特許第6019016号(P6019016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019016
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】幾何学変換レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20161020BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20161020BHJP
   G02B 3/14 20060101ALI20161020BHJP
   G02B 1/06 20060101ALI20161020BHJP
   G02F 1/133 20060101ALI20161020BHJP
   G02B 3/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   G02F1/13 505
   G02F1/1343
   G02B3/14
   G02B1/06
   G02F1/133 505
   !G02B3/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-514068(P2013-514068)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2012062134
(87)【国際公開番号】WO2012153837
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-107107(P2011-107107)
(32)【優先日】2011年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509315700
【氏名又は名称】清水 創太
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】清水 創太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−203626(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3140079(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1343
G02F 1/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、
前記第1基板に設けられた第1電極と、
前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、
前記第2電極から前記第1電極へのバイアス電圧が印加されることで、前記第1電極及び前記第2電極間の前記液晶分子を配向制御し、被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させて、広角の視野の広さを保持したまま、一つ又は複数個所を拡大及び又は縮小させる
ことを特徴とする幾何学変換レンズ。
【請求項2】
前記第1電極には、一又は規則的に配置された複数の拡大・縮小用電極が設けられており、
一又は複数の選択された前記拡大・縮小用電極にだけ電圧が印加されることで、前記一又は複数の選択された拡大・縮小用電極に対向する前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ被写体像を拡大及び又は縮小させる
ことを特徴とする請求項1記載の幾何学変換レンズ。
【請求項3】
第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、
前記第1基板に設けられた第1電極と、
前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、
前記第1電極は、規則的に配置された複数の回転用電極が設けられており、
前記複数の回転用電極に電圧が印加されることで、前記回転用電極に対向する前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ被写体像を回転させる
ことを特徴とする幾何学変換レンズ。
【請求項4】
第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、
前記第1基板に設けられた第1電極と、
前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、
前記第2電極から前記第1電極へのバイアス電圧が印加されることで、前記第1電極及び前記第2電極間の前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ被写体像を平行移動させる
ことを特徴とする幾何学変換レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幾何学変換レンズに関し、例えばディジタルカメラやビデオカメラ等の撮像装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
人間の眼は、単眼左右120度という広視野を有しつつ、中心窩と呼ばれる網膜上の窪みの近傍で最も視力が高く、当該窪み近傍から離れるに従って急激に視力が低下することが知られている。すなわち、人間の眼は、眼球運動を組み合わせて視線方向を変えることにより、必要最小限の情報量でできるだけ詳しく環境を観察できるという非常に優れた機能を有している。
【0003】
そして、近年では、このような人間の眼球の機能に知見を得て、人間の視力分布に近い拡大率分布を有する広角レンズ(以下、これを広角中心窩レンズと呼ぶ)が考えられており(例えば、特許文献1参照)、市販のCCDカメラやCMOSカメラ等の撮像装置にこの広角中心窩レンズを装着することも考えられている。このような広角中心窩レンズは、画像の情報量を増加させることなく、広い視野を観察でき、かつ画角内に明確な高解像度の中心部分(以下、これを注目領域と呼ぶ)で詳細な観察が行えるため、情報通信分野において有効な光学系レンズとなり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−530086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる構成でなる広角中心窩レンズを用いた撮像装置では、画角内に高解像度の注目領域を中心部分にのみ有するため、撮像装置を固定させた場合、詳細に観察したい他の被写体が画角内に存在したときには、モータ等の大掛かりな可動機構でレンズ光軸(これを視線とも呼ぶ)を移動させ、新たな被写体を注目領域に合わせる必要がある。そのため、かかる広角中心窩レンズを用いた場合には、広角中心窩レンズを移動させるメカニカルな可動機構を設置するための収納スペースや、広角中心窩レンズ自体を移動させるための移動スペースが必要となり、その分だけ小型化の向上が図り難く、またメカニカルな可動機構を動かす必要があるため、その分だけ省エネルギー性の向上が図り難いという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、小型化及び省エネルギー性を図りつつ、被写体像を所望の形態に幾何学変換し得る幾何学変換レンズを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、前記第1基板に設けられた第1電極と、前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、前記第2電極から前記第1電極へのバイアス電圧が印加されることで、前記第1電極及び前記第2電極間の前記液晶分子を配向制御し、被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させて、広角の視野の広さを保持したまま、一つ又は複数個所を拡大及び又は縮小させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項は、前記第1電極には、一又は規則的に配置された複数の拡大・縮小用電極が設けられており、一又は複数の選択された前記拡大・縮小用電極にだけ電圧が印加されることで、前記一又は複数の選択された拡大・縮小用電極に対向する前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ写体像を拡大及び又は縮小させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項は、第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、前記第1基板に設けられた第1電極と、前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、前記第1電極は、規則的に配置された複数の回転用電極が設けられており、前記複数の回転用電極に電圧が印加されることで、前記回転用電極に対向する前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ写体像を回転させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項は、第1基板と第2基板との間に設けられ、液晶分子が封入された液晶レンズ層と、前記第1基板に設けられた第1電極と、前記第2基板に設けられた第2電極とを有しており、前記第2電極から前記第1電極へのバイアス電圧が印加されることで、前記第1電極及び前記第2電極間の前記液晶分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶分子により屈折させ写体像を平行移動させる前記第2電極から前記第1電極へのバイアス電圧が印加されることで、前記第1電極及び前記第2電極間の前記液晶内の分子を配向制御し、前記被写体からの光束を前記液晶内の分子により屈折させ前記被写体像を平行移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型化及び省エネルギー性を図りつつ、被写体像を所望の形態に幾何学変換し得る幾何学変換レンズを提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】拡大処理前の撮像画像と、一部拡大処理を行い解像度を向上させた撮像画像とを示した写真である。
