(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019028
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】血液パラメータの光学測定のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20161020BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20161020BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
G01N21/27 Z
G01N33/49 K
A61B5/14 322
【請求項の数】47
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-532862(P2013-532862)
(86)(22)【出願日】2011年10月3日
(65)【公表番号】特表2013-541007(P2013-541007A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】US2011054621
(87)【国際公開番号】WO2012047806
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年9月29日
(31)【優先権主張番号】61/391,219
(32)【優先日】2010年10月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500218127
【氏名又は名称】エドワーズ ライフサイエンシーズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】Edwards Lifesciences Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】クレイトン・ヤング
(72)【発明者】
【氏名】フェラス・ハティブ
【審査官】
佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−506522(JP,A)
【文献】
特開平04−297854(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0042004(US,A1)
【文献】
米国特許第06430513(US,B1)
【文献】
特表2009−507569(JP,A)
【文献】
特開2007−163422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 −21/01
G01N 21/17 −21/61
A61B 5/1455− 5/1464
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトル範囲を有する光を生成するように構成された光源と、
前記生成された光を前記光源から血液中へ誘導するように構成された光伝送器と、
前記血液から透過光を受け取って誘導するように構成された光透過器と、
前記光透過器から前記透過光を受け取り、前記透過光のスペクトル組成を判定するように構成された検出器と、
メモリデバイスと、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行して、
前記スペクトル組成のうち一部の形態を判定し、
前記形態を、特異な曲線を有する既知の形態のうち1つと合致させるために、前記形態を既知の形態のデータベースと比較するように構成されたハードウェアプロセッサと
を備え、前記特異な曲線のそれぞれは、少なくとも2つの血液パラメータのそれぞれの組合せに一意であり、
前記ハードウェアプロセッサは、前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行して、
前記比較に応答して、前記形態と、前記少なくとも2つの血液パラメータの第1の組合せに一意である第1の特異な曲線を有する第1の前記既知の形態のうち1つとの間の合致を判定し、
前記合致に応答して、前記第1の組合せと関連付けられた少なくとも2つの血液パラメータを取得するようにさらに構成された、システム。
【請求項2】
既知の形態の前記データベースが、少なくとも3つの次元の基準マトリクスによって規定され、前記既知の形態がそれぞれ、前記少なくとも2つの血液パラメータに対する既知の値に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記3次元のマトリクスが、少なくとも61×467×101の次元を有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記マトリクスの467枚のスライスが、440nmと540nmの間の点を表す、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記マトリクスの61枚のスライスが、O2HbとtHbのうち1つを表す、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記マトリクスが、少なくとも6161本の一意の曲線を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも2つの血液パラメータが、tHbおよびO2Hbである、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記光源が広スペクトル光源であり、前記スペクトル範囲が可視光範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記光源が白色LED光源である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記光伝送器が第1の光導波路である、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記光透過器が第2の光導波路である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1および第2の光導波路が、カテーテルを貫通して延びる光ファイバであり、前記カテーテルが、前記血液中に位置するように構成された先端部を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記既知の形態が、600nm以下の透過スペクトルから導出される、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記既知の形態が、440nm〜540nmの透過スペクトルから導出される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記既知の形態が、730nm〜796nmの透過スペクトルから導出される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記既知の形態が、O2HbおよびtHbの一意の測定に対応する、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記既知の形態が、O2Hbに対して1%以下およびtHbに対して0.1g/dL以下の増分スライスで示される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記ハードウェアプロセッサが、最小2乗適合を適用して、前記形態と既知の形態の前記データベースとを比較するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記ハードウェアプロセッサが、表示のために複数の既知の値を報告するようにさらに構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記ハードウェアプロセッサが、前記複数の既知の値を平滑化するようにさらに構成される、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記ハードウェアプロセッサが、加重平均を使用して前記既知の値を平滑化するように構成される、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
