特許第6018970号(P6018970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018970
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】配水制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20161020BHJP
   E03B 1/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G05D7/06 A
   E03B1/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-101803(P2013-101803)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-222424(P2014-222424A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信補
(72)【発明者】
【氏名】足立 進吾
(72)【発明者】
【氏名】武本 剛
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−217900(JP,A)
【文献】 特開平07−018708(JP,A)
【文献】 特開昭62−180402(JP,A)
【文献】 特開平09−316938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/00− 7/06
E03B 1/00− 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水池から配水管網を経て水が供給される需要家の施設情報を記憶する需要家情報記憶部と、
前記需要家の施設情報を取得する需要家情報取得部と、
前記配水管網上に設置された流量計または圧力計の計測データを取得する計測データ取得部と、
分割された複数のエリアごとに取得した前記施設情報と、前記計測データと、前記流量計の計測データから算出される前記エリアにおける水供給量とに基づいて、施設特性要素別に需要パターンを算出する需要パターン算出部と、
前記需要パターンと、複数の需要家を集約した需要点における施設情報とに基づいて、前記需要点における需要量を推定する需要量推定部と、
推定された各需要点における前記需要量に基づいて配水制御をする制御部と、
前記配水管網上に設置された前記流量計の計測データに基づいて、前記エリアにおける水供給量が算出可能となるように、前記流量計の設置位置を計画する流量計設置場所計画部とを備え、
前記流量計設置場所計画部は、
分割された前記エリア数が、施設特性要素数以上となり、
前記エリアにおける施設特性要素の構成比率を算出したときの前記構成比率がエリア毎に相違するように又は、
新に設置される流量計にかかるコストを算出したときの前記コストが一定値より低くなるように又は、
前記エリアに属する需要家の数が一定の値を満たすように、
前記流量計の設置位置を計画する
ことを特徴とする配水制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の配水制御装置において、
前記需要家情報記憶部に記憶される前記施設情報とは、前記需要家の検針データを含み、
前記需要パターン算出部は、
前記エリアにおける前記検針データの合計値と、前記エリアにおける水供給量とに基づいて前記エリアにおける漏水量を算出し、
前記施設情報と、前記計測データとに加え、前記漏水量にも基づいて需要パターンを算出する
ことを特徴とする配水制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の配水制御装置において、
算出された前記需要点における需要量の分布に基づいて管網解析計算を実行し、前記配水管網上の圧力分布および流量分布を推定する管網解析計算部と、
前記配水管網上に設置された流量計または圧力計の計測データと、前記管網解析計算部によって算出された前記圧力推定値または流量推定値との比較に基づいて、管路の流速係数を推定する管路流速係数推定部と、を更に備えることを特徴とする配水制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の配水制御装置において、
算出された前記需要点における需要量の分布に基づいて管網解析計算を実行し、前記配水管網上の圧力分布および流量分布を推定する管網解析計算部と、を更に備え、
前記制御部は、前記管網解析計算部によって算出された前記圧力の推定値が所定の範囲となるようにポンプの回転数またはバルブの開度を制御する
ことを特徴とする配水制御装置。
【請求項5】
配水制御装置が、
配水池から配水管網を経て水が供給される需要家の施設情報を記憶し、
前記需要家の施設情報を取得し、
前記配水管網上に設置された流量計または圧力計の計測データを取得し、
分割された複数のエリアごとに取得した前記施設情報と、前記計測データと、前記流量計の計測データから算出される前記エリアにおける水供給量とに基づいて、施設特性要素別に需要パターンを算出し、
前記需要パターンと、複数の需要家を集約した需要点における施設情報とに基づいて、前記需要点における需要量を推定し、
推定された各需要点における前記需要量に基づいて配水制御を行い、
分割された前記エリア数が、施設特性要素数以上となり、前記エリアにおける施設特性要素の構成比率を算出したときの前記構成比率がエリア毎に相違するように又は、新に設置される流量計にかかるコストを算出したときの前記コストが一定値より低くなるように又は、前記エリアに属する需要家の数が一定の値を満たすように、前記流量計の設置位置を計画する
ことを特徴とする配水制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の配水制御方法において、
記憶される前記施設情報とは、前記需要家の検針データを含み、
前記エリアにおける前記検針データの合計値と、前記エリアにおける水供給量とに基づいて前記エリアにおける漏水量を算出し、
前記施設情報と、前記計測データとに加え、前記漏水量にも基づいて需要パターンを算出する
