特許第6019148号(P6019148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019148ゴム組成物及びその製造方法、並びに、前記ゴム組成物を用いたタイヤ
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  • 特許6019148-ゴム組成物及びその製造方法、並びに、前記ゴム組成物を用いたタイヤ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019148
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法、並びに、前記ゴム組成物を用いたタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20161020BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20161020BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20161020BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20161020BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20161020BHJP
   B60C 17/00 20060101ALI20161020BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20161020BHJP
   B60C 11/14 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L9/06
   C08L7/00
   C08L71/02
   C08K3/04
   C08K3/36
   C08K3/22
   C08K3/34
   B60C1/00 A
   B60C1/00 Z
   B60C17/00 B
   B60C15/06 B
   B60C11/14 Z
【請求項の数】29
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-25786(P2015-25786)
(22)【出願日】2015年2月12日
(62)【分割の表示】特願2009-531309(P2009-531309)の分割
【原出願日】2008年9月8日
(65)【公開番号】特開2015-129297(P2015-129297A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2007-233151(P2007-233151)
(32)【優先日】2007年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2007-233150(P2007-233150)
(32)【優先日】2007年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】森 賀子
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋一
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/095493(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/083566(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/088200(WO,A1)
【文献】 特開2006−241396(JP,A)
【文献】 特開2007−063398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
B60C 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分と、
環状分子と、該環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子と、該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有するポリロタキサン、または前記ポリロタキサンが環状分子を介して架橋された架橋ポリロタキサンとを含み、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンを0.1から20質量部含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンであり、前記共役ジエン化合物がイソプレン又はブタジエンであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと、ポリブタジエンゴムと、スチレン−ブタジエン共重合体のいずれか少なくとも1種を主成分とするものであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと、ポリブタジエンゴムとを主成分とするものであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ポリロタキサンの直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が、前述ゴム成分と親和性を有することを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ポリロタキサンの直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が、以下のひとつから選ばれるものであることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
ポリカプロラクトン、天然ゴム(NR)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、ポリイソブテン、イソブテン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂のアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂;スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン及び2,4,6−トリメチルスチレンの芳香族ビニル化合物の重合体;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンの共役ジエン化合物の重合体;及びそれら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合体
【請求項7】
前記ポリロタキサンの直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が疎水性であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が、ポリカプロラクトン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソブテン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、天然ゴム(NR)、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンポリプロピレン、およびエチレンープロピレン共重合体からなる群から選択されたものであるか、又はスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン及び2,4,6−トリメチルスチレンからなる群から選択された芳香族ビニル化合物の重合体であるか、又は1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン及び1,3−ヘキサジエンからなる群から選択された共役ジエン化合物の重合体であるか、又はそれら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合体であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記環状分子が、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ベンゾクラウン、ジベンゾクラウン及びジシクロヘキサノクラウンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記環状分子がシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記環状分子がα、β、またはγ−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記環状分子がα−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項14】
前記封鎖基が、ジニトロフェニル基、アダマンチル基、トリチル基、フルオレセイン及びピレンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項15】
前記環状分子の内面の直径が、包摂するゲスト分子である前述直鎖状分子または1の分岐点を有する分子の包摂を意図した部分の最大直径よりも大きく、かつその3倍を越えないことを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項16】
前記環状分子の内面の直径が、包摂するゲスト分子である前述直鎖状分子または1の分岐点を有する分子の包摂を意図した部分の最大直径よりも大きく、かつその2倍を越えないことを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項17】
前記環状分子の包接量は、前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が環状分子を包接する最大量である最大包接量を1とすると、0.001〜0.6であることを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項のゴム組成物。
【請求項18】
前記ポリロタキサンのポリロタキサン環状分子同士の架橋に用いる架橋剤が、分子内に以下の群から選ばれる官能基を少なくとも2つ有することを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
