特許第6019166号(P6019166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019166帯電防止性シートの製造方法及び帯電防止性成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6019166
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】帯電防止性シートの製造方法及び帯電防止性成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20161020BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20161020BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20161020BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20161020BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20161020BHJP
   B29C 71/00 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 163/10 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20161020BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20161020BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C08J7/04 DCET
   C08J7/00 303
   B32B27/30 B
   B05D3/06 D
   B05D5/12 C
   B29C71/00
   C09D5/24
   C09D7/12
   C09D163/10
   C09D167/00
   C09D201/00
   H01B13/00 503Z
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-91649(P2015-91649)
(22)【出願日】2015年4月28日
【審査請求日】2016年4月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】品田 憲賢
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−117906(JP,A)
【文献】 特開2006−143922(JP,A)
【文献】 特開平10−296856(JP,A)
【文献】 特開2010−043215(JP,A)
【文献】 特開2000−080184(JP,A)
【文献】 特開2007−211219(JP,A)
【文献】 特開2008−297331(JP,A)
【文献】 特開2013−199690(JP,A)
【文献】 特開2010−114066(JP,A)
【文献】 特開昭62−138244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00 − 7/18
B05D 1/00 − 7/26
B29C 71/04
B29B 7/00 − 11/14
B29B 13/00 − 15/06
B29C 31/00 − 31/10
B29C 37/00 − 37/04
B29C 71/00 − 71/02
B32B 1/00 − 43/00
C09D 1/00 − 10/00
C09D101/00 −201/10
H01B 13/00
H01B 13/012− 13/016
H01B 13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面を、金属棒を誘電体で被覆した誘電体被覆電極を具備するコロナ放電処理装置を用い、放電量30W・分/m以上の条件でコロナ放電処理して表面改質する工程と、
表面改質したスチレン系樹脂基材の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、自己架橋性樹脂及び分散媒を含む導電性高分子分散液を塗工して帯電防止性塗膜を形成する工程と、を有し、
前記自己架橋性樹脂が、酸基のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含む、帯電防止性シートの製造方法。
【請求項2】
前記誘電体被覆電極が、アルミニウム棒をセラミックで被覆した電極である、請求項1に記載の帯電防止性シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とジグリコール成分との重縮合物であり、前記ジカルボン酸成分は、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸を含み、前記ジグリコール成分は、ジエチレングリコールを含む、請求項1又は2に記載の帯電防止性シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の帯電防止性シートの製造方法により製造した帯電防止性シートを成形する、帯電防止性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性シートを製造する帯電防止性シートの製造方法に関する。また、本発明は、帯電防止性シートを成形する帯電防止性成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品用トレー等を保護するための保護シートには帯電防止性シートが使用されている。帯電防止性シートとしては、例えば、樹脂フィルムの基材の表面に、π共役系導電性高分子およびバインダを含有する分散液を塗布して帯電防止性塗膜を形成して得たものが知られている(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、π共役系導電性高分子からなる水溶液を塗布した従来の帯電防止性シート、あるいはその帯電防止性シートを熱成形して得たトレー成形品は、帯電防止性塗膜の耐水性や耐溶剤性が乏しいという問題があった。帯電防止性シート及びこれを熱成形したトレー成形品を使用する際には、表面に付着した汚れやパーティクルを除去するために、水やアルコール等の溶剤を染みこませたガーゼ等を用いて拭き取りがなされる。しかし、塗膜の耐水性または耐溶剤性が低いと、拭き取り作業の際に帯電防止性塗膜が剥離するという不具合があった。
そこで、π共役系導電性高分子にバインダと架橋剤を混合した水溶液を用いて帯電防止性塗膜を形成して、プラスチック基材表面に熱で結着させることが提案されている(例えば特許文献2参照)。