光源と、光伝送器と、検出器と、ハードウェアプロセッサと、メモリデバイスと、前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードとを有するシステムによって使用する方法であって、
前記光源を使用して、スペクトル範囲を有する光を生成するステップと、
前記光伝送器を使用して、前記光を血液中へ誘導するステップと、
前記検出器を使用して、前記血液からの透過光を受け取るステップと、
前記検出器を使用して、前記透過光のスペクトル組成を判定するステップと、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行する前記ハードウェアプロセッサを使用して、前記スペクトル組成のうち一部の形態を判定するステップと、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行する前記ハードウェアプロセッサを使用して、前記形態を、特異な曲線を有する既知の形態のうち1つと合致させるために、前記形態を既知の形態のデータベースと比較するステップと
を含み、前記特異な曲線のそれぞれは、少なくとも2つの血液パラメータのそれぞれの組合せに一意であり、
前記方法は、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行する前記ハードウェアプロセッサを使用して、前記比較に応答して、前記形態と、前記少なくとも2つの血液パラメータの第1の組合せに一意である第1の特異な曲線を有する第1の前記既知の形態のうち1つとの間の合致を判定するステップと、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行する前記ハードウェアプロセッサを使用して、前記合致に応答して、前記第1の組合せと関連付けられた少なくとも2つの血液パラメータを取得するステップと
をさらに含む方法。
【請求項23】
比較するステップが、3次元のマトリクスと比較するステップを含み、判定するステップが、前記少なくとも2つの血液パラメータを同時に判定するステップを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
比較するステップが、少なくとも61×467×101の次元を有する前記3次元のマトリクスと比較するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
比較するステップが、440nmと540nmの間の前記マトリクスの467枚のスライスを比較するステップを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
比較するステップが、O2HbとtHbのうち1つを表す前記マトリクスの61枚のスライスを比較するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
比較するステップが、600nm以下の透過スペクトルからの既知の形態と比較するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
比較するステップが、440nm〜540nmの透過スペクトルからの既知の形態と比較するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
比較するステップが、730nm〜796nmの透過スペクトルからの既知の形態と比較するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
比較するステップが、O2Hbに対して1%以下およびtHbに対して0.1g/dL以下の増分スライスで示される既知の形態と比較するステップを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
比較するステップが、最小2乗適合を適用して、前記スペクトル組成のうち形態学的な部分と既知の形態の前記データベースとを比較するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
血液から透過光を受け取るように構成された検出器と、
メモリデバイスと、
前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行して、
前記透過光のスペクトル組成を判定し、
前記スペクトル組成のうち一部の形態を判定し、
前記形態を、特異な曲線を有する既知の形態のうち1つと合致させるために、前記形態を既知の形態のデータベースと比較するように構成されたハードウェアプロセッサと
を備え、前記特異な曲線のそれぞれは、少なくとも2つの血液パラメータのそれぞれの組合せに一意であり、
前記ハードウェアプロセッサは、前記メモリデバイスに記憶されたプロセッサ実行可能コードを実行して、
前記比較に応答して、前記形態と、前記少なくとも2つの血液パラメータの第1の組合せに一意である第1の特異な曲線を有する第1の前記既知の形態のうち1つとの間の合致を判定し、
前記合致に応答して、前記第1の組合せと関連付けられた少なくとも2つの血液パラメータを取得するようにさらに構成された、システム。
【請求項33】
既知の形態の前記データベースが、少なくとも3つの次元の基準マトリクスによって規定され、前記既知の形態がそれぞれ、前記少なくとも2つの血液パラメータに対する既知の値に対応する、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記3次元のマトリクスが、少なくとも61×467×101の次元を有する、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記マトリクスの467枚のスライスが、440nmと540nmの間の点を表す、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記マトリクスの61枚のスライスが、O2HbとtHbのうち1つを表す、請求項35に記載のシステム。
【請求項37】
前記マトリクスが、少なくとも6161本の一意の曲線を含む、請求項33に記載のシステム。
【請求項38】
前記少なくとも2つの血液パラメータが、tHbおよびO2Hbである、請求項33に記載のシステム。
【請求項39】
前記既知の形態が、600nm以下の透過スペクトルから導出される、請求項32に記載のシステム。