カルボン酸ハロゲン化物基、イソシアヌール酸ハロゲン化物基、イソシアネート基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イミダゾリル基、ビニル基、
【請求項19】
前記ポリロタキサンのポリロタキサン環状分子同士の架橋に用いる架橋剤が、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネートおよびこれらの部分縮合物、ジイソシアン酸トリレイン、1,8−ジイソシアネートオクタン、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール及びアルコキシシランからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載のゴム組成物を製造するゴム組成物の製造方法であって、
前記ポリロタキサンをゴム組成物に配合すると共に、前記架橋材を塗布、含浸、または配合により添加し、熱処理によって前記環状分子同士を架橋させることを特徴とするゴム組成物の製造方法
【請求項21】
前記ゴム成分は、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)及びブチルゴム(IIR)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項22】
前記ゴム成分のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることを特徴とする請求項1から請求項19及び請求項21のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項23】
前記ゴム成分が、ビニル含量が30%以下のポリブタジエンゴム(BR)であることを特徴とする請求項1から請求項19及び請求項21から請求項22のいずれか1項記載のゴム組成物。
【請求項24】
前記ゴム成分は、天然ゴム(NR)とシス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)からなることを特徴とする請求項21に記載のゴム組成物。
【請求項25】
更に、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選択される少なくとも一種の充填剤を含むことを特徴とする請求項1から請求項19及び請求項21から請求項24のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項26】
請求項1から請求項19及び請求項21から請求項25のいずれか1項に記載のゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項27】
一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在して、これら各部を補強するラジアルカーカスと、前記ビード部内に夫々埋設したビードコアのタイヤ半径方向外側に配置したビードフィラーと、前記サイドウォール部の前記カーカスの内側面に配置した一対のサイド補強層とを具えた空気入りタイヤにおいて、
上記サイド補強層及び/又はビードフィラーのゴム組成物として、更に硫黄および充填剤を含む請求項1〜19及び請求項21から請求項25のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項28】
前記ゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対して、前記ポリロタキサン又は架橋ポリロタキサンを0.1〜20質量部、前記硫黄を2質量部以上、前記充填剤を10〜100質量部を含むことを特徴とする請求項27記載の空気入りタイヤ。
【請求項29】
前記充填剤がカーボンブラックであることを特徴とする請求項27又は請求項28記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特にタイヤのドライ性能、ウェット性能及び氷上性能をともに向上させることが可能なタイヤ用ゴム組成物、ランフラット耐久性と乗り心地とを改良した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば冬季性能を向上させたタイヤであるスタッドレスタイヤにおいては、低温(ここで、低温とは、氷上走行時の温度であり、代表例として−20℃から0℃程度の温度を考える)でのトレッドの動的貯蔵弾性率(G’)が上昇するとタイヤの路面への追
従が不十分となって真実接触面積が低下することなどによってトレッドと路面との粘着作用が低下し、タイヤの氷上制動性が低下するため、低温でのトレッドの動的貯蔵弾性率を低くすることが好ましい。また、このような氷結路面を走行する際のトレッドと路面のすべりに起因する歪は一般に非常に小さいことが知られており、トレッドの1%を下回る微小歪域での動的貯蔵弾性率を低減することが特に好ましい。
【0003】
また、スタッドレスタイヤを氷結路面以外の路面、すなわち乾燥路面で使用する際の性能(ドライ性能)を向上させることも求められている。ここで、タイヤのドライ性能を向上したトレッド用ゴム組成物の開発に当たっては、一般に60℃付近での正弦波変形を与えた際の損失正接(tanδ(60℃))を高めるとともに、0℃より高い温度域での大変形下に置ける動的貯蔵弾性率を高めることが一般に有効であり、具体的には、60℃付近でのtanδが高く、かつ数%以上の大きな変形を与えた際の動的貯蔵弾性率を高めたゴム組成物をトレッドに用いることで、タイヤの乾燥路面での摩擦係数(μ)を上昇させると共にトレッドパターン要素の過度の変形を抑制することで真実接触面積が確保できることからドライ性能を向上させることができる。通常のタイヤにおいてもウェット時(0℃)の弾性率を下げ、60℃でのG’を上げることにより、ウェットブレーキ性とドライ
性を両立させることが可能である。言い換えると低温かつ低歪での貯蔵弾性率が低く、高温かつ大歪での貯蔵弾性率が高められたゴム組成物をトレッド材料に用いる事が望まれる。
また、冬季性能を高めるためには、前述したゴム組成物の粘弾性的な特性の制御に加えて氷結路面上でのブレーキおよび加速等に際してトレッドと氷結路面との摩擦等によって路面が融解して発生する水分の除去が有効である事は当業者に公知の事実であり、その目的でトレッド表面に発泡性気泡を初めとする気泡を配置することや、更にその効果を高めるために特定形状の筒型気泡を配置する技術が知られている(たとえば特許文献2001−233993A参照)。さらには、上述のような局面において微小突起による引っかき効果を追求するために、適度な硬さの粒子を配合した樹脂成分をトレッド面に配置する技術も知られている(たとえば「特願平9−533355」(WO97/34776)参照)。このような水分除去や引っかき効果による既知の冬季性能向上技術の効果を相殺せずに、前述のような粘弾性特性を達成する技術が特に望まれている。
【0004】
これに対して、従来、ゴム組成物のtanδを上昇させる手法として、ガラス転移点(Tg)の高いC9芳香族系樹脂をゴム組成物に配合する技術(特開平5−9338号公報参照)や、重量平均分子量が数万の液状スチレン−ブタジエン共重合体をゴム組成物に配合する技術(特開昭61−203145号公報参照)が知られている。
【0005】
また、従来、空気入りタイヤにおいて、パンクなどにより内圧を失った場合でも安全に車両挙動を保つための技術として、サイドウォール部の剛性を向上させるために、サイドウォール部のカーカスの最内側面にゴム組成物単体、あるいはゴム組成物と繊維等との複合体からなるサイド補強層が配設された、いわゆるサイド補強型ランフラットタイヤがある。しかしながら、タイヤのパンク等によりタイヤの内部圧力(以下、内圧という。)が低下した状態での走行においては、タイヤのサイドウォール部の変形が大きくなるにつれサイド補強層の変形も大きくなり、その結果、該サイド補強層の発熱が進み、場合によっては200℃以上の高温に達することもある。このような状態では、サイド補強層がその破壊限界を超えてしまい、タイヤが十分な距離を無内圧で走行できないおそれがある。
【0006】
このような事態に至るまでの時間を長くする手段として、上記サイド補強層の最大厚さを増大するなどして、サイド補強層の体積を増大させる手段があるが、このような方法を採ると、乗り心地の悪化、重量の増加及び騒音の増加等の問題が生じる。また、ビードコアのタイヤ半径方向外側に配設したビードフィラーの最大厚さを増大するなどの手段もあるが、この場合も、乗り心地の悪化、重量の増加及び騒音の増加等の問題が生じる。
【0007】
これに対し、乗り心地の悪化を回避するために、サイド補強層及びビードフィラーの体積を減少させると、無内圧走行時にサイドウォール部がタイヤにかかる荷重を支えきれず、サイドウォール部の変形が非常に大きくなり、サイドウォール部の発熱が過度に進み、結果として、タイヤが早期に走行不能に至ってしまう。
【0008】
また、乗り心地の悪化を回避するために、サイド補強層及びビードフィラーに用いるゴム組成物の配合を変え、該ゴム組成物の弾性率を低下させた場合も、サイドウォール部がランフラット走行時にタイヤにかかる荷重を支えきれず、サイドウォール部の変形が非常に大きくなり、サイドウォール部の発熱が過度に進み、結果として、タイヤが早期に走行不能に至ってしまう。上述のようなタイヤ特性を満足するためには、通常走行で問題となる室温−60C程度の温度での微小変形時にはやわらかく振る舞い、より高い温度で大きな歪となる無内圧走行時には硬く振舞うことの出来るサイド補強ゴムに供することの出来るゴム組成物が望まれていた。
【0009】
特開2002−79803号公報には、サイド補強層及びビードフィラーに、共役ジエンユニットにおけるビニル結合量が25%以上、重量平均分子量(Mw)が20万〜90万であり、かつ重量平均分子量と数平均分子量(Mn)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)が1〜4である共役ジエン重合体をゴム成分中に50重量%以上含むことを特徴とするゴム組成物を用いたタイヤが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ゴム組成物のtanδを上昇させるために、ガラス転移点(Tg)の高いC9芳香族系樹脂や、分子量が数万の液状スチレン−ブタジエン共重合体(以下、液状SBRともいう)をゴム組成物に配合すると、−20℃から0℃付近での動的貯蔵弾性率が上昇するため、かかるゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤ及び通常タイヤは、氷上での制動や駆動の性能が不十分である。前述のように発泡性気泡等の気泡や、有機短繊維の溶融発泡体をトレッド表面に配置する提案もあるが、弾性率の歪依存性や温度依存性の改良が十分でなく、ドライ性能と氷上性能の両立に改良の余地が大いにあった。
