特許第6019132号(P6019132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019132化成処理溶液組成物、表面処理鋼板、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019132
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】化成処理溶液組成物、表面処理鋼板、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/42 20060101AFI20161020BHJP
   C23C 22/06 20060101ALI20161020BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20161020BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20161020BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C23C22/42
   C23C22/06
   B32B15/18
   B32B15/08 Q
   C23C28/00 C
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-548686(P2014-548686)
(86)(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公表番号】特表2015-508451(P2015-508451A)
(43)【公表日】2015年3月19日
(86)【国際出願番号】KR2012011329
(87)【国際公開番号】WO2013095072
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2014年8月7日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0141258
(32)【優先日】2011年12月23日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨン−ホ
(72)【発明者】
【氏名】クァク、 ユン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ヨン−キュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ヤン−ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨブ
(72)【発明者】
【氏名】コ、 キョン−ピル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン−フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョン−サン
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/049238(WO,A1)
【文献】 特開2011−117070(JP,A)
【文献】 特開2004−250787(JP,A)
【文献】 特開2011−219871(JP,A)
【文献】 特開2011−241482(JP,A)
【文献】 特開2010−150626(JP,A)
【文献】 特開2011−106029(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0068602(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0032145(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/069783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−30/00
B32B 15/00−15/20
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
P化合物、Mg化合物、Zr化合物、Ti化合物、V化合物、フェノール樹脂及び水で構成され、
溶液内のP、Mg、Zr、Ti、及びVの元素含量として、P:0.01〜0.2重量%、Mg:0.01〜0.2重量%、Zr:0.005〜0.15重量%、Ti:0.005〜0.15重量%、V:0.005〜0.15重量%を満たし
フェノール樹脂の含量が0.05〜1重量%であり、残部であり、
前記P化合物は、リン酸及びリン酸塩のうちの少なくとも一つであり、
前記Mg化合物は、F、Cl、OH、NO、SO2−、CO2−、ClO及びPO3−からなる群から選択されるイオンとの少なくとも一つの塩または有機酸イオンとの塩であり、
前記Zr化合物、Ti化合物及びV化合物は、F、Cl、OH及びSO2−からなる群から選択されるイオンとの錯化物もしくは塩;有機酸化物との錯化物もしくは塩;またはMO(M:Zr、Ti、もしくはV)の化学式を有する酸化物の錯化物もしくは塩であり、
前記フェノール樹脂は、アミン基及びハロゲン元素(F、Cl、Br及びI)からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を含む