【請求項40】
前記既知の形態が、440nm〜540nmの透過スペクトルから導出される、請求項39に記載のシステム。
【請求項41】
前記既知の形態が、730nm〜796nmの透過スペクトルから導出される、請求項32に記載のシステム。
【請求項42】
前記既知の形態が、O2HbおよびtHbの一意の測定に対応する、請求項32に記載のシステム。
【請求項43】
前記既知の形態が、O2Hbに対して1%以下およびtHbに対して0.1g/dL以下の増分スライスで示される、請求項42に記載のシステム。
【請求項44】
前記ハードウェアプロセッサが、最小2乗適合を適用して、前記スペクトル組成のうち形態学的な部分と既知の形態の前記データベースとを比較するように構成される、請求項32に記載のシステム。
【請求項45】
前記ハードウェアプロセッサが、表示のために複数の既知の値を報告するようにさらに構成される、請求項32に記載のシステム。
【請求項46】
前記ハードウェアプロセッサが、前記複数の既知の値を平滑化するようにさらに構成される、請求項45に記載のシステム。
【請求項47】
前記ハードウェアプロセッサが、加重平均を使用して平滑化するように構成される、請求項46に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液パラメータを判定する方法およびシステムの実施に関する。詳細には、本発明は、光学分光法を使用する血液検体の同時測定を対象とする。
【背景技術】
【0002】
患者内のSO
2(酸素飽和度)、O
2Hb(オキシヘモグロビン比率)、またはtHb(総ヘモグロビン濃度)などの血液パラメータを測定する標準的な方法は、血液中へ、または血液を通って光を誘導し、血液中を伝送された後または血液によって反射された後、個別の波長で、または実質上連続するスペクトル範囲にわたって、光の強度を測定し、次いで測定強度値の関数としてパラメータを計算することである。
【0003】
多くの要因が、調査方法として光学測定に依拠する周知の血液パラメータ監視の精度を低減させる。光源自体に関しては、広い波長範囲にわたって所与の波長で十分な光を生じさせることができなければならず、それを計器の寿命にわたって安定して行わなければならない。
【0004】
血液中を伝送される光の観察は、血液または組織の光学特性の不一致による影響を受ける。たとえば指または耳たぶのカフなどの非侵襲性デバイスを使用して血液中へ光が誘導されるとき、皮膚/デバイスの境界面における表面の変動および血液を含む血管床内の組織の変動が光の伝送に影響を与える可能性があり、これは最終的には測定を乱す。これらの変動は通常、組織または血液の光吸収および散乱特性に関連する。
【0005】
大部分の非侵襲性の光学モニタの精度を劣化させる1つの誤差原因は、患者の動きである。動きアーティファクトは、生物組織を通る光の経路長の変化を招き、したがって検出される伝送光または反射光の強度の変動を招く。測定雑音の大きさは、これらのデバイスを長期間にわたって動作不能にしうるほど大きくなる可能性がある。この問題は、連続する監視が不可欠である救命救急の適用分野では特に深刻であり、通院による監視とは異なり、測定は命に関わる重要な適用分野にある。
【0006】
非侵襲性の光学モニタの精度を低減させる別の要因は、皮膚の色素沈着である。多くの既存の光学デバイスは、メラニンの濃度が増大するにつれて色白から暗褐色に及ぶ皮膚の色の変動によって伝送光の変動が引き起こされることを考慮しない。メラニンの吸収スペクトルのピークはほぼ500nmであり、波長の増大とともにほぼ直線的に減少する。メラニンは、表皮内に存在する。したがって、暗褐色の皮膚では濃度が非常に高く、メラニンは真皮におけるヘモグロビンの吸収を妨げる可能性がある。それほど褐色でない皮膚でも、メラニンによる吸収がヘモグロビンの吸収に反映されており、したがって吸収スペクトルの形状を使用して推定を行うあらゆるアルゴリズムは、皮膚の色素沈着の影響を補償する必要がある。
【0007】
国際特許出願第WO00/09004号は、SO
2を測定するように適合された光学デバイスについて記載している。このデバイスは、生物組織に光を通し、伝送または反射された出力信号を、受光器を使用して連続して監視することによって動作する。しかし、この従来技術のデバイスに伴う1つの難題は、WO00/09004では、制限された数の波長を使用する結果、検出された信号内で信号対雑音比が不十分になることである。これは、SO
2判定の精度を低減させる。さらに、この制限された波長技法はまた、周囲の蛍光照明などの周囲の干渉を受けやすい。
【0008】
上記の要因の影響を低減させる1つの方法は、SO
2または他の血液パラメータを侵襲的に測定することである。これらの適用分野では、光は通常、カテーテルに取り付けられた、または密閉された光ファイバによって血液中へ誘導される。このとき、血液に対する吸収スペクトルを判定するために測定される光強度は通常、伝送された光ではなく、拡散反射された光である。留置手法の利点は、身体自体を使用して外部光源から測定を分離することである。これらのカテーテルに基づく測定の欠点は、信頼できる標準に対して較正する必要があり、また明らかに身体を貫通する必要があり、したがってその結果、院内感染のリスクを増大させることである。精度を確保するには、コオキシメータ(CO-oximeter)、または較正デバイスなどの特殊な装置を使用する患者の血液の実験室試験を用いなければならない。しかし、追加の臨床化学計器類は高価であり、周知のように維持するのが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願第WO00/09004号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
血液パラメータを監視するために使用される構成が侵襲性であるか、それとも非侵襲性であるかにかかわらず、測定光スペクトル(複数の波長で測定された強度値を含む)を単一の正確な値に変換するとともに、その変換を、リアルタイムで連続して患者を監視する環境において役立つのに十分なほど迅速に行うという問題がやはり存在する。したがって、光学測定技術を使用する血液パラメータモニタの精度および信頼性を改善することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、血液パラメータを分光学的に測定する留置システムを提供することによって、従来技術の問題を克服する。このシステムは、血液へ光を伝送する光源および導波路と、透過光(remitted light)を捕獲する導波路と、透過光をスペクトル成分に分解する分光計と、透過光のうち形態学的に特異な部分と既知の形態のデータベースを比較するプロセッサとを含む。既知の形態はそれぞれ、酸素飽和度などの少なくとも1つのパラメータの測定値に対応する。判定された形態は、2つ以上の血液パラメータに一意的に対応して、オキシヘモグロビン比率(O
2Hb)および総ヘモグロビン(tHb)などの2つのパラメータの同時判定を可能にすることができることが有利である。
【0012】
