【実施例】
【0144】
以下では、光連結プローブの光応答性核酸類としてCNVKを使用し、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)遺伝子配列の一部を標的部位とした場合を例に詳細な説明をするが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。本発明の精神から離れることなく、いかなる変更、改良又は改変を加えることができることは当業者には自明である。
また、本実施例中において、アミノ酸
一文字表記と該アミノ酸の位置番号とで示された表記の場合には野生型を、元のアミノ酸一文字表記と該アミノ酸位置番号に加えて、更に置換されたアミノ酸一文字表記を組合せて表記される場合には変異型をあらわすものとする。
【0145】
[実施例1:光連結プローブの自己配列内での光連結確認]
実施例1−1.光連結プローブの調製
EGFR遺伝子上のエクソン21(ex.21)領域の一部と同配列の100merからなるオリゴヌクレオチドを合成し(配列番号1)、光連結対象の鋳型とした。
[配列番号1] 100merオリゴヌクレオチド:
5’−AGCCAGGAACGTACTGGTGAAAACACCGCAGCATGTCAAGATCACAGATTTTGGGCTGGCCAAACTGCTGGGTGCGGAAGAGAAAGAATACCATGCAGAA−3’(配列番号1)
【0146】
この合成オリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーション可能な16merからなる光連結プローブは以下のように調製した。光連結プローブとして、光応答性プローブ(photo−reactive probe)を光応答性核酸類である3−シアノビニルカルバゾール−1’−β−デオキシリボシド(CNVK)の導入位置を変えて4種類設計した(配列番号2〜5)。これらPREPの配列を表1に示す。なお、CNVKのPREPへの導入位置をnとして示す。
CNVKは特開2009−254279号公報に記載の方法に従って調製し、プローブの合成はファスマック社に委託した。また、CNVKの構造式を
図1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
実施例1−2.光連結プローブへの光照射処理
実施例1−1.にて合成した各PREPをTEにて100μmol/Lに溶解し、各200pmolを別々の0.2mLチューブに分取した。それぞれのサンプルに対して以下の条件にて光照射を実施した。なお、光連結波長である365nmの光照射はUV−LED照射器(ZUV−C30H:オムロン)を、開裂波長である312nmの光照射はUVトランスイルミネーター(フナコシ)を使用した。
【0149】
条件1:光未照射
各PREPに対して光照射を行わない。
条件2:光連結光照射
各PREPに365nmの光を室温にて1分間照射する。
条件3:光連結光照射+光連結開裂光照射
条件2の光照射を施した各PREPに、312nmの光を室温にて5分間照射する。
【0150】
実施例1−3.電気泳動による評価
光照射処理の影響を見るため、実施例1−2.の条件で処理した各々のPREPを滅菌水で10μmol/Lに希釈後、MultiNA(島津製作所)を用いてマイクロチップ電気泳動を行った。そのゲルイメージを
図2〜
図5に示す。
【0151】
4種類すべてのPREPにおいて、光連結波長の光を照射することにより電気泳動のバンドが低分子側にシフトした。これは、明らかにPREPのコンフォメーションが変化したことを示唆している。
また、光連結波長の光を照射した後に光連結開裂波長の光を照射すると、低分子側にシフトしたバンドが、光連結波長の光を照射する前(すなわち、光未照射)のバンドの位置に戻ることが確認された。これは、自己の配列内で形成していた光連結が開裂し元の状態に戻ったものと考えられる。
この現象は、4種類すべてのPREPにおいて同様に確認されたことから、光連結部位であるCNVKの導入位置に関係なく起こると考えられた。
【0152】
[実施例2:光照射処理をした光連結プローブの光連結効率の評価]
実施例2−1.光連結プローブの調製
評価対象の光連結プローブは、実施例1−2.で調製したPREPa.〜PREPd.を使用した。
【0153】
実施例2−2.光連結プローブの光連結反応
0.2mLチューブに、標的部位として100pmol/Lの合成オリゴヌクレオチド2μLを分取し、10μmol/LのPREP(実施例1−2.記載の各条件で処理したもの)2μLを加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5mmol/L MgCl
2,0.001%(W/V) gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
これを95℃にて5分間加熱処理し、50℃にて5秒間静置した後、50℃でUV−LEDにより365nmの光を30秒間照射した。なお、対照として光を照射しないサンプルを同時に用意した。
【0154】
実施例2−3.定量PCR反応溶液の調製と反応条件
実施例2−2.で調製したサンプル(対照サンプルを含む)の各調製液20μLに80μLの滅菌水をそれぞれ加えよく混合した後、その内5μLずつを鋳型としてプライマーEGFR Ex.21FおよびEx.21Rによりライトサイクラー(Light Cycler:ロッシュ)を使用して定量PCR反応を実施した。
【0155】
PCR反応試薬にはLight Cycler Fast Start DNA Master SYBER Green I(ロッシュ)を使用した。なお、プライマーの配列は以下の通りである。
EGFR ex.21F:5’−GAACGTACTGGTGAAAACACC−3’(配列番号6)
EGFR ex.21R:5’−GCATGGTATTCTTTCTCTTCC−3’(配列番号7)
