように水に溶解して固液分離すると、コバルトを主成分とする不溶性残渣(コバルト残渣)が発生する。本発明における水溶性硫化物の固定を行うと、式4の反応で生成した硫化遷移金属塩は水に不溶性のため、コバルト残渣に含まれることとなる。
【0055】
コバルト残渣には50wt%以上の濃度でコバルトが含まれており、有価物として考えることができる。この際、水溶性硫化物の分解、固定化処理にFeやNi等の遷移金属酸化物を使用し、コバルト以外の他の遷移金属が多量に混入すると、コバルトの単離が困難となり、コバルト残渣の資源価値を大きく低下させてしまうが、硫黄の固定剤として酸化コバルトやタングステン酸コバルトを用いることで、コバルト残渣の価値低下を防ぐことができる。
【0056】
更に、コバルト残渣中に含まれる硫化コバルトは、ロータリーキルンなどで焙焼することによって酸化コバルトへの変換が可能であり、再度硫黄固定用の添加剤(金属酸化物)として用いることができる。従って、水溶性硫化物の固定剤に酸化コバルトを用いる場合は、新たに添加剤を購入することなく、繰り返して処理を継続することができる。
そのため、金属酸化物としては、コバルトの酸化物が好ましい。
【0057】
なお、コバルト酸化物以外の金属酸化物を用いる場合においても、生成した不溶性硫化物を焙焼したものを用いることができる。
【0058】
なお、WOやタングステン酸コバルトは、超硬工具や超硬工具の製造工程において発生する研削スラッジを焙焼することによっても得られ、硫黄を固定するための酸化物として、これらを用いることも可能である。
【0059】
また、金属酸化物の添加は、溶解後、即ち超硬スクラップが完全に溶融塩と反応して溶解してから添加するのが好ましい。これは、金属酸化物を反応当初から添加すると溶融塩の流れ性が低下し、反応中の攪拌が困難となる場合があるためである。
【0060】
ただし、溶融塩の流れ性に問題が無ければ、金属酸化物の添加の順番は、必ずしも溶解後である必要はなく、溶解前、例えば原料投入時(S1の時点)に混合させることもできる。
【0061】
なお、上記のタングステン酸ナトリウム生成反応や水溶性硫化物の固定化反応に、エアバブリング等による酸素源の供給は不要であり、発生する排ガスであるSOx等(式1参照)の処理設備の負荷を軽減できる。
【0062】
また、硫酸ナトリウム溶融塩は硝酸ナトリウム溶融塩と比較して酸化力が低く、炭化物として超硬スクラップに添加されているクロムは、有害である6価クロムまで酸化されることは無い(酸化は6価未満)。これは、以下の式7及び式8に示した、反応の自由エネルギーからも明らかである。硝酸ナトリウムを使った式8では、クロムは6価まで酸化され、水溶性のNa2CrO4を生成する。一方で、硫酸ナトリウムを使った式7では、3価のNa2Cr2O4となり、水によって加水分解され不溶性のCr2O3としてコバルト残渣に含まれ、タングステンと分離される。
硫酸ナトリウムの場合: Cr + Na2SO4 → 0.5Na2Cr2O4 + 0.5Na2SO4 + 0.7S2 + 0.3SO2 ΔG = -1982 kJ …式7
Na2Cr2O4 + 2H2O → Cr2O3↓ + 2Na+ + 2OH-
硝酸ナトリウムの場合: Cr + 2NaNO3 → Na2CrO4 + 0.5N2 + 0.5O2 ΔG = -2300 kJ …式8
Na2CrO4 → 2Na+ + CrO42-
【0063】
また、クロム同様に炭化物として超硬スクラップに添加されているバナジウムは3価のイオン種となり、水溶液に混入する。これは、公知の方法である、リンを除去するための水酸化マグネシウムによる共沈操作によって、リンと同時に除去できる。
【0064】
なお、添加する金属酸化物の量は、溶融塩と反応させる超硬スクラップの重量に対し、10wt%以上、30wt%未満であるのが好ましく、10wt%以上、20wt%未満であるのが、より好ましい。
【0065】
これは、添加する金属酸化物の量が10wt%未満では、水溶性硫化物の生成が顕著となるためである。
【0066】
また、30wt%を超えると、溶融塩の流れ性が低下し、溶融塩の排出が困難になるという不具合が生じるためである。即ち、生成した溶融塩は、タングステン酸ナトリウムを分離するために、水に溶解させる必要があるが、溶融塩が炉から排出できなくなると、この水への溶解が困難となり、生産に支障をきたすためである。
【0067】
(生成物の分離)
次に、生成したタングステン酸ナトリウム、固定化した硫化物を分離する(図1のS4)。
【0068】
分離の方法としては、溶融塩を水に溶解してタングステン酸ナトリウム水溶液を生成する方法が挙げられる。
【0069】
水への溶解は、溶融塩のまま水へと投入してもよいし、冷却後に水溶解してもよい。
【0070】
この際、溶融塩中の成分のうち、水への不溶性成分としては、タンタル、ニオブ、クロム、チタン、ニッケル、鉄、コバルト等の酸化物または硫化物が挙げられる。
