(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018963
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】勾配補正管路の構築方法およびこれに用いられる支持具
(51)【国際特許分類】
F16L 1/00 20060101AFI20161020BHJP
E03F 3/06 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
F16L1/00 N
F16L1/00 Q
E03F3/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-72969(P2013-72969)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196799(P2014-196799A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 政浩
(72)【発明者】
【氏名】瀬沼 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】細川 亮
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−83739(JP,A)
【文献】
特開昭64−83740(JP,A)
【文献】
特開平1−223234(JP,A)
【文献】
特開2009−52636(JP,A)
【文献】
特開2009−249823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/00
E03F 3/04 − 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に形成された更生管を用いて、既設管内に設ける勾配補正管路の構築方法であって、
既設管の管路勾配を測定し、既設管に対する更生管の配設位置を決定する工程と、
既設管の底部に複数本のガイドレールを断続的に配設する工程と、
前記ガイドレールに更生管の底部を摺動させて更生管を既設管内に挿入し、前記ガイドレール上に更生管を配設する工程と、
既設管の内面と、配設した更生管の外面との間を充填材で充填し、前記ガイドレールを埋設する工程とを含み、
前記ガイドレールは、既設管の底部に沿う形状の基板部と、該基板部に立設された複数本の脚部とを有する支持具に備えられており、
前記更生管の配設位置に対応させて、前記ガイドレールの高さおよび傾きを個別に設定し、前記更生管を所定の勾配で配設することを特徴とする勾配補正管路の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の勾配補正管路の構築方法において、
前記支持具を長尺の線材によって複数連結し、各支持具においてガイドレールの高さおよび傾き設定をあらかじめ行った状態で既設管内に引き込むことを特徴とする勾配補正管路の構築方法。
【請求項3】
既設管内に更生管を配設して勾配補正管路を構築するのに用いられる支持具であって、
既設管の底部に沿う形状の基板部と、該基板部に立設された複数の脚部と、該脚部に支持された複数のガイドレールとを備え、
前記ガイドレールは、各脚部の高さによって該ガイドレールの高さおよび傾きが設定自在とされ、少なくとも天面側が曲面状に形成されていることを特徴とする支持具。
【請求項4】
請求項3に記載の支持具において、
前記ガイドレールは、軸方向の一端部が下方に傾斜して形成されていることを特徴とする支持具。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の支持具において、
前記基板部に、おもり材が搭載されるとともに回転自在の支持体が備えられ、既設管の底部に沿って走行可能とされたことを特徴とする支持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高低差や不陸蛇行等を生じた既設管内に勾配補正管路を構築する構築方法およびこの方法に用いられる支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管路、農業用水路、電力水路等の既設管を更生する方法として、合成樹脂材等によって形成された更生管を既設管内に挿入して、その更生管によって既設管の内周面をライニングする非開削更生工法が広く行われている。既設管内に挿入された更生管は、通常、既設管との間にグラウト材等の裏込め材が充填されて、既設管に一体化される。
【0003】
