(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に特許文献1のような一般的な始動制御の動作を示す。
図8に示すように、ECU(Engine Control Unit)がエンジン停止信号を検知すると、点火プラグの点火停止とインジェクターによる燃料噴射の停止を行う。
【0005】
上記停止動作後、ロータは慣性回転を行うため、クランクシャフトも同様に慣性回転を始める。クランクシャフトが慣性回転を始めてから停止するまでの間、ピストンは
図8の圧縮上死点を幾度か越えて停止する。例えばピストンは
図8に示す圧縮上死点Bは越えることができずに、圧縮上死点Bの手前のクランク角310°の位置で反転し、最終的に
図8に示すようにクランク角690°(排気行程)の位置で停止する。
【0006】
車両の始動の伴い、エンジンを始動させるには、ピストンが圧縮上死点Bを越える必要がある。ただし、ピストンが圧縮上死点Bを越えるには、ロータに対して多くのトルクエネルギーを要する。そのため、上述したように、ECUはピストンが所定の位置に到達するまでロータを逆転駆動させ、圧縮上死点Bまでの助走期間を長くすることで、勢いをつけて圧縮上死点Bを乗り越えるようにしている。所定の位置は例えば膨張過程内であり、
図8では470°として示す。
【0007】
ECUはピストンが所定の位置で停止したと判定すると、始動状態に切り替わる。始動状態とは、ロータが正転駆動するためのトリガーを認識できる状態のことである。正転駆動するためのトリガーとは、例えばスロットルスイッチである。
【0008】
ECUに正転駆動するためのトリガーが入力されると、ECUは点火プラグの点火開始とインジェクターによる燃料噴射を行うととともに、ACGスタータに正転駆動信号を入力する。ACGスタータは正転駆動を行い、圧縮上死点Bを乗り越え、車両は始動する。
【0009】
しかしながら、特許文献1のエンジン始動制御装置をミッション付の自動二輪車に搭載する場合、ロータが逆転駆動すると、エンジンが逆回転しミッション付の自動二輪車は後進する場合がある。なぜならば、特許文献1のエンジン始動制御装置は、ミッション付の自動二輪車の場合、クランクシャフトとACGスタータのロータが直結しているからである。よって上述したエンジン始動制御装置はスクータのような、ベルト変速車には採用できるが、ミッション付の自動二輪車には搭載できない。
【0010】
本発明は、アイドルストップ制御後の始動において、逆転駆動を行うことなく、エンジンの再始動ができ、車両を後進させることを阻止するエンジン始動制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、
エンジンの始動時にスタータモータとして機能し、当該エンジンの始動後においては発電機として機能する、前記エンジンのクランクシャフトに連結されたロータを有する回転電機において、前記回転電機の慣性回転を制御するエンジン始動制御装置
であって、スロットル弁が全閉状態になった後にエンジンの停止作業を実行し、前記回転電機を慣性回転させる第1の制御工程と、前記回転電機が慣性回転している際に、ピストン
の現在位置が圧縮上死点か否かを判断する第2の制御工程と、前記第2の制御工程で、
の現在位置が圧縮上死点であると判断された場合に、前記ピストンが次の圧縮上死点を越えられるか否かを判断し、前記ピストンが次の圧縮上死点を越えられないと判断した
場合に、
前記ピストンが所定の停止領域内で停止するように、
前記回転電機の慣性回転を制御する第3の制御工程と、を有する。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、上記したエンジン始動制御装置において、前記所定の停止領域内とは、
前記ピストンが
前記圧縮上死点を越えて、
前記エンジンが始動できる位置であってもよい。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、エンジン始動制御装置は、前記回転電機の回転する角度を検知する回転検出センサを更に備える。前記第
3の制御工程において、前記回転検出センサからの
前記エンジンの回転を示す回転情報から算出した慣性回転する前記回転電機
のクランクシャフトの角速度に基づいて、前記ピストン
を次の圧縮上死点を越えられるか否か判断する。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、エンジン始動制御装置は、前記第3の制御工程において、
前記回転電機に逆転トルクを発生させることで、前記ピストンを前記所定の停止領域内で停止させる。
【発明の効果】
【0015】
