(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019118
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】吸入に適した酸化型アビジンの医薬品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20161020BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20161020BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20161020BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20161020BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20161020BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20161020BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20161020BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20161020BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20161020BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20161020BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20161020BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20161020BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
A61K37/02ZMD
A61K45/00
A61P11/00
A61P11/06
A61P35/00
A61P29/00
A61K39/395 N
A61K37/66 G
A61K43/00
A61K9/72
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/34
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-523289(P2014-523289)
(86)(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公表番号】特表2014-521675(P2014-521675A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】EP2012064576
(87)【国際公開番号】WO2013017494
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年7月8日
(31)【優先権主張番号】11006338.5
(32)【優先日】2011年8月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591043248
【氏名又は名称】シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】リタ・デ・サンティス
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−535166(JP,A)
【文献】
特表2011−516443(JP,A)
【文献】
特表2001−513081(JP,A)
【文献】
特表2002−541213(JP,A)
【文献】
特表2009−526018(JP,A)
【文献】
特表2008−524195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00−9/72
A61K 38/00−38/58
A61K 47/00−47/48
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入による肺前処置剤として使用される、酸化型アビジンを含む医薬組成物であって、吸入ステップの後にビオチン化治療剤を投与する、医薬組成物。
【請求項2】
肺の全体を前処置するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ビオチン化治療剤が、放射性医薬品、モノクローナル抗体、サイトカイン、ケモカイン、酵素、化学療法剤、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターおよび細胞から成る群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体は、抗EGFR、抗CEA、抗MUC1、抗EpCAM、抗cMET、抗CTL4、抗IL−17、抗IL−23、抗IL−6、抗IL−1、抗TNF、および抗Tweakモノクローナル抗体から成る群から選択されるモノクローナル抗体のビオチン化誘導体である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ビオチン化サイトカインは、TNF、Tweak、TRAIL、γインターフェロン、G−CSF、GM−CSF、IL−2、およびIL−12から成る群から選択されるサイトカインのビオチン化付加物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ビオチン化ケモカインがCXCおよびCCケモカインファミリーから成る群から選択されるケモカインのビオチン化付加物である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ビオチン化酵素が、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子タンパク質である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ビオチン化放射性医薬品が52Fe,52mMn,55Co,64Cu,67Cu,67Ga,68Ga,99mTc,111In,123I,125I,131I,32P,47Sc,90Y,109Pd,111Ag,149Pm,186Re,188Re,211At,212Pb,212Biおよび177Luを含む群から選択される放射性同位体で標識されたビオチン−DOTAである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