【0011】
また、上記特開2002−79803号公報に記載のタイヤには、ランフラット走行時のタイヤ耐久性と乗り心地に改善の余地がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、タイヤのドライ性能及び氷上性能、更には磨耗性能を向上させることが可能なゴム組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、かかるゴム組成物をトレッドに用いた、ドライ性能、氷上性能及び磨耗性能に優れたタイヤ、特に冬季性能が高められたタイヤを提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、ランフラット走行時のタイヤ耐久性(以下、ランフラット耐久性という)と乗り心地とを改善した空気入りタイヤを提供することにある。
本発明の上述二つの目的に共通するゴム組成物に望まれる特性は、低歪での貯蔵弾性率が低く大歪で貯蔵弾性率が高い特性と、低温で貯蔵弾性率が低く、高温で貯蔵弾性率が高くなる特性の二点であるが、特に前者が重要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分に、ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンを配合することにより、ドライ性能、ウェット性能、氷上性能及び磨耗性能が向上することを見出した。
【0015】
また、前記ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンを含むゴム組成物を、サイド補強層及びビードフィラーの少なくとも一方に用いてなる空気入りタイヤは、通常走行時の乗り心地がよく、ランフラット走行における耐久性も向上することを見出した。
【0016】
すなわち、本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分と、
環状分子と、該環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子と、該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有するポリロタキサン、または前記ポリロタキサンが前記環状分子を介して架橋された架橋ポリロタキサンとを含み、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンを0.1から20質量部含むことを特徴とする。
【0017】
本発明のゴム組成物の好適例において、前記芳香族ビニル化合物がスチレンであり、前記共役ジエン化合物がイソプレン又はブタジエンであることを特徴とする。
【0018】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと、ポリブタジエンゴムと、スチレンーブタジエン共重合体から選ばれるいずれか少なくとも1種を主成分とするものであることを特徴とする。
更に好ましくは、前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分が、天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと、ポリブタジエンゴムとを主成分とするものであることを特徴とする。
【0019】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ポリロタキサンの直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子がマトリクスとなる上記ゴム成分と親和性を有することを特徴とする。
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ポリロタキサンの直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が疎水性であることを特徴とする。ここで「親和性を有するとは」SP値の差が5以下と同意である。
【0020】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が、ポリカプロラクトン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソブテン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、天然ゴム(NR)、ポリエチレングリコール、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびエチレンーポリプロピレン共重合体からなる群から選択されたものであるか、又はスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン及び2,4,6−トリメチルスチレンからなる群から選択された芳香族ビニル化合物の重合体であるか、又は1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン及び1,3−ヘキサジエンからなる群から選択された共役ジエン化合物の重合体であるか、又はそれら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合体であることを特徴とする。
【0021】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする。
【0022】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子が、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ベンゾクラウン、ジベンゾクラウン及びジシクロヘキサノクラウンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0023】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子がシクロデキストリンであることを特徴とする。
【0024】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子がα、β、またはγ−シクロデキストリンであることを特徴とする。
【0025】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記封鎖基が、前記環状分子の内面の直径より大きいことを特徴とする。更に好ましくは、前記封鎖基が、ジニトロフェニル基類、アダマンチル基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類からなる群から選択されることを特徴とする。
【0026】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子の内面の直径が、包摂するゲスト分子である前述直鎖状分子または1の分岐点を有する分子の包摂を意図した部分の最大直径よりも大きく、かつその3倍を越えないことを特徴とする。
【0027】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子の包接量は、前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が環状分子を包接する最大量である最大包接量を1とすると、0.001〜0.6であることを特徴とする。
【0028】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ポリロタキサンのホスト部分となっている環状分子同士の架橋に用いる架橋剤が、前述環状分子の有する官能基同士を化学反応により連結できるものであることが必須であり、たとえばシクロデキストリン類を環状分子として用いる場合は、該架橋剤はアルコール性水酸基と縮合ないしは置換等の反応により結合することのできる官能基を分子内に複数有する化合物であることが必要である。これら複数の官能基は互いに同一でも違っていてもよい。特に塩化シアヌル、分子内に2以上のカルボン酸無水物基を有する化合物(たとえばトリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド)、エピクロロヒドリン、分子内に2以上の活性ハロゲンを有する化合物(たとえばジブロモベンゼン)、グルタールアルデヒド、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物(フェニレンジイソシアネートおよびこれらの部分縮合物(ポリウレタン原料として一般に流通しているクルードMDI等の呼称で知られる)、ジイソシアン酸トリレイン(ポリウレタン原料として一般に流通しておりTDIの呼称で知られる)、1,8−ジイソシアネートオクタン)、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール及びアルコキシシランからなる群から選択されることを特徴とする。
なお、本発明において架橋ポリロタキサンを用いることは好適であるが、架橋ポリロタキサンをゴム組成物中に配合する代わりに、ポリロタキサンをゴム組成物に配合した後に該ポリロタキサンを架橋することも可能である。かかる態様によっても本発明の効果を達成することが可能であり、本発明の範囲内である。この場合、架橋剤はポリロタキサンをゴム組成物に配合する際、あるいは配合した後かつ加硫反応前にゴム組成物中に別途配合することによってし、その後ゴム組成物の加硫反応時に同時に架橋を達成できるほか、ゴム組成物の加硫前または後に溶液として塗布するなどの方法によって含浸させ、さらに熱処理を加えることによって、ゴム組成物中のポリロタキサンと反応させる事ができる。いずれの方法をとる場合でも、ポリロタキサン間の架橋反応と、マトリクスとなるゴムの加硫反応を同時に達成できる観点から、架橋剤の添加はゴム組成物を加硫する前である事がこのましい。
【0029】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ゴム成分は、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)及びブチルゴム(IIR)からなる群から選択されることを特徴とする。
