特許第6019227号(P6019227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019227
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/20 20060101AFI20161020BHJP
   G01L 5/16 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G01L1/20 A
   G01L5/16
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-522492(P2015-522492)
(86)(22)【出願日】2014年5月14日
(86)【国際出願番号】JP2014002540
(87)【国際公開番号】WO2014203446
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-127265(P2013-127265)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-127266(P2013-127266)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 俊彦
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−035332(JP,A)
【文献】 特開平06−158911(JP,A)
【文献】 米国特許第05814999(US,A)
【文献】 国際公開第2004/065177(WO,A1)
【文献】 特開昭57−165721(JP,A)
【文献】 TIAN et al.,“Study of magnetorheology and sensing capabilities of MR elastomers”,Journal of Physics: Conference Series,英国,IOP Publishing,2013年 2月,vol. 412,012037
【文献】 LI et al.,“Development of a Force Sensor Working with MR Elastomers”,2009 IEEE/ASME International Conference on Advanced Intelligent Mechatronics,米国,IEEE,2009年,pp. 233-238
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/12, 1/20
G01L 5/16
G01B 7/00
F16F 6/00
F16F 9/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の磁性粒子が内部に分散され、印加される磁場の強さに応じて弾性率が変化すると共に、変形に伴って所定の方向における電気抵抗値が変化する磁気粘弾性エラストマと、
前記磁気粘弾性エラストマに磁場を印加すると共に、印加する磁場の強さを変更可能な磁場印加手段と、
前記磁気粘弾性エラストマの電気抵抗を検出する抵抗検出手段と、
前記抵抗検出手段の検出値と、前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算する演算手段とを有し、
前記演算手段は、前記磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、前記抵抗検出手段の検出値に対応して演算される前記荷重の値を大きくすることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
前記抵抗検出手段は、第1の方向と直交し、前記磁気粘弾性エラストマを挟むように配置された一対の電極を有し、前記一対の電極間に通電することによって前記磁気粘弾性エラストマの電気抵抗を取得し、
前記演算手段は、前記電気抵抗が減少方向に変化したときに前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向に沿った圧縮方向に変形していると判断し、前記電気抵抗が増加方向に変化したときに前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向に沿った引張方向に変形している、又は前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向と直交する平面に沿ったせん断方向に変形していると判断することを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記磁気粘弾性エラストマの前記せん断方向への変形を規制する規制部材を更に有することを特徴とする請求項2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記磁気粘弾性エラストマ内に配置された磁場検出手段を更に有し、
前記磁場印加手段は、当該磁場印加手段から出る磁力線が前記第1の方向に沿うように配置され、
前記演算手段は、前記磁場検出手段の検出値と前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマの前記第1の方向と直交する方向へのせん断変形を検出することを特徴とする請求項2に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記抵抗検出手段の検出値の変化量が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くすることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記磁気粘弾性エラストマは、第1部材と第2部材との間に介装され、
当該センサ装置は、前記演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重、又は前記磁気粘弾性エラストマの振動数に基づいて前記磁場印加手段を制御し、前記磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させ、前記第1部材及び前記第2部材間で伝達される荷重又は振動を変化させることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項7】
前記磁場印加手段は電磁石であることを特徴とする請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項8】
磁性粒子が内部に分散され、印加される磁場の強さに応じて弾性率が変化する磁気粘弾性エラストマと、
前記磁気粘弾性エラストマに磁場を印加すると共に、印加する磁場の強さを変更可能な磁場印加手段と、
前記磁気粘弾性エラストマに支持され、前記磁気粘弾性エラストマの変形に応じて前記磁場印加手段に対する相対位置が変化する磁場検出手段と、
前記磁場検出手段が検出した磁場の強さと、前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマの変形状態、及び前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重の少なくとも1つを演算する演算手段とを有することを特徴とするセンサ装置。
【請求項9】
前記演算手段は、前記磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、前記磁場検出手段の検出値に対応して演算される前記荷重の値を大きくすることを特徴とする請求項8に記載のセンサ装置。
【請求項10】
前記磁場検出手段が検出する磁場の強さの変化量が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くすることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のセンサ装置。
【請求項11】
前記演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマの変形量又は変形速度が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くすることを特徴とする請求項8に記載のセンサ装置。
【請求項12】
前記磁気粘弾性エラストマは、第1部材と第2部材との間に介装され、
前記演算手段は、当該演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重、前記磁気粘弾性エラストマの変形量及び変形速度の少なくとも1つに基づいて前記磁場印加手段を制御し、前記磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させ、前記第1部材及び前記第2部材間で伝達される荷重又は振動を変化させることを特徴とする請求項8に記載のセンサ装置。
【請求項13】
前記磁場印加手段は電磁石であり、前記磁場検出手段は、前記磁気粘弾性エラストマ内に支持されたホール素子であることを特徴とする請求項8に記載のセンサ装置。
【請求項14】