a)酸性pHの無菌緩衝液と、
任意で
b)マンニトール、グリセロール、グルコース、ラクトース、トレハロース、スクロース、プロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびイソプロパノールを含む群から選択される非イオン性物質と、
を含む、吸入するための、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項10】
凍結乾燥された、請求項9に記載の吸入するための医薬組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項12】
請求項9に記載の医薬組成物とネブライザーとを含むキット。
【請求項13】
COPD、喘息、肺胞隔炎、および嚢胞性線維症ならびにα−1−アンチトリプシン欠乏症を含む群から選択される肺癌疾患、肺炎症疾患の治療に使用される、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の発明は、吸入により使用される酸化型アビジンまたはビオチン化治療剤/酸化型アビジン複合体の新しい医薬製剤に関する。さらに本発明は、手術不可能な疾患および/またはびまん性疾患に罹患している哺乳動物の肺を前処置し、この肺を標的とするビオチン化治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧された治療剤の吸入は、喘息または肺感染症および他の呼吸器疾患等の肺疾患の治療によく利用される薬物送達方法となっている。このような投与法は通常治療を一日あたり数回繰り返す必要があるが、罹患している疾病または疾病それ自体の重症度によって決まる患者の健康状態に必ずしも適合しているとは限らない。また、治療剤を頻繁に吸入することは、大きな致死的ストレスとなる。β2アゴニストの継続的な噴霧治療は、重い喘息に苦しむ患者には有用な代替療法であることがわかっている(Raabe O.G.ら,Ann.Allergy Asthma Immunol.,1998,80,499)。このような場合であっても、治療には長い時間がかかり、患者の生活を不快なものとしてしまう。
【0003】
肺癌や嚢胞性線維症などの重篤な肺疾患の大半は、未だ、不幸にも重篤な副作用を伴う全身治療により治療される。
【0004】
肺の生体構造および生理機能は、肺を保護するため、外来の噴霧物質を処理して排除するようになっている。被験者に治療剤を吸入させて治療剤に曝露した場合、治療剤は素早く除去されるため悪影響を与えることになり、吸入療法の利点を限定してしまうことは良く知られている。
【0005】
さらに、外部からの攻撃を受けた肺の解毒を目的とした酵素が肺の中に存在していることが良く知られている。肺の中で重要な役目を果たすもののうちのいくつかはタンパク質のスーパーファミリー(すなわちAKR)に属している。AKRおよび短鎖脱水素酵素/還元酵素(すなわちSDR)は生体異物のカルボニル基が関わる酸化還元反応を触媒する主要な酵素である。SDRスーパーファミリーの中で、カルボニル還元酵素(すなわちCBR)は、カルボニル基含有生体異物に対して広基質特異性を示す(Matsunaga T.ら,Drug Metab.Pharmacokinet.,2006,21,1,1)。
【0006】
エアロゾルによる化学療法剤の局所送達の試みでは、全身性投与と比較して毒性が減少することが、肺癌の前臨床モデルにおいて最近報告されている(Fulzele,S.V.ら,J.Pharm.Pharmacol.,2006,58,3,327)。
【0007】
テモゾロミドを吸入するための乾燥粉末製剤が最近報告されている。テモゾロミドには、投薬量の51%を放出可能とする微粉化と(Wauthoz N.ら、Pharm.Res.,2011,28,762),水溶性のテモゾロミド懸濁液を安定させる界面活性物質として、生体適合性および生分解性のリン脂質が必要であった(Wauthoz N.ら,Eur.J.Pharm.Sci.,2010,39,402)。
【0008】
肺癌患者におけるエアロゾル化した徐放性脂質吸入標的化(SLIT)シスプラチンの安全度および薬動学を研究するため、シスプラチンに関連した第一相試験が行われ、有望な結果が得られた。しかしながら、この試験では極めて多くの副作用(すなわち吐気、嘔吐症状、呼吸困難、疲労および嗄声)が出現した(Wittgen B.P.H.ら,Clin.CancerRes.,2007,13,2414)。
【0009】
イヌへの5−フルオロウラシルの噴霧では、薬剤が、主に気管へは非常に高い濃度で到達でき、気管支および食道では濃度は下がったものの効果は見られ、気管支レベルのリンパ節では濃度が低下した(すなわち気管に到達した際の濃度の50分の1)(Tatsumura T.ら,Br.J.Cancer,1993,68,1146)。
【0010】
それでもなお、これらエアロゾル化させた小型化学薬剤の血中への拡散は、これらの分子の肺での半減期が短いために必要となる連続投与の問題と併せて、いまだ重要な課題である。
【0011】