【0030】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ゴム成分のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることを特徴とする。
【0031】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ゴム成分が、ビニル含量が30%以下のポリブタジエンゴム(BR)であることを特徴とする。
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記ゴム成分は、天然ゴム(NR)とシス−1,4−ポリブタジエンゴム(BR)からなることを特徴とする。
【0032】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、更に、カーボングラック及び白色充填剤からなる群から選択される少なくとも一種の充填剤を含むことを特徴とする。
【0033】
また、本発明のタイヤは、上記ゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とする。
【0034】
また、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在して、これら各部を補強するラジアルカーカスと、前記ビード部内に夫々埋設したビードコアのタイヤ半径方向外側に配置したビードフィラーと、前記サイドウォール部の前記カーカスの内側面に配置した一対のサイド補強層とを具えた空気入りタイヤにおいて、上記サイド補強層及び/又はビードフィラーのゴム組成物として、
更に硫黄および充填剤を含む上記ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対して、前記ポリロタキサン又は架橋ポリロタキサンを0.1〜20質量部、前記硫黄を2質量部以上、前記充填剤を10〜100質量部を含むことを特徴とする。
【0036】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記充填剤として少なくともカーボンブラックを一部含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、スタッドレスタイヤのドライ性能、氷上性能及び磨耗性能を向上させることが可能なゴム組成物を提供することができる。また、かかるゴム組成物をトレッドに用いることにより、ドライ性能、ウェット性能、氷上性能及び磨耗性能に優れたスタッドレスタイヤを提供することができる。
【0038】
また、本発明によれば、通常走行時の乗り心地、ランフラット走行時とランフラット耐久性の双方に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明のゴム組成物は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分に、環状分子と、該環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子と、該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有するポリロタキサン、または前記ポリロタキサンが架橋された架橋ポリロタキサンを含む。なお前記芳香族ビニル化合物は好ましくはスチレンであり、前記共役ジエン化合物は好ましくはイソプレン又はブタジエンである。また前記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とするゴム成分は、好ましくは天然ゴム及び/又はポリイソプレンゴムと、ポリブタジエンゴムとを主成分とするものである。
【0041】
本発明のゴム組成物に使用するポリロタキサンは、物理ゲルにも化学ゲルのいずれにも分類されない新しい種類のゲル、即ち「環動ゲル又はトポロジカルゲル」である。ここで使用するポリロタキサンは、環状分子(回転子:rotator)の開口部を直鎖状分子(軸:axis)又は1の分岐点を有する分子で串刺し状に貫通して環状分子を直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子で包接し、且つ環状分子が脱離しないように直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の末端に封鎖基を配置してなる。
【0042】
また、かかるポリロタキサンを複数架橋し、環動ゲルに適用可能な架橋ポリロタキサンとすることができる。この架橋ポリロタキサンは、直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子に串刺し状に貫通されている環状分子が当該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子に沿って移動可能であるという滑車効果のために粘弾性を有し、張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させることができるので、従来の架橋ポリマーとは異なり、クラックや傷が極めて生じ難いという優れた性質を有するものである。このような架橋ポリロタキサンは、例えば特許第3475252号公報などに記載されている。
【0043】
すなわち、架橋ポリロタキサンはスライドリングゲルとも言われ、その中に8の字架橋点が存在し、その位相幾何学的な拘束により高分子ネットワークが形成されている。その8の字架橋点は滑車と類似した形をしており、滑車架橋点とも言われている。架橋ポリロタキサンからなるスライドリングゲルは、架橋点が自由に動いてネットワークの不均一性を解消するという特性を有する。すなわちスライドリングゲルを伸長すると架橋点にすべりが生じ、張力が均一になるように高分子間で長さを調節するという「滑車効果」が働くので力が分散される。よってスライドリングゲルは切れ難く、小さな応力でよく伸びるという特性を有する。一方、スライドリングゲルの歪みが一定以上になると、ストッパーとして働く封鎖基によって上記で述べた架橋点のすべりが抑制され、高分子鎖の伸びきりが始まり、応力伸長曲線は急速に立ち上がる。そして力を緩めるとゲル内部では逆の過程をたどり元の状態へ戻るので、架橋ポリロタキサンのようなスライドリングゲルは独自の物性を示す。すなわち、かかる架橋ポリロタキサンは歪みが低い状態では通常のエラストマー対比極めて低弾性率であり、歪みが高い状態では通常のエラストマーに近い高弾性率となる特異な性質を有する。
【0044】
また、かかるポリロタキサンの溶液は、水等の適切な膨潤溶媒と前記環状分子同士の親和性のバランスが満たされた場合、いわゆるLCST型のゾルゲル転移現象が認められ、結果として低温では低弾性率、高温では高弾性率となる、特異な性質を有することが知られている。架橋ポリロタキサンのゲルにおいても、そのような効果が期待される。
【0045】
すなわち、シクロデキストリンのような環状分子が上記で述べた滑車架橋点として作用するようなゴム組成物を調製すると、高温時にはそのシクロデキストリン部分が分子鎖の運動性の高まりによって集まり、シクロデキストリン同士が物理性相互作用により擬似架橋を更に形成することにより弾性率の向上が起こる。理論的には一つのポリロタキサン直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子に一つ以上の滑車架橋点が存在すると、効果が顕著に上昇する。
【0046】
以上のようなポリロタキサンないしは架橋ポリロタキサンの特性により、該ポリロタキサンないしは架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をトレッドに用いてタイヤを作製すると、低温かつ低歪では動的貯蔵弾性率(G’)が低くなることにより氷上性能が向上
する。一方で、高温かつ高歪では動的貯蔵弾性率(G’)が高くなりドライハンドリング
性能の改善が達成される。これらにより冬季性能およびドライ性能が好ましく高められたタイヤを得ることが出来る。
さらに、前述のようなポリロタキサンないしは架橋ポリロタキサンの特性により、該架橋ポリロタキサンをサイド補強型のランフラットタイヤのサイド補強ゴムおよび・またはビードフィラーに使用すると、歪みが低い通常走行時には低弾性となり、歪みが高いランフラット走行時には高弾性となる。よって通常走行時の優れた乗り心地と、ランフラット走行時のたわみ抑制を両立することができる。すなわち、架橋ポリロタキサンは滑車架橋点を有するので、低歪領域では架橋点がフレキシブルであるために低弾性となり、一方高歪領域では伸びきりが起こるために高弾性となるために、本発明で目的とする効果を得ることができる。
【0047】
なお、架橋していないポリロタキサンでも、温度等の周囲の環境によるシクロデキストリンのような環状分子同士の物理架橋は起こすことが可能であるため、架橋ポリロタキサン程の効果は得られないものの、架橋していないポリロタキサンでも本発明で目的とする効果を得ることができる。
【0048】
また、代表的なポリロタキサンや架橋ポリロタキサンにあっては、環状分子としてシクロデキストリン類が用いられることが多いが、該環状分子中に親水性の高い水酸基を多数有しているためにゴム成分に好ましく用いられる極性の低いジエン系エラストマー分子に対する親和性は一般に低い。他方、ポリロタキサンはゴム成分と完全に相溶であると、同じ、または異なるゲスト分子を包摂する異なる環状分子同士が物理架橋を起こすことが困難となるために、効果が低下する。本発明で目的とする効果を得るためには、ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンはゴム組成物中で、ゴム組成物としての破壊強度を損なわない程度に小さいドメインサイズを有する事が好ましいが、同時に、前述環状分子同士が物理架橋して弾性率に影響を及ぼす程度のドメインサイズを有することが好ましい。つまり、ポリロタキサンないしは架橋ポリロタキサンがゴム組成物中で分子相溶せず、適度な大きさの島の状態で存在ことにより所望の効果を高める事ができると考えられる。以上の観点より本発明において、ポリロタキサンを構成する直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が疎水性であることは好適な態様である。なお直鎖状分子が疎水性であるポリロタキサンについては、例えば特開2007−63398号公報に記載されている。
【0049】