前記電磁石と前記ホール素子との間の前記磁気粘弾性エラストマ内に配置され、前記電磁石から前記ホール素子に向う磁力線の少なくとも一部を阻害する非磁性部材を更に有し、前記磁気粘弾性エラストマの変形に応じて前記非磁性部材と前記ホール素子との相対位置が変化することを特徴とする請求項13に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性エラストマ、磁場印加手段及び磁場検出手段を有するセンサ装置に関する。詳細には、印加される磁場の強さに応じて弾性率が変化する磁気粘弾性エラストマを備え、印加される磁場に応じて測定範囲を可変としたセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感圧センサ(荷重センサ)として、粘弾性エラストマと、粘弾性エラストマの一側に設けられた永久磁石と、粘弾性エラストマの他側に設けられたホール素子とを備えたものがある(例えば、特許文献1)。この感圧センサは、圧力(荷重)が加えられたときに、粘弾性エラストマが変形し、永久磁石とホール素子との相対位置が変化するため、ホール素子の検出値に基づいて弾性エラストマに加えられた圧力を検出することができる。この感圧センサは、弾性エラストマの変形特性によって圧力の検出範囲及び検出精度が定まる。例えば、弾性率が低い粘弾性エラストマを使用すると、小さな圧力で粘弾性エラストマが大きく変形するため検出精度(検出感度)は高くなるが、小さな圧力で粘弾性エラストマの変形限界に達するため検出範囲は狭くなる。逆に、弾性率が高い粘弾性エラストマを使用すると、粘弾性エラストマの変形限界に達し難くなるため検出範囲は広くなるが、圧力に応じた粘弾性エラストマの変形量が小さくなるため検出精度は低くなる。
【0003】
ところで、粘弾性エラストマには、磁場の作用により磁気分極する磁性粒子を内部に分散させ、外部から印加する磁場の強さを変化させることによって、粘弾性エラストマの弾性率を変化させるようにした磁気粘弾性エラストマがある(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−46222号公報
【特許文献2】特開平4−266970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような感圧センサにおいて、検出精度及び検出範囲を可変にし、様々な測定対象に適したセンサ装置を実現したいという要求がある。そこで、本願出願人らは、内部に磁性粒子が分散され、外部から印加する磁場の強さを変化させることによって、弾性率を変化可能な磁気粘弾性エラストマを用いてセンサ装置を構成することを想起するに到った。このように構成すると、センサ装置に加わる荷重が大きい場合には、印加する磁場を強くして磁気粘弾性エラストマの弾性率を高くし、検出範囲を広くすることができる。また、センサ装置に加わる荷重が小さい場合には、印加する磁場を弱くして磁気粘弾性エラストマの弾性率を低くし、検出精度を高くすることができる。しかしながら、このようにセンサ装置を構成した場合、ホール素子等の磁気検出手段が検出する磁場は、磁気粘弾性エラストマの変形に応じて変化すると共に、磁場印加手段が印加する磁場の強さに応じて変化するため、磁気検出手段が検出する磁場の強さから磁気粘弾性エラストマの変形量や、磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を単純に演算することができないという問題がある。また、磁気粘弾性エラストマ、磁場印加手段、及び磁気検出手段を1つのセンサとして組み合わせる際に、各要素のレイアウトが問題となる。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであって、粘弾性エラストマの変形を利用したセンサ装置において、検出範囲及び検出精度を可変にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、導電性の磁性粒子(15)が内部に分散され、印加される磁場の強さに応じて弾性率が変化すると共に、変形に伴って所定の方向における電気抵抗値が変化する磁気粘弾性エラストマ(2)と、前記磁気粘弾性エラストマに磁場を印加すると共に、印加する磁場の強さを変更可能な磁場印加手段(5、6)と、前記磁気粘弾性エラストマの電気抵抗を検出する抵抗検出手段(35)と、前記抵抗検出手段の検出値と、前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算する演算手段(10)とを有し、前記演算手段は、前記磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、前記抵抗検出手段の検出値に対応して演算される前記荷重の値を大きくすることを特徴とする
【0008】
この構成によれば、磁場印加手段が印加する磁場の強さに応じて検出範囲及び検出精度を変更するセンサ装置を提供することができる。センサ装置では、磁気粘弾性エラストマ内に導電性を有する磁性粒子が分散されているため、磁気粘弾性エラストマの変形に応じて磁性粒子同士が近接又は離間する。そのため、磁気粘弾性エラストマの電気抵抗値に基づいて磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を検出することができる。また、導電性を有する磁性粒子は、磁場印加手段が印加する磁場の強さに応じて、互いに磁気的結合を形成するため、磁気粘弾性エラストマの弾性率及び電気抵抗値を変化させることができる。センサ装置の演算手段は、磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算する際に、抵抗検出手段が検出した磁気粘弾性エラストマの抵抗値に加えて、磁場印加手段が印加する磁場の強さを考慮する。そのため、磁場によって変化する磁気粘弾性エラストマの弾性率を考慮し、磁気粘弾性エラストマの抵抗値から磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算することができる。また、磁場印加手段が印加する磁場の強さ及び抵抗検出手段の検出値から磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算することができる。磁場印加手段が印加する磁場の強さが大きいほど、磁気粘弾性エラストマの弾性率が高くなり、荷重に対する磁気粘弾性エラストマの変形量が小さくなる。そのため、磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、抵抗検出手段の検出値に対応して演算される荷重の値を大きくすることで、荷重を適切に演算することができる。
【0009】
また、上記の発明において、前記抵抗検出手段は、第1の方向と直交し、前記磁気粘弾性エラストマを挟むように配置された一対の電極(8、9)を有し、前記一対の電極間に通電することによって前記磁気粘弾性エラストマの電気抵抗を取得し、前記演算手段は、前記電気抵抗が減少方向に変化したときに前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向に沿った圧縮方向に変形していると判断し、前記電気抵抗が増加方向に変化したときに前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向に沿った引張方向に変形している、又は前記磁気粘弾性エラストマが前記第1の方向と直交する平面に沿ったせん断方向に変形していると判断するとよい。
【0010】
この構成によれば、センサ装置は、加わる荷重の方向を検出することができる。磁気粘弾性エラストマが第1の方向に沿って圧縮変形するときに、導電性を有する磁性粒子は、第1方向に沿って互いに近接し、互いに接触して導電経路を形成するため、磁気粘弾性エラストマの電気抵抗が低下する。一方、磁気粘弾性エラストマが第1の方向に沿って引張変形するときに、導電性を有する磁性粒子は、第1方向に沿って互いに離れ、導電経路が伸張又は切断されるため、磁気粘弾性エラストマの電気抵抗が増加する。また、磁気粘弾性エラストマが第1の方向と直交するせん断方向に沿って変形するときには、導電性を有する磁性粒子は、第1方向に沿って互いに離れ、導電経路が伸張又は切断されるため、磁気粘弾性エラストマの電気抵抗が増加する。このように荷重の方向によって電気抵抗の増減が異なるため、センサ装置は、抵抗検出手段が検出する抵抗値に基づいて、変形方向及び荷重の方向を検出することができる。
【0011】
また、上記の発明において、前記磁気粘弾性エラストマの前記せん断方向への変形を規制する規制部材(51)を更に有するとよい。
【0012】
この構成によれば、磁気粘弾性エラストマのせん断方向への変形が発生しなくなるため、磁気粘弾性エラストマの電気抵抗が増加するときには、磁気粘弾性エラストマが第1の方向に沿った引張方向に変形していると判断することができる。
【0013】
また、上記の発明において、前記磁気粘弾性エラストマ内に配置された磁場検出手段(61)を更に有し、前記磁場印加手段は、当該磁場印加手段から出る磁力線が前記第1の方向に沿うように配置され、前記演算手段は、前記磁場検出手段の検出値と前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマの前記第1の方向と直交する方向へのせん断変形を検出するとよい。
【0014】
この構成によれば、せん断方向への荷重が加わったときには、磁気粘弾性エラストマが変形して磁場検出手段がせん断方向に移動するため、磁場印加手段との相対位置がせん断方向にずれ、検出する磁場の強さが変化する。そのため、磁場検出手段の検出値に基づいて、センサ装置1に加わる荷重がせん断方向への荷重であるか否かを判断することができる。
【0015】
また、上記の発明において、前記抵抗検出手段の検出値の変化量が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くするとよい。
【0016】
この構成によれば、抵抗検出手段が検出する抵抗値の変化量が大きいほど、磁気粘弾性エラストマの変形量が大きいため、磁場印加手段が印加する磁場を強くすることで磁気粘弾性エラストマの弾性率を高くし、磁気粘弾性エラストマの変形を抑制し、検出範囲を広くすることができる。
【0017】
また、上記の発明において、前記演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマの変形量又は変形速度が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くするとよい。
【0018】
この構成によれば、磁気粘弾性エラストマの変形量が大きいほど、磁場印加手段が印加する磁場を強くすることで磁気粘弾性エラストマの弾性率を高くし、磁気粘弾性エラストマの変形を抑制し、検出範囲を広くすることができる。