エアロゾル遺伝子送達は、肺疾患の標的療法において長期にわたって探究されている別の利用である。嚢胞性線維症遺伝子がクローン化された後、エアロゾルによる肺表面へ遺伝子を非侵襲的に送達することに多数の関心が集まった。このアプローチは、手術不可能な肺癌に適用できる可能性もあり、最も初期の試みでは、非ウイルス性ベクター、次には陽イオン性脂質および他の製剤添加剤の利用が注目された(Densmore C.L.ら,J.GeneMed.,1999,1,.4,251;Densmore C.L.ら,Mol.Ther.,2000,1,2,180)。しかし噴霧により効力が失われ、遺伝子ベクターの発現が不十分で、エアロゾル化したタンパク質治療薬の肺への取り込みおよび滞留が非効率的であったため、治療効果は芳しくなかった(Schwarz,L.A.ら,Hum.GeneTher.,1996,7,731)。したがって、タンパク質を含む生物学的に活性な誘導体をエアロゾルによって肺へ送達することに対する関心は、近年薄らいでいた
【0012】
治療用タンパク質の吸入が肺の標的療法に対して魅力的な解決法として要求されているならば、タンパク質を噴霧する製剤は検証し続ける価値がある。実際、エアロゾル化した物質を肺に深く浸透させるために、添加剤および粒度(すなわち3μm)の選択に慎重にならざるを得ない製剤は、慎重に調節されなければならない(Choi W.S.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.,98,20,11103)。また、タンパク質の四次構造だけでなく二次、三次構造も噴霧過程で変質させられ得る。この欠陥を克服するために、Arakawa T.らは、噴霧に先立って前記構造上のコンホメーションを維持するためのポリエチレングリコールおよび/または界面活性物質の利用を開示した(国際公開第199503034号)。
【0013】
肺を標的とするエアロゾル投与用に設計され、種々の抗癌剤に封入できる様々なグラフト化ナノ粒子も後に報告されているが、炎症が発生するという欠点が報告された(Dailey L.A.ら,Taxical.Appl.Pharmacol.,2006,215,1,100)。
【0014】
吸入用の高分子ベースのナノ粒子送達システムが最近開示された(国際公開第2009121631号)、同文献では粒子はマウスの気管内への注入により投与されている。
【0015】
Borlak J.らは、
高分子ベースのナノ粒子と、
マレイミドベースの分子リンカーと、
抗体等の標的化剤と、
低分子量化合物またはタンパク質(リンカーに共有結合的するのが好ましい)、
薬剤と、
から成る改良された肺への薬物送達システムを記載した(欧州特許第2106806号)。
【0016】
このようなナノ粒子の平均サイズは、150〜180nmである。発明者らによれば、このような送達システムは粒子の高分子基質に非共有結合的に固定する親油性の部分、および標的化剤を結合できるマレイミド化合物を含む第二の部分を有する分子リンカーを利用する。また、発明者らによれば、標的化剤はアビジン−ビオチンのような結合性対のメンバーでありえる。しかしながら、アビジン−ビオチンを含む特定の実施形態は、この文献では実現可能な方法で記載されていない。
【0017】
エタノールベースの製剤は酵素等の生物活性を有するタンパク質の噴霧に適切であると過去に報告されている(Choi W.S.ら,Proc.Noti.Acad.Sci.,2001,98,20,11103)。しかしながら、長期間の吸入により炎症性の副作用が誘発される得るため、吸入されたエタノールへの曝露は極めて短くなる(すなわち10分)となることが開示されている。
【0018】
したがって上記で示唆したように、噴霧には、面積の大きな空気−水界面の形成に関連した固有の物理的ストレスがあるが、これにより多数のタンパク質の構造が不安定化し得る。
【0019】
胸膜経路による[
111In]−アビジンおよび[
99mTc]−ビオチン−リポソームの投与が開示されており、腹腔内経路よりも肺縦隔リンパ節を標的とするのによりよい経路であることがわかっている(Medina L.A.ら,Nucl.Med.Biol.,2004,31,1,41)。しかしながら、胸膜腔への注入は侵襲的手法を意味し、肺組織で均一に分布させるのには適していない。実際、Medinaの研究の意図は縦隔リンパ節を標的にすることであった。さらに、薬物動態および薬力学的な特徴を向上させるためにリポソームで放射能標識されたビオチンを調剤する必要があった。
【0020】
したがって、
経口投与(例えば薬物透過性問題、初回通過効果);および/または、
有害な副作用および/または排除量が多いという問題を解決できない場合、過酷な治療に繋がる恐れのある他の全身的な薬物送達ルート;および/または、
その投与経路および/または代謝プロセスによる治療の不安定さ;および/または、
治療剤の毎日複数回の投与、
に関連したボトルネックを回避するため、罹患肺に有効量の治療剤を直接送達する特定の投与方法の提供が医学上強く求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
意外なことに、吸入により投与された酸化型アビジンは肺上皮細胞の表面から肺胞まで均一に結合し、呼吸器系の上部経路(例えば気管)には意外にも結合しないということが見出された。酸化型アビジンが皮膚、眼または膀胱等の組織表面に損傷が無い場合には結合しなかったため、この発見は完全に予想外のものであった。さらに、そのような投与法がタンパク質の化学的完全性を維持するのは驚くべきことであった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】眼(液滴付着)、舌(筋肉内注射)、肢(筋肉内注射)、皮膚(液滴付着)、擦過皮膚(液滴付着)における、酸化型アビジン/
111In−ST2210複合体の組織の滞在時間を示す。
【
図2】ヒト表在性膀胱癌(矢印)の除去をシミュレートするため、ブタの膀胱において作成された外科用病変への静脈内に注入した68−Ga−ST2210の結合を示す。画像は陽電子放射型断層撮影法(PET)により、68−Ga−ST2210注入後4時間で取得した。
【
図3】pH5.5、賦形剤なしの100mM酢酸ナトリウム溶液で1時間噴霧した後の酸化型アビジンの化学的完全性を示す。
【
図4】酸化型アビジンまたは溶媒を24時間前に吸入したマウスの様々な臓器の静脈内に注入した
111In−ST2210の2時間および24時間時点における分布を示す。
【
図5】酸化型アビジンエアロゾルへの曝露後24時間の肺部分のマウス抗アビジン抗体での免疫化学を示す。
