【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 頒布日 平成24年12月14日(発行日:平成24年12月6日) 刊行物 第13回岩の力学国内シンポジウム&第6回日韓ジョイントシンポジウム講演論文集 第717頁〜第722頁 [刊行物等] 開催日 平成25年1月10日 集会名、開催場所 第13回岩の力学国内シンポジウム 沖縄コンベンションセンター
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の削孔断面積(A)を有する油圧ビットを所定の削孔速度(V)で岩盤中を掘進させる油圧式パーカッションドリルを用いて前記岩盤を評価する岩盤の評価方法において、
【数1】
により算出される岩盤強度(σ
C)により前記岩盤を評価するものであり、
Eは前記油圧ビットの一打撃あたりの打撃エネルギー、
1/E
0は傾き係数、
Sは前記油圧ビットが単位体積当たりの前記岩盤を破壊するために要するエネルギーである破壊エネルギー係数、
S
0は限界破壊エネルギー係数であり、
この条件下において、
前記油圧式パーカッションドリルを用いて前記岩盤を削孔して、定数決定用打撃エネルギー(E)と定数決定用打撃回数(N)とを取得した後に、前記定数決定用打撃エネルギー(E)と前記定数決定用打撃回数(N)と前記削孔速度(V)と前記削孔断面積(A)とを利用して定数決定用破壊エネルギー係数(S)を取得すると共に、前記定数決定用破壊エネルギー係数(S)を取得した位置における定数決定用岩盤強度(σ
C)を取得する定数決定用データ取得ステップと、
前記定数決定用破壊エネルギー係数(S)と前記定数決定用岩盤強度(σ
C)とを利用して上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)を決定した後に、前記定数決定用打撃エネルギー(E)と前記定数決定用破壊エネルギー係数(S)と前記限界破壊エネルギー係数(S
0)と前記定数決定用岩盤強度(σ
C)とを利用して上記式(1)の傾き定数(1/E
0)を決定する定数決定ステップと、
前記油圧式パーカッションドリルを用いて前記岩盤を削孔して、強度算出用打撃エネルギー(E)と強度算出用打撃回数(N)とを取得した後に、前記強度算出用打撃エネルギー(E)と前記強度算出用打撃回数(N)と前記削孔速度(V)と前記削孔断面積(A)とを利用して強度算出用破壊エネルギー係数(S)を取得する強度算出用データ取得ステップと、
前記定数決定ステップで決定した前記限界破壊エネルギー係数(S
0)と前記傾き定数(1/E
0)と、前記強度算出用データ取得ステップで取得した前記強度算出用打撃エネルギー(E)と前記強度算出用破壊エネルギー係数(S)とを上記式(1)に代入して、岩盤強度(σ
C)を算出する強度算出ステップと、を有することを特徴とする岩盤の評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
削孔により得られるデータと岩盤強度等の地山性状を示す指標との相関関係を解析的に得ることは困難である。従って、従来は、特許文献1や特許文献2のように、多量のデータを統計的に処理して、削孔により得られるデータと岩盤強度等の地山性状を示す指標との相関関係を得ている。しかし、統計的処理を用いる場合において、相関関係の信頼性は処理するデータ数の大きさにより変化するため一般には多量のデータが必要になる。
【0006】
そこで、本発明は、岩盤の評価に利用するデータ数の低減を可能にした岩盤の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の削孔断面積(A)を有する油圧ビットを所定の削孔速度(V)で岩盤中を掘進させる油圧式パーカッションドリルを用いて岩盤を評価する岩盤の評価方法において、
【数1】
により算出される岩盤強度(σ
C)により岩盤を評価するものであり、Eは油圧ビットの一打撃あたりの打撃エネルギー、1/E
0は傾き係数、Sは油圧ビットが単位体積当たりの岩盤を破壊するために要するエネルギーである破壊エネルギー係数、S