さらに本発明において前記ポリロタキサンのホスト部分となっている環状分子同士の架橋に用いる架橋剤が、前述環状分子の有する官能基同士を化学反応により連結できるものであることが必須であり、たとえばシクロデキストリン類を環状分子として用いる場合は、該架橋剤はアルコール性水酸基と縮合ないしは置換等の反応により結合することのできる官能基を分子内に複数有する化合物であることが必要である。これら複数の官能基は互いに同一でも違っていてもよい。特に塩化シアヌル、分子内に2以上のカルボン酸無水物基を有する化合物(たとえばトリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド)、エピクロロヒドリン、分子内に2以上の活性ハロゲンを有する化合物(たとえばジブロモベンゼン)、グルタールアルデヒド、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物(フェニレンジイソシアネートおよびこれらの部分縮合物(ポリウレタン原料として一般に流通しているクルードMDI等の呼称で知られる)、ジイソシアン酸トリレイン(ポリウレタン原料として一般に流通しておりTDIの呼称で知られる)、1,8−ジイソシアネートオクタン)、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール及びアルコキシシラン類からなる群から選択されるのが好適であるが、それらに限定されるものではない。
【0050】
なお、本発明において架橋ポリロタキサンを用いることは好適であるが、架橋ポリロタキサンをゴム組成物中に配合する代わりに、ポリロタキサンをゴム組成物に配合した後に該ポリロタキサンを架橋することも可能である。かかる態様によっても本発明の効果を達成することが可能であり、本発明の範囲内である。この場合、架橋剤はポリロタキサンをゴム組成物に配合する際、あるいは配合した後かつ加硫反応前にゴム組成物中に別途配合することによってし、その後ゴム組成物の加硫反応時に同時に架橋を達成できるほか、ゴム組成物の加硫前または後に溶液として塗布するなどの方法によって含浸させ、さらに熱処理を加えることによって、ゴム組成物中のポリロタキサンと反応させる事ができる。いずれの方法をとる場合でも、ポリロタキサン間の架橋反応と、マトリクスとなるゴムの加硫反応を同時に達成できる観点から、かかる架橋剤の添加はゴム組成物を加硫する前である事がこのましい。この実施態様の場合、架橋剤はゴムマトリクスとある程度の親和性を持つものが好ましく、塗布による含浸を行う場合は、ゴムマトリクスに親和性の高い適当な溶媒に可溶であることがこのましい。
【0051】
本発明は、環状分子と、該環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子と、該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有する上記ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンを、ゴム組成物中に含むことを最も顕著な特徴とする。ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1から20質量部であることが好ましい。ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンが0.1質量部に満たないと本発明の効果を達成できず、20質量部を超えると、架橋点が過多となり破断伸び(Eb)が低下するという弊害を生じるおそれがある。
【0052】
本発明において使用することができる直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の具体例としては、ポリカプロラクトン、天然ゴム(NR)、親水性ポリマー、例えばポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体など;疎水性ポリマー、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソブテン−イソプレン共重合体、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂など、更にはポリイソプレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、やアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体;スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン及び2,4,6−トリメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物の重合体;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエン化合物の重合体;及びそれら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合体を挙げることができる。
【0053】
これらのうち、本発明のゴムマトリクスとなる共役ジエン系ゴムと親和性を持つものがこのましい。特にポリカプロラクトン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソブテン、イソブテン−イソプレン共重合体、ポリイソプレン、天然ゴム(NR)、ポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選択されたものであるか、又はスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン及び2,4,6−トリメチルスチレンからなる群から選択された芳香族ビニル化合物の重合体であるか、又は1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン及び1,3−ヘキサジエンからなる群から選択された共役ジエン化合物の重合体であるか、又はそれら芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物の共重合体が好ましい。中でもポリカプロラクトンは特に好ましい。また、十分な力学的な効果を得るため、更には環状分子への包接のしやすさ、ゴム配合時の作業性及び生産性の観点から、該直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子の数平均分子量は1,000〜100,000であることが好ましく、特に好ましくは1,000〜100,000がこのましい。
【0054】
さらに環状分子の具体例としては、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類及びジシクロヘキサノクラウン類を挙げることができる。シクロデキストリン類は好ましく、中でもα、β、またはγ−シクロデキストリンおよびその誘導体は特に好ましい。前記直鎖状または1の分岐点を持つ分子の側鎖の嵩高さと前記環状分子の内径の関係がある範囲にある場合に両者が効率的に会合して望まれる包摂物が得られやすいことが知られている。このため、嵩高い側鎖をもたないポリエチレングリコールや1,4−シスポリブタジエンのような高分子を前記直鎖状または1の分岐点を持つ高分子として用いる場合は、内径の小さなα−シクロデキストリンおよびその誘導体が特に好ましい。ポリカプロラクトンを前記直鎖状または1の分岐点を持つ高分子として用いる場合もこれらと同様である。他方、より嵩高い側鎖を持つ高分子を前記直鎖状または1の分岐点を持つ高分子として用いる場合は、より大きな内径を持つβ―またはγ―シクロデキストリンおよびその誘導体が好ましく用いられる。このような場合の例として、たとえばポリイソブチレンやポリジメチルシロキサンを前記直鎖状または1の分岐点を持つ高分子として用いる場合はγ―シクロデキストリンを用いる事がこのましい。
【0055】
さらに封鎖基の具体例としては、採用する前記環状分子の内径よりも嵩高い封鎖基であれば、本発明で期待する効果を満足に発揮できるが、環状分子がシクロデキストリン類のばあいはジニトロフェニル基類、アダマンチル基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類を挙げることができる。
【0056】
本発明のゴム組成物の他の好適例において、前記環状分子の内面の直径が、包摂するゲスト分子である前述直鎖状分子または1の分岐点を有する分子の包摂を意図した部分の最大直径よりも大きく、かつその3倍を越えないことが好適で、さらに好ましくは2倍を超えないことが好適である。この範囲以下では前述環状分子に対して包摂することができず、この範囲以上でも包摂が行われにくい。これは包摂に際しての系のエネルギー低減が十分に行われないためと考えられる。
【0057】
さらに本発明において前記環状分子の包接量は、環状分子が直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子上に最大限に存在できる量、即ち前記直鎖状分子又は1の分岐点を有する分子が環状分子を包接する最大量である最大包接量を1とすると、0.001〜0.6であることが好適であるが、その範囲に限定されるものではない。
【0058】
本発明のゴム組成物におけるゴム成分は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体、又は共役ジエン化合物重合体、又は天然ゴムを主成分とし、具体的には、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。これらゴム成分は、一種単独で用いても、二種以上のブレンドとして用いてもよい。
【0059】
なお、本発明のゴム組成物を特に冬季性能が高められたタイヤのトレッドに適用する場合には、前記ゴム成分が、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)を主成分とすることが好ましく、特に前記ゴム成分が、ビニル含量が30%以下のポリブタジエンゴム(BR)であることは特に好適である。かかるポリブタジエンゴムは低温で柔らかく、接地面積と氷上性能、スノーブレーキ性能等を向上させる事ができるからである。前記ゴム成分のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることが好ましく、−50℃以下であることがより好ましい。かかる低いガラス転移温度(Tg)を有することにより同様に、接地面積と氷上性能、スノーブレーキ性能を向上させる事ができるからである。
【0060】