【
図6】24時間前に酸化型アビジンエアロゾルに曝露し、
64Cu−ST2210を静脈内に注入したマウスのPET画像である。
【
図7】5μg、0.05μg、0.05ngおよび0.05pg/mlの用量でビオチン化セツキシマブでPBS中1時間インキュベートしたEGFR
+A431細胞を示す。(a)は酸化型アビジンでの前処置無しの場合、(b)は前処置有りの場合をそれぞれ示す。
【
図8】酸化型アビジンでの前処置有り、または無しの場合のビオチン化セツキシマブによるA431細胞株の増殖の阻害を示す。
【
図9】2つの細胞株でのビオチン化セツキシマブによるアポトーシス誘導の細胞蛍光測定法分析を示す。一方は高レベルのEGFRを発現し(すなわちA431)、一方は酸化型アビジンでの処置の有無にかかわらず、EGFRを発現しない(すなわちSKMe128)。
【
図10】A431、A549(すなわちEGFR、突然変異KRASを低レベルで発現している肺癌)およびSKMel28細胞において、AvidinOXで前処置をした場合としなかった場合の、ビオチン化セツキシマブにより誘導された増殖の阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、酸化型アビジンまたはビオチン化治療剤/酸化型アビジン複合体を含む吸入可能な医薬品組成物に関し、この組成物は肺への吸入によるビオチン化治療薬の標的化送達に用いる。さらに本発明は、肺がん、喘息、結核症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺胞隔炎、嚢胞性線維症およびα−1−抗トリプシン欠乏症の治療に有益なビオチン化治療薬を安定的に結合させるため、肺を前処置するための手段としての酸化型アビジンのエアロゾル送達に関する。
【0024】
タンパク質、細胞および核酸のビオチン化は当業者に公知の生化学的方法である。これは、異なる基(すなわち一級および二級アミン、スルフヒドリルおよびカルボキシル基、など)と反応する市販されている種々の試薬により行える。ビオチン化試薬は、非常に柔軟で(長いスペーサーで立体障害を減少させる)または遊離可能(活性部分を遊離する)であるように設計され、機能的なビオチン化部分をアビジンファミリーのタンパク質と結合させるために広範囲に使用されている。特に、タンパク質ビオチン化は、モノクローナル抗体および他の機能性タンパク質に幅広く適用されている。(Bayer E.A.ら,Methods Enzymol,1990b,184,138)。
【0025】
適切なビオチン化抗癌剤は、例えば、ビオチン化セツキシマブ等の上皮成長因子レセプター(EGFR)に特異的に結合するIgG1モノクローナル抗体を含む群から選択される(Hama Y.ら,CancerRes.,2007,67,3809)。さらにビオチン化抗癌剤は例えば、抗c−Met抗体(Stella G.M.ら,Expert.Opin.Investig.Drugs,2010,19,11,1381);抗HGF(Okamoto W.ら,Mol.Cancer Ther.,2010,9,10,2785);抗CTLA4(Di Giacomo A.M.,CancerImmunol.Immunother.,2009,58,8,1297);抗VEGF(Ferrara N.ら,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2005,333,2,328);抗EpCAM(Kurtz J.E.ら,Expert.Opin.Biol.Ther.,2010,10,6,951);抗HER2モノクローナル抗体(Smith B.L.ら,Br.J.Cancer,2004,91,6,1190);TNF(Balkwill F.,Nat.Rev.Cancer,2009,9,5,361),TRAIL(Kim T.H.ら,Bioconjug.Chem.,2011,)または、IL−2等の他のサイトカイン(Herberman R.,Cancer Invest.,1989,7,5,515;Katen J.W.ら,Cytokine,2003,24,3,57);G−CSF(Cavalloni G.ら,Anticancer Drugs,2008,19,7,689);GM−CSF(He Q.ら,Cancer Immunol.Immunother.,2011,60,5,715);IL−12(Penichet M.L.ら,J.Immunol.Methods,2001,248,1−2,91;Adris S.ら,Cancer Res.,2000,60,23,6696);γインターフェロン(Weiner L.M.,Mol.Biother.,1991,3,4,186)のビオチン化付加物である。そのような治療は、腫瘍細胞の複製を遮断することが知られており、腫瘍細胞の死を誘導しおよび/または、抗癌免疫応答を刺激する。しかしながら、これらは全身にわたって使用されることに関わる有害な副作用がある。したがって、噴霧が、治療剤それ自体、または複合体のいずれかの統合性および生体機能と適合する場合、
酸化型アビジン吸入を伴うビオチン化治療剤のエアロゾル送達、もしくは、
ビオチン化治療剤/酸化型アビジン複合体の吸入;または、
酸化型アビジン吸入を伴うビオチン化治療剤の全身送達(例えば非経口的投与)、
の場合にビオチン化治療剤を肺内で安定的に局在化させることにより、それらの薬用量を減少し、かつ全身への曝露を最小限にでき、したがってそれらの治療指数を向上させられる。本発明は、ビオチン化抗腫瘍エフェクター細胞、ウイルスまたはプラスミドベクターの肺標的化において使用される噴霧された酸化型アビジンを扱う(D’Atri S.ら,Immunopharmacol.,1991,21,3,199;Densmore C.L.,Curr.Cancer Drug Targets,2003,3,4,275)。
【0026】
