特許第6018995号(P6018995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6018995気泡含有ゲル状物および積層食品の製造方法
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  • 特許6018995-気泡含有ゲル状物および積層食品の製造方法 図000021
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6018995
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】気泡含有ゲル状物および積層食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 21/00 20160101AFI20161020BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20161020BHJP
【FI】
   A23L21/00
   A23L29/231
【請求項の数】2
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-179810(P2013-179810)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-47100(P2015-47100A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−170351(JP,A)
【文献】 特開昭64−037248(JP,A)
【文献】 特開2001−292710(JP,A)
【文献】 特開2011−103841(JP,A)
【文献】 特開2012−231701(JP,A)
【文献】 特開2012−005466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 21/00− 21/25
A23L 29/00− 29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料に水と、風味成分と、起泡剤と、増粘剤類とを含み、pHが6.2以下、可溶性固形分が10〜35質量%である気泡含有ゲル状物を製造する方法であって、
全原料を下記(a)の第1の組成物と下記(b)の第2の組成物とに分け、第1の組成物と第2の組成物との質量比が下記の式(1)で表され、
第1の組成物または第2の組成物のいずれか一方にカルシウムを含有させ、他方をpH5.5以下とするとともに、ローメトキシルペクチンを含有させ、
前記ローメトキシルペクチンの含有量が前記気泡含有ゲル状物に対して0.3〜1質量%であり、
第1の組成物に、オーバーランが100〜300%となるように気泡を含有させた後、第2の組成物と混合することを特徴とする気泡含有ゲル状物の製造方法。
(a)第1の組成物:起泡剤を含み、10℃における粘度が350〜3000mPa・sである組成物。
(b)第2の組成物:風味成分を含み、10℃における粘度が350〜3000mPa・sである組成物。
[第1の組成物]:[第2の組成物]=10:90〜70:30 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で気泡含有ゲル状物を製造する工程と、
得られた気泡含有ゲル状物を、カルシウムを含む食品上に積層する工程を有する、積層食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気泡含有ゲル状物の製造方法、および該気泡含有ゲル状物の製造方法を用いた積層食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好の多様化に伴い、新しい食感を有する食品が求められている。例えばホイップクリーム、ムース、泡雪かん、ババロア等のように、気泡を含有させることによって軽い風味および軽い食感が得られるようになる。
特許文献1には、フルーツ成分、乳化剤、ペクチン、砂糖等を含む混合物を撹拌して起泡させた、可溶性固形分が30%以上、pHが5以下、オーバーランが50%以上のホイップジャムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−103841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載されているホイップジャムは、付着性が高く、さっぱりとした口当たりが得られない。
そこで本発明者等は、ホイップジャムの付着性を下げるために可溶性固形分(ブリックス)を低くしてみたところ、付着性は低くなるが、起泡性が悪くなり、オーバーラン値が高くなりにくいこと、および、気泡の安定性が悪くなり、離水が生じ易いことを確認した。
本発明の課題は、付着性が低くてさっぱりとした口当たりが得られ、気泡を十分に含有して軽い風味および軽い食感を有し、かつ気泡の安定性に優れて離水が生じ難い気泡含有ゲル状食品を製造することにある。
また本発明は、かかる気泡含有ゲル状食品を用いて積層食品を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の気泡含有ゲル状物の製造方法は、原料に水と、風味成分と、起泡剤と、増粘剤類とを含み、pHが6.2以下、可溶性固形分が10〜35質量%である気泡含有ゲル状物を製造する方法であって、
全原料を下記(a)の第1の組成物と下記(b)の第2の組成物とに分け、第1の組成物と第2の組成物との質量比が下記の式(1)で表され、
第1の組成物または第2の組成物のいずれか一方にカルシウムを含有させ、他方をpH5.5以下とするとともに、ローメトキシルペクチンを含有させ、
前記ローメトキシルペクチンの含有量が前記気泡含有ゲル状物に対して0.3〜1質量%であり、
第1の組成物に、オーバーランが100〜300%となるように気泡を含有させた後、第2の組成物と混合することを特徴とする。
(a)第1の組成物:起泡剤を含み、10℃における粘度が350〜3000mPa・sである組成物。
(b)第2の組成物:風味成分を含み、10℃における粘度が350〜3000mPa・sである組成物。
[第1の組成物]:[第2の組成物]=10:90〜70:30 ・・・(1
【0006】
