(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019213
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】生物培養システム及び生物培養方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20161020BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-502615(P2015-502615)
(86)(22)【出願日】2013年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2013055032
(87)【国際公開番号】WO2014132348
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】久野 範人
(72)【発明者】
【氏名】多田 博子
【審査官】
長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−105881(JP,A)
【文献】
特開平01−153080(JP,A)
【文献】
実開平05−021698(JP,U)
【文献】
特表2010−514446(JP,A)
【文献】
特表2013−500363(JP,A)
【文献】
特開昭54−042051(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0034679(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/
C12N 1/
A01G 33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
600〜700 nmの第1の波長域の光よりも400〜500 nmの第2の波長域の光を多く吸収する吸光液を溜める液溜め容器と、
光合成を行う培養対象の生物を含む培養液を内部に格納して前記液溜め容器内に設置される培養容器と、
前記培養容器が受光する光量を計測する第1の光量計測部と、
前記第1の光量計測部の計測結果に基づいて、前記液溜め容器内における、前記吸光液の液面から前記培養容器までの液深を制御する液深制御部と、を備える、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項2】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記第1の光量計測部は、前記培養容器が受光する光量を波長域別に測定する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項3】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記液深制御部は、
前記吸光液中で前記培養容器に働く浮力を制御することで前記液深を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項4】
請求項3に記載の生物培養システムであって、
前記液深制御部は、
前記培養容器内の気体の量を制御することで前記浮力を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項5】
請求項4に記載の生物培養システムであって、
前記液深制御部が制御する前記培養容器内の気体は二酸化炭素を含む、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項6】
請求項3に記載の生物培養システムであって、
前記培養容器には、
内部に気体を格納できる浮力体が設けられており、
前記液深制御部は、
前記浮力体内の気体の量を制御することで前記浮力を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項7】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記培養容器は、
前記液溜め容器中の所定の位置に固定され、
前記液深調整部は、
前記液溜め容器中の前記吸光液の量を調整することで前記液深を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項8】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記第1の光量計測部は、前記培養容器が受光する光量を波長域別に測定する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項9】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
さらに、前記液溜め容器の外部の光量を計測する第2の光量計測部を備え、
前記液深制御部は、
前記外部の光量に基づいて、前記液深を制御するか否かを判定する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項10】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
さらに、前記液溜め容器の外部の温度を計測する外部温度計測部を備え、
前記液深制御部は、