【0019】
また、上記の発明において、前記磁気粘弾性エラストマは、第1部材(31)と第2部材(32)との間に介装され、当該センサ装置は、前記演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重、又は前記磁気粘弾性エラストマの振動数に基づいて前記磁場印加手段を制御し、前記磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させ、前記第1部材及び前記第2部材間で伝達される荷重又は振動を変化させるとよい。
【0020】
この構成によれば、センサ装置は、第1部材及び第2部材の間で、伝達される荷重や振動等を測定すると共に、磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させることによって、振動や荷重を抑制するアクチュエータとして機能することができる。すなわち、センサ装置は、センサとしての機能とアクチュエータとしての機能とを併せ持つ装置として構成される。
【0021】
また、上記の発明において、前記磁場印加手段は電磁石(5、6)であるとよい。
【0022】
この構成によれば、簡素な構成でセンサ装置を構成することができる。
【0023】
本発明の他の側面は、磁性粒子(115)が内部に分散され、印加される磁場の強さに応じて弾性率が変化する磁気粘弾性エラストマ(102)と、前記磁気粘弾性エラストマに磁場を印加すると共に、印加する磁場の強さを変更可能な磁場印加手段(105、106)と、前記磁気粘弾性エラストマに支持され、前記磁気粘弾性エラストマの変形に応じて前記磁場印加手段に対する相対位置が変化する磁場検出手段(107)と、前記磁場検出手段が検出した磁場の強さと、前記磁場印加手段が印加する磁場の強さとに基づいて、前記磁気粘弾性エラストマの変形状態、及び前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重の少なくとも1つを演算する演算手段(110)とを有することを特徴とする。ここで、磁気粘弾性エラストマの変形状態とは、磁気粘弾性エラストマの変形量、変形速度、振動数等を含むものとする。
【0024】
この構成によれば、磁場印加手段が印加する磁場の強さに応じて検出範囲及び検出精度を変更するセンサ装置を提供することができる。センサ装置の演算手段は、磁気粘弾性エラストマの変形状態、及び磁気粘弾性エラストマに加わる荷重の少なくとも1つを演算する際に、磁場検出手段が検出した磁場の強さに加えて、磁場印加手段が印加する磁場の強さを考慮する。そのため、磁場印加手段が磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させるために印加する磁場の強さを変化させても、磁場検出手段が検出した磁場の強さから磁場印加手段による影響を除いて磁気粘弾性エラストマの変形状態、及び磁気粘弾性エラストマに加わる荷重の少なくとも1つを演算することができる。
【0025】
また、上記の発明において、前記演算手段は、前記磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、前記磁場検出手段の検出値に対応して演算される前記荷重の値を大きくするとよい。
【0026】
この構成によれば、磁場印加手段が印加する磁場の強さ及び磁場検出手段の検出値から磁気粘弾性エラストマに加わる荷重を演算することができる。磁場印加手段が印加する磁場の強さが大きいほど、磁気粘弾性エラストマの弾性率が高くなり、荷重に対する磁気粘弾性エラストマの変形量が小さくなるため、磁場印加手段が印加する磁場が強いほど、磁場検出手段の検出値に対応して演算される荷重の値を大きくすることで、荷重を適切に演算することができる。
【0027】
また、上記の発明において、前記磁場検出手段が検出する磁場の強さの変化量が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場を強くするとよい。
【0028】
この構成によれば、磁場検出手段が検出する磁場の強さの変化量が大きいほど、磁気粘弾性エラストマの変形量が大きいため、磁場印加手段が印加する磁場を強くすることで磁気粘弾性エラストマの弾性率を高くし、磁気粘弾性エラストマの変形を抑制し、検出範囲を広くすることができる。
【0029】
また、上記の発明において、前記演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマの変形量の大きさ又は変形速度が大きいほど、前記磁場印加手段が印加する磁場の強さを大きくするとよい。
【0030】
この構成によれば、磁気粘弾性エラストマの変形量又は変形速度が大きいほど、磁場印加手段が印加する磁場を強くすることで磁気粘弾性エラストマの弾性率を高くし、磁気粘弾性エラストマの変形を抑制し、検出範囲を広くすることができる。
【0031】
また、上記の発明において、前記磁気粘弾性エラストマは、第1部材(131)と第2部材(132)との間に介装され、前記演算手段は、当該演算手段によって演算された前記磁気粘弾性エラストマに加わる荷重、前記磁気粘弾性エラストマの変形量及び変化速度の少なくとも1つに基づいて前記磁場印加手段を制御し、前記磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させ、前記第1部材及び前記第2部材間で伝達される荷重又は振動を変化させるとよい。
【0032】
この構成によれば、センサ装置は、第1部材及び第2部材の間で、伝達される荷重や振動等を測定すると共に、磁気粘弾性エラストマの弾性率を変化させることによって、振動や荷重を抑制するアクチュエータとして機能することができる。すなわち、センサ装置は、センサとしての機能とアクチュエータとしての機能とを併せ持つ装置として構成される。
【0033】
また、上記の発明において、前記磁場印加手段は電磁石(105、106)であり、前記磁場検出手段は、前記磁気粘弾性エラストマ内に支持されたホール素子(107)であるとよい。
【0034】
この構成によれば、簡素な構成でセンサ装置を構成することができる。
【0035】
また、上記の発明において、前記電磁石と前記ホール素子との間の前記磁気粘弾性エラストマ内に配置され、前記電磁石から前記ホール素子に向う磁力線の少なくとも一部を阻害する非磁性部材(151)を更に有し、前記磁気粘弾性エラストマの変形に応じて前記非磁性部材と前記ホール素子との相対位置が変化する。
【0036】
この構成によれば、非磁性部材が電磁石からホール素子に向う磁力線の少なくとも一部を阻害するように配置されているため、磁気粘弾性エラストマが変化した際に、非磁性部材とホール素子との相対位置が変化し、非磁性部材がホール素子を覆う面積が変化する。そのため、磁気粘弾性エラストマが変化したときに、ホール素子が検出する磁場の変化量が大きくなり、センサ装置の検出精度が向上する。
【発明の効果】
【0037】
以上の構成によれば、粘弾性エラストマの変形を利用したセンサ装置において、検出範囲及び検出精度を可変にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】第1実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図2】第1実施形態に係るセンサ装置に荷重が加わった状態を示す図
図3】第1実施形態に係るセンサ装置における印加磁場、荷重、及び変形量の関係を示すグラフ
図4】第2実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図5】第3実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図6】第4実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図7】第5実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図8】第5実施形態に係るセンサ装置に荷重が加わった状態を示す図
図9】第6実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
図10】第7実施形態に係るセンサ装置を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明のセンサ装置の実施形態について説明する。
【0040】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るセンサ装置を示す構成図であり、図2は第1実施形態に係るセンサ装置に荷重が加わった状態を示す図である。図1及び図2に示すように、センサ装置1は、磁気粘弾性エラストマ2と、磁気粘弾性エラストマ2を挟持するように設けられた第1電極板8及び第2電極板9と、第1電極板8の外面側に設けられた第1プレート3と、第2電極板9の外面側に設けられた第2プレート4と、第1プレート3及び第2プレート4のそれぞれに設けられた磁場印加手段としての第1電磁石5及び第2電磁石6と、制御装置10とを有している。
【0041】
磁気粘弾性エラストマ2は、マトリックスとしての粘弾性を有する基質エラストマ14と、基質エラストマ14内に分散された磁性粒子15とを有する。基質エラストマ14は、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコンゴム等の室温で粘弾性を有する公知の高分子材料であってよい。また、磁気粘弾性エラストマ2は、電気抵抗率が高い材料から形成されていることが好ましく、電気絶縁性であることが好ましい。基質エラストマ14は、所定の中心軸線Aを有し、一側の外面に軸線Aに直交する第1主面17を有し、第1主面17と相反する側に、第1主面17と平行に形成された第2主面18とを有している。基質エラストマ14は、任意の形状に形成することができ、例えば直方体や円柱形とすることができる。第1主面17及び第2主面18は、基質エラストマ14が直方体の場合には互いに相反する一対の外面であり、基質エラストマ14が円柱形の場合には、軸線に直交する両端面とすることができる。