本発明は、抗炎症性ビオチン化治療薬を安定的に結合させるため、肺を前処置するための有益な手段としての酸化型アビジンのエアロゾル送達に関する。適切な抗炎症性ビオチン化治療薬は、例えば、抗TNF、抗Tweak、抗IL−6、抗IL−23、抗IL−17モノクローナル抗体;IL−I0または他の抗炎症性のサイトカイン(Marchi Kら,Chest,2011)または、ケモカイン(Farberman M.M.ら,Am.J.Respir.CellMol.Biol.,2010;Tauler J.ら,Curr.Opin.Pharmacol.,2009,9,4,384;Hartl D.ら,Curr.Opin.Allergy Clin.Immunol.,2009,9,1,60;Brennan S.ら,Eur.Respir.J.,2009,34,3,655)のビオチン化付加物を含み、喘息または肺胞隔炎または他の形態の肺慢性炎の治療に使用する。酸化型アビジン噴霧による肺へのα−1−アンチトリプシン等のビオチン化酵素の送達も、原発性の遺伝性欠損症を治療するために想定され、(Brand P.ら,Eur.Respir.J.,2009,34,2,354;Geller D.Kら,J.Aerosol Med.Pulm.Drug Deliv.,2010,23 Suppl 1,S55)、同様に、嚢胞性線維症を治療する嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTCR)タンパク質も想定される(Sloane P.A.ら,Curr.Opin.Pulm.Med.,2010,16,6,591;FrizzellR.A.,Am.J.Respir.Crit.Care Med.,1995,151,S54)。
【0027】
アビジン・ビオチン法は、小分子と生物学的受容体との間の相互作用に関する定性および定量分析に用いる優れた手段として長年知られている。(Wilchek,M.,Methods Enzymol.,1990,184,14)。
【0028】
アビジンは、家禽の卵白中にある約68kDaの糖タンパク質であり、ビタミンHであるビオチンに対して高い親和性を示す。その解離定数(K
d約10
-15M)は自然界で最も低い。(Green,N.M.,Adv.Protein Chem.,1975,29,85;Hytonen V.P.ら,Biochem.J.,2003,372,Pt1,219)。これは同一のアミノ酸配列の4つのサブユニットからなり、その各々は、潜在的にビオチンの1分子を結合できる。グリコシル化は、その分子量の約10%を占め、1つのサブユニット当たり、平均4〜5つのマンノースと3つのN−アセチルグルコサミン残基を有する(Bruch R.C.ら,Biochemistry,1982,21,21,5334)。
【0029】
本出願人の国際公開第2009016031号ではOXavidin
HABAという名の化学的な酸化型アビジン(以降酸化型アビジンと称する)が初めて報告されたが、これは、酸化型アビジンのアルデヒド基と組織タンパク質のアミノ基の間の化学結合の形成の結果、注入された組織において野生型アビジンと比較して高い耐久性を有していた。患部組織へ前記酸化型アビジンを、単独投与、または、治療剤を有する複合体として直接投与し得るが、単独投与の場合、ビオチン化された活性治療剤を送達するための二次ステップが必要であった。前記文献では、酸化型アビジンは注入により局所的に投与されたが、この注入では肺全体を均一に前処置することは現実的ではなかったことに注意せねばならない。この特許出願は、固形腫瘍癌および退行性疾患または、遺伝子性疾患の局部的治療に有益な新しい解決法を開示することにより、新時代を切り開いた。酸化型アビジンの許容度も最近報告された(Petronzelli F.ら,Basic Clin.Pharmacol.Toxicol.,2011,233)。
【0030】
しかしながら、この新しい手段でも、びまん性のおよび/または手術不可能な肺疾患に対応することはできなかった。これは、肺組織は注入によって容易には治療されないという特性があることや、外科手術手順ではアクセス困難な領域の患部組織を扱いづらいという明白な理由があるためである。特に、鱗状の肺癌として知られている細気管支肺胞性癌(BAC)は気管支および肺胞の表面に発症する型の腫瘍であり、エアロゾルにより送達された局所療法が役立つ可能性がある(Anami Y.ら,J.Thorae.Oncol.,2009,4,8,951)。
【0031】
上述のように、酸化型アビジンはエアロゾル投与を通じて肺組織に効率的に到達し結合できることが見出された。国際公開第2009016031号のデータに基づくと、この結果は予測可能ではなく、さらなる研究により、組織内注入が組織への酸化型アビジン結合のための必要条件であったことが示された。実際、無傷の皮膚または眼での酸化型アビジンの付着は結合を認めるのには十分ではなかった(
図1)。酸化型アビジンの結合はさらにブタ膀胱での外科手術により曝露された組織タンパク質上でのみ起こることが確認された(
図2)。さらに、噴霧された酸化型アビジンは気管ではなく肺に結合することが見出され、したがって肺において特異的で予測しなかった結合事象が示された(表1)。
【0032】
「AvidinOX」または「AvidinOX(登録商用)」または「OXavidin
HABA」という用語は、国際公開第2009016031号の実施例1による化学的酸化型アビジンを指す。表現「酸化型アビジン」は国際公開第2009016031号に記載の化学的酸化型アビジンを指す。つまり、アビジン分子当たり少なくとも1つのマンノース残基が下式の残基で置換されている酸化型アビジンであり、
【0033】
【化1】
前記酸化型アビジンが約8〜15のアルデヒド部分を含み、熱安定性が78°C以上である。あるいは、表現「酸化型アビジン」はまた、ビオチン結合サイトに関与するトリプトファン残基の酸化を防ぐためリガンドHABAの存在下でアビジンの酸化により得られた化合物を指す。
【0034】
表現「抗癌剤」は、腫瘍と戦える薬剤を意味する。抗癌剤には、化学療法薬、モノクローナル抗体、放射能標識された化合物、エフェクター細胞、トキシン、サイトカイン、ウイルスのおよびプラスミドベクター、RNA抑制物質および抗癌性細胞があるが、これらがすべてではない。
【0035】
用語「エアロゾル」、「エアロゾル化された」「吸入可能な」および「噴霧された」はすべて、小さなエアロゾルの液滴、医療溶液/懸濁液を直接的および効率的に経口で吸引可能なように排出するという同一のコンセプトを指す。