前記外部の温度に基づいて、前記液深を制御するか否かを判定する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項11】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記液溜め容器が溜める前記吸光液は、
前記第1の波長域の光よりも、前記第2の波長域の光を多く吸収する色素を溶解させた液体である、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項12】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
前記液深制御部は、
前記液深と、前記第1、第2の波長域の光の光量と、の対応関係を予め記憶しており、
前記対応関係に基づいて前記液深を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項13】
請求項1に記載の生物培養システムであって、
さらに、人工衛星から情報を受信する受信部を備え、
前記液深制御部は、
前記人工衛星から前記受信部が受信した天候に関する情報に基づいて前記液深を制御する、
ことを特徴とする生物培養システム。
【請求項14】
600〜700 nmの第1の波長域の光よりも400〜500 nmの第2の波長域の光を多く吸収する吸光液を液溜め容器に溜め、
光合成を行う培養対象の生物を含む培養液を培養容器の内部に格納し、
前記培養容器を前記液溜め容器内に設置し、
前記培養容器が受光する光量に基づいて、前記液溜め容器内における、前記吸光液の液面から前記培養容器までの液深を制御する、
ことを特徴とする生物培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の培養システム、及び生物の培養方法に関する。特に、光合成を行う生物を培養する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食料生産との競合がなく、太陽光と大気中の二酸化炭素を利用した光合成により、バイオ燃料を生産することができる微細藻類が注目されている。バイオ燃料や有用物質生産を目的とした藻類の大量培養は、光合成を最大限に行うことが出来るように、現状では、日射量が多い熱帯や亜熱帯地域の屋外において実施されている場合が多い。しかしながら、そのような地域においては、日中の日射量が過剰となるため、強光によって培養環境における温度を上昇させる結果、微細藻類の生育、代謝に悪影響を与えるため、上記地域における微細藻類の培養は最適な条件で実施されているとは言えない。
【0003】
そこで、上記課題を解決する技術として、米国特許7980024号公報(特許文献1)がある。この公報では、「培養用フォトバイオリアクターを池や湖に浮遊させることにより、フォトバイオリアクター外の水とリアクター内の液体培地との間で熱交換を行う」と記載されている。これにより、培養用フォトバイオリアクター内の液体培地温度が高温になることを防ぐことが可能となる。また、WO2008/153202号公報(特許文献2)では、「水面上で浮遊させた透明且つ柔軟性材料からなる光合成用リアクター」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許7980024号公報
【特許文献2】WO2008/153202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、単に培養容器を浮遊させるとのみ記載されており、また、特許文献2においては、水面上に浮遊と記載されている。これらの場合、リアクター外に存在する水との熱交換により液体培地の温度上昇は抑制することが可能であるが、太陽光の照射強度自体は低減されないため、強光による光傷害が発生し光合成機能が低下してしまう。
【0006】
つまり、従来技術の浮遊型フォトバイオリアクターでは、水面上にフォトバイオリアクターが位置しているため、太陽光の照射光量を減弱することが出来ず、強光条件による光障害を回避することは難しい。一方、フォトバイオリアクターを水面上に位置させるのではなく、完全に外部環境の水中に沈めることが出来れば、水面上方からの太陽光が水に吸収される結果、リアクターに到達する太陽光が減弱され照射光量が低下するため、強光条件による光障害を回避することが出来る。
【0007】
一般に光が水に吸収される場合、光の波長によってその吸収量が異なることが知られており、長波長域の光ほど水への吸収が大きくなる。可視光領域(400〜700nm)の光では、短波長域の青色光(400〜500nm)に比べ、長波長域の赤色光(600〜700nm)が、より水に吸収され減弱する。一方、植物や微細藻類の光合成においては、可視光領域の光のうち、青色光(400〜500nm)と赤色光(600〜700nm)の両方が有効波長であることが知られている。そのため、上記のように、フォトバイオリアクターを完全に水中に沈めた場合には、強光条件による光障害は回避できるが、有効波長域である赤色光が減弱する結果、光合成の効率を低下させることになる。
【0008】