図3】回転処理前の撮像画像と、回転処理後の撮像画像とを示す写真である。
図4】幾何学変換処理部の全体構成を示す概略図である。
図5】幾何学変換レンズ用液晶レンズの側断面構成を示す概略図である。
図6】ITO電極層の全体構成を示す概略図である。
図7】拡大処理時における液晶内の分子の配向状態と、回転処理時における液晶内の分子の配向状態とを示す概略図である。
図8】電極セルの全体構成を示す概略図である。
図9】他の実施の形態によるITO電極層の分解構成を示す概略図である。
図10】他の実施の形態によるITO電極層の分解構成を示す概略図である。
図11】他の実施の形態によるマイクロ液晶レンズセルの側断面構成を示す概略図である。
図12】初期状態でのマイクロ液晶レンズセルにおける液晶内の分子の配向状態を示す上面図と側断面図である。
図13】拡大処理時のマイクロ液晶レンズセルにおける液晶内の分子の配向状態を示す側断面図である。
図14】回転処理時のマイクロ液晶レンズセルにおける液晶内の分子の配向状態を示す上面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 撮像装置
2 幾何学変換処理部
15 幾何学変換レンズ
20a,20b,20c,20d 幾何学変換レンズ用液晶レンズ
21 第1基板
22 第2基板
23 液晶レンズ層(屈折率変化層)
35 液晶内の分子(屈折率変化手段)
30 基準電極(第2電極)
31 ITO電極層(第1電極)
EL2,mn 拡大・縮小用電極(拡大用電極、縮小用電極)
EL1,mn 回転用電極
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0017】
(1)撮像装置の概略
図1において、1は撮像装置を示し、この撮像装置1は、幾何学変換処理部2と、撮像部3と、入力画像補正部4と、表示部5と、電源6と、操作部7とが制御部8に接続された構成を有し、電源6から供給される電力により各種回路部が動作し得る。制御部8は、マイクロコンピュータの構成を有し、主にCPU(Central Processing Unit)、メモリ及びROM(Read Only Memory)等を備え、ROMに格納されるプログラムを読み出し、当該プログラムをCPUで実行することによって、各種機能を実現する。
【0018】
操作部7は、拡大指令ボタンや、縮小指令ボタン、回転指令ボタン等を含む各種ボタンの他、表示部5に表示される撮像画像内の所定領域を拡大領域や縮小領域等としてカーソルで指定し得るマウス等を備えており、各種ボタンやマウス等に対するユーザの入力操作に応答して、制御部8に各種動作を実現させる。
【0019】
例えば、制御部8は、ユーザが操作部7に対し入力操作することにより与えられた拡大指令命令や縮小指令命令、回転指令命令を当該操作部7から受け取ると、これに応じて拡大指令信号や、縮小指令信号、回転指令信号を生成し、これを幾何学変換処理部2に送出する。ここで、幾何学変換処理部2は、幾何学変換レンズ(後述する)を備えており、被写体からの光束が幾何学変換レンズに入射し、幾何学変換レンズからの出射光を撮像部3の個体撮像素子(図示せず)に結像させ得る。
【0020】
この際、幾何学変換処理部2は、制御部8から拡大指令信号や、縮小指令信号、回転指令信号を受け取っていると、幾何学変換レンズに設けられた液晶レンズ層(後述する)内の液晶内の分子が、当該拡大指令信号や、縮小指令信号、回転指令信号に応じて配向状態を変化させ、当該液晶レンズ層の屈折率が変化し得る。これにより幾何学変換処理部2は、被写体からの光束を液晶内の分子により屈折させ、一又は複数箇所を拡大又は縮小させたり、或いは光束全体を回転させ、拡大、縮小又は回転された被写体像を撮像部3の個体撮像素子に結像させ得る。
【0021】
撮像部3は、個体撮像素子に結像された被写体像の露光(光電変換による電荷蓄積)を行い、当該被写体像に係る画像信号を生成し、これを入力画像補正部4に送出し得る。ここで、入力画像補正部4は、幾何学変換処理部2により例えば一部が拡大処理された画像信号を、撮像部3から受け取ると、補正処理を行い、被写体像のうち幾何学変換処理部2により拡大処理された箇所を縮小して元の倍率へと補正し、これを図示しないメモリ等に記憶するとともに、表示部5に送出する。これにより、表示部5には全体の倍率が揃った撮像画像が表示され得る。この際、表示部5に表示される撮像画像のうち、幾何学変換処理部2により光学的に一度拡大された箇所は、解像度が向上しており、より詳細な被写体像をユーザに提示し得る。
【0022】
具体的に、撮像装置1は、拡大指令命令や、縮小指令命令、回転指令命令が操作部7を介して行われていないとき、図2Aに示すように、被写体像が拡大も縮小も回転もされていない撮像画像11Aを表示部5に表示し得る。これに対して、撮像装置1は、図2Aに示す撮像画像11A内の例えば顔部分Fだけ全て解像度の高い撮像画像を得ようとした場合、操作部7の入力操作により顔部分Fの領域がカーソル等により指定され拡大指令命令が与えられる。これにより撮像装置1では、幾何学変換処理部2により顔部分Fに相当する箇所の光束を屈折させ光学的に拡大し、この光束を基に撮像部3により得られた画像信号を入力画像補正部4に送出する。
【0023】
撮像装置1は、幾何学変換処理部2により拡大された顔部分Fを、入力画像補正部4によって幾何学変換処理部2での拡大率と同じ倍率分だけ縮小して元の倍率に戻した画像信号を生成し、これを表示部5に送出する。これにより、表示部5には、図2Bに示すように、全体的に倍率が同じであって、顔部分Fだけ解像度が高い拡大処理領域ER1が形成され、これら顔部分F以外の他の領域の解像度が低くなった撮像画像11Bが表示され得る。なお、ここで、図2Bにおいて、顔部分Fの拡大処理領域ER1以外の領域では、液晶レンズ層内の液晶内の分子の配向状態が、拡大処理領域ER1内を拡大させるための配向状態となっていることから、その影響で被写体からの光束が屈折して解像度が低下している。
【0024】
一方、この撮像装置1では、例えば幾何学変換処理部2により一部が縮小処理された画像信号を、撮像部3から入力画像補正部4が受け取ると、入力画像補正部4により縮小された箇所を元の倍率に戻す補正処理を行われる。すなわち、入力画像補正部4は、撮像部3から受け取った画像信号に補正処理を行い、幾何学変換処理部2により縮小処理された箇所を拡大して元の倍率へと補正し、これをメモリ等に記憶するとともに、表示部5に送出する。これにより、表示部5には全体の倍率が揃った撮像画像が表示され得る。この際、表示部に表示される撮像画像のうち、幾何学変換処理部2により光学的に一度縮小された箇所は、解像度が低下しており、撮像画像全体のデータ量を低減し得る。
【0025】
また、この撮像装置1は、例えば図3Aに示すような撮像画像11Cに対し、幾何学変換処理部2において光学的な回転処理が行われた場合、図3Bに示すように、被写体像全体が所定角度に回転した撮像画像11Dが表示部5に表示され得る。この際、撮像装置1では、幾何学変換処理部2における液晶内の分子により、被写体からの光束全体が屈折されて回転され、この光束全体が回転された出射光に基づく被写体像が撮像部3の個体撮像素子に結像され得る。撮像部3は、個体撮像素子に結像された被写体像の露光(光電変換による電荷蓄積)を行い、当該被写体像に係る画像信号を生成して、これを入力画像補正部4に送出し、当該入力画像補正部4にて補正処理等を行うことなく画像信号をそのまま表示部5に送出し得る。これにより、表示部5には、図3Bに示すような被写体像全体が所定角度に回転した撮像画像11Dが表示され得る。
【0026】
(2)幾何学変換処理部の構成
次に、光学的な拡大処理、縮小処理及び回転処理を行える幾何学変換処理部2について、以下具体的に説明する。図4に示すように、幾何学変換処理部2は、光学系の幾何学変換レンズ15と、駆動回路16とを備えており、当該駆動回路16が制御部8に接続された構成を有する。幾何学変換レンズ15は、入力レンズ部17と、内部レンズ部18と、出力レンズ部19とからなり、被写体からの光束が入力レンズ部17、内部レンズ部18及び出力レンズ部19の順に通過し、撮像部3の固定撮像素子に被写体像を結像させる。
【0027】
ここで、入力レンズ部17は、広い視野を持つ超広角レンズや絞りを含み、広角の視野の広さを保持したまま被写体からの光束を集光して整光し得るようになされている。入力レンズ部17を通過した光束が入射される内部レンズ部18は、例えば2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bからなる入力側レンズ群18aと、同じく2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dからなる出力側レンズ群18bと、これら入力側レンズ群18a及び出力側レンズ群18b間に配置された集光レンズ24とを備えており、各幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dに駆動回路16が接続されている。