ことを特徴とする配水制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の配水制御方法において、
算出された前記需要点における需要量の分布に基づいて管網解析計算を実行し、前記配水管網上の圧力分布および流量分布を推定し、
前記配水管網上に設置された流量計または圧力計の計測データと、前記管網解析計算部によって算出された前記圧力推定値または流量推定値との比較に基づいて、管路の流速係数を推定する
ことを特徴とする配水制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の配水制御方法において、
算出された前記需要点における需要量の分布に基づいて管網解析計算を実行し、前記配水管網上の圧力分布および流量分布を推定し、
算出された前記圧力の推定値が所定の範囲となるようにポンプの回転数またはバルブの開度を制御する
ことを特徴とする配水制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水制御装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配水池からの水を需要家に輸送する配水管網内では、需要変動に伴って流量が変化し、圧力も絶えず変化する。需要家の快適な水使用のためには適正な末端圧力となるよう配水を行う必要があり、そのためには、管網内各点の圧力、流量の状態を的確に把握する管網解析計算や、その状態をもとに管網内が適正な圧力に保たれるようポンプやバルブ等の配水機器を制御する配水制御などが重要となる。精度のよい管網解析計算やそれに基づく配水制御のためには、管網解析計算への入力情報である管網上の水需要分布を正確に把握できることが必要不可欠となる。
【0003】
特許文献1に記載の技術では、配水管網を複数のエリアに分割し、エリア単位で一律に水需要分布を増加または減少させ、管網解析計算による圧力、流量の計算値と計測値との誤差が最小になるように水需要分布の補正し、配水制御を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−217900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、同一エリア内で同一の補正を行うため、エリア内の全ての需要点で水需要のピーク時刻が一致するなど類似した需要パターンとなる。そのため、特許文献1に記載の技術では、水需要を正確に推定することができず、各需要点での正確な需要推定に基づく適切な配水制御をすることが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、配水池から配水管網を経て水が供給される需要家の施設情報を記憶する需要家情報記憶部と、需要家の施設情報を取得する需要家情報取得部と、配水管網上に設置された流量計または圧力計の計測データを取得する計測データ取得部と、分割された複数のエリアごとに取得した施設情報と、計測データとに基づいて、施設特性要素別に需要パターンを算出する需要パターン算出部と、需要パターンと、複数の需要家を集約した需要点における施設情報とに基づいて、需要点における需要量を推定する需要量推定部と、推定された各需要点における需要量に基づいて配水制御をする制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、各需要点での正確な需要量推定に基づき、適切に配水制御をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】配水制御システムの全体構成の概略図。
図2】流量計の適切な設置場所を計画する処理を示すフローチャート。
図3】配水管網を流量計のない管路によって接続された需要点の集合からなるエリアに分割する処理を示すフローチャート。
図4】配水管網が上記エリアに分割された状況を示す一例。
図5】需要家の施設特性別の需要パターンを作成する処理を示すフローチャート。
図6】作成された需要家の施設特性別の需要パターンの一例。
図7】管路流速係数の推定を行う処理を示すフローチャート。
図8】配水機器(ポンプ、バルブ)の制御を行う処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態に本発明が限定されることはない。
【0010】
図1に、配水制御管理装置101と、ポンプ131やバルブ132等の配水機器、圧力計136や流量計137等の計測器、ネットワーク138からなる配水制御システムの全体構成の概略図を示す。配水池130の水はポンプ131またはバルブ132などの配水機器によって配水管網133を経て需要家まで配水される。配水管網133は、管路134および需要点135から構成される。ここで、需要点135は、複数の需要家を集約した代表点とする。配水管網133上には、いくつかの需要点135の圧力を計測する圧力計136と、いくつかの管路流量を計測する流量計137が設置されている。ポンプ131、バルブ132にも圧力計136、流量計137が設置されており(図示なし)、配水池130から配水管網133への水供給量と供給圧力を計測している。配水制御管理装置101は、ネットワーク138を介してポンプ131、バルブ132、圧力計136、流量計137と相互に接続されている。
【0011】
配水制御管理装置101は、配水管網133から計測データを収集し、配水管網133上の各需要点135における需要分布を推定し、需要点135を構成する需要家に対して適正な圧力で配水を行うようポンプ131、バルブ132の制御を行う。また、配水制御管理装置101は、CPU102、メモリ103、入力装置104、表示装置105、ハードディスク106、システムバス107などを備えている。CPU102は、配水制御管理装置101全体の動作を制御し、ハードディスク106内の各種プログラムに従って所定の処理を実行する中央演算処理装置である。メモリ103は、各種プログラムや各種データをロードする記憶装置である。入力装置104は、各種テーブルへの登録情報や各種プログラムの実行に必要となる情報を入力するための装置であり、例えばキーボード、マウス、CD/DVDドライブ装置等である。表示装置105は、各種テーブルの登録情報や各種プログラムの実行結果などを表示するための装置であり、例えばディスプレイ装置である。ハードディスク106は、各種プログラム110〜117、および各種テーブル120〜123を磁気ディスクに格納する記録装置である。システムバス106は、各種装置間の制御情報、各種データなどの授受を媒介する経路である。
