【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0077】
(実施例1)
種々の配合率で超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させ、超硬スクラップの反応率を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0078】
まず、アズワン社製磁性ルツボ(アルミナ99%、形状は円柱:φ90mm×120mm)に超硬スクラップ500gと硫酸ナトリウム0〜750gを投入し、1000℃において5時間保持し、溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。なお、今後の実施例において特に断りがない限り、超硬スクラップとして、WC:90wt%、Co:9wt%、Cr
3C
2:0.5wt%、その他0.5wt%の組成の、超硬工具のスクラップを使用した。
【0079】
投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、酸化コバルト100gを添加し、数秒間溶解物を撹拌した。その後、15分間保持した。
【0080】
溶解処理は撹拌せずに実施した。回収した溶解物は冷却後、5Lの純水中に溶解し、水溶液中のタングステン濃度から、得られたタングステン酸ナトリウムの量を算出した。タングステン濃度の測定は、ICP−AESにて行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0081】
1.サンプルを0.1ml測り取り、純水を加えて100mlに希釈する。
2.10mg/dm
3、100 mg/dm
3、200 mg/dm
3のタングステンを含む標準溶液を用い、各濃度における発光強度を測定する。
3.サンプルの発光強度を測定する。
4.検量線からサンプル中のタングステン濃度を求める。
【0082】
溶解処理後の未反応物及び水溶液中のタングステン濃度から算出した、超硬スクラップの反応率と硫酸ナトリウム添加量の関係を
図2および表1に示す。なお、スクラップ反応率とは、超硬スクラップとして供給されたタングステンの重量のうち、溶融塩と反応してタングステン酸ナトリウムになったタングステンの重量の割合である。
【0083】
【表1】
【0084】
図2および表1から明らかなように、超硬スクラップに対する硫酸ナトリウムの量が少なくなるほど、未反応の超硬スクラップが残留し、タングステンの回収率が低下した。
【0085】
一方で、硫酸ナトリウムの割合が増えるほど、スクラップの反応率が上昇し、硫酸ナトリウムの割合が70wt%で90%以上の超硬スクラップが反応した。
【0086】
また、硫酸ナトリウムの割合が100wt%で、反応率が100%となり、超硬スクラップが完全に反応していた。
【0087】
以上の結果から、超硬スクラップを完全に反応させるためには、超硬スクラップ重量とほぼ同重量の硫酸ナトリウムの添加が必要であることがわかった。
【0088】
また、硫酸ナトリウムを100%以上添加しても超硬スクラップの反応率に変化は無いが、硫酸ナトリウムの消費量が増大することになる。
【0089】
そのため、硫酸ナトリウムの最適使用量は、超硬スクラップに対して70wt%以上、150wt%以下、より好ましくは、70wt%以上、100wt%以下であることが分かった。
【0090】
(実施例2)
次に、種々の金属添加物を種々の割合で添加し、硫化物の固定化能力および溶融塩の流動性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0091】
まず、アズワン社製磁性ルツボ(アルミナ44%、シリカ46%、寸法はφ69mm×53mm)に実施例1と同じ超硬スクラップまたはWC:85wt%、Co:15wt%の組成の超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、1000℃において溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。
【0092】
なお、処理時間に関しては実施例1において超硬スクラップ重量に対し100wt%の硫酸ナトリウムを使用した場合、2時間の処理でスクラップが完全に溶解することを確認しているため、今後の試験は全て、処理時間2時間で実施した。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0093】
投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、種々の遷移金属酸化物(ここでは酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化鉄の3種類)を添加し、数秒間溶解物を撹拌した。その後、15分間保持した。
【0094】
その後、溶解物を直接常温の水に投入してタングステン酸ナトリウム水溶液を生成し、水溶液中に含まれる硫化物イオンの濃度を測定した。
【0095】
硫化物イオンの濃度の測定は、アメリカ合衆国環境保護庁において定められた硫化物イオンの定量方法(Method3761)にて行った。具体的な手順は以下の通りである。
【0096】
1.既知の量の0.025Nのヨウ素水溶液を500mlフラスコに入れる。
2.蒸留水を加え、水溶液量を20ml程度にする。
3.6Nの塩化水素水溶液をフラスコに2ml加える。
4.200mlのサンプルをフラスコに加える。
5.ヨウ素の色がこの時点で消失した場合には、ヨウ素水溶液を加える。
6.0.025Nのチオ硫酸ナトリウム水溶液により滴定を行う。
7.ヨウ素の色が薄くなってきたら、でんぷん指示薬を加え、青色を発色させる。
8.ヨウ素-でんぷん反応による青色が消失するまでに要したチオ硫酸ナトリウム水溶液の量で、水溶液中の硫化物イオン濃度を決定する。
【0097】
上記の操作において使用したヨウ素溶液量A(ml)と、チオ硫酸ナトリウム水溶液量B(ml)とした場合、以下の式によって水溶液中の硫化物イオン濃度を決定した。
硫化物イオン濃度(mg/L)=400×(A−B)/サンプル使用量(ml)
【0098】
次に、ICP-AESによりタングステン濃度を測定し、以下の式により、タングステン酸ナトリウム水溶液中の硫化物イオン混入比率S/W(%)を求めた。