化成処理溶液組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂は、1級、2級、3級及び4級アミン基から選択される1種以上のアミン基がフェノール環の1個以上のC原子と結合され、高分子チェーンの中間または末端において前記ハロゲン元素が1個以上結合される、請求項1に記載の化成処理溶液組成物。
【請求項3】
素地鋼板と、前記素地鋼板に形成された亜鉛系または亜鉛合金系めっき層と、前記めっき層上に形成された黒化層と、前記黒化層上に形成された有無機複合化成処理層と、を含み、
前記有無機複合化成処理層はリン酸塩、Mg水酸化物またはMg酸化物、Zr酸化物、Ti酸化物、V酸化物、及びフェノール樹脂で構成され、無機成分としてP、Mg、Zr、Ti及びVの元素比は、P:Mg:Zr:Ti:V=1:0.045〜2:0.035〜1.5:0.035〜1.3:0.035〜1.5(P基準重量比)を満たし、前記フェノール樹脂は、アミン基及びハロゲン元素(F、Cl、Br及びI)からなる群から選択される少なくとも一つの官能基を含み、
前記黒化層は、Zn:M:O=1:0.01〜0.065:0.1〜0.5(Zn基準原子成分比)を満たす(ただし、Mは、Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Co、Mn、Ti、Sn、Sb、及びCuからなる群から選択される1種以上の元素である)
表面処理鋼板。
【請求項4】
前記めっき層は、1)Znめっき層であるか、または2)Zn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素を含む、請求項に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記Znよりイオン化傾向が大きい元素の含量は2〜55atom%である、請求項に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記黒化層の厚さは50〜500nmである、請求項のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
前記黒化層において析出された金属酸化物粒子の平均直径は50〜500nmである、請求項のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項8】
前記有無機複合化成処理層上に樹脂層をさらに含む、請求項のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項9】
前記樹脂層は、ポリウレタン系(polyurethan)樹脂、ポリアクリル系(polyacryl)樹脂、エポキシ系(epoxy)樹脂、フェノキシ系(phenoxy)樹脂、及びポリエステル系(polyester)樹脂からなる群から選択される1種以上の樹脂を含む、請求項に記載の表面処理鋼板。
【請求項10】
素地鋼板を設ける段階と、前記素地鋼板上に亜鉛系または亜鉛合金系めっき層を形成する段階と、前記めっき層上に黒化層を形成する段階と、前記黒化層上に有無機複合化成処理層を形成する段階と、を含み、
(i)前記黒化層は、金属イオン、有機酸、無機酸イオン、表面調整剤、及び残部の水を含む黒化処理溶液によって形成され、
前記黒化処理溶液は、
Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Co、Mn及びTiからなる群から選択される1種以上の金属イオンを100〜1500mmol/L、並びにSn、Sb及びCuからなる群から選択される1種以上の金属イオンを10〜50mmol/L含み、
酢酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、蓚酸、フタル酸、及びマレイン酸からなる群から選択される1種以上の有機酸を2〜60g/L含み、かつ
NO、SO2−、PO3−、Cl、ClO、及びClOからなる群から選択される1種以上の無機酸イオンを、前記黒化処理溶液のpHが1.0〜4.0になるように含み、
前記表面調整剤は、アミン系錯化剤、ポリアミン系錯化剤、ポリオール系錯化剤、ポリアルコール系錯化剤、及び酸化剤からなる群から選択される1種以上であり、
(ii)前記有無機複合化成処理層は、請求項1または2に記載の化成処理溶液組成物を用いて浸漬法または噴霧法によって形成される
面処理鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記有無機複合化成処理層を形成する段階の後に、前記有無機複合化成処理層上に樹脂層を形成する段階をさらに含む、請求項10に記載の表面処理鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像家電用電子製品、家電製品、音響機器、OA機器などに適用される表面処理鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面処理鋼板のうち黒色鋼板は、黒化処理によって鋼板表面に無機系黒化皮膜が形成された着色鋼板で、需要者の塗装工程が省略されるため製造費用を低減させることができ、黒色表面の形状が均一かつ美麗であるため家電製品、音響機器、OA機器、自動車用部品などの多様な分野において用いられている。亜鉛系めっき鋼板の黒化処理は主にエッチング、陽極電解、陰極電解などによって行われており、被覆ではない化学反応によって形成された無機系黒化皮膜は、マイクロクラックまたは多孔質の微細凹凸が表面に形成され、その化学形態は無機化合物(金属酸化物、水和酸化物、金属)で構成されるが、主に金属酸化物からなる。無機系黒化皮膜が黒色を示すメカニズムは、微細凹凸の表面による入射光の乱反射及び金属酸化物に依存する可視光吸収特性によるものであると説明される。