【0012】
入力データ登録プログラム110は、需要家に関する情報や配水管網に関する情報を所定のテーブルに登録して管理するプログラムである。流量計設置場所計画プログラム111は、配水管網133上の流量計137の適切な設置場所を計画するプログラムである。データ計測プログラム112は、圧力計136、流量計137より計測した圧力値、流量値を取得し、所定のテーブルに登録して管理するプログラムである。需要パターン作成プログラム113は、配水管網133上の需要分布推定に必要となる需要家の施設特性別の需要パターンを作成するプログラムである。需要推定プログラム114は、配水管網133上の需要分布(需要点135別における各時間帯毎の需要量)を推定するプログラムである。管網解析計算プログラム115は、上記推定された需要分布を入力情報として配水管網133の管網解析計算を行うプログラムである。管路流速係数推定プログラム116は、管網解析計算に必要となる配水管網133の管網モデルのパラメータである管路流速係数を推定するプログラムである。配水機器制御プログラム117は、各需要点135の圧力が適正圧力となるようにポンプ131の回転数やバルブ132の開度を決定し制御を行うプログラムである。
【0013】
需要家情報管理テーブル120は、需要家別の施設特性情報や水使用量の検針データなどの需要家に関する情報を管理するテーブルである。管網情報管理テーブル121は、管路134、需要点135などの配水管網133に関する情報を管理するテーブルである。上記の配水管網133に関する情報は、管網解析計算に必要となる情報である。計測データ管理テーブル122は、圧力計136、流量計137より計測した時刻別の圧力値、流量値を管理するテーブルである。需要パターン管理テーブル123は、配水管網133上の需要分布推定に必要となる需要家の施設特性別の需要パターンを管理するテーブルである。
【0014】
さて本発明の実施の形態では、配水制御管理装置101において、ハードディスク106内の各種プログラム110〜117がCPU101によって実行されることにより、以下の(1)〜(9)の各種処理が実現され、需要家の施設特性を考慮した正確な水需要の推定とそれに基づく管網解析や配水機器制御ができるようになる。
【0015】
(1)需要家に関する情報の登録。
(2)配水管網に関する情報の登録。
(3)流量計の適切な設置場所の計画(図2〜4で詳細説明)。
(4)圧力、流量の計測値の収集。
(5)需要家の施設特性別の需要パターンの作成(図5で詳細説明)。
(6)配水管網上の需要分布の推定。
(7)管網解析計算に基づく配水管網上の圧力、流量分布の推定。
(8)管路流速係数の推定(管網モデルキャリブレーションに関する。図7で詳細説明)。
(9)配水圧を適正化する配水機器の制御(図8で詳細説明)。
【0016】
以下、処理(1)〜(9)の実現方法について、図2〜8を用いて説明する。
はじめに、配水制御管理装置101における、需要家に関する情報の登録を行う処理(1)について説明する。配水制御管理装置101の管理者は、入力装置104より、各需要家に関する情報として、需要家名、住所、需要家の施設特性情報、水道利用者数(住宅の場合は家族人員数、他の施設の場合は水道を使用する可能性のある施設利用者数)、および定期的に行われる水使用量の検針データと水使用期間などを入力する。ここで、需要家の施設特性情報とは、住宅、商業施設、工場、事業所、飲食店などの業種情報のことであるが、地域の事情に合わせて独自の施設特性情報を追加してもよい。また上記水道利用者数と組合せて、住宅(家族3人以下)、住宅(家族4人以上)などのように施設特性情報をさらに細分化して、入力してもよい。本実施例では、施設特性が、住宅、商業施設、工場、事業所の4種類であるとする。そして配水制御管理装置101の入力データ登録プログラム110では、入力された需要家のエントリごとに、入力情報を需要家情報管理テーブル120に登録する。
【0017】
上記のようにして、配水制御管理装置101の入力データ登録プログラム110によって、需要家に関する情報の登録処理が行われる。
【0018】
次に、配水制御管理装置101における、配水管網に関する情報の登録を行う処理(2)について説明する。配水制御管理装置101の管理者は、入力装置104より、配水管網133に関する情報として、管路134の識別情報、管路長、管路径、流速係数、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、流量計の有無情報、および需要点135の識別情報、位置情報、標高、圧力計の有無情報などを入力する。そして配水制御管理装置101の入力データ登録プログラム110では、入力された管路および需要点のエントリごとに、管網情報管理テーブル121に登録する。
【0019】
上記のようにして、配水制御管理装置101の入力データ登録プログラム110によって、配水管網に関する情報の登録処理が行われる。
【0020】
次に、配水制御管理装置101における、流量計の適切な設置場所の計画を行う処理(3)について、図2図4を用いて説明する。これは、後述する需要家の施設特性別の需要パターンを作成可能とするため、配水管網133を水供給量算出可能な複数のエリアに分割するよう流量計137の適切な設置場所を計画するものである。処理(3)は、需要家の施設特性別の需要パターンの作成をはじめて行う場合や、管路構造が変化した場合(管路134の追加、削除、管路長・管路径の異なる管路への交換)などに実行する。図2は、流量計の適切な設置場所を計画する処理を示すフローチャートである。図3は、配水管網を流量計のない管路によって接続された需要点の集合からなるエリアに分割する処理を示すフローチャートである。図4は、配水管網が上記エリアに分割された状況を示す一例である。
【0021】