【0071】
これらはフィルタープレス等の既知のろ過プロセスでタングステン酸ナトリウムと分離することができる。
【0072】
なお、不溶性成分の50〜80%は硫化コバルトであり、ロータリーキルンなどで焙焼することで酸化コバルトへと変化させることができる。この酸化コバルトは、前述のように、溶融塩に添加する金属酸化物として再度利用可能である。
【0073】
そのため、硫化物を分離する際にコバルト残渣(CoS)を分離し(図1のS5)、焙焼して酸化コバルトを得て(図1のS6)、これを溶融塩に添加してもよい(図1のS3)。
以上が本発明のタングステン酸ナトリウムの製造方法である。
【0074】
このように、本実施形態によれば、タングステンを含む超硬スクラップを、硫酸ナトリウムを含み、金属酸化物を添加した溶融塩と反応させ、タングステン酸ナトリウムを得る。
【0075】
そのため、従来よりも超硬スクラップを効率よく溶融塩と反応させることができ、かつ有害な副生成物の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0077】
(実施例1)
種々の配合率で超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させ、超硬スクラップの反応率を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0078】
まず、アズワン社製磁性ルツボ(アルミナ99%、形状は円柱:φ90mm×120mm)に超硬スクラップ500gと硫酸ナトリウム0〜750gを投入し、1000℃において5時間保持し、溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。なお、今後の実施例において特に断りがない限り、超硬スクラップとして、WC:90wt%、Co:9wt%、Cr:0.5wt%、その他0.5wt%の組成の、超硬工具のスクラップを使用した。
【0079】
投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、酸化コバルト100gを添加し、数秒間溶解物を撹拌した。その後、15分間保持した。
【0080】
溶解処理は撹拌せずに実施した。回収した溶解物は冷却後、5Lの純水中に溶解し、水溶液中のタングステン濃度から、得られたタングステン酸ナトリウムの量を算出した。タングステン濃度の測定は、ICP−AESにて行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0081】
1.サンプルを0.1ml測り取り、純水を加えて100mlに希釈する。
2.10mg/dm、100 mg/dm、200 mg/dmのタングステンを含む標準溶液を用い、各濃度における発光強度を測定する。
3.サンプルの発光強度を測定する。
4.検量線からサンプル中のタングステン濃度を求める。
【0082】
溶解処理後の未反応物及び水溶液中のタングステン濃度から算出した、超硬スクラップの反応率と硫酸ナトリウム添加量の関係を図2および表1に示す。なお、スクラップ反応率とは、超硬スクラップとして供給されたタングステンの重量のうち、溶融塩と反応してタングステン酸ナトリウムになったタングステンの重量の割合である。
【0083】
【表1】
【0084】
図2および表1から明らかなように、超硬スクラップに対する硫酸ナトリウムの量が少なくなるほど、未反応の超硬スクラップが残留し、タングステンの回収率が低下した。
【0085】
一方で、硫酸ナトリウムの割合が増えるほど、スクラップの反応率が上昇し、硫酸ナトリウムの割合が70wt%で90%以上の超硬スクラップが反応した。
【0086】
また、硫酸ナトリウムの割合が100wt%で、反応率が100%となり、超硬スクラップが完全に反応していた。
【0087】
以上の結果から、超硬スクラップを完全に反応させるためには、超硬スクラップ重量とほぼ同重量の硫酸ナトリウムの添加が必要であることがわかった。
【0088】
また、硫酸ナトリウムを100%以上添加しても超硬スクラップの反応率に変化は無いが、硫酸ナトリウムの消費量が増大することになる。
【0089】
そのため、硫酸ナトリウムの最適使用量は、超硬スクラップに対して70wt%以上、150wt%以下、より好ましくは、70wt%以上、100wt%以下であることが分かった。
【0090】
(実施例2)
次に、種々の金属添加物を種々の割合で添加し、硫化物の固定化能力および溶融塩の流動性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0091】
