特許第6019251号(P6019251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019251押出成形用フラットダイ及びフィルム成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019251
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】押出成形用フラットダイ及びフィルム成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/14 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   B29C47/14
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-551655(P2015-551655)
(86)(22)【出願日】2015年7月9日
(86)【国際出願番号】JP2015069789
(87)【国際公開番号】WO2016013408
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-151550(P2014-151550)
(32)【優先日】2014年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】岩村 真
(72)【発明者】
【氏名】上田 政樹
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−289025(JP,A)
【文献】 特開2002−187190(JP,A)
【文献】 特開平06−198707(JP,A)
【文献】 特開昭60−067129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融材料を吐出するスリット状の吐出口と、前記吐出口の長手方向に交差する2つの側面と、各前記側面にそれぞれ設けられ、前記吐出口の前記長手方向における両端に連通する溝と、を有するダイ本体と、
前記ダイ本体の各前記側面にそれぞれ設けられ、前記溝の長手方向に直交する間隙方向に前記溝の間隙が変動可能に前記溝を封止するシール機構と、を備え、
前記シール機構は、前記溝に沿って配置されて前記溝を塞ぐ封止部材と、前記封止部材を前記側面に押圧させる押圧手段と、前記押圧手段を支持して前記側面に固定される一対の第1及び第2の支持部材と、を有し、前記第1の支持部材が、前記間隙方向における前記側面の一端側に固定されると共に、前記第2の支持部材が、前記間隙方向における前記側面の他端側に固定されている、押出成形用フラットダイ。
【請求項2】
前記押圧手段は、前記封止部材に当接して前記溝に対する前記封止部材の位置を案内するガイド部材と、
一端が前記封止部材に当接するように前記ガイド部材にねじ込まれて設けられ、前記側面に対して前記封止部材を押圧する押圧ネジと、を有し、
前記ガイド部材には、前記間隙方向における一端側に前記第1の支持部材が、前記押圧ネジの軸方向に対する前記ガイド部材の移動を規制するように当接され、前記間隙方向における他端側に前記第2の支持部材が、前記押圧ネジの軸方向に対する前記ガイド部材の移動を規制するように当接されている、請求項1に記載の押出成形用フラットダイ。
【請求項3】
前記第1及び第2の支持部材には、前記ガイド部材の位置を案内するガイド部が設けられている、請求項2に記載の押出成形用フラットダイ。
【請求項4】
前記ダイ本体の前記側面には、前記溝に対して前記封止部材を位置決めするための位置決め手段が設けられている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の押出成形用フラットダイ。
【請求項5】
前記第1の支持部材と前記第2の支持部材の少なくともいずれかを前記吐出口の前記長手方向に貫通する貫通孔と、前記封止部材を前記貫通孔と同軸に前記吐出口の前記長手方向に延びる穴と、前記貫通孔と前記穴とに通されたピンと、を有している、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の押出成形用フラットダイ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の押出成形用フラットダイを用いて溶融材料を吐出する工程と、前記押出成形用フラットダイから吐出された溶融材料によってフィルムを成形する工程と、を有するフィルム成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融材料を吐出するための押出成形用フラットダイ及びフィルム成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムを押出成形する成形工程では、溶融可塑化装置で溶融された樹脂材等の溶融材料を押し出す押出機が用いられている。押出機は、押し出した溶融材料が流れる配管を有しており、溶融材料を薄く幅広いフィルム状に吐出するためのスリット状の吐出口を有する押出成形用フラットダイ(以下、フラットダイと称する。)が、配管の端部に連結されている。