そこで、本発明は,微細藻類などの光合成を行う生物の培養時に、強光条件下での温度上昇と光障害を回避し、且つ光合成効率の低下を低減するために、太陽光の照射光量は減衰させるが、光合成において有効な波長成分は出来るだけ低減させることが無い様、光環境条件を制御する機能を有した生物培養システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題の少なくとも一の課題を解決するための本発明の一態様として、生物培養システムに第1の波長域の光よりも前記第1の波長域に比べて短波長域である第2の波長域の光を多く吸収する吸光液を溜める液溜め容器と、光合成を行う培養対象の生物を含む培養液を内部に格納して前記液溜め容器内に設置される培養容器と、前記培養容器が受光する光量を計測する光量計測部と、前記光量計測部の計測結果に基づいて、前記吸光液の液面から前記培養容器までの液深を制御する液深制御部と、を設ける。
【0010】
さらに、上述した課題の少なくとも一の課題を解決するための本発明の他の態様として、第1の波長域の光よりも前記第1の波長域に比べて短波長域である第2の波長域の光を多く吸収する吸光液を液溜め容器に溜め、光合成を行う培養対象の生物を含む培養液を培養容器の内部に格納し、前記培養容器を前記液溜め容器内に設置し、前記培養容器が受光する光量に基づいて、前記液溜め容器内における、前記吸光液の液面から前記培養容器までの液深を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により,光合成を行う生物の培養時の強光条件下での温度上昇と光障害を回避し、且つ光合成効率の低下を低減することが可能となる。上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図2】本発明の実施例2に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図3】本発明の実施例3に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図4】本発明の実施例4に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図5】本発明の実施例5に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図6】本発明の実施例6に係る生物培養システム構成図の例である。
【
図7】特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質の一例として、赤色色素102号を用いた場合の赤色光及び青色光の吸収と液深の関係を示すグラフである。
【
図9】基準光量-液深相関関数の一例を示すグラフである。
【
図10】実施例1における制御フローを示す例である。
【
図11】実施例2における制御フローを示す例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。ただし、本実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0014】
(実施例1)
図1は、本実施例の生物培養システムの構成を示す図の例である。
本システムは、特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体(吸光液)101を貯留することが出来る液溜め容器3と、その容器内に設置され、微細藻類などの光合成を行う培養対象の生物を含む培養液2を保持できる透明かつ容器の一部もしくは全部が柔軟性素材(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルなどがあるが、特にこれらに限定されるものではない)から成り変形可能である培養容器1と、その培養容器1の上側表面において所望の波長域別に光量を測定し,その結果を制御装置7に送信することが出来る機能を持った波長域別光量測定装置6と、その容器内に二酸化炭素及び空気を注入するためのポンプ8、注入管10、および容器内から二酸化炭素及び空気排出するためのポンプ9、排出管11と、培養容器近傍に設置した環境の光量測定し,その結果を制御装置7に送信することが出来る機能を持った外部光量測定装置4及び温度を測定し、その結果を制御装置7に送信することが出来る機能を持った温度測定装置5と、前記光量及び温度測定装置により送信された、測定光量及び温度結果を受け取り培養容器内の二酸化炭素及び空気の注入もしくは排出操作変量を決定しその操作を制御する制御装置7より構成される。
【0015】
なお、上記波長域別光量測定装置6としては、所望の特定波長域の光を透過することが出来る光学フィルターを具備した光受容部を装備した照度計や光量子センサー、または任意の特定波長域ごと測定可能な多波長対応センサーなどがある。なお、ポンプ8へ供給される気体である二酸化炭素や空気は、ボンベや他の供給源によって供給されるが図面への記載は省略する。
【0016】
ここで、
図7を用いて、本実施例における液体101の構成例について説明する。
図7は、特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体101の一例として、赤色光領域(600〜700nm)に比べ青色光領域(400〜500nm)の吸収がより大きい物質である赤色色素102号を用いた場合の赤色光及び青色光の吸収と液深の関係を示すグラフである。一般に、光合成に有効な赤色光領域(600〜700nm)と青色光領域(400〜500nm)では、赤色光のほうが水により吸収されやすい。そのため、水深が深くなると、青色光領域の光成分が多く、赤色光領域光は減少するため、光合成にとっては望ましい光条件ではない。そこで、光障害を回避するためには光の強度は低減するが、光合成効率への影響を最小限に低減するため波長域成分比は維持する方法が必要である。
