【実施例1】
【0014】
図1には、本発明の一実施形態である12スロットのアキシャルギャップ型モータにおける各相コイルの渡り線と口出し線の配置を模式的に表す。なお、ここで「渡り線」とは、連続巻されたコイル(
図1では、例えば、「U
+」と「U
−」の2連続巻コイル)の、隣り合うコイルとコイルとを繋ぐ、絶縁被覆導線部分の名称として定義する。また、「口出し線」とは、コイルの巻き始め線や巻き終わり線など、所謂、モータの配線として使用する絶縁被覆導線部分の名称として定義する。
【0015】
アキシャルギャップ型モータ100では、例えば、ケイ素鋼板を積層して形成した分割コア(鉄心)3の周りに、絶縁被覆導線を連続巻して形成したコイルを、複数個用意し、これらを円環状に配置して、例えば、ステータとなる固定子1を円盤状に構成し、当該固定子1の上下の両主面もしくは一方に対向して、回動可能に、ロータ2を配置する。ここでは、上述した鉄心3は、図からも明らかなように、その断面形状を台形としたものとして示されているが、本発明はこれに限定されることなく、その他、例えば、その断面形状を三角形や四角形に、適宜、変更可能であることは、勿論であろう。
【0016】
また、上述したロータ2は、モータの中心に配置される回転シャフト4(より具体的には、回転シャフトに連結された図示しない円盤状部材)と連結されており、そして、固定子1に対しては、一定のギャップを介して配置されている。
【0017】
また、ロータ2の上記固定子1(ステータ)との対向面(リング状の面)には、図示していないが、複数のマグネット(本例では、フェライト磁石)が周方向にN極とS極を交互に配置されている。なお、以下で説明するアキシャルギャップ型モータ100は一例であって、各相のコイル数、すなわち、スロット数を適宜変更できることは勿論である。
【0018】
また、この
図1において、U相の2個コイル10a、10bは、渡り線を介して連続巻線されており、本例では、コイルの巻回方向が「U
+」は時計回りを、「U
−」は反時計回りを示しており、そして、渡り線は全てコイルの内径側に集約されている。また、口出し線は、コイルの外径側とハウジングとの間に引き回され、モータの配線として使用される。なお、他の一対のU相の2個コイル10g、10hと、W相の二対(4個)のコイル10c、10d、10i、10jと、V相の二対(4個)のコイル10e、10f、10k、10lも、上記と同様に、連続巻線されていると共に、連続巻線の巻回方向と渡り線の配置も、上記と同様である。
【0019】
図2は、本発明のアキシャルギャップ型モータ100における、上記にその巻線構造を説明した固定子1(ステータ)の結線の状態を示す回路図である。即ち、図からも明らかなように、U相のコイル10Uの一方は、口出し線10U1、コイル10a、渡り線10U2、10b、口出し線10U3を直列に連結して構成されている。また、他方のコイルも、口出し線10U1’、コイル10h、渡り線10U2’、10g、口出し線10U3’を直列に連結して構成されている。更に、他の相、即ち、V相のコイル10V、W相のコイル10Wの構成も、そのコイルの巻回方向を含め、上記U相のコイル10Uと同一である。
【0020】
即ち、本実施例のアキシャルギャップ型モータ100は、2連続巻きコイルを6組使用した、所謂、2直2並列のΔ結線で構成されている。
【0021】
更に、各2連続巻きコイルの構造、配置をより詳細に示すため、上記のコイルU相10Uを一例にして、
図3に、その模式図を、そして、
図4に、その拡大斜視図を示す。勿論、他のV相のコイル10VやW相のコイル10Wとも同じ構造、配置である。また、コイルは、ここでは、1本の絶縁被覆導線を巻線した状態として示しているが、本発明はこれに限定されることなく、これに代えて、2本以上の多本持ち巻線にしてもよいことは勿論である。
【0022】
<巻線の製造方法>
ここで、固定子1のコア積厚を「L1」、コイルの径方向長さ「L2」とすると、
図4から明らかなように、L1<L2の関係が成り立つ(なお、その詳細については、以下にも述べる)。ここで、コイルから渡り線を突出させることなく(即ち、渡り線余長0mm)、理想的な渡り線を配置すると、
図4に太い実践で示す渡り線10U2となる。このように、理想的な渡り線を配置することが出来れば、ロータの軸と渡り線との距離が長く取れるため、空間絶縁距離を十分に確保することができる。
【0023】
<一般的な巻線方法>