上記したエンジン始動制御装置によれば、ロータの慣性回転時において、スロットル弁を全閉にすることによる第1の制動力と、回転電機に通電を行い慣性回転とは逆向きにトルクが働くようにする第2の制動力により、慣性回転を所定の位置、つまり、圧縮上死点を乗り越えるのに十分な助走期間を確保できる位置に停止させることができる。このようにすると、エンジンの逆転駆動動作が無い為、ミッション付のバイクでも、逆転時の後進の問題が解消される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態による回転電機の制御系ブロック図である。
図1に示すように、典型的にはガソリン等を燃料とする内燃機関であるエンジン1は、図示を省略する車両に搭載される。
本発明の一実施形態の説明においては、本発明のエンジン始動制御装置がミッション付モータの自動二輪車に搭載されていることを前提とする。
【0018】
エンジン1は回転電機2、回転検出センサ3、ピストン4、シリンダー5、点火プラグ6、排気弁7、吸気弁8、インジェクター9、スロットル弁10、エアクリーナ11、及び、吸気通路13から構成されている。
【0019】
ECU200は、回転電機2のジェネレータ機能が発生する三相交流を全波整流する全波整流ブリッジ回路201、第1制御部203、第2制御部204を備えている。
【0020】
また、ECU200には、回転検出センサ3 、スロットルセンサ32、スロットルスイッチ33などの各部センサから検出信号が入力される。それらのセンサの結果に基づいて、回転電機2、点火プラグ6、インジェクター9、スロットル弁10の制御を行う。
【0021】
エアクリーナ11は矢印に示す吸気経路を通り、外気の吸気を行う。また、エアクリーナ11は吸気した外気をエアフィルタ12により浄化して、吸気通路13に供給する。
【0022】
吸気通路13の内部には、スロットル弁10が配置されている。スロットル弁10は、吸気される空気量を制御する弁である。スロットル弁10の開閉に関しては、例えば、自動二輪車のスロットルグリップの回動操作に応じて、ECU200がスロットル弁10の開閉を制御する。その開閉量(スロットル開度)がスロットルセンサ32により検知される。
または、スロットルグリップとスロットル弁がワイヤで接続されているシステムにおいては、スロットルグリップの回動操作に連動してスロットル弁が開閉する。
【0023】
スロットル弁10の開度に応じて吸入された外気は、インジェクター9から噴射された燃料と混合される。この混合された燃料混合気体は吸気弁8を介してエンジン1のシリンダー5に供給される。ここで燃料は図示しないポンプで加圧され、インジェクター9に供給される。
【0024】
ピストン4は、シリンダー5の内部に設けられ、中空円筒状に形成されたシリンダー5の内周面に沿って往復を行う。ピストン4の上面と下部は、コネクティングロッド(図示しない)を介して、クランクシャフトに接続される。これにより、ピストン4の往復動作がクランクシャフトの回転運動に変換される。よって、クランク角を求めることで、ピストン4の位置を求めることができる。
【0025】
シリンダー5の頂面14には、吸入空気をシリンダー5内に供給するための吸気弁8とシリンダー5内で燃焼した後の排気ガスを排出するための排気弁7が設けられている。これらの排気弁7、吸気弁8は、不図示のカムシャフトによって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー5の頂部には、点火プラグ6がその先端をシリンダー5側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ6はECU200の命令指示により、火花(スパーク)を発生させ、ピストン4内の燃料と空気を混ぜた混合気に点火する。
【0026】
排気弁7は、排気ガスを外へ放出する処理だけに使用されるわけではない。始動時において、シリンダー5の中の混合気体を圧縮する際に、必要に応じて排気弁7を少し開けて、ピストン4の移動に必要な力を減らすことも行う。
【0027】
図2に本発明の一実施形態による回転電機2を示す。回転電機2は、エンジン1の始動時においてはスタータモータとして機能し、エンジン1の始動後においては発電機として機能するアウターロータ型のものである。
【0028】
回転電機2は、不図示のエンジン1のクランクシャフトに固定されているロータ21と、ロータ21の回転角を検出する回転検出センサ3と、電磁鋼板を積層して構成されるステータ鉄心26とステータ鉄心26に巻回される複数のコイル25とを備え、不図示のエンジンブロックに固定されるステータ22と、ロータ21の内周面に固定されているマグネット24から構成されている。