【0017】
図7は、赤色光領域(600〜700nm)に比べ青色光領域(400〜500nm)の吸収がより大きい物質である赤色色素102号の水溶液(濃度0.00006%)の液深と赤色光および青色光の吸収量を調べた結果である。水道水の場合、赤色光(赤色LED光;波長660nm)のほうが、青色光(青色LED光;波長470nm)に比べ吸収による光強度の減少が大きい。一方、青色光領域(400〜500nm)の光を優先的に吸収する赤色色素102号を溶解した赤色色素液の場合には、水道水の場合と異なり、赤色光に比べ青色光の光強度が減少した。この結果から、特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体の液深、また物質の溶解濃度を適切に設定することで波長域成分比は維持したまま光強度を低減可能であることが示された。
【0018】
次に、
図8を用いて、制御装置7の構成例について説明する。制御装置7は、メモリー801と、プロセッサ802と、インタフェース803と、を有し、メモリー801、プロセッサ802はインタフェース803を介して外部の装置と接続し、信号の送受信によるこれらの装置の制御が可能となっている。メモリー801には、
図9を用いて後述する基準光量-液深相関関数807と、情報送受信部804、情報比較部805、位置調整部806の各プログラムと、が記憶されている。制御装置7では、上述のプログラムをプロセッサ802が読み込み、実行する事により、以下に述べる液深制御に関する各処理を行う。
【0019】
以下、前記基準光量-液深相関関数807に関して、
図9を用いて説明する。
【0020】
図9は、
図7で示されている赤色光領域(600〜700nm)の光を大きく減少させることなく青色光領域(400〜500nm)の光を特異的に減少させる場合の一例において、赤色光領域に比べ青色光領域の吸収がより大きい物質を溶解した液体の液深とその液深において減少する赤色光量及び青色光量の相関を示すグラフである。
図9に於いては、光量-液深相関を一次関数として近似しているが、この近似関数は、制御したい光の波長域また特定波長の光を吸収するために用いる物質の特性によって異なり、それぞれの場合に最適と考えられる近似式を用いれば良く、必ずしも一次関数として近似する場合に限定されない。
【0021】
図9の近似式の傾きより、
図7で示した例の場合には、液深1cm当たり、赤色光は1,445μmol/(m
2・sec)、青色光に於いては液深1cm当たり、8.085μmol/(m
2・sec)減少する。このように、特定波長域の光を吸収する物質が溶解した液体の液深と吸収により減少させたい波長域の光と、吸収による影響がないかもしくは軽微で培養対象の生物に照射したい波長域の光の、それぞれの単位液深あたりの減少係数をあらかじめ実験的に取得しておき、この係数を用いて所望の光照射量を得ることが出来る液深を算出する。
図9に示す場合には、減少させたい青色光を基準に光照射を制御する場合には、
所望の青色光照射量[μmol/(m
2・sec)]=
(液深0cmでの青色光光量[μmol/(m
2・sec)])−8.085 x液深(cm)となるように液深値を算出し、制御に用いれば良い。
【0022】
また、赤色光照射量を基準に光照射量を設定する場合には、
所望の赤色光照射量[μmol/(m
2・sec)]=
(液深0cmでの赤色光光量[μmol/(m
2・sec)])−1.445 x液深(cm)
となるような液深値を算出し制御に用いれば良い。
【0023】
以下では、
図10に示すフローチャートを用いて、制御装置7による液深制御について説明する。まず、情報送受信部804が、培養容器近傍に設置した環境の外部光量測定装置4及び温度測定装置5に測定指示信号を送信し、外部光量測定装置4、温度測定装置5における測定を開始させ、それぞれの計測結果を受信する(901)。ここで、このステップ901をあらかじめ任意に設定した時間間隔で少なくとも2回以上繰り返す。この測定結果を情報送受信部804を経て、情報比較部805が取得し繰り返し測定した値の差分をとり、その差分値があらかじめ任意に設定した値を超えた場合(902)に、外部環境即ち太陽光照射条件が変動していると判断し、情報送信部804へ波長域別光量測定装置6の測定開始をするように指示信号を出す。この指示信号により、情報送受信部804によって受信された波長域別光量測定装置6の計測結果を取得し、基準光量-液深相関関数807から読み出した、太陽光による照射量が培養対象となる生物に対してあらかじめ設定していた所定の光量値と、波長域別光量測定装置6の計測結果とを比較する(1002)。波長域別光量測定装置6の計測結果が所定の光量値であれば処理を終了し、開始ステップへ戻る。
【0024】