【0156】
実施例2−4.光連結効率の評価
実施例2−2.で光連結処理を実施したサンプルと光連結処理を実施しなかった対照のサンプルを鋳型として、それぞれ実施例2−3.の条件にて定量PCR反応を実施した。PREPが光連結した標的部位は、共有結合により架橋された箇所でポリメラーゼの伸長反応が止まるため、増幅反応の鋳型として機能しなくなる。従って、定量PCR反応において、光連結処理を実施しなかった対照サンプルよりも通常遅いサイクルにて蛍光シグナルが立ち上がってくる。そのため、PREPにより光連結された標的部位の量を以下の式に従い算出し、光連結効率として表記することができる。
ΔCt=光連結処理後の標的部位のCt値−光連結未処理の標的部位のCt値
光連結効率(%)=(1−2
ΔCt)×100
このようにして、各PREPの標的部位への光連結効率を評価した結果を表2に示す。
【0157】
【表2】
【0158】
その結果、いずれのPREPにおいても、光連結波長を1分間照射した後においては著しく光連結効率が低下していることが確認された。また、開裂波長を5分間照射することによって、一度失われた光連結効率が再び回復し、光連結可能な状態になっていることが確認された。
この結果から、PREPに対して光連結波長が照射されると、PREPの自己配列内で光連結され、その結果、PREPの光連結能が消失したことで、標的部位に対する光連結効率が大きく低下したと考えられる。
さらに、自己の配列内で光連結してしまったPREPに対して光連結開裂波長である312nmの光を照射することで、自己配列内で形成していた光連結が開裂し元の状態に戻ったために、低下していた光連結効率が回復したと考えられる。
また、いずれのPREPにおいても光連結能の消失および回復が認められることからPREPに対するCNVKの導入位置に関わらずPREPの自己内での光連結および開裂が起こることが示唆された。
これらの結果は、実施例1において光連結反応後の電気泳動バンドがシフトし、光連結開裂波長の光を照射した後には電気泳動バンドが元の位置に戻った事実とも一致するものである。
【0159】
[実施例3:プリン塩基のみで構成される光連結プローブにおける自己配列内での光連結確認]
光応答性核酸類であるCNVKとは光連結しない、プリン塩基のみで構成されたPREPを合成し、合成した各PREPが光連結波長の光を照射しても自己配列内で光連結しないことを確認した。
【0160】
実施例3−1.光連結プローブの調製
光連結プローブとして、プリン塩基であるアデニン(A)もしくは、グアニン(G)のみで構成した以下の3種のPREPを調製した。合成したPREPの配列を表3に示す。その際、光応答性核酸類であるCNVKの導入位置(X)および鎖長(16mer)は統一とした。
【表3】
【0161】
実施例3−2.光連結プローブへの光照射処理
実施例3−1.にて合成した各PREPをTEにて100μmol/Lに溶解し、各200pmolを別々の0.2mLチューブに分取した。それぞれのサンプルに対して以下の条件にて光照射を実施した。
なお、光連結波長である365nmの光照射はUV−LED照射器を使用した。
条件1:光未照射
各PREPに対して光照射を行わない。
条件2:光連結光照射
各PREPに365nmの光を4℃にて3分間照射する。
【0162】
実施例3−3.電気泳動による評価
光照射処理の影響をみるために、実施例3−2.の条件で処理した各々のPREPを滅菌水で10μmol/Lに希釈後、MultiNAを用いてマイクロチップ電気泳動を行った。そのゲルイメージを
図6〜
図8に示す。
【0163】
3種類いずれのPREPにおいても、光連結波長の光を照射する前後で、電気泳動のバンドに移動度の違いは見られなかった。このことから、プリン塩基のみで構成されたPREPは、光応答性核酸類であるCNVKと結合可能な塩基がプローブの配列内に存在していないため、自己の配列内で光連結しなかったことが推察された。
【0164】
[実施例4:相補配列を利用した光連結プローブの自己配列内での光連結抑制]
実施例4−1.光連結プローブの調製
野生型配列であるEGFR遺伝子上の790番目のスレオニン(T790)、858番目のロイシン(L858)および861番目のロイシン(L861)に該当する核酸配列を標的部位として、EGFR遺伝子のコード鎖、すなわち、センス鎖にハイブリダイゼーションするアンチセンス鎖(AS鎖)の光連結プローブであるPREPを設計し、同時にEGFR遺伝子のアンチセンス鎖にハイブリダイゼーションするセンス鎖(S鎖)の光連結プローブであるPREPも設計した。その際に、センス鎖のPREPとアンチセンス鎖のPREPの相補性を以下の組み合わせのように変化させ、お互いの光連結プローブ同士が光連結しない位置に実施例1で記載したCNVKを配した。
図9に光連結プローブとして実際に使用したPREPの配列とその相補性についての模式図を示す。図中のAS鎖は野生型EGFR遺伝子配列のセンス鎖と相補的であることを意味し、S鎖は野生型EGFR遺伝子配列のアンチセンス鎖と相補的であることを意味するものとする。
【0165】
(1)L861: 相補性が低い組み合わせの例
L861 AS鎖:5’−CTCTTCCGCACCCAnCAG−3’(配列番号11)
L861 S鎖 :5’−TTGGGCTGGCCAAnCTGC−3’(配列番号12)
(2)T790: 相補性が高い組み合わせの例
T790 AS鎖:5’−TGAnCTGCGTGATGAG−3’(配列番号13)
T790 S鎖 :5’−CAnCTCATCACGCAGC−3’(配列番号14)
(3)L858: 相補性が(1)及び
(2)の中間的な組み合わせの例
L858 AS鎖:5’−CAnTTTGGCCAGCCC−3’(配列番号15)
L858 S鎖 :5’−CAnTTTGGGCTGGCCA−3’(配列番号16)
【0166】
実施例4−2.光連結プローブへの光照射処理