図5には、一般的に行われている2連続巻きコイルの巻線方法を示す。一般的には、図示のように、2個の巻線用ボビン10a、10bを、その回転軸(図に一点鎖線で示す)が互いに隣接して平行になるよう、横に一列に並べた状態に配置し、そして、これらを、それぞれ前後(一点鎖線の方向)に駆動可能な前後機構(図示せず)に搭載する。なお、この
図5では、2つ目のコアまで、即ち、2つのボビン10a及び10bの巻線が終了した状態を示している。この状態を例にして説明すると、絶縁被覆導線を供給するノズル(図示せず)は、3軸方向の移動機構を有し、かつ、各コイル間の渡り線を形成することが可能であるが、しかしながら、この例では、説明を簡単にするため、ノズルは固定であるとし、そして、他方のワークを含めた巻線部全体を回転させることで巻線を行うものとする。勿論、ノズルを移動(ボビンの周囲に回転)させる方式でも、同様に、2連続巻きコイルが形成できることは言うまでもない。
【0024】
さて、ここで、2つ目のコア(ボビン10b)の巻線を終了した直後においては、図示されるように、1つ目のコア(ボビン10a)は後退し(図の矢印を参照)、2つ目のコア(ボビン10b)は巻線軌道が確保できる距離にまで前進させた状態(即ち、2つ目のコア(ボビン10b)の周囲に絶縁被覆導線を巻線する際の邪魔とならない状態)となっている。このときの渡り線10U2の長さ「L2」は、コア積厚「L1」以上となる。
【0025】
ここで、コイル(ボビン)の一点鎖線に直交する面における径方向の長さ「L2」が、渡り線の長さ「L2」と同じである場合には、上記
図4に示すように、渡り線10U2は理想的な配置となる。
【0026】
しかしながら、例えば、
図6に示すように、コア積厚「L1’」とコイルの径方向長さ「L2」との関係が、L2<L1’となる場合には、コア積厚「L1’」以上のストロークで2つ目のコア(ボビン)が移動する必要があるため、渡り線10U2の長さは少なくともコア積厚「L1’」以上となる。即ち、渡り線10U2がコイル(ボビン)から突出してしまい、上述したように、ロータの軸と渡り線との距離が短くなり、空間絶縁距離を確保できないなどの問題が発生する。
【0027】
そこで、本発明では、上述した問題点を解消し、コア積厚とコイルの径方向長さとの関係にかかわらず、即ち、
図6に示すように、渡り線10U2を理想的な長さにすることが可能な巻線方法を提供するものであり、その一例を
図7に示す。
【0028】
<本発明の巻線方法>
図7に示すように、まず、2個の巻線用ボビン20を、図示しない巻線治具に対し、同軸上に配置する。なお、この例でも、絶縁被覆導線31を供給するノズル30は、3軸方向の移動機構を有し、各コイル間の渡り線を形成することも出来るが、ここでも、ワークを含めた巻線部全体を回転させる(図の矢印を参照)ことで巻線を行うものとする。
【0029】
2個の巻線用ボビン20は、それぞれ、互いに対称となるように形成されている。具体的には、前方の巻線用ボビン20は、その前後に巻枠21、22を備え、更に、後方の巻枠22の外周の一部に、絶縁被覆導線を固定するための固定ピン23を有している。他方、後方の巻線用ボビン20は、その前後に巻枠25、27を備え、前方の巻枠25の外周の一部に、絶縁被覆導線を固定するための固定ピン26を有している。なお、巻枠21、22、25、27は、それぞれの巻線用ボビン20に対して着脱自在であり、また、それら2個の巻線用ボビン20の間には、中間リング24が設けられている。
【0030】
これら2個の巻線用ボビン20は、
図7に示すように、それらの間に中間リング24を取り付けた状態で、一対の保持回転冶具100の間に挟持される。なお、鉄心3は、巻線用ボビン20内に挿入した状態で巻線を行っても良く、又は、巻線を施した後に、巻線用ボビン20内に挿入してもよく、本例では、後者のように、鉄心3は、巻線を施した後に巻線用ボビン20内に挿入されるものとして説明を行う。また、巻枠22と巻枠25の側面に配置された固定ピン23、26は、後述する渡り線の位置決め用治具として機能する。
【0031】
図8に、巻線作業(巻線の製造方法)の第1の工程を示す。まず、保持回転冶具100を回転しながら(図の矢印を参照)、ノズル30を移動させ、絶縁被覆導線31を、巻枠20の切り欠き部(図示せず)に引っ掛け、そして、口出し線10U1を中間リング24上に巻き取る。
【0032】
次に、
図9に、巻線作業の第2の工程を示す。ここでは、上述した口出し線10U1の形成を行った後、ノズル30を移動させながら、コイル10aを巻線する。なお、この時も、保持回転冶具100は回転している(図の矢印を参照)。