まず、アズワン社製磁性ルツボ(アルミナ44%、シリカ46%、寸法はφ69mm×53mm)に実施例1と同じ超硬スクラップまたはWC:85wt%、Co:15wt%の組成の超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、1000℃において溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。
【0092】
なお、処理時間に関しては実施例1において超硬スクラップ重量に対し100wt%の硫酸ナトリウムを使用した場合、2時間の処理でスクラップが完全に溶解することを確認しているため、今後の試験は全て、処理時間2時間で実施した。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0093】
投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、種々の遷移金属酸化物(ここでは酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化鉄の3種類)を添加し、数秒間溶解物を撹拌した。その後、15分間保持した。
【0094】
その後、溶解物を直接常温の水に投入してタングステン酸ナトリウム水溶液を生成し、水溶液中に含まれる硫化物イオンの濃度を測定した。
【0095】
硫化物イオンの濃度の測定は、アメリカ合衆国環境保護庁において定められた硫化物イオンの定量方法(Method3761)にて行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0096】
1.既知の量の0.025Nのヨウ素水溶液を500mlフラスコに入れる。
2.蒸留水を加え、水溶液量を20ml程度にする。
3.6Nの塩化水素水溶液をフラスコに2ml加える。
4.200mlのサンプルをフラスコに加える。
5.ヨウ素の色がこの時点で消失した場合には、ヨウ素水溶液を加える。
6.0.025Nのチオ硫酸ナトリウム水溶液により滴定を行う。
7.ヨウ素の色が薄くなってきたら、でんぷん指示薬を加え、青色を発色させる。
8.ヨウ素-でんぷん反応による青色が消失するまでに要したチオ硫酸ナトリウム水溶液の量で、水溶液中の硫化物イオン濃度を決定する。
【0097】
上記の操作において使用したヨウ素溶液量A(ml)と、チオ硫酸ナトリウム水溶液量B(ml)とした場合、以下の式によって水溶液中の硫化物イオン濃度を決定した。
硫化物イオン濃度(mg/L)=400×(A−B)/サンプル使用量(ml)
【0098】
次に、ICP-AESによりタングステン濃度を測定し、以下の式により、タングステン酸ナトリウム水溶液中の硫化物イオン混入比率S/W(%)を求めた。
S/W(%)= 硫化物イオン濃度(g/L)/タングステン濃度(g/L) × 100
【0099】
今後タングステン酸ナトリウム水溶液中の硫化物イオン混入比率(%)を、S/W(%)と表記する。
【0100】
結果を図3および表2に示す。なお、表中の溶融塩流動性の「○」は坩堝を傾けるだけで溶湯を取出すことができた場合を意味し、「△」は坩堝を逆さにしないと溶融塩が出てこず坩堝に固形分が残留する場合を意味する。
【0101】
【表2】
【0102】
図3および表2から明らかなように、いずれの酸化物においても、水溶性硫化物を固定可能であったが、酸化コバルトおよび酸化ニッケルの方が、酸化鉄よりも水溶性硫化物の固定化能力が高く、溶融塩中に生成した水溶性硫化物は、ほぼ完全に固定化された(即ち、S/Wが0%になった)。水溶性硫化物の固定化に要する遷移金属酸化物量は、超硬スクラップ中のコバルト含有量によって変化し、少なくとも10wt%以上の添加が必要であった。また、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化鉄の添加量が増えると、水溶性硫化物の固定化が進行したが、超硬スクラップ重量比で30%以上添加すると、溶融塩溶解物の流動性に低下がみられた。
【0103】
さらに、超硬スクラップを硫酸ナトリウム溶融塩によって処理した際に発生する、コバルトを主成分とする残渣を焙焼した粉末を添加した場合についても同様の評価を行った。結果を図4および表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
図4および表3から明らかなように、純粋な酸化コバルトと比較するとS/Wが高く、固定化の効率の低下が見られたものの、14%以上の添加でタングステンに対する硫黄の割合であるS/Wが0.2%を下回ることを確認した。超硬スクラップに含まれるコバルトの重量によっても焙焼コバルト残渣の最適添加量は変化し、15wt%と非常にコバルト含有量の多いスクラップの場合、9wt%の添加でS/Wは0.2%を下回った。20%以上の酸化コバルトや焙焼コバルト残渣を添加しても、S/Wに大差は無かった。このような水溶性硫化物の固定化処理は、タングステン酸コバルトやWOなどによっても達成できる。
【0106】