このような既設管の更生工法として、帯板状のプロファイルを製管機によって螺旋状に巻回して更生管を形成し、既設管内に挿入していく方法がある。また、繊維強化プラスチックと樹脂モルタルとの積層構成からなるプラスチック複合管などの管体を、既設管内に挿入し、順次、管体同士を接合する方法もある。
【0004】
既設管路の中には、老朽化によって内周面にクラックや腐食などを生じている場合のほか、地震や地盤沈下等の地盤変動によって既設管の一部が大きく沈下したり左右方向に大きく曲がったり、管体同士の接合部がずれたりする変形を生じて、管路に高低差や不陸蛇行等の異常が発生している場合がある。このように管路勾配に異常のある既設管には、個別の対応が必要となる。
【0005】
例えば、下水管路であれば、通常、管路勾配を利用した自然流下により下水を排除する仕組みとされている。しかしながら、
図9に示すように、下水管路91において不等沈下などにより管路勾配に異常があると、円滑な水流が形成されず、下水管路91の排水機能が低下するおそれがある。また、
図9に示すように沈下部分に滞留水92があると、硫化水素等の物質が発生し、下水管路91を腐食させ、強度低下の要因となってしまう。
【0006】
このような管路勾配の異常を生じた既設管に対しては、所定の勾配を有する新たな管路、すなわち勾配補正管路を既設管内に形成することが好ましい。ところが、管路勾配に異常のある既設管の内部に、所定の勾配を有する新たな管路をどのようにして配設するかが問題となる。
【0007】
例えば特許文献1、2には、既設管の底面に下地コンクリートを打設し、水路構成部材を下地コンクリート面上に配列し、水路構成部材を相互に連結固定し、水路構成部材と管路内面との間にモルタルを打設することにより、所望の勾配をもって水路を構成する方法が開示されている。水路構成部材は、樋状のインバート部を備え、既設管の底部側内面だけを覆うように形成されている。
【0008】
また、特許文献3には、マンホールに配設した支持部材と鞘管内の内挿管との間に複数本の線材を張設し、内挿管を鞘管に対して所定の姿勢となるように固定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2704976号公報
【特許文献2】特許第3931180号公報
【特許文献3】特開昭62−280426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1、2に開示される水路構成部材は、既設管の底部内面を覆って配設される構成であるので、更生対象の既設管が所定の勾配を維持しており、底部内面だけを更生すれば済む場合にしか適用することができない。すなわち、この種の水路構成部材は、管路の高低差、側壁のクラック、管接合部のずれ、隙間、左右方向の大きな曲がり等の各種の異常までも解消し得るものではない。また、既設管の中に人が入って行う作業が必要とされるので、既設管の中での作業が困難となる管径800mm以下の管路に対しては適用することができない。
【0011】
特許文献3に開示される固定方法では、管径が800mm以下の管路であっても、更生管を所定の勾配となるように固定することは可能と思われる。しかし、複数本の線材を弛みなく張設して、更生管を所定の勾配に固定することが難しく、特に、更生対象の管路の総延長が例えば50m以上となるような長い管路や、左右方向に屈曲して直線状ではない管路には、この固定方法を適用することはできない。
【0012】
すなわち、既設管の管径が800mm以下となるような小口径の管路や、総延長が50m以上となるような長い管路であっても、所定の勾配となるように更生管を挿入することができ、管路の高低差、クラック、管接合部のずれ、隙間、左右方向の大きな曲がり等の各種の異常をいずれも解消し得る新たな勾配補正管路の構築方法が求められた。
【0013】
また、更生管を既設管内に挿入する際、既設管の底部に更生管が接触すると大きな摩擦抵抗を生じ、更生管を円滑に推進させることができなくなる。ましてや、高低差や不陸蛇行等の異常を生じている既設管であればなおさら、長い管路に更生管を円滑に挿入することができないという問題点があった。
【0014】
そこで本発明は、上記のような問題点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、高低差や不陸蛇行等の各種の異常を生じた既設管に対し、その管径や施工延長にかかわらず、作業性よく円滑に勾配補正管路を構築し得て、短期間で既設管の更生を図ることのできる勾配補正管路の構築方法およびこれに用いる支持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、管状に形成された更生管を用いて、既設管内に設ける勾配補正管路の構築方法を前提とする。この勾配補正管路の構築方法に対し、既設管の管路勾配を測定し、既設管に対する更生管の配設位置を決定する工程と、既設管の底部に複数本のガイドレールを断続的に配設する工程と、前記ガイドレールに更生管の底部を摺動させて更生管を既設管内に挿入し、前記ガイドレール上に更生管を配設する工程と、既設管の内面と、配設した更生管の外面との間を充填材で充填し、前記ガイドレールを埋設する工程とを具備させる。前記ガイドレールは、既設管の底部に沿う形状の基板部と、該基板部に立設された複数本の脚部とを有する支持具に備えられたものとする。そして、前記更生管の配設位置に対応させて、前記ガイドレールの高さおよび傾きを個別に設定し、前記更生管を所定の勾配で配設する構成としている。