【0028】
ここで、駆動回路16は、拡大率指令電圧、縮小率指令電圧又は回転指令電圧を幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dに印加することにより、第1基板21及び第2基板22間にある液晶レンズ層23内に密封された液晶内の分子の配向状態を変化させ、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dの屈折率を液晶内の分子により変化させ得る。
【0029】
実際上、この駆動回路16は、基準電圧配線25が幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dの基準電極30にそれぞれ接続されているとともに、第1配線群26及び第2配線群27が幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dのITO(Indium Tin Oxide)電極層31にそれぞれ接続されている。これにより各幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dは、基準電圧配線25、第1配線群26及び第2配線群27を介して駆動回路16から基準電極30及びITO電極層31間に、配向した液晶内の分子のプレチルト角を補償する電圧が印加されると、液晶レンズ層23内における全ての液晶内の分子を液晶レンズ面に平行かつ基本配向方向の一方向に揃えて配向し得る。
【0030】
ここで、この実施の形態の場合、内部レンズ部18では、入力側レンズ群18a及び出力側レンズ群18bにそれぞれ設けられた幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dの構成が同一構成からなり、入力側レンズ群18aにて2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bを積層させた2層構造となっており、出力側レンズ群18bでも2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dを積層させた2層構造となっている。
【0031】
これは、入力側レンズ群18aにて、各幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bの液晶レンズ層23の液晶内の分子がそれぞれ基本配向方向に関し異方性を生じているため、これら2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bを積層させた複数層の構造として液晶内の分子の異方性を低減し得るようになされている。具体的に、この実施の形態のように、入力側レンズ群18aにて2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bが2層に積層された構造となっている場合には、例えば第1層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aの液晶内の分子と、第2層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20bの液晶内の分子との基本配向方向を直交(90度)させることにより、液晶内の分子の異方性を低減させる構造になっている。
【0032】
また、出力側レンズ群18bにおいても、入力側レンズ群18aと同様に、各幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dにおいてそれぞれ液晶レンズ層23の液晶内の分子が基本配向方向に関する異方性を生じているため、例えば第1層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20cの液晶内の分子と、第2層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20dの液晶内の分子との基本配向方向を直交(90度)させることにより、液晶内の分子の異方性を低減させる構造になっている。
【0033】
なお、この実施の形態の場合においては、2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bを積層させた2層構造の入力側レンズ群18aと、同じく2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dを積層させた2層構造の出力側レンズ群18bを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、3つや4つ等その他複数の幾何学変換レンズ用液晶レンズを積層させて、液晶内の分子の異方性を低減させた複数層構造の入力側レンズ群及び出力側レンズ群を適用してもよい。
【0034】
このような構成のもと駆動回路16は、例えば制御部8からの拡大指令命令又は縮小指令命令に基づいて第1配線群26により拡大率指令電圧又は縮小率指令電圧を幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dのITO電極層31にそれぞれ印加し得る。さらに、駆動回路16は、制御部8からの回転指令命令に基づいて第2配線群27により回転指令電圧を幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dのITO電極層31にそれぞれ印加し得る。
【0035】
ここで、入力側レンズ群18aの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bや、出力側レンズ群18bの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dは、上述したように基本的構成が同一であることから、説明の重複を避けるため、以下、入力側レンズ群18aの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bのうち1つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aに着目して説明する。図5に示すように、実際上、本発明による幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aは、ガラス等の透明部材でなる第1基板21上に、透明電極部材からなる基準電極30と、液晶レンズ層23と、第1基板21と同じく透明部材でなる第2基板22とが順に積層された構成を有し、当該第2基板22にITO電極層31が設けられた構成を有する。
【0036】
因みに、この実施の形態の場合、図4に示したように、入力側レンズ群18aの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bは、ITO電極層31が入力レンズ部17側に配置され、入力レンズ部17を通過した光束がITO電極層31、第2基板22、液晶レンズ層23、基準電極30及び第1基板21の順に通過し得る。一方、出力側レンズ群18bの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dは、第1基板21が集光レンズ24側に配置されるとともに、ITO電極層31が出力レンズ部19側に配置され、入力側レンズ群18aの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b及び集光レンズ24を通過した光束が、第1基板21、基準電極30、液晶レンズ層23、第2基板22及びITO電極層31の順に通過し得る。
【0037】
ここで、この実施の形態の場合、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aの入射面全面に設けられるITO電極層31には、図6に示すように、例えば縦8個、横8個の合計8×8個の拡大・縮小用電極EL2,mn(mは行列の行数を示し、nは行列の列数を示し、この場合m,nは1〜8のいずれかの整数を表す)がマトリックス状に配置されており、各拡大・縮小用電極EL2,mnにそれぞれ拡大・縮小電圧配線L2が接続されている。ITO電極層31には、例えば制御部8からの拡大指令信号に基づいて、拡大率指令電圧V2,mn(m,nは対応する拡大・縮小用電極EL2,mnを表し、この場合m,nは1〜8のいずれかの整数を示す)が駆動回路16から拡大・縮小電圧配線L2を介して所定の拡大・縮小用電極EL2,mnに印加され得る。
【0038】
例えば、ITO電極層31の縦n列目での拡大・縮小用電極EL2,1n〜EL2,8nに着目した場合には、図5に示すように、1行目の拡大・縮小用電極EL2,1nに拡大率指令電圧V2,1n、2行目の拡大・縮小用電極EL2,2nに拡大率指令電圧V2,2n、3行目の拡大・縮小用電極EL2,3nに拡大率指令電圧V2,3n、4行目の拡大・縮小用電極EL2,4nに拡大率指令電圧V2,4n、5行目の拡大・縮小用電極EL2,5nに電圧V2,5n、6行目の拡大・縮小用電極EL2,6nに拡大率指令電圧V2,6n、7行目の拡大・縮小用電極EL2,7nに拡大率指令電圧V2,7n、8行目の拡大・縮小用電極EL2,8nに拡大率指令電圧V2,8nが、拡大指令信号に基づき必要に応じて駆動回路16から印加され得る。なお、拡大・縮小用電極EL2,mn、拡大・縮小電圧配線L2及び拡大率指令電圧V2,mnのうち、下付文字「2」の表記は、後述する回転用電極等と区別するために付した符号である。
【0039】
幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aは、拡大率指令電圧V2,mnが駆動回路16から一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに印加されると、この拡大・縮小用電極EL2,mnに対向する液晶レンズ層23内の液晶内の分子のチルト角の配向状態が拡大率指令電圧V2,mnの電圧値に応じて変化し、これら液晶内の分子の配向状態が被写体像を光学的に拡大し得る非球面凸レンズ(焦点距離が中心から離れるに連れて短くなる非球面凸レンズ)と同じ働きをする屈折率分布の状態となり得る。
【0040】
ここで、図7Aと、図7Aの側断面構成を示す図7Bは、例えば表示部5に表示される撮像画像中の所定の1点が拡大指定位置P1として指定されたときの液晶レンズ層23全体での液晶内の分子35の配向状態を仮想的にイメージした概略図である。なお、実際上、液晶内の分子35は、液晶レンズ層23内に複数積層されているが、図7A及び図7Bでは一列に並んだ液晶内の分子に着目して簡略的に図示している。また、これら図7A及び図7Bは、例えば第1層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aと、液晶内の分子の基本配向方向が第1層目に直交した第2層目の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20bとを積層させたものを単層の液晶層に見立てたときの仮想的なイメージ図である(そのため拡大指定位置から放射状に液晶内の分子35が配向しているように表現されている)。
【0041】
この場合には、拡大指定位置P1に対応する拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnが印加され、これに応じて液晶レンズ層23内の液晶内の分子35のチルト角の配向状態が制御され得る。このような液晶内の分子35は、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aを最低でも2層積層することによって仮想的にイメージされるものであり、単層の場合、第1基板21あるいは第2基板22に近くなるほど液晶の性質から基本配向方向に拘束され得る。
【0042】
すなわち、ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22に近い液晶内の分子35ほど、拡大率指令電圧によりチルト角のみを変化させる単屈折性を有した楕円形状の構造体となり得る。一方、ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22から離れた位置にある液晶分子35は、ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22から離れるに従って、基本配向方向への拘束が弱まり、短軸方向の屈折率と、長軸方向の屈折率とが異なる複屈折性を有した楕円形状の構造体とみなすことができ、配向状態が制御されることで、液晶レンズ層23内を通過する光束を所望の方向へ屈折させ得る。
【0043】
この実施の形態の場合、液晶レンズ層23では、一方向(液晶レンズ層23の面方向と直交した光軸方向)に揃って配向されていた液晶分子35が、拡大指定位置P1と対向した拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnが印加されることで、図7Aに示すように、拡大指定位置P1を拡大中心として放射状に配向される(液晶内の分子が直交するように配置された2層を単層の液晶層に見立てたときの仮想的なイメージである)。
【0044】
また、この際、液晶レンズ層23では、図7Bに示したように、拡大指定位置P1に対向した液晶内の分子35の長軸方向が、液晶レンズ層23の面方向とほぼ平行となるように配向され、当該拡大指定位置P1から離れるに従って液晶内の分子35の長軸方向が次第に光軸方向に傾いてゆき、拡大指定位置P1から遠く離れ拡大率指令電極V2,mnの影響を受けない液晶内の分子35の長軸方向が光軸方向に揃った状態になっている。
【0045】
これにより、液晶レンズ層23では、拡大指定位置P1が非球面凸レンズの凸部に相当し、当該拡大指定位置P1を拡大中心としてそこから離れるに連れて焦点距離が短くなる非球面凸レンズと同じ働きをする屈折率分布になるよう液晶内の分子35が配向され得る。かくして、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dは、被写体からの光束が入射されると、拡大指定位置P1を中心としそこから離れるに連れて焦点距離が短くなる非球面凸レンズを実現した液晶内の分子35により光束を屈折し、拡大指定位置P1を中心に拡大された被写体像を固体撮像素子に結像させ得る。
【0046】
因みに、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aは、縮小率指令電圧V´2,mnが駆動回路16から一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに印加されると、この拡大・縮小用電極EL2,mnに対向する液晶レンズ層23内における液晶内の分子35の配向状態が縮小率指令電圧V´2,mnの電圧値に応じて変化し、これら液晶内の分子35の配向状態が被写体像を光学的に縮小し得る非球面凹レンズ(焦点距離が中心から離れるに連れて長くなる非球面凹レンズ)と同じ働きをする屈折率分布の状態となり得る。
【0047】
具体的に、この実施の形態の場合、液晶レンズ層23では、基準電圧により一方向に揃って配向されていた液晶内の分子35が、縮小指定位置と対向した拡大・縮小用電極EL2,mnに縮小率指令電圧V´2,mnが印加されることで、縮小指定位置を縮小中心として放射状に配向される(液晶内の分子が直交するように配置された2層を単層の液晶層に見立てたときの仮想的なイメージである)。
【0048】
また、この際、液晶レンズ層23では、縮小指定位置に対向した液晶内の分子35の長軸方向が非球面凸レンズのケースとは異なり、図7Bを転地逆にしたような並びとなるように配向され、当該縮小指定位置から離れるに従って液晶内の分子35の長軸方向が次第に光軸方向に傾いてゆき、縮小指定位置から遠く離れ縮小率指令電極の影響を受けない液晶内の分子35の長軸方向が光軸方向に揃っている。これにより、液晶レンズ層23では、縮小指定位置が非球面凹レンズの凹部に相当し、当該縮小指定位置を縮小中心としてそこから離れるに連れて焦点距離が長くなる非球面凹レンズと同じ働きをする屈折率分布になるよう液晶内の分子35が配向され得る。
【0049】
かくして、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dは、被写体からの光束が入射されると、縮小指定位置を中心としそこから離れるに連れて焦点距離が長くなる非球面凹レンズを実現した液晶内の分子35により光束を屈折し、縮小指定位置を中心に縮小しそこから離れるにつれて拡大率が大きくなる被写体像を固体撮像素子に結像させ得る。
【0050】
かかる構成に加えて、図6に示すように、ITO電極層31には、例えば1つの拡大・縮小用電極EL2,51に着目した場合、拡大・縮小用電極EL2,51を中心に縦2個、横2個の2×2の合計4個の回転用電極EL111,51,EL121,51,EL211,51,EL221,51が配置されており、これら1つの拡大・縮小用電極EL2,51と4つの回転用電極EL111,51,EL121,51,EL211,51,EL221,51とで1組の電極セル37を構成している。
【0051】
すなわち、このようにITO電極層31には、各拡大・縮小用電極EL2,mnを中心に縦2個、横2個の2×2の合計4個の回転用電極ELxy1,mn(m,nは、行列の行数m個目、行列の列数n個目の拡大・縮小用電極EL2,mnに対応付けられていることを表し、この場合1〜8のいずれかの整数を示す。x,yは1又は2の整数であり回転用電極の配置位置を行列で表している)がそれぞれ配置され、これにより全体として当該回転用電極ELxy1,mnが規則的に配置されている。
【0052】
図8Aに示すように、この実施の形態の場合、電極セル37は、中心部に円形状の拡大・縮小用電極EL2,mnを有し、この拡大・縮小用電極EL2,mnを中心に四辺状の回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnが四隅に配置された構成を有する。そして、電極セル37には、各回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnに回転電圧配線L1がそれぞれ接続されており、駆動回路16から各回転電圧配線L1を介して回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,L221,mnに回転指令電圧V111,mn,V121,mn,V211,mn,V221,mnがそれぞれ印加され得る。 これにより回転用電極EL111,mn〜EL221,mnは、回転指令電圧V111,mn〜V221,mnが印加されることで、液晶内の分子35を所定角度に回転させ、液晶レンズ層23の屈折率を変化させ得る。この際、回転用電極EL111,mn,EL121,mn間と、回転用電極EL121,mn,EL221,mn間と、回転用電極EL221,mn,L211,mn間と、回転用電極EL211,mn,EL111,mn間の4つの領域に対向する各位置では、液晶レンズ面に対して平行な方向に平行移動し得る。
【0053】
また、この際、電極セル37と対向する液晶レンズ層23内では、基板(ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22)から離れた位置で、液晶の配向方向の拘束からある程度自由になった液晶内の分子35が、通常の回転の他に液晶レンズ面に直交する軸周りの方向へ回転し得る。このようにして電極セル37は、液晶内の分子35の平行移動と、通常の回転に軸周り方向の回転が加わった回転により、固体撮像素子に結像される被写体像を、液晶内の分子35により回転させ得るようになされている。