【0003】
このような従来の黒色鋼板は、亜鉛合金めっき鋼板、主にZn−Ni合金めっき鋼板を用いて上述の酸化法、陰極処理、または化成処理によって黒色皮膜を形成させる方法で製造されてきた。
【0004】
その代表的な技術として、特許文献1及び2にはNi、Co、Fe、Al、Mg、Cu、Sn、C、Cr、Mo、Agなどの金属イオンが含有された酸性水溶液を用いて亜鉛合金めっき鋼板に酸化法によって黒色皮膜を形成させる方法が開示されている。また、特許文献3及び4には一般の鋼板または表面処理鋼板を水溶液において陰極処理して黒色皮膜を形成させる方法が開示され、特許文献5及び6には亜鉛または亜鉛合金めっき鋼板を金属イオンが含有された溶液において化成処理して黒色皮膜を形成させる方法が開示されている。
【0005】
また、90年代までは、陰極電解、陽極電解、化成処理などによる黒化処理法が主に開発された。最近は、物性(加工性、耐食性、表面外観など)及び機能性(電子波遮蔽性、放熱性、伝導性など)の付与または向上を中心に技術開発が行われている。特許文献7及び8では、Zn系めっき鋼板を黒化処理した黒色鋼板の吸放熱性、導電性、電子波シールド性などについて説明しており、素地鋼板として黒化層の密着性に優れたZn−Niめっき鋼板が主に用いられている。しかし、このような従来の技術には、陰極電解法または陽極電解法などのような電解工程で黒色皮膜を形成させるため工程費用が上昇するという問題があり、亜鉛めっき鋼板を化成処理しても、黒化層の密着性低下によって黒化層が壊れたり、剥離されるパウダリング(powdering)現象が激しく発生するという問題があった。
【0006】
また、特許文献9にはSn、NiまたはCo化合物を含む溶液を用いて亜鉛または亜鉛系合金めっき鋼板に黒色皮膜を形成させる方法が開示されているが、上記製造方法による黒化処理層の場合、パウダリングが激しくて黒化処理層の密着性が低下するという問題点が発生した。なお、このような化成処理の場合、一般に、電解法に比べて黒化皮膜形成の反応速度が遅いため、最近の高速/連続工程で運営されている電気めっきラインに連携して操業するのに適せず、電解法に比べて生産性が低下するという問題点がある。さらに、特許文献10には高温高湿雰囲気において表層改質によって黒化処理する方法が提案されているが、数十分の処理時間を要する連続工程上の問題点があった。
【0007】
上記黒化皮膜は、陰極電解、陽極電解、酸化法、化成処理などの方法で金属表層を酸化させたり、素地鋼板と異なる金属を置換析出させて形成されることができる。このような製造過程は黒化層の耐食性を低下させる。従来は、この問題を解決させるために、クロム酸塩(Chromate)処理を行った。しかし、Crの規制が行われ、これに対する対案が必要となり、従来のCrフリー(Cr−free)とは異なる黒化皮膜に適した化成処理皮膜が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本特許公開1986−291981号公報
【特許文献2】日本特許公開1990−282485号公報
【特許文献3】日本特許公開1987−263995号公報
【特許文献4】日本特許公開1994−346288号公報
【特許文献5】日本特許公開1988−161176号公報
【特許文献6】日本特許公開1987−290880号公報
【特許文献7】日本特許公開2006−264297号公報
【特許文献8】日本特許公開2004−250787号公報
【特許文献9】日本特許公開1990−093077号公報
【特許文献10】日本特許公開1995−143679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、化成処理溶液組成物、耐食性、黒化層の密着性、表面外観(黒色度及び光沢度)に優れ、生産性が向上した環境に優しい表面処理鋼板、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面である化成処理溶液組成物は、P:0.01〜0.2重量%、Mg:0.01〜0.2重量%、Zr:0.005〜0.15重量%、Ti:0.005〜0.15重量%、V:0.005〜0.15重量%、フェノール樹脂0.05〜1重量%、残部の水及びその他の不可避な不純物を含むことができる。
【0011】
本発明の他の側面である表面処理鋼板は、素地鋼板、上記素地鋼板に形成された亜鉛系または亜鉛合金系めっき層、上記めっき層上に形成された黒化層、及び上記黒化層上に形成された有無機複合化成処理層を含み、上記有無機複合化成処理層は、P:Mg:Zr:Ti:V=1:0.045〜2:0.035〜1.5:0.035〜1.3:0.035〜1.5(P基準重量比)を満たすことができる。
【0012】