【0016】
この特定事項により、高低差や不陸蛇行等の異常のある既設管に対し、更生管を所定の勾配で配設して既設管内に勾配補正管路を構築し、正常な管路勾配を形成することができる。これにより、既設管の機能を早期に回復させることができる。また、前記構成の構築方法によれば、既設管の管径や施工延長にかかわらず、どのような形態の既設管に対しても適用することができる。既設管に対する更生管の配設位置は、あらかじめ測定した管路勾配に基づいて決定し、ガイドレールの高さおよび傾きを個別に設定するので、更生管を所定の勾配で適正かつ容易に配設することができる。これにより、作業性よく勾配補正管路を構築することができ、比較的短時間で既設管を更生することが可能となる。
【0017】
また、前記構成の勾配補正管路の構築方法において、前記支持具を長尺の線材によって複数連結し、各支持具においてガイドレールの高さおよび傾き設定をあらかじめ行った状態で既設管内に引き込むことが好ましい。
【0018】
これにより、補正対象管路の全体にわたって精度よく確実にガイドレールを配設することができ、作業効率を向上させて短時間で既設管を構成することが可能となる。
【0019】
また、前記の目的を達成するため、既設管内に更生管を配設して勾配補正管路を構築するのに用いる支持具も、本発明の技術的思想の範疇である。すなわち、前記支持具として、既設管の底部に沿う形状の基板部と、該基板部に立設された複数の脚部と、該脚部に支持された複数のガイドレールとを備えさせ、前記ガイドレールを、各脚部の高さによって該ガイドレールの高さおよび傾きを設定自在とし、少なくとも天面側を曲面状に構成している。
【0020】
この特定事項により、ガイドレールの高さと傾きによって既設管に対する更生管の配設位置が適正に規定され、既設管に生じた管路勾配の様々な異常を、ガイドレール上に配設した更生管によって解消することが可能となる。ガイドレールは、天面側が曲面状であるので、更生管の底部との接触面積が小さく、挿入抵抗が小さく抑えられるうえ、多様な大きさの更生管に対応し得て、その底部を支持することが可能となる。
【0021】
また、前記支持具においては、前記ガイドレールを、軸方向の一端部が下方に傾斜した形状とすることが好ましい。
【0022】
これにより、挿入される更生管の先端部が自重によって下方へ撓んでも、一端部の傾斜に沿ってガイドレールの上へ容易に乗り上げる。そのため、更生管の挿入を円滑に進めることができ、長い管路であっても短時間で効率よく勾配補正管路を形成することができる。
【0023】
また、前記支持具において、前記基板部に、おもり材を搭載するとともに回転自在の支持体を備えさせ、既設管の底部に沿って走行可能な構成とすることが好ましい。
【0024】
これにより、既設管に左右方向の曲がり部があっても、既設管の底部に沿って、基板部が、自ずと幅方向の中心に位置取りしつつ走行し、軸方向に円滑に引き込まれるものとなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、既設管の管路勾配を測定し、既設管に対する更生管の配設位置を決定する工程と、既設管の底部に複数本のガイドレールを断続的に配設する工程と、前記ガイドレールに更生管の底部を摺動させて更生管を既設管内に挿入し、前記ガイドレール上に更生管を配設する工程と、既設管の内面と、配設した更生管の外面との間を充填材で充填し、前記ガイドレールを埋設する工程とを備えさせ、更生管の配設位置に対応させて、前記ガイドレールの高さおよび傾きを個別に設定する構成としている。このため、既設管の管径や施工延長にかかわらずどのような形態の既設管に対しても適用することができ、作業性よく所定の勾配に更生管を配設し、短時間で既設管を更生することが可能とされる。
【0026】
また、本発明の支持具は、既設管の底部に沿う形状の基板部と、該基板部に立設された複数の脚部と、該脚部に支持された複数のガイドレールとを備え、前記ガイドレールは、各脚部の高さによって該ガイドレールの高さおよび傾きが設定自在とされ、天面側が曲面状に形成されることから、更生管の挿入抵抗を抑えて、更生管を所定の勾配に配設することが極めて容易となり、多様な管路勾配の異常に対応させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る勾配補正管路の構築方法を示す斜視図である。