【0054】
ここで、図6及び図8Aにおいては、理解を容易にするために一方向に配向された液晶1層の場合に注目して電極構成の説明を行っているが、実際の動作を説明するには、配向方向の異方性を考慮し、同じ電極パターンに対して配向方向が直交する2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bを積層させた2層構造の入力側レンズ群18aや、2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20c,20dを積層させた2層構造の出力側レンズ群18bのように、配向方向が直交する2層を同時に考慮する必要がある。なお、図6では、各回転用電極ELxy1,mnにそれぞれ接続されている回転電圧配線L1については省略して図示していない。また、回転用電極ELxy1,mn、回転電圧配線L1及び回転指令電圧Vxy1,mnのうち、下付文字「1」の表記は、上述した拡大・縮小用電極EL2,mn等と区別するために付した符号である。
【0055】
例えば、図7A及び図7Bに示すように、拡大処理が施され液晶内の分子35の配向状態が変化している撮像画像全体を、拡大指定位置P1を回転中心位置として回転させる場合には、操作部からの入力操作に基づいて回転指令電圧Vxy1,mnが各回転用電極ELxy1,mnにそれぞれ印加され得る。これにより、図7C及び図7Dに示すように、液晶レンズ層23では、拡大率指令電圧V2,mnが印加された拡大・縮小用電極EL2,mnを中心として放射状に配向された液晶内の分子35が、その状態のまま回転中心位置P2を中心に所定角度回転して配向状態が変化し得る。
【0056】
例えば、図7Cでは、回転前の液晶内の分子35を薄い棒状線A1で示し、回転後の液晶内の分子35を濃い棒状線A2で示しており、回転指令電圧Vxy1,mnが各回転用電極ELxy1,mnに印加されることで、液晶内の分子35が回転中心位置P2を中心に逆時計回りに僅かに回転している。これにより、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dは、被写体からの光束が入射されると、回転中心位置P2を中心に所定角度回転された液晶内の分子35により光束を屈折し、回転中心位置P2を中心に回転した被写体像を固体撮像素子に結像させ得る。
【0057】
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば、上述した実施の形態においては、図8Aに示すように、小径の拡大・縮小用電極EL2,mnを中心に四辺状の回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnを四隅に配置し、これら拡大・縮小用電極EL2,mnと、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnとの間に、配線スペースを大きく形成させた電極セル37を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これら拡大・縮小用電極EL2,mnや、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnを種々の形状とし、種々の配置構成として配線スペースを小さく形成してもよい。
【0058】
例えば、図8Bに示すように、他の構成の電極セル37aとしては、径が大きく枠周辺の近傍付近まで形成された円形状の拡大・縮小用電極ELa2,mnを中心に有し、この拡大・縮小用電極ELa2,mnを取り囲むように4つの回転用電極ELa111,mn,ELa121,mn,ELa211,mn,ELa221,mnを四隅に配置させた構成であってもよい。
【0059】
この場合、回転用電極ELa111,mn,ELa121,mn,ELa211,mn,ELa221,mnは、拡大・縮小用電極ELa2,mnの湾曲状の外郭形状に合わせて、一辺が湾曲状に形成されており、当該拡大・縮小用電極ELa2,mnの外郭形状に沿って一辺が配置され得る。これにより電極セル37aは、拡大・縮小用電極ELa2,mnと回転用電極ELa111,mn,ELa121,mn,ELa211,mn,ELa221,mnとの隙間が、図8Aに示す電極セル37に比して格段的に小さくなり配線スペースを小さくし得るとともに、枠内の領域に亘って拡大・縮小用電極ELa2,mnと回転用電極ELa111,mn,ELa121,mn,ELa211,mn,ELa221,mnとを配置し得る。
【0060】
この電極セル37aでは、拡大・縮小用電極ELa2,mnを大きく形成している分だけ、1つの拡大・縮小用電極ELa2,mnによって広範囲の液晶内の分子35のチルト角の配向状態を制御し得、拡大・縮小処理を実行し得る。
【0061】
また、上述した実施の形態においては、図6に示すように、被写体像を拡大・縮小及び平行移動させるための複数の拡大・縮小用電極EL2,mnと、被写体像を回転させるための複数の回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnとを1層のITO電極層31に全て形成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図9Aに示すように、被写体像を拡大・縮小及び平行移動させるための複数の拡大・縮小用電極EL2,mnだけを1層のITO電極層31aに形成し、図9Bに示すように、これとは別に被写体像を回転させるための複数の回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnだけを1層のITO電極層31bに形成し、図6に示すITO電極層31を複数のITO電極層31a,31bで形成するようにしてもよい。
【0062】
この場合、ITO電極層31a,31bでは、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mn又は拡大・縮小用電極EL2,mnを省いた分だけ、配線パターンを簡素化し得、その分、製造時に加工が容易になり得る。また、ITO電極層31a,31bでは、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mn又は拡大・縮小用電極EL2,mnを省いた分だけ、電極から引き出される配線数を減らすことができ、当該配線を引き回す配線スペースを小さくして集積化を向上し得る。
【0063】
さらに、このITO電極層31aでは、拡大・縮小用電極EL2,mnだけを設けたことから、拡大・縮小処理や平行移動処理を行う際、回転処理に用いる回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnへ印加される電圧制御とは全く別に、拡大・縮小用電極EL2,mnの電圧制御を行え、その分、電圧制御を簡素化し得る。また、ITO電極層31bでも、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnだけを設けたことから、回転処理を行う際、拡大・縮小処理や平行移動処理に用いる拡大・縮小用電極EL2,mnへ印加される電圧制御とは全く別に、回転用電極EL111,mn,EL121,mn,EL211,mn,EL221,mnの電圧制御を行え、その分、電圧制御を簡素化し得る。
【0064】
また、その他の実施の形態としては、図10Aに示すような平行移動処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズと、図10Bに示すような拡大処理及び又は縮小処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズと、図10Cに示すような回転処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズとを積層させて内部レンズ部を構成するようにしてもよく、このうちいずれか2種の幾何学変換レンズ用液晶レンズを組み合わせてもよい。なお、このような3種類の幾何学変換レンズ用液晶レンズを積層させる際には、上述の実施例と等価な被写体像を得るには、平行移動処理、拡大処理及び又は縮小処理、回転処理の順番に留意する必要がある。
【0065】
実際上、図10Aに示すように、平行移動処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズは、第1層50aと第2層50bで構成されており、第1層50aのラビング方向と、第2層50bのラビング方向とが直交するように積層され得る。ここで、図10Aは、第1層50a及び第2層50bの上面構成を示すものであり、第1層50aは、一側部に配置されたITO電極層51aと、他側部に配置された対向電極52aとの間に液晶層53aが設けられており、ITO電極層51aに電圧が印加されることで液晶層53aにおける液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。
【0066】
また、第2層50bも、同様に一側部に配置されたITO電極層51bと、他側部に配置された対向電極52bとの間に液晶層53bが設けられおり、ITO電極層51bに電圧が印加されることで液晶層53bにおける液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。これにより、図10Aに示す幾何学変換レンズ用液晶レンズは、ラビング方向が直交する第1層50aと第2層50bの液晶内の分子の配向状態をそれぞれ任意に変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を平行移動し得る。