0は限界破壊エネルギー係数であり、この条件下において、油圧式パーカッションドリルを用いて岩盤を削孔して、定数決定用打撃エネルギー(E)と定数決定用打撃回数(N)とを取得した後に、定数決定用打撃エネルギー(E)と定数決定用打撃回数(N)と削孔速度(V)と削孔断面積(A)とを利用して定数決定用破壊エネルギー係数(S)を取得すると共に、定数決定用破壊エネルギー係数(S)を取得した位置における定数決定用岩盤強度(σ
C)を取得する定数決定用データ取得ステップと、定数決定用破壊エネルギー係数(S)と定数決定用岩盤強度(σ
C)とを利用して上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)を決定した後に、定数決定用打撃エネルギー(E)と定数決定用破壊エネルギー係数(S)と限界破壊エネルギー係数(S
0)と定数決定用岩盤強度(σ
C)とを利用して上記式(1)の傾き定数(1/E
0)を決定する定数決定ステップと、油圧式パーカッションドリルを用いて岩盤を削孔して、強度算出用打撃エネルギー(E)と強度算出用打撃回数(N)とを取得した後に、強度算出用打撃エネルギー(E)と強度算出用打撃回数(N)と削孔速度(V)と削孔断面積(A)とを利用して強度算出用破壊エネルギー係数(S)を取得する強度算出用データ取得ステップと、定数決定ステップで決定した限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き定数(1/E
0)と、強度算出用データ取得ステップで取得した強度算出用打撃エネルギー(E)と強度算出用破壊エネルギー係数(S)とを上記式(1)に代入して、岩盤強度(σ
C)を算出する強度算出ステップと、を有する。
【0008】
本発明に係る岩盤の評価方法では、岩盤強度(σ
C)と破壊エネルギー係数(S)との関係が上記式(1)で示されている。上記式(1)の定数である限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)は、定数決定用データ取得ステップと定数決定ステップにより取得される。そして、打撃エネルギー(E)と破壊エネルギー係数(S)は強度算出用データ取得ステップにより取得され、強度算出ステップにおいて上記式(1)へ代入することにより、岩盤強度(σ
C)が代数的なデータ処理で得られる。
ここで、上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)は、定数決定用破壊エネルギー係数(S)と定数決定用岩盤強度(σ
C)とにより決定され、略一定の値を取り得る。さらに、傾き係数(1/E
0)は、油圧式パーカッションドリルの打撃仕様に基づく定数決定用打撃エネルギー(E)と、定数決定用破壊エネルギー係数(S)と、限界破壊エネルギー係数(S
0)とにより決定される。
従って、これら限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)の決定には信頼性を高めるために多量のデータを必要としないので、岩盤の評価に利用するデータ数の低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、岩盤の評価に利用するデータ数の低減を可能にした岩盤の評価方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る岩盤の評価方法の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1に示されるように、本発明に係る岩盤の評価方法を実施するための削孔検層システム1は、油圧ビットBを用いて岩盤Gを削孔して取得したデータを利用して、切羽前方の地質状況を予測するシステムである。削孔検層システム1は、油圧ビットBを用いて岩盤Gを削孔する油圧式パーカッションドリル2と、油圧ビットBの孔曲りを抑制する削孔ツールス3と、各種データを取得するセンサ4と、センサ4から出力されるデータを収集し記録媒体に記録する収録装置5と、情報処理装置6とを備えている。
【0013】