ところが、耐熱性が低いスチレン系樹脂基材においては、塗膜の耐水性や耐溶剤性が充分に向上しないことがあった。耐熱性が低い基材を用いる場合、基材の耐熱性を考慮すると、塗膜の乾燥温度あるいは熱処理温度を90℃以下にする必要があり、また、生産速度の点から長くても数十秒程度の短時間で熱処理する必要がある。しかし、架橋剤を併用するバインダを120℃以上で熱処理した場合には瞬時に架橋が完了するものの、90℃程度の低温で且つ短時間の熱処理では結着が不充分になるため、耐水性や耐溶剤性を充分に発現させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−254764号公報
【特許文献2】特開2000−79662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、耐熱温度が低いスチレン系樹脂基材を基材として使用するにもかかわらず、帯電防止性塗膜の耐水性および耐溶剤性を充分に高くできる帯電防止性シートの製造方法及び帯電防止性成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面を、金属棒を誘電体で被覆した誘電体被覆電極を具備するコロナ放電処理装置を用い、放電量30W・分/m以上の条件でコロナ放電処理して表面改質する工程と、表面改質したスチレン系樹脂基材の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、自己架橋性樹脂及び分散媒を含む導電性高分子分散液を塗工して帯電防止性塗膜を形成する工程と、を有する、帯電防止性シートの製造方法。
[2]前記誘電体被覆電極が、アルミニウム棒をセラミックで被覆した電極である、[1]に記載の帯電防止性シートの製造方法。
[3]前記自己架橋性樹脂が、酸基のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含む、[1]又は[2]に記載の帯電防止性シートの製造方法。
[4]前記ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸成分とジグリコール成分との重縮合物であり、前記ジカルボン酸成分は、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸を含み、前記ジグリコール成分は、ジエチレングリコールを含む、[3]に記載の帯電防止性シートの製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の帯電防止性シートの製造方法により製造した帯電防止性シートを成形する、帯電防止性成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の帯電防止性シートの製造方法及び帯電防止性成形体の製造方法では、耐熱温度が低いスチレン系樹脂基材を基材として使用するにもかかわらず、帯電防止性塗膜の耐水性および耐溶剤性を充分に高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<帯電防止性シート>
本発明の帯電防止性シートの製造方法によって製造される帯電防止性シートは、スチレン系樹脂基材と、該スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面に形成された帯電防止性塗膜とを備える。
【0008】
(スチレン系樹脂基材)
スチレン系樹脂基材を構成するスチレン系樹脂は、スチレン系単量体単位を含有する重合体であり、具体的には、スチレン系硬質樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂、スチレン系エラストマーが挙げられる。
【0009】
スチレン系硬質樹脂は、ゴム成分を含まない樹脂であり、スチレン系単量体単位のみからなる単独重合体でもよいし、スチレン系単量体単位とスチレン系単量体単位以外の他の単量体単位とを含有する共重合体であってもよい。
スチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。これらスチレン系単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記スチレン系単量体のなかでは、スチレンが好ましい。
他の単量体としては、例えば、シアン化ビニル系単量体(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、メタクリル酸エステル単量体(例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等)、アクリル酸エステル単量体(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル等)が挙げられる。
スチレン系硬質樹脂としては、スチレンの単独重合体(いわゆる「GPPS」)が好ましい。
【0010】
ゴム強化スチレン系樹脂は、スチレン系硬質樹脂からなる連続相中にゴム状重合体からなる分散相が島状(粒子状)に分散した重合体のことである。ゴム状重合体は、スチレン系硬質樹脂からなるグラフト鎖を有するものが好ましい。
ゴム状重合体としては、共役ジエン系重合体(例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等)、アクリル系重合体(例えば、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、オレフィン系重合体(例えば、エチレン−プロピレン−共役ジエン共重合体等)が挙げられる。
ゴム強化スチレン系樹脂の具体例としては、耐衝撃性ポリスチレン(いわゆる「HIPS」)、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂等が挙げられる。
ゴム状重合体がHIPSである場合、ゴム状重合体の体積平均粒子径は0.05〜30μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜10μmの範囲内であることがより好ましく、0.2〜7.0μmの範囲内であることがさらに好ましく、1.0〜4.0μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0011】
スチレン系エラストマーは、スチレン−共役ジエンブロック共重合体、スチレン−共役ジエンランダム共重合体、又はこれらの水素添加物が挙げられる。該スチレン系エラストマーは、ゴム強化スチレン系樹脂とは異なり、ゴム状重合体の粒子を含まない。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、スチレン系単量体が重合して形成されたポリスチレンブロックと、共役ジエン単量体が重合して形成されたポリ共役ジエンブロックとを有する重合体が挙げられる。また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、スチレン系単量体が単独重合したポリスチレンブロックと、共役ジエン単量体及びスチレン系単量体がランダム共重合した共役ジエンスチレン共重合体ブロックとを有する重合体が挙げられる。
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペタンジエン、1,3−ヘキサジエン等が挙げられる。これら共役ジエン単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記共役ジエン単量体のなかでも、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましい。
スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエンランダム共重合体(SBR)、SBSの水素添加物であるSEBS、SISの水素添加物であるSEPS、SBRの水素添加物であるH−SBR等が挙げられる。
【0012】
上記のスチレン系樹脂のなかでは、本発明の効果がとりわけ発揮され、また、汎用的な樹脂であることから、GPPS、HIPS、SBSよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0013】
スチレン系樹脂基材には、必要に応じて、無機充填剤、有機系粒子、酸化防止剤、耐熱安定剤、滑剤、カップリング剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、離型剤、難燃剤、着色剤、ワックス等の添加剤が含まれてもよい。
無機充填剤としては、金属酸化物(例えば、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウムウィスカー、酸化カルシウム等)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられる。
有機系粒子としては、アクリル樹脂ビーズ、ポリスチレンビーズ、ナイロンビーズ、ポリエステルビーズ等が挙げられる。
【0014】
スチレン系樹脂基材の引張弾性率は、作製時の流れ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)のいずれにおいても、1500MPa以上であることが好ましく、1500〜3000MPaであることがより好ましく、1600〜2500MPaであることがさらに好ましい。スチレン系樹脂基材の引張弾性率が前記下限値以上であれば、帯電防止性シート及び該シートから作製されるトレーの剛性及び強度を向上させることができ、シートの絞り成形性も良好になる。一方、スチレン系樹脂基材の引張弾性率が前記上限値以下であれば、シートの取り扱い作業性が良好になる。具体的には、スチレン系樹脂基材の引張弾性率が前記上限値以下であれば、適度な柔軟性を有するため、シートをロール状に巻き取る作業、ロール状のシートを繰出する作業が容易となる。
上記の引張弾性率は、JIS K7127−1999に準拠し、タイプ1B試験片を使用し、温度23℃、引張速度50mm/分の条件で測定した値である。
【0015】
スチレン系樹脂基材は、導電性高分子分散液の濡れ性、帯電防止性塗膜との密着性、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性をより向上させるために、表面処理があらかじめ施されてもよい。表面処理については後述する。
表面処理が施されたスチレン系樹脂基材の表面は、濡れ指数が38mN/m以上であることが好ましく、38〜65mN/mであることがより好ましい。濡れ指数は、JIS K6768に準じて測定することができる。
濡れ指数が前記下限値以上であれば、導電性高分子分散液が弾かれずに塗工されるため、帯電防止性塗膜が容易に形成される。
【0016】
スチレン系樹脂基材の厚み(平均値)は、0.2〜3mmであることが好ましく、0.3〜2mmであることがより好ましく、0.4〜1.5mmがさらに好ましく、その範囲内で、用途に応じて適宜調整される。スチレン系樹脂基材の厚みが前記下限値以上であれば、成形性が向上し、成形品の剛性や強度が高くなり、一方、前記上限値以下であれば、コストを抑えることができる。
【0017】
(帯電防止性塗膜)
帯電防止性塗膜は、π共役系導電性高分子とポリアニオンと架橋樹脂とを含む膜である。
【0018】
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、導電性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0019】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万〜100万であることが好ましく、10万〜50万であることがより好ましい。
【0021】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子に配位することによって導電性複合体を形成する。
ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0022】
ポリアニオンの含有量は、π共役系導電性高分子1モルに対して0.1〜10モルの範囲であることが好ましく、1〜7モルの範囲であることがより好ましい。ポリアニオンの含有量が0.1モルより少なくなると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがある。その上、溶媒への分散性および溶解性が低くなり、均一な分散液を得ることが困難になる。また、ポリアニオンの含有量が10モルより多くなると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0023】
ポリアニオンは、そのアニオン基の一部がπ共役系導電性高分子に配位しており、π共役系導電性高分子とポリアニオンとは複合体を形成している。π共役系導電性高分子にポリアニオンのアニオン基が配位することにより、π共役系導電性高分子がドーピングされて導電性が発現する。ポリアニオンのπ共役系導電性高分子に配位しないアニオン基は、該複合体を水に可溶化させる役割を果たす。
π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計の含有量は、帯電防止性塗膜全体を100質量%とした際の0.05〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜4.0質量%であることがより好ましい。π共役系導電性高分子とポリアニオンの合計の含有量が0.05質量%未満であると、充分な導電性が得られないことがあり、5.0質量%を超えると、均一な帯電防止性塗膜が得られないことがある。
【0024】
[架橋樹脂]
架橋樹脂は、自己架橋性樹脂が架橋した樹脂である。
自己架橋性とは、架橋剤が存在しなくても架橋し得る性質のことである。自己架橋性樹脂では、1分子に少なくとも1つの反応性官能基を有している。反応性官能基は、互いに反応可能な官能基であり、スルホン酸基、カルボン酸基あるいはこれらのアルカリ金属塩、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。これら反応性官能基は、1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
該架橋樹脂は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンの複合体をスチレン系樹脂基材に結着させる役割を果たしている。
【0025】