ステップS201において、配水制御管理装置101の流量計設置場所計画プログラム111は、管網情報管理テーブル121より、配水管網133を構成する管路134の識別情報、管路径、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、流量計の有無、および需要点135の識別情報を取得する。そして流量計設置場所計画プログラム111は、流量計137の新規設置数NにN=0を設定する。
【0022】
ここで、流量計設置場所を計画するためには、少なくとも流量計137の新規設置数N=1にする必要があるが、すでに設置済みの流量計137によって配水管網133が水供給量算出可能な複数のエリアに分割できているのであれば、流量計を新たに設置する必要はない。よって本処理(3)では、流量計137の設置場所を計画する前に、既存の流量計137によって配水管網133を水供給量算出可能な複数のエリアに分割可能であるかどうかの確認を行うようにする。上記の処理を1つのアルゴリズムで実行できるようにするため、本処理(3)では、N=0(既存の流量計のみ)の場合からスタートして、徐々にNの数を増やしていく(新規に流量計を設置)ものとする。
【0023】
ステップS202において、N=0のとき、本ステップS202は実行せずステップS203に進む。N≧1のとき、流量計設置場所計画プログラム111は、GA(Genetic Algorithm、遺伝的アルゴリズム)を用いて、流量計137がまだ設置されていない管路134の中から、新たに流量計137を設置すべきN個の管路134を選定することにより流量計設置場所計画案を作成(または修正)する。
【0024】
ステップS203において、流量計設置場所計画プログラム111は、配水管網133を流量計137のない管路134によって接続された需要点135の集合からなるエリア(エリア境界部分に設置された流量計137によってエリア内への水供給量を算出可能となるエリア)に分割する。この処理の流れを、図3および図4を用いて説明する。
【0025】
ステップS301において、流量計設置場所計画プログラム111は、需要点135の1つを探索のスタート点として設定する。
【0026】
ステップS302において、流量計設置場所計画プログラム111は、スタート点から流量計のない管路134を介して接続されている全ての需要点135を探索し、同一エリアとして識別する。
【0027】
ステップS303において、流量計設置場所計画プログラム111は、上記識別されたどのエリアにも含まれない需要点135が存在するかどうか(全ての需要点135が上記識別済みのエリアのいずれかに含まれているかどうか)の確認を行う。存在する場合はステップS304に進み、存在しない場合は全ての需要点のエリア分割が完了したとみなして処理を終了する。
【0028】
ステップS304において、流量計設置場所計画プログラム111は、上記識別されたどのエリアにも含まれない需要点135の1つをを探索のスタート点として設定し、ステップS302に進む。
【0029】
図4の例では、例えば、はじめに需要点1がスタート点として設定される。そして流量計のない管路134によって接続された全ての需要点2、5、6が探索され、需要点1、2、5、6が1つのエリア401として識別される。次に識別済みのエリア(需要点1、2、5、6)に含まれない需要点3がスタート点として設定される。そして流量計のない管路134によって接続された全ての需要点4、7、8、11が探索され、需要点3、4、7、8、11が1つのエリア401として識別される。以下、ステップ302〜304を繰り返し、配水管網133は以下の需要点からなる4つのエリア401に分割される。
・需要点1、2、5、6からなるエリア
・需要点3、4、7、8、11からなるエリア
・需要点9、10、13、14からなるエリア
・需要点12、15、16からなるエリア
分割されたエリアは、その境界となる管路に流量計137が設置されているため(配水池からの水供給量も流量計によって計測可能)、時刻別の水供給量を算出可能となる。
【0030】
流量計の適切な設置場所の計画を行う処理(2)の説明に戻る。
【0031】
ステップS204において、流量計設置場所計画プログラム111は、分割されたエリア数が、需要家の施設特性数(本実施例では4種類としている)以上であるかどうかの確認を行う。エリア数が施設特性数以上であればステップS205に進み、そうでなければステップS209に進む。後述する需要家の施設特性別の需要パターンを作成のためには、水供給量を算出可能なエリア数が、少なくとも需要家の施設特性数以上必要であり、エリア数が足りない場合は、ステップS209以降において流量計設置場所計画案の見直しを行うものである。
【0032】
ステップS205において、流量計設置場所計画プログラム111は、需要家情報管理テーブル121より、それぞれの需要点135を構成する全ての需要家の件数とその施設特性情報(住宅、商業施設、工場、事業所)を取得する。そして流量計設置場所計画プログラム111は、各エリアの需要家の件数と、需要家の施設特性別の構成比率を算出する。上記構成比率は、例えば、住宅:商業施設:工場:事業所=1:2:3:4などである。
【0033】
ステップS206において、流量計設置場所計画プログラム111は、ステップS205において算出した各エリアに十分な件数の需要家が含まれているかどうか、すなわち各エリアの需要家件数が所定の件数以上であるかどうかの確認を行う。所定の件数として、例えば、全需要家件数÷エリア数×80%などの値を設定する。全てのエリアの需要家件数が所定件数以上であればステップS207に進み、そうでなければステップS209に進む。後述する需要家の施設特性別の需要パターンを高精度で作成するためには、水供給量を算出可能な各エリアに十分な件数の需要家が含まれている必要があり、需要家件数が十分でない場合は、ステップS209以降において流量計設置場所計画案の見直しを行うものである。
【0034】