【0067】
また、図10Bに示すように、拡大処理及び又は縮小処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズは、第1層55aと第2層55bで構成されており、第1層55aのラビング方向と、第2層55bのラビング方向とが直交するように積層され得る。ここで、図10Bは、第1層55a及び第2層55bの上面構成を示すものであり、第1層55aは、ITO電極層56aと、このITO電極層56aと対向した対向電極(図示せず)との間に液晶層が設けられており、ITO電極層56aに電圧が印加されることで液晶層における液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。
【0068】
第2層55bも、同様にITO電極層56bと、ITO電極層56bに対向した対向電極(図示せず)との間に液晶層が設けられおり、ITO電極層56bに電圧が印加されることで液晶層における液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。これにより、図10Bに示す幾何学変換レンズ用液晶レンズは、ラビング方向が直交する第1層55aと第2層55bの液晶内の分子の配向状態をそれぞれ任意に変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を拡大・縮小し得る。
【0069】
さらに、図10Cに示すように、回転処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズは、第1層60aと第2層60bで構成されており、第1層60aのラビング方向と、第2層60bのラビング方向とが直交するように積層され得る。ここで、図10Cは、第1層60a及び第2層60bの上面構成を示すものであり、第1層60aは、一側部に対向電極61aとITO電極層62aとが平面部を直線状に配置させるように設けられている。
【0070】
また、第1層60aには、他側部にもITO電極層63aと対向電極64aとが平面部を直線状に配置させるように設けられ、一側部の対向電極61aと対向するようにITO電極層63aが配置されているとともに、同じく一側部のITO電極層62aと対向するように対向電極64aが配置されている。
【0071】
第1層60aには、対向電極61a及びITO電極層62aの対と、ITO電極層63a及び対向電極64aの対との間に液晶層が設けられており、ITO電極層62a,63aに電圧が印加されることで液晶層における液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。
【0072】
一方、第2層60bにも、一側部に対向電極61bとITO電極層62bとが平面部を直線状に配置させるように設けられている。また、第2層60bには、他側部にもITO電極層63bと対向電極64bとが平面部を直線状に配置させるように設けられ、一側部の対向電極61bと対向するようにITO電極層63bが配置されているとともに、同じく一側部のITO電極層62bと対向するように対向電極64bが配置されている。
【0073】
第2層60bには、対向電極61b及びITO電極層62bの対と、ITO電極層63b及び対向電極64bの対との間に液晶層が設けられており、ITO電極層62b,63bに電圧が印加されることで液晶層における液晶内の分子が配向状態を変化させ得る。これにより、図10Cに示す幾何学変換レンズ用液晶レンズは、ラビング方向が直交する第1層60aと第2層60bの液晶内の分子の配向状態をそれぞれ任意に変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を回転し得る。
【0074】
(3)動作及び効果
以上の構成において、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、第1基板21と第2基板22との間に、液晶内の分子35を一方向に配向させた液晶レンズ層23を設け、拡大・縮小用電極EL2,mnがマトリックス状に配置されたITO電極層31を液晶レンズ層23上に設けるようにした。また、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、撮像画像のうち一又は複数の箇所が拡大指定がされると、拡大指定位置P1に対応した一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnが印加され、当該拡大・縮小用電極EL2,mnに対向した液晶レンズ層23内の液晶内の分子35が指定位置から離れるに連れて焦点距離が短くなる非球面凸レンズと同じ働きをする屈折率分布となるよう配向される。これにより幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、被写体からの光束が通過する際、これら配向状態が変化した液晶内の分子35により屈折率を変化させ、拡大指定位置P1を拡大中心として拡大させた被写体像を個体撮像素子に結像させることができる。
【0075】
これにより、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、所定の拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnを単に印加するだけで、液晶レンズ層23内の液晶内の分子35の配向状態を変化させ、撮像画像のうちユーザが所望する箇所だけを拡大させ、視野の広さを維持したまま画像全体のデータ量を増加させることなく所望する箇所の解像度を向上させることができる。
【0076】
このように、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、詳細に観察したい他の被写体が撮像画角内に存在していても、モータ等の大掛かりな可動機構でレンズ自体を移動させなくとも、所定の拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnを単に印加するだけで、撮像画像内の所望の箇所を光学的に拡大させることができるので、従来のようなレンズを移動させるメカニカルな可動機構を設置するための収納スペースや、レンズ自体を移動させるための移動スペースが不必要となり、さらに、液晶内の分子35のみを動かし、メカニカルな可動機構を動かす必要がないため、その分だけ小型化並びに省エネルギー性の向上を図ることができる。
【0077】
また、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、液晶レンズ層23上に複数の拡大・縮小用電極EL2,mnがマトリックス状に配置されたITO電極層31が設けられていることから、所望の位置の拡大・縮小用電極EL2,mnに同時に拡大率指令電圧V2,mnと印加することで、同時に複数の箇所の液晶内の分子35の配向状態を変化させて屈折率を変化させることができ、かくして、複数の拡大指定位置P1を拡大中心として複数個所を同時に拡大させた被写体像を個体撮像素子に結像させることもできる。
【0078】
また、このような幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dを用いた撮像装置1では、このようにして被写体像の一又は複数の箇所を拡大させた画像信号を撮像部3から入力画像補正部4に送出し、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dにて拡大させた拡大箇所を、当該入力画像補正部4によって再び縮小させ元の倍率に戻す。このように、この撮像装置1では、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dにて拡大した拡大箇所を、入力画像補正部4によって縮小し再び元の縮尺に戻し、これを撮像画像として表示部5に表示していることから、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dにより拡大させ解像度を向上させた拡大箇所を不自然に拡大させた状態のままユーザに提示することなく、全体的に縮尺が揃った自然な撮像画像をユーザに提示できる。
【0079】
また、これに加えて、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、撮像画像のうち一又は複数の箇所が縮小指定されると、縮小指定位置に対応した一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに縮小率指令電圧V2,mnが印加され、当該拡大・縮小用電極EL2,mnに対向した液晶レンズ層23内の液晶内の分子35が指定位置から離れるに連れて焦点距離が長くなる非球面凹レンズと同じ働きをする屈折率分布となるよう配向される。これにより幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、被写体からの光束が通過する際、これら配向状態が変化した液晶内の分子35により光束の屈折率を変化させ、縮小指定位置を拡大中心として縮小させた被写体像を個体撮像素子に結像させることができる。
【0080】
これにより、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、所定の拡大・縮小用電極EL2,mnに縮小率指令電圧V´2,mnを単に印加するだけで、液晶レンズ層23内の液晶内の分子35の配向状態を変化させ、撮像画像のうちユーザが所望する箇所を縮小させ解像度を低下させ、不必要な箇所に割り当てるデータ量を抑えることができる。
【0081】