【0029】
クランクシャフトはボス部(不図示)に固定されることでロータ21はクランクシャフトと直結し、一体回転を行う。
図3は、ロータ21の内周側を展開して示した図である。
同図にも示すように、ロータ21の内周面には、複数のマグネット24が円周方向に沿って等間隔に取り付け、固定されている。そして、一つのマグネット24cは内側面がN極に着磁された主磁極部242の長尺方向、上端あるいは下端のいずれかに、内側面がS極に着磁された短尺な副磁極部240が形成されている。
【0030】
ここで、図中、内側面全域がN極に着磁されているマグネット24をマグネット24a、内側面全域がS極に着磁されているマグネット24をマグネット24b、主磁極部242と副磁極部240を備えたマグネット24をマグネット24cと呼ぶ。このロータ21では、隣接する特定の一組のマグネット24a、24aの間にマグネット24cが配置され、他の隣接するマグネット24a、24a間にマグネット24bが配置されている。
【0031】
図中において、主磁極部242は、ロータ21の内周面の軸方向の中央側に対峙する位置M2に配置され、主に、コイル25の転流タイミングを検出するための基準点を検出するターゲットとして用いられる。
副磁極部240は、ロータ21の軸方向の一端側の位置M1に配置され、エンジンの点火タイミングを検出するためのターゲットとして用いられる。そして、本実施形態においては、マグネット24a、マグネット24c、マグネット24aと連続して並んで配置されている。したがって、ロータ21の内周面の軸方向の中央側に対峙する位置M2においては、マグネット24は、N極とS極が交互に現れることになるが、ロータ21の軸方向の一端側の位置M1においては、マグネット24cの前後(円周方向の前後)のみマグネット3個分だけN極が連続して現れる。
したがって、ロータ21の内周側は、ロータ21の軸方向の一端側の位置M1の一部(マグネット24a、マグネット24c、マグネット24aが連続して配置されている箇所)以外ではN極とS極が交互に現れる。
【0032】
回転検出センサ3には
図3に示す第1ホールIC(センサ素子)3a、第2ホールIC(センサ素子)3b、第3ホールIC(センサ素子)3c、第4ホールIC(センサ素子)3dがそれぞれ収容配置される。回転検出センサ3はステータ22に固定されている。これらのホールIC3a、3b、3c、3dは、ロータ21の内周面に対向してマグネット24の磁束の切り替わりを検出する。
【0033】
第1ホールIC3aと第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dの各々は、それぞれ磁石の長尺方向における設置高さが異なる。
図3に示すように、第1ホールIC3aは、ロータ21の内周面の軸方向の一端側に対峙する位置M1に配置されている。
一方、第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dの各々は、第1ホールIC3aと異なり、ロータ21の内周面の軸方向の中央側に対峙する位置M2に配置されている。これにより、第1ホールIC3aは、マグネット24cの副磁極部240を通る高さでマグネット24aと24bの磁束の切り替わりのみを検出する。また、第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dは、マグネット24cの主磁極部242を通る高さでマグネット24a、24b、24cの磁束の切り替わりを検出する。なお、
図3に示すマグネット24a、マグネット24b、主磁極部242、副磁極部240は、それぞれの磁極を反転させてもよい。すなわち、N極ならS極に、S極ならN極に磁極を替えても良い。
【0034】
第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dは、ロータ21の中央側の位置M2で検出した信号を、ロータ21の回転位置信号としてエンジン始動制御装置に出力する。第1ホールIC3aは、ロータ21の軸方向の一端側の位置M1で検出した信号を、ロータ21の円周上の絶対位置情報信号としてECU200に出力する。ECU200では、第2、第3、第4ホールIC3b、3c、3dの出力信号を受けて、3相のコイル25に対する転流タイミングを制御するとともに、第1ホールIC3aの出力信号と第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dの出力信号を受けて、常時、ロータの回転数(回転速度)とピストン4の位置を算出している。