【0003】
図8に、従来のフラットダイの模式的な斜視図を示す。図9に、従来のフラットダイの要部の、図8におけるB−B線に沿った断面図を示す。
【0004】
図8に示すように、従来のフラットダイ101は、溶融材料の流路106が内部に形成されたダイ本体105を備えている。ダイ本体105は、一対の本体105a、105bを組み合わせて、複数の締結ボルト110を用いて結合されて構成されている。ダイ本体105には、溶融材料を吐出するスリット状の吐出口107が、流路106の下流側に形成されている。また、ダイ本体105は、スリット状の吐出口107の長手方向(以下、吐出口107の幅方向D1と称する。)に交差する2つの側面108を有している。各側面108には、吐出口107の幅方向D1における両端に連通する溝109が設けられている。
【0005】
図9に示すように、ダイ本体105の側面108には、溝109から溶融材料が漏れ出すことを防ぐために、溝109を封止するようにサイドプレート111が固定されている。サイドプレート111は、溝109を塞ぐように一対の本体105a、105bに、溝109の長手方向に直交する間隙方向(以下、溝109の間隙方向Sと称する。)に跨がって設けられている。サイドプレート111は、ダイ本体105の側面108に、複数の固定ネジ115を用いて固定されている。すなわち、サイドプレート111は、吐出口107の幅方向D1における両端部に、吐出口107の幅方向D1に直交する方向である、溝109の間隙方向Sに跨がるように配置されている。
【0006】
一般に、フラットダイでは、成形されるフィルムの幅方向、すなわちスリット状の吐出口の幅方向D1にわたって、吐出口から吐出される溶融材料の厚みを均一に吐出することが求められている。
【0007】
吐出口の幅方向D1における溶融材料の厚みの均一性は、吐出口の形状だけでなく、溶融材料の粘度や、溶融材料を吐出口に送るための流路の形状によって決定付けられる。そのため、吐出口から吐出される溶融材料の均一性を高める流路の形状としては、図10Aに示すいわゆるコートハンガー型ダイが知られている。コートハンガー型ダイの流路の、溶融材料の流路106に接続された縁部120は、ハンガー状に徐々に広がって湾曲する曲面で形成され、吐出口107に滑らかに連続するように形成されている。
【0008】
このように溶融材料が吐出口の幅方向D1にわたって均一な厚みで吐出されるように、溶融材料の粘度に合わせて流路の形状を設定した場合であっても、実際の溶融材料の押出成形工程において、吐出口から吐出される溶融材料の厚みが吐出口の幅方向D1にわたって均一にならないことがある。このように溶融材料の厚みが均一にならない要因の1つは、フラットダイの流路内で溶融材料が流動したときに生じるフラットダイの内部圧力によって、吐出口の間隙が開き、吐出口の幅方向において吐出口の間隙が不均一に開く、いわゆる口開きが発生することにある。この口開きは、フラットダイの中心部と外縁部とで、一対の本体を結合する複数の締結ボルトの位置と吐出口との間の距離が異なっていることに起因して、各締結ボルトの締め付け力による慣性モーメントの差が生じることで起きる。
【0009】
このような慣性モーメントの差が生じることを防ぐための流路の形状として、図10Bに示すストレートマニホールド型ダイの流路が知られている。ストレートマニホールド型ダイでは、ダイ本体の各締結ボルト110とスリット状の吐出口107との間の距離を、吐出口107の幅方向における各位置で等しくすることで、吐出口の幅方向にわたって口開き量の均一性が高められている。
【0010】
また、口開き量に関して、吐出口を構成するリップ部に押圧力を加えることで、吐出口の幅方向における不均一な口開き量を矯正するための調整機構を備えるフラットダイが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。このフラットダイは、複数の調整機構が吐出口の幅方向D1に沿って配置されており、口開き量が相対的に大きい位置に配置されている調整機構を調整することで、口開き量を小さく矯正する。これによって、吐出口の幅方向D1における口開き量が均一化され、吐出口から吐出される溶融材料を、吐出口の幅方向D1にわたって均一な厚みで吐出することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−218651号公報
【特許文献2】特開2013−52574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、図8及び図9に示したように、フラットダイ101の各側面108には、吐出口107の幅方向D1における両端部に連通する溝109を封止するために、一対のサイドプレート111が固定されている。このようなサイドプレート111は、吐出口107の幅方向D1における両端部を拘束しており、吐出口107の両端部での間隙を開閉する方向(以下、口開き方向と称する)に対するダイ本体105の変位を規制してしまうので、吐出口105の両端部での口開き量が小さくなる傾向にある。