このように、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、モータ等の大掛かりな可動機構でレンズ自体を移動させなくとも、所定の拡大・縮小用電極EL2,mnに縮小率指令電圧V´2,mnを単に印加するだけで、撮像画像内の所望の箇所を光学的に縮小させることができるので、従来のようなレンズを移動させるメカニカルな可動機構を設置するための収納スペースや、レンズ自体を移動させるための移動スペースが不必要となり、さらに、液晶内の分子35のみを動かし、メカニカルな可動機構を動かす必要がないため、その分だけ小型化並びに省エネルギー性の向上を図ることができる。
【0082】
また、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、液晶レンズ層23上に複数の拡大・縮小用電極EL2,mnがマトリックス状に配置されたITO電極層31が設けられていることから、所望の位置の拡大・縮小用電極EL2,mnに同時に縮小率指令電圧V´2,mnと印加することで、同時に複数の箇所の液晶内の分子35の配向状態を変化させて屈折率を変化させることができ、かくして、複数の縮小指定位置を縮小中心として複数個所を同時に縮小させた被写体像を個体撮像素子に結像させることもできる。
【0083】
また、この場合でも拡大処理と同様に撮像装置1では、このようにして被写体像の一又は複数の箇所を縮小させた縮小箇所を、入力画像補正部4によって再び拡大させ元の倍率に戻すことで、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dにより縮小させ解像度を低下させた縮小箇所を不自然に縮小させた状態のままユーザに提示することなく、全体的に縮尺が揃った自然な撮像画像をユーザに提示できる。
【0084】
そして、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに拡大率指令電圧V2,mnが印加され、これと同時に残りの他の一又は複数の拡大・縮小用電極EL2,mnに縮小率指令電圧V2,mnが印加されることで、これら拡大率指令電圧V2,mn及び縮小率指令電圧V2,mnにより配向状態が変化した液晶内の分子35によって、被写体からの光束を屈折させ、ある箇所で拡大指定位置P1を拡大中心として拡大させ、同時に他の箇所で縮小指定位置を縮小中心として縮小させた被写体像を、個体撮像素子に結像させることができる。
【0085】
また、この場合でも、撮像装置1では、被写体像の一又は複数の箇所を拡大させた拡大箇所を、入力画像補正部4によって再び縮小させるとともに、被写体像の一又は複数の箇所を縮小させた縮小箇所を、入力画像補正部4によって再び拡大させ、全体の倍率を元の倍率に戻し統一させることで、不自然に拡大及び縮小させた状態の撮像画像をそのままユーザに提示することなく、全体的に縮尺が揃った自然な撮像画像をユーザに提示できる。また、これにより、撮像装置1では、視野の広さを維持したまま、不必要な箇所が縮小されてデータ量が抑えられていることから、撮像画像全体のデータ量を増加させることなく、所望する箇所だけを拡大させて解像度を向上させた撮像画像をユーザに提示することができる。
【0086】
さらに、これに加えて、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、拡大・縮小用電極EL2,mnとは別に複数の回転用電極EL1,mnが縦横に規則的に配置されたITO電極層31が液晶レンズ層23上に設けられており、回転用電極EL1,mnに回転指令電圧V1,mnがそれぞれ印加されることで、各回転用電極EL1,mnに対向した液晶レンズ層23内の液晶内の分子35の配向状態を変化させ、これら液晶内の分子35をそれぞれ所定角度に回転させることができる。
【0087】
これにより、この幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、被写体からの光束が通過する際、これら配向状態が変化した液晶内の分子35により光束の屈折率が変化し、液晶内の分子35によって回転中心位置を中心に所定角度だけ回転した被写体像を個体撮像素子に結像させることができる。
【0088】
以上の構成によれば、液晶内の分子35が封入された液晶レンズ層23を第1基板21と第2基板22との間に備え、この液晶レンズ層23に与えられる外部刺激たる電圧により液晶内の分子35を配向制御し、液晶内の分子35の配向変化により被写体像を幾何学変換させるようにしたことにより、従来のようなレンズを移動させるメカニカルな可動機構が不要となりその分だけ小型化及び省エネルギー性の向上を図れ、かつ被写体像を所望の形態に幾何学変換し得る。
【0089】
(4)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、例えば、上述した実施の形態においては、区分けせずに連続的な空間でなる液晶レンズ層23を用い、拡大・縮小用電極EL2,mn及び回転用電極ELxy1,mnが連続的にパターン化して配置されたITO電極層31を液晶レンズ層23に設けた連続型の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図11に示すように、仕切り部40により液晶レンズ層45を区分けしたマイクロ液晶レンズセル41を縦横に複数個連結させてアレイ状に配置し、これら各マイクロ液晶レンズセル41毎に電極セル37をそれぞれ設けた離散型の幾何学変換レンズ用液晶レンズを適用してもよい。
【0090】
この場合、離散型の幾何学変換レンズ用液晶レンズに用いられるマイクロ液晶レンズセル41は、例えば電極セル37とほぼ同じ大きさからなり、透明部材でなる仕切り部40により区分けされた密封空間に液晶内の分子が密封された構成を有する。離散型の幾何学変換レンズ用液晶レンズでは、隙間無くアレイ状に配置させたマイクロ液晶レンズセル41に対して、それぞれ電極セル37により拡大率指令電圧V2,mn、縮小率指令電圧V´2,mn、回転指令電圧Vxy1,mnが印加されることで、各マイクロ液晶レンズセル41毎に液晶内の分子の配向状態を変化させ、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
ここで、図12Aと、図12Aの側断面構成を示す図12Bは、1つのマイクロ液晶レンズセル41での液晶レンズ層45の概略図を示し、当該液晶レンズ層45においてプレチルト角を打ち消したときの液晶内の分子35の配向状態が示されている。この場合、液晶レンズ層45内では、液晶内の分子35がラビング処理により面方向にのみ平行に横たわって並んでおり、被写体像の回転と、被写体像の拡大中心点からの距離に応じた拡大率分布が、電極セル37に印加される拡大率指令電圧V2,mnと回転指令電圧Vxy1,mnとによって制御され得る。
【0092】
なお、この場合でも、液晶内の分子35のプレチルト角が0度のとき、ラビング処理の方向によって液晶内の分子35の配向方向が決定されるため、この異方性の光学系への影響を軽減するために、内部レンズ部では、上述した実施の形態と同様に、入力側レンズ群及び出力側レンズ群において、それぞれ2つの幾何学変換レンズ用液晶レンズが積層され、2枚のマイクロ液晶レンズセル41が積層した構造となる。
【0093】
例えば、入力側レンズ群では、第1層目のマイクロ液晶レンズセル41の液晶内の分子が、第2層目のマイクロ液晶レンズセル41の液晶内の分子と90度回転させた構成となり得る(なお、これらマイクロ液晶レンズセル41を積層させることは図12Aの上面図をみたときマイクロ液晶レンズセル41の上面と垂直な方向(光軸方向)に液晶内の分子35を離散化させるとも言い得る)。また、上述した実施の形態と同様に、出力側レンズ群でも入力側レンズ群と同様に、第1層目のマイクロ液晶レンズセル41の液晶内の分子が、第2層目のマイクロ液晶レンズセル41の液晶内の分子と90度回転させた構成となり得る。
【0094】
この場合、このようなマイクロ液晶レンズセル41では、先ず始めにプレチルト角が0度のとき液晶内の分子35がラビング方向と平行になるように、回転指令電圧Vxy1,mnが与えられ、これにより図12Bに示すように液晶内の分子35が無回転の状態とされ、面方向に平行となり得る。なお、ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22に近い液晶内の分子35は電圧を印加せずともプレチルト角をもってラビング方向に拘束されるため、マイクロ液晶レンズセル41上面から液晶内の分子35を見ると、図12Aのように見える。すなわち、ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22から離れた位置にある液晶内の分子35に関して、回転指令電圧Vxy1,mnを与えて無回転の状態にさせる操作を行う必要がある。
【0095】
その後、マイクロ液晶レンズセル41では、所定の拡大率指令電圧V2,mnが印加されることで、図13に示すように、液晶内の分子35が拡大率指令電圧V2,mnの大きさに応じて僅かに立ち上がり(すなわち、チルト角をもつことになる)、拡大指令電圧を与えた位置から離れるにつれて焦点距離が短くなる非球面凸レンズと同じ働きをする屈折率分布になるよう液晶内の分子35の配向状態が変わり得る。
【0096】
一方、マイクロ液晶レンズセル41を通過する光束に回転を与えるときには、液晶内の分子35のプレチルト角が0度になるように拡大率指令電圧V2,mn等を与えた上で、回転指令電圧Vxy1,mnを変化させて、回転用電極EL111,mn,EL121,mn間と、回転用電極EL121,mn,EL221,mn間と、回転用電極EL221,mn,L211,mn間と、回転用電極EL211,mn,EL111,mn間の4つの領域に対向する各位置にて、液晶レンズ面に対して平行な方向に平行移動し得る。