【0042】
磁性粒子15は、磁場の作用によって磁気分極する性質を有すると共に、導電性を有するものであり、例えば、純鉄、電磁軟鉄、方向性ケイ素鋼、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、マグネタイト、コバルト、ニッケル等の金属、4−メトキシベンジリデン−4−アセトキシアニリン、トリアミノベンゼン重合体等の有機物、フェライト分散異方性プラスチック等の有機・無機複合体等の公知の材料から形成された粒子である。磁性粒子15の形状は、特に限定はなく、例えば球形、針形、平板形等であってよい。磁性粒子15の粒径は、特に限定はなく、例えば0.01μm〜500μm程度であってよい。
【0043】
磁性粒子15は、基質エラストマ14内において、磁場が印加されていない状態においては互いの相互作用が小さく、磁場が印加された状態においては磁気相互作用によって互いに作用する引力が増大するようになっている。例えば、磁性粒子15は、基質エラストマ14内において、磁場が印加されていない状態においては接触部位が少なく、磁場が印加された状態においては磁気的結合によって互いの接触部位が増大し得る様に分散されている。また、磁性粒子15は、磁場が印加されていない状態においては、基質エラストマ14内において互いに接触しない程度に分散されていてもよいし、一部が接触して連続するように分散されていてもよい。磁性粒子15の基質エラストマ14に対する割合は、任意に設定可能であるが、例えば体積分率で5%〜60%程度であってよい。磁性粒子15の基質エラストマ14に対する分散状態は、基質エラストマ14の各部において均一にしてもよいし、一部に密度差を設けてもよい。
【0044】
第1電極板8及び第2電極板9は、それぞれ板状の電極である。第1電極板8は主面が磁気粘弾性エラストマ2の第1主面17に接合され、第2電極板9は主面が磁気粘弾性エラストマ2の第2主面18に接着等によって接合されている。これにより、第1電極板8及び第2電極板9は、磁気粘弾性エラストマ2を挟持するように配置されている。
【0045】
第1プレート3及び第2プレート4は、非磁性材から形成されている。第1プレート3は第1電極板8の外面側に接合され、第2プレート4は第2電極板9の外面側に接合されている。これにより、第1プレート3及び第2プレート4は、磁気粘弾性エラストマ2を挟持する第1電極板8及び第2電極板9を挟持するように配置されている。すなわち、軸線A方向に沿って、第1プレート3、第1電極板8、磁気粘弾性エラストマ2、第2電極板9、第2プレート4が記載の順序で積層構造を形成している。
【0046】
第1電磁石5及び第2電磁石6は、それぞれ、鉄心21と、鉄心21の外周面に巻き回されたコイル22とを有する。各電磁石5、6は、コイル22の軸線が第1プレート3及び第2プレート4の主面に直交するように、第1プレート3及び第2プレート4内の中央に配置されている。各電磁石5、6は、コイル22の軸線が磁気粘弾性エラストマ2の軸線Aと一致するように配置されている。本実施形態では、第1プレート3及び第2プレート4は樹脂を成形したものであり、各電磁石5、6は各プレート3、4を成形する際に内部にインサートされ、各プレート3、4内に埋め込まれている。他の実施形態では、各プレート3、4を中空のケース状に形成し、各電磁石5、6を後でケース内に配置する構成としてもよい。各電磁石5、6のコイル22に接続される配線は、各プレート3、4から外部に引き出されている。
【0047】
各電磁石5、6に通電することによって、磁場が発生し、磁気粘弾性エラストマ2に磁場が印加される。磁場は、磁力線(図1中の破線参照)が第1プレート3の第1電磁石5から第2プレート4の第2電磁石6に向かうように生成される。各電磁石5、6から発生する磁場(印加磁場Bi)は、各電磁石に流れる電流Iiに応じて変化し、電流が大きくなるほど磁場(磁束密度)は大きくなる。
【0048】
各電磁石5、6に通電することによって磁気粘弾性エラストマ2に磁場が印加されると、磁場の強さに応じて磁性粒子15は分極し、磁気的結合を形成する。磁性粒子15は、例えば連鎖的に結合して網目構造を形成する等によって、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率が基質エラストマ14単独の弾性率(剛性)よりも増大する。磁気粘弾性エラストマ2に印加される磁場が強いほど、磁性粒子15間の磁気的結合が増大し、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率が増大する。各電磁石5、6によって磁気粘弾性エラストマ2に印加される磁場(印加磁場Bi)が強いほど、すなわち各電磁石5、6に供給される電流(Ii)が大きいほど、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率は増大し、磁気粘弾性エラストマ2は荷重Fに対して変形し難くなる。
【0049】
また、磁気粘弾性エラストマ2に磁場が印加されると、磁場の強さに応じて磁性粒子15は磁気的結合を形成して、網目構造(鎖状構造)を形成する。この磁性粒子15による網目構造は、導電経路となるため磁気粘弾性エラストマ2の電気抵抗Rが低下する。印加磁場Biが強くなるほど、磁性粒子15による磁気的結合が促進され、磁気粘弾性エラストマ2の電気抵抗Rは低下する。
【0050】
センサ装置1は、第1プレート3が基台31に固定され、第2プレート4が測定対象体32に固定される。センサ装置1は、測定対象体32から第2プレート4にせん断方向(軸線Aに直交する平面に沿った方向)への荷重Fが入力されたとき(図2参照)の、荷重Fの大きさや、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xを検出する。また、荷重Fの大きさや変形量Xに関連する荷重Fの大きさの変化速度(変化率)、磁気粘弾性エラストマ2の変形速度V、磁気粘弾性エラストマ2の振動数を検出する。
【0051】
制御装置10は、マイクロプロセッサや、ROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。制御装置10は、各電磁石5、6及び各電極板8、9に接続されている。制御装置10は、各電磁石5、6に電力を供給し、供給する電流Iiを変化させることによって、各電磁石5、6が生じる磁場の強さ(磁束密度)を変化させる。制御装置10が各電磁石5、6に供給する電流Iiの大きさは、複数段階に設定可能であってもよいし、連続的に設定可能であってもよい。本実施形態では、制御装置10は、小、中、大の3段階に電流Iiを変更可能であり、これらの電流に応じて各電磁石5、6が発生する磁場(印加磁場Bi)の強さは弱、中、強の3段階に変更される。制御装置10は、各電磁石5、6に供給する電流Iiを連続的に変化させることができる場合には、各電磁石5、6に供給する電流Iiから各電磁石5、6が発生する磁場(印加磁場Bi)を演算するとよい。
【0052】
制御装置10は、第1電極板8、磁気粘弾性エラストマ2、第2電極板9からなる電気回路に電力を供給する。また、制御装置10は、第1電極板8及び第2電極板9間の電気抵抗を測定する抵抗検出手段としての抵抗検出回路35を備えている。抵抗検出回路35は、第1電極板8及び第2電極板9間の電気抵抗、すなわち磁気粘弾性エラストマ2の電気抵抗Rを測定する。
【0053】
また、制御装置10は、電気抵抗Rと、印加磁場Biとに基づいて所定のマップを参照し、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xや磁気粘弾性エラストマ2に加えられた荷重F、磁気粘弾性エラストマ2に生じている振動数νを演算する。なお、制御装置10は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量等の演算時に、印加磁場Biに代えて、印加磁場Biに対応した各電磁石5、6に供給する電流Iiを使用してもよい。
【0054】
図3は、第1実施形態に係るセンサ装置1の印加磁場、荷重、及び変形量の関係を示すグラフであり、印加磁場Biに応じた荷重Fに対する磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xの関係を示すグラフである。印加磁場Biが変化すると、磁性粒子15の磁気的結合の程度が変化するため、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率が変化する。印加磁場Biが強くなると、磁性粒子15の磁気的結合が増大するため、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率は大きくなる。そのため、図3に示すように、印加磁場Biが強くなるにつれて、所定の荷重Fに対する磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xは小さくなる。そのため、印加磁場Biが弱いほど、磁気粘弾性エラストマ2は、小さな荷重Fで変形限界値X1に到達し易くなる。ここで変形限界値X1とは、この値を超えて変形量Xが大きくなると荷重Fに対する変形量Xの線形性が成立しなくなる値をいう。センサ装置1は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xが変形限界値X1以内の範囲で動作することが好ましい。
【0055】