【
図2】前記勾配補正管路の構築方法において既設管内に配設された更生管を示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る支持具を示す斜視図である。
【
図4】前記支持具を既設管内に配設した様子を示す説明図である。
【
図5】前記支持具の上に更生管を挿入する様子を示す説明図である。
【
図6】前記勾配補正管路の構築方法において更生管の挿入端部を示す説明図である。
【
図7】曲がり部を生じた既設管を示す説明図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る支持具を一部省略して示す斜視図である。
【
図9】既設管における管路勾配の異常を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る勾配補正管路の構築方法および支持具について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、実施形態に係る勾配補正管路の構築方法を示す説明図、
図2は、既設管内に配設された更生管を示す断面図、
図3は、実施形態に係る支持具を示す斜視図である。また、
図4は、既設管に支持具を配設した様子を示す説明図、
図5は、前記既設管に更生管を配設する様子を示す説明図である。
【0030】
本発明の勾配補正管路の構築方法では、管状に形成された更生管10を用いて、既設管20内に所定の勾配を有する勾配補正管路を形成する。既設管20は、内部に作業者が進入することの困難な小口径の管路を想定しており、地中に埋設されている。
【0031】
更生管10としては、帯板状のプロファイルを製管機によって螺旋状に巻回して形成した管状体や、繊維強化プラスチックと樹脂モルタルとの積層構成からなるプラスチック複合管などの各種の管状体を用いることができる。
【0032】
このような更生管10を、補正対象となる既設管20内に挿入して配設する。既設管20内には、複数のガイドレール33を備えた支持具30を配置している。
【0033】
(支持具)
図1および
図3に示すように、支持具30は、曲面形状の基板部31と、基板部31に立設された複数本の脚部32と、これらの脚部32に支持された複数本のガイドレール33とを備えている。支持具30の各部材は、十分な強度を有する鉄又は鉄を含有する鋼材等により形成されている。
【0034】
基板部31は、上面視矩形状の板状材からなり、既設管20の底部内周面の形状に対応させて曲面形状に形成されている。基板部31の中央部には、複数の開口部311が設けられ、支持具30の軽量化が図られている。開口部311は、基板部31の幅方向に長い矩形状に形成されている。
【0035】
ガイドレール33は、基板部31の幅方向の両端部寄りに、それぞれ2本の脚部32に支持されて設けられている。
図2に示されるように、2本のガイドレール33は、それぞれ、更生管10に当接する天面側が、断面半円形状の曲面形状に形成されている。ガイドレール33には、例えば、半割形状の鋼管を用いることができ、その底面側に底板が溶接接合されて形成されている。
【0036】
ガイドレール33は、天面側が曲面形状に形成されていることにより、更生管10との接触面積を小さくし、更生管10の挿入抵抗を低減させることができる。また、ガイドレール33をこのように構成することにより、多様な管径の更生管10に対応することができ、更生管10を良好に支持するものとなる。
【0037】
脚部32は、円筒状部材からなり、ガイドレール33の底板に溶接接合されている。脚部32としては、複数種類の高さの円筒状部材が用意されており、脚部32の高さを選択的に設定することが可能とされている。ガイドレール33は、これらの複数の脚部32に支持されて、その高さおよび傾きが設定自在とされている。
【0038】
なお、後述するように、支持具30は、あらかじめ測定した既設管20の管路勾配に基づいて、既設管20の複数箇所にそれぞれ配設される。支持具30において、ガイドレール33の高さおよび傾きは、既設管20内における配設箇所ごとに決定される。
【0039】
図3に示すように、ガイドレール33は、軸方向の一端部に傾斜材34が設けられている。傾斜材34は、ガイドレール33の一端部から下方に傾斜し、既設管20の底部内周面の近傍まで延設されている。例示の形態では、傾斜材34は、ガイドレール33の天面側と同様の半割状の鋼管を用いて形成され、ガイドレール33の一端部に、斜め下方に角度を付けて溶接接合されている。傾斜材34は、ガイドレール33の一端部の高さに応じて傾斜材34の長さが設定され、下端が既設管20の底部曲面に干渉しないように斜めに切断されている。