S/W(%)= 硫化物イオン濃度(g/L)/タングステン濃度(g/L) × 100
【0099】
今後タングステン酸ナトリウム水溶液中の硫化物イオン混入比率(%)を、S/W(%)と表記する。
【0100】
結果を
図3および表2に示す。なお、表中の溶融塩流動性の「○」は坩堝を傾けるだけで溶湯を取出すことができた場合を意味し、「△」は坩堝を逆さにしないと溶融塩が出てこず坩堝に固形分が残留する場合を意味する。
【0101】
【表2】
【0102】
図3および表2から明らかなように、いずれの酸化物においても、水溶性硫化物を固定可能であったが、酸化コバルトおよび酸化ニッケルの方が、酸化鉄よりも水溶性硫化物の固定化能力が高く、溶融塩中に生成した水溶性硫化物は、ほぼ完全に固定化された(即ち、S/Wが0%になった)。水溶性硫化物の固定化に要する遷移金属酸化物量は、超硬スクラップ中のコバルト含有量によって変化し、少なくとも
10wt%以上の添加が必要であった。また、
酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化鉄の添加量が増えると、水溶性硫化物の固定化が進行したが、超硬スクラップ重量比で30%以上添加すると、溶融塩溶解物の流動性に低下がみられた。
【0103】
さらに、超硬スクラップを硫酸ナトリウム溶融塩によって処理した際に発生する、コバルトを主成分とする残渣を焙焼した粉末を添加した場合についても同様の評価を行った。結果を
図4および表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
図4および表3から明らかなように、純粋な酸化コバルトと比較するとS/Wが高く、固定化の効率の低下が見られたものの、14%以上の添加でタングステンに対する硫黄の割合であるS/Wが0.2%を下回ることを確認した。超硬スクラップに含まれるコバルトの重量によっても焙焼コバルト残渣の最適添加量は変化し、15wt%と非常にコバルト含有量の多いスクラップの場合、9wt%の添加でS/Wは0.2%を下回った。20%以上の酸化コバルトや焙焼コバルト残渣を添加しても、S/Wに大差は無かった。このような水溶性硫化物の固定化処理は、タングステン酸コバルトやWO
3などによっても達成できる。
【0106】
以上の結果より、
焙焼コバルト残渣(主成分酸化コバルト)、焙焼粉末スクラップ(主成分タングステン酸コバルト)、焙焼粉末スクラップ(主成分三酸化タングステン)の最適添加量は、添加物種および超硬スクラップのコバルト含有量によっても若干異なるが、超硬スクラップに対して14wt%以上、30wt%未満、より好ましくは
14wt%以上、20wt%未満であることが分かった。
【0107】
(実施例3)
実施例2と同様の磁性ルツボに超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、金属酸化物としての酸化鉄を処理前(溶解前)から添加した場合と、タングステン酸ナトリウム溶融塩が生成した後(溶解後)に添加した時の比較を行った。なお、その他の条件は実施例2と同様である。
結果を
図5及び表4に示す。
【0108】
【表4】
【0109】
図5及び表4から明らかなように、酸化鉄を溶融塩生成前に投入するか、生成後に投入するかでS/Wに大きな差はなかった。
【0110】
そのため、水溶性硫化物の固定化反応は、酸化鉄添加のタイミング(酸化鉄を溶融塩生成前に投入するか、生成後に投入するか)によって大きな変化は無いことが分かった。
【0111】
(実施例4)
種々の温度により溶解を行って、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させ、スクラップの反応率を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0112】
まず、磁性ルツボに実施例1と同様の組成の超硬スクラップ44.1gと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、800℃から1100℃で2時間、溶解処理を行った。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0113】
その後、生成した溶融塩を回収し、超硬スクラップの反応率を調査した。その結果を
図6および表5に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
図6および表5から明らかなように、800℃では殆ど反応が進んでおらず、超硬スクラップを硫酸ナトリウム溶融塩によってタングステン酸ナトリウムの溶融塩へと変換するためには、900℃以上の温度が必要であることがわかった。
【0116】
なお、1100℃で処理した場合には、反応率が100%であったものの、反応装置周辺に酸化タングステンの付着が確認された。これは酸化タングステンの沸点が比較的低く、高温で処理したためにWO
3が揮発し、これが凝固したものと考えられる。即ち、WO
3の沸点は1840℃程度であるが、1100℃〜1400℃で昇華が始まるため、揮発したWO
3が凝固したものと考えられる。
【0117】
(実施例5)
金属酸化物の添加後に溶融塩を攪拌した場合と攪拌しなかった場合とで、硫黄の固定化時間を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0118】
磁性ルツボに実施例1と同様の組成の超硬スクラップと、超硬スクラップと同重量の硫酸ナトリウムを入れ、1000℃において2時間、溶解処理を行い、超硬スクラップと硫酸ナトリウムを反応させた。溶解処理は撹拌せずに実施した。
【0119】
次に、投入した超硬スクラップが完全に溶解したことを確認した後、酸化コバルトを超硬スクラップ重量の11%添加し、その後、試料によっては、撹拌を数秒間実施し、試料によっては撹拌を行わなかった。
【0120】
処理後の溶解物を直接常温の水に投入し、水溶液中に含まれる硫化物イオンの濃度を測定した。結果を
図7および表6に示す。なお、
図7および表6の硫黄固定化時間とは、酸化コバルトを添加後、水溶性硫化物の固定化に要する時間であり、具体的には、酸化コバルトを投入してから、水に直接投入するまでに1000℃に保持する時間である。
【0121】
【表6】
【0122】
表6に示すように、酸化コバルト添加後、撹拌を行うことで、攪拌を行わない場合と比べて、速やかに水溶性硫化物の固定化が進むことが分かった。