磁気粘弾性エラストマ2は、変形が生じていないときの電気抵抗Rを初期抵抗Ri(Ri1、Ri2、Ri3、後述するが初期抵抗Riは印加磁場Biに応じて変化する)とする。磁気粘弾性エラストマ2は、軸線Aに沿った方向に圧縮変形するときには、内部に分散された磁性粒子15同士が互いに近接して導電経路を形成するため、電気抵抗Rは初期抵抗Riより低下する。圧縮方向への変形量Xが大きいほど、磁性粒子15同士は互いに一層近接して網目構造や鎖状構造の導電経路がより多く形成されるため、電気抵抗Rは一層低下する。一方、磁気粘弾性エラストマ2は、軸線Aに沿った方向に引張変形するときには、内部に分散された磁性粒子15同士が互いに離間して導電経路が伸張又は切断されるため、電気抵抗Rは初期抵抗Riより増加する。同様に、磁気粘弾性エラストマ2は、軸線Aと直交する平面に沿ったせん断方向に変形するときにも、内部に分散された磁性粒子15同士が互いに離間して導電経路が伸張又は切断されるため、電気抵抗Rは初期抵抗Riより増加する。引張方向への変形量X及びせん断方向への変形量Xが大きいほど、磁性粒子15同士は互いに一層離間して導電経路が切断されるため、電気抵抗Rは一層増加する。このように、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xが0の初期状態から、電気抵抗Rが初期抵抗Riより低下すると軸線Aに沿った圧縮変形が生じている(すなわち、圧縮荷重が加わっている)と判断でき、電気抵抗Rが初期抵抗Riより増加すると軸線Aに沿った引張変形が生じている(すなわち、引張荷重が加わっている)、又はせん断方向に変形が生じている(すなわち、せん断荷重が加わっている)と判断することができる。
【0056】
本実施形態では、印加磁場Biは弱、中、強の3段階で変更可能としたため、この3段階について、制御装置10は、電気抵抗Rと磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xとの関係を予め定めた変形量マップを有している。制御装置10は、印加磁場Biと電気抵抗Rとに基づいて、変形量マップを参照することで磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xを演算する。変形量マップは、例えば、軸線A方向への圧縮変形に対応して、電気抵抗Rが初期値より低下するほど変形量Xが大きくなるように設定すると共に、軸線A方向への引張変形及びせん断方向への変形に対応して、電気抵抗Rが初期値より増加するほど変形量Xが大きくなるように設定するとよい。
【0057】
図3に示すように、磁気粘弾性エラストマ2に加わる荷重Fは、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xと印加磁場Biの強さとに相関がある。本実施形態では、印加磁場Biは弱、中、強の3段階で設定可能としたため、この3パターンについて、制御装置10は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xと磁気粘弾性エラストマ2に加わる荷重Fの関係を予め定めた荷重マップを有している。制御装置10は、印加磁場Biと磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xとに基づいて、荷重マップを参照することで磁気粘弾性エラストマ2に加わる荷重Fを演算する。荷重マップは、例えば、変形量Xが大きくなるほど荷重Fが増加し、印加磁場Biが大きくなるほど変形量Xに基づく荷重Fが大きくなるように定めるとよい。
【0058】
制御装置10は、以上のように演算した変形量Xを微分することによって、磁気粘弾性エラストマ2の変形速度Vを得ることができ、変形速度Vに基づいて磁気粘弾性エラストマ2の振動数νを得ることができる。また、制御装置10は、荷重Fに基づいて荷重Fの変化速度や荷重Fの振動数を得ることができる。
【0059】
また、制御装置10は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xに基づいて、印加磁場Biを調整する。例えば、制御装置10は、変形量Xが大きい場合には、各電磁石5、6に供給する電流Iiを増大させ、印加磁場Biを強くし、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を増大させる。これにより、変形量Xが変形限界値X1に到達し難くなり、より大きな荷重Fを測定可能になる。すなわち、センサ装置1の検出範囲(測定範囲)が広くなる。また、制御装置10は、変形量Xが小さい場合には、印加磁場Biを弱くして磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を低下させる。これにより、荷重Fが小さい場合にも磁気粘弾性エラストマ2はより大きく変形するようになるため、荷重Fに対する検出磁場Bdの変化量が大きくなり、検出精度(感度)が向上する。このように、センサ装置1は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量X及び加わる荷重Fに対応して、検出範囲及び検出感度を変化させることができる。
【0060】
センサ装置1の検出範囲及び検出感度の調整は、磁気粘弾性エラストマ2の変形量Xに代えて、磁気粘弾性エラストマ2の変形速度Vや、電気抵抗Rの変化量又は変化速度に基づいて行ってもよい。磁気粘弾性エラストマ2の変形速度Vが大きくなるほど、又は電気抵抗Rの変化量(変化速度)が大きくなるほど、印加磁場Biを強くして磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を増大させるとよい。
【0061】
以上のように構成したセンサ装置1は、演算した荷重Fや、荷重Fの変化速度から演算した振動数νに基づいて磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を変化させることによって、測定対象体32の振動を低減するアクチュエータとして機能することができる。例えば、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を変化させることによって、基台31、センサ装置1、測定対象体32からなる振動系のばね定数を変化させ、振動系の固有振動数を変化させることによって振動系の振動を低減することができる。その際、センサ装置1は、センサ装置1が検出した振動数νに基づいて、振動数νを低下させる方向に磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を変化させるとよい。
【0062】
以上のように構成したセンサ装置1は、センサとしての機能と、アクチュエータとしての機能とを有する。通常、アクチュエータとセンサとは独立した要素によって構成されるが、磁気粘弾性エラストマ2及び各電磁石5、6はセンサ及びアクチュエータに共通の要素として用いられるため、センサ装置1の部品点数を削減することができると共に、センサ装置1をコンパクトに構成することができる。
【0063】
また、センサ装置1は、磁気粘弾性エラストマ2を主な要素として有するため、従来、粘弾性エラストマを緩衝材(ショックアブソーバ)として使用している箇所への組み込み及び置換に適している。
【0064】
以上のように構成したセンサ装置1は、例えば車両の車体骨格と内燃機関との間に介装されるエンジンマウントや、サスペンションアームと車輪を支持するナックルとの間に介装されるブッシュとして適用することができる。例えば、基台31に車体骨格やサスペンションアームを適用し、測定対象体32に内燃機関やナックルを適用するとよい。センサ装置1をエンジンマウントとして構成した場合には、センサ装置1は内燃機関の振動を検出し、内燃機関の振動を抑制するように、磁気粘弾性エラストマ2の弾性率を変化させるとよい。センサ装置1を筒状のブッシュに適用する場合には、磁気粘弾性エラストマ2を筒状に形成し、第1プレート3を筒状に形成して磁気粘弾性エラストマ2の外周面に外筒として配置し、第2プレート4を筒状に形成して磁気粘弾性エラストマ2の内周面に内筒として配置することができる。
【0065】
(第2実施形態)
は、第2実施形態に係るセンサ装置50を示す構成図である。第2実施形態に係るセンサ装置50は、ストッパ51を更に有する点が第1実施形態に係るセンサ装置1と異なり、他の構成は同様である。以下の第2実施形態に係るセンサ装置50について、第1実施形態に係るセンサ装置1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0066】
に示すように、センサ装置1は、第1プレート3の側部にストッパ51を有している。ストッパ51は、第1プレート3の側部に接合され、軸線Aと平行に延び、第2プレート4の側部に摺接している。これにより、第2プレート4は、第1プレート3に対して、軸線A方向に変位可能である一方、軸線Aと直交する平面に沿ったせん断方向への変位が規制されている。
【0067】
この構成によれば、センサ装置1は、せん断方向への変形が規制されているため、電気抵抗Rが初期抵抗Riより大きい場合には、引張方向に磁気粘弾性エラストマ2が変形している(引張方向に荷重Fが加わっている)と判断することができる。すなわち、磁気粘弾性エラストマ2の変形方向を圧縮方向又は引張方向に規制することによって、変形の方向を確定することができる。
【0068】
(第3実施形態)
は、第3実施形態に係るセンサ装置60を示す構成図である。第3実施形態に係るセンサ装置60は、磁気検出手段としてのホール素子61を更に有する点が第1実施形態に係るセンサ装置1と異なり、他の構成は同様である。以下の第3実施形態に係るセンサ装置60について、第1実施形態に係るセンサ装置1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0069】
ホール素子61は、ホール効果を利用して磁場(磁界)を検出する公知の磁気センサである。ホール素子61は、薄膜状の半導体であり、主面に沿った第1の方向に沿って制御電流Icを入力するための端子を有し、主面に沿い、かつ第1の方向に直交する第2の方向に沿って出力電圧Voを主力するための出力端子を有している。ホール素子61は、主面19に略直交する方向から磁場が印加されたときに、磁場の磁束密度と制御電流Icとに比例した出力電圧Voを主力端子から出力する。
【0070】