一実施形態では、本発明は、血液中のパラメータを光学的に測定するシステムを含み、光源、導波路、分光計、およびプロセッサを含む。光源は、広いスペクトルにわたって光を生成するように構成される。光源からの生成された光は、光ファイバ導波路を通って血液中へ誘導される。透過光は、隣接する光ファイバ導波路によって捕獲され、分光計へ誘導される。透過光のスペクトル組成が、分光計によって判定される。プロセッサは、スペクトル組成と既知の形態のデータベースを比較する。既知の形態はそれぞれ、少なくとも1つの血液パラメータに対する既知の値に対応する。
【0013】
別の実施形態では、既知の形態はそれぞれ、少なくとも3つの次元の基準マトリクスによって規定される。さらに、既知の形態はそれぞれ、O
2HbおよびtHbなどの少なくとも2つのパラメータに対する既知の値に対応する。一態様では、マトリクスは、少なくとも61×467×101個の要素からなる3つの次元を有する。マトリクスの第1の次元は、空間波長領域を表す。別の態様では、マトリクスの第2の次元はO
2Hbを表し、第3の次元はtHbを表すことができる。したがってマトリクスは、O
2HbとtHbのそれぞれの適当な組合せに関連して、6161個の一意の曲線要素を含む。
【0014】
別の実施形態では、光源は、白色LED光源など、可視光範囲内の広スペクトル光源である。さらに、光伝送器および光受信器は、光ファイバなどの光導波路である。これらの光ファイバは、血液にアクセスできるように、カテーテルを介して患者の血管構造内へ送達することができる。
【0015】
さらに別の実施形態では、既知の形態は、600nm以下の透過スペクトル(remitted spectra)から、より好ましくは440nm〜540nmの透過スペクトルから導出される。別法または追加として、既知の形態は、715nm〜800nmの透過スペクトルから導出することもできる。
【0016】
別の実施形態では、既知の形態は、O
2Hbに対して1%以下およびtHbに対して0.1g/dL以下の増分スライスで、既知の曲線から補間される。
【0017】
別の実施形態では、戻りスペクトルをフィルタリングおよび平滑化して、信号内に埋め込まれているスプリアス情報を除去する。
【0018】
さらに別の実施形態では、プロセッサは、最小2乗適合を適用して、スペクトル組成のうち形態学的に特異な部分と既知の形態のデータベースを比較するように構成される。さらに、プロセッサは、加重平均を使用して複数の既知の値を平滑化することができる。
【0019】
本発明は、現場での使用中に断続的な較正を必要としないで、定期的な較正の確認における採血の回数および労働集約性を低減させることが有利である。また、製造時に較正カップを設置する必要もない。また、形態学的に特異な曲線を参考にすることによって、O
2HbおよびtHbなどの複数のパラメータまたは検体を同時に測定することができる。
【0020】
本発明の上記その他の特徴および利点は、本発明の好ましい実施形態と代替実施形態の両方について記載する以下の詳細な説明および添付の図面を考慮すれば、当業者にはより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】可視スペクトルの範囲における異なる酸素化レベルの血液に関する異なる光吸収スペクトルの線グラフである。
【
図2】本発明の一実施形態によるシステムの主なハードウェアおよびソフトウェア構成要素のブロック図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による吸収スペクトルを正規化する方法のブロック図である。
【
図4】可視およびNIRスペクトルにおけるオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンによる光の吸収度の線グラフである。
【
図5】本発明の一実施形態によるオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビン状態による可視光の後方散乱伝送の線グラフである。
【
図6】
図5の曲線のうち形態学的に特異な部分を分離した図である。
【
図8】本発明の別の実施形態による形態学的に特異な波長範囲内の様々なHb濃度レベルによる可視光の伝送の線グラフである。
【
図10】本発明の別の実施形態による基準曲線マトリクスの3次元の性質を示す概略図である。
【
図11】本発明の別の実施形態による様々な酸素化レベルのHbによって吸収されるより長い光波長の形態学的に特異な関係の線グラフである。
【
図12】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図13】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図14】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図15】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図16】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図17】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図18】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図19】O
2HbおよびtHbのベンチマーク測定と比較して本発明の一実施形態の性能を示す実験データの線グラフである。
【
図20】本発明の他の実施形態による異なる積分時間を使用する波長約460nm〜530nmの透過スペクトルの線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明について、本発明の特有の実施形態を参照して、以下により詳細に説明する。実際には、本発明は、多くの異なる形で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、これらの実施形態は、本開示が当該法的要件を満たすように提供される。本明細書および添付の特許請求の範囲では、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈上別途明示しない限り、複数の指示対象を含む。本明細書では、「含む、備える(comprising)」という用語およびその変形形態は、「含む(including)」という用語およびその変形形態の同義語として使用され、包括的で非限定的な用語である。
【0023】
本発明による血液検体を測定するシステム、方法、および/またはコンピュータプログラム製品は、一般に、ある波長範囲にわたって血液に照射する光源と、光源からの光を伝送し、かつ受け取る光路と、光のスペクトル成分を分離および測定する分光計(本明細書では広義で使用し、スペクトル成分を測定するあらゆるデバイスを指す)と、その結果得られる吸収、伝送、または反射スペクトルのうち形態学的に特異な部分を判定および使用して、血液検体または他の血液パラメータの有無を判定する処理システムとを含む。
【0024】
酸素化ヘモグロビン(O
2Hb)または総ヘモグロビン(tHb)などのいくつかの血液検体の読取り値は、測定したのと同じ吸収または伝送スペクトルを使用するシステムによって、較正を必要とすることなく、同時に戻すことができることが有利である。たとえば、3次元の基準体積を数組の基準平面から構築することができ、これらの基準平面は、O
2HbとtHbの両方について、スペクトルのうちそれらの2つの検体の組合せに対して特異な曲線形状の変化を呈する領域内で特性化する。次いで、この平面の基準表面と実際の測定値を比較して、O