油圧式パーカッションドリル2は、油圧ビットBの挿入深度と、油圧ビットBの回転トルクと、油圧ビットBの打撃圧と、フィード圧とを測定するセンサ4を有している。センサ4で取得されたデータは、収録装置5においてSDメモリカードなどの記録媒体に記録され、記録媒体を介して情報処理装置6に入力された後に処理される。
【0014】
本発明に係る岩盤Gの評価方法は、削孔データである破壊エネルギー係数(S)を利用して切羽前方の地質状態を予測する方法であり、より詳細には、岩盤強度(σ
C)を取得し、この岩盤強度(σ
C)を利用して岩盤Gにおける地山等級等を評価するものである。従って、本発明の実施に当たっては、破壊エネルギー係数(S)から岩盤強度(σ
C)を得るための相関関係が明らかになっている必要がある。そこで、まず、破壊エネルギー係数(S)と岩盤強度(σ
C)との相関関係について説明する。
【0015】
まず、破壊エネルギー係数(S)について説明する。破壊エネルギー係数(S)は、油圧ビットBが単位体積あたりの岩盤Gを破壊するのに要するエネルギーであり、一般に、硬岩の場合は大きく、軟岩の場合には小さい値となる。破壊エネルギー係数(S)は、下記式(2)で定義されている。
【数2】
ここで、Sは破壊エネルギー係数、Eは1打撃あたりの打撃エネルギー、Nは打撃回数、Vは削孔速度、Aは削孔断面積である。すなわち、上記式(2)の分母は破砕した岩盤Gの体積を示し、分子は油圧ビットの総仕事量を示す。なお、上記式(2)には、所定の補正係数(α)を含んでいてもよい。
【0016】
発明者らは、打撃削孔時の岩盤Gの破壊挙動に着目し、岩盤Gの不均質性や破壊挙動を再現できる個別要素法を用いてシミュレーションを行い、破壊エネルギー係数(S)と岩盤強度(σ
C)との相関関係について検討を行った。
【0017】
このシミュレーションでは、異なる一軸圧縮強度を有する岩盤Gに対して油圧ビットの初期運動エネルギー(Em)を変化させた。初期運動エネルギー(Em)は、打撃エネルギー(E)に相当するパラメータである。
図2は、このシミュレーションにより得られた結果を、破壊エネルギー係数(S)をX軸とし、岩盤強度(σ
C)をY軸として表示したものである。
【0018】
点P1は、初期運動エネルギー(Em)を4kJに設定した場合の結果であり、グラフL1は、点P1の近似直線である。点P2は、初期運動エネルギー(Em)を8kJに設定した場合の結果であり、グラフL2は、点P2の近似直線である。点P3は、初期運動エネルギー(Em)を9kJに設定した場合の結果であり、グラフL3は、点P3の近似直線である。点P4は、初期運動エネルギー(Em)を12kJに設定した場合の結果であり、グラフL4は、点P4aの近似直線である。点P5は、初期運動エネルギー(Em)を16kJに設定した場合の結果であり、グラフL5は、点P5の近似直線である。
【0019】
なお、初期運動エネルギー(Em)とはシミュレーション時に設定される油圧ビットBの打撃エネルギー(E)であって、破壊エネルギー係数(S)と岩盤強度(σ
C)との相関を求めるために使用される。
【0020】
図2のグラフL1〜L5を確認すると、いずれの初期運動エネルギー(Em)においても破壊エネルギー係数(S)と岩盤強度(σ
C)の間に正の相関が認められた。また、ある初期運動エネルギー(Em)において、岩盤強度(σ
C)が増加するにしたがって破壊エネルギー係数(S)も増加していた。この結果は、これまでの知見と矛盾していない。また、初期運動エネルギー(Em)が増加するにつれてグラフL1〜L5の傾きが増加していた。この現象が、破壊エネルギー係数(S)による地山性状の一般的評価を困難にしている。
【0021】
また、各初期運動エネルギー(Em)におけるグラフL1〜L5がX軸(σ
C=0)と交わる点(S
0)は略一定の範囲に収束することがわかった。岩盤強度(σ
C)が負の値になることはないため、点S
0は初期運動エネルギー(Em)の影響を受けない値である。
【0022】
以上の検討から、発明者らは、初期運動エネルギー(Em)の条件や岩盤強度(σ
C)に左右されないパラメータを発見した。そして発明者らは、このパラメータを限界破壊エネルギー係数(S
0)と定義した。
【0023】
さらに、限界破壊エネルギー係数(S
0)について、その物理的意味を検討した。岩盤強度(σ