以上の結果より、焙焼コバルト残渣(主成分酸化コバルト)、焙焼粉末スクラップ(主成分タングステン酸コバルト)、焙焼粉末スクラップ(主成分三酸化タングステン)の最適添加量は、添加物種および超硬スクラップのコバルト含有量によっても若干異なるが、超硬スクラップに対して14wt%以上、30wt%未満、より好ましくは14wt%以上、20wt%未満であることが分かった。
【0107】
(実施例3)
実施例2と同様の磁性ルツボに超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、金属酸化物としての酸化鉄を処理前(溶解前)から添加した場合と、タングステン酸ナトリウム溶融塩が生成した後(溶解後)に添加した時の比較を行った。なお、その他の条件は実施例2と同様である。
結果を図5及び表4に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
図5及び表4から明らかなように、酸化鉄を溶融塩生成前に投入するか、生成後に投入するかでS/Wに大きな差はなかった。
【0110】
そのため、水溶性硫化物の固定化反応は、酸化鉄添加のタイミング(酸化鉄を溶融塩生成前に投入するか、生成後に投入するか)によって大きな変化は無いことが分かった。
【0111】
(実施例4)
種々の温度により溶解を行って、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させ、スクラップの反応率を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0112】
まず、磁性ルツボに実施例1と同様の組成の超硬スクラップ44.1gと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、800℃から1100℃で2時間、溶解処理を行った。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0113】
その後、生成した溶融塩を回収し、超硬スクラップの反応率を調査した。その結果を図6および表5に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
図6および表5から明らかなように、800℃では殆ど反応が進んでおらず、超硬スクラップを硫酸ナトリウム溶融塩によってタングステン酸ナトリウムの溶融塩へと変換するためには、900℃以上の温度が必要であることがわかった。
【0116】
なお、1100℃で処理した場合には、反応率が100%であったものの、反応装置周辺に酸化タングステンの付着が確認された。これは酸化タングステンの沸点が比較的低く、高温で処理したためにWOが揮発し、これが凝固したものと考えられる。即ち、WOの沸点は1840℃程度であるが、1100℃〜1400℃で昇華が始まるため、揮発したWOが凝固したものと考えられる。
【0117】
(実施例5)
金属酸化物の添加後に溶融塩を攪拌した場合と攪拌しなかった場合とで、硫黄の固定化時間を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0118】
磁性ルツボに実施例1と同様の組成の超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、1000℃において2時間、溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0119】
次に、投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、酸化コバルトを超硬スクラップ重量の11%添加し、その後、試料によっては、撹拌を数秒間実施し、試料によっては撹拌を行わなかった。
【0120】
処理後の溶解物を直接常温の水に投入し、水溶液中に含まれる硫化物イオンの濃度を測定した。結果を図7および表6に示す。なお、図7および表6の硫黄固定化時間とは、酸化コバルトを添加後、水溶性硫化物の固定化に要する時間であり、具体的には、酸化コバルトを投入してから、水に直接投入するまでに1000℃に保持する時間である。
【0121】
【表6】
【0122】
表6に示すように、酸化コバルト添加後、撹拌を行うことで、攪拌を行わない場合と比べて、速やかに水溶性硫化物の固定化が進むことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づき説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはない。
【0124】
当業者であれば、本発明の範囲内で各種変形例や改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明の範囲に属するものと了解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7