ホール素子61は、磁気粘弾性エラストマ2の中央部に、主面19が第1主面17及び第2主面18と平行になるように埋め込まれている。すなわち、ホール素子61は、その主面19を軸線Aが通過するように配置されている。これにより、ホール素子61は、磁気粘弾性エラストマ2内に支持されている。ホール素子61の入力端子及び出力端子に接続される配線は、第1主面17及び第2主面18と平行に延び、磁気粘弾性エラストマ2の側部から外部に突出している。
【0071】
制御装置10は、ホール素子61に制御電流Icを出力する一方、ホール素子61から出力電圧Voを受ける。制御装置10は、制御電流Icと出力電圧Voとに基づいてホール素子61に加わる磁場(検出磁場Bdという)を演算する。
【0072】
ホール素子61は、自身の位置における磁場の強さ(検出磁場Bd)に応じた出力電圧Voを出力する。すなわち、ホール素子61は、自身の位置における磁場の強さを検出する。各電磁石5、6が発生する磁場(印加磁場Bi)の強さが一定である場合に、第2プレート4を介して磁気粘弾性エラストマ2に荷重Fが加えられ、磁気粘弾性エラストマ2が変形すると、ホール素子61と各電磁石5、6との相対位置が変化するため、ホール素子61を通過する磁力線の数が変化し、ホール素子61の出力電圧Vo、すなわちホール素子61が検出する磁場(検出磁場Bd)の強さが変化する。そのため、ホール素子61が検出した検出磁場Bd(出力電圧Vo)の変化量に基づいて磁気粘弾性エラストマ2の変形量X及び磁気粘弾性エラストマ2に加わる荷重Fを演算することができる。本実施形態では、ホール素子61は、磁気粘弾性エラストマ2の軸線Aを通るように中央部に設けられ、各電磁石5、6(コイル22)の軸線が軸線Aと一致するように設けられている。そのため、磁気粘弾性エラストマ2がせん断方向に変形するほど、ホール素子61が各電磁石5、6の軸線からずれ、検出磁場Bdが小さくなる。
【0073】
ホール素子61は、磁気粘弾性エラストマ2のせん断方向への変形を検出することができるため、制御装置10は、ホール素子61からの検出値に基づくことによって、磁気粘弾性エラストマ2が変形し、電気抵抗Rが初期抵抗Riより増加するときに、その変形が軸線Aに沿った引張方向への変形か、せん断方向への変形かを判別することができる。
【0074】
ホール素子61からの検出値に基づいて磁気粘弾性エラストマ2の変形方向を確定した後は、第1実施形態に係るセンサ装置1と同様に、センサ装置60は、印加磁場Bi及び電気抵抗Rに基づいて磁気粘弾性エラストマ2の変形量X及び荷重Fを演算する。なお、検出磁場Bd及び印加磁場Biに基づいて、せん断方向への磁気粘弾性エラストマ2の変形量X及び荷重Fを演算してもよい。
【0075】
(第4実施形態)
は、第4実施形態に係るセンサ装置70を示す構成図である。第4実施形態に係るセンサ装置70は、非磁性部材71を更に有する点が第3実施形態に係るセンサ装置60と異なり、他の構成は同様である。以下の第4実施形態に係るセンサ装置70について、上記実施形態に係るセンサ装置1、60と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0076】
に示すように、第4実施形態に係るセンサ装置70は、磁気粘弾性エラストマ2の内部に、ホール素子61に加えて非磁性部材71を有している。非磁性部材71は、透磁率が磁気粘弾性エラストマ2及び基質エラストマ14に比べて低い材料から形成されている。非磁性部材71は、ホール素子61の主面19と同一形状の主面を有する板状に形成されている。非磁性部材71は、磁気粘弾性エラストマ2内においてホール素子61と第1プレート3との間に支持されている。非磁性部材71は、その主面が軸線Aと直交するように配置され、軸線Aに沿った方向から見てホール素子61と外縁が概ね一致するように配置されている。これにより、磁気粘弾性エラストマ2が変形していない初期状態においては、軸線A方向においてホール素子61は非磁性部材71と重なり、軸線A方向においてホール素子61と第1プレート3の各電磁石5、6との対向面積は0又は微小となる。そのため、各電磁石5、6が発生する磁力線は非磁性部材71に阻害され(図中の破線参照)、ホール素子61を通過し難くなる。すなわち、磁気粘弾性エラストマ2が変形していない初期状態においては、ホール素子61が検出する検出磁場Bdが小さくなる。
【0077】
以上のように構成した第4実施形態に係るセンサ装置70は、磁気粘弾性エラストマ2がせん断方向に変形したときに、ホール素子61と非磁性部材71との相対位置がせん断方向にずれ、ホール素子61が軸線A方向において各電磁石5、6と対向する部分が増大する。これにより、ホール素子61を通過する磁力線が比較的急峻な傾きをもって増加し、ホール素子61は磁場の変化を検出することができる。このように、非磁性部材71を各電磁石5、6とホール素子61との間に介在させたことによって、磁気粘弾性エラストマ2が変形したときに、ホール素子61が検出する磁場の変化を大きくすることができる。すなわち、センサ装置1は、磁気粘弾性エラストマ2の変形をより高精度(高感度)に検出することができる。
【0078】
(第5実施形態)
は、第5実施形態に係るセンサ装置を示す構成図であり、図は第5実施形態に係るセンサ装置に荷重が加わった状態を示す図である。図及び図に示すように、センサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102と、磁気粘弾性エラストマ102を挟持するように設けられた第1プレート103及び第2プレート104と、第1プレート103及び第2プレート104のそれぞれに設けられた磁場印加手段としての第1電磁石105及び第2電磁石106と、磁気粘弾性エラストマ102内に支持された磁場検出手段としてのホール素子107と、制御装置110とを有している。
【0079】
磁気粘弾性エラストマ102は、マトリックスとしての粘弾性を有する基質エラストマ114と、基質エラストマ114内に分散された磁性粒子115とを有する。基質エラストマ114は、例えば、エチレン−プロピレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコンゴム等の室温で粘弾性を有する公知の高分子材料であってよい。基質エラストマ114は、所定の中心軸線Aを有し、一側の外面に軸線Aに直交する第1主面117を有し、第1主面117と相反する側に、第1主面117と平行に形成された第2主面118とを有している。基質エラストマ114は、任意の形状に形成することができ、例えば直方体や円柱形とすることができる。第1主面117及び第2主面118は、基質エラストマ114が直方体の場合には互いに相反する一対の外面であり、基質エラストマ114が円柱形の場合には、軸線に直交する両端面とすることができる。
【0080】
磁性粒子115は、磁場の作用によって磁気分極する性質を有するものであり、例えば、純鉄、電磁軟鉄、方向性ケイ素鋼、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、マグネタイト、コバルト、ニッケル等の金属、4−メトキシベンジリデン−4−アセトキシアニリン、トリアミノベンゼン重合体等の有機物、フェライト分散異方性プラスチック等の有機・無機複合体等の公知の材料から形成された粒子である。磁性粒子115の形状は、特に限定はなく、例えば球形、針形、平板形等であってよい。磁性粒子115の粒径は、特に限定はなく、例えば0.01μm〜500μm程度であってよい。
【0081】
磁性粒子115は、基質エラストマ114内において、磁場が印加されていない状態においては互いの相互作用が小さく、磁場が印加された状態においては磁気相互作用によって互いに作用する引力が増大するようになっている。例えば、磁性粒子115は、基質エラストマ114内において、磁場が印加されていない状態においては接触部位が少なく、磁場が印加された状態においては磁気的結合によって互いの接触部位が増大し得る様に分散されている。また、磁性粒子115は、磁場が印加されていない状態においては、基質エラストマ114内において互いに接触しない程度に分散されていてもよいし、一部が接触して連続するように分散されていてもよい。磁性粒子115の基質エラストマ114に対する割合は、任意に設定可能であるが、例えば体積分率で5%〜60%程度であってよい。磁性粒子115の基質エラストマ114に対する分散状態は、基質エラストマ114の各部において均一にしてもよいし、一部に密度差を設けてもよい。
【0082】
ホール素子107は、ホール効果を利用して磁場(磁界)を検出する公知の磁気センサである。ホール素子107は、薄膜状の半導体であり、主面に沿った第1の方向に沿って制御電流Icを入力するための端子を有し、主面に沿い、かつ第1の方向に直交する第2の方向に沿って出力電圧Voを主力するための出力端子を有している。ホール素子107は、主面119に略直交する方向から磁場が印加されたときに、磁場の磁束密度と制御電流Icとに比例した出力電圧Voを主力端子から出力する。
【0083】
ホール素子107は、磁気粘弾性エラストマ102の中央部に、主面119が第1主面117及び第2主面118と平行になるように埋め込まれている。すなわち、ホール素子107は、その主面119を軸線Aが通過するように配置されている。これにより、ホール素子107は、磁気粘弾性エラストマ102内に支持されている。ホール素子107の入力端子及び出力端子に接続される配線は、第1主面117及び第2主面118と平行に延び、磁気粘弾性エラストマ102の側部から外部に突出している。
【0084】