2HbとtHbを同時に判定する。この概念はまた、吸収および/または伝送スペクトルのうち形態学的に特異な部分がこれらの検体に対応する限り、より大きい次元および/またはより多くもしくは異なる検体の組合せに拡大することもできる。
【0025】
図1は、緑色から赤色の波長範囲における血液による光吸収のいくつかの特性を示す。この議論では、A
x(λ)が、x%の酸素化を有する血液の吸収スペクトルを表し(1つの検体の一例)、A
yが、波長yにおける吸収値を表す。
図1では、3つのスペクトルが示されており、A
0(λ)およびA
100(λ)が、それぞれ完全に脱酸素化された血液および完全に酸素化された血液を表し、A
meas(λ)が、任意の侵襲性または非侵襲性技法を使用して実際の被験者内で測定された吸収スペクトルを表す。すべての患者に対して、尺度は0〜100である。言い換えれば、ある患者に対する実際の検体(SaO
2、tHb、またはO
2Hbなど)値は常に、0%〜100%である。実際の測定吸収スペクトルA
meas(λ)が得られると、次いでそのスペクトルがどの検体値を表すかが問題となる。さらに一実施形態では、本発明は、この原理を使用して、1つだけでなく複数の検体を判定することも含む。
【0026】
一実施形態では、本発明は通常、
図2に示すように、カテーテル110または指カフ200に接続されたモニタ300を含み、カテーテル110または指カフ200は、動脈、静脈、または他の組織内の患者の血液へ光を送達し、透過光をモニタへ戻す。モニタは、血液中の様々な検体の組成を判定するための処理を行い、これらの検体は、表示モニタ500上に表示される。とりわけ、本発明はまた、むしろ卓上の環境内で組成を判定するために使用することができ、血液のサンプルを患者から採取し、モニタ300によってそのスペクトル特性を判定して処理する。
【0027】
血液の光伝送または反射を感知する異なる方法およびデバイスの感度または精度において、いくつかの利点を得ることができるが、本発明の実施形態は、侵襲性および/または非侵襲性の測定を含むことができる。光は直接的かつ侵襲的に血液へ導かれ、たとえば、
図2に示すように、カテーテル110上または内に取り付けられた1つまたは複数の光ファイバ111を通って、結合器またはレンズ100(単に伝送ファイバの端部とすることができる)へ導かれる。この例では、カテーテル110は、患者の付属肢130内で血流を有する血管または他の内腔120内に位置する。
【0028】
または代替例では、測定は、2又の溶融石英ファイバなどの1つまたは複数の光ファイバ211を通って運び、次いで指カフ200または皮膚に近接する他のデバイスを使用して、患者の指230または身体の他の部分の皮膚に対して誘導することによって、間接的かつ非侵襲的に行うことができる。この例では、血管220内の血液は、カテーテル110のように直接的ではなく、介在する皮膚を通じて測定されている。これらの非侵襲性デバイスは、様々な身体の位置で皮膚に対して配置することができるが、指または耳たぶなど、皮膚の下の血流が目立つ位置に置くことが好ましい。
【0029】
専用の光ファイバ112、212を使用して、透過光を捕獲して再びモニタ300へ運ぶことができ、または伝送ファイバ111、211が、追加の光学素子を用いて2重モードで透過光を運ぶこともできる。
【0030】
光測定の光源にかかわらず、ハードウェアとソフトウェアの組合せを使用して透過光を分解および処理して、所望の検体組成を判定する。たとえば、
図2は、本発明の一実施形態によるモニタ300のハードウェアおよびソフトウェア構成要素を示し、これらの構成要素には、光源301、検出器302、調節器304、演算モジュール310、プロセッサ340、メモリ345、およびシステムソフトウェア350が含まれる。
【0031】
システムハードウェアは、モニタ300内の様々なハードウェアデバイスを調整および制御し、ならびに後述する異なるソフトウェアモジュールを実施するプロセッサ実行可能コードを実行するために、1つまたは複数のプロセッサ340、システムメモリ345、およびシステムソフトウェア(オペレーティングシステムなど)を含むことができる。従来のコンピュータの他のハードウェアおよびソフトウェア構成要素を、必要に応じてモニタ300内に含むこともできる。
【0032】
光源301は、可視スペクトル内で広帯域であり、少なくとも400〜600nmの範囲内に位置する等吸収の波長を含む波長範囲にわたって、十分な識別能および測定分解能を実現するのに十分なスペクトルエネルギーを有することが好ましい。白色光は、定義により、400〜600nmの範囲の可視スペクトル内で均一のスペクトルエネルギーを有する。白熱、蛍光、キセノン、重水素、およびタングステンハロゲンの電球を使用して、白色光に近似させることもできる。しかし通常、白色光LEDを使用することによって、より低いコストでより大きい熱安定性およびより長い寿命を得ることができ、その理由のため、これらの固体デバイスが好ましい。
【0033】
またLEDには、本発明の実施形態における使用にとって他の利点もある。半導体として、LEDは、大量生産に適応することができる。LEDは、紫外(UV)光を生成しない(高強度のUVへの長時間の露出は、組織の問題(すなわち、日焼け)を生じさせる可能性がある)。赤外(IR)光の伝送は最小であり、これは熱安定性の改善に寄与する。さらに、前述のようにUV光がない結果、LEDによって放出されるすべての光パワーを当該波長範囲内で使用することができ、さらに、望ましくないスペクトル内容を除去するために光学フィルタにかける必要がない。LEDは、オンとオフを急速に切り換えることができ、したがって基準測定を可能にするように交互配置することができる。
【0034】
しかし、多くの従来のLEDに伴う1つの問題は、カプセル剤が時間とともに黄ばみ、より長い波長へ変化することである。しかし、いくつかのより新しいLEDは、カプセル剤としてシリコーンゲルを使用する。これらのLEDは通常、通常は80000動作時間を超過する一際長い正常な寿命にわたって、本来の伝送スペクトルをより良好に保持する。
【0035】
様々なタイプの光検出器302を使用して、血液の吸収スペクトルを測定することができる。たとえば、光検出器は、受光器(CMOS)のアレイを使用することができ、各CMOSは、分光計内に位置決めされ、光源301内のLEDから伝送されるそれぞれの波長に合わせて調整される。別の光検出器は、上記のCMOSデバイスと同様に位置決めされた電荷結合デバイス(CCD)のアレイである。しかし上記のように、好ましい光源は、広帯域の白色(または近白色)光源である。これにより、別個のLED色に対して別個の光伝送ファイバ(波長ごと)を備える必要がなくなり、また当該波長領域にわたって十分なスペクトルエネルギーを提供する。また、多重LED構成に関連する多数の部品、いくつかの光源の経時変色の管理、および複数の光源に対応するように負荷を平衡させる電子機器が不要になる。本発明の好ましい実施形態では、検出器302は、様々な光学および光電子構成要素を使用して、測定スペクトルを生成する分光計である。光検出器302によって捕獲された透過スペクトルの信号品質は、強度レベルまたは露出時間を変更することによって改善することができる。
【0036】
別の実施形態では、