C)が極めて小さい地山に対し打撃削孔を行うことを想定すると、その際得られる削孔速度(V)は大きな値となり、破壊エネルギー係数(S)は小さくなる。しかし、岩盤強度(σ
C)が極めて小さい岩盤Gにおいても一定の質量があり、それを動かす(削孔する)際には必ずエネルギーが消費されると考えられる。すなわち、限界破壊エネルギー係数(S
0)とは、一定の質量を有する岩盤Gを単位体積分だけ削孔する際に必要となる最小限のエネルギーであるといえる。従って、限界破壊エネルギー係数(S
0)は、打撃条件や岩盤強度(σ
C)によらず油圧ビットBの仕様(孔径や質量)によって決定されると考えられる。
【0024】
図2に示されたグラフL1〜L5は、打撃条件ごとに異なった傾きを有している。従って、
図2の結果を利用した破壊エネルギー係数(S)と岩盤強度(σ
C)との相関関係によれば、打撃条件ごとに関係式を算出する必要がある。
【0025】
そこで、発明者らは、
図2の初期運動エネルギー(Em)の点P1〜P5を1個の近似直線で表現することにより一般化することを試みた。
図3は、各初期運動エネルギー(Em)のグラフL1〜L5はすべて(S,σ
C)=(S
0,0)を通るとみなし、X軸の値を下記式(3)により換算したものである。
【数3】
【0026】
図3のグラフL6を確認すると、初期運動エネルギー(Em)と破壊エネルギー係数(S)と限界破壊エネルギー係数(S
0)とを含む値と、岩盤強度(σ
C)との間には、比例関係が成り立つことがわかった。そして、この比例関係を示し、グラフL6の傾きを表すパラメータとして傾き定数(1/E
0)を定義した。
【0027】
傾き定数(1/E
0)は打撃機構の仕様によって決定されると考えられるため、油圧ビットB毎に異なる値をとると考えられる。また、岩盤強度(σ
C)は油圧ビットBの初期運動エネルギー(Em)と破壊エネルギー係数(S)により算出できることがわかった。従って、発明者らは、任意の削孔条件と打撃条件において破壊エネルギー係数(S)から岩盤強度(σ
C)を定量的に求めることが可能な上記式(1)を見出した。
【0028】
続いて、上記式(1)を利用した岩盤の評価方法をトンネル工事に適用した場合を例に説明する。
【0029】
図4に示されるように、削孔検層システム1の仕様を決定する(ステップS1)。このステップS1では、油圧式パーカッションドリル2の打撃条件に関する仕様を決定する。このステップS1において、油圧ビットBの削孔断面積(A)に関するビット径や削孔ツールス3の質量などが決定される。従って、ステップS1では、ビット径から削孔断面積(A)が決定される。
【0030】
続いて、トンネルの切羽前方において試験探査を実施して、上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)を決定するための定数決定用データを取得する(ステップS2)。
【0031】
より詳細には、このステップS2では、油圧式パーカッションドリル2を操作して既存の調査ボーリングを実施した位置の近傍で岩盤Gを削孔し定数決定用データを取得する。定数決定用データとして、挿入深度と、深度打撃圧(P)と、打撃回数(N)と、削孔速度(V)とを、取得する。そして、打撃圧(P)を
図5に示されるグラフL7を用いて打撃エネルギー(E)に変換する。例えば、打撃圧(P)がP1である場合には、打撃エネルギー(E)はE1に換算される。
【0032】
続いて、打撃エネルギー(E)と、打撃回数(N)と、削孔断面積(A)と削孔速度(V)とを上記式(2)に代入して、所定の挿入深度における破壊エネルギー係数(S)を算出する。また、シュミット式ハンマー試験等により所定の挿入深度における岩盤Gの岩盤強度(σ
C)である一軸圧縮強度を測定する。
【0033】
以上のステップS2により、所定の進入深度における破壊エネルギー係数(S)と、岩盤強度(σ
C)の組合せデータD(S,σ
C)が取得される。組合せデータD(S,σ
C)は、岩盤強度(σ
C)が異なる少なくとも2か所の組合せデータD1(S
1,σ
C1)及びD2(S
2,σ
C2)があればよい。なお、必要に応じて複数の組合せデータD1(S
1,σ
C1)〜Dn(S