なお、回転検出センサ3は、ACGスタータのセンサである場合について示したが、ロータの回転を検出できればよいのであってこれに限られない。すなわち、ロータの外周面に形成されたトリガーピースを検出するセンサであっても良い。その場合は、ECU200は、センサが検出したトリガーピースの回転情報を基に、常時、ロータ21の回転数(回転速度)とピストン4の位置を算出する。
【0035】
次にECU200について説明する。
図4は回転電機2の駆動制御に係るECU200内の主要部の構成を示したブロック図である。
第2制御部204はセンサ信号処理部210、ロータ状態演算部211、進角演算部212を有している。
3相全波整流ブリッジ回路は、直列接続されたFET(Field Effect Transistor)を並列接続して構成される。
【0036】
センサ信号処理部210は、回転検出センサ3からの信号を
図5に示すような矩形波に波形整形を行う。なお、同図中のパルス信号P2、P3、P4の各々は、等分に設置された第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dの出力を波形整形して得られるパルス信号をそれぞれ示している。パルス信号P1は、第1ホールIC3aの出力を波形整形して得られるパルス信号を示している。センサ信号処理部210は、波形整形して得られるパルス信号P1〜P4をロータ状態演算部211に出力する。
【0037】
ロータ状態演算部211は、角速度と角加速度とピストン4の現在位置とを算出する。
まず、角速度と角加速度の算出方法について述べる。
ロータ状態演算部211は、ロータが1回転するために必要な時間を算出することで角速度を算出する。ロータが1回転するために必要な時間は、パルス信号P2、P3、P4の間の時間を計測することによって、算出することができる。
例えば、信号P2の立ち上がりをT1とし、その後立ち上がる信号P4の立下りをT2とする。T1からT2の間の角度を10度と設定することで、T1とT2の間の時間からT2時の角速度ω2を以下に示す式(1)で計算することができる。
ω2=10/(T2−T1) ・・・(1)
【0038】
さらに、その後立ち上がる信号P3の立ち上がりをT3とする。T2からT3の間の角度を10度と設定することで、T2とT3の間の時間からT3時の角速度ω3を以下に示す式(2)で計算することができる。
ω3=10/(T3−T2) ・・・(2)
【0039】
ロータ状態演算部211は、算出したω2とω3から、T3時の角加速度a3を以下に示す式(3)で計算することができる。
a3=(ω3−ω2)/(T3−T2) ・・・(3)
【0040】
次に、ピストン4の現在位置の算出方法について述べる。
ピストン4の現在位置は、上死点位置を0とし、ピストンストロークをXとし、上死点から現在のピストン4の位置をxとし、さらに、上死点タイミングをT4とし、T4からセンサ信号P2からP4の矩形波のエッジの数yをカウントし、以下に示す式(4)で計算することができる。
x=X/2×(1−cos(y×10)) ・・・(4)
ピストンストロークXは、ピストン4の上死点から下死点までの運動距離である。上死点タイミングT4は、第1ホールIC3aの出力(パルス信号P1)がハイ状態のまま第4ホールIC3dの出力(パルス信号P4)がハイからローに切り替わるタイミングである。このタイミングT4は上死点であることを示す絶対位置信号である。
【0041】
一方、4サイクルエンジンの場合、燃焼行程1サイクルにクランクシャフトが2回転する為、同じピストン4の位置でも、2通りの状態が存在する。すなわち、上死点として、圧縮上死点及び排気上死点がある。このため、上死点でも、圧縮上死点か、排気上死点か、ピストン4の位置だけでは判別できない。そこで、ロータ状態演算部211は、上死点時の角加速度が定められた角加速度より小さければ、圧縮上死点とみなす。
【0042】
ロータ状態演算部211は、ピストン4の現在位置、クランクの角速度、角加速度、エンジン工程を求めた後、これらの状態において、ピストン4が圧縮上死点を越えられるか否かを判定する。
【0043】
ピストン4の位置が圧縮上死点だと判別されると、上死点時のクランク角速度が閾値以下かどうかを判別し、閾値以下ならば、次の圧縮上死点を越えられないと判断する。
ピストン4が次の圧縮上死点を越えられないと判断されると、第1制御部203は、ロータ21に逆転通電をただちに開始する。
第1制御部203は、ロータ21に逆転通電をかけ逆転トルクを発生させることでロータ21の慣性回転を停止させる。すなわち第1制御部203は、予めピストン4の停止位置に対応するクランク角の角度範囲内は決まっているため、クランク角がその角度範囲に収まるように逆転トルクを制御する。