図20に示すように、長い積分時間を有する感度がより低いCMOSベースの分光計を使用して、透過スペクトルを取得することもできる。積分時間をより長くすることで、スペクトル形状を分解するための信号振幅を改善することができる。いくつかの例では、積分時間をより短くすることで、形状を強化することもできる。しかし、雑音は固定の強度であり、したがって低い強度で形状が小さい場合、雑音の量は部分ごとにより大きくなる。積分時間が長い信号は、同じ雑音強度を有するが、その信号と比較すると部分的な量は比較的小さい。
【0037】
検出器302からの信号は、デジタル処理する前に周知の回路304を使用して調整することができる。通常、そのような調整には、様々な形のフィルタリング、スケーリング、アナログデジタル変換などが含まれる。調整の結果、調整済み吸収スペクトルA
cond(λ)または調整済み後方散乱伝送T
cond(λ)が得られる。
【0038】
上記のように、光源301のスペクトルは完全な白色ではなく、色相を有することがある。これは、検体計算の精度に影響を与える。測定スペクトル内の「ディップ(dip)」は、たとえば血液吸収ではなく、伝送光内で強度がより低いスペクトル領域に関係する可能性がある。異なる方法を使用して、光源内の純粋な「白さ」からのこの偏差を補償し、測定吸収スペクトルA
meas(λ)を判定することができる。
【0039】
1つのホワイトバランス方法によれば、ホワイトバランスソフトウェアモジュール312がA
meas(λ)を、式
【0041】
に従って計算する。上式で、Dは各波長λにおける暗色基準強度であり、Rは各波長λにおける白色基準強度である。
【0042】
T
meas(λ)もまた、等式
T
meas(λ)=f(R(λ)-R
t(λ))
*T
cond(λ)
によってホワイトバランスを調整することができる。上式で、R(λ)は、LEDの工場設置時に判定されたLEDの白色基準スペクトルである。R
t(λ)は、定期的な光学モジュール保守間隔時に判定されたLEDの白色基準スペクトルである。
【0043】
白色および暗色基準スペクトルは、様々な技法を使用して判定することができる。たとえば、一実施形態では、測定を行う前に、光センサ(100、200)を標準的な白色反射表面に露出させることで、白色基準スペクトルが得られる。次いで、光センサからすべての励起光を除外することによって、暗色基準スペクトルも得られる。
【0044】
本発明の別の実施形態による代替のホワイトバランス方法は、現在の長寿命LEDの周知のスペクトル安定性を利用する。1つまたは複数のそのようなLED、具体的にはシリコーンのカプセル化を伴うLEDが光源として得られると、最初の特性化ステップで、光源のスペクトルを一度測定することができる。この特性化(後述のように正規化後)のパラメータは、EPROMチップなどの不揮発性媒体320内に記憶することができる。このチップ、または少なくともパラメータは、たとえばLED製造業者によって工場特性化として、一度生成または判定することができ、したがってこれらのパラメータをLEDとともに記憶することができ、後に使用する際に呼び出すことができる。このとき、さらなる白色測定は一切必要ない。次いで、A
cond(λ)の値を任意の周知のバランスアルゴリズムに従って調整し、白色光LEDのスペクトルの変動を相殺し、したがってA
meas(λ)を形成することができる。
【0045】
本発明の別の実施形態は、現場での計器補修中のある時点で白色LED発光スペクトルを調査するホワイトバランス方法を含む。前述の実施形態で説明したように、白色LEDスペクトルは、光学モジュールの最終組立て中に捕獲および記憶され、メモリ内に記憶される。しかし、避けられない製造による不一致のため、経時処理および後の色相の変化を予測することはできない。したがって、時間とともにホワイトバランスを調整する最も確実な方法は、測定を行い、工場設置時のLEDスペクトルと特定の使用期間後のLEDスペクトルとの間の変化に基づいて、適当に後方散乱伝送スペクトルを調整することである。別の実施形態では、光源301と検出器302はファイバ111および112を使用して直接結合され、ファイバ111および112間には光減衰器が位置する。
【0046】
いくつかの波長(等吸収波長)では、ヘモグロビンの光吸収が酸素化の程度に依存しない。
図1では、5つのそのような等吸収波長が見られ、そのうち2つは波長522.7nmおよび586.0nmであり、それぞれA
523およびA
586と標示する。他の等吸収波長は、505.9、522、548.6、および569.7nmである。これらの標準的な値は通常、丸められており、文献によっては、使用される試験方法に応じてわずかに異なる形で報告されている。
【0047】
最後に、正規化された測定伝送または吸収スペクトルは、適合ソフトウェアモジュール315内で、さらに詳細に後述する複数の基準吸収スペクトル330(メモリ領域または不揮発性記憶デバイス内に数値の形で記憶される)と比較され、次いで表示デバイス500上に表示することができる。
【0048】
本発明の一実施形態による適合ソフトウェアモジュール315は、信号処理アルゴリズムを戻りスペクトルの多色光成分に適用し、その戻りスペクトルと基準スペクトルモジュール330を比較することによって、戻りスペクトルをO
2HbおよびtHbなどの2つ以上のパラメータに同時に変換するように構成される。
【0049】
本発明の一実施形態では、基準スペクトルモジュール330は、O
2HbおよびtHbパラメータのそれぞれの組合せに一意の複数の形態学的に特異な曲線を有する。上記の血液酸素化と同様に、機能性ヘモグロビンは、
図4に示すように、酸素化および脱酸素化状態に対応する可視および近赤外(NIR)光に対して2つの特異な吸収スペクトルを有する。吸収は、光源301によって血液に放射された広いスペクトル光からどれだけのエネルギーが「損失」したかを示す。実線は、100%付近で完全に飽和したHbに対応し、点線は、0%付近で完全に不飽和のHbに対応する。したがって、650nm〜700nm付近の赤色光は、完全に飽和したHbによってほとんど吸収されておらず、600nm以下の波長のエネルギーの大部分は、多量に吸収されている。この証拠に、完全に飽和したHbを有する完全に酸素化された血液は、全体的により明るい赤色である。一方、脱酸素化された静脈血の不飽和のHbは、より長い波長全体にわたってさらに多くのスペクトルを吸収し、より暗い赤色を有する。
【0050】
図5に示すように、このグラフは、白色LEDを使用して血液によって伝送される(吸収はされない)光の量を示すため、後方散乱した伝送スペクトルも、異なる形式ではあるが類似の情報を提供する。
図5では、送達された白色LED光からの伝送スペクトルは、20%の間隔で30%〜90%の酸素化値に対応する。測定は、高出力の白色LED光源を有するUSB4000分光計(Ocean Optics、Dunedin、FL)を使用して行われた。予期どおり
図4とは逆に、600nm〜700nmの赤色光は大部分が伝送性を有し、血液が概ね赤色であることを証明している。90%の酸素化では、隣接する波長と比較すると赤色光は非常に伝送性が高く、動脈血が明るい赤色であることを証明している。30%の静脈血は、隣接する色に比べてさらに高い伝送性を有し、より暗い赤色であることを証明している。
【0051】