また、本発明のゴム組成物において、ゴム成分とポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサンに加えて、カーボンブラック及び白色充填剤からなる群から選択される少なくとも1種の充填剤を含むことが好ましい。これらの充填材は複数種類を併用することもできる。なお、本発明のゴム組成物を特に冬季性能が高められたタイヤのトレッドに適用する場合には、ゴム成分100質量部に対して添加する充填剤の量は5〜200質量部の範囲が好ましく、20〜100質量部の範囲が更に好ましく、本発明のゴム組成物をサイド補強層及び/又はビードフィラーに適用する場合には、ゴム成分100質量部に対して添加する充填剤の量は10から100質量部の範囲が好ましい。充填剤の量がこの範囲より多いと加工性が劣るほか弾性率の過多により必要な柔軟性を確保する事が困難になるし、少ないばあいは充填剤による補強性が低下して破壊強度や耐摩耗性などの必要特性が低下するからである。なお、本発明のゴム組成物をサイド補強層及び/又はビードフィラーに適用する場合には、上記充填剤としてカーボンブラックを使用することが好ましい。本発明で使用することができるカーボンブラックは特に限定されるものではなく、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのもの等を用いることができる。カーボンブラックを配合することでゴム組成物の諸物性を改善することができるが、耐摩耗性を向上させる観点からはHAF、ISAF、SAFグレードのものが特に好ましい。
【0061】
一方、上記白色充填剤としては、シリカ及び水酸化アルミニウム、および珪素とアルミの混合酸化物および水酸化物等が挙げられ、これらの中でも、シリカが好ましい。該シリカとしては、特に限定されず、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。これらの白色充填材も複数種類を同時に併用することも出来る。
【0062】
なお、充填剤としてシリカを用いる場合、その補強性を更に向上させる観点から、シランカップリング剤を配合時に添加することが好ましい。該シランカップリング剤としては、加水分解した際にシラノール基を与えるような官能基と、加硫反応時にジエン系エラストマーの主鎖とイオウ架橋による化学結合を達成しうる官能基を同時に有していればよく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド等が挙げられ、これらの中でも、補強性改善効果や加工性等の観点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、およびこれらの混合物が好ましい。これらシランカップリング剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
また、本発明のゴム組成物が冬季性能が高められたタイヤのトレッドに用いられる場合は、タイヤ使用時のトレッド表面に独立性気泡を生じさせるような添加物を添加することにより、更に氷雪上の踏面内で氷雪の融解によって発生した水分を効率的に除去して摩擦力を向上させる事ができるため好ましい。なかでも簡便性とトレッド材料の柔軟性を長期にわたって維持できることから発泡剤を添加することが好ましい。ここで、該発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生す
る重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソフタルアミド、トル
エンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルセミカルバジド、P,P’−オキシ
ビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。これら発泡剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、上記発泡剤には、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等を併用することが好ましい。発泡剤を用いる場合は、加硫時の圧力を適切に制御することで好ましい大きさの気泡をゴム組成物中に配置する事ができる。発泡剤以外にはミクロバルーンなどの中空材料を配合する手法も好ましく用いることが出来る。
【0064】
本発明のゴム組成物は、上記同様冬季性能が高められたタイヤのトレッドに用いられる場合、更に発泡剤と同時に熱可塑性樹脂からなる有機短繊維を含有することが好ましく、加硫時にゴム組成物の温度が加硫最高温度に達するまでの間に該ゴム組成物のマトリックス中で溶融又は軟化する熱特性を有する有機短繊維を含有することが更に好ましい。該有機短繊維は、結晶性高分子から形成されていても、非結晶性高分子から形成されていても、結晶性高分子と非結晶性高分子とから形成されていてもよいが、結晶性高分子から形成されることが好ましい。
【0065】
上記結晶性高分子としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、シンジオタクティック−1,2−ポリブタジエン(SPB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の単一組成重合物や、共重合、ブレンド等により融点を適当な範囲に制御したものも使用でき、更にこれらに添加剤を加えたものも使用できる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これら結晶性高分子の中でも、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体が好ましく、汎用で入手し易い点でポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)がより好ましく、融点が低く、取扱いが容易な点でポリエチレン(PE)が特に好ましい。また、上記非結晶性高分子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリロニトリル、これらの共重合体、これらのブレンド物等が挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0066】
上記有機短繊維の平均径は、特に限定されるものではないが、10〜200μmの範囲が好ましく、15〜150μmの範囲が更に好ましい。また、有機短繊維の平均長さは、特に限定されるものではないが、0.2〜10mmの範囲が好ましく、1〜10mmの範囲が更に好ましい。この場合、加硫後に、ゴムマトリックス中に長尺状の気泡を好適に形成することができ、該長尺状気泡は、ミクロな排水溝として機能し得るため、加硫ゴムの氷上性能を向上させることができる。なお、上記有機短繊維の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.2〜10質量部の範囲が好ましい。
【0067】
上記有機短繊維は、その少なくとも一部が微粒子を含有する微粒子含有有機短繊維であることが好ましい。微粒子含有有機短繊維を配合した場合、微粒子による引っ掻き効果によって、ゴム組成物の氷上性能が更に向上する。上記微粒子としては、ガラス微粒子、水酸化アルミニウム微粒子、アルミナ微粒子、鉄微粒子等の無機微粒子や、(メタ)アクリル系樹脂微粒子、エポキシ樹脂微粒子等の有機微粒子が挙げられる。これら微粒子は、一種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。上記微粒子の粒径は、特に制されるものではないが、長径(微粒子の最も長い径)が0.1〜200μmの範囲であることが好ましく、微粒子全体の80%以上が0.1〜200μmの範囲の長径を有することが更に好ましい。上記微粒子の微粒子含有有機短繊維における含有量としては、熱可塑性樹脂からなる有機短繊維100質量部に対して3〜145質量部の範囲が好ましい。微粒子の含有量が、質量部未満では、微粒子による引っ掻き効果が不十分で、氷上性能が十分でないことがあり、一方、145質量部を超えると、微粒子含有有機短繊維の紡糸操業性が悪くなる傾向がある。
【0068】
本発明のゴム組成物には、一般的なゴム用架橋剤を用いることができ、架橋剤と加硫促進剤とを組み合わせて用いることが好ましい。ここで、架橋剤としては、硫黄等が挙げられ、架橋剤の使用量は、上記ゴム成分100質量部に対して硫黄分として0.1〜10質量部の範囲が好ましく、1〜5質量部の範囲が更に好ましい。架橋剤の配合量がゴム成分100質量部に対して硫黄分として0.1質量部未満では、加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性及び低発熱性が低下し、10質量部を超えると、ゴム弾性が失われる。なお、本発明のゴム組成物をサイド補強層及び/又はビードフィラーに適用する場合には、架橋剤の中でも硫黄を用いることが好ましく、その際、ゴム組成物における硫黄の含量が、上記ゴム成分100質量部に対して2質量部以上であることが好ましい。硫黄は最も一般的に用いられている加硫剤であり、2質量部以上配合することにより目的とする加硫効果を達成することができる。
【0069】
一方、上記加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、2−メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等のチアゾール系加硫促進剤、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系加硫促進剤等が挙げられる。該加硫促進剤の使用量は、上記ゴム成分100質量部対して0.1〜5質量部の範囲が好ましく、0.2〜3質量部の範囲が更に好ましい。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
本発明のゴム組成物には、軟化剤としてプロセスオイル等を用いることができ、該プロセスオイルとしては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマチック系オイル等が挙げられる。これらの中でも、引張強度及び耐摩耗性の観点からは、アロマチック系オイルが好ましく、ヒステリシスロス及び低温特性の観点からは、ナフテン系オイル及びパラフィン系オイルが好ましい。これらプロセスオイルの使用量は、上記ゴム成分100質量部に対して100質量部以下の範囲が好ましく、30質量部以下の範囲が更に好ましい。プロセスオイルの使用量がゴム成分100質量部に対して100質量部を超えると、加硫ゴムの引張強度、耐摩耗性、及び低発熱性が悪化する傾向がある。