光連結プローブへの光照射処理は、以下の条件に従って実施した。
条件1:AS鎖、光未照射
実施例4−1.にて合成したEGFR遺伝子のセンス鎖にハイブリダイゼーションするAS鎖のPREPを各々、TEにより10μmol/Lに調製したものを条件1とした。
条件2:AS鎖、光照射
条件1と同様に調製した各々のAS鎖のPREPを、サーマルサイクラー(アプライド社製)にて4℃にした後、UV−LED照射器にて365nmの光を3分間照射したものを条件2とした。
条件3:S鎖、光未照射
実施例
4−1.にて合成したEGFR遺伝子のアンチセンス鎖にハイブリダイゼーションするS鎖のPREPを各々、TEにより10μmol/Lに調製したものを条件3とした。
条件4:S鎖、光照射
条件3と同様に調製した各々のS鎖のPREPを、サーマルサイクラーにて4℃にした後、UV−LED照射器にて365nmの光を3分間照射したものを条件4とした。
条件5:S鎖+AS鎖光未照射
実施例4−1.にて合成したEGFR遺伝子のセンス鎖にハイブリダイゼーションするAS鎖のPREPと、EGFR遺伝子のアンチセンス鎖にハイブリダイゼーションするS鎖のPREPを、それぞれが終濃度で10μmol/Lになるように混合したものを条件5とした。
条件6:S鎖+AS鎖光照射
条件5と同様に混合した各PREP溶液を、サーマルサイクラーにて4℃にした後、UV−LED照射器にて光を3分間照射したものを条件6とした。
【0167】
実施例4−3.電気泳動による評価
実施例4−2.の条件にて調製したPREP試料を、MultiNAを用いてマイクロチップ電気泳動を行った。そのゲルイメージを、
図10〜
図12に示す。
図10は(1)L861を標的部位としたPREPの組み合わせ、
図11は(2)T790、
図12は(3)L858の結果である。
【0168】
(1)L861:相補性が低い組み合わせ
電気泳動の結果より、相補性が低い組み合わせでは、センス鎖に対するPREP単独の場合、アンチセンス鎖に対するPREP単独の場合のいずれも光照射処理後にバンドシフトが認められ、自己の配列内で光連結されていることが示唆された(
図10のレーン1〜4)。
また、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合した条件5においては、条件1および条件3において見られた、センス鎖に対するPREP単独の場合及びアンチセンス鎖に対するPREP単独の場合と同じ位置にバンドが認められたことから、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPとはハイブリダイゼーションしていないと考えられた。
さらに、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合し光照射した条件6においても、センス鎖に対するPREPに光照射処理した条件2とアンチセンス鎖に対するPREPに光照射処理した条件4のバンドと同じ位置にバンドが認められた。
【0169】
(2)T790:相補性が高い組み合わせ
電気泳動の結果より、相補性が高い組み合わせにおいても、センス鎖に対するPREP単独の場合、アンチセンス鎖に対するPREP単独の場合のいずれも光照射処理後にバンドシフトが認められ、自己の配列内で光連結していることが示唆された(
図11のレーン1〜4)。
また、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合した条件5においては、光照射を行っていない条件1のセンス鎖に対するPREP単独の場合と、光照射を行っていない条件3のアンチセンス鎖に対するPREP単独の場合とは、異なる位置に一本のバンドが認められたことから、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPがハイブリダイゼーションしていることが推察された。
さらに、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合したものに光照射を行った条件6においては、光照射する前と同じ位置にバンドが認められ、センス鎖に対するPREP、アンチセンス鎖に対するPREPの光照射による自己の配列内で光連結した場合に検出される位置には、バンドが認められなかった。
このことから、光照射時にセンス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPがハイブリダイゼーションしていれば、自己の配列内で光連結は起こらないことが示唆された。
【0170】
(3)L858:相補性が(1)及び(2)の中間的な組み合わせ
電気泳動の結果より、相補性が中間的な組み合わせにおいても、センス鎖に対するPREP単独の場合、アンチセンス鎖に対するPREP単独の場合のいずれも光照射後にバンドシフトが認められ自己の配列内で光連結していることが示唆された(
図12のレーン1〜4)。
また、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合した条件5においては、光照射を行っていない条件1のセンス鎖に対するPREP単独の場合と、光照射を行っていない条件3のアンチセンス鎖に対するPREPの単独の場合とは、異なる位置にバンドが認められたことから、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPがハイブリダイゼーションしていることが推察された。
【0171】
さらに、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPを混合したものに光照射を行った条件6においては、光照射する前とは異なる位置に2本のバンドが確認された。
低分子側のバンド(下のバンド)はセンス鎖に対するPREP単独の場合、又はアンチセンス鎖に対するPREP単独の場合に光照射し自己の配列内で光連結された場合のバンドの位置と同じであることから、センス鎖に対するPREP又はアンチセンス鎖に対するPREPの自己会合に由来するバンドと考えられた。