スペクトル戻り信号の強度は、曲線の赤色領域では非常に高いが、600nmを上回る波長は、一部のタイプの血液パラメータ測定では形態学的にそれほど特異ではない。すなわち、それらの形状は、垂直方向の振幅および波長を除いて類似している。この特性の利点は、これらの範囲の振幅を容易に測定して酸素化測定に相関させることができることである。しかし、本発明の実施形態とは異なり、標本化されている血液の酸素化に振幅を結び付けるには、酸素化のための何らかの基線較正を確立する必要がある。
【0052】
逆に、
図6に示すように、600nm以下のスペクトル伝送曲線の波長がより短いことは、形態学的により特異である。この特異性を定量化し、次にこれを検体の特有の濃度に相関させるために、最小2乗手法を使用することができる。各透過スペクトルに対して、ライブラリ/データベース内の予期のスペクトルと現在の透過スペクトルとの間で比較が行われる。最小2乗手法から生じる誤差、または残余を演算することができ、それによって曲線間の幾何学的な相違性の量を特性化する。
【0053】
別法として、2つの状態間の幾何学的な相違性を定量化するのではなく、3つ以上の検体の存在を3つの別個のスペクトルの直線的な組合せで推定することによって、誤差関数を3つ以上の検体に拡張することも可能である。
S(λ)=A
1x
1(λ)+A
2x
2(λ)+A
3x
3(λ)+...+A
nx
n(λ)
上式で、Sは透過スペクトルであり、x
nは検体のスペクトル署名であり、A
nは検体の濃度である。
【0054】
図6は、
図5に示すグラフから600nm未満の範囲をスケーリングしたものを示す。上記の等吸収点を使用することなどによって、スケーリング、フィルタリング、および他の信号処理技法を行うことで、O
2HbおよびtHbなどの所望の検体パラメータに対応する曲線の形態のより正確な検出および差別化が可能になる。これにより、600nmより大きい範囲または750nmより長い範囲から離れると強い信号が失われるという欠点の一部を克服する。形態学的な特徴の抽出を改善する他の方法は、調和分析または相関分析で一般に見られる手法を使用してスペクトルを変換することである。これらの方法では、情報の量を増大させるのではなく、より容易に解釈される他の形式で情報を再構成する。変換には、それだけに限定されるものではないが、フーリエ変換、ウェーブレット変換、非直線性分析、統計学的な高次モーメント(歪度、尖度など)が含まれる。
【0055】
本発明の一実施形態では、実験的に判定される既知の形態学的に特異な曲線間の線形2次補間または他の近似手段によって、曲線族が生成される。たとえば、
図7は、
図6の曲線の30%、50%、70%、および90%のO
2Hbレベルにおける4つの実験的に判定された曲線間の線形補間を、1%のO
2Hbの増分で示す。この結果、
図7に対して61本の曲線が生成される。これらの曲線は、試験チャンバに血液を流し、個別のサンプルを採取するIL682 CO-oximeter(Instrumentation Laboratory、Bedford、MA)を使用して、流れている血液の状態を評価することによって判定された。この曲線族の分解能は、補間に対する増分を低減させることによって改善することもできる。
【0056】
本発明の別の実施形態は、前述の処理を他の検体に対する追加の次元に拡大すること含む。透過スペクトルの形態学的に特異な領域の十分な重複が存在するとき、2つ以上の検体(または他の血液パラメータ)を同時に測定できることが有利である。たとえば、上述のO
2Hb曲線の600nm未満の範囲はまた、総ヘモグロビン濃度(tHb)の変動に対して形態学的な特異性を呈する。これは、それぞれの個々の赤血球を包んでいる溶液中のリン脂質散乱体の全体量が増大したことに起因する可能性が高い。これらの血液濃度の変化は、全体的な吸収度および散乱特性を変化させ、続いて透過スペクトルを変化させる。本発明の選択された実施形態によって測定できる他の関連する検体には、カルボキシヘモグロビン(COHb)およびメトヘモグロビン(MetHb)が含まれる。
【0057】
図8は、5g/dL、7g/dL、10g/dL、および15g/dLの間の50%のO
2Hb曲線の形態学的な変化を示す。
図7と同様に、実験的に判定される濃度間で、0.1g/dLの増分でこの曲線を補間して、
図9に示す曲線を得ることができる。
図9は、600nm未満の領域内の透過スペクトル範囲に対する2つの検体(O
2HbおよびtHb)の形態をマッピングする3次元曲線の1つの「スライス」にすぎない。
【0058】
言い換えれば、酸素測定の方向およびヘモグロビンの方向における補間によって、完全な1組の曲線を生成して3次元マトリクスを得ることができ、この3次元マトリクスは、5g/dL〜15g/dLのtHbで30%〜90%のO
2Hbレベル(図示の実施形態)から組み合わせた各O
2Hb/tHb測定に一意の形態学的に特異な曲線を特性化する。O
2Hbに対して1%およびtHbに対して0.1g/dLの段階的な補間によって、6161本の一意の曲線が得られる。好ましい実施形態では、これらの曲線のそれぞれを440nm〜540nmの467個の点によって特性化し、
図10によって概念的に示すように、61×467×101の次元を有する基準マトリクスSを生成する。このマトリクスを使用して、たとえば本発明の一実施形態による
図2の基準スペクトルモジュール330に値を入れる。
【0059】
さらに、特異な形態は、前述の実施形態による600nm未満または青色-緑色の440nm〜540nmの透過スペクトル範囲に限定されないことに留意されたい。たとえば、
図11に示すように、別の実施形態は、730nmおよび796nmなどのより長い波長範囲を含み、デオキシヘモグロビンおよびオキシヘモグロビンも形態学的に特異である。これらの領域は、透過スペクトルがパラメータ測定の既知の組合せに相関するのに十分なほど形態学的に特異である限り、それぞれ基準スペクトルマトリクスに少なくとも1つの次元の追加を伴う2つ、3つ、またはそれ以上のパラメータに拡大することができる。また、壁のアーティファクトによって引き起こされる誤差など、同じパラメータの誤差検出を強化するために、他の波長範囲を並行して評価することもできる。誤差は、この「立方体」のマトリクスを、より高次元のn次元誤差空間にすることによって低減されるはずである。
【0060】
「特徴」または「示性数」として説明することもできる「特異性」の一部の他の特性は、既知の血液パラメータのライブラリまたはデータベースの構築、およびこれらのライブラリまたはデータベースに対する後の相関に用いることができる。一例は、曲線より下の面積から判定できる波長範囲のパワーである。別の例は、波長範囲の直線性である。たとえば、
図7の90%の曲線を参照されたい。この曲線を直線と比較して、その偏差を定量化することができる。このスペクトルの部分間の面積の比を判定することなどによって、波長範囲間の相対パワーを用いることもできる。さらに、これらの特徴のそれぞれを、上記の誤差適合手法と組み合わせて、結果を改善することもできる。
【0061】
本発明の別の実施形態では、適合モジュール315は、検出器302から調節器304を通過し、4ミリ秒〜数百ミリ秒などの所与の期間にわたって取得される入射スペクトルを処理するように構成される。長さにかかわらず、この戻りスペクトルは、ベクトルrとして特性化することができる。
r=[r1 r2 r3...rn]、ただしこの実施形態では、nは1、2、3、...467である。