ステップS207において、流量計設置場所計画プログラム111は、ステップS205において算出した各エリアの需要家の施設特性別の構成比率が十分異なっているかどうか、すなわち各エリアの上記構成比率からなる各ベクトルの線形独立性を示す指標値が所定値以上であるかどうかの確認を行う。上記線形独立性を示す指標として、例えば、上記各ベクトルからなる行列の最小特異値を用いるものとし(最小特異値が0に近いほど線形従属性が高く、0より大きいほど線形独立性が高い)、上記所定値は、例えば0.1として設定する。行列の最小特異値を求める方法は公知であり、一般的な行列計算ソフトウェアによって算出可能であるため、本実施形態では特に説明を行わない。上記線形独立性を示す指標が所定値以上であればステップS208に進み、そうでなければステップS209に進む。後述する需要家の施設特性別の需要パターンを高精度で作成するためには、水供給量を算出可能な各エリアの需要家の施設特性別の構成比率が十分異なっている必要があり、上記構成比率が十分異なっていない場合は、ステップS209以降において流量計設置場所計画案の見直しを行うものである。
【0035】
ステップS208において、N=0のとき、本ステップS208は実行せずステップS210に進む。N≧1のとき、流量計設置場所計画プログラム111は、管網情報管理テーブル121より、ステップS202において作成した新たに流量計137を設置すべきN個の管路137の管路径を取得し、管路径に応じた流量計価格と工事費から新規流量計137の設置コストを計算する(一般に管路径が大きいほど流量計の価格と工事費は高くなる)。そして流量計設置場所計画プログラム111は、上記流量計設置コストをマイナス倍した値と、ステップS206において算出した各エリア内の最小の需要家件数と、ステップS207において算出した各エリアの需要家の施設特性別構成比率からなる各ベクトルの線形独立性を示す指標値(上記各ベクトルからなる行列の最小特異値)の加重平均をとった目的関数の値を計算し、目的関数値が収束したかどうかの判定を行う。上記目的関数値が最大値に収束していればステップS210に進み、そうでなければステップS209に進む。上記目的関数の値が大きいほど、上記流量計設置場所計画案に基づいて流量計設置を行った際の流量計設置コストが安くなり、また各エリアに十分な件数の需要家が含まれ、かつ各エリアの需要家の施設特性別の構成比率が十分異なるようになるため、後述するように、より高精度な需要家施設特性別の需要パターンが作成できるようになる。 ステップS209において、N=0のとき、本ステップS209は実行せずステップS211に進む。N≧1のとき、流量計設置場所計画プログラム111は、新規流量計設置数NのときのステップS202における上記GAによる流量計設置場所計画案の作成回数が十分大きな所定回数以上であるかどうか、例えば1万回以上であるかどうかの確認を行う。上記計画案作成回数が所定回数以上であればステップS211に進む。そうでなければステップS202に進み、新規流量計設置数Nの値を変更しないままで、GAを用いて新たな流量計設置場所計画案の作成を行う。
【0036】
ステップS210において、流量計設置場所計画プログラム111は、配水制御管理装置101の管理者に対して、図4に示すようにビジュアルな形で、作成された流量計設置場所計画案を表示装置105に表示する。管理者は上記流量計設置場所計画案を確認、評価し、適切であれば流量計設置場所計画案が確定となり、処理を終了する。不適であればステップS210に進む。
【0037】
ステップS211において、流量計設置場所計画プログラム111は、流量計137の新規設置数Nを1つ加算してステップS202に進み、新たな新規流量計設置数Nのもとで、GAを用いて流量計設置場所計画案の作成を行う。ここで、ステップS209から本ステップS211に処理が進んできた場合は、新規流量計設置数Nでは十分な回数の流量計設置場所計画案の作成を行っても適切な案が得られなかったため、Nの数を増やして新たに流量計設置場所計画案を作成することを意味する。ステップ210から本ステップS211に処理が進んできた場合は、新規流量計設置数Nでは最適な流量計設置場所計画案でも配水制御管理装置101の管理者の承認を得られなかったため、Nの数を増やして新たに流量計設置場所計画案を作成することを意味する。
【0038】
上記のようにして、配水制御管理装置101の流量計設置場所計画プログラム111によって、流量計の適切な設置場所の計画処理が行われる。
【0039】
そして配水制御管理装置101の管理者は、上記確定した流量計設置場所計画案に従って管路134上に流量計の設置を行う。また上記分割された各エリア内に圧力計136が設置されていない場合は、各エリア内の任意の地点(需要点)に圧力計の設置を行う。そして上記管理者は、入力装置104より、新たに流量計を設置した管路134の識別情報と、新たに圧力計を設置した需要点135の識別情報を入力する。配水制御管理装置101の入力データ登録プログラム110では、上記入力された管路134の流量計有無情報を「有」に更新し、上記入力された需要点135の圧力計有無情報を「有」に更新する。
【0040】
次に、配水制御管理装置101における、圧力、流量の計測値の収集を行う処理(4)について説明する。配水制御管理装置101のデータ計測プログラム112では、所定周期ごとに(例えば5分周期など)、ネットワーク138を介して各圧力計136、各流量計137、ポンプ133、バルブ134より流量、圧力の計測値の収集を行い、上記計測値を計測データ管理テーブル122に登録する。
【0041】
上記のようにして、配水制御管理装置101のデータ計測プログラム112によって、圧力、流量の計測値の収集処理が行われる。
【0042】
次に、配水制御管理装置101における、需要家の施設特性別の需要パターンの作成を行う処理(5)について、図5図6を用いて説明する。処理(5)は、需要家の施設特性別の需要パターンの作成をはじめて行う場合や、需要分布の推定精度が悪くなってきた場合などに実行する。図5は、需要家の施設特性別の需要パターンを作成する処理を示すフローチャートである。図6は、作成された需要家の施設特性別の需要パターンの一例である。
【0043】
ステップS501において、配水制御管理装置101の需要パターン作成プログラム113は、管網情報管理テーブル121より、配水管網133を構成する管路134の識別情報、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、流量計の有無、および需要点135の識別情報を取得する。そして、上記流量計の適切な設置場所の計画を行う処理(3)において説明したように、図3に示すフローチャートに従って、配水管網133を水供給量算出可能な複数のエリアに分割する。そして需要パターン作成プログラム113は、上記分割されたエリアに関する情報として、エリア識別情報、およびエリア内の需要点、流量計、圧力計の識別情報を需要パターン管理テーブル123に登録する。