【0071】
本発明の好適な一態様において、上記ゴム組成物には、前述のゴム成分、ポリロタキサンまたは架橋ポリロタキサン、充填剤、シランカップリング剤、発泡剤、発泡助剤、有機短繊維、架橋剤、加硫促進剤、軟化剤の他に、例えば、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤等通常ゴム業界で用いられる添加剤を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。使用するゴム成分及び配合剤の種類、並びにその配合比を適宜選択することにより、上記ゴム組成物の物性を調整することができる。
【0072】
本発明のゴム組成物は、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって得られ、成形加工後、加硫を行い、タイヤのトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビード等のタイヤ用途を始め、防振ゴム、ベルト、ホース、その他の工業製品等にも用いることができるが、タイヤのトレッド、サイド補強層、ビードフィラーとして特に好適である。
【0073】
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物をトレッドに用いたことを特徴とする。該タイヤは、低温では低弾性、高温では高弾性という性質を有する架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をトレッドに適用してなるため、ドライ性能、氷上性能及び磨耗性能に優れる。なお、本発明のタイヤは、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0074】
次に、本発明のゴム組成物をサイド補強層及び/又はビードフィラーに適用したタイヤの実施態様を図面に基づき説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施態様を示す幅方向断面図である。図1に示すタイヤは、左右一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、前記一対のビード部1間にトロイド状に延在して、これら各部1,2,3を補強するラジアルカーカス4と、該カーカス4のタイヤ半径方向外側に配置された少なくとも2枚のベルト層からなるベルト5と、前記ビード部1内に夫々埋設したリング状のビードコア6のタイヤ半径方向外側に配置したビードフィラー7と、前記サイドウォール部2の前記カーカス4の最内側面に配置した一対のサイド補強層8とを具える。
【0075】
図示例のタイヤにおいて、ラジアルカーカス4は、折り返しカーカスプライ4a及びダウンカーカスプライ4bとからなり、折り返しカーカスプライ4aの両端部は、ビードコア6の周りに折り返され、折り返し端部を形成している。なお、ラジアルカーカス4の構造及びプライ数は、これに限られるものではない。ビードフィラー7は、ビードコア6の半径方向外側で折り返しカーカスプライ4aの本体部分とその折り返し端部分との間に配置されており、また、ダウンカーカスプライ4bは、折り返しカーカスプライ4aの折り返し端部分の外側に配置されている。サイド補強層8は、主にはサイドウォール部2で折り返しカーカスプライ4aの内側に配置されている。ここで、サイド補強層8の最大厚さは6〜13mmが好ましい。図示例のサイド補強層8の形状は、断面三日月状であるが、その断面形状はサイド補強の機能を有するものであれば特に限定されない。
【0076】
本発明の空気入りタイヤにおいては前述の特定の物性を有するゴム組成物を、上記のビードフィラー7及びサイド補強層8の少なくとも一方に適用することによって、タイヤの通常走行時における乗り心地性を改善し、ランフラット耐久性を飛躍的に向上することが出来る。
【0077】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
以下に示す方法でポリカプロラクトン−カルボキシル化物(製造例1)、ポリロタキサン(製造例2)、架橋ポリロタキサン(製造例3)を合成した。
【0079】
(製造例1:ポリカプロラクトン−カルボキシル化物の合成)
分子量5,000のポリカプロラクトン(PCL)10g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gをアセトン100mlに溶解した。市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mlを添加し、室温で10分間攪拌した。残余の次亜塩素酸ナトリウムを分解させるためにエタノールを最大5mlまでの範囲で添加して反応を終了した。次いで、溶液をエバポレーターで留去し、250mlの温エタノールに溶解させてから冷凍庫(約−4℃)中に一晩静置し、PCL−カルボキシル化物のみを析出させ、回収し乾燥させた。
【0080】
(製造例2:ポリロタキサンの合成)
上述の如く調製したPCL−カルボキシル化物0.2gをアセトン50mlに溶解し、この一方で7.25gのα−CD(シクロデキストリン)を50mlの水に溶解した。両者を70℃に加熱した後、PCL−カルボキシル化物溶液をα−CD水溶液に少量ずつ加え、70℃で17分間超音波処理した。次いで、10時間静置して得られた沈殿を回収し、乾燥させ、包接錯体を得た。
【0081】
室温で、DMF(ジメチルホルムアミド)10mlにBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)試薬3g、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)1g、アダマンタンアミン1.4g、ジイソプロピルエチルアミン1.25mlをこの順番に溶解させた。得られた溶液を、DMF/DMSO混合溶媒(75/25)20mlに分散させた、上記で得られた包接錯体14gに加え、速やかに十分振り混ぜた。スラリー状になった試料を冷蔵庫中で一晩静置し、次いで、DMF/メタノール=1:1の混合溶液50mlを加えて十分に混合し、遠心分離して上澄みを捨てた。このDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mlを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。得られた沈殿を真空乾燥した後、50mlのDMSOに溶解し、得られた透明溶液を700mlの水中に滴下してポリロタキサンを析出させた。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥又は凍結乾燥させた。このDMSOに溶解−水中で析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返し、精製されたアダマンチル基で封鎖されたポリロタキサン(ブロック化ポリロタキサン)を最終的に得た。
【0082】
(製造例3:架橋ポリロタキサン1の合成)
上記のブロック化ポリロタキサン1 10gをDMF 200mlに溶解して溶液を得、別途調整した塩化シアヌル3.5gのDMF 250ml溶液を加えて、さらに1規定の水酸化ナトリウム水溶液を50ml加え、常温で3時間反応させて架橋ポリロタキサンゲルを得た。その後定法に従って溶媒を除去することによって架橋ポリロタキサンを得た。
【0083】
次に、上記のポリロタキサン1または2、または架橋ポリロタキサン1または2を用いて、表1に示す配合処方のゴム組成物を複数回調製し、調製したゴム組成物をタイヤの成形に使用した。すなわち、得られたゴム組成物をトレッドに適用して、サイズ:185/70R13のスタッドレスタイヤを試作した。また、得られたスタッドレスタイヤのG’
、氷上性能、ウェット性能、ドライ性能及び磨耗性能を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(1)貯蔵弾性率G’測定法
レオメトリックス社製の粘弾性測定装置を用いて、温度−20℃(歪0.1%)、0℃(歪0.1%)、60℃(歪5%)、周波数15Hzで貯蔵弾性率(G’)を測定した。
表1においては比較例1のゴム組成物、貯蔵弾性率(G’)をそれぞれ100として指数
表示した。貯蔵弾性率(G’)については、−20℃、0℃の値が小さい方が接地面積を
稼げるために良好であり、60℃のG’は高い方が操縦安定性およびドライブレーキ性能
は良好である。
【0085】
(2)氷上性能
排気量1600ccの乗用車に上記供試タイヤ4本を装着し、氷温−1℃の氷上での制動性能を確認した。具体的には、氷上平坦路を走行させ、時速20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの距離(制動距離)を測定し、下記式:
氷上性能=比較例1のタイヤの制動距離/試験タイヤの制動距離×100(指数)
に従って、指数化した。指数値が大きい程、制動距離が短く、氷上での制動性能に優れることを示す。
【0086】
(3)ウェット性能
排気量1600ccの乗用車に上記供試タイヤ4本を装着し、水上での制動性能を確認した。具体的には、水上平坦路を走行させ、時速20km/hの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの距離(制動距離)を測定し、下記式:
ウェット性能=比較例1のタイヤの制動距離/試験タイヤの制動距離×100(指数)
に従って、指数化した。指数値が大きい程、制動距離が短く、水上での制動性能に優れることを示す。
【0087】
(4)ドライ性能
排気量1600ccの乗用車に上記供試タイヤ4本を装着し、乾燥路面での実車試験にて、タイヤのドライ性能をドライバーのフィーリング評点で表した。評点が高い程、ドライ性能が優れることを示す。
【0088】
(5)磨耗性能
排気量1600ccの乗用車に上記供試タイヤ4本を装着し、乗員2人相当分の荷重下、市街地及び山坂道における50000kmの実施走行テストを行い、走行後のトレッド浅溝の深さを測定した。浅溝測定は、センター付近の溝にて周状10ヶ所の平均値とし、比較例1を100として指数表示した。数値が大きい方が良好である。
【0089】