本発明は、本発明の製造方法で気泡含有ゲル状物を製造する工程と、得られた気泡含有ゲル状物を、カルシウムを含む食品上に積層する工程を有する、積層食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、付着性が低くてさっぱりとした口当たりが得られ、気泡を十分に含有して軽い風味および軽い食感を有し、かつ気泡の安定性に優れて離水が生じ難い気泡含有ゲル状食品、および該気泡含有ゲル状食品を備える積層食品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の気泡含有ゲル状物の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪気泡含有ゲル状物の製造方法≫
本発明は、原料に水と、風味成分と、起泡剤と、増粘剤類とを含み、10℃におけるpHが6.2以下、可溶性固形分が10〜35質量%である気泡含有ゲル状物を製造する方法である。本明細書におけるpHの値は、特に断りのない限り10℃におけるpHの値である。
図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
本実施形態の製造方法は、概略、全原料を、少なくとも起泡剤を含む第1の組成物と、少なくとも風味成分を含む第2の組成物とに分けてそれぞれを調製し(混合溶解工程)、必要に応じて加熱殺菌した後(殺菌工程)、第1の組成物にのみ気泡を含有させ(起泡工程)、気泡を含有させた第1の組成物と、気泡を含有させない第2の組成物と混合する工程(混合)を経て、気泡含有ゲル状物を製造する。
【0010】
気泡含有ゲル状物の可溶性固形分が前記範囲の下限値以上であると適度な風味と食感が得られ、上限値以下であると、付着性が低くてさっぱりとした口当たりが得られる。気泡含有ゲル状物の可溶性固形分の好ましい範囲は15〜35質量%である。気泡含有ゲル状物の可溶性固形分は、全原料の可溶性固形分に等しい。
気泡含有ゲル状物のpHが6.2以下であると、ローメトキシルペクチンとカルシウムとが反応しやすい。ローメトキシルペクチンとカルシウムとの反応により全原料がゲル化することによって気泡の安定性が得られる。気泡含有ゲル状物のpHの下限値は特に限定されないが、加熱時の安定性の点からは3以上が好ましい。該pHのより好ましい範囲は3.5〜6であり、特に3.5〜5.5が好ましい。気泡含有ゲル状物のpHは、全原料のpHに等しい。
【0011】
<風味成分>
風味成分は、気泡含有ゲル状物に風味(味および香りの両方)を付与するために添加される成分である。本発明では水に溶解可能または均一に分散可能であるものを用いる。切断または粉砕された果肉等の固形物を含んでもよい。該固形物の大きさは、1粒の大きさが、1辺が5mmの立方体よりも小さければよい。
公知の風味成分を適宜用いることができる。
例えば、各種果汁、濃縮果汁、果肉粉砕物(ピューレ)、蜂蜜、メープルシロップ、カラメルシロップ、黒糖、野菜汁、ドレッシング、マヨネーズ、ココア、抹茶、紅茶、コーヒー、リキュール類、小豆(こしあん)、発酵素材(ヨーグルト、麹等)等が挙げられる。
【0012】
風味成分の含有量は、気泡含有ゲル状物における好ましい風味が得られ、かつ可溶性固形分の含有量が好ましい範囲内となるように設定される。
例えば、気泡含有ゲル状物に対する風味成分の含有量は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。なお、濃縮果汁等の風味を濃縮させた原料を用いることにより、原料としての含有量を抑えることができるので好ましい。
【0013】
<糖類>
気泡含有ゲル状物に、風味成分のほかに糖類を含有させてもよい。
糖類としては、砂糖、水あめ、粉あめ、ブドウ糖、果糖、転化糖、異性化糖等が挙げられる。風味(フレーバー)を付与できる糖類は風味成分に含まれるものとする。
なお、糖類として高甘味度甘味料(スクラロース、アセスルファムカリウム等)も使用することが可能であり、これにより、少量で甘味を出すことができるので、必要以上に可溶性固形分が高まらないように調整するうえで好ましい。
糖類の含有量は、気泡含有ゲル状物における好ましい甘味が得られ、かつ可溶性固形分の含有量が好ましい範囲内となるように設定される。
例えば、気泡含有ゲル状物に対する糖類の含有量は5〜25質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。
【0014】
<起泡剤>
起泡剤としては、一般に食品添加物として許可されているものを使用することが好ましく、非イオン性界面活性剤等が好ましい。起泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
例えば、サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が気泡の安定性の点で好ましい。
サポニンとしては、トリテルペンやステロイドに糖が結合した配糖体であれば特に限定されるものではないが、例えば、バラ科キラヤ(Quillaja saponaria MOLINA)の樹皮より抽出されたキラヤサポニンが好適である。キラヤサポニンは、例えば、キラヤニンC−100(商品名、丸善製薬株式会社製)等として商業的に入手することができる。
起泡剤の使用量は、少なすぎると起泡が不充分となり、多すぎると風味に悪影響が出るため、かかる不都合が生じない範囲内であることが好ましい。例えば、気泡含有ゲル状物に対する起泡剤の含有量は0.05〜1質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
【0015】
<増粘剤類>
増粘剤類は、ゲル化剤、増粘剤、または安定剤として公知の成分を用いることができる。本発明においては、増粘剤類として少なくともローメトキシルペクチンを用いる。ローメトキシルペクチンと、ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類の1種以上を併用することが好ましい。ローメトキシルペクチンはDE値が20〜40であるものが好ましい。
ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類としては、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、キサンタンガム、グアガム、タラガム、カラギナン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、マンナン、デンプン、大豆多糖類、寒天、ゼラチン等が挙げられる。