【0044】
ステップS502において、需要パターン作成プログラム113は、需要家情報管理テーブル120より、各需要家の最新の水使用量の検針値とその水使用期間を取得する。このとき各需要家の水使用期間が一致していない場合、需要パターン作成プログラム113は、同一の水使用期間となるよう水使用量検針値の補正を行う。例えば、4月2日から5月31日までの60日間の水使用量Aを4月1日から5月31日までの61日間の水使用量Bに補正する場合、前回の検針期間2月2日から4月1日までの59日間の水使用量Cであったとすると、B=A+C/59で計算する。そして需要パターン作成プログラム113は、上記各エリア内に含まれる全ての需要家の水使用量の検針値を合計して、エリア別の所定期間(上記同一の水使用期間)Tにおけるトータル需要量を算出する。
【0045】
そして需要パターン作成プログラム113は、計測データ管理テーブル122より、上記所定期間Tにおける所定周期ごとの所定管路上の流量計測値を取得する。そして上記各エリアにおける上記所定期間の流量収支(流入量−流出量の合計)を計算し、エリア別の上記所定期間Tのトータル水供給量を算出する。そして需要パターン作成プログラム113は、上記水供給量から上記需要量を減じることにより、エリア別の上記所定期間Tの漏水量を算出する。
【0046】
ステップS503において、需要パターン作成プログラム113は、計測データ管理テーブル122より、上記所定期間Tにおける所定周期ごとの所定需要点上の圧力計測値を取得する。そして上記各エリア内のいずれかの圧力計測値を用いて、上記所定期間Tにおけるエリア別、時刻別の代表圧力を算出する。
【0047】
そして需要パターン作成プログラム113は、上記エリア別、時刻別の代表圧力に基づき、上記所定期間Tにおけるエリア別、時刻別の漏水量を算出する。時刻t(所定期間T内の時刻)における所定エリアAの漏水量L(t)は、エリア放出係数c(A)と時刻tにおけるエリア代表圧力P(t)を用いて、以下の近似式で表すことができる。
【0048】
L(t)=c(A)×P(t)^k …(式1)
ここでkは0.5〜2.8の値をとる定数であり、本実施形態ではk=0.5とする。
上記近似式(式1)の両辺の上記所定期間における総和をとると、以下のようになる。
【0049】
ΣL(t)=c(A)×ΣP(t)^k …(式2)
上記(式2)の右辺、すなわち上記所定期間TのエリアAの漏水量はステップS502において算出されており、上記(式2)の左辺内のエリアAの代表圧力P(t)も算出されているため、上記(式2)を解いて、上記所定エリアAのエリア放出係数c(A)を算出する。そしてc(A)を上記(式1)に代入して解くことにより、上記所定期間Tにおけるエリア別、時刻別の漏水量L(t)を算出する。そして需要パターン作成プログラム113は、上記算出された上記エリア別のエリア放出係数を需要パターン管理テーブル123に登録する。
【0050】
ステップS504において、需要パターン作成プログラム113は、需要家情報管理テーブル120より、各需要家の施設特性情報(住宅、商業施設、工場、事業所の4種類)を取得し、上記施設特性別に需要家の件数をカウントして、各エリアにおける需要家施設特性別の需要家件数を算出する。そして需要パターン作成プログラム113は、計測データ管理テーブル122より、上記所定期間Tにおける所定周期ごとの所定管路上の流量計測値を取得する。そして上記各エリアにおける各時刻ごとの流量収支(流入量−流出量)を計算し、所定期間Tにおけるエリア別、時刻別の水供給量を算出する。
【0051】
ここで、所定エリアAに関する変数を以下のように定義すると、エリアAにおいて以下の(式3)が成り立つ。
t:所定期間T内の時刻
F(t):時刻tにおけるエリアAの水供給量(既知)
L(t):時刻tにおけるエリアAの漏水量(既知)
α(A,i):エリアAにおける需要家施設特性iの需要家件数(既知)
Z(i,t):時刻tにおける需要家施設特性iの需要家1件あたりの需要量(未知)
(i=1、2、3、4のときの施設特性は、それぞれ住宅、商業施設、工場、事業所である)
F(t)−L(t)=Σα(A,i)×Z(i,t) (Σはiに関する総和)…(式3)
ある時刻tにおいて、(式3)における未知変数はZ(i,t)(i=1,2,3,4)の4つである。上記エリア数は需要家施設特性数(4つ)以上となるようにエリア分割されているため、各エリアにおいて成り立つ(式3)の数は4つ以上となる。また各エリアの需要家の施設特性別の構成比率が異なっているため、上記各エリアにおいて成り立つ連立方程式(式3)は不定または不能とならず求解可能となる。需要パターン作成プログラム113は、上記連立方程式を解いて、上記所定期間Tにおける需要家施設特性別、時刻別の需要家1件あたりの需要量を算出する。上記連立方程式において、未知変数の数より式の数の方が多い場合は、最小2乗法などにより計算誤差を最小化するように解を決定すればよい。
【0052】
ステップS505において、需要パターン作成プログラム113は、上記算出した上記所定期間Tにおける需要家施設特性別、時刻別の需要家1件あたりの需要量について、毎日の時刻別の平均をとり、需要家施設特性別の1日の時刻別需要量(需要パターン)を作成する。このとき、例えば平日・休日別に平均をとって、平日・休日別の需要パターンを作成してもかまわない。そして需要パターン作成プログラム113は、上記作成された需要家施設特性別の需要パターンを需要パターン管理テーブル123に登録する。ここで図6に、作成された需要家施設特性別の需要パターンの一例を示しておく。
【0053】
上記のようにして、配水制御管理装置101の需要パターン作成プログラム113によって、需要家の施設特性別の需要パターンの作成処理が行われる。
【0054】
すなわち、需要家情報取得部が分割された複数のエリアごとに取得した施設情報と、計測データとに基づいて、施設特性要素別に需要パターンを算出する。
【0055】