表1に実施例1から5及び12、及び比較例1から7の結果を示す。実施例1では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤについて検討した。実施例2では架橋したポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤについて検討した。実施例3では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤにつき、塩化シアヌルDMF溶液(14g/L)を未加硫タイヤのトレッドに塗布し、その後加硫して、架橋反応と加硫反応を同時に平行して行なったものについて検討した。同様に実施例12ではポリロタキサンを配合した後に、表1に示す量の架橋剤(1,8−ジイソシアネートオクタン)を配合したうえで加硫することによって、架橋反応と加硫反応を同時に平行して行なったものについても検討した。実施例4では天然ゴム(NR)の配合部数を増加したゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤについて検討した。実施例5ではポリブタジエンゴム(BR)の配合部数を増加したゴム組成物をトレッドに適用したスタッドレスタイヤについて検討した。一方比較例においてはポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合していないゴム組成物(比較例1、3〜7)をトレッドに適用したスタッドレスタイヤと、製造例1で作成したポリカプロラクトン−カルボキシル化物を10phr配合したゴム組成物(比較例2)をトレッドに適用したスタッドレスタイヤについて検討した。
【0090】
【表1】
【0091】
*1 UBEPOL 150L
*2 N134(N2SA:146m2/g)
*3 Nipsil AQ(日本シリカ(株)製)
*4 Si69(Degussa社製)
*5 N−イソプロピル−N’−フェニル−P−フェニレンジアミン
*6 ジベンゾチアジルスルフィド
*7 N−シクロヘキシル−2−ベンゾジアゾ−ルスルフェンアミド
*8 ジニトロペンタメチレンテトラミン
【0092】
ポリロタキサン(実施例1)あるいは架橋ポリロタキサン(実施例2)を配合したゴム組成物をスタッドレスタイヤのトレッドに適用することにより、ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合しないゴム組成物を用いた場合(比較例1)と比較して、60℃のG’、氷上性能、ウェット性能、ドライ性能及び磨耗性能が明らかに改善されること
が判った。またポリロタキサンを配合した後に、トレッドの加硫とポリロタキサンの架橋を行った場合(実施例3および12)においても同様に、60℃のG’、氷上性能、ウェ
ット性能、ドライ性能及び磨耗性能の明らかな改善が認められた。天然ゴム(NR)の配合部数を増加した場合(実施例4)とポリブタジエンゴム(BR)の配合部数を増加した場合(実施例5)でも、やはり60℃のG’、氷上性能、ウェット性能、ドライ性能及び
磨耗性能の明らかな改善が認められた。一方PCL−カルボキシル化物を配合したゴム組成物をトレッドに適用した場合は(比較例2)、そのような効果は認められなかった。比較例3〜7においても同様であり、磨耗性能等において劣っているという結果が得られた。
【0093】
次に、上記のPCL−カルボキシル化物、ポリロタキサン、架橋ポリロタキサンを用いて下記表2と表3に示す配合処方のゴム組成物を調製し、調製したゴム組成物をタイヤの成形に使用した。すなわち、そのゴム組成物をサイド補強ゴム(表2)、あるいはサイド補強ゴムとビードフィラーゴム(表3)に適用し、サイズ:185/70R13のランフラットタイヤを試作した。そのランフラットタイヤにつき、下記に示す方法でランフラット耐久性及び乗り心地性を測定した。
【0094】
(6)ランフラット耐久性
各試供タイヤを大気圧でリム組みし、内圧230kPaを封入してから38℃の室内中に24時間放置後、バルブのコアを抜き、タイヤ内圧を大気圧として、荷重4.17kN(425kg)、速度89km/h、室内温度38℃の条件でドラム走行テストを行なった。各試供タイヤの故障発生までの走行距離を測定し、比較例8又は10の走行距離を指数100として、以下の式により指数表示した。指数が大きい程、ランフラット耐久性が良好である。
ランフラット耐久性(指数)=(試供タイヤの走行距離/比較例8又は10のタイヤの走行距離)×100
【0095】
(7)乗り心地性
各試作タイヤを乗用車に装着し、専門のドライバー2名により乗心地性のフィーリングテストを行い、1〜10の評点をつけその平均値を求めた。該値が大きい程、乗り心地が良好であることを示す。
【0096】
表2に実施例6から8及び比較例8と9の結果を示す。実施例6では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。実施例7では架橋したポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。実施例8では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムに適用したランフラットタイヤにつき、塩化シアヌルのトルエン溶液(14g/L)を未加硫タイヤのサイド補強ゴムに塗布し、その後加硫して、架橋反応と加硫反応を同時に平行して行なったものについて検討した。一方比較例においてはポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合していないゴム組成物(比較例8)をサイド補強ゴムに適用したランフラットタイヤと、PCL−カルボキシル化物を10phr配合したゴム組成物(比較例9)をサイド補強ゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。
【0097】
表3に実施例9から11及び13、および比較例10と11の結果を示す。実施例9では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。実施例10では架橋したポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。実施例11では架橋していないポリロタキサン10phrを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに適用したランフラットタイヤにつき、塩化シアヌルDMF溶液(14g/L)を未加硫タイヤのサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに塗布し、その後加硫して、架橋反応と加硫反応を同時に平行して行なったものについて検討した。同様に実施例13ではポリロタキサンを配合した後に、表3に示す量の架橋剤(1,8−ジイソシアネートオクタン)を配合したうえで加硫することによって、架橋反応と加硫反応を同時に平行して行なったものについても検討した。一方比較例においてはポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合していないゴム組成物(比較例10)をサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに適用したランフラットタイヤと、PCL−カルボキシル化物を10phr配合したゴム組成物(比較例11)をサイド補強ゴムとビードフィラーゴムに適用したランフラットタイヤについて検討した。
【0098】
【表2】
【0099】
*1 UBEPOL 150L
*2 N134(N2SA:146m2/g)
*3 N−イソプロピル−N’−フェニル−P−フェニレンジアミン
*4 N−シクロヘキシル−2−ベンゾジアゾ−ルスルフェンアミド
【0100】
【表3】
【0101】
*1 UBEPOL 150L
*2 N134(N2SA:146m2/g)
*3 N−イソプロピル−N’−フェニル−P−フェニレンジアミン
*4 N−シクロヘキシル−2−ベンゾジアゾ−ルスルフェンアミド
【0102】
ポリロタキサン(実施例6)あるいは架橋ポリロタキサン(実施例7)を配合したゴム組成物をサイド補強ゴムに適用することによりと、ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合しない場合と比較して(比較例8)、ランフラット耐久性と乗り心地指数が明らかに改善されることが判った。またポリロタキサンを配合した後に、サイド補強ゴムの架橋をポリロタキサンの架橋と同時におこなった場合においても(実施例8)、架橋ポリロタキサンを配合した場合と同様に、ランフラット耐久性と乗り心地指数の明らかな改善が認められた。なおPCL−カルボキシル化物を配合したゴム組成物をサイド補強ゴムに適用した場合は(比較例9)、ランフラット耐久性と乗り心地指数の改善は認められなかった。
【0103】
ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムおよびビードフィラーゴムに適用することにより(実施例9と10)、ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合しない場合と比較して(比較例10)、ランフラット耐久性と乗り心地指数が明らかに改善されることが判った。またポリロタキサンを配合した後に、サイド補強ゴムとビードフィラーゴムの加硫をポリロタキサンの架橋と同時におこなった場合においても(実施例11および13)、架橋ポリロタキサンを配合した場合と同様に、ランフラット耐久性と乗り心地指数の明らかな改善が認められた。なおPCL−カルボキシル化物を配合したゴム組成物をサイド補強ゴムおよびビードフィラーゴムに適用した場合は(比較例11)、ランフラット耐久性と乗り心地指数の改善は認められなかった。
【0104】
更にポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をサイド補強ゴムのみに適用した場合(実施例6〜8)と、サイド補強ゴムおよびビードフィラーゴムに適用した場合(実施例9〜11および13)を比較すると、後者の方がランフラット耐久性と乗り心地指数の改善効果がより高くなる傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をトレッドに用いることにより、氷上性能、ドライ性能及び磨耗性能が改善されたタイヤを提供することができる。
【0106】
また、本発明によれば、ポリロタキサンあるいは架橋ポリロタキサンを配合したゴム組成物をサイド補強層、あるいはサイド補強層及びビードフィラーに用いることにより、ランフラット走行時のランフラット耐久性と、通常走行時の乗り心地とを改善した空気入りタイヤを提供することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 ラジアルカーカス
4a 折り返しカーカスプライ
4b ダウンカーカスプライ
5 ベルト
6 ビードコア
7 ビードフィラー
8 サイド補強層
図1