これらのうちでも、特に第1の組成物と第2の組成物とを混合する前の、成分安定性の点で、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、キサンタンガム、グアガムからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類を2種以上用いる場合の組み合わせとしては、例えば、少なくともローカストビーンガムとキサンタンガムを含む組み合わせ、グアガムとキサンタンガムを含む組み合わせ等の反応性のある増粘剤を組み合わせることで、個々の成分や混合後の気泡含有ゲルの物性を効率よく調整することができる。
【0016】
ローメトキシルペクチンはカルシウムと反応して適度にゲル化し、気泡の安定維持に寄与する。気泡含有ゲル状物に対するローメトキシルペクチンの含有量は、0.3質量%以上、1質量%以下が好ましい。前記範囲の下限値以上であると良好な気泡安定性が得られやすい。1質量%以下であると気泡含有ゲル状物の良好な風味食感が得られやすい。該ローメトキシルペクチンの含有量は、0.3質量%以上、0.9質量%以下がより好ましい。
【0017】
ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類は、起泡性および気泡安定性に寄与する。ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類の含有量は、第1の組成物の粘度および第2の組成物の粘度がそれぞれ好適な範囲となるように設定することが好ましい。
なお、ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類のうち、単独でゲル化する効果を有する増粘剤については、本発明の気泡含有ゲル状物に加えた際にゲル化を増強せずに粘度のみを増強する量として添加することが可能である。添加量としては、例えば、カラギナンは0.1質量%以下であることが好ましく、ネイティブジェランガムは0.01質量%以下であることが好ましく、ジェランガム(脱アシルジェランガム)は0.1質量%以下であることが好ましく、寒天は0.1質量%以下または0.1質量%未満であることが好ましく、ゼラチンは0.5質量%以下または0.5質量%未満であることが好ましい。
また、ローメトキシルペクチン以外の増粘剤類であって、前記単独でゲル化する効果を有する増粘剤類以外の増粘剤類の含有量は、気泡含有ゲル状物に対して0.1〜1.5質量%が好ましく、0.2〜1質量%がより好ましい。前記範囲の下限値以上であると添加効果が良好に得られ、上限値以下であると好ましい食感が得られる。
【0018】
<カルシウム塩>
本発明において用いられるカルシウムは、カルシウム塩であることが好ましい。
例えば、カルシウム塩に由来するカルシウムイオンがローメトキシルペクチンと反応してゲル化を生じる。
カルシウム塩は水溶性のものが用いられる。ローメトキシルペクチンとの反応性が良好である点で乳酸カルシウムまたは塩化カルシウムが好ましい。取扱い性が良い点で乳酸カルシウムがより好ましい。
カルシウムの含有量は、ローメトキシルペクチン含有量に対してカルシウム塩含有量として1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。前記範囲の下限値以上であると添加効果が良好に得られ、上限値以下であると好ましい食感が得られる。
【0019】
<金属イオン封鎖剤>
第1の組成物または第2の組成物のうち、ローメトキシルペクチンを含有する方の組成物に金属イオン封鎖剤(キレート剤)を含有させることが好ましい。該組成物の構成成分に由来してカルシウムイオンが存在する場合に、金属イオン封鎖剤を含有させることによってローメトキシルペクチンとカルシウムイオンとの反応が生じるのを抑制できる。
金属イオン封鎖剤としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。特に添加量に対する効果の点でヘキサメタリン酸ナトリウムが好ましい。
金属イオン封鎖剤を含有させる場合、その含有量は、気泡含有ゲル状物に対して、例えば、0.05〜0.4質量%が好ましく、0.1〜0.35質量%がより好ましい。前記範囲内であると、ローメトキシルペクチンを含む組成物は混合前に液状を保って扱いやすく、混合後に、個々の組成物が反応してゲル化し、良好な食感が得られるものとなる。
【0020】
<酸成分>
ローメトキシルペクチンを含有する方の組成物のpHが5.5以下となるように、必要に応じて酸成分を添加してもよい。
酸成分の具体例としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、酢酸、氷酢酸、フマル酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酪酸等の有機酸;リン酸、炭酸、塩酸等の無機酸を挙げることができる。酸成分はいずれか一種類のみを使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
これらのうち、特に風味と添加効果の点でクエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸等が好ましい。また、前記の有機酸の塩類をpH調整の目的で添加しても良い。特に風味やpHの緩衝作用等の点で、クエン酸ナトリウムが好ましい。
【0021】
<その他の成分>
気泡含有ゲル状物に、前記の成分(糖類、風味成分、起泡剤、増粘剤類、カルシウム塩、金属イオン封鎖剤、酸成分)以外のその他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
その他の成分の例としては、例えば香料、色素、酸化防止剤が挙げられる。
気泡含有ゲル状物に対する、その他の成分の含有量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0022】
<気泡含有ゲル状物の製造方法>
まず、気泡含有ゲル状物の全原料を第1の組成物と第2の組成物に分けて、それぞれを調製する。
全原料は、少なくとも水と、風味成分と、起泡剤と、増粘剤類(ローメトキシルペクチンを含む)とカルシウム(カルシウム塩)を含み、第1の組成物と第2の組成物の合計におけるpHが6.2以下であり、可溶性固形分が10〜35質量%である。
【0023】