n,σ
Cn)(nは2以上の整数)を取得してもよい。その際には、削孔孔の位置を変えてデータを取得してもよいし、打撃圧(P)を変えてデータを取得してもよい。
【0034】
図4に示されるように、上記式(1)の定数を決定する(ステップS3)。まず、限界破壊エネルギー係数(S
0)を決定する(ステップS3a)。
図6(a)に示されるように、破壊エネルギー係数(S)をX軸とし、岩盤強度(σ
C)をY軸とした座標系に、破壊エネルギー係数(S)と、岩盤強度(σ
C)の組合せデータD(S,σ
C)を表示する。
図6(a)には、異なる岩盤強度(σ
C1,σ
C2)を有する箇所において、3個の打撃条件を設定して取得した6個の組合せデータD1(S
1,σ
C2)、D2(S
3,σ
C1)、D3(S
2,σ
C2)、D4(S
4,σ
C1)、D5(S
5,σ
C2)、D6(S
6,σ
C1)が表示されている。続いて、組み合わせデータD1とD2から近似直線であるグラフL8を算出し、組み合わせデータD3とD4から近似直線であるグラフL9を算出し、組み合わせデータD5とD6から近似直線であるグラフL10を算出し、それぞれのグラフL8〜L10を表示する。続いて、グラフL8〜L10がX軸と交差する点を算出することにより限界破壊エネルギー(S
0)が決定される。限界破壊エネルギー係数(S
0)は、例えば50MJ/m
3〜100MJ/m
3である。
【0035】
続いて、傾き係数(1/E
0)を決定する(ステップS3b)。
図6(a)のX軸の値を、打撃エネルギー(E
1,E
2,E
3)と限界破壊エネルギー(S
0)と破壊エネルギー係数(S)とを上記式(3)に代入することにより換算する。そうすると、6個の組合せデータD1〜D6が打撃エネルギー(E)により規格化される。そして、規格化された組合せデータD1a〜D6aから近似直線であるグラフL11を算出し表示する。このグラフL11の傾きが、傾き係数(1/E
0)である。
【0036】
以上のステップS3により、上記式(1)の定数である限界破壊エネルギー係数(S
0)と、傾き係数(1/E
0)とが決定される。
【0037】
図4に示されるように、岩盤Gの評価をしたい位置の近傍を、油圧式パーカッションドリル2を用いて削孔し、岩盤Gの評価に必要な強度算出用データを取得する(ステップS4)。このステップS4では、強度算出用データとして、挿入深度と、打撃圧(P)と、打撃回数(N)と、削孔速度(V)とを、取得する。そして、打撃圧(P)を
図5に示されるグラフL7を用いて打撃エネルギー(E)に変換する。続いて、打撃エネルギー(E)と打撃回数(N)と削孔断面積(A)と削孔速度(V)とを上記式(2)に代入して、所定の挿入深度における破壊エネルギー係数(S)を算出する。
【0038】
続いて、上記式(1)を用いて破壊エネルギー係数(S)から岩盤強度(σ
C)を算出する(ステップS5)。上記式(1)において、定数である限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)とは定数決定ステップS3で既に決定されている。そして、岩盤Gを評価する位置における打撃エネルギー(E)と破壊エネルギー係数(S)とは強度算出用データ取得ステップS4で既に取得されている。従って、これらの値を上記式(1)に代入することにより、岩盤強度(σ
C)が算出される。
【0039】
そして、岩盤強度(σ
C)を利用して岩盤Gの評価を実施する(ステップ6)。このステップS6では、岩盤強度(σ
C)を利用して、トンネル工事に適用される支保パターンを決定する。例えば、トンネル工事における支保パターンの決定には、岩盤強度(σ
C)と岩盤Gの風化による変化と、岩盤Gの割目間隔と、割目の状態と、割目が走る傾斜角度とが総合的に評価される。
【0040】
この評価において、岩盤強度(σ
C)は、その数値に対応した6個の評価区分に分類される。
【0041】
例えば、岩盤強度(σ
C)が100N/mm
2である場合には、岩片を地面に置きハンマーで強打しても割れにくいものとして第1評価区分に分類される。また、岩盤強度(σ
C)が50N/mm
2〜100N/mm