本発明において、自己架橋性樹脂は、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性がより高くなることから、酸基のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂(1)」という。)とグリシジル基含有アクリル系樹脂とを含むものが好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂(1)は、ジカルボン酸成分とジグリコール成分との重縮合物であって、酸基(スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等)のアルカリ金属塩を有するポリエステル樹脂である。このポリエステル樹脂(1)は極性が大きいため、水分散性に優れ、乳化剤や安定剤を使用しなくても水中に安定に分散できる。
【0027】
前記ジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及び、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。ジカルボン酸は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ジカルボン酸成分は、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基(−SO、ただし、Xはアルカリ金属イオンである。)を有するジカルボン酸を含むことが好ましい。
【0028】
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基(−SO、ただし、Xはアルカリ金属イオンである。)を有するジカルボン酸は、スルホン酸基を有するジカルボン酸におけるスルホン酸基がアルカリ金属塩にされた化合物である。
スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン酸−2,7−ジカルボン酸、またはそれらの誘導体等が挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基(−SO、ただし、Xはアルカリ金属イオンである。)を有するジカルボン酸としては、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩及びその誘導体が好ましい。
【0029】
ジカルボン酸成分における、スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基(−SO、ただし、Xはアルカリ金属イオンである。)を有するジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、イソフタル酸がより好ましい。芳香族ジカルボン酸の芳香核は、疎水性のプラスチックとの親和性が大きく、スチレン系樹脂に対する密着性が高く、また、耐加水分解性に優れる。
【0030】
スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸は、全ジカルボン酸成分中に6〜20モル%含有することが好ましく、10〜18モル%含有することがさらに好ましい。スルホン酸アルカリ金属塩型の置換基を有するジカルボン酸の含有割合が前記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂(1)の、水に対する樹脂の分散時間を短くできると共に耐溶剤性をより高くでき、前記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂(1)の耐水性がより高くなる。
【0031】
ポリエステル樹脂(1)を形成するジグリコール成分としては、ジエチレングリコール、炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコール等が挙げられる。炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール、p−キシリレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
ジグリコール成分は、耐水性及び耐溶剤性をより向上させることから、ジエチレングリコールを含むことが好ましい。
ジグリコール成分がジエチレングリコールを含む場合、ジエチレングリコールを全グリコール成分中に20〜80モル%含有することが好ましい。ジエチレングリコールの含有割合が前記範囲外である場合でもアルコールに対しては耐溶剤性が得られるが、アルコール以外のトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤に対しては、ジエチレングリコールが前記範囲外であると、耐溶剤性が不充分になることがある。
【0033】
ポリエステル樹脂(1)は、数平均分子量が2,000〜30,000であることが好ましく、2,500〜25,000であることがより好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定し、標準ポリスチレンを基に求めた値である。
ポリエステル樹脂(1)の数平均分子量が前記下限値以上であれば、ポリエステル樹脂(1)の耐水性、耐溶剤性がより高くなり、前記上限値以下であれば、ポリエステル樹脂(1)の水分散性がより高くなる。
【0034】
ポリエステル樹脂(1)の製造方法としては特に制限されず、例えば、ジカルボン酸成分とジグリコール成分とを130〜200℃でエステル化あるいはエステル交換反応させ、次に減圧条件下において200〜250℃で重縮合反応させる方法が挙げられる。前記ポリエステル樹脂(1)の製造方法において用いられる反応触媒としては、酢酸亜鉛、酢酸マンガン等の酢酸金属塩、酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、チタン化合物などが挙げられる。
得られたポリエステル樹脂(1)は、水に添加して水分散体としてもよい。ポリエステル樹脂(1)の水分散体は、固形分濃度が高くなると、均一分散体が得られにくくなるため、ポリエステル固形分濃度は30質量%以下が好ましい。
【0035】
グリシジル基含有アクリル系樹脂は、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの単独重合体、あるいは、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーと該モノマーと共重合可能な他のラジカル重合性不飽和モノマーとの共重合体である。
【0036】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類が挙げられる。グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの含有割合は、全モノマーの10〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましい。