一方、情報比較部805は、波長域別光量測定装置6の計測結果が所定の光量値から解離した場合に、波長域別光量測定装置6の計測結果が所定の光量値未満か否かを判定する(1003)。情報比較部805による比較の結果、波長域別光量測定装置6の計測結果が所定の光量値より大きい場合、位置調整部806が、排出ポンプ9を動作させ、培養容器1中に保持される気体(例えば、二酸化炭素及びもしくは空気)を排出管11を経て排出することにより前記培養容器1の浮力を低減させ、これにより前記液溜め容器3中における前記培養容器1の垂直方向位置を下降させることにより、液深100を増大させる(1005)。一方、情報比較部805による比較の結果、波長域別光量測定装置6の計測結果が所定の光量値未満の場合には、注入ポンプ8を動作させ前記培養容器1内の気体を注入管10を経て注入することにより前記培養容器1の浮力を増大させ、これにより前記液溜め容器3中における前記培養容器1の垂直方向位置を上昇させることにより、液深100を低減させる。このように、位置調整部806は、制御信号の送信によりポンプ8、9を動作させ培養容器1中に保持される二酸化炭素及びもしくは空気等の気体の容量を変動させることにより培養容器1の浮力を制御し、前記液溜め容器3中における前記培養容器1の垂直方向位置を操作する。
【0025】
位置調整部806による液深調整(ステップ1004、ステップ1005)の操作後、ステップ1001に戻り、情報送受信部804の制御により、前記培養容器1の表面に設置された波長域別光量測定装置6が再度計測を行い、情報比較部805、位置調整部806によるステップ1002以降の処理を行う。
【0026】
このように、制御装置7は、前記培養容器1の表面に設置された波長域別光量測定装置6により測定される光量が所望の値となるまで、前記フィードバック制御による操作を繰り返す。また、日中では培養容器近傍に設置した環境の光量測定する外部光量測定装置4及び温度を測定する温度測定装置5により測定される値は、時々刻々と変動する。そのため、前記培養容器1の垂直方向位置制御は、前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6での値が所望の値となるように、日中は継続して実施する。
【0027】
以上のように、本実施例では、生物培養システムに、例えば赤色光領域(600〜700nm)のような第1の波長域の光よりも、第1の波長域に比べて短波長域である青色光領域(400〜500nm)のような第2の波長域の光を多く吸収する液体(吸光液)101を溜める液溜め容器3と、光合成を行う培養対象の生物を含む培養液を内部に格納して前記液溜め容器内に設置される培養容器1と、培養容器1が受光する光量を計測する波長域別光量測定装置6のような光量計測部と、光量計測部の計測結果に基づいて液体(吸光液)101の液面から培養容器3までの液深を制御する制御装置7のような液深制御部と、を設けることで、光合成を行う生物の培養時の強光条件下での温度上昇と光障害を回避し、且つ光合成効率の低下を低減することを可能とする例を示した。
【0028】
(実施例2)
図2は、前記制御装置7により前記培養容器1の垂直方向位置制御を行うための実施例1とは別の実施例2における構成を示す図である。本実施例においては、波長域別光量測定装置6を、培養容器1とは切り離して設置し、液溜め容器3の深さ方向の所定の液深、例えば
図2に示す液深が0に相当する位置、に設ける。また、
図2に示す構成例では、液溜め容器3の外部において液深が0に相当する位置に波長域別光量測定装置6を設けている。培養容器近傍に設置した環境の光量測定する外部光量測定装置4及び温度を測定する温度測定装置5による測定値と前記液溜め容器3の液深が0に相当する位置に設置された波長域別光量測定装置6による測定値により液深制御を行う。以下、
図11に示すフローチャートを用いて、本実施例における、制御装置7による液深制御について説明する。
【0029】
まず、情報送受信部804が、培養容器近傍に設置した環境の外部光量測定装置4及び温度測定装置5に測定指示信号を送信し、外部光量測定装置4、温度測定装置5における測定を開始させ、それぞれの計測結果を受信する(901)。ここで、このステップ901をあらかじめ任意に設定した時間間隔で少なくとも2回以上繰り返す。この測定結果を情報送受信部804を経て、情報比較部805が取得し繰り返し測定した値の差分をとり、その差分値があらかじめ任意に設定した値を超えた場合(902)に、外部環境即ち太陽光照射条件が変動していると判断し、情報送信部804へ波長域別光量測定装置6の測定開始をするように指示信号を出す。この指示信号により、情報送受信部804によって受信された波長域別光量測定装置6の計測結果を取得する(1001)。
【0030】
次に、波長域別光量測定装置6の計測結果の取得を、あらかじめ任意に設定した時間間隔で少なくとも2回以上繰り返し、その測定値の差分を取り、時間経過と共に差分が増加している場合は液深増大方向に、逆に増加せず減少の場合には液深低減方向への液深制御を行う(1101)。なお、この時の液深制御量は、前記基準光量-液深相関関数807を元に決定し、その制御は、位置調整部806による排出ポンプ9を動作させ、培養容器1中に保持される気体(例えば、二酸化炭素及びもしくは空気)を排出管11を経て排出、または注入管10を経て注入することにより前記培養容器1の浮力を調節することで、液深100の調整を行う(1004、1005)。
【0031】