本発明のさらに他の側面である表面処理鋼板の製造方法は、素地鋼板を設ける段階、上記素地鋼板上に亜鉛系または亜鉛合金系めっき層を形成する段階、上記めっき層上に黒化層を形成する段階、及び上記黒化層上に有無機複合化成処理層を形成する段階を含み、上記有無機複合化成処理層は、P:0.01〜0.2重量%、Mg:0.01〜0.2重量%、Zr:0.005〜0.15重量%、Ti:0.005〜0.15重量%、V:0.005〜0.15重量%、フェノール樹脂0.05〜1重量%、添加剤:10重量%以下、及び残部の水を含む化成処理溶液を用いて浸漬法または噴霧法によって形成されることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によると、黒化処理時に発生するパウダリング(powdering)現象を抑制して黒化層の密着性を向上させることにより、製造過程において発生するパウダリングによるロール(roll)の汚染を防止することができるため、頻繁なロールの掃除及び交換なしで連続作業を行うことができ、後工程である樹脂コーティング時に樹脂層の密着性も向上させることができる。
【0014】
また、本発明において提案するZn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素の1種以上がめっき層に含まれためっき鋼板を素地鋼板にして黒化処理することにより、従来のZn系めっき鋼板に比べて反応性を向上させることができる。これにより、高速の黒化処理が可能となり、生産性も向上することができる。
【0015】
なお、黒化皮膜上に有無機複合化成処理皮膜を形成することにより、2種以上の金属/金属酸化物/金属水酸化物で構成される黒化皮膜の低耐食性を向上させることができる。化成処理皮膜の耐食性を確保することにより、化成処理皮膜上に形成される保護樹脂の自由度が増加し、諸般物性(加工性、耐化学性、光沢度など)を容易に確保することができる。
【0016】
以下、本発明の長所、態様及び特徴は、添付の図面とともに下記詳細な説明により明確に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一側面である表面処理鋼板の断面を示した模式図である。
図2】Niの含量による表面処理鋼板の表面外観、パウダリング性、及びpHに関するグラフである。
図3】Snの含量による表面処理鋼板の表面外観、パウダリング性、及びpHに関するグラフである。
図4】クエン酸の含量による表面処理鋼板の表面外観、パウダリング性、及びpHに関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、優れた表面外観(黒色度)を維持しながら、黒化層の密着性を改善させるためには、黒化層の化学形態及び表面構造が重要な因子として作用することを認知し、適切な溶液の適用及び処理工程条件の制御が重要な課題であることを見出した。また、黒化処理において、生産性の向上のために素地鋼板と溶液の反応性が重要であることを認知し、反応性を向上させる方法として素地鋼板のめっき層の設計が重要であることを見出した。なお、黒化層の低耐食性を向上させるためには、腐食因子の浸透を防止または遅延させることができるバリア(Barrier)皮膜が黒化皮膜の露出なしで全体面に被覆されなければならないという点において反応型有無機複合化成処理による皮膜形成及び構造が重要であることを見出し、本発明を完成させた。
【0019】
以下、本発明の一側面である化成処理溶液組成物について詳細に説明する。上記化成処理溶液は、P化合物、Mg化合物、Zr化合物、Ti化合物、V化合物、フェノール樹脂、残部の水及びその他の不可避な不純物を含むことができる。
【0020】
上記P化合物によって導入されたリン酸イオン(PO3−)は、黒化皮膜上にリン酸塩を形成する。上記リン酸塩は、黒化皮膜の耐食性向上に寄与する役割をする。上記P化合物は、リン酸溶液をはじめ、Na、Kなどの一般塩の形態で導入されることができる。P化合物によって導入されたP含量は0.01〜0.2重量%であることが好ましい。黒化皮膜上にリン酸塩が十分に形成されるように制御して耐食性を向上させるためには、0.01重量%以上含むことが好ましい。ただし、耐食性向上効果の飽和及び経済性を考慮し、過量添加時に他の組成物との化合物形成により沈殿が生じて溶液安定性が低下する可能性があるため、0.2重量%以下に制御されることが好ましい。
【0021】
上記Mg化合物の導入によって化成処理皮膜内にMg(水)酸化物が形成される。上記Mg(水)酸化物は、黒化皮膜の耐食性向上に寄与する役割をする。上記Mg化合物は、F、Cl、OH、NO、SO2−、CO2−、ClO、PO3−などとの無機系塩または酸イオンなどのような有機酸イオンとの塩の形態で導入されることができる。Mg化合物によって導入されたMgの含量は0.01〜0.2重量%であることが好ましい。また、耐食性を十分に確保するために、上記Mgは0.01重量%以上含まれることが好ましい。ただし、耐食性向上効果の飽和及び経済性を考慮し、過量添加時に皮膜内の自由イオンの増加によりむしろ耐食性が低下する可能性がある点を考慮して0.2重量%以下含まれることが好ましい。
【0022】
上記Zr化合物、Ti化合物、V化合物の導入によって絶縁性酸化膜が形成される。上記絶縁性酸化膜は黒化皮膜の耐食性向上に寄与する役割をする。上記Zr、Ti、V化合物は、F、Cl、OH、SO2−、有機酸化物(butoxide、propoxide、ketone系有機物など)などとの錯化物または塩の形態で導入されることができ、MO(M:Zr、Ti、V)のような酸化物との錯化物または塩の形態で導入されることができる。上記金属化合物によって導入された金属の含量はそれぞれ0.005〜0.15重量%であることが好ましい。上記金属の含量は、十分な絶縁性酸化膜の形成による耐食性を確保するために、それぞれ0.005重量%以上含まれることが好ましい。これに対し、耐食性向上効果の飽和及び経済性を考慮し、過量添加時に皮膜内の自由イオンの増加によってむしろ耐食性が低下する可能性がある点を考慮して0.15重量%以下含まれることが好ましい。