グリシジル基含有アクリル系樹脂は、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマー単位を有することによって、自己架橋を進め、耐水性、耐溶剤性を向上させると考えられる。特にアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤および酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤に対する耐溶剤性の向上が顕著である。
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの含有割合が10質量%未満でもアルコールに対する耐溶剤性は得られるが、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤に対する耐溶剤性が不充分である。
【0037】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーと共重合可能な他のラジカル重合性不飽和モノマーとしては、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸、アリル化合物、含窒素系ビニルモノマー、炭化水素ビニルモノマーまたはビニルシラン化合物が挙げられる。他のラジカル重合性不飽和モノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
他のラジカル重合性不飽和モノマーとしては、グリシジル基との架橋によって耐溶剤性の向上効果が一層発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸モノマーを用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸モノマーの含有割合は全モノマー中の5〜20質量%であることが好ましい。不飽和カルボン酸モノマーの含有割合が前記下限値以上であれば、不飽和カルボン酸モノマーを併用する効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、経時的に液がゲル化して貯蔵安定性が低下することを抑制できる。
【0038】
グリシジル基含有アクリル系樹脂の製造方法としては特に限定なく、例えば、乳化重合によってグリシジル基含有アクリル系樹脂を製造できる。
乳化重合によるグリシジル基含有アクリル系樹脂の製造では、例えば、反応槽にイオン交換水、重合開始剤、界面活性剤を仕込み、次に滴下槽にイオン交換水と界面活性剤を仕込み、モノマーを投入して乳化物を作製した後、該乳化物を反応槽に滴下することによって乳化ラジカル重合させる。反応温度は60〜100℃とすることが好ましく、反応時間は4〜10時間とすることが好ましい。
乳化重合に使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系反応性界面活性剤及び非反応性界面活性剤の1種もしくは2種以上を使用することができる。
乳化重合に使用する重合開始剤としては一般的なラジカル重合性開始剤、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、又は過酸化ベンゾイルやt−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、あるいはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0039】
自己架橋性樹脂が上記ポリエステル樹脂(1)と上記グリシジル基含有アクリル系樹脂とからなる場合、適度に自己架橋させるためには、ポリエステル樹脂(1)/グリシジル基含有アクリル系樹脂は、固形分質量比で、10/90〜80/20であることが好ましく、20/80〜70/30であることがより好ましい。
ポリエステル樹脂(1)が10質量%以上、すなわちグリシジル基含有アクリル系樹脂が90質量%以下であると、スチレン系樹脂基材への密着性、帯電防止性塗膜の透明性がより高くなり、ポリエステル樹脂(1)が80質量%以下、すなわちグリシジル基含有アクリル系樹脂が20質量以上であると、耐水性及び耐溶剤性がより高くなる。
【0040】
自己架橋性樹脂には、必要に応じて、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤等が含まれても構わない。
【0041】
帯電防止性塗膜中の架橋樹脂の含有量は87.0〜98.5質量%であることが好ましく、90.0〜98.0質量%であることがより好ましい。架橋樹脂の含有量が前記下限値以上であれば、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性をより高くでき、前記上限値以下であれば、充分な帯電防止性を確保できる。
【0042】
帯電防止性塗膜の厚み(平均値)は、0.01〜10μmであることが好ましく、0.05〜7μmであることがより好ましく、0.1〜5μmがさらに好ましく、用途に応じて適宜選択される。
【0043】
本発明の帯電防止性シートの表面抵抗値は1×10Ω以下であることが好ましく、1×10〜1×10Ωであることがより好ましく、1×10〜10Ωであることがさらに好ましい。帯電防止性シートの表面抵抗値が前記範囲内であれば、トレー成形品に成形されても、静電気の発生を防ぐことができ、収納される電子部品等の故障や汚染を防止できる。
表面抵抗値は、JIS K6911に従って測定した値である。
【0044】
<帯電防止性シートの製造方法>
本発明の帯電防止性シートの製造方法は、スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面をコロナ放電処理によって表面改質する表面改質工程と、表面改質したスチレン系樹脂基材の面に導電性高分子分散液を塗工して帯電防止性塗膜を形成する帯電防止性塗膜形成工程とを有する。
本発明の帯電防止性シートの製造方法の具体例としては、例えば、下記(a)〜(c)の方法が挙げられる。
(a)スチレン系樹脂を押出機で溶融し、押出機に取り付けたTダイから吐出させ、製膜してスチレン系樹脂基材を得る(基材形成工程)。該スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面をコロナ放電処理して表面改質する(表面改質工程)。表面改質したスチレン系樹脂基材の面に導電性高分子分散液を塗工し、乾燥させる(帯電防止性塗膜形成工程)。これにより得た帯電防止性シートをロールに巻き取る。この方法は、一連の工程が連続的に行われるインラインプロセスである。
(b)スチレン系樹脂を押出機で溶融し、押出機に取り付けたTダイから吐出させて製膜してスチレン系樹脂基材を得た後、ロールに巻き取る(基材形成工程)。その後、ロール状のスチレン系樹脂基材を繰り出し、繰り出したスチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面をコロナ放電処理して表面改質する(表面改質工程)。表面改質したスチレン系樹脂基材の面に導電性高分子分散液を塗工し、乾燥させる(帯電防止性塗膜形成工程)。これにより得た帯電防止性シートをロールに再び巻き取る。この方法は、スチレン系樹脂基材の作製と表面改質とが非連続であり、オフラインプロセスである。