第1の組成物には少なくとも起泡剤を含有させ、第2の組成物には少なくとも風味成分を含有させる。第2の組成物中に起泡剤が存在しても構わないが、第2の組成物には気泡を含有させないため、原料として用いる起泡剤の全部を第1の組成物に含有させることが好ましい。また第1の組成物の起泡を妨げない範囲で、第1の組成物中に風味成分が含まれていてもよい。原料として用いる風味成分のうちの50質量%以上が第2の組成物に含まれていることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、風味成分の全部が第2の組成物に含まれていることが特に好ましい。
【0024】
第1の組成物および第2の組成物のいずれか一方にローメトキシルペクチンを含有させ、他方にカルシウムを含有させる。ローメトキシルペクチンとカルシウムを別々の組成物に含有させることにより、気泡が形成される前にゲル化が進行するのを抑えることができる。第1の組成物および第2の組成物の両方が水を含むことが好ましい。
【0025】
ローメトキシルペクチンを含有させる方の組成物のpHは、加熱による分解を抑えるという点で5.5以下とする。該pHが5.5以下であると、殺菌工程を経ても、ローメトキシルペクチンによる安定した物性が得られる。該pHは5.4以下が好ましく、4.3以下がより好ましい。ローメトキシルペクチンを含有させる方の組成物のpHは、他方の組成物のpHも考慮して、全原料のpHが好ましい範囲となるように設定することが好ましい。
起泡剤、風味成分、ローメトキシルペクチン、およびカルシウム以外の原料は、第1の組成物および第2の組成物のいずれか一方に含有させてもよく、両方に分けて含有させてもよい。
【0026】
第1の組成物および第2の組成物の配合は、それぞれの10℃における粘度が350〜3000mPa・sの範囲内となるように設計する。
本発明における粘度の値は、B型粘度計にて、No.2ローターを使用し、回転数60rpmで測定した値である。
起泡剤を含む第1の組成物の該粘度は、気泡を含有させる前の粘度である。第1の組成物の10℃における粘度が350mPa・s以上であると良好な気泡安定性が得られる。3000mPa・s以下であると第1の組成物を起泡させる際に良好な起泡性が得られ、また気泡含有ゲル状食品における良好な付着性が得られる。第1の組成物の該粘度の好ましい範囲は400〜2500mPa・sであり、800〜2000mPa・sがより好ましい。
風味成分を含む第2の組成物の10℃における粘度が350mPa・s以上であると、第1の組成物との混合を均一にすることができ、3000mPa・s以下であると混合後の食感が好ましくなる。第2の組成物の該粘度の好ましい範囲は400〜2500mPa・sであり、800〜2000mPa・sがより好ましい。
【0027】
第1の組成物と第2の組成物との質量比は以下の式(1)で表される。
[第1の組成物]:[第2の組成物]=10:90〜70:30 ・・・(1)
第1の組成物が全原料の10質量%以上であると、気泡含有ゲル状食品におけるオーバーランが高く、軽い風味および軽い食感が得られやすい。また第1の組成物が全原料の70質量%以下であると、気泡含有ゲル状食品における良好な気泡安定性が得られやすい。
気泡含有ゲル状食品の軽い風味および軽い食感を得るには、第1の組成物と第2の組成物を混合した後のオーバーランの値、すなわち気泡含有ゲル状食品におけるオーバーランの値が20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
気泡含有ゲル状食品における良好な気泡安定性を得るには、気泡含有ゲル状食品におけるオーバーランの値が20〜200%が好ましい。
【0028】
[混合溶解工程・殺菌工程]
第1の組成物および第2の組成物は、それぞれに含有させる成分(以下、含有成分ということもある。)の全部を撹拌し、混合して調製する。撹拌混合しただけでは全部の含有成分を溶解できない場合は、加熱処理して溶解すればよい。例えば常温(20〜30℃、以下同様。)の溶解水に含有成分の全部を投入して混合液とした後、該混合液を加熱処理して溶解させることが好ましい。
第1の組成物または第2の組成物は、必要に応じて加熱による殺菌処理を施すことができる。各組成物の含有成分を溶解させるために加熱処理を施す場合、加熱処理条件を殺菌処理を兼ねる条件とすることが好ましい。
【0029】
具体的に、少なくとも起泡剤を含む第1の組成物の加熱処理条件は、加熱処理温度が90℃以上であることが好ましい。該加熱処理温度の上限は含有成分が熱変性を生じない範囲であればよい。例えば140℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。加熱時間は、含有成分を溶解させることができ、殺菌効果が得られ、かつ含有成分が熱変性を生じない時間に設定することが好ましい。例えば、90℃に10分間保持する条件、125℃に15秒間保持する条件、130℃に2秒間保持する条件、またはこれらと同等の殺菌効果が得られる加熱条件が好ましい。
【0030】
また、少なくとも風味成分を含む第2の組成物の加熱処理条件は、加熱処理温度が90℃以上であることが好ましい。該加熱処理温度の上限は含有成分が熱変性を生じない範囲であればよい。例えば120℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。加熱時間は、含有成分を溶解させることができ、殺菌効果が得られ、かつ含有成分が熱変性を生じない時間に設定することが好ましい。例えば、90℃に5分間保持する条件、またはこれらと同等の殺菌効果が得られる加熱条件が好ましい。
【0031】
[冷却工程・起泡工程]
含有成分を混合溶解し、必要に応じて加熱殺菌した第1の組成物を、0〜10℃の冷却温度に冷却した後、起泡工程を行って気泡を含有させる。第1の組成物の冷却温度が前記範囲の上限値以下であることにより適度に気泡の維持に貢献し、下限値以上であることにより起泡が可能となる。
一方、含有成分を混合溶解し、必要に応じて加熱殺菌した第2の組成物は、0〜15℃の冷却温度に冷却する。起泡工程は行わない。第2の組成物の冷却温度が前記範囲の上限値以下であることにより第1の組成物との混合後に、気泡の状態を維持し、下限値以上であることにより気泡を消失せずに第1の組成物との混合を行うことができる。
【0032】
起泡工程では、冷却された第1の組成物に気泡を含有させる。気泡を含有させる方法は公知の方法を用いることができる。例えばホイップマシン、ミキサー等を適宜用いて起泡させることができる。このときオーバーランが100〜300%となるように気泡を含有させる。