次に、配水制御管理装置101における、配水管網上の需要分布の推定を行う処理(6)について説明する。配水管網133の管網解析計算の入力データとしてその需要分布の推定値が必要となるため、処理(6)は、管網解析計算を行う際などに実行する。配水制御管理装置101の需要推定プログラム114は、需要家情報管理テーブル120より、各需要家の施設特性情報を取得し、上記施設特性別に需要家の件数をカウントして、各需要点135における需要家施設特性別の需要家件数を算出する。そして需要推定プログラム114は、需要パターン管理テーブル123より需要家施設特性別の需要家1件あたりの需要パターンを取得する。ここで、所定の需要点Bに関する変数を以下のように定義すると、需要点Bにおいて以下の(式4)が成り立つ。
D(B,t):時刻tにおける需要点Bの需要量(未知)
β(B,i):需要点Bにおける需要家施設特性iの需要家件数(既知)
Z(i,t):時刻tにおける需要家施設特性iの需要家1件あたりの需要量(需要パターン、既知)
(i=1、2、3、4のときの施設特性は、それぞれ住宅、商業施設、工場、事業所である)
D(B,t)=Σβ(B,i)×Z(i,t) (Σはiに関する総和)…(式4)
需要推定プログラム114は、全ての需要点135について上記(式4)を計算して、配水管網133上の時刻別の需要分布を算出する。
【0056】
上記のようにして、配水制御管理装置101の需要推定プログラム114によって、配水管網上の需要分布の推定処理が行われる。
【0057】
すなわち、需要量推定部が、需要パターンと、複数の需要家を集約した需要点における施設情報とに基づいて、需要点における需要分布(需要量)を推定する。
【0058】
次に、配水制御管理装置101における、管網解析計算に基づく配水管網上の圧力、流量分布の推定を行う処理(7)について説明する。処理(7)は、配水管網133上の圧力分布、流量分布を把握したい場合などに実行する。管網解析計算とは、管路134の識別情報、管路長、管路径、流速係数(管路の材質や経年によって変化する)、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、および需要点135の識別情報、位置情報、標高等の管網モデル情報より導出される需要点での流量収支式、および管路での圧力平衡式を連立して解くことによって管網上の圧力、流量分布を求めるものである。管網解析計算を行うアルゴリズムは公知であり、例えばアメリカ合衆国環境保護庁が開発したEPANETなどの管網解析計算ツールがフリーで公開されているため、本実施形態では詳細な説明を省略する。管網解析計算プログラム115は、上記管網モデル情報、および与えられた配水地点(ポンプ131、バルブ132)における流量値、圧力値、配水管網133上の需要分布等の境界条件に基づいて管網解析計算を行い、配水管網133上の圧力分布および流量分布を算出する。
【0059】
上記のようにして、配水制御管理装置101の管網解析計算プログラム115によって、管網解析計算に基づく配水管網上の圧力、流量分布の推定処理が行われる。
【0060】
次に、配水制御管理装置101における、管路流速係数の推定を行う処理(8)について、図7を用いて説明する。処理(8)は、管路134の管路抵抗係数の推定をはじめて行う場合や、管路構造が変化した場合(管路134の追加、削除、管路長・管路径の異なる管路への交換)などに実行する。図7は、管路流速係数の推定を行う処理を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS701において、配水制御管理装置101の管路流速係数推定プログラム116は、需要推定プログラム114を呼び出して実行し、過去の所定時刻における配水管網133上の各需要点135の需要量(需要分布)を推定する。
【0062】
ステップS702において、管路流速係数推定プログラム116は、需要パターン管理テーブル123より、最新の上記分割されたエリアのエリア識別情報、およびエリア内の需要点、流量計、圧力計の識別情報、およびエリア別のエリア放出係数を取得する。そして計測データ管理テーブル122より、上記所定時刻における各エリア内の所定需要点上の圧力計測値をエリア別の代表圧力として取得する。そして管路流速係数推定プログラム116は、(式1)に基づいてエリア別の上記所定時刻における漏水量を算出する。
【0063】
ステップS703において、管路流速係数推定プログラム116は、ステップS701にて推定した各需要点135の需要量に対して、ステップS702にて算出したエリア別の漏水量を上記需要量に応じてエリア内の各需要点に比例配分するようにして、上記所定時刻における各需要点135の漏水を含めた需要量(需要分布)を推定する。
【0064】
ステップS704において、管路流速係数推定プログラム116は、管網情報管理テーブル121より、配水管網133上の管路134の識別情報、管路長、管路径、流速係数(管路の材質や経年によって変化する)、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、および需要点135の識別情報、位置情報、標高等の管網モデル情報を取得する。そして管路流速係数推定プログラム116は、類似の材質や経年をもつ各管路134をいくつかの管路グループに分割し、GAを用いて、同一管路グループ内の流速係数を一律に増加または減少させて管路抵抗係数の補正案を作成(または修正)する。
【0065】
ステップS705において、管路流速係数推定プログラム116は、計測データ管理テーブル122より、上記所定時刻における配水管網133上の配水地点(ポンプ131、バルブ132)における圧力、流量の計測値を取得する。そして管路流速係数推定プログラム116は、管網解析計算プログラム115を呼び出し、上記管網モデル情報、および上記取得された配水地点(ポンプ131、バルブ132)における圧力、流量の計測値、およびステップS703において推定された配水管網133上の漏水を含めた需要分布、等の境界条件を管網解析計算プログラム115に引渡して実行する。管網解析計算プログラム115は、上記処理(7)で説明した管網解析計算を行い、配水管網133上の圧力分布および流量分布を算出する。
【0066】