そのために進角演算部212は、進角MAPに基づき、回転数に応じた逆転通電進角値(ロータ21を逆転させる方向に通電するタイミング)を決定する。進角MAPは、回転数と、この回転数に応じて最適に設定してある逆転通電進角値との関係を示すテーブルである。進角MAPでは、回転数と、逆転通電進角値が対応づけられている。
なお、ロータ状態演算部211は、角速度より回転数を算出することができる。
【0044】
第1制御部203は逆転通電進角値に基づいて、全波整流ブリッジ回路の各パワーFETに供給するゲート電圧を制御するとともに、設定された駆動パルスを全波整流ブリッジ回路201の各パワーFETへ供給する。
【0045】
次に、本実施形態の回転電機2の始動制御動作を、
図6の動作説明図及び、
図7のフローチャートに基づいて説明する。まず、始動制御動作の説明の前に、
図6の説明を行う。
【0046】
図6は本実施形態の一実施形態におけるアイドルストップ時のクランク角に対応するピストン4の位置を示す図である。
【0047】
図6に示すエンジンは図上に吸気、圧縮、膨張、排気の4つのピストン運動を示すように4ストロークエンジンの例である。
図6の上死点とは、ピストン4が一番上の位置、つまり、シリンダー5の内部空間の体積が最も小さくなるピストン4の位置を表す。
図6の下死点とは、ピストン4が一番下の位置、つまり、シリンダー5の内部空間の体積が最も大きくなるピストン4の位置を表す。
【0048】
ここで、エンジン1の基本的な動作について説明する。吸気行程では、ピストン4が下がることで、吸気弁から混合気体を吸い込む。次の圧縮行程では、吸気行程で吸入した混合気体を、ピストン4が上に上がる事により圧縮する。圧縮行程で圧縮した混合気体に点火プラグ6が点火し、混合気体は爆発する。この爆発によって、爆圧で膨張してピストン4を押し下げることで、ピストン4は圧縮上死点から下死点に移行する。ピストン4が下死点に近づくと、排気弁7が開き始め、排気ガスを排気弁7から排出する。これよりクランクシャフトの2回転つまり4行程で1サイクルが構成される。
【0049】
図6に示すように、エンジン1が停止した状態のもとで、回転電機2を回転させて始動させる場合には、エンジン1のピストン4がどの行程の位置になっているかによって始動時の回転負荷が異なる。例えば、排気行程や吸気行程では、排気弁か吸気弁のどちらかが
開かれた状態でピストン4を上下運動させるため、クランクシャフトを回転させるための回転負荷は比較的小さい。これに対して、圧縮行程で回転電機2を始動させる場合、吸入弁と排気弁とが閉じられた状態で、内部空間の気体を圧縮しながら、ピストン4を上死点まで上昇させるため、クランクシャフトの回転負荷は大きくなる。
【0050】
次に本実施形態の回転電機2の始動制御動作を説明する。
ECU200が予め設定されたエンジンの停止条件を満たしたと判断すると、ステップS1に進んで、ECU200はエンジン1の停止処理を実行する。
【0051】
スロットルグリップとスロットル弁がワイヤで連動している場合は、スロットルグリップの操作でスロットル弁が全閉になっていることを確認する。
ECU200はアイドルストップ制御を行う際、スロットル弁10を全閉状態にする。
スロットル弁10が全閉状態になると、シリンダー5内に吸い込む空気量が減少するので、シリンダー5内の圧力が下がり、ロータ21の回転に対して制動力(第1の制動力)が加わる。その結果、ロータ21の回転数(回転速度)が下がる。これにより、ロータ21の回転を停止させるのに必要な逆転トルク(第2の制動力)が少なくて済むという効果がある。
【0052】
ステップS2では、スロットル弁10が全閉状態になった後、ECU200は、エンジン1の停止作業を行うために、点火プラグ6の点火停止とインジェクター9による燃料噴射を停止する。
【0053】
ECU200が、エンジン1を停止させた後、ロータ21は慣性回転を始める。この時、スロットル弁10が全閉状態となっているため、気筒内の圧力はスロットル弁10が全開状態に比べて低くなっている。すなわち、ロータ21の回転数(回転速度)は、スロットル弁10が全閉状態となっているため、全開状態に比べて低くなっている。上述のステップS2のエンジン1の停止作業、及びエンジン1の停止の後に始まるロータ21の慣性回転を併せて第1の制御工程とする。
【0054】
ステップS3では、ロータ21が慣性回転を始めたのち、ECU200は、ロータ21の回転数とピストン4の現在位置を確認する。
【0055】
センサ信号処理部210は第1ホールIC3a、第2ホールIC3b、第3ホールIC3c、第4ホールIC3dから供給される信号を波形整形して、パルス信号P1、P2、P3、P4を生成する。波形整形後、センサ信号処理部210は、パルス信号P1、P2、P3、P4をロータ状態演算部211に送る。