【0023】
上記フェノール樹脂は、溶液中の金属成分を分散させて溶液を安定化させ、有無機複合皮膜を形成することにより、化成処理皮膜の緻密性を増加させて耐食性向上に寄与する役割をすることができる。本発明において提案する上記フェノール樹脂は、金属との親和性を増加させるために、アミン基(Amine)またはハロゲン元素(F、Cl、Br及びI)の1種または2種以上の官能基(Functional group)を含むことが好ましく、下記化学構造を有する。
【0024】
【化1】
【0025】
フェノール樹脂の構造中、A官能基としては、1級、2級、3級、4級アミン基の1種または2種以上がフェノール環の1個以上の炭素原子と結合され得、高分子チェーンの中間または末端において1個以上のハロゲン元素がフェノール環に結合され得る。フェノール樹脂は単独重合体または共重合体として、及び他の高分子との混合物の形態で導入されることができる。上記フェノール樹脂の含量は0.05〜1重量%であることが好ましい。上記フェノール樹脂の含量は、上記耐食性を確保し、溶液安定性に寄与するために、0.05重量%以上含まれることが好ましい。しかし、耐食性向上効果の飽和及び経済性を考慮し、過量添加時に溶液の粘度が増加して浸漬またはスプレー方式の化成処理を適用することが困難である点を考慮して1重量%以下含まれることが好ましい。
【0026】
また、添加剤として消泡剤(antifoaming agent)や中和剤などがさらに添加されることができる。消泡剤は気泡を除去するために添加され、中和剤は溶液のpHを維持するために添加される。上記消泡剤及び中和剤は一般の製品を用いてもその効果が十分である。ただし、その含量は10%を超過しないことが好ましい。これは、過量添加時に溶液の粘度が増加する上で、経済的ではないためである。
【0027】
本発明の一側面である化成処理溶液組成物の残り成分は水である。ただし、一般の製造過程では、原料または周囲環境により意図しない不純物が不可避に混入される可能性があるため、これを排除することができない。これら不純物は、一般の製造分野に属する技術者であれば誰でも分かるものであるため、本明細書ではそのすべての内容を特に言及しない。
【0028】
以下、本発明の他の側面である表面処理鋼板について詳細に説明する。上記表面処理鋼板は、素地鋼板、上記素地鋼板に形成された亜鉛系または亜鉛合金系めっき層、上記めっき層上に形成された黒化層、及び上記黒化層上に形成された有無機複合化成処理層を含む。
【0029】
本発明において、上記素地鋼板は特に限定されず、いかなる鋼板を適用しても本発明への影響はない。
【0030】
上記素地鋼板上に亜鉛系または亜鉛合金系めっき層を形成するにあたり、上記めっき層は、Znめっき層であることができ、生産性向上のために本発明において提案するZn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素の1種または2種以上を含むこともできる。このように成分系を制御する理由は、めっき層上に形成される黒化層と密接な関係がある。これは、黒化層を形成するために黒化処理溶液が用いられるが、上記黒化処理溶液に含まれたZnより高い金属イオンがZnめっき層の表面においてZnで置換析出される化学反応に基づく。Znよりイオン化傾向が大きい元素は、上記置換析出反応がZnより速く、このような元素とZnの合金めっき鋼板は、黒化処理時に純粋なZnめっき鋼板に比べて反応速度が顕著に速く、これは生産性向上につながる。一般に、Znよりイオン化傾向が大きい元素としては、Mg、Alなどを挙げることができるが、これに制限されない。上記Zn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素の1種または2種以上がめっき層に含まれた鋼板を製造するにあたり、溶融めっきまたは乾式コーティング法(PVD)を用いることができる。
【0031】
また、めっき量に制限はないが、本発明では、生産性向上のために各構成元素の成分比を制御する必要がある。Znよりイオン化傾向が大きい元素の含量によって黒化処理時の反応性が異なるため、その含量を2〜55atom%に制御することが好ましい。反応性及び黒化処理時の処理速度を向上させるために、上記Znよりイオン化傾向が大きい元素の含量を2atom%以上に制御することが好ましい。しかし、その含量が過度に多い場合は、過反応によって黒化層の密着性が低下し、均一な黒色度を得ることができず、経済性が低下する可能性があるため、その含量を55atom%以下に制御することが好ましい。
【0032】
また、上記表面処理鋼板は、上記めっき層上に黒化層が形成されることができる。黒化層の成分及び析出粒子のサイズは黒色鋼板の表面外観(黒色度及び光沢度)はもちろん、黒化層の密着性に影響を及ぼす。本発明において置換析出及び酸化反応メカニズムによって形成される黒化層は、金属、金属酸化物、金属水酸化物の混合物状態であることができる。析出される粒子が過度に粗大な場合、黒化層の密着性が低下してパウダリング現象が発生する可能性があるため、上記粒子の平均直径の上限を500nmに制御することが好ましい。なお、粒子サイズが過度に小さい場合は、十分な黒色外観を得ることができないため、その下限を50nmに制御することが好ましい。さらに、粒子サイズが黒化層の厚さを決定するため、上記黒化層の厚さは50〜500nmであることが好ましい。