【0036】
表現「肺を前処置するための」および「肺前処置剤」、「前処置された肺」は、肺細胞が、事前に吸引された酸化型アビジンの相互作用によって、ビオチン化治療剤と相互作用可能であるというコンセプトを指す。
【0037】
特に発現「肺の実質的に全体を前処置する」とは、投与後に、酸化型アビジンが、肺の少なくとも95%で検出できることを意味する。
【0038】
したがって、本発明の目的は、
a)請求項1または2に記載の酸化型アビジンと、
b)酢酸ナトリウムであることが好ましい、酸性pHの無菌緩衝液と、
任意で
c)マンニトール、グリセロール、グルコース、ラクトース、トレハロース、スクロース、プロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびイソプロパノールを含む群から選択される非イオン性物質とを含む吸入可能な医薬品組成物にあり、前記医薬品組成物は噴霧後に吸入によって送達される。
【0039】
好ましい実施形態において、「酸性pH」は、pHが5.0から6.9の間であることを意味する。
【0040】
より好ましい実施形態において、「酸性pH」は、pHが5.0から6.0の間であることを意味する。
【0041】
さらにより好ましい実施形態において、「酸性pH」は、pHが5.0から5.5の間であることを意味する。
【0042】
さらなる実施形態において、吸入可能な医薬品組成物は凍結乾燥される。
【0043】
好ましい実施形態において、酸化型アビジンは吸入による肺の前処置剤として有用である。
【0044】
より好ましい実施形態において、前記酸化型アビジンは吸入によって肺の実質的に全体を前処置するのに有用である。
【0045】
別の実施形態では、酸化型アビジンの送達後に治療剤の投与が続き、前記治療剤はビオチン化されている。
【0046】
好ましい実施形態では、発明の吸入可能な医薬品組成物は、結核症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、一般の肺癌、特に細気管支肺胞性(BAC)癌)、喘息、肺胞隔炎、肺炎症疾患、嚢胞性線維症およびアルファ−1−アンチトリプシン欠損症の疾患の治療に有益である。
【0047】
さらに好ましい実施形態において、本発明の吸入可能な医薬品組成物は、多重病巣か転移性の形態の原発性肺癌の治療に有益である。
【0048】
またさらに好ましい実施形態において、ビオチン化治療剤は抗癌剤のビオチン化付加物である。
【0049】
さらに好ましい実施形態において、ビオチン化の抗癌剤は、抗EGFR、抗CEA、抗MUCI、抗EpCAM、抗cMET、抗CTL4モノクローナル抗体、TNF、TRAIL、Tweak、γインターフェロン、G−CSF、GM−CSF、IL−2、IL−12または化学療法剤を含む群から選択される公知の抗癌剤のビオチン化付加物である。
【0050】
より好ましい実施形態において、前記抗癌剤が放射能標識されたビオチン−DOTA(ST2210)から成る群から選択される放射性誘導体である。後者は国際公開第2002066075号に記載されている。
【0051】
さらに好ましい実施形態では、ビオチン−DOTAを標識するために使用される放射性同位体は、
52Fe,
52mMn,
55Co,
64Cu,
67Cu,
67Ga,
68Ga,
99mTc,
111In,
123I,
125I,
131I,
32P,
47Sc,
90Y,
109Pd,
111Ag,
149Pm,
186Re,
188Re,
211At,
212Pb,
212Biおよび
177Luを含む群から選択される。
【0052】
別のより好ましい実施形態において、前記抗癌薬はウイルスのまたはプラスミドベクター、RNA抑制物質または抗腫瘍エフェクター細胞から成る群から選択される公知の抗癌剤のビオチン化付加物である。
【0053】
別の好ましい実施形態において、ビオチン化薬剤は肺炎症疾患の治療に有益な薬剤で、抗TNF、抗Tweak、抗IL−17、抗IL−23、抗IL−6、抗IL−1モノクローナル抗体、IL−10またはケモカインを含む群から選択された公知の抗炎症剤抗炎症薬のビオチン化付加物である。
【0054】
肺の遺伝子疾患に関する別の好ましい実施形態において、治療剤は、嚢胞性線維症アルファ−1−アンチトリプシにおいてCFTCR等の既知の欠乏タンパク質のビオチン化付加物である。
【0055】
さらに好ましい実施形態は、上述の吸入可能な医薬品組成物を含むキットであり、医薬品は無菌緩衝液において冷凍乾燥されるか溶解される。
【0056】
さらにより好ましい実施形態において、前記キットは上述の吸入可能な医薬品組成物とネブライザーとを含む。
【0057】
治療効果を達成するために要求される酸化型アビジンの量は、もちろん治療下の患者および治療される特定の疾患または疾病に応じて一様ではないであろう。これは使用されるネブライザーの効率、および肺におけるエアロゾルの液滴の付着性にさらに依存する。噴霧の際の溶液内の酸化型アビジンの適切な濃度は0.005%から0.5%(w/v)(すなわち0.05mg/mlから5mg/ml)の範囲にあってもよい。
【0058】
非イオン性物質は噴霧に対して溶液のオスモル濃度の調整のため使用できる。本発明において使用できる、オスモル濃度を調整するための非イオン性物質は例えば、マンニトール、グリセロール、グルコース、ラクトース、トレハロース、スクロース、プロピレングリコール、ソルビトール、キシリトール、ポリエチレングリコール、エタノールおよびイソプロパノールを含む群から選択される。
【0059】
上述の非イオン性物質に加え、本発明は1つまたは複数のさらなる適切な賦形剤を含んでいてもよい。挙げられる適切な賦形剤は溶液および任意で保存剤のpHの変更のための薬剤を含む。
【0060】
本発明の製剤は適切な容器、例えば複数回分の小ビン、または好ましくは1回分の用量を投与するための単回用量小ビンで分配されてもよい。本発明の噴霧用の溶液は、第1小ビンの酸化型アビジンを、第2小ビンのpH5.5で無菌の酢酸ナトリウム溶液を付加して溶解させることにより得ることができる。
【0061】