また、高分子側のバンド(上のバンド)は、センス鎖に対するPREP単独の場合、アンチセンス鎖に対するPREP単独の場合の、自己会合由来のバンドとも異なる位置に認められた。このことから、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPとのハイブリダイゼーションは維持されているが、ハイブリダイゼーション出来ない塩基の部分にて光連結が行われ、バンドがシフトしたものと考えられた。
【0172】
以上より、相補性が低いPREPを混合して使用した場合においては、センス鎖に対するPREP又はアンチセンス鎖に対するPREPをそれぞれ単独で使用した場合にも、各々のPREPを混合させて使用した場合にも、PREPが自己の配列内で光連結することが確認された。
また、センス鎖に対するPREPとアンチセンス鎖に対するPREPとが中程度の相補性がある場合でも、ハイブリダイゼーションしていない塩基中にCNVKと光連結可能なシトシン又はチミンのようなピリミジン塩基が存在していると、自己の配列内において光連結してしまうことが示唆された。
このことから、光連結プローブが自己の配列内で光連結することを抑制するためには、光連結プローブ間の相補性を高くすることが効果的であると考えられた。また、CNVKと光連結可能なピリミジン塩基が相補鎖によって覆われ、CNVKと結合可能な状態で存在しないようにすることが効果的であると考えられた。
【0173】
[実施例5:相補性の高い光連結プローブを用いた光連結の確認]
実施例5−1.光連結プローブの調製
T790を標的部位とした、実施例4−1.(2)で調製した相補性の高い組合せであるPREPを使用した。
【0174】
実施例5−2.EGFRエクソン20(ex.20)領域における野生型遺伝子断片の調製
健常者の末梢血から通常の方法によりヒトゲノムDNAを調製し、これを鋳型としてプライマーセットEGFR ex.20F及びEGFR ex.20Rを使用してT790に該当する核酸配列を包むEGFRエクソン20(ex.20)の領域を通常のPCR反応条件により増幅した。PCR反応に用いたプライマー配列は以下の通りである。
EGFR ex.20F:5’−CAGAAGCCTACGTGATGG−3’(配列番号17)
EGFR ex.20R:5’−ACCTTTGCGATCTGCACAC−3’(配列番号18)
【0175】
得られたPCR増幅産物をpGEMT easy Vector(プロメガ)内に、添付のプロトコルに従って挿入しクローニングした。
このプラスミドを鋳型として、前記プライマーセットEGFR ex.20F及びEGFR ex.20Rを使用して通常のPCR反応条件によって増幅を行い、PCR Purification Kit(キアゲン)を用いて精製することで、直鎖状のEGFR ex.20の野生型遺伝子断片を得た(配列番号19)。
PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製したEGFR ex.20の野生型遺伝子断片の重量濃度をNanoDrop spectrophtometer(Thermo Scientific)を用いて測定し、増幅断片長を考慮して各遺伝子断片のコピー数を算出したものを、野生型核酸として以下の反応の検討鋳型として用いた。
【0176】
[配列番号19] EGFR ex.20野生型断片
5’−CAGAAGCCTACGTGATGGCCAGCGTGGACAACCCCCACGTGTGCCGCCTGCTGGGCATCTGCCTCACCTCCACCGTGCAGCTCATCACGCAGCTCATGCCCTTCGGCTGCCTCCTGGACTATGTCCGGGAACACAAAGACAATATTGGCTCCCAGTACCTGCTCAACTGGTGTGTGCAGATCGCAAAGGT−3’(配列番号:19)
【0177】
実施例5−3.光連結反応時の試薬組成
0.2mLチューブに、実施例5−2.で調製した標的核酸(1×10
7コピー/μL)を2μLと、10μmol/Lに調製した、実施例4−1.(2)に示すT790に該当する核酸塩基を標的とした、T790 AS鎖(配列番号3)及びT790 S鎖(配列番号4)のPREPをそれぞれ2μLずつ加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5mmol/L MgCl
2,0.001%(W/V) gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
【0178】
実施例5−4.光連結反応時の条件
実施例5−3.で調製した核酸サンプル溶液に対して、2つの温度条件にて光連結波長である365nmの光照射を実施した。なお、対照として光を照射しないサンプルを同時に用意した。
条件1:50℃において光照射
95℃にて3分間加熱処理後、50℃にて30秒間静置した後、50℃で光を30秒間照射した。
条件2:4℃において光照射
95℃にて3分間加熱処理後、4℃にて1分間静置した後、4℃で30秒間光照射した。
【0179】
実施例5−5.定量PCRによる光連結量の確認
実施例5−4.で光連結反応を実施した各反応液20μLに80μLの滅菌水をそれぞれ加えよく混合した後、その内5μLずつを鋳型としてライトサイクラー(LC 480 Ver2:ロッシュ)を使用して定量PCR反応を実施した。
定量PCR用反応液としては、以下の試薬を混合して調製し、1サンプルあたりの最終液量が25μLになるように滅菌水を加えて調製した。12.5μLの2×Premix Ex Taq(登録商標)(タカラバイオ)に、増幅プライマーとしてEGFR ex.20F及びEGFR ex.20Rをそれぞれ5pmolずつ添加した。
さらに末端蛍光標識した検出プローブを2.5pmol添加した。この検出プローブの配列は以下の通りである。