【0033】
このとき、上記金属は、Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Co、Mn、Ti、Sn、Sb、Cuの1種または2種以上の元素を含むことが好ましい。これは、本発明の表面処理鋼板の表面外観(黒色度及び光沢度)を決定する重要な元素である。また、上記黒化層の成分は、Zn:M:O=1:0.01〜0.065:0.1〜0.5(Zn基準原子成分比)を満たすことがより好ましい。ここで、Mは上記金属元素の1種または2種以上であることができ、各金属元素はZnを基準に0.01〜0.065の原子成分比で構成されることができる。上記組成比範囲の下限値未満であると表面外観及び黒色度が不良になり、上限値を超過するとパウダリング現象が発生する可能性がある。
【0034】
上記黒化層上には有無機複合化成処理層が形成される。上記化成処理層は、表面処理鋼板の耐食性を向上させる役割をすることができる。上記化成処理層は、上述の化成処理溶液によって形成されることが好ましい。
【0035】
また、上記化成処理層の無機成分構成比は、P:Mg:Zr:Ti:V=1:0.045〜2:0.035〜1.5:0.035〜1.3:0.035〜1.5(P基準重量比)を満たすことが好ましい。これは、上記各成分の含量比範囲の下限値未満であると化成処理層の形成が十分ではないため耐食性に対する寄与度がわずかであり、上限値を超過すると耐食性に対する寄与度に大きな差異がない上で、経済的ではないためである。
【0036】
本発明の一側面である表面処理鋼板において、上記有無機複合化成処理層の厚さは特に限定されない。ただし、上記厚さが厚いほど耐食性が向上するが、生産性は低下するため、耐食性及び生産性を考慮して適切に制御する。
【0037】
また、上記表面処理鋼板は、上記有無機複合化成処理層上に樹脂層をさらに含むことができる。上記樹脂層は、単層または多層であることができる。上記樹脂層は、黒色鋼板に保護樹脂をコーティングすることにより形成される。その種類は特に限定されないが、ポリウレタン系(polyurethan)樹脂、ポリアクリル系(polyacryl)樹脂、エポキシ系(epoxy)樹脂、フェノキシ系(phenoxy)樹脂、及びポリエステル系(polyester)樹脂の1種または2種以上を含むことが好ましい。上記樹脂は、上記樹脂層を形成するために、水溶性または溶剤型で用いられることができる。
【0038】
図1は本発明の一側面である表面処理鋼板の一例の断面図である。素地鋼板1上にめっき層2が形成され、上記めっき層2上に黒化層3が形成され、上記黒化層3上に有無機複合化成処理層4が形成され、上記有無機複合化成処理層上に樹脂層5が形成される。
【0039】
以下、本発明のさらに他の側面である表面処理鋼板の製造方法について詳細に説明する。上記表面処理鋼板の製造方法は、素地鋼板を設ける段階、上記素地鋼板上に亜鉛系または亜鉛合金系めっき層を形成する段階、上記めっき層上に黒化層を形成する段階、及び上記黒化層上に有無機複合化成処理層を形成する段階を含み、上記有無機複合化成処理層は、P:0.01〜0.2重量%、Mg:0.01〜0.2重量%、Zr:0.005〜0.15重量%、Ti:0.005〜0.15重量%、V:0.005〜0.15重量%、フェノール樹脂0.05〜1重量%、添加剤:10重量%以下、及び残部の水を含む化成処理溶液を用いて浸漬法または噴霧法によって形成されることができる。
【0040】
まず、素地鋼板を設ける。上述の通り、上記素地鋼板は特に限定されない。
【0041】
上記設けられた素地鋼板上に亜鉛系または亜鉛合金系めっき層を形成する。純亜鉛めっき鋼板を用いてもよいが、純亜鉛めっき鋼板に比べて生産性を向上させるために、上記めっき層の成分系は、上述の通り、Zn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素の1種または2種以上を含むことが好ましい。このとき、めっき層を形成する方法は、従来の電気めっき方式によってはZnよりイオン化傾向が大きい元素を高濃度にZnと合金めっきさせるのが困難であるため、電気亜鉛めっきより乾式コーティング法(PVD)を適用したり、溶融亜鉛めっき工程を行うことが好ましい。
【0042】
次に、上記めっき層上に黒化層を形成する。黒化処理溶液は後述するが、上記黒化処理溶液で化成処理(浸漬や噴射など)することにより、黒化層を形成することができる。
【0043】
上記黒化処理溶液は、金属イオン、有機酸、無機酸イオン、表面調整剤、及び残部の水を含むことができる。黒化処理溶液の成分系は、黒化層の成分系、化学形態、及び表面構造と密接な関係がある。したがって、本発明では、上記黒化処理溶液の成分系を適切に設計し、含量範囲を設定する必要がある。
【0044】
上記金属イオンは、Mg、Al、Zn、Fe、Ni、Co、Mn、及びTiの1種または2種以上を含み、その含量は100〜1500mmol/Lに制御することが好ましい。また、Sn、Sb、及びCuの1種または2種以上を含み、その含量は10〜50mmol/Lに制御することが好ましい。その含量を上記範囲内に制御することにより、黒色鋼板の表面外観及び黒色度を向上させることができ、経済性を考慮してそれぞれの上限を限定することができる。ただし、Sn、Sb、及びCuはパウダリング現象を防止するために、50mmol/L以下に制御することが好ましい。