【0040】
かかるガイドレール33は、基板部31の両端部寄りにそれぞれボルト接合されている。ガイドレール33には、複数のボルト挿通孔331が形成されている。ボルト挿通孔331には、脚部32を貫通させてボルトが嵌挿されて固定される。
【0041】
また、基板部31の両辺縁部には、ガイドレール33の幅方向外側に、長尺の線材35が取り付けられている。線材35は、十分な引張強度を有する例えばワイヤロープ等の線材であることが好ましく、基板部31の軸方向に沿って配設される。基板部31の幅方向の両端部には、断面略C字状の線材挿通部36が設けられ、内側に線材35が挿通されている。線材挿通部36の上面には複数の貫通孔が設けられ、それぞれボルト37が螺合されている。これにより、線材35が押圧され、軸方向に移動しないよう固定されている。
【0042】
以上のように構成されて、支持具30は、更生管10を支持しうる十分な強度を有し、かつ、更生管10の円滑な引き込みを可能にしている。
【0043】
(勾配補正管路の構築方法)
次に、支持具30を用いた、勾配補正管路の構築方法について説明する。既設管20に更生管10を挿入するに際し、あらかじめ、異常を生じている既設管20の管路勾配を測定し、補正対象管路の全体にわたって管路勾配を把握しておく。
【0044】
すなわち、既設管20の内部の事前調査を行う。事前調査は、例えば、管路内を自走できる走行車にテレビカメラを搭載し、このテレビカメラにより管路内を撮影し、撮影された映像に基づいて行う。これにより、既設管20の内面の管路勾配の異常を目視確認し、クラックや破損等についての状況も把握する。
【0045】
次いで、不等沈下などの管路勾配の異常がある場合に、テレビカメラの映像に基づいて、管路内に複数の勾配測定点を設定し、管路勾配を定量的に測定する。勾配測定点は、既設管20内に発生している高低差や隙間等が比較的大きくなく、正確な測定が可能な箇所に設定することが好ましく、均等な間隔で設ける必要はない。
【0046】
管路勾配の測定は、既設管20内に走行体を走らせ、走行体に装着した測定手段によって行う。測定手段には、例えば、レーザー光の投受光による測定や、水圧変化の検出に基づく地上との高低差の測定等、各種の測定手段を用いることができる。
【0047】
次いで、測定された管路勾配に基づいて、新たに挿入する更生管10の配設位置を決定する。すなわち、既設管20の底部に対して、更生管10をどの程度の高さ(既設管20の底部と更生管10の底部との相互距離)で配設すれば、既設管20の管路勾配の異常を回復でき、かつ所定の管路勾配が得られるかを、勾配測定点ごとに決定する。さらに、既設管20の管路における複数の支持具30の配設箇所と、それぞれの支持具30におけるガイドレール33の高さおよび傾きを決定する。
【0048】
次いで、複数の支持具30ごとに、脚部32の高さを選択して取り付け、ガイドレール33の高さおよび傾きを個別に設定する。また、支持具30の線材挿通部36に線材35を挿通させて固定し、既設管20に配設される並び順で、複数の支持具30を連結する。支持具30同士の相互間隔は一定である必要はなく、既設管20における勾配補正量に応じて必要な間隔で連結される。線材35は長尺であり、支持具30に対して固定される点を選ばないので、長距離区間の勾配補正にも好適に用いることができる。
【0049】
次いで、補正対象管路の上流側と下流側とに設けられたマンホールを介して、当該マンホールに接続する既設管20に、連結した複数の支持具30を導入する。また、ウィンチ等の牽引具を利用して、先頭に配設される支持具30から順に既設管20内に引き込む。これにより、
図4に示すように、既設管20の底部に、複数の支持具30を配設する。既設管20の底部には、複数本のガイドレール33が断続的に配設される。
【0050】
支持具30同士の間に張設された線材35には、必要以上に引張応力を生じさせないように配設することが好ましい。これにより、次工程以降において線材35に作用する引張力などの外力を許容させ、位置ずれを防止し得るようにしておく。
【0051】
図4に示すように、既設管20に生じている異常な管路勾配によって、既設管20の底部における基板部31の設置角度は、その設置箇所に応じてそれぞれ異なる。これに対し、ガイドレール33は、基板部31に所定の高さおよび傾きで支持されている。このため、ガイドレール33は、新たに設ける勾配補正管路に要求される一定の勾配を、補正対象管路の全体にわたり保持して配設されている。
【0052】
次いで、
図5に示すように、ガイドレール33に更生管10の底部を摺動させて更生管10を既設管20内に挿入し、ガイドレール33上に更生管10を配設する。更生管10は、例えばマンホールに設置した製管機から押し出され、又はマンホールを介して牽引されて、既設管20内を軸方向(