Total LNAプローブ:5’−Cy5/CTT+CGGC+TGC+CTC/BHQ2−3’(配列番号20)
なお、配列中の+はそれに続く塩基がLNAであることを示し、Cy5はクエンチャーとなる蛍光色素を、BHQ2は蛍光抑制物質を、それぞれ示す。当該検出プローブの合成はIDT社に委託した。
また、定量PCR反応は95℃,10秒+(95℃,3秒/58℃,30秒)×45サイクルの条件で実施した。
各々の試料について、光連結効率は実施例2と同様に定量PCRで算出したΔCt値から評価した。その結果を
図13に示す。
【0180】
50℃で光連結波長である365nmの光照射をした場合、ΔCtが4程度で光を複数回照射してもほぼ一定であるのに対して(
図13における黒丸)、4℃で実施した場合には光を照射するたびにΔCtが上昇することが確認された(
図13における黒三角形)。この事は、50℃においては、光を複数回照射しても光連結量が増加しないのに対して、4℃においては光を照射するたびに光連結量が増加していることを意味している。
従って、4℃においては、PREP相補鎖間のハイブリダイゼーション形成が維持され、PREPの自己配列内での光連結が抑制されたため、光を複数回照射するたびに光連結量が増加したのに対し、50℃においては、PREP相補鎖間のハイブリダイゼーションが十分に維持されず、PREPが自己の配列内で光連結したことにより、PREPが鋳型に対して光連結できなくなったために、光を複数回照射しても光連結量が増加しないものと考えられた。
つまり、光連結プローブの自己の配列内での光連結を抑制するためには、光連結プローブの相補鎖の相補性を高めることと、相補的な光連結プローブ同士(又は光連結プローブと相補的な第二のプローブと)が十分にハイブリダイゼーションを形成できる温度条件で光を照射する必要がある。
【0181】
[実施例6:ハイブリダイゼーション促進のための添加剤検討]
実施例5の結果から、50℃にて光を照射した際には相補的な光連結プローブ同士のハイブリダイゼーションが維持できていないことが示唆された。そこで、光連結プローブ間のハイブリダイゼーションを促進可能な添加剤に関して検討を実施した。種々検討を実施したが、その中でも効果が高かった陰性荷電を持つ高分子(ポリアクリル酸:pAAc)に関しての結果を示す。
【0182】
実施例6−1.光連結プローブの調製
T790に該当する核酸配列を標的とした、実施例4−1.(2)で調製した相補性の高い組合せであるPREPを使用した。
【0183】
実施例6−2.EGFRエクソン20(ex.20)領域における野生型遺伝子断片の調製
健常者の末梢血を材料として、実施例5−2.と同じ方法でEGFR ex.20領域における野生型遺伝子断片を調製した。
【0184】
実施例6−3.光連結反応時の試薬組成
0.2mLチューブに、実施例6−2.で調製したex.20の野生型遺伝子断片(1×10
7コピー)を2μLと、10μmol/Lに調製した、実施例4−1.(2)に示すT790に該当する核酸配列を標的とした、T790 AS鎖(配列番号
13)及びT790 S鎖(配列番号
14)の光連結プローブであるPREPをそれぞれ2μLと、10%(w/w)ポリアクリル酸(pAAc)を2μL加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5mmol/L MgCl
2,0.001%(W/V) gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
【0185】
実施例6−4.光連結反応時の条件
実施例5−3.で調製した核酸サンプル溶液に対して以下の条件で光照射を実施した。なお、対照として365nmの光を照射しないサンプルを同時に用意した。
条件1:ポリアクリル酸(pAAc)添加した核酸サンプル溶液について、4℃で光照射した。
条件2:ポリアクリル酸(pAAc)未添加の核酸サンプル溶液について、4℃で光照射した。
条件3:ポリアクリル酸(pAAc)添加の核酸サンプル溶液について、50℃で光照射した。
条件4:ポリアクリル酸(pAAc)未添加の核酸サンプル溶液について、50℃で光照射した。
【0186】
実施例6−5.定量PCRによる光連結量の確認
実施例5−4.で光照射により光連結させた試料について、定量PCRを行った。定量PCRの条件は実施例5と同一の条件で実施した。
各々の試料について、光連結効率は実施例2と同様に定量PCRで算出したΔCt値から評価した。4℃で光照射した結果については
図14に、50℃で光照射した結果については
図15に示す。
【0187】
光連結波長である365nmの光照射処理を4℃で行った場合には、pAAcを添加することで光照射1サイクルでのΔCtが増加していた(
図14における黒三角形)。これは、pAAcを添加したことで鋳型に対してPREPがより効果的にハイブリダイゼーション可能になり、光照射1回あたりの光連結量を増加させたためである。つまり、pAAcはPREPと鋳型のハイブリダイゼーションを促進させている。
【0188】
また、光連結波長である365nmの光照射処理を50℃で行った場合においても、pAAcを添加することでΔCtが大きく増加していた(
図15における黒三角形)。これは、光連結波長である365nmの光照射処理を4℃で行った場合の結果と同様に、pAAcによって鋳型に対してPREPがより効果的にハイブリダイゼーション可能になったことに加え、PREP相補鎖間でのハイブリダイゼーションが促進されたため、PREPの相補鎖間で十分なハイブリダイゼーションの形成が可能となり、その結果、PREPの自己配列内での光連結が抑制されたものと考えられた。
【0189】
このことからも、光連結波長である365nmの光照射時に光連結プローブ相補鎖間のハイブリダイゼーションを維持し、光連結プローブの自己配列内での光連結を抑制し、光連結プローブを光連結可能な状態に維持することが光連結効率を向上させることに効果的であることが確認された。