本明細書におけるオーバーランの値は、撹拌前の体積に対する、撹拌前後における体積増加分の割合を意味し、下記式(I)より求められる値である。
オーバーラン(%)=(撹拌後の体積−撹拌前の体積)/撹拌前の体積×100 ・・・(I)
【0033】
第1の組成物のオーバーランが100%以上であると、気泡含有ゲル状食品におけるオーバーランが高くなって軽い風味および軽い食感が得られやすい。また第1の組成物のオーバーランが300%以下であると、気泡含有ゲル状食品における良好な気泡安定性が得られやすい。第1の組成物のオーバーランは、100〜300%が好ましく、120〜250%がより好ましい。
本発明における第1の組成物は起泡性が良好であり、短時間の起泡工程で高いオーバーランを得ることができる。例えば10分の起泡時間(ホイップ時間)で300%以上のオーバーランを達成できる。
【0034】
[混合工程]
前記冷却工程で冷却した第2の組成物と、前記起泡工程で気泡を含有させた第1の組成物とを混合して、気泡含有ゲル状物を得る。
混合は公知の方法で行うことができる。気泡が壊れないように混合することが好ましい。混合手段としては例えば、手作業で行う場合は、へらで全体を軽く混合する程度にとどめることが好ましい。また、機械的に連続で混合する場合は、駆動部が無いような静止型混合機(例えば、スタティックミキサー:(株)ノリタケカンパニーリミテッド社製、等)を使用することが好ましい。
混合時間は短すぎると均一な混合状態が得られないおそれがあり、長すぎると気泡が壊れるおそれがある。したがって、これらの不都合が生じない混合時間に設定することが好ましく、均一な混合が得られる範囲でできるだけ短い時間を設定することが望ましい。
【0035】
このようにして得られる気泡含有ゲル状物は、可溶性固形分が低いため、付着性が低くてさっぱりとした口当たりが得られる。例えば、後述の方法で測定される付着性の値が400J/m以下、好ましくは300J/m以下である気泡含有ゲル状物が得られる。
また第1の組成物と第2の組成物に分け、第1の組成物にのみ気泡を含有させることにより良好な起泡性が得られ、効率良く、高いオーバーラン値を達成することができる。
第1の組成物のオーバーラン値、および第1の組成物と第2の組成物の質量比を調節することによって、気泡含有ゲル状物におけるオーバーラン値を調整することができるため、製品の設計自由度も高い。
【0036】
さらに、第1の組成物および第2の組成物のいずれか一方にローメトキシルペクチンを含有させ、他方にカルシウムを含有させ、第1の組成物に気泡を含有させた後にこれらを混合することにより、良好な気泡安定性が得られる。
【0037】
≪気泡含有ゲル状物を用いた積層食品の製造方法≫
予め容器内にヨーグルト、プリン等の食品が収容された容器入り食品を用意し、混合工程で得られた気泡含有ゲル状物を該容器内に充填することにより、容器内の食品の上に気泡含有ゲル状物が積層された積層食品が得られる。
容器内の食品はカルシウムを含むことが好ましい。該食品に含まれるカルシウムと、気泡含有ゲル状物中のローメトキシルペクチンとが反応して、気泡安定性が向上する。
【0038】
カルシウムを含む食品は、カルシウムを0.05質量%以上含み、気泡含有ゲル状物を積層できる程度のゲル状または固体状であればよい。具体例としては、ヨーグルト、プリン、ババロア、アイスクリーム、乳成分を含むゼリー等の乳成分を含む食品;乳酸カルシウム等を含むゼリー(ただし乳成分を含まない)等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、含有量の単位としての「%」は特に断りのない限り「質量%」である。以下の例で気泡含有ゲル状食品の製造に使用した原料を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
≪例1〜8≫
本例では、起泡剤を含む組成物(第1の組成物)の粘度を変えて気泡含有ゲル状物を製造し、これをミルクプリンの上に積層して積層食品を製造した。
本例においては、起泡剤を含む組成物(第1の組成物)にカルシウム(カルシウム塩として)を含有させ、風味成分を含む組成物(第2の組成物)にローメトキシルペクチン(表ではLMペクチンと表記。以下同様)を含有させた。
例5は第1の組成物にカルシウムを含有させない比較例である。
【0042】
表2に示す配合で、起泡剤を含む組成物(第1の組成物)を調製した。
まず、ミキサー(プライミクス社製、製品名T.K.ホモミキサー マークII、以下、ミキサーという。)で全成分を撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、10分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却して第1の組成物とした。第1の組成物の10℃における粘度を表2に示す(以下、同様)。
次いで、得られた第1の組成物(10℃)を卓上型ホイップマシン(デロンギ社製、製品名:キッチンマシン シェフクラッシック K4005、以下、ホイップマシンという。)で気泡を含有させながら撹拌した。回転数は180rpmとした。下記の方法で起泡性(ホイップ性)および気泡安定性を評価した。その結果を表5に示す。
【0043】
表3に示す配合で、風味成分を含む組成物(第2の組成物)を調製した。
まず、ミキサーで全成分を撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、5分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却して第2の組成物とした。第2の組成物の10℃における粘度、およびpHを表3に示す(以下、同様)。
表4に示す配合で、容器入りミルクプリンを製造した。
まず、ミキサーで全成分を撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、10分間の条件で加熱殺菌処理し、60℃まで冷却して原料液とした。容量が110mLのプリンカップに原料液を60mL充填し、5℃で一晩冷却して容器入りミルクプリンを得た。
【0044】
以下の方法で気泡含有ゲル状物を製造し、さらにこれを用いて積層食品を製造した。