【0045】
上記黒化処理溶液は有機酸を含むことができる。上記有機酸は、溶液安定性(錯化剤の役割)及び均一な表面外観を確保するために含まれる。また、錯化力を向上させ、金属イオンの沈殿現象を防止するとともに、溶液安定性を図るためには、2g/L以上含むことが好ましい。なお、60g/Lを超過すると、溶液中に金属イオンとの錯化物が過度に形成されて金属酸化物の析出を妨害するため表面外観(黒色度)が不良になるという短所がある。ここで、上記有機酸は、酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、蓚酸、フタル酸、及びマレイン酸の1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0046】
また、上記黒化処理溶液は無機酸を含むことができる。上記無機酸は、黒化処理時の酸化反応を促進させ、溶液安定性を確保するために添加される。ただし、黒化処理溶液のpHが1.0〜4.0の範囲に制御されるように添加されることが好ましい。酸化力が過度に強いと黒化層が形成されるよりめっき層が溶解される可能性があるため、上記黒化処理溶液のpHが1.0以上に制御されるように上記無機酸を含むことが好ましい。なお、酸化力が過度に低下すると反応性が弱くなり、金属イオンが加水分解されて沈殿現象が発生し、溶液安定性が低下する可能性があるため、上記黒化処理溶液のpHが4.0以下に制御されるように上記無機酸を含むことが好ましい。さらに、上記無機酸は、NO、SO2−、PO3−、Cl、ClO、及びClOの1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0047】
また、上記黒化処理溶液は表面調整剤を含むことができる。上記表面調整剤は、黒化層の析出粒子の成分及びサイズを制御する役割をすることができる。その含量は表面調整剤の種類によって異なるように制御されることができるが、上記表面調整剤を用いることにより析出される黒化粒子のサイズが500nm以下になるように制限されることが好ましい。なお、上記表面調整剤は、アミン系錯化剤、ポリアミン系錯化剤、ポリオール系錯化剤、ポリアルコール系錯化剤、及び酸化剤の1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0048】
また、本発明の一側面である黒化処理溶液の残り成分は水である。ただし、一般の製造過程では、原料または周囲環境により意図しない不純物が不可避に混入される可能性があるため、これを排除することができない。これら不純物は、一般の製造分野に属する技術者であれば誰でも分かるものであるため、本明細書ではそのすべての内容を特に言及しない。
【0049】
その後、上記黒化層上に有無機複合化成処理層を形成する。ここで、上記化成処理層は、単層または多層で形成されることができる。また、上述の通り、上記化成処理溶液組成物を用いて浸漬法または噴霧法のような一般の化成処理方法で形成することが好ましい。
【0050】
続いて、上記有無機複合化成処理層上に樹脂層をさらに形成する。ここで、樹脂層を形成する方法は、特に限定されないが、樹脂層を形成することができる方法であればいかなる方法を用いてもよい。上記樹脂層は、単層または多層で形成されることができ、多層に樹脂層を形成した場合も、その形成方法は特に限定されない。
【0051】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は特許請求範囲に記載の事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
Zn及びZnよりイオン化傾向が大きい元素としてMgを選択しており、その含量比は下記表1に示されているように制御した。乾式コーティング法(PVD)を用いてZn−Mgめっき鋼板を製作し、Zn−Mgめっき層の付着量は10g/mに制御した。本発明において提案される組成比を有する黒化処理溶液を用いて40℃において2秒間浸漬処理してZn−Mgめっき鋼板上に黒化層を形成した。
【0053】
上記製法によって製作された表面処理鋼板の表面外観(白色度)、光沢度、パウダリングを測定し、その結果を下記表1にともに示した。
【0054】
表面外観は、色差計を用いて白色度(L*)を測定しており、0に近いほど黒色度が高いことを意味する。また、パウダリングの評価は、黒化層にセロハンテープの接着面を強く付着させて剥がした後、接着面に付けられた黒化粒子(powder)を観察することにより行われた。パウダリング特性を定量化するために、色差計を用いてパウダリング部分の白色度(Lp)を測定した。ここで、テープテストされていない未処理サンプルのLp値である89に近いほどパウダリングの発生が低下することを意味する。光沢度は光沢計を用いて60°の入射角で測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
上記表1に示されているように、本願発明が制御しようとするめっき層の成分系を満たす発明例1〜4は、表面外観(黒色度)及びパウダリング性に問題がなく、優れた光沢度を示すことが確認できた。また、純亜鉛めっき鋼板に比べて処理速度が2倍以上向上することが確認できた。