【0190】
[実施例7:遺伝子変異検出感度の確認]
これまでの実施例に示した通り、光連結プローブの自己配列内での光連結を抑制することで、標的部位との光連結効率を向上することが可能であることが分かった。この事を踏まえ、遺伝子変異検出感度への効果を検証するため、EGFR遺伝子のT790Mを標的として遺伝子変異検出を行った。
【0191】
実施例7−1.変異型EGFR遺伝子断片の調製
実施例5−2.で調製した野生型プラスミドに、公知の方法に従い、PrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ)を用いてT790Mの変異を導入した。すなわち、当該方法により、EGFR遺伝子の2639番目の塩基をシトシン(C)からチミン(T)に変異させた。これを変異型プラスミドとした。
次に、このプラスミドを鋳型として、実施例4に記載のプライマーセットEGFR ex.20F及びEGFR ex.20Rを使用して通常のPCR反応条件によって増幅を行い、直鎖状のEGFR変異型遺伝子断片を得た。得られた変異型遺伝子断片をPCR Purification Kitを用いて精製した後、重量濃度をNanoDrop spectrophtometerを用いて測定し、増幅断片長を考慮して各遺伝子断片のコピー数を算出したものを変異型核酸とし、以下の検討の鋳型として用いた(配列番号21)。
【0192】
EGFR ex.20 変異型断片
5’−CAGAAGCCTACGTGATGGCCAGCGTGGACAACCCCCACGTGTGCCGCCTGCTGGGCATCTGCCTCACCTCCACCGTGCAACTCATCATGCAGCTCATGCCCTTCGGCTGCCTCCTGGACTATGTCCGGGAACACAAAGACAATATTGGCTCCCAGTACCTGCTCAACTGGTGTGTGCAGATCGCAAAGGT−3’(配列番号:21)
【0193】
実施例7−2.変異型混入サンプルの調製
実施例5−2.で調整した野生型核酸と実施例7−1.で調製した変異型核酸の混合比率を変えて3種類(変異1%、変異0.1%、変異0.01%)調製し、変異型核酸検出用の試料として用いた。使用した野生型核酸と変異型核酸の混合比を表4に示す。また、変異型核酸を混合しない試料を変異0%の試料とした。また、混合型は1μLあたりのコピー数を示す。
【表4】
【0194】
実施例7−3.光連結プローブの調製
T790に該当する核酸配列を標的とした、実施例
4−1.(2)で調製した相補性の高い組合せである光連結プローブを使用した。
【0195】
実施例7−4.光連結反応時の試薬組成
0.2mLチューブに、実施例7−2.で調製した実施例4−1.(2)に示すT790に該当する核酸配列を標的とした、T790 AS鎖(配列番号13)及びT790 S鎖(配列番号14)のPREPをそれぞれ2μLと、10%(w/w)ポリアクリル酸(pAAc)を2μL加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5mmol/L MgCl
2,0.001% (W/V) gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
【0196】
実施例7−5.光連結反応時の条件
実施例7−4.で調製したサンプルに対して、UV−LEDにより光連結波長である365nmの光照射を実施した。95℃にて3分間加熱処理後、95℃にて30秒間維持し、50℃にて5秒間静置した後、50℃で光を30秒間照射する工程を1サイクルとし、合計10回繰り返した。
【0197】
実施例7−6.定量PCRによる光連結量の確認
実施例7−5.の各調製液20μLに80μLの滅菌水をそれぞれ加えよく混合した後、その内5μLを取り45μLの滅菌水を加えた。この内5μLずつを鋳型としてライトサイクラーを使用して定量PCR反応を実施した。なお、定量PCRは実施例5及び実施例6と同一の条件で実施した。
【0198】
その結果を
図16に示す。
図16において、aは変異1%、bは変異0.1%、cは変異0.01%、dは変異0%の結果を示す。グラフの縦軸は蛍光強度の対数表示値であり、横軸はPCRサイクル数である。変異型0%(野生型のみ)に比して、変異が混入している場合は蛍光シグナルが高くなっている。その結果、変異1%から変異0.01%まで濃度依存的に変異を検出していることが確認された。これは、PREPの自己配列内で光連結を抑制することで、野生型配列に対する光連結効率が向上したことに起因すると思われる。
光連結プローブの自己配列内での光連結を抑制することで、これまで非常に難しかった変異0.01%の存在比においても変異型核酸を選択的かつ効果的に増幅することが可能となった。
以上より、本法は高感度かつ高精度に変異遺伝子を検出可能であることが示された。
【0199】
[実施例8:イノシンを導入したPREPの評価]
実施例8−1.光連結プローブ(PREP)の調製
光連結対象の鋳型としては、実施例1−1.で調製した、EGFR遺伝子上のエクソン21(ex.21)領域の一部と同配列の100merからなるオリゴヌクレオチドを使用した。
この合成オリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーション可能な16merからなるPREPをイノシンの導入位置を変えて3種類設計した(配列番号23〜25)。1つは、イノシンを導入しないPREPを比較対象用のコントロールとして設計した(配列番号22)。これらPREPの配列を表5に示す。尚、光連結性核酸類であるCNVKのPREPへの導入位置をnとし、イノシンの導入位置をIとして示す。
【表5】
【0200】
実施例8−2.PREPへの光照射処理