第1の組成物を9分間ホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)と、第2の組成物(10℃)を、表5に示す配合で混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合は、ボウルに第1の組成物および第2の組成物を入れてゴムベラで混合し、全体が均一になった時点で混合を完了させた。得られた気泡含有ゲル状物のpHおよび可溶性固形分を表5に示す。
得られた気泡含有ゲル状物の10gを、前記で製造した容器入りミルクプリンの上に充填し、5℃で一晩冷却して積層食品を得た。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
<評価方法>
[第1の組成物の起泡性]
第1の組成物をホイップマシンで撹拌する際のホイップ時間(起泡時間)を3分、6分、または9分とし、それぞれのオーバーランを求めた。この結果に基づき、下記の基準で起泡性を評価した。結果を表5に示す。
◎:9分間のホイップで300%以上のオーバーランが得られる。
○:9分間のホイップでのオーバーランが200%以上、300%未満。
△:9分間のホイップでのオーバーランが100%以上200%未満。
×:9分間のホイップでのオーバーランが100%未満。
【0049】
[第1の組成物の気泡安定性]
第1の組成物をホイップマシンで撹拌する際のホイップ時間(起泡時間)を9分として得られた、気泡を含有する第1の組成物の60gをプリンカップ(底面の内径40mm、容量110mL)に入れ、10℃の冷蔵庫内に30分間静置した。離水が生じるとカップの底に水様成分の層が形成される。この水様成分の層の厚さを目視にて測定し、下記の基準で気泡安定性を評価した。結果を表5に示す。
○:離水が見られない。
△:離水が見られる。水様成分の層の厚さが1mm以下。
×:離水が見られる。水様成分の層の厚さが1mmを超える。
【0050】
[気泡含有ゲル状物の気泡安定性]
前記で得た積層食品を10℃の冷蔵庫内に3日間静置した。気泡含有ゲル状物の離水が生じると、気泡含有ゲル状物の層とミルクプリンの層との境界に水様成分の層が形成される。この水様成分の層の厚さを目視にて測定し、下記の基準で気泡安定性を評価した。結果を表5に示す。
○:離水が見られない。
△:離水が見られる。水様成分の層の厚さが1mm以下。
×:離水が見られる。水様成分の層の厚さが1mmを超える。
【0051】
[気泡含有ゲル状物の風味食感]
前記で得た積層食品の気泡含有ゲル状物を10℃の冷蔵庫内に2日間保存したものを試食し、下記の基準で評価した。結果を表5に示す。
◎:軽い食感が得られるだけでなく、口溶けの良さが感じられる。
○:軽い食感が得られる。
△:食感がやや重いが、製品として許容できる。
×:食感が重く、製品として適さない。
【0052】
[気泡含有ゲル状物の付着性]
気泡含有ゲル状物の付着性を、消食表第277号(平成23年6月23日)「特別用途食品の表示許可等について」の第18頁、別添1の別紙3 えん下困難者用食品の試験方法、(1)硬さ、付着性及び凝集性の試験方法に準処する方法で測定した。測定時の試料の温度は10℃とした。
許可基準Iに相当する『ゲル状で、付着性が400J/m以下』であれば付着性が良好である。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
表5の結果より、例1〜3、6〜8において、オーバーランが高くて軽い風味および軽い食感を有し、付着性が400J/m以下と低くてさっぱりとした口当たりが得られ、かつ離水が生じ難くて気泡の維持安定性に優れる気泡含有ゲル状食品が得られた。
これに対して、第1の組成物の粘度が高い例4は、第1の組成物の起泡性がやや劣り、気泡含有ゲル状物の付着性が高かった。
また例5は、カルシウム塩が配合されていないため、第1の組成物の起泡性および気泡安定性は良好であったが、気泡含有ゲル状物の気泡安定性が悪く、離水が顕著に生じた。
【0055】
例1は、他の例に比べて第1の組成物の粘度がやや低いため、第1の組成物の気泡安定性が△であり、気泡含有ゲル状物の気泡安定性も△であるが、付着性および風味食感は良好である。
乳酸カルシウムの含有量がやや少ない例6は気泡含有ゲル状物の気泡安定性が△であるが、付着性および風味食感は良好である。乳酸カルシウムの含有量がやや多い例8は、気泡含有ゲル状物の風味食感が△であるが、付着性および気泡安定性は良好である。
【0056】
≪例11〜17≫
本例では、風味成分を含む組成物(第2の組成物)の配合を変え、かつ第1の組成物と第2の組成物の質量比を変えて、種々の気泡含有ゲル状物を製造し、これをミルクプリンの上に積層して積層食品を製造した。
本例においては、起泡剤を含む組成物(第1の組成物)にカルシウム(カルシウム塩として)を含有させ、風味成分を含む組成物(第2の組成物)にローメトキシルペクチンを含有させた。
第1の組成物としては例2で用いたのと同じNo.2の組成物を用いた。
【0057】
表6に示す配合で、前記例1と同様にして風味成分を含む組成物(第2の組成物)を調製した。第1の組成物としては例2で用いたのと同じNo.2の組成物を用いた。
以下の方法で気泡含有ゲル状物を製造し、さらにこれを用いて積層食品を製造した。容器入りミルクプリンは例1と同じものを用いた。
No.2の第1の組成物を3分間、6分間、または9分間ホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)と、第2の組成物(10℃)を、表7に示す配合で混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合装置および混合条件は例1と同様である。得られた気泡含有ゲル状物のpHおよび可溶性固形分を表7に示す。
【0058】
混合する前の、気泡を含有する第1の組成物のオーバーランは100%、約200%、または約300%である。混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーラン(計算値)を表7に記載する。
混合後の気泡安定性を、前記[気泡含有ゲル状物の気泡安定性]と同様にして評価した。結果を表7に示す。
気泡含有ゲル状物の風味食感を、前記[気泡含有ゲル状物の風味食感]と同様にして評価した。結果を表7に示す。
気泡含有ゲル状物の付着性を、前記[気泡含有ゲル状物の付着性]と同様にして評価した。結果を表7に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