(c)スチレン系樹脂を押出機で溶融し、押出機に取り付けたTダイから吐出させて製膜してスチレン系樹脂基材を得る(基材形成工程)。その後、ロール状のスチレン系樹脂基材を繰り出し、繰り出したスチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面をコロナ放電処理して表面改質した後、ロールに巻き取る(表面改質工程)。その後、表面改質したロール状のスチレン系樹脂基材を繰り出し、導電性高分子分散液を塗工し、乾燥させる(帯電防止性塗膜形成工程)。これにより得た帯電防止性シートをロールに再び巻き取る。この方法は、表面改質と導電性高分子分散液の塗工が非連続であり、オフラインプロセスである。
上記(a)〜(c)の中でも、生産効率の観点では、(a)が好ましい。
【0045】
(表面改質工程)
表面改質工程におけるコロナ放電処理では、電極及び対極ロールを備えるコロナ放電処理装置を用い、前記電極と前記対極ロールとの間にスチレン系樹脂基材を通し、これらの間に高周波の高電圧を印加する。高周波の高電圧の印加によって、コロナ放電が生じる。
【0046】
本発明において、コロナ放電処理に使用される前記電極は、金属棒を誘電体で被覆した誘電体被覆電極である。
金属棒としては、アルミニウム棒、ステンレス棒等が挙げられ、誘電体としては、セラミック、クオーツ等が挙げられる。誘電体被覆電極の中でも、導電性高分子分散液の濡れ性、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性がより高くなることから、アルミニウム棒をセラミックで被覆した誘電体被覆電極が好ましい。
対極ロールは、スチレン系樹脂基材が巻き掛けられるロールであり、安定かつ均一にコロナ放電処理が施されるように、前記電極に対して任意の間隔で設置されるロールである。
対極ロールとしては、アルミニウム、ステンレス等の金属製ロールに、セラミック、シリコーンゴム、エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体ゴム(EPTゴム)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等がライニングされているロールや、クロムなどのメッキが施されたロールが用いられる。これらの中でも、ロール表面の耐摩耗性や拭き取り清掃のし易さ、スチレン系樹脂基材表面のパーティクル汚染やケミカル汚染を防止できる点から、クロムメッキを施したステンレスロール、EPTゴムがライニングされた金属ロールが好ましい。
電極と対極ロールとの間隔は1〜5mmであることが好ましく、2〜3mmであることがより好ましい。電極と対極ロールとの間隔が前記下限値以上であれば、処理ムラが起こりにくくなって塗膜が均一になりやすく、前記上限値以下であれば、電極との接触によるスチレン系樹脂基材の傷付きを防止できる。
【0047】
コロナ放電処理における放電量は30W・分/m以上であり、32〜300W・分/mであることが好ましく、35〜250W・分/mであることがより好ましい。
放電量が前記下限値以上であることにより、スチレン系樹脂基材の表面を導電性高分子分散液によって充分に濡らすことができ、帯電防止性塗膜との密着性、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性を向上させることができる。一方、放電量が前記上限値以下であれば、スチレン系樹脂基材の表面に傷が付くことを防止できる。また、スチレン系樹脂基材の表面に添加剤等がブリードアウトすることを抑制でき、帯電防止性塗膜との密着性、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性をより向上させることができる。
コロナ放電に使用する電極が誘電体被覆電極であると共に、放電量が30W・分/m以上であると、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性が更に優れる。
【0048】
コロナ放電処理は、空気雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、酸素ガス雰囲気下、窒素と酸素の混合ガス雰囲気下等で行うことができる。これらのうちでも、生産コストが低いことから、空気雰囲気下で行うことが好ましい。
コロナ放電処理における放電の周波数は5〜50kHzであることが好ましく、20〜45kHzであることがより好ましい。周波数が前記下限値以上であれば、コロナ放電処理の均一性が向上し、処理ムラを抑制できる。一方、周波数が前記上限値以下であれば、低出力でコロナ放電処理する場合でも安定に処理できる。
【0049】
(帯電防止性塗膜形成工程)
帯電防止性塗膜形成工程において、表面改質したスチレン系樹脂基材の面に塗工する導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、自己架橋性樹脂及び分散媒を含む。
【0050】
[分散媒]
分散媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液のいずれかを用いることができる。
有機溶媒としては、導電性高分子分散液を均一にできることから、水溶性溶媒が好ましい。水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等の極性溶媒、クレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル化合物、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、3−メチル−2−オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。
【0051】
[導電性高分子分散液の調製方法]
上述した導電性高分子分散液は、例えば、π共役系導電性高分子およびポリアニオンを含む水溶液を調製した後、自己架橋性樹脂および分散媒を添加することにより製造される。
【0052】
[塗工方法]
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方式、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0053】
導電性高分子分散液を塗工した後には、加熱乾燥することが好ましい。
乾燥温度は、40〜90℃であることが好ましく、50〜85℃であることがより好ましく、60〜80℃がさらに好ましい。乾燥温度が40℃以上であれば、シート送り速度が速くても充分に乾燥でき、また、帯電防止性塗膜とスチレン系樹脂基材との密着性、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性をより高くできる。一方、乾燥温度が90℃以下であれば、スチレン系樹脂基材の軟化を防いでシート形状を維持できる。
また、乾燥後には、養生することが好ましい。養生しない場合には、乾燥直後の帯電防止性塗膜は耐水性や耐溶剤性を充分に発揮しないことがある。
養生の条件は、乾燥後の帯電防止性シートを20〜50℃の屋内で20時間以上放置することが好ましい。この条件で養生すれば、帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性をより高くできる。