このように、位置調整部806は、制御信号の送信によりポンプ8、9を動作させ培養容器1中に保持される二酸化炭素及びもしくは空気等の気体の容量を変動させることにより培養容器1の浮力を制御し、前記液溜め容器3中における前記培養容器1の垂直方向位置を操作する。位置調整部806による液深調整(1004、1005)の操作後、動作は一旦終了し、その後、任意に設定された一定時間後に開始ステップに戻り、液深制御を継続して実施する。
【0032】
以上、本実施例2に示した実施形態では、単独の波長域別光量測定装置6の情報を基に、複数の液溜め容器における液深制御が可能となる。
【0033】
(実施例3)
図3は、前記制御装置7により前記培養容器1の垂直方向位置制御を行うための、さらに別の実施例3を示す図である。本実施例においては、気象人工衛星13から情報受信設備14を経由して得られる、前記生物培養システムの設置した地域の日射量に影響する雲の発生とその動き等の気象情報を前記制御装置7に連携させる形態を示している。気象人工衛星13から得られた情報は、前記生物培養システムの設置した地域を含む広範な領域に関するものであり、前記生物培養システムの設置した地域での日射量等の変動は、得られた雲の状況(雲の面積、垂直方向の厚さ、移動速度等)から予想する必要がある。そのため、前記地域における気象情報に関するデータベース12を予め構築し具備する必要がある。このデータベース12に対して気象人工衛星13から得られた情報を対応させることにより、前記地域における日射量の変動を予想し、その予想に従って、
図10や11に示す動作開始を実施することで、実際の日射量変動に先駆けて制御を開始することが出来、その結果、より精度高い前記培養容器1の垂直方向位置制御が可能となる。
【0034】
(実施例4)
図4は、培養対象の生物を含む培養液2を保持できる透明かつ容器の一部もしくは全部が柔軟性素材から成り変形可能である前記培養容器1の別の実施形態を示す図である。前記前記培養容器1の底面部分水平方向に変形不可能な強度を持つ部材102を設置している。変形不可能な強度を持つ部材としては、プラスチック等の合成樹脂をはじめ炭素繊維により強化した炭素繊維強化プラスチックや金属があるが、必ずしもこれらに限定されない。前記培養容器1の変形可能部分が変形により不均一な形状となった場合でも、前記変形不可能な部材102の設置により、液溜め容器3内における前記培養容器1の水平報方向の位置を保持でき、その結果、前記培養容器1の上面における液深を一定に保持することが可能となる。
【0035】
(実施例5)
図5は、上述の実施例1ないし4のような前記培養容器1の浮力調整による液深制御ではなく、前記培養容器1に結合し浮力を生じさせる浮力体111を具備することで前記培養容器1の垂直方向位置制御を可能する生物培養システムの実施例5について構成を示す図である。
【0036】
既に説明した
図1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分、及び浮力制御のフロー等、については、説明を省略する。
図5においては、前記培養容器1に結合した柔軟性素材から成り気体を保持することが出来る変形可能な浮力体111、前記培養容器1との結合対112と前記浮力体に気体を注入するポンプ113及び注入管114、排気を行うための排気ポンプ115と排気管116からなる構成、及び、前記培養容器1において前記培養対象の生物を含む培養液2に前記培養対象生物の生育に必要な二酸化炭素もしくは空気を供給するためのポンプ120と注入管130、さらに排出するためのポンプ121と排出管131からなる構成が示されている。本実施例での液深制御の方法について説明する。
【0037】
培養容器近傍に設置した環境の外部光量測定装置4及び温度測定装置5、及び培養容器表面での波長域別に光量を測定する波長域別光量測定装置6による計測結果に基づき、太陽光による照射量が培養対象となる生物に対してあらかじめ設定していた値から解離した場合に、前記制御装置7からの信号によりポンプ120、121を動作させ浮力体111中に保持される気体の容量を変動させることにより浮力体111の浮力を制御することにより、前記液溜め容器3中における浮力体111と結合している前記培養容器1の垂直方向位置を操作する。操作後、前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6により、再度計測を行い、所望の光量よりも測定光量が過剰の場合には前記制御装置7により、前記排出ポンプ120を動作させ前記浮力体111内の気体を排出管131を経て排出することにより前記浮力体111の浮力を低減させ、これにより前記液溜め容器3中における前記培養容器1の垂直方向位置を下降させることにより、液深100を増大させる。
【0038】
逆に、所望の光量よりも測定光量が不足の場合には、注入ポンプ120を動作させ前記浮力体111内の気体を注入管130を経て注入することにより前記浮力体111の浮力を増大させ、これにより前記液溜め容器3中において前記浮力体111に結合した前記培養容器1の垂直方向位置を上昇させることにより、液深100を低減させる。前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6により測定される光量が所望の値となるまで、前記フィードバック制御による操作を繰り返す。液深増大/低減の処理以外の浮力制御フローについては、上述の実施例1ないし4で説明したような処理フローを適用することが可能である。
【0039】