【0057】
これに対し、比較例1及び2は、Mgの含量が本願発明が制御しようとする量より多いため、過反応によって黒化層の密着性が低下することが確認できた。比較例3は、Mgの含量が本願発明が制御しようとする量より少ないため、反応性が低下して黒化処理の速度がわずかであり、黒色度に優れないことが確認できた。
【0058】
(実施例2)
Zn−Mg合金めっき鋼板(Zn:Mg(atom%)=60:40、めっき量10g/m)を素地鋼板にして、黒化処理溶液を用いて40℃で2秒間浸漬処理して黒化層を形成した。上記黒化処理溶液は、金属イオン成分としてNi、Snを含み、クエン酸、硫酸、表面調整添加剤をさらに含む。
【0059】
(1)上記黒化処理溶液は、Sn:25mmol/L、クエン酸:10g/L、硫酸2g/L、表面調整剤1g/Lを含み、Niの含量を50〜1022mmol/Lの範囲内で調節しており、Niの含量による黒色鋼板の表面外観(L*)、パウダリング部分の白色度(Lp)、及びpHを評価して図2に示した。評価方法は、上記実施例1と同一方法を用いた。
【0060】
図2に示されているように、Niの含量が100〜1500mmol/Lの場合、表面外観、パウダリング性、及びpHが本発明において意図する範囲を満たした。また、適正なpH範囲を維持することにより、沈殿または浮遊物がなく、溶液安定性の確保にも問題がないことが確認できた。
【0061】
(2)上記黒化処理溶液は、Ni:500mmol/L、クエン酸:10g/L、硫酸2g/L、表面調整剤1g/Lを含み、Snの含量を1〜100mmol/Lの範囲内で調節しており、Snの含量による黒色鋼板の表面外観(L*)、パウダリング部分の白色度(Lp)、及びpHを評価して図3に示した。評価方法は、上記実施例1と同一方法を用いた。
【0062】
図3に示されているように、Snの含量が10〜50mmol/Lの場合、表面外観、パウダリング性、及びpHが本発明において意図する範囲を満たした。適正なpH範囲を維持することにより、沈殿または浮遊物がなく、溶液安定性の確保にも問題がないことが確認できた。
【0063】
(3)上記黒化処理溶液は、Ni:500mmol/L、Sn:25mmol/L、硫酸2g/L、表面調整剤1g/Lを含み、クエン酸の含量を1〜100g/Lの範囲内で調節しており、クエン酸の含量による黒色鋼板の表面外観(L*)、パウダリング部分の白色度(Lp)、及びpHを評価して図4に示した。評価方法は、上記実施例1と同一方法を用いた。
【0064】
図4に示されているように、クエン酸の含量が2〜60g/Lの場合、表面外観、パウダリング性、及びpHが本発明において意図する範囲を満たした。適正なpH範囲を維持することにより、沈殿または浮遊物がなく、溶液安定性の確保にも問題がないことが確認できた。
【0065】
(4)上記黒化処理溶液は、Ni:500mmol/L、Sn:25mmol/L、クエン酸:10g/L、硫酸2g/Lを含む場合、及び上記成分系に表面調整剤1g/Lをさらに含む場合に制御し、表面外観(L*)及びパウダリング性を評価した。評価方法は、上記実施例1と同一方法を用いた。
【0066】
表面調整剤の添加有無に関係なく、表面外観(L*)は優れた黒色度を示したが、パウダリング性の場合、表面調整剤の未添加時にパウダリングが激しく発生し、黒化層の析出粒子サイズが500nmより大きい粗大な粒子で構成されることが確認できた。また、表面調整剤の添加時に黒化層の析出粒子は500nm以下で構成され、パウダリングが発生しないことが確認できた。
【0067】
(実施例3)
上記Zn−Mg合金めっき鋼板(Zn:Mg(atom%)=60:40、めっき量10g/m)を素地鋼板にして、上記黒化処理溶液(Ni500mmol/L、Sn25mmol/L、クエン酸10g/L、硫酸2g/L、表面調整剤1g/L)を用いて40℃で2秒間浸漬処理して黒化層を形成した。上記黒化層上に下記表2に示されている組成を有するように構成された化成処理溶液を用いて浸漬処理して有無機複合化成処理皮膜を形成し、ポリウレタン系保護樹脂を2μmの厚さでコーティングして耐食性を評価した。耐食性は、JIS E2731の規格に基づいたSalt Spray Test(SST)を行い、72時間後に白錆発生の程度を肉眼で判定して表2に示した。白錆が発生しなかった場合を○、白錆が5%未満発生した場合を△、白錆が5%以上発生した場合をXと示した。
【0068】
【表2】
【0069】
上記表2に示されているように、本発明において制御しようとする有無機複合化成処理溶液の組成比を満たす発明例5〜11は、耐食性の面において72時間後のSSTでの白錆発生が5%未満を満たすことが確認できた。上記化成処理層は、P:Mg:Zr:Ti:V=1:0.045〜2:0.035〜1.5:0.035〜1.3:0.035〜1.5(P基準重量比)の範囲内で構成されることが元素分析結果から確認できた。
【0070】
これに対し、比較例5〜8は、各組成成分の含量が本発明において制御しようとする量より少ないため、化成処理皮膜が十分に形成されなくて耐食性が低下することが確認できた。また、比較例9及び10は、Mg、Zr、Ti、Vの含量が本願発明が制御しようとする量より多いため、耐食性が低下することが確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 素地鋼板
2 めっき層
3 黒化層
4 有無機複合化成処理層
5 樹脂層
図1
図2
図3
図4