表7の結果より、気泡を含有させた第1の組成物と第2の組成物を10:90〜70:30で混合することにより、オーバーランが低いものから高いものまで、広い範囲で、付着性が400J/m以下となり低くてさっぱりとした口当たりが得られ、かつ離水が生じ難くて気泡の維持安定性に優れる気泡含有ゲル状食品を製造できることがわかる。
特に、例16、17との比較により、気泡含有ゲル状物中のローメトキシルペクチンの含有量が0.3〜1質量%である例11−15の気泡含有ゲル状食品は、気泡安定性や風味食感が良好であることがわかる。
また、混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーランが50%以上であると、特に風味食感に優れることがわかる。
さらに、混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーランが20〜200%であると、特に気泡維持性に優れることがわかる。
【0062】
≪例21〜24≫
例21、23は、全原料を第1の組成物と第2の組成物に分ける本発明の方法により気泡含有ゲル状物を製造した例であり、例22は全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した比較例である。例24はカルシウムを含まず、全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した比較例である。
例1と同様の手順で、表8に示す配合で起泡剤を含む組成物(第1の組成物)を調製し、表9に示す配合で、風味成分を含む組成物(第2の組成物)を調製した。
以下の方法で気泡含有ゲル状物を製造し、さらにこれを用いて積層食品を製造した。容器入りミルクプリンは例1と同じものを用いた。
【0063】
例21では、第1の組成物を6分間ホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)40質量部と、第2の組成物(10℃)60質量部を混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合方法およびその条件は例1と同様である。混合する前の、気泡を含有する第1の組成物のオーバーランは約200%であった。混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーラン(計算値)は80%である。
【0064】
例22では、まず、第1の組成物(10〜15℃)40質量部と、第2の組成物(10℃)60質量部を混合した。混合方法およびその条件は例1と同様である。次いで、得られた混合物を例1と同じ条件で6分間ホイップして気泡を含有させ、気泡含有ゲル状物を得た。得られた気泡含有ゲル状物のオーバーランは20%であった。
【0065】
例23では、第1の組成物を6分間ホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)40質量部と、第2の組成物(10℃)60質量部を混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合方法およびその条件は例1と同様である。混合する前の、気泡を含有する第1の組成物のオーバーランは200%であった。混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーラン(計算値)は80%である。
【0066】
例24では、まず、第1の組成物(10〜15℃)60質量部と、第2の組成物(10℃)40質量部を混合した。混合方法およびその条件は例1と同様である。
次いで、得られた混合物を例1と同じ条件で6分間ホイップして気泡を含有させ、気泡含有ゲル状物を得た。得られた気泡含有ゲル状物のオーバーランは25%であった。
【0067】
気泡含有ゲル状物の付着性を、前記[気泡含有ゲル状物の付着性]と同様にして評価した。付着性の測定値を表10に示す。
気泡含有ゲル状物の気泡安定性を、前記[気泡含有ゲル状物の気泡安定性]と同様にして評価した。結果を表10に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
【表9】
【0070】
【表10】
【0071】
表10の結果より、本発明の方法を用いた例21、23ではオーバーランが高く、付着性が低く、気泡の維持安定性に優れる気泡含有ゲル状食品が得られた。
これに対して、全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した例22では、例21と同じホイップ時間では低いオーバーランしか得られず、起泡性が劣る。
またカルシウム塩を含まず、全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した例24では、付着性は低いが、起泡性が悪く、オーバーラン値が高くなりにくかった。また気泡の安定性が悪く、離水が生じた。
【0072】
≪例31〜34≫
例31、32は、全原料を第1の組成物と第2の組成物に分ける本発明の方法により気泡含有ゲル状物を製造した例であり、例31は第1の組成物にカルシウムを含有させ、第2の組成物にローメトキシルペクチンを含有させた例、例32はその反対に第1の組成物にローメトキシルペクチンを含有させ、第2の組成物にカルシウムを含有させた例である。
例33は、例31において全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した比較例である。
例34は、例32において全原料を一括的にホイップして気泡含有ゲル状物を製造した比較例である。
【0073】
例1と同様の手順で、表11に示す配合で起泡剤を含む組成物(第1の組成物)を調製し、表12に示す配合で、風味成分を含む組成物(第2の組成物)を調製した。
以下の方法で気泡含有ゲル状物を製造し、さらにこれを用いて積層食品を製造した。容器入りミルクプリンは例1と同じものを用いた。
【0074】
例31、32では、第1の組成物を表16に示すホイップ時間でホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)40質量部と、第2の組成物(10℃)60質量部を混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合方法およびその条件は例1と同様である。混合する前の、気泡を含有する第1の組成物のオーバーラン、および混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーラン(計算値)を表16に記載する。
【0075】