【0033】
図10には、巻線作業の第3の工程を示す。ここでは、上述したコイル10aの巻線を完了した後、渡り線10U2を形成し、更に、次の巻線用ボビン20上にコイル10bを巻線する。
【0034】
ここで、渡り線10U2は、それぞれのボビン20の巻枠22、25の外周に形成された固定ピン23、26により位置決めされることから、図にも示すように、斜めに形成されることなる。
【0035】
続いて、
図11には、巻線作業の第4の工程を示す。この工程では、上述したコイル10bの巻線を完了した後、ノズル30を巻線治具の中心(即ち、中間リング24の位置)に移動させ、口出し線10U3を、中間リング24上に巻き取る。
【0036】
更に、
図12には、巻線作業の第5の工程を示す。この工程では、例えば、ニッパなどによって、口出し線10U3を切断して、これにより、2連続巻きコイルの原形が完成することとなる。
【0037】
そして、
図13には、巻線作業の第6工程を示す。この工程では、口出し線10U3を中間リング24から巻き崩し、更に、巻き回されたコイル10a、10bからは、巻枠21、巻枠22、中間リング24、巻枠25、巻枠27を分解して取り外す。なお、図は、これらの巻枠や中間リングを取り外した状態のコイル10a、10bの外観を示している。その後、完成した2連続巻コイル10a、10bを、図に矢印で示すように、渡り線10U2を基準として、それぞれ、90度の角度で折り返す。
【0038】
最後に、
図14には、巻線作業の第7工程を示す。この図には、2連続巻コイル10a、10bを、渡り線10U2を基準にして、それぞれ90度の角度で折り返した後の状態を示している。その後、更に、コイル10a、10bを、その中間部(即ち、渡り線10U2)を基準にして、各コイルの台形形状の頂点部を近づけるように回転すること(図の矢印を参照)によれば、例えば、上記の
図6にも示すように、コイルから渡り線を突出させることなく(渡り線余長0mm)、理想的に配置された渡り線10U2が形成されることとなる。
【0039】
ここで、上記
図12にも示した巻線作業の第5工程において、例えば、
図15に示すように、コア積厚を「L1」、コイルの径方向長さを「L2」とすると、L2<L1の関係が成り立つ。
【0040】
ここで、これまで説明してきた、渡り線10U2を理想的な長さにするための巻線方法においては、渡り線10U2は、固定ピン23、26で位置決めされることにより、斜めに形成されることとなる。そこで、巻枠22と巻枠25の側面に配置された固定ピン23、26と、巻枠22と巻枠25の間の距離「W」を調整することによれば、固定ピン23、26で位置決めされた渡り線10U2の長さを、コイルの径方向長さL2と同一にすることができる。即ち、コイルから渡り線を突出させることなく(渡り線余長0mm)、理想的に配置された渡り線10U2が形成されることとなる。
【0041】
そして、上述のようにして製造した巻線を、アキシャルギャップ型モータにおける各相の連続巻されたコイルとすることによれば、巻線の占積率を高め、コイルから渡り線を突出させることなく(渡り線余長0mm)連続巻きコイルを作製できるため、低価格化(接続点数少)と高出力化(占積率大)を実現したアキシャルギャップ型モータを提供することが可能となる。
【0042】
更に、上述した巻線の製造方法によれば、固定子コアのコア積厚が長くなった場合においても、渡り線の長さを、コア積厚にかかわらず、適宜、調整可能であることから、コイルから渡り線を突出させることなく(渡り線余長0mm)連続巻きコイルを作製でき、もって、低価格化(接続点数少)と共に、高出力化(占積率大)をも実現したアキシャルギャップ型モータを提供することが可能となる。
【0043】
なお、以上に説明してきたコイルの巻線方法は、コイルの巻層数が偶数の場合である。そこで、最後に、コイルの巻層数が奇数の場合の巻線方法を
図16に示す。
【0044】
図からも明らかなように、上記
図7に示した巻線治具の左右に、更に、巻枠28、29を追加し、これにより、口出し線10U1、10U3を、それぞれ、コイル10a、10bに隣接した部位に巻き付ける。なお、渡り線10U2の形成方法については、コイルの巻層数が奇数であっても、上述したコイルの巻層数が偶数の場合と同一である。従って、コイルの巻層数が奇数の場合においても、上記と同様に、コイルから渡り線を突出させることなく(渡り線余長0mm)、理想的に配置された渡り線10U2を形成することを可能とする。