実施例8−1.にて合成した各PREPをTEにて100μmol/Lに溶解し、各200pmolを別々の0.2mLチューブに分取した。それぞれのサンプルに対して以下の条件にて光照射を実施した。尚、クランプ形成波長である365nmの光照射はUV−LED照射器(ZUV-C30H:オムロン)を使用した。
条件1:光未照射
各PREPに対して光照射を行わない。
条件2:クランプ形成光照射
各PREPに365nmの光を4℃にて3分間照射する。
【0201】
実施例8−3.電気泳動による評価
光照射処理の影響を見るため、実施例8−2.の条件で処理した各々のPREPを滅菌水で10μmol/Lに希釈後、MultiNA(島津製作所)を用いてマイクロチップ電気泳動を行った。そのゲルイメージを
図17に示す。
イノシンを導入していないPREP(PREP e.)、イノシンを1箇所導入したPREP(PREP f.)はUV照射後のバンドが低分子側にシフトしているのに対して、イノシンを2個、3個導入したPREP(PREP g.、PREP h.)はUV照射後のバンドシフトが見られなくなった。これは、イノシンを導入していないPREP、イノシンを1個しか導入していないPREPは、UV照射により明らかなPREPのコンフォメーション変化が生じているのに対して、イノシンを2個、3個導入することでPREPのコンフォメーション変化を抑制したことを示している。
このことから、PREP内のクロスリンクターゲットとなるピリミジン塩基をイノシンのようなクロスリンクターゲットとならない塩基に置き換えることで、PREPの自己配列内でのクランプ形成を抑制可能であることが示された。
【0202】
[実施例9:光照射処理をしたPREPのクランプ形成効率の評価]
実施例9−1.光連結プローブ(PREP)の調製
評価対象のPREPは、実施例8−1.で調製したPREP e.とPREP h.を使用した。
【0203】
実施例9−2.PREPの光連結反応(クランプ形成反応)
0.2mLチューブに、標的部位を有する核酸配列として100pmol/Lの合成オリゴヌクレオチド2μLを分取し、100μmol/LのPREP(実施例8−2.記載の各条件で処理したもの)2μLを加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5 mmol/L MgCl
2,0.001%(W/V)gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
これを95℃にて5分間加熱処理し、45℃にて5秒間静置した後、45℃でUV−LEDにより365nmの光を30秒間照射した。尚、対照として光を照射しないサンプルを同時に用意した。
【0204】
実施例9−3.定量PCR反応溶液の調製と反応条件
実施例9−2.で調製したサンプル(対照サンプルを含む)の各調製液20μLに80μLの滅菌水をそれぞれ加えよく混合した後、更にその内5μLずつを45μLの滅菌水に混合した。混合したサンプルの内5μLを鋳型としてライトサイクラー(LC 480Ver2:ロッシュ社製)を使用して定量PCR反応を実施した。
定量PCR用反応液としては、以下の試薬を混合して調製し、1サンプルあたりの最終液量が25μLになるように滅菌水を加えて調製した。12.5μLの2×Premix Ex Taq(登録商標)(タカラバイオ社製)に、増幅プライマーとしてEGFR ex.21F(配列番号:6)及びEGFR ex.21R(配列番号:7)をそれぞれ5pmolずつ添加した。
さらに末端蛍光標識した検出プローブを2.5pmol添加した。この検出プローブの配列は以下の通りである。
Total LNAプローブ:5’−Cy5/CAGCATGT+CAAGA+TCACAGA/BHQ_2−3’(配列番号26)
尚、配列中の+はそれに続く塩基がLNAであることを示し、Cy5は蛍光色素を、BHQ2は蛍光抑制物質を、それぞれ示す。当該検出プローブの合成はIDT社に委託した。
また、定量PCR反応は95℃,10秒+(95℃,3秒/56℃,30秒)×45サイクルの条件で実施した。
【0205】
各々の試料について、クランプ形成効率は実施例2と同様に定量PCRで算出したΔCt値から評価した。その結果を
図18に示す。
尚、プライマーの配列は以下の通りである。
EGFR ex.21F:5’−GAACGTACTGGTGAAAACACC−3’(配列番号6)
EGFR ex.21R:5’−GCATGGTATTCTTTCTCTTCC−3’(配列番号7)
【0206】
イノシンを導入していないPREP e.を用いた場合、ΔCtが4程度でUVを複数回照射してもほぼ一定であるのに対して(
図18中三角印)、イノシンを導入したPREP h.を用いた場合、UVの照射回数を増やすごとにΔCtが増加する(図
18の四角印)ことが分かる。
これは、イノシンを導入していないPREPは、PREPの自己配列内でのクランプ形成が起き、光を複数回照射してもPREPの鋳型に対するクランプ形成量が増加しなかったのに対し、イノシンを導入したPREPは、PREPの自己配列内でのクランプ形成が抑制されたため、PREPが鋳型に対して十分にクランプ形成可能となったためUV照射回数に応じてクランプ形成量が増加したものと考えられる。
つまり、PREPの自己の配列内でのクロスリンクターゲット塩基をイノシンのような光連結の標的核酸とならない塩基に置換することで、PREPの自己配列内での光連結を抑制でき、PREPのクランプ形成量を増加可能であることが示された。
【0207】
[実施例10:相補性の高いPREPを用いたクランプ形成の確認]
実施例10−1.光連結プローブ(PREP)の調製
野生型配列であるEGFR遺伝子上の861番目のロイシン(L861)に該当する核酸配列を標的部位として、実施例8−1.で設計したPREP e.の配列をEGFR遺伝子のコード鎖、即ちセンス鎖にハイブリダイゼーションするアンチセンス鎖(AS鎖)のPREPとし(配列番号22)、同時にEGFR遺伝子のアンチセンス鎖にハイブリダイゼーションするセンス鎖(S鎖)のPREPも設計した(配列番号27)。CNVKの導入位置をnとして示す。