例33、34では、まず、第1の組成物(10℃)40質量部と、第2の組成物(10℃)60質量部を混合した。混合方法とその条件は例1と同様である。
次いで、得られた混合物を例1と同じ条件で、表16に示すホイップ時間でホイップして気泡を含有させ、気泡含有ゲル状物を得た。得られた気泡含有ゲル状物のオーバーランを表16に記載する。
【0076】
≪例35:参考例≫
例35は、可溶性固形分が高い気泡含有ゲル状物(ホイップジャム)を製造した参考例である。
表13に示す配合で、全原料をミキサーにより撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、5分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却した。次いで、得られた混合物(10℃)を、例1と同じホイップマシン、同じ回転数で、表16に示すホイップ時間でホイップして気泡を含有させ、気泡含有ゲル状物を得た。得られた気泡含有ゲル状物のオーバーランを表16に記載する。
【0077】
≪例36:参考例≫
例36は、ローメトキシルペクチンおよび乳酸カルシウムを使用せず、ゼラチンと寒天を用いて気泡含有ゲル状物を製造した参考例である。
表14に示す配合で、全原料をミキサーにより撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、5分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却した。次いで、得られた混合物(10℃)を、例1と同じホイップマシン、同じ回転数で、表16に示すホイップ時間でホイップして気泡を含有させ、気泡含有ゲル状物を得た。得られた気泡含有ゲル状物のオーバーランを表16に記載する。
ゼラチンは、ユニテックフーズ社製、製品名:ROUSSELOT GELATIN 250 LPを用いた。
寒天は、伊那食品工業社製、製品名:ウルトラ寒天 イーナを用いた。
【0078】
≪例37:参考例≫
例37は、起泡剤を使用せず、起泡成分として生卵白を用いて第1の組成物を調製し、気泡含有ゲル状物を製造した参考例である。
表15に示す配合で、全原料をミキサーにより撹拌混合した。得られた混合液(10℃)を、例1と同じホイップマシン、同じ回転数で、表16に示すホイップ時間でホイップして気泡を含有させた。これを湯煎で75℃、3分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却して第1の組成物とした。ホエイパウダー(森永乳業社製)を用いた。
表16に示す配合で、得られた第1の組成物(10℃)40質量部と、ローメトキシルペクチンを含む第2の組成物(10℃)60質量部を混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合方法およびその条件は例1と同様である。混合する前の、気泡を含有する第1の組成物のオーバーラン、および混合後の気泡含有ゲル状物のオーバーラン(計算値)を表16に記載する。
【0079】
各例で得られた気泡含有ゲル状物の付着性を、前記[気泡含有ゲル状物の付着性]と同様にして評価した。付着性の測定値を表16に示す。
各例で得られた気泡含有ゲル状物の気泡安定性を、前記[気泡含有ゲル状物の気泡安定性]と同様にして評価した。結果を表16に示す。
【0080】
【表11】
【0081】
【表12】
【0082】
【表13】
【0083】
【表14】
【0084】
【表15】
【0085】
【表16】
【0086】
表16の結果より、第1の組成物にカルシウム塩を含有させ、第2の組成物にローメトキシルペクチンを含有させた例31と、その反対とした例32とではほぼ同等の結果が得られた。
また全原料を一括的にホイップした例33、34は起泡性が悪く、オーバーランが高くなりにくかった。例34では15分間ホイップしてもオーバーランが45%までしか得らず、これ以上オーバーランを高くすることが難しい。
可溶性固形分が高い例35は、付着性が高く、さっぱりとした口当たりが得られなかった。
ゼラチンと寒天を用いた例36は、付着性および気泡安定性は良好であったが、例31、32に比べて気泡が大きかった。
起泡成分として卵白を用いた例37は、第1の組成物の粘度が高い。また、気泡含有ゲル状物の付着性が高く、さっぱりとした口当たりが得られなかった。
【0087】
≪実施例1〜3≫
表17〜19に示す配合で気泡含有ゲル状物を製造し、これをミルクプリンの上に積層して積層食品を製造した。
実施例1はオレンジの風味を有する気泡含有ゲル状物、実施例2はメープルシロップの風味を有する気泡含有ゲル状物、実施例3はアロエの粉砕物(1辺が約3mmの立方体状にカットされた果肉を含む)を含有する気泡含有ゲル状物を用いた例である。
まず、表17に示す配合(例7で用いたNo.7と同じ)で、起泡剤を含む組成物(第1の組成物)を調製した。すなわち、ミキサーで全成分を撹拌混合した後、混合液を湯煎により90℃、5分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却して第1の組成物とした。次いで、得られた第1の組成物(10℃)を、例1と同じホイップマシンで気泡を含有させながら撹拌した。回転数は180rpm、ホイップ時間は6分間とした。
【0088】
表18に示す配合で、風味成分を含む組成物(第2の組成物)を調製した。
まず、ミキサーで全成分を撹拌混合した後、混合液を湯煎により、90℃、5分間の条件で加熱殺菌処理し、10℃まで冷却して第2の組成物とした。
容器入りミルクプリンを製造した。
まず、ミキサーで全成分を撹拌混合した。得られた混合液を湯煎により、90℃、10分間の条件で加熱殺菌処理し、60℃まで冷却して原料液とした。容量が110mLのプリンカップに原料液を60mL充填し、5℃で一晩冷却して容器入りミルクプリンを得た。
【0089】
以下の方法で気泡含有ゲル状物を製造し、例1と同じ容器入りミルクプリンを用いて積層食品を製造した。
第1の組成物をホイップして気泡を含有させたもの(10〜15℃)と、第2の組成物(10℃)を、表19に示す配合で混合して気泡含有ゲル状物を得た。混合は、ボウルに第1の組成物および第2の組成物を入れて、ゴムベラにて混合し、全体が均一になった時点で混合を完了させた。
得られた気泡含有ゲル状物の10gを、容器入りミルクプリンの上に充填し、5℃で一晩冷却して積層食品を得た。
【0090】
【表17】
【0091】
【表18】
【0092】
【表19】
図1