本発明の製剤は、肺への吸入のため微細な液滴を生成できる適切な装置器具を使用して、噴霧により投与することを目的とする。適切な器具は例えばジェット式ネブライザーまたは超音波ネブライザーである。
【実施例】
【0062】
実施例1
約20gのBalb/cマウスの示した部位をアビジンまたは酸化型アビジンの溶液で処置した。溶液は、
111In−ST2210をあらかじめ混合させ、国際公開第2009016031の実施例1で記載された手順(3.0mg/mlを100mM酢酸ナトリウム、pH5.5に溶解)に従い得た。注入/付着後24時間たったところで、マウスをCO
2で窒息させて、処置した部位をγ計数器によって解析した。データを
図1に示す。データは投与量の%/組織100mg(%ID/100mg)として表す。結果によると、注入された舌、肢筋肉、および外用で処置した擦過皮膚において、酸化型アビジン/
111In−ST2210複合体の量が、アビジン/
111In−ST2210複合体の量と比較して、統計的に有意な高さを示した。しかしながら酸化型アビジン/
111In−ST2210またはアビジン/
111In−ST2210複合体の、正常な皮膚上または眼における付着については同様の結果を得られなかった。これは、この複合体が外部の組織表面には結合しないことを示しており、したがって、単独投与でもビオチン化薬剤との複合体として利用された場合でも、酸化型アビジンの結合特性を利用するには、外科手術が要求されることとなる。
【0063】
実施例2
約40kgの麻酔雌ブタを外科手術し膀胱壁上に2cmの表層病巣を2つ生成した。その後、30mlの酸化型アビジン溶液(3.0mg/mlを100mM酢酸ナトリウム、pH5.5に溶解)をカテーテルによって点滴し、1時間反応させた。その後、生理食塩水で膀胱を洗浄し、0.5μgの68−Ga−ST2210を静脈内投与した。4時間後、ブタをPET検査した。
図2に示した結果によれば、外科手術(すなわち2mmの病変)を受けた領域だけに酸化型アビジンが結合しる一方、無傷な膀胱組織は、酸化型アビジンのアルデヒド成分に全く活性を示さないことがわかった。しかしながら、それらの驚異的なデータは、外科的に損傷を受けていない組織が、酸化型のアビジンに活性を示さないという実施例1のデータと一致している。
【0064】
実施例3
3.0mg/mlの濃度で酸化型アビジンを含むpH5.5の100mM酢酸ナトリウム溶液を鼻部限定曝露装置(Scireq−EMKA technologies)により、室温で1時間噴霧した。タンパク質溶液の中央の粒度は5μmであった。噴霧した溶液をファルコンチューブに回収し、HPLCにより解析した。
図3のデータによれば、酸化型アビジン溶液は噴霧前後で同一の溶出プロフィルを示しており、タンパク質の完全な安定性が示されている。多数のタンパク質および核酸に対して噴霧中にこのような薬剤の完全性および能力を維持する条件を選択するために詳細な処方研究が必要とされるため、この結果は当然の結果ではなかった(GellerD.E.ら,J.AerosolMed.Pulm.DrugDeliv.,2010,23Suppl1,S55;MarkovicS.N.ら,Am.J.Clin.Oncol.,2008,31,2,573;ChoiW.S.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.,98,20,11103)。
【0065】
アルデヒド誘導体は、水が存在する場合水和作用を大変受けやすいという事実にも関わらず、このような現象が、酸化型アビジン噴霧過程において認められなかったことは大変興味深かった。1分子当たりのアルデヒド成分の数は、Purpaldの方法により測定すると(Quesenberry M.S.ら,Anal.Biochem.,1996,234,1,50)、表1のデータに示されるようにマンニトール賦形剤の有無に関わらず、pH5.0およびpH5.5の両方において、噴霧前後で(アッセイの不安定性を考慮して)実質的に同じであることが見出された。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例4
ラットにおいて噴霧された酸化型アビジンの生物活性および体内分布を調べた。肺および非標的臓器における酸化型アビジン、アビジン(3.0mg/ml溶液、0.8ml/分、1時間の噴霧)または溶媒の吸入曝露後24時間、静脈内に注入された
111インジウム放射能標識ビオチンDOTA(すなわち
111In−ST2210)の5μgの取込みの計測により評価した。
【0068】
スピローグ・ドーリーラット20匹を3つの異なる群に分けた。各群は下記の処置を受けた。
第1群(ラット4匹から成る)を噴霧溶媒(すなわちpH5.5の100mM酢酸ナトリウム溶液)のみに曝露し、
24時間後、ラットに0.5ml生理食塩水中5μg
111In−ST2210を静脈内投与した。
第2群(ラット8匹から成る)をpH5.5の100mM酢酸ナトリウム溶液)中アビジン(約10mg/kg)を噴霧して曝露し、
24時間後、ラットに0.5ml生理食塩水中5μg
111In−ST2210を静脈内投与した。
第3群(ラット8匹から成る)をpH5.5の100mM酢酸ナトリウム溶液)中酸化型アビジン(約10mg/kg)を噴霧して曝露し、24時間後、ラットに0.5ml生理食塩水中5μg
111In−ST2210を静脈内投与した。
【0069】
111In−ST2210静脈内投与後2時間でラットをすべて屠殺し、血、脾臓、腎、肝臓、胃、脳、気管、および肺の異なる部分の組織試料のサンプルを採取し、重さを計り、γ計数器(PerkinElmer)を利用して解析した。データを投与量の%/組織グラム(%ID/g)として示した。
【0070】
表2に示すように、酸化型アビジンの吸入より肺中の
111In−ST2210濃度の統計的に有意な上昇が可能となるが、一方他の臓器はアビジンまたは溶媒の群と比較して、
111In−ST2210濃度の統計的な有意差を示さなかった。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例5