L861 AS鎖:5’−GCAnCCAGCAGTTTGG−3’(配列番号22)
L861 S鎖 :5’−CTGnCCAAACTGCTGG−3’(配列番号27)
【0208】
また、センス鎖のPREPとアンチセンス鎖のPREPの相補性とが完全相補の関係であって、お互いのPREP同士が光連結しない位置にCNVKを配し、且つ、各PREPのCNVKが本来光連結できる標的核酸をイノシンに置換したPREPを設計した。CNVKの導入位置をnとし、イノシンの導入位置をIとして示す。
L861 AS鎖:5’−GCAnCCAGCAGTITGG−3’(配列番号28)
L861 S鎖 :5’−CCAAnCTGCTGGGIGC−3’(配列番号29)
図19にクランププローブとして実際に使用したPREPの配列とその相補性についての模式図を示す。
【0209】
実施例10−2.EGFRエクソン21(ex.21)領域における野生型遺伝子断片の調製
健常者の末梢血から通常の方法によりヒトゲノムDNAを調製し、これを鋳型としてプライマーセットEGFR ex.21F及びEGFR ex.21Rを使用してL861に該当する核酸配列を包むEGFRエクソン21(ex.21)の領域を通常のPCR反応条件により増幅した。PCR反応に用いたプライマー配列は以下の通りである。
EGFR ex.21F(out):5’−GCATGAACTACTTGGAGGAC−3’(配列番号30)
EGFR ex.21R(out):5’−ACCTAAAGCCACCTCCTTAC−3’(配列番号31)
得られたPCR増幅産物をpGEMT easy Vector(プロメガ)内に、添付のプロトコルに従って挿入しクローニングした。
【0210】
このプラスミドを鋳型として、前記プライマーセットEGFR ex.21F及びEGFR ex.21Rを使用して通常のPCR反応条件によって増幅を行い、PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製することで、直鎖状のEGFR ex.21の野生型遺伝子断片を得た(配列番号32)。
PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて精製したEGFR ex.21の野生型遺伝子断片の重量濃度をNanoDrop spectrophtometer(Thermo Scientific)を用いて測定し、増幅断片長を考慮して各遺伝子断片のコピー数を算出したものを、野生型核酸として以下の反応の検討鋳型として用いた。
【0211】
[配列番号32] EGFR ex.21野生型断片
5’−GCATGAACTACTTGGAGGACCGTCGCTTGGTGCACCGCGACCTGGCAGCCAGGAACGTACTGGTGAAAACACCGCAGCATGTCAAGATCACAGATTTTGGGCTGGCCAAACTGCTGGGTGCGGAAGAGAAAGAATACCATGCAGAAGGAGGCAAAGTAAGGAGGTGGCTTTGGT−3’(配列番号32)
【0212】
実施例10−3.光連結反応時の試薬組成
0.2mLチューブに、実施例
10−2.で調製した標的核酸(1×10
7コピー/μL)を2μLと、100μmol/Lに調製した、実施例10−1.に示すL861に該当する核酸塩基を標的とした、L861 AS鎖(配列番号28)及びL861 S鎖(配列番号29)のPREPをそれぞれ2μLずつ加え、1×PCRバッファー(10mmol/L Tris−HCl(pH8.3),50mmol/L KCl,1.5mmol/L MgCl
2,0.001%(W/V)gelatin)の終濃度で総量を20μLとした。
【0213】
実施例10−4.光連結反応時の条件
実施例10−3.で調製した核酸サンプル溶液に対して、95℃にて5分間加熱処理し、45℃にて5秒間静置した後、45℃でUV−LEDにより365nmの光を30秒間照射した。尚、対照として光を照射しないサンプルを同時に用意した。
【0214】
実施例10−5.定量PCRによるクランプ量の確認
実施例10−4.で光連結反応を実施した各反応液20μLに80μLの滅菌水をそれぞれ加えよく混合した後、更にその内5μLずつを45μLの滅菌水に混合した。混合したサンプルの内5μLを鋳型としてライトサイクラー(LC 480Ver2:ロッシュ社製)を使用して定量PCR反応を実施した。
定量PCR用反応液としては、以下の試薬を混合して調製し、1サンプルあたりの最終液量が25μLになるように滅菌水を加えて調製した。12.5μLの2×Premix Ex Taq(登録商標)(タカラバイオ社製)に、増幅プライマーとしてEGFR ex.21F及びEGFR ex.21Rをそれぞれ5pmolずつ添加した。さらに末端蛍光標識した検出プローブを2.5pmol添加した。検出プローブには、実施例9に記載のプローブ(配列番号26)と同じものを使用し、定量PCR反応は実施例9−2.と同じ条件で行った。
【0215】
各々の試料について、クランプ形成効率は実施例2と同様に定量PCRで算出したΔCt値から評価した。その結果を
図20に示す。
既存の設計手法により設計したPREP(三角印)は、UVを複数回照射してもΔCtがある一定のところで飽和してしまうが、イノシンを導入し完全相補で設計したPREPを用いることでUV複数回照射するごとにΔCtを増加させることができることが分かる。
これは、PREP内にイノシンを導入し、かつPREPの相補性を高めたことでPREPの自己配列内でのクランプ形成を抑制出来たためと考えられる。このことからもクランプ形成波長である365nmの光照射時にPREP相補鎖間のハイブリダイゼーションを維持し、PREPの自己配列内でのクランプ形成を抑制し、PREPをクランプ形成可能な状態に維持することがクランプ形成効率を向上させることに効果的であることが確認された。