2である場合には、岩片を地面に置きハンマーで強打すれば割れるものとして第2評価区分に分類される。また、岩盤強度(σ
C)が25N/mm
2〜50N/mm
2である場合には、岩片を手に持ってハンマーで叩いて割ることができるものとして第3評価区分に分類される。
【0042】
さらに、岩盤強度(σ
C)が10N/mm
2〜25N/mm
2である場合には、岩片同士を叩き合わせて割ることができるものとして第4評価区分に分類される。また、岩盤強度(σ
C)が3N/mm
2〜10N/mm
2である場合には、両手で岩片を部分的に割ることができるものとして第5評価区分に分類される。また、岩盤強度(σ
C)が3N/mm
2以下である場合には、力を込めれば小さな岩片を指先で潰すことができるものとして第5評価区分に分類される。
【0043】
本発明に係る岩盤の評価方法では、岩盤強度(σ
C)と破壊エネルギー係数(S)との関係が上記式(1)で示されている。上記式(1)の定数である限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)は、定数決定用データ取得ステップS2と定数決定ステップS3により決定される。そして、打撃エネルギー(E)と破壊エネルギー係数(S)は強度算出用データ取得ステップS4により取得され、強度算出ステップS5において上記式(1)へ代入することにより、岩盤強度(σ
C)が代数的なデータ処理で得られる。
【0044】
ここで、上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)は、定数決定用破壊エネルギー係数(S)と定数決定用岩盤強度(σ
C)とにより決定され、略一定の値を取り得る。さらに、傾き係数(1/E
0)は、油圧式パーカッションドリル2の打撃仕様に基づく定数決定用打撃エネルギー(E)と、定数決定用破壊エネルギー係数(S)と、限界破壊エネルギー係数(S
0)とにより決定される。従って、これら限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)の決定には信頼性を高めるために多量のデータを必要としないので、岩盤Gの評価に利用するデータ数の低減することができる。
【0045】
ところで、従来の岩盤の評価方法では、ある削孔検層での破壊エネルギー係数(S)と同位置の一軸圧縮強さ(σ
C)を測定し、両者の相関関係を統計処理によって求めるという処理が行われることがある。この場合には、統計処理によって求められる相関関係の信頼性が処理するデータ数(母集団)の大きさによって変化するため、一般的評価方法が確立されているとは言い難い。
【0046】
一方、本発明に係る岩盤の評価方法に用いられる限界破壊エネルギー係数(S
0)は、一定の質量を有する岩盤Gを単位体積分だけ削孔する際に必要となる最小限のエネルギーであると言え、かつ、岩盤Gの単位体積重量は地質によらず大きく変わらないことから、限界破壊エネルギー係数(S
0)は、どの現場においても一定の値を示すといえる。
【0047】
さらに、本発明に係る岩盤の評価方法に用いられる傾き係数(1/E
0)は、打撃エネルギー(E)及び破壊エネルギー係数(S)の関数E(S−S
0)と、岩盤強度(σ
C)の関係から得られるために、油圧式パーカッションドリル2の打撃機構の仕様によって決定されると考えられる。従って、油圧式パーカッションドリル2の種類や油圧ビットBのロッド等の仕様が変わらなければ一定値を示すといえる。
【0048】
従って、本発明に係る岩盤の評価方法は、上記式(1)を有することにより一般的評価手法が確立できている。
【0049】
また、従来の岩盤の評価方法では、情報化設計施工に必要な岩盤Gの力学的物性値を求められないという問題点があった。
【0050】
一方、本発明に係る岩盤の評価方法は、上記式(1)を利用しているので、岩盤強度(σ
C)を求めることができる。従って、情報化設計施工に必要な岩盤Gの力学的物性値である岩盤強度(σ
C)を直接的に得ることができる。
【0051】
また、本発明に係る岩盤の評価方法によれば、岩盤強度(σ