【0097】
また、この際、対向する液晶レンズ層37内では、基板(ラビング処理を施した第1基板21又は第2基板22)から離れた位置で液晶の配向方向の拘束からある程度自由になった液晶内の分子35が、通常の回転の他に液晶レンズ面に直交する軸周りの方向へ回転し得る。このようにしてマイクロ液晶レンズセル41では、チルト角とともに、図14に示すように、液晶内の分子35のパン角が一定になるように制御できる。かくして、このような離散型の幾何学変換レンズ用液晶レンズでも、電圧に応じて液晶内の分子の配向状態を自由に変化させることができ、上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0098】
また、上述した実施の形態においては、拡大用電極及び縮小用電極として、縦8個、横8個でマトリックス状に配置された合計64個の拡大・縮小用電極El2,mn(m,nは1〜8のいずれかの整数)を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、拡大・縮小用電極El2,mnの数は任意の数でよく、縦M個、横N個(M,Nは任意の整数)でマトリックス状に配置された合計M×N個の拡大・縮小用電極El2,mn(この場合、mは1〜Mのいずれかの整数、nは1〜Nのいずれかの整数)を適用してもよい。
【0099】
さらに、上述した実施の形態においては、回転用電極として、縦8個、横8個の各拡大・縮小用電極EL2,mnにそれぞれ対応付けられ、各拡大・縮小用電極EL2,mnを中心に縦2個、横2個に規則的に配置された合計(8×8)×4個の回転用電極ELxy1,mn(x,yは1又は2の整数で行列を表す)を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、回転用電極ELxy1,mnの数は任意の数でよく、縦M個、横N個(M,Nは任意の整数)の各拡大・縮小用電極EL2,mn(この場合、mは1〜Mのいずれかの整数、nは1〜Nのいずれかの整数)にそれぞれ対応付けられ、各拡大・縮小用電極EL2,mnを中心に縦X個、横Y個(X,Yは任意の整数)に配置された合計(M×N)×(X×Y)個の回転用電極ELxy1,mn(この場合、xは1〜Xのいずれかの整数、yは1〜Yのいずれかの整数)を適用してもよい。
【0100】
さらに、上述した連続型の幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dや、変形例である離散型の幾何学変換レンズ用液晶レンズの他、マイクロ液晶レンズセル41よりも大きな液晶レンズセルに液晶レンズ層を離散的に分割し、連続型の電極パターンでなるITO電極層をこの液晶レンズ層に設けたハイブリット型の幾何学変換レンズ用液晶レンズ等、その他種々の構成でなる幾何学変換レンズ用液晶レンズを適用してもよい。なお、上述した実施の形態にて採用した連続型の液晶レンズ層を用いた幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、離散型の幾何学変換レンズに比べて仕切り部40を有しない分だけ高い光量の被写体像を固定撮像素子に結像させることができ、また被写体像の各点における拡大率と回転を任意に指定し得、これらを連続的に滑らかに被写体像を変化させることができる。
【0101】
さらに、上述した実施の形態においては、拡大・縮小用電極EL2,mnと回転用電極ELxy1,mnとが所定パターンで配置されたITO電極層31を液晶レンズ層23に設け、拡大処理、縮小処理及び回転処理を1つの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dで実行し得るようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、上述でも述べたが、図9Aに示すような拡大・縮小用電極EL2,mnだけが所定パターンで配置されたITO電極層を液晶レンズ層23に設け、拡大処理及び縮小処理だけを1つの幾何学変換レンズ用液晶レンズで実行するようにしたり、或いは、図9Bに示すような回転用電極ELxy1,mnだけが所定パターンで配置されたITO電極層を液晶レンズ層23に設け、回転処理だけを1つの幾何学変換レンズ用液晶レンズで実行するようにしてもよい。
【0102】
また、これら拡大処理及び縮小処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズと、回転処理だけを実行可能な幾何学変換レンズ用液晶レンズとを積層させ組み合わせて内部レンズ部を構成するようにしてもよい。このように、液晶内の分子のパン角の回転と、チルト角の回転とを幾何学変換レンズ毎に別々に制御可能な構造とした場合には、拡大率分布や回転量を連続的に変化させた被写体像が得られることができるとともに、各液晶レンズ層上での電極配置を簡素化し得、一段と大きな光量を得ることができるという利点がある。
【0103】
さらに、上述した実施の形態においては、拡大率指令電圧V2,mn、縮小率指令電圧V´2,mn、回転指令電圧Vxy1,mnを印加することにより液晶内の分子35の配向状態を変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を拡大、縮小又は回転させる幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dを適用した場合について述べたが、本発明ではこれに限らず、所定の電圧をITO電極層31に印加することにより液晶内の分子35の配向状態を任意に変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を平行移動させる等その他種々の状態に幾何学変換し得る幾何学変換レンズを適用してもよい。
【0104】
例えば、幾何学変換レンズ15により固体撮像素子に結像される被写体像を平行移動させる場合には、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dのうち、入力側レンズ群18aの幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aを例にあげると、ある特定箇所の拡大・縮小用電極EL2,mnに印加される拡大率指令電圧V2,mn(もしくは縮小率指令電圧V´2,mn)をその周囲の4つの回転指令電圧Vxy1,mnと等しくし、これを移動指令電圧として印加することにより、液晶内の分子35の配向状態を変化させ、固体撮像素子に結像される被写体像を、例えば上方向、下方向、左方向又は右方向のいずれか一方向に移動させる幾何学変換レンズ用液晶レンズとして動作させることができる。
【0105】
具体的には、被写体像を一方向に移動させるために、液晶内の分子35の配向方向が、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aの液晶内の分子35と直交する幾何学変換レンズ用液晶レンズ20bを、上述した幾何学変換レンズ用液晶レンズ20aと同様の手法で動作させ、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20bの液晶内の分子35を同時に任意の一方向へ移動させることで、当該任意の一方向と同じ一方向に被写体像を平行移動させることが可能となる。
【0106】
すなわち、上述の実施例では、基準電極30に印加される基準電圧からの拡大率指令電圧V2,mn(もしくは縮小率指令電圧V´2,mn)及びその周囲の4つの回転指令電圧Vxy1,mnへのバイアス電圧により、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dは拡大、縮小、回転の他に像を平行移動させ得る。この場合、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dでは、バイアス電圧によりプレチルト角を0度にした後、その値を基準とした電圧が平行移動量に対応することになる。
【0107】
さらに、上述した実施の形態においては、拡大率指令電圧V2,mn、縮小率指令電圧V´2,mn、回転指令電圧Vxy1,mnを印加することにより配向状態が変化する液晶内の分子35を用い、幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dの屈折率を変化させる幾何学変換レンズを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、磁力や原子・分子間力、放射線等の外部刺激が外部から与えられることによって、対象部材の外観形状を変化させることなく、内部の屈折率を変化させる種々の屈折率変化手段を用いて屈折率を変化させる幾何学変換レンズを適用してもよい。
【0108】
また、例えば、光の屈折率を変化させる手法としては、ガラス板あるいはプラスチック等の基板上に酸化インジウム・スズ、酸化タングステン、酸化タンタル、アルミニウム、パラジウム及びマグネシウム・ニッケル系合金薄膜を重ね合わせた構造をした薄膜材料を用い、外部からの電気及び磁力の印加によって、薄膜材料の透明度を変化させて屈折率を変化させる手法を適用してもよい。
【0109】
さらに、上述した実施の形態においては、液晶内の分子35により光の屈折率を変化させる幾何学変換レンズ用液晶レンズ20a,20b,20c,20dを用いた幾何学変換レンズを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、光のみならず、電子や電気、磁力、原子・分子間力、放射線等のあらゆるものの屈折率を変換させる幾何学変換レンズを適用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14