図5の矢符方向)に進行する。
【0053】
このとき、
図6に示すように、前後のガイドレール33の間隔が広い場合、更生管10の進行方向の先端部が自重によって下方に撓むことが考えられる。これに対し、例示する支持具30では、ガイドレール33の後端部に傾斜材34が延設されているので、撓んだ更生管10の先端部が容易にガイドレール33に乗り上げる。そのため、更生管10がガイドレール33に引っ掛かって停止するということが防がれ、作業を止めることなく円滑に更生管10を挿入することができる。
【0054】
また、支持具30を連結している線材35は、更生管10の進行方向における後側端部を固定しておくことが好ましい。これにより、更生管10がガイドレール33に乗り上げるとき支持具30を進行方向に押す力が生じるので、線材35に引張力が加わり、支持具30が自ずと設定箇所に配置されるようになる。
【0055】
補正対象管路の全体に更生管10を配設し終えると、続いて、既設管20の内面と、配設した更生管10の外面との隙間に充填材を充填する。充填に際しては、更生管10の内部に、重量を有するチェーンを配設したり、満水状態に液体を充填したりして、更生管10の浮上を防止する。支持具30は鉄等の強度を有する材料により形成されているので、かかる作業に伴う増加重量にも対応することができる。更生管10を支持するガイドレール33および脚部32等は、支持具30ごと埋設される。充填材が硬化することで既設管20と更生管10とが一体化し、既設管20内に、所定の勾配を保持した更生管10による勾配補正管路が構築される。
【0056】
以上により、既設管20に正常な管路勾配が形成され、既設管20の機能を回復させることができる。また、このような勾配補正管路の構築方法によれば、既設管20が小口径であっても施工することができ、また、施工延長の長い場合にも適用することができる。
【0057】
(その他の実施形態)
本発明に係る支持具30および勾配補正管路の構築方法は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、支持具30の構成は前記実施形態に限定されるものではなく、基板部31の形状は、既設管20の底部に引き込み配置されやすい形状であれば、どのようなものであってもよい。また、支持具30を配置する箇所や個数にあっては、特に限定されない。そのため、前記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0058】
また、既設管20は、管路に高低差を生じている場合に加え、例えば
図7に示すように、左右方向に大きく曲がった蛇行変形を生じている場合がある。
図7は、既設管20の横断面を示す説明図である。このような場合、既設管20内を進行する更生管10は、管路の曲がり部で左右の側壁に接触することが考えられる。既設管20の側壁に更生管10が接触すると、挿入抵抗が増大し、円滑に挿入することができなくなったり、作業が中断したりするおそれがある。
【0059】
このような場合、支持具30は
図8に示すように構成されていることが好ましい。
図8は、実施形態に係る支持具30の斜視図であり、基板部31からガイドレール33および脚部32を取り除いた状態を示している。
【0060】
図8に示す支持具30は、基板部31に、おもり材38が搭載されるとともに回転自在の支持体39が備えられている。おもり材38は、相当の重量を有し、基板部31の幅方向の中心部に固定されている。支持体39は、回転自在な車輪等を備えて構成され、基板部31の軸方向の辺縁部に複数個取り付けられている。例示するおもり材38は、例えば複数本の棒鋼を基板部31の大きさに合わせて切断して形成され、その本数によって重量を調整することができるものである。
【0061】
これにより、支持具30は、既設管20に引き込まれる際、管路に曲がり部があっても、自ずと既設管20の底部において幅方向の中心に位置取りし、管軸方向に円滑に走行するものとなる。したがって、支持具30の引き込み時に無理な応力が生じたり、線材35が引っ張られて伸張したりすることなく、適切に支持具30を配設することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、既設管における管路勾配の異常を解消するための勾配補正管路の構築に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 更生管
20 既設管
30 支持具
31 基板部
311 開口部
32 脚部
33 ガイドレール
34 傾斜材
35 線材
36 線材挿通部
37 ボルト
38 おもり材
39 支持体