基準スペクトルマトリクスの行はiであり、列はjであり、層はkである。したがって、取得される各透過スペクトルに対する2次元誤差関数は、
【0063】
によって規定される。誤差平面の座標i、kで誤差マトリクスの最も小さい値は、この特定の点における対応するO
2Hb、tHb曲線に関連付けられる。したがって、最小誤差曲線は、この座標対に対する最良適合であり、O
2HbおよびtHbの最尤推定値である。
【0064】
tHb測定の場合、適合モジュール315(または別法もしくは組合せとして、調整モジュール304)は、以下の等式を使用することなどによって、移動加重平均を実行し、最小2乗適合によって得られる測定を平滑化するように構成される。
tHb
reported(i)=(.1)tHb
calculated(i)+(.9)tHb
reported(i-1)
上式で、iは現在の測定であり、i-1は1つ前の測定である。加重平均は、他の波長範囲にわたって用いることもでき、したがって1つの範囲における測定の失敗は、必ずしも全体的なパラメータの読取りにおいて著しい誤差を引き起こすわけではない。
【0065】
適合モジュール315に対する前述の方法は、最小2乗方法である。しかし、他の方法も可能であり、基準スペクトルモジュール330に対するデータとして用いられる曲線の形態に基づいて使用することができる。また、多変量分析または主成分分析を使用して、異なる波長範囲に関連する信号忠実度および後のデータ出力を比較することもできる。
【0066】
さらなる改善として、本発明の実施形態は、演算のオーバーヘッドの低減に対処することもできる。演算の必要を低減させるために、アルゴリズムにより、検体濃度などの血液パラメータを判定するための波長の数をより少なくすることができる。データベースまたはライブラリが十分な密度を有する場合、アルゴリズムは、より少数の波長を使用して測定値を区別するように調整することができる。
【0067】
光源301は白色光を生成することが好ましいが、たとえば単波長のLEDのアレイから個別の波長の光を伝送する実施形態では、透過スペクトルの妥当な表現のコンパイルを可能にするのに十分な波長が含まれる限り、基準スペクトル330に対する透過吸収スペクトルの費用関数を評価することによって、酸素化値を演算する方法を使用することもできる。この方法はまた、低い信号レベルにおいて、波長の少なくとも2つが等吸収であり、したがってスペクトル正規化手順で使用できる場合も有用である。
【0068】
図2に示す透過スペクトル光を使用して1つまたは複数の血液パラメータを判定する方法および装置は、コンピュータプログラム製品によって実施することができる。コンピュータプログラム製品には、不揮発性記憶媒体などのコンピュータ可読記憶媒体、およびコンピュータ可読記憶媒体内で実施される1連のコンピュータ命令などのコンピュータ可読プログラムコード部分が含まれる。通常、コンピュータプログラムは、メモリ345などの記憶装置内に記憶され、プロセッサ340などの関連する処理要素によって実行される。
【0069】
これに関して、
図2は、本発明の例示的な実施形態による方法、装置、およびプログラム製品の流れ図である。流れ図の各ステップ、および流れ図内のステップの組合せは、コンピュータプログラム命令によって実施できることが理解されるであろう。これらのコンピュータプログラム命令をコンピュータまたは他のプログラム可能装置上へロードして機械を作ることができ、したがってコンピュータまたは他のプログラム可能装置上で動作する命令により、流れ図ステップ内で指定した機能を実施する手段が得られる。これらのコンピュータプログラム命令はまた、特定の形で機能するようにコンピュータまたは他のプログラム可能装置に指示できるコンピュータ可読メモリ内に記憶することができ、したがってコンピュータ可読メモリ内に記憶された命令により、流れ図ステップ内で指定した機能を実施する命令手段を含む製造品が得られる。また、コンピュータプログラム命令をコンピュータまたは他のプログラム可能装置上へロードして、コンピュータまたは他のプログラム可能装置上で1連の動作ステップを実行し、コンピュータ実施処理を得ることができ、したがってコンピュータまたは他のプログラム可能装置上で動作する命令は、流れ図ステップ内で指定した機能を実施するステップを提供する。
【0070】
したがって、流れ図のステップは、指定の機能を実行する手段の組合せ、指定の機能を実行するステップの組合せ、および指定の機能を実行するプログラム命令手段に対応する。流れ図の各ステップ、および流れ図内のステップの組合せは、指定の機能もしくはステップを実行する特殊目的のハードウェアベースのコンピュータシステム、または特殊目的ハードウェアとコンピュータ命令の組合せによって実施できることも理解されたい。
【0071】
実験
本発明について、様々な例を具体的に参照することによって次に説明する。以下の例は、本発明を限定しようとするものではなく、例示的な実施形態として提供される。
図12〜19は、O
2HbとtHbの両方の同時測定に関して
図10に開示する実施形態の認証研究の結果を示す。認証には、調整データを得るために使用したものと同じCO-Oximeter(IL682)を使用した。
図12〜19上の点は、CO-Oximeterの結果であり、線は、基準曲線に対して遡及的に評価されたO
2HbまたはtHbに対するアルゴリズム出力である。とりわけ、これらの曲線は、CO-Oximeterによって測定された値の良好な近似である。
【0072】
本発明は、現場での使用中に断続的な較正を必要としないで、医療従事者の労力および採血を低減させることが有利である。また、製造時に較正デバイスを設置する必要もない。また、形態学的に特異な曲線を参考にすることによって、O
2HbおよびtHbなどの複数のパラメータまたは検体を同時に測定することができる。
【0073】
本明細書に記載の本発明の多くの修正形態および他の実施形態は、上記の説明に示す教示の利益を有する本発明に関する分野の当業者には想到されるであろう。たとえば、任意の特定のパラメータ測定で壁のアーティファクトの影響を低減させるために、他の波長範囲を並行して相関させることもできる。また、440nm〜540nmの範囲をより大きい範囲に拡大して、基準曲線の形態学的な特異性を強化することもできる。
【0074】
したがって、本発明は、開示の特有の実施形態に限定されるものではなく、修正形態および他の実施形態も添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれることを理解されたい。本明細書では特有の用語を用いたが、これらの用語は、限定的な目的ではなく、一般的かつ説明的な意味でのみ使用される。
【符号の説明】
【0075】
100 結合器、レンズ、光センサ
110 カテーテル
111 光ファイバ、伝送ファイバ
112 光ファイバ
120 血管、内腔
130 付属肢
200 指カフ、光センサ
211 光ファイバ、伝送ファイバ
212 光ファイバ
220 血管
230 指
300 モニタ
301 光源
302 光検出器
304 調節器、回路、調整モジュール
310 演算モジュール
312 ホワイトバランスソフトウェアモジュール
315 適合ソフトウェアモジュール
320 不揮発性媒体
330 基準吸収スペクトル、基準スペクトルモジュール
340 プロセッサ
345 システムメモリ
350 システムソフトウェア
500 表示モニタ、表示デバイス