【0054】
(作用効果)
上述したように、本発明の帯電防止性シートの製造方法では、スチレン系樹脂基材のコロナ放電処理に用いる電極として誘電体被覆電極を用いると共にコロナ放電量を30W・分/m以上とする。且つ、表面改質したスチレン系樹脂基材の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、自己架橋性樹脂及び分散媒を含む導電性高分子分散液を塗工する。これにより、塗工後の導電性高分子分散液の乾燥温度を低めにしてもスチレン系樹脂基材に充分に結着すると共に充分に架橋した帯電防止性塗膜を形成できる。したがって、本発明によれば、基材としてスチレン系樹脂基材を用いても、該基材の表面に形成する帯電防止性塗膜の耐水性及び耐溶剤性を高くすることができる。
【0055】
<帯電防止性成形体及びその製造方法>
本発明の帯電防止性成形体は、上記帯電防止性シートを成形することによって製造されたものである。帯電防止性成形体としては、例えば、電子部品等を収納するトレー成形品が挙げられる。
成形方法としては、例えば、真空成形法、圧空成形法、プラグアシスト成形法、真空圧空成形法などの各種熱成形方法を適用できる。これらの成形法では、帯電防止性シートを凸型または凹型に密着させて凹部または凸部を形成する、いわゆる絞り成形をすることができる。
成形温度としては特に制限されないが、成形性の点からは、120〜180℃が好ましい。
本発明における帯電防止性成形体の表面抵抗値は、本発明の帯電防止性シートと同様に、1×10Ω以下であることが好ましく、1×10〜1×10Ωであることがより好ましく、1×10〜1×10Ωであることがさらに好ましい。
【実施例】
【0056】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の調製
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を2時間攪拌した。
これにより得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000mlと10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の約10000ml溶液を除去し、残液に10000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。
さらに、得られたろ液に約10000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約10000ml溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
限外ろ過条件は下記の通りとした(他の例でも同様)。
限外ろ過膜の分画分子量:30K
クロスフロー式
供給液流量:3000ml/分
膜分圧:0.12Pa
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0057】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)水溶液の調製
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、36.7gの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、上記ろ過処理が行われた処理液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた処理液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの処理液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.2質量%の青色のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT−PSS)水溶液を得た。
【0058】
(製造例3)ポリエステル樹脂の調製
留出管、窒素導入管、温度計、撹拌機を備えた四つ口フラスコにテレフタル酸ジメチル854質量部、5−ソジウムスルホイソフタル酸355質量部、エチレングリコール186質量部、ジエチレングリコール742質量部及び、反応触媒として、酢酸亜鉛1質量部を仕込んだ。その後、フラスコ内を130℃から170℃まで2時間かけて昇温して、エステル交換反応させた後、イソフタル酸730質量部、三酸化アンチモン1質量部を添加し、170℃から200℃まで2時間かけて昇温してエステル化反応を行った。次いで、徐々に昇温、減圧し、最終的に反応温度を250℃、真空度5mmHg以下で1時間重縮合反応を行った。その後、冷却し、常圧下でイオン交換水を加えて、不揮発分が25質量%のポリエステル樹脂を得た。
【0059】
(製造例4)グリシジル基含有アクリル系樹脂の調製
ビーカーにイオン交換水18質量部、界面活性剤としてエレミノールRS−3000(三洋化成工業株式会社製、アニオン系界面活性剤、有効成分50質量%)3質量部を仕込んだ。その後、ビーカー内を撹拌しつつ、メタクリル酸グリシジル20質量部、メタクリル酸メチル13.6質量部、アクリル酸ブチル6.4質量部を投入し、モノマー乳化液を作製した。
次に、コンデンサー、モノマー滴下用ロート、温度計、撹拌機を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水37.5質量部、界面活性剤(エレミノールRS−3000)1質量部、過硫酸カリウム0.5質量部を仕込んだ。その後、フラスコ内を撹拌しつつ窒素置換後、加熱を始め、75℃で前記モノマー乳化液を4時間かけて滴下した。滴下終了後も液温を75〜85℃に維持することで反応を進め、滴下終了後から4時間後に冷却した。冷却後、さらにイオン交換水を加えて、不揮発分25質量%のグリシジル基含有アクリル系樹脂を得た。
【0060】
(製造例5)自己架橋性樹脂の調製
製造例3で得たポリエステル樹脂と製造例4で得たグリシジル基含有アクリル系樹脂とを質量比50/50で配合して、不揮発分25質量%の自己架橋性樹脂を得た。
【0061】
(製造例6)導電性高分子分散液の調製
製造例2で得たPEDOT−PSS水溶液と製造例5で得た自己架橋性樹脂とを、質量比60/40で配合して、不揮発分10.7質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0062】
(製造例7)スチレン系樹脂基材(a)の製造
ゴム強化スチレン系樹脂(a−1)のペレットを単軸押出機に供給し、シリンダー温度200〜250℃で溶融し、単軸押出機先端に取り付けたTダイから溶融樹脂を吐出させた。その溶融樹脂を40〜70℃のチルロールで冷却することで、厚み0.7mm、幅700mmのシート状のスチレン系樹脂基材(a)を作製すると共に、巻き取った。得られたスチレン系樹脂基材(a)のMD方向の引張弾性率は2010MPa、TD方向の引張弾性率は1990MPaであった。
なお、ゴム強化スチレン系樹脂(a−1)は、PSジャパン社製、耐衝撃性ポリスチレンHIPS HT478である。
【0063】