【0013】
そのため、上述したストレートマニホールド型ダイにおいても、吐出口の幅方向D1における両端部での口開き方向に対するダイ本体の変位が、サイドプレートによって規制されてしまうので、吐出口の幅方向D1における口開き量が不均一になる要因が解消されていない。
【0014】
また、上述した調整機構を備えるフラットダイにおいても同様に、吐出口の幅方向における両端部に配置された調整機構は、吐出口の口開き方向に対するダイ本体の変位を規制するサイドプレートの影響を受ける。このため、吐出口の幅方向における両端部に配置された調整機構を用いる場合には、調整の効果が抑制されるので、口開き量の調整が不十分になってしまう。
【0015】
そこで、本発明は、吐出口の長手方向にわたって口開き量を均一化し、フィルムの幅方向におけるフィルムの厚みの均一性を高めることができる押出成形用フラットダイ、及びフィルム成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するため、本発明に係る押出成形用フラットダイは、溶融材料を吐出するスリット状の吐出口と、吐出口の長手方向に交差する2つの側面と、各側面にそれぞれ設けられ、吐出口の長手方向における両端に連通する溝と、を有するダイ本体を備える。また、本発明は、ダイ本体の各側面にそれぞれ設けられ、溝の長手方向に直交する間隙方向に溝の間隙が変動可能に溝を封止するシール機構を備える。シール機構は、溝に沿って配置されて溝を塞ぐ封止部材と、封止部材を側面に押圧させる押圧手段と、押圧手段を支持して側面に固定される一対の第1及び第2の支持部材と、を有する。第1の支持部材が、間隙方向における側面の一端側に固定されると共に、第2の支持部材が、間隙方向における側面の他端側に固定されている。
【0017】
以上のように構成した本発明に係る押出成形用フラットダイによれば、シール機構によってダイ本体の側面の溝が、間隙方向にその間隙が変動可能に封止されている。このため、押圧手段が封止部材をダイ本体の側面に押圧する押圧力よりも大きな力が、溝の間隙方向に対して作用したときに、封止部材が溝を封止した状態を保ったままで、溝の間隙方向における縁部が、封止部材に対して間隙方向に摺動する。このとき、第1及び第2の支持部材は、封止部材を側面に押圧する押圧手段に対して摺動し、溝の間隙方向に対してそれぞれ独立して変位する。このように、封止部材が溝を封止した状態で、吐出口の長手方向(幅方向)における両端部は、側面に固定された第1及び第2の支持部材によって拘束されていない。したがって、溝の間隙が開く方向に対するダイ本体の変位が規制されないので、吐出口の長手方向における両端部は、吐出口の口開き量を変化させる方向に対する変位が規制されていない。これにより、吐出口の長手方向における両端部での口開き量の変化が妨げられないので、吐出口の長手方向にわたって口開き量が均一化される。
【0018】
また、本発明に係るフィルム成形方法は、上記押出成形用フラットダイを用いて溶融材料を吐出する工程と、押出成形用フラットダイから吐出された溶融材料によってフィルムを成形する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吐出口の長手方向にわたって口開き量を均一化し、フィルムの幅方向におけるフィルムの厚みの均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のフラットダイを模式的に示す斜視図である。
図2】本実施形態のフラットダイを部分的に断面で示す正面図である。
図3】本実施形態のフラットダイが備えるシール機構を、図1におけるA−A線に沿って示す断面図である。
図4】本実施形態のフラットダイが備えるシール機構を示す側面図である。
図5】本実施形態のフラットダイにおいて、吐出口の幅方向における位置に対する相対的な口開き量を示す図である。
図6A】他の実施形態において、封止部材を位置決めするための位置決め凹部の構成例を示す模式図である。
図6B】他の実施形態において、封止部材を位置決めするための位置決め凸部の構成例を示す模式図である。
図7】他の実施形態において、封止部材の落下を防止するための構成例を示す模式図である。
図8】従来のフラットダイを模式的に示す斜視図である。
図9】従来のフラットダイの要部を、図6におけるB−B線に沿って示す断面図である。
図10A】従来のコートハンガー型ダイの流路を模式的に示す断面図である。
図10B】従来のストレートマニホールド型ダイの流路を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1に、本実施形態のフラットダイの模式的な斜視図を示す。図2に、本実施形態のフラットダイの正面図を示す。本実施形態のフラットダイ1は、溶融材料として溶融状態の樹脂材を押し出す押出機に取り付けられ、樹脂材をフィルム状に吐出するために用いられる。