第1プレート103及び第2プレート104は、非磁性材から形成され、磁気粘弾性エラストマ102の第1主面117及び第2主面118に接着等によって接合されている。第1電磁石105及び第2電磁石106は、それぞれ、鉄心121と、鉄心121の外周面に巻き回されたコイル122とを有する。各電磁石105、106は、コイル122の軸線が第1プレート103及び第2プレート104の主面に直交するように、第1プレート103及び第2プレート104内の中央に配置されている。各電磁石105、106は、コイル122の軸線が磁気粘弾性エラストマ102の軸線Aと一致するように配置されている。本実施形態では、第1プレート103及び第2プレート104は樹脂を成形したものであり、各電磁石105、106は各プレート103、104を成形する際に内部にインサートされ、各プレート103、104内に埋め込まれている。他の実施形態では、各プレート103、104を中空のケース状に形成し、各電磁石105、106を後でケース内に配置する構成としてもよい。各電磁石105、106のコイル122に接続される配線は、各プレート103、104から外部に引き出されている。
【0085】
各電磁石105、106に通電することによって、磁場が発生し、磁気粘弾性エラストマ102に磁場が印加される。磁場は、磁力線(図中の破線参照)が第1プレート103の第1電磁石105から第2プレート104の第2電磁石106に向かうように生成される。各電磁石105、106から発生する磁場(印加磁場Bi)は、各電磁石に流れる電流Iiに応じて変化し、電流が大きくなるほど磁場(磁束密度)は大きくなる。
【0086】
各電磁石105、106に通電することによって磁気粘弾性エラストマ102に磁場が印加されると、磁場の強さに応じて磁性粒子115は分極し、磁気的結合を形成する。磁性粒子115は、例えば連鎖的に結合して網目構造を形成する等によって、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率が基質エラストマ114単独の弾性率(剛性)よりも増大する。磁気粘弾性エラストマ102に印加される磁場が強いほど、磁性粒子115間の磁気的結合が増大し、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率が増大する。各電磁石105、106によって磁気粘弾性エラストマ102に印加される磁場(印加磁場Bi)が強いほど、すなわち各電磁石105、106に供給される電流(Ii)が大きいほど、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率は増大し、磁気粘弾性エラストマ102は荷重Fに対して変形し難くなる。
【0087】
センサ装置101は、第1プレート103が基台131に固定され、第2プレート104が測定対象体132に固定される。センサ装置101は、測定対象体132から第2プレート104にせん断方向(軸線Aに直交する平面に沿った方向)への荷重Fが入力されたとき(図参照)の、荷重Fの大きさや、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xを検出する。また、荷重Fの大きさや変形量Xに関連する荷重Fの大きさの変化速度(変化率)、磁気粘弾性エラストマ102の変形速度V、磁気粘弾性エラストマ102の振動数を検出する。
【0088】
制御装置110は、マイクロプロセッサや、ROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。制御装置110は、各電磁石105、106及びホール素子107に接続されている。制御装置110は、各電磁石105、106に電力を供給し、供給する電流Iiを変化させることによって、各電磁石105、106が生じる磁場の強さ(磁束密度)を変化させる。制御装置110が各電磁石105、106に供給する電流Iiの大きさは、複数段階に設定可能であってもよいし、連続的に設定可能であってもよい。本実施形態では、制御装置110は、小、中、大の3段階に電流Iiを変更可能であり、これらの電流に応じて各電磁石105、106が発生する磁場(印加磁場Bi)の強さは弱、中、強の3段階に変更される。制御装置110は、各電磁石105、106に供給する電流Iiを連続的に変化させることができる場合には、各電磁石105、106に供給する電流Iiから各電磁石105、106が発生する磁場(印加磁場Bi)を演算するとよい。
【0089】
制御装置110は、ホール素子107に制御電流Icを出力する一方、ホール素子107から出力電圧Voを受ける。制御装置110は、制御電流Icと出力電圧Voとに基づいてホール素子107に加わる磁場(検出磁場Bdという)を演算する。
【0090】
また、制御装置110は、検出磁場Bdと、印加磁場Biとに基づいて所定のマップを参照し、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xや磁気粘弾性エラストマ102に加えられた荷重F、磁気粘弾性エラストマ102に生じている振動数νを演算する。なお、制御装置110は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量等の演算時に、検出磁場Bdに代えて、検出磁場Bdに対応したホール素子107の制御電流Ic及び出力電圧Voを使用してもよく、印加磁場Biに代えて、印加磁場Biに対応した各電磁石105、106に供給する電流Iiを使用してもよい。
【0091】
第5実施形態に係るセンサ装置101の印加磁場、荷重、及び変形量の関係は、図3で表される。印加磁場Biが変化すると、磁性粒子115の磁気的結合の程度が変化するため、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率が変化する。印加磁場Biが強くなると、磁性粒子115の磁気的結合が増大するため、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率は大きくなる。そのため、図3に示すように、印加磁場Biが強くなるにつれて、所定の荷重Fに対する磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xは小さくなる。そのため、印加磁場Biが弱いほど、磁気粘弾性エラストマ102は、小さな荷重Fで変形限界値X1に到達し易くなる。ここで変形限界値X1とは、この値を超えて変形量Xが大きくなると荷重Fに対する変形量Xの線形性が成立しなくなる値をいう。センサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xが変形限界値X1以内の範囲で動作することが好ましい。第1プレート103及び第2プレート104の所定量以上の相対移動を規制するストッパを設け、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xを変形限界値X1以下に規制してもよい。
【0092】
ホール素子107は、自身の位置における磁場の強さ(検出磁場Bd)に応じた出力電圧Voを出力する。すなわち、ホール素子107は、自身の位置における磁場の強さを検出する。各電磁石105、106が発生する磁場(印加磁場Bi)の強さが一定である場合に、第2プレート104を介して磁気粘弾性エラストマ102に荷重Fが加えられ、磁気粘弾性エラストマ102が変形すると、ホール素子107と各電磁石105、106との相対位置が変化するため、ホール素子107を通過する磁力線の数が変化し、ホール素子107の出力電圧Vo、すなわちホール素子107が検出する磁場(検出磁場Bd)の強さが変化する。そのため、ホール素子107が検出した検出磁場Bd(出力電圧Vo)の変化量に基づいて磁気粘弾性エラストマ102の変形量X及び磁気粘弾性エラストマ102に加わる荷重Fを演算することができる。本実施形態では、ホール素子107は、磁気粘弾性エラストマ102の軸線Aを通るように中央部に設けられ、各電磁石105、106(コイル122)の軸線が軸線Aと一致するように設けられている。そのため、磁気粘弾性エラストマ102がせん断方向に変形するほど、ホール素子107が各電磁石105、106の軸線からずれ、検出磁場Bdが小さくなる。
【0093】
ここで、検出磁場Bdは、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xに加えて、各電磁石105、106が生じる印加磁場Biの強さによって変化するため、検出磁場Bdに基づいて磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xを演算するときには、印加磁場Biの強さを考慮する必要がある。そのため、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xを演算するときには、検出磁場Bd及び印加磁場Biに基づいて演算する必要がある。本実施形態では、印加磁場Biは弱、中、強の3段階で変更可能としたため、この3段階について、制御装置110は、検出磁場Bdと磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xとの関係を予め定めた変形量マップを有している。制御装置110は、印加磁場Biと検出磁場Bdとに基づいて、変形量マップを参照することで磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xを演算する。変形量マップは、例えば、検出磁場Bdが小さくなるほど変形量Xが増加し、印加磁場Biが大きくなるほど検出磁場Bdに基づく変形量Xが大きくなるように定めるとよい。
【0094】
図3に示すように、磁気粘弾性エラストマ102に加わる荷重Fは、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xと印加磁場Biの強さとに相関がある。本実施形態では、印加磁場Biは弱、中、強の3段階で設定可能としたため、この3パターンについて、制御装置110は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xと磁気粘弾性エラストマ102に加わる荷重Fの関係を予め定めた荷重マップを有している。制御装置110は、印加磁場Biと磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xとに基づいて、荷重マップを参照することで磁気粘弾性エラストマ102に加わる荷重Fを演算する。荷重マップは、例えば、変形量Xが大きくなるほど荷重Fが増加し、印加磁場Biが大きくなるほど変形量Xに基づく荷重Fが大きくなるように定めるとよい。