(製造例8)スチレン系樹脂基材(b)の製造
ゴム強化スチレン系樹脂(b−1)15質量%とスチレン系硬質樹脂(b−2)30質量%とスチレン系エラストマー(b−3)55質量%とをドライブレンドしてスチレン系樹脂混合物を得た。このスチレン系樹脂混合物を単軸押出機に供給し、シリンダー温度200〜250℃で溶融し、単軸押出機先端に取り付けたTダイから溶融樹脂を吐出させた。その溶融樹脂を40〜70℃のチルロールで冷却することで、厚み0.7mm、幅700mmのシート状のスチレン系樹脂基材(b)を作製すると共に、巻き取った。得られたスチレン系樹脂基材(b)のMD方向の引張弾性率は2030MPa、TD方向の引張弾性率は1820MPaであった。
なお、ゴム強化スチレン系樹脂(b−1)は、PSジャパン社製、耐衝撃性ポリスチレンHIPS 475Dである。スチレン系硬質樹脂(b−2)は、PSジャパン社製、ポリスチレンGPPS、SGP10である。スチレン系エラストマー(b−3)は、旭化成ケミカルズ社製、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体SBS、アサフレックス825Sである。
【0064】
(実施例1)
製造例7で得たスチレン系樹脂基材(a)の一方の表面を、コロナ放電処理装置(春日電気社製)を用い、放電量40W・分/mでコロナ放電処理して表面処理した。本例においては、コロナ放電処理用の電極として、アルミニウム棒をセラミックで覆った誘電体被覆電極(電極A)を用い、その電極に対向する対極ロールとして、クロムめっきしたステンレスロール(ロールC)を用いた。
次いで、表面処理したスチレン系樹脂基材(a)を30cm角に切り取った後、表面処理面に、製造例6で得た導電性高分子分散液を、#2のバーコーターを用いて塗工し、熱風式オーブンを用いて75℃、1分間の条件で乾燥した。次いで、25℃の室内で1日間養生し、帯電防止性塗膜を形成して帯電防止性シートを得た。
【0065】
(実施例2〜4、比較例1〜5)
コロナ放電処理用の電極、対極ロール、放電量を表1,2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、帯電防止性シートを得た。ただし、比較例5では、スチレン系樹脂基材(a)が導電性高分子分散液を弾いたため、帯電防止性塗膜を形成できず、帯電防止性シートが得られなかった。
【0066】
(実施例5)
製造例7で得たスチレン系樹脂基材(a)の代わりに製造例8で得たスチレン系樹脂基材(b)を用いた以外は実施例1と同様にして帯電防止性シートを得た。
【0067】
(比較例6)
製造例7で得たスチレン系樹脂基材(a)の代わりに製造例8で得たスチレン系樹脂基材(b)を用い、また、コロナ放電処理の放電量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして帯電防止性シートを得ようとした。しかし、スチレン系樹脂基材(b)が導電性高分子分散液を弾いたため、帯電防止性塗膜を形成できず、帯電防止性シートが得られなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1,2におけるコロナ放電処理用の電極Bは、アルミニウム棒からなる金属電極であり、対極ロールDは、EPTをライニングしたステンレスロールである。
【0071】
<評価>
スチレン系樹脂基材における表面処理面の表面張力を以下のように測定した。測定結果を表1,2に示す。
得られた帯電防止性シートの表面抵抗値、耐水性、耐アルコール性、真空成形性を、以下のように評価した。評価結果を表1,2に示す。
【0072】
[表面張力]
JIS K6768に従い、ぬれ張力試験用混合液(和光純薬工業社製)を用いて表面張力を測定した。
【0073】
[表面抵抗値]
得られた帯電防止性シートの表面抵抗値(Ω)を、三菱化学社製ハイレスタを用いJIS K6911に従って測定した。
【0074】
[耐水性]
得られた帯電防止性シートの帯電防止性塗膜を、脱イオン水を含ませたガーゼを用いて押し付け圧10kPaで、100mmを10往復して拭き取り、拭き取り部分が乾いた後、その部分の表面抵抗値を前記と同様に測定した。
表面抵抗値(Ω)が1×1010未満を○(合格)と評価し、1×1010以上を×(不合格)と評価した。
【0075】
[耐アルコール性]
得られた帯電防止性シートの帯電防止性塗膜を、イソプロピルアルコールを含ませたガーゼを用いて押し付け圧10kPaで、100mmを10往復して拭き取り、拭き取り部分が乾いた後、その部分の表面抵抗値を前記と同様に測定した。
表面抵抗値(Ω)が1×1010未満を○(合格)と評価し、1×1010以上を×(不合格)と評価した。
【0076】
[真空成形性]
得られた帯電防止性シートを、帯電防止性塗膜側を下にして真空成形機内にセットし、上側ヒーターでシート表面温度を測定しながら加熱した。シート表面温度が120〜140℃になった時点で、下側から凹型金型を上昇させてシートに押し当てながら真空引きし、20秒間保持した。その後、40℃に冷却し、得られた成形品を取り出した。
真空成形品の形状および寸法は、開口部の直径が90mmの円で高さ45mmの円筒型であり、成形倍率は3倍であった。
得られた真空成形品の底面および側面について、帯電防止性塗膜側を前述と同様にして表面抵抗値(Ω)を測定した。
表面抵抗値(Ω)が1×1010未満を○(合格)と評価し、1×1010以上を×(不合格)と評価した。
【0077】
実施例1〜5では、基材としてスチレン系樹脂基材を用いたにもかかわらず、得られた帯電防止性シートの耐水性及び耐アルコール性が高く、また、真空成形性に優れていた。
コロナ放電処理用の電極としてアルミニウム棒を用いた比較例1〜4では、得られた帯電防止性シートの耐水性が低かった。
コロナ放電処理における放電量を30W・分/m以下とした比較例5,6では、スチレン系樹脂基材の濡れ性が低く、帯電防止性塗膜を形成できなかったため、評価できなかった。
【0078】
以上、具体的な実施例によって本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施例に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施例に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【要約】
【課題】耐熱温度が低いスチレン系樹脂基材を基材として使用するにもかかわらず、帯電防止性塗膜の耐水性および耐溶剤性を充分に高くできる帯電防止性シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の帯電防止性シートの製造方法は、スチレン系樹脂基材の少なくとも一方の面を、金属棒を誘電体で被覆した誘電体被覆電極を具備するコロナ放電処理装置を用い、放電量30W・分/m以上の条件でコロナ放電処理して表面改質する工程と、表面改質したスチレン系樹脂基材の面に、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、自己架橋性樹脂及び分散媒を含む導電性高分子分散液を塗工して帯電防止性塗膜を形成する工程と、を有する。
【選択図】なし