ステップS706において、管路流速係数推定プログラム116は、計測データ管理テーブル122より、上記所定時刻における配水管網133上の圧力、流量計測地点における圧力、流量の計測値を取得する。そして管路流速係数推定プログラム116は、圧力、流量計測地点における計測値と上記管網解析計算による計算値との誤差が所定の許容範囲以内であるかどうかの判定を行う。そして管路流速係数推定プログラム116は、上記誤差が所定許容範囲以内でなければステップS704に進み、管路抵抗係数の補正案の修正を行う。上記誤差が所定許容範囲以内であれば、上記補正された管路抵抗係数を最適なパラメータとして決定し、管網情報管理テーブル121に登録する。
【0067】
上記のようにして、配水制御管理装置101の管路流速係数推定プログラム116および管網解析計算プログラム115によって、管路流速係数の推定処理が行われる。
【0068】
次に、配水制御管理装置101における、配水圧を適正化する配水機器の制御を行う処理(9)について、図8を用いて説明する。処理(9)は、上記処理(4)のデータ計測周期ごとに(例えば5分周期など)、最新の圧力、流量データが計測されたタイミングで実行する。図8は、配水機器(ポンプ、バルブ)の制御を行う処理を示すフローチャートである。
【0069】
ステップS801において、配水制御管理装置101の配水機器制御プログラム117は、需要推定プログラム114を呼び出して実行し、現時点の次の時刻における配水管網133上の各需要点135の需要量(需要分布)を推定する。
【0070】
ステップS802において、配水機器制御プログラム117は、需要パターン管理テーブル123より、最新の上記分割されたエリアのエリア識別情報、およびエリア内の需要点、流量計、圧力計の識別情報、およびエリア別のエリア放出係数を取得する。そして計測データ管理テーブル122より、現時刻における各エリア内の所定需要点上の圧力計測値をエリア別の代表圧力として取得する。そして配水機器制御プログラム117は、(式1)に基づいてエリア別の現時刻における漏水量を算出する。上記エリア別漏水量は次時刻のものが好ましいが、次時刻のエリア別代表圧力は未計測であるため、計測可能な現時刻のエリア別代表圧力より算出される現時刻のエリア別漏水量で次時刻のエリア別漏水量を代用するものである。
【0071】
ステップS803において、配水機器制御プログラム117は、ステップS801にて推定した各需要点135の需要量に対して、ステップS802にて算出したエリア別の漏水量を上記需要量に応じてエリア内の各需要点に比例配分するようにして、次時刻における各需要点135の漏水を含めた需要量(需要分布)を推定する。
【0072】
ステップS804において、配水機器制御プログラム117は、管網情報管理テーブル121より、配水管網133上の管路134の識別情報、管路長、管路径、流速係数(管路の材質や経年によって変化する)、接続情報(管路の始点、終点となる需要点の識別情報)、および需要点135の識別情報、位置情報、標高等の管網モデル情報を取得する。そして配水機器制御プログラム117は、GAを用いて、配水地点(ポンプ131、バルブ132)における現時刻の流量、圧力を増加または減少させて次時刻の配水計画案(流量、圧力)を作成(または修正)する。このとき上記配水計画は、各配水地からの流量(配水量)の合計が、上記漏水を含めた各需要点135の需要量の合計に一致するように作成を行う。
【0073】
ステップS805において、配水機器制御プログラム117は、管網解析計算プログラム115を呼び出し、上記管網モデル情報、および上記配水計画案による配水地点における次時刻の圧力、流量の計画値、およびステップS803において推定された次時刻の配水管網133上の漏水を含めた需要分布、等の境界条件を管網解析計算プログラム115に引渡して実行する。管網解析計算プログラム115は、上記処理(7)で説明した管網解析計算を行い、次時刻の配水管網133上の圧力分布および流量分布を算出する。
【0074】
ステップS806において、配水機器制御プログラム117は、上記管網解析計算による各需要点135の圧力計算値が所定許容範囲以内であるかどうかの判定を行う。そして配水機器制御プログラム117は、上記圧力計算値が所定許容範囲以内でなければステップS804に進み、配水計画案の修正を行う。上記誤差が所定許容範囲以内であれば、ステップS807に進む。
【0075】
ステップS807において、配水機器制御プログラム117は、上記作成された次時刻の配水計画案(各配水地点からの流量、圧力)を実現するように、ポンプ131の回転数、およびバルブ132の開度を決定する。
【0076】
上記のようにして、配水制御管理装置101の配水機器制御プログラム117および管網解析計算プログラム115によって、配水圧を適正化する配水機器の制御処理が行われる。
【0077】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、配水管網を水供給量算出可能な複数のエリアに分割し、またエリア別の漏水量の推定を行っているため、各エリアにおいて成り立つ水供給量と漏水量と施設特性別の需要家の件数と施設特性別の需要パターンとの関係式を導出可能となる。これを解くことで需要家の施設特性別の需要パターンを算出し、上記需要パターンの重ね合わせで水需要分布の推定を行っているため、需要家の施設特性を考慮した正確な水需要の推定が可能となる。
【符号の説明】
【0078】
100…配水制御システム、101…配水制御管理装置、102…CPU、103…メモリ、104…入力装置、105…表示装置、106…ハードディスク、107…システムバス、110…入力データ登録プログラム、111…流量計設置場所計画プログラム、112…データ計測プログラム、113…需要パターン作成プログラム、114…需要推定プログラム、115…管網解析計算プログラム、116…管路流速係数推定プログラム、117…配水機器制御プログラム、120…需要家情報管理テーブル、121…管網情報管理テーブル、122…計測データ管理テーブル、123…需要パターン管理テーブル、130…配水池、131…ポンプ、132…バルブ、133…配水管網、134…管路、135…需要点、136…圧力計、137…流量計、138…ネットワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8