【0095】
制御装置110は、以上のように演算した変形量Xを微分することによって、磁気粘弾性エラストマ102の変形速度Vを得ることができ、変形速度Vに基づいて磁気粘弾性エラストマ102の振動数νを得ることができる。また、制御装置110は、荷重Fに基づいて荷重Fの変化速度や荷重Fの振動数を得ることができる。
【0096】
また、制御装置110は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xに基づいて、印加磁場Biを調整する。例えば、制御装置110は、変形量Xが大きい場合には、各電磁石105、106に供給する電流Iiを増大させ、印加磁場Biを強くし、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を増大させる。これにより、変形量Xが変形限界値X1に到達し難くなり、より大きな荷重Fを測定可能になる。すなわち、センサ装置101の検出範囲(測定範囲)が広くなる。また、制御装置110は、変形量Xが小さい場合には、印加磁場Biを弱くして磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を低下させる。これにより、荷重Fが小さい場合にも磁気粘弾性エラストマ102はより大きく変形するようになるため、荷重Fに対する検出磁場Bdの変化量が大きくなり、検出精度(感度)が向上する。このように、センサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量X及び加わる荷重Fに対応して、検出範囲及び検出感度を変化させることができる。
【0097】
センサ装置101の検出範囲及び検出感度の調整は、磁気粘弾性エラストマ102の変形量Xに代えて、磁気粘弾性エラストマ102の変形速度Vや、検出磁場Bdの変化量又は変化速度に基づいて行ってもよい。磁気粘弾性エラストマ102の変形速度Vが大きくなるほど、又は検出磁場Bdの変化量(変化速度)が大きくなるほど、印加磁場Biを強くして磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を増大させるとよい。
【0098】
以上のように構成したセンサ装置101は、演算した荷重Fや、荷重Fの変化速度から演算した振動数νに基づいて磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を変化させることによって、測定対象体132の振動を低減するアクチュエータとして機能することができる。例えば、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を変化させることによって、基台131、センサ装置101、測定対象体132からなる振動系のばね定数を変化させ、振動系の固有振動数を変化させることによって振動系の振動を低減することができる。その際、センサ装置101は、センサ装置101が検出した振動数νに基づいて、振動数νを低下させる方向に磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を変化させるとよい。
【0099】
以上のように構成したセンサ装置101は、センサとしての機能と、アクチュエータとしての機能とを有する。通常、アクチュエータとセンサとは独立した要素によって構成されるが、磁気粘弾性エラストマ102及び各電磁石105、106はセンサ及びアクチュエータに共通の要素として用いられるため、センサ装置101の部品点数を削減することができると共に、センサ装置101をコンパクトに構成することができる。
【0100】
また、センサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102を主な要素として有するため、従来、粘弾性エラストマを緩衝材(ショックアブソーバ)として使用している箇所への組み込み及び置換に適している。
【0101】
以上のように構成したセンサ装置101は、例えば車両の車体骨格と内燃機関との間に介装されるエンジンマウントや、サスペンションアームと車輪を支持するナックルとの間に介装されるブッシュとして適用することができる。例えば、基台131に車体骨格やサスペンションアームを適用し、測定対象体132に内燃機関やナックルを適用するとよい。センサ装置101をエンジンマウントとして構成した場合には、センサ装置101は内燃機関の振動を検出し、内燃機関の振動を抑制するように、磁気粘弾性エラストマ102の弾性率を変化させるとよい。センサ装置101を筒状のブッシュに適用する場合には、磁気粘弾性エラストマ102を筒状に形成し、第1プレート103を筒状に形成して磁気粘弾性エラストマ102の外周面に外筒として配置し、第2プレート104を筒状に形成して磁気粘弾性エラストマ102の内周面に内筒として配置することができる。
【0102】
(第6実施形態)
は、第6実施形態に係るセンサ装置150を示す構成図である。第6実施形態に係るセンサ装置150は、非磁性部材151を更に有する点が第5実施形態に係るセンサ装置101と異なり、他の構成は同様である。以下の第6実施形態に係るセンサ装置150について、第5実施形態に係るセンサ装置101と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0103】
に示すように、第6実施形態に係るセンサ装置150は、磁気粘弾性エラストマ102の内部に、ホール素子107に加えて非磁性部材151を有している。非磁性部材151は、透磁率が磁気粘弾性エラストマ102及び基質エラストマ114に比べて低い材料から形成されている。非磁性部材151は、ホール素子107の主面119と同一形状の主面を有する板状に形成されている。非磁性部材151は、磁気粘弾性エラストマ102内においてホール素子107と第1プレート103との間に支持されている。非磁性部材151は、その主面が軸線Aと直交するように配置され、軸線Aに沿った方向から見てホール素子107と外縁が概ね一致するように配置されている。これにより、磁気粘弾性エラストマ102が変形していない初期状態においては、軸線A方向においてホール素子107は非磁性部材151と重なり、軸線A方向においてホール素子107と第1プレート103の各電磁石105、106との対向面積は0又は微小となる。そのため、各電磁石105、106が発生する磁力線は非磁性部材151に阻害され(図10中の破線参照)、ホール素子107を通過し難くなる。すなわち、磁気粘弾性エラストマ102が変形していない初期状態においては、ホール素子107が検出する検出磁場Bdが小さくなる。
【0104】
以上のように構成した第6実施形態に係るセンサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102がせん断方向に変形したときに、ホール素子107と非磁性部材151との相対位置がせん断方向にずれ、ホール素子107が軸線A方向において各電磁石105、106と対向する部分が増大する。これにより、ホール素子107を通過する磁力線が比較的急峻な傾きをもって増加し、ホール素子107は磁場の変化を検出することができる。このように、非磁性部材151を各電磁石105、106とホール素子107との間に介在させたことによって、磁気粘弾性エラストマ102が変形したときに、ホール素子107が検出する磁場の変化を大きくすることができる。すなわち、センサ装置101は、磁気粘弾性エラストマ102の変形をより高精度(高感度)に検出することができる。
【0105】
(第7実施形態)
10は、第7実施形態に係るセンサ装置160を示す構成図である。第7実施形態に係るセンサ装置160は、第2プレート104及び第2プレート104に含まれる第2電磁石106を省略した点が第5実施形態に係るセンサ装置101と異なり、他の構成は同様である。以下の第7実施形態に係るセンサ装置160について、第5実施形態に係るセンサ装置101と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0106】
10に示すように、第7実施形態に係るセンサ装置160は、第2プレート104及び第2プレート104内の第2電磁石106が省略されており、センサ装置101の荷重入力部が磁気粘弾性エラストマ102となる。これにより、センサ装置101は、柔軟な(可撓性を有する)荷重入力部を有する感圧センサとして構成される。
【0107】
第7実施形態に係るセンサ装置101は、人が指等によって操作するボタンや、ロボット等のアームの作用部(指先等)への適用に適している。
【0108】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、第1〜第3、第5実施形態において、第1電磁石105及び第2電磁石106の一方を省略してもよい。また、上記の実施形態では磁場印加手段として各電磁石5、6、105、106を使用したが、磁場印加手段には永久磁石を使用してもよい。この場合には、磁気粘弾性エラストマ2、102に印加する磁場の強さを変化させるために、永久磁石と磁気粘弾性エラストマ2、102との相対位置を変化させる磁石位置可変手段を設けるとよい。
【符号の説明】
【0109】
1、50、60、70、101、150、160...センサ装置、2、102...磁気粘弾性エラストマ、3、103...第1プレート、4、104...第2プレート、5、105...第1電磁石(磁場印加手段)、6、106...第2電磁石(磁場印加手段)、8...第1電極板、9...第2電極板、10、110...制御装置(演算手段)、14、114...基質エラストマ、15、115...磁性粒子、31、131...基台、32、132...測定対象体、35...抵抗検出回路、51...ストッパ、61、107...ホール素子(磁気検出手段)、71...非磁性部材、151...非磁性部材、A...軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10