また、日中では培養容器近傍に設置した環境の光量測定する外部光量測定装置4及び温度を測定する温度測定装置5により測定される値は、時々刻々と変動する。そのため、前記浮力体111による前記培養容器1の垂直方向位置制御は、前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6での値が所望の値となるように、日中は継続して実施する。本実施例5によれば、実施例1ないし4の場合に液深制御に用いる気体として前記培養容器内の前記培養対象生物の生育に影響を与えない気体(二酸化炭素や空気)に限定されるのに対し、浮力体に注入する気体の種類に特に制限がなく、どのような気体成分でも使用することが可能となる。
【0040】
(実施例6)
図6は、前記培養容器1の浮力調整による液深制御ではなく、前記液溜め容器3中の特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体101の量を変動させることで液深100の制御を行うことを可能とする実施例6の生物培養システムの構成を示す図の例である。
【0041】
図6においては、前記培養容器1は前記液溜め容器3内に、結合体103により固定されている。また前記液溜め容器3は、前記特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体101を保持した貯留タンク104に連結パイプ105により連結され、この連結パイプに設置された注排水ポンプ106により前記液溜め容器3内の前記液体101の量を変動させることが出来る。
【0042】
以下、本実施例での液深制御の方法について説明する。培養容器近傍に設置した環境の外部光量測定装置4及び温度測定装置5、及び培養容器表面での波長域別に光量を測定する波長域別光量測定装置6による計測結果に基づき、太陽光による照射量が培養対象となる生物に対してあらかじめ設定していた値から解離した場合に、前記制御装置7からの信号により前記注排水ポンプ106を作動させ前記連結パイプ105を介して、前記液溜め容器3内へ前記液体101を注排水することで、前記液溜め容器3内における前記液体101の水位を制御する。
【0043】
一方、前記培養容器1には一定容量の気体成分を保持させておき、且つ前記結合体103により固定しておけば、前記液体101の水位が前記培養容器1の上面を超え、培養容器1上に前記液体101が重層することとなり、液深100が形成される。この前記液深100は、前記液体101の前記液溜め容器3内における水位の変動に伴って変動し、これにより液深100を制御することが出来る。実際には、前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6により計測を行い、所望の光量よりも測定光量が過剰の場合には、前記制御装置7により前記注排水ポンプ106を動作させ前記貯留タンク104から前記液体101を前記連結パイプ105を経由して前記液溜め容器3内に注水し、前記液溜め容器3中における前記液体101の水位を上昇させることにより、液深100を増大させる。
【0044】
逆に、所望の光量よりも測定光量が不足の場合には、前記注排水ポンプ106を動作させ前記液溜め容器3内から前記液体101を前記連結パイプ105を経由して前記貯留タンク104に排水し、前記液溜め容器3中における前記液体101の水位を下降させることにより、液深100を減少させる。液深増大/低減の処理以外の浮力制御フローについては、上述の実施例1ないし4で説明したような処理フローを適用することが可能である。
【0045】
前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6により測定される光量が所望の値となるまで、前記フィードバック制御による操作を繰り返す。また、日中では培養容器近傍に設置した環境の光量測定する外部光量測定装置4及び温度を測定する温度測定装置5により測定される値は、時々刻々と変動する。そのため、前記液深100の制御は、前記培養容器表面に設置された波長域別光量測定装置6での値が所望の値となるように、日中は継続して実施する。
【0046】
本実施例によれば、他の実施例と比較し、変形可能な培養容器1を用いた場合に、前記液溜め容器3の液体中において、前記培養容器1の水平方向の位置制御が容易となる。
【0047】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に例示して説明したが、前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1…培養容器、2…培養対象の生物を含む培養液、3…液溜め容器、4…光量測定装置、5…温度測定装置、6…波長域別光量測定装置、7…制御装置、8、9…ポンプ、10…注入管、11…排出管、12…データベース、13…気象人工衛星、14…情報受信設備、100…液深、101…特定の波長域の光を優先的に吸収することが出来る物質を溶解した液体、102…変形不可能な強度を持つ部材、103、112…結合体、104…貯留タンク、105…連結パイプ、106…注排水ポンプ、111…浮力体、113…注入ポンプ、114…注入管、115…排気ポンプ、116…排気管、120、121…ポンプ、130…注入管、131…排出管、801…メモリー、802…プロセッサ、803…インターフェース、804…情報送受信部、805…情報比較部、806…位置調整部、807…基準光量-液深相関関数