111In−ST2210の肺への取り込みに関する選択性及び安定度の決定を目的とした体内分布実験を行なった。約20gのBalb/cマウス(マウス5匹/群)を噴霧させたアビジン(3mg/ml溶液)または溶媒(3ml)に1時間曝露させた(すなわち鼻部限定曝露装置、Scireq−EMKAtechnologiesにより)。これは約90mg/kg用量に対応する1時間の曝露となる。24時間後に全マウスに
111In−ST2210を静脈内に投与し(すなわち0.2ml生理食塩水中1μg)、さらに2時間後または24時間後、CO
2で窒息させて屠殺した。肺および非標的臓器を採取し、重さを計りγ計数器で計数した。データを投与量の%/組織グラムとして示した。
【0073】
図4に示した結果によれば、酸化型アビジンで前処置された肺においてのみ、
111In−ST2210の特異的で有意な取込みが見られた。
【0074】
実施例6
約20gのBalb/cマウスを実施例3で記載したプロトコルによって噴霧させた酸化型アビジンに曝露し、24時間後に窒息させて屠殺した。肺を除去し、ホルマリンで固定しパラフィン包埋した。ミクロトームによって得られた連続切片を処理し、HRP標識ウサギ抗アビジン抗体(GeneTex、USA)でインキュベートし、その後DAB基質でインキュベートした。
【0075】
図5は、気管支上皮レベルから終末細気管支までの酸化型アビジンの存在を示す。この分布はすべての肺コンパートメントにおいて均質であることが見出された。
【0076】
実施例7
約20gのBalb/cマウスを実施例5で記載されたプロトコルによって噴霧させた酸化型アビジンまたは溶媒に曝露した。24時間後、
64Cu−ST2210、1μgを静脈内投与した。4時間後、
64Cu−ST2210の分布をPET画像法により評価した。
図6は、噴霧された酸化型アビジンで前処置したマウスの肺における放射性の信号の存在を示すが、溶媒で処置したマウスの肺では見られなかった。腎臓と膀胱はマウスの両群において確認できる。この観察はその時点のST2210の生理学上の消失と一致している。さらに、肢1本における放射性信号はマウスの両方の群において可視であるがこれは、実験で内部陽性対照を作成するため、噴霧時には酸化型アビジンを筋肉注射して前処置されていたためである。
【0077】
実施例8
ヒトEGFR
+、表皮癌細胞A431を、0.05pg/mlから5μg/mlまでの範囲の容量の抗EGFRモノクローナルビオチン化抗体(すなわちビオチン化セツキシマブ)1mlで1時間PBSでインキュベートした。各実験では、細胞を酸化型アビジンであらかじめインキュベートしたが、最初の実験においては細胞はビオチン化セツキシマブで処置しただけであった。
【0078】
洗液後に、ビオチン化セツキシマブ結合を、フィコエリトリン(PE)で標識したマウス抗ヒト抗体を用いたインキュベーション後に細胞蛍光測定法により検出した。
図7で示したように、酸化型アビジン存在下では、0.05ngおよび0.05pg/ml等の低用量のビオチン化セツキシマブでもA431細胞への結合が確認できる。
【0079】
実施例9
図8に報告されたデータによれば、ビオチン化セツキシマブの抗増殖活性(実施例8で報告したように実施した実験)は、膜に結合した酸化型アビジンへの結合により固定化されたために、0.05ngおよび0.05pg/mlの低用量であっても、少なくとも3倍に増大した。増殖阻害はCellTiterGlowアッセイ、Promegaにより計測した。データを、酸化型アビジンの非存在下(すなわち白バー)、または存在下(すなわち黒バー)における細胞増殖の阻害%として表す。さらに、過去に報告されたように、(PetronzelliF.ら,BasicClin.Pharmacal.Taxical.,2011,233),酸化型アビジンは培地のみを含む比較実験において確認されたように細胞増殖に影響しなかった(データを示さず)。
【0080】
実施例10
AvidinOXでの前処置済み、または未処置の状態でのビオチン化セツキシマブによるアポトーシス誘導を、EGFR
+A431細胞(高レベルのEGFR、野生型KRASを発現する外陰部有棘細胞癌)およびEGFR
−SKMe128細胞(EGFRを発現しない)でテストした。AvidinOXでの前処置済み、または未処置状態で、細胞をビオチン化セツキシマブ(b−セツキシマブ)で15分間インキュベートした。洗液後、細胞を完全培地において18時間インキュベートした。アネキシンV陽性細胞を、FITCアネキシンVアポトーシス検出キットI(EDPharmingen)を使用した細胞蛍光測定法により解析した。
図9のデータによれば、AvidinOXがEGFR
+細胞の膜には固着するがEGFR
−細胞には固着しない場合、ビオチン化セツキシマブのアポトーシス促進効果は、少なくとも3倍増大し、したがって、これはAvidinOXに固着したビオチン化セツキシマブのアポトーシス促進活性の特異性を示している。
【0081】
実施例11
AvidinOXでの前処置済み、または未処置の状態でのビオチン化セツキシマブによる増殖の阻害をA431、A549(すなわち肺癌、低EGFR、突然変異KRAS)およびSKMe128細胞でテストした。細胞増殖に対する固着したビオチン化セツキシマブの効果をテストするため、5x10
5A431、A549およびSKMe128細胞を、AvidinOXで前インキュベーションし、またはせずに、DMEM、10%FCSで96ウェルマイクロタイタープレート(2x10
3細胞/ウェル)に播種した。固定後に、ビオチン化セツキシマブ100μlを、DMEM1%FCSに、0.05pg/mlから5μg/mlまでの範囲の3つの組に追加した。細胞を15分後に洗浄し、DMEM1%FCSで48時間培養した。細胞生存度をCellTiter−Glow(登録商標)(Promega)により検出した。
図10のデータによれば、ビオチン化セツキシマブは、高レベルのEGFR(すなわちヒト外陰部癌A431細胞)および低レベルのEGFR(すなわち突然変異KRASおよびヒト肺腺癌A549細胞)を発現する細胞の増殖を阻害できたが、EGFR
−細胞(SKMe128)の増殖は阻害できなかった。意外なことに、ビオチン化セツキシマブがこれらEGFR
+細胞の細胞表面上でAvidinOXにより固着された場合、このような効果は著しく向上した。