C)である一軸圧縮強度が得られるため、トンネル工事であれば、切羽前方(これから掘削する方向)の地質状態の良し悪しの定性的評価のみならず、切羽前方の設計支保パターンの妥当性評価、妥当でない場合の適切な支保パターンへの変更など、情報化設計施工における定量的な検討を行うことができる。
【0052】
トンネル工事、例えばNATMによるトンネル工事では、掘削した岩盤の強度、岩盤の割れ目、岩盤の風化変質の状況等により切羽を評価して支保パターンを決定する。支保パターンとはトンネルを掘削した後に掘削した断面を確保し、地山の崩壊や変形を防ぐために、鋼製支保工の要否や種類・吹付コンクリートの厚さ等の組合せを予め複数定めたものである。
【0053】
<実施例>
本実施例では、上記式(1)の妥当性を検証した。実施例で検証対象としたサイトは本坑(NATM)に避難坑(TBM工法)が付随するトンネルであり、ここではAトンネルとする。掘削対象地質は花崗岩類で、破砕帯や断層が複数存在する。Aトンネルでは延長約3.6kmのうち、ほぼ全線のTBM機械データが蓄積されており(
図7参照)、岩盤強度(σ
C)に準ずる物性値を求めることができる。
【0054】
従来、TBMの掘削抵抗を示す貫入量(Pe)と推力(F)からField Penetration Index(FPI)という指標値を算出し、切羽周辺の岩盤Gの力学的特性を評価する方法が提案されている。しかし、FPIを用いた評価は、岩盤Gの性状やTBMの寸法や機種に影響されるため、FPIを様々な現場に共通する指標値として用いることは困難である。
【0055】
そこで、Aトンネルで取得されたシュミット式ハンマー試験のハンマー反発度から推定される岩盤強度(σc)とFPIが一致するように下記式(4)における定数(C
F)を決定し、力学的特性の定量的な評価が可能な物性値としてRock Strength Index(RSI)を求めた。RSIは岩盤強度(σ
C)に相当する値であり、単位がMPaである。
【数4】
【0056】
岩盤強度(σ
C)に相当する実測値(RSI)と、
図7に示されている削孔検層の削孔データから得られる値(E(S−S
0))との相関関係を検証した。なお、限界破壊エネルギー係数(S
0)は
図7に示されたデータの解析結果から100MJ/m
3とした。
【0057】
図8に示されるように、実測値Dmにはばらつきが見られるものの、E(S−S
0)とRSIの間に正の相関関係(決定係数0.901)があることがわかった。これは
図3に示されたシミュレーション結果の傾向とよく一致しているため、限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)とを定数とする上記式(1)は妥当であることが確認された。従って、上記式(1)は実際の現場でも成立する可能性があり、各現場において傾き係数(1/E
0)及び限界破壊エネルギー係数(S
0)を適切に定めることによって岩盤強度(σ
C)を定量的に推定できる可能性があることがわかった。
【0058】
本実施例では、油圧式パーカッションドリル削孔時のデータを用いて算出した岩盤強度(σc)を用いて得られた支保パターンを採用して支保を行った。その結果、地山の崩壊・変形を防止できた。
【0059】
<変形例>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明に係る岩盤の評価方法は、トンネル工事以外の土木工事に適用されてもよい。例えば、露天の状態で溝等を掘削する明かり掘削工事に適用してもよい。本発明に係る岩盤の評価方法を明かり掘削工事に適用した場合には、これから掘削する箇所に対する掘削工法の妥当性、たとえば、発破工法の場合は適切な火薬量かどうか、機械工法の場合は能力が適切かどうかを定量的に評価し判断することができる。
【0060】
また、本発明の岩盤の評価方法は、強度算出ステップS5において得られた岩盤強度(σ
C)と、実際に測定した岩盤強度(σ
C)とを比較することにより、上記式(1)の限界破壊エネルギー係数(S
0)と傾き係数(1/E
0)とを修正するステップを有していてもよい。
【0061】
また、定数決定用データ取得ステップS2では、岩盤Gの一軸圧縮強度を得る方法として、ボーリングにより採取したコアサンプルを用いて一軸圧縮試験を実施して取得してもよい。