【0056】
ロータ状態演算部211は、パルス信号P1、P2、P3、P4から、ピストン4の現在位置とクランクの角速度、角加速度を算出する。
【0057】
ステップS4では、ロータ状態演算部211は算出したデータをもとに、ピストン4を所定の停止領域内で停止可能な第2の制動力を加えることが可能か否かを判断する。
具体的には、ロータ状態演算部211は、ピストン4の現在位置が圧縮上死点か否かを判断する。
【0058】
ロータ状態演算部211は、ピストン4の現在位置が圧縮上死点ではないと判別した場合、ロータ21はそのまま慣性回転を続ける。ロータ状態演算部211は、再びロータ21の回転数と、ピストン4の現在位置を確認する(S2に戻る)。
【0059】
ステップS4でロータ状態演算部211は、ピストン4の現在位置が圧縮上死点であると判別した場合、ステップS5では、ロータ状態演算部211は、上死点時のクランク角速度が閾値以下であるか否かを判別する。ロータ状態演算部211は、上死点時のクランク角速度が閾値以下ならば、次の圧縮上死点を越えられないと判断する。
ここで、
図6に示す圧縮上死点Aはアイドルストップ時における慣性運動によって越えた圧縮上死点を示す。また、圧縮上死点Bは始動時に最初に越える圧縮上死点を示している。
【0060】
ロータ状態演算部211は、ピストン4の現在位置が
図6に示す、例えば最初の圧縮上死点(圧縮上死点A)であると判別すると、ロータ21はそのまま慣性回転を続け、ロータ状態演算部211は、再びロータ21の回転数とピストン4の現在位置を確認する(S2に戻る)。
このステップS3〜S4までの制御工程を第2の制御工程とする。
【0061】
ステップS5でロータ状態演算部211は、ピストン4が次の圧縮上死点を越えられないと判断した場合、ステップS6では、第1制御部203は、ただちに回転電機2に対して制動通電制御を行い、慣性回転を止め、ピストン4を所定の位置で停止させる。
【0062】
具体的には、ロータ状態演算部211は、ピストン4が次の圧縮上死点(圧縮上死点B)を越えることができないと判断すると、進角演算部212に回転速度とピストン4の現在位置データとを送る。進角演算部212は、進角MAPに基づき、ピストン4の位置データと回転数に応じた逆転通電進角値を決定する。進角演算部212は、決定した逆転通電進角値を第1制御部203に送る。
【0063】
ステップS7では、第1制御部203は、回転電機2に第2の制動力を付与し、ロータ21の回転数を少しずつ下げる。第1制御部203は、回転数が停止判別回転数より低くなったところで、通電パターンを固定する。停止判別回転数とは、ピストン4が所定の停止領域内で停止可能と判別されるロータ21の回転数である。
ピストン4が所定の停止領域内に移動すると、回転数は下がり続け、やがてロータ21の回転数は0となり停止する。第1制御部203は、回転数が0になったことを確認後、通電を解除する。このとき、クランクシャフトが逆転することがあれば、ただちに通電を停止し、クランク角度が膨張行程のどこかで停止することを確認する。
【0064】
もし、クランク角が前記角度範囲に収まらず、ピストン4が所定の停止領域外で停止した場合、ECU200がエンジン1を再始動させても、ピストン4は圧縮上死点Bを越えることができないため、エンジン1は動かない。
【0065】
通電解除後、エンジン始動信号を待ちうける。エンジン始動指令が出た後、エンジンが正転回転する方向にコイル通電を開始し、圧縮上死点を乗り越す。
【0066】
ここで、本実施形態において、所定の停止領域内とは、例えば膨張行程の途中のことを指す場合について示したが、これに限られない。すなわち、確実にロータ21の助走期間を確保できる範囲内であればよい。例えば、所定の停止領域内とは、圧縮工程の途中であっても同様の効果を奏する。
上述した、ステップS5〜S7の制御工程を第3の制御工程とする。
【0067】
したがって、上述した実施形態によれば、アイドルストップ時において、従来方式とは異なり、ロータ21の逆回転は行わないため、後進する恐れはない。
【0068】
さらに、エンジンの再始動において、ロータ21の逆回転がないため、従来方式と比べ再始動時間を短縮できる。
【0069】
また、仮に従来方式を使用して、車両の後進を防ぐ場合には、クラッチの機構を変更する必要があるが、上述した実施形態ではそのような変更は不要である。よって、エンジン側の機構を変更せずにACGスタータのようなセルダイナモの採用が可能となる。
【0070】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。