【0023】
図1及び図2に示すように、本実施形態のフラットダイ1は、溶融材料をフィルム状に吐出するスリット状の吐出口7と、吐出口7の幅方向D1に直交する2つの側面8と、各側面8にそれぞれ設けられ、吐出口7の幅方向D1における両端に連通する溝9と、を有するダイ本体5を備えている。
【0024】
また、本実施形態のフラットダイ1は、ダイ本体5の各側面8にそれぞれ設けられ、溝9の、吐出口7の幅方向D1に直交する間隙方向Sに溝9の間隙が変動可能に溝9を封止するシール機構11を備えている。ダイ本体5は、一対の本体5a、5bを組み合わせて、複数の締結ボルト10を用いて一体に結合されることによって構成されている。ダイ本体5の内部には、溶融された樹脂材が流れる流路6が形成されており、流路6の下流に吐出口7が形成されている。
【0025】
図3に、本実施形態のフラットダイ1が備えるシール機構11の平面図を示す。図4に、本実施形態のフラットダイ1が備えるシール機構11の側面図を示す。
【0026】
図3及び図4に示すように、シール機構11は、溝9に沿って配置されて溝9を塞ぐ封止部材12と、封止部材12を側面8に押圧させる押圧手段としての押圧部材14と、押圧部材14を支持して側面8に固定される一対の第1及び第2の支持部材13a、13bと、を有している。第1の支持部材13aは、溝9の間隙方向Sに対して側面8の一端側に固定されると共に、第2の支持部材13bは、溝9の間隙方向Sに対して側面8の他端側に固定されている。封止部材12は、図4に示すように、溝9の長手方向D2に延びる長尺状に形成されている。
【0027】
押圧部材14は、図3に示すように、封止部材12に当接して溝9に対する封止部材12の位置を案内するガイド部材14aと、一端が封止部材12に当接するようにガイド部材14aにねじ込まれて設けられ、ダイ本体5の側面8に対して封止部材12を押圧する複数の押圧ネジ14bと、を有している。
【0028】
ガイド部材14aには、溝9の間隙方向Sにおける一端側に第1の支持部材13aが当接され、溝9の間隙方向Sにおける他端側に第2の支持部材13bが当接されている。また、ガイド部材14aは、図3に示すように、断面[字状に形成されており、溝9に対する封止部材12の位置を案内するガイド部としてのガイド凹部17を有している。ガイド部材14aは、封止部材12を覆うように封止部材12の長手方向D2に沿って配置されている。ガイド部材14aを用いることによって、溝9に対して封止部材12を所定の位置に容易に位置決めすることができる。
【0029】
押圧ネジ14bは、図4に示すように、溝9の長手方向D2に沿って所定の間隔をあけてガイド部材14aに配置されている。ガイド部材14aには、押圧ネジ14bがねじ込まれるネジ穴が設けられている。押圧ネジ14bの頭部は、第1の支持部材13aと第2の支持部材13bとが対向する間隙から外部に突き出ており、第1及び第2の支持部材13a、13bが側面8に固定された状態で押圧ネジ14bのねじ込み量を調整することが可能にされている。
【0030】
また、各第1及び第2の支持部材13a、13bには、ダイ本体5の側面8に当接される面に、ガイド部材14aを案内するガイド部としての凹部18が設けられている。ガイド部材14aは、各第1及び第2の支持部材13a、13bの凹部18に係合することで、押圧ネジ14bをねじ込み操作するときの移動が規制されている。また、図3に示すように、シール機構11がダイ本体5の側面8に固定された状態で、ガイド部材14aには、溝9の間隙方向Sにおける一端側に第1の支持部材13aが、押圧ネジ14bの軸方向に対する(封止部材12から離れる方向に対する)ガイド部材14aの移動を規制するように当接されている。また同様に、ガイド部材14aには、溝9の間隙方向Sにおける他端側に第2の支持部材13bが、押圧ネジ14bの軸方向に対するガイド部材14aの移動を規制するように当接されている。
【0031】
上述したように押圧ネジ14bは、ガイド部材14aのネジ穴に噛み合っているので、所定のねじ込み量だけねじ込まれることで、押圧ネジ14bの一端が封止部材12に当接する。押圧ネジ14bを更にねじ込むことで、押圧ネジ14bの一端が封止部材12を側面8に押圧すると共に、封止部材12から反力をガイド部材14aが受ける。このとき、ガイド部材14aは、押圧ネジ14bの軸方向に対する移動が、第1及び第2の支持部材13a、13bの凹部18によって規制されているので、ガイド部材14aに固定された押圧ネジ14bの一端によって、封止部材12が側面8に押圧される。また、必要に応じて押圧ネジ14bのねじ込み量を調整することで、側面8に対する封止部材12の押圧状態を微調整することができ、封止部材12を用いて溝9を封止する封止状態の信頼性を高めることができる。
【0032】
また、シール機構11は、図3及び図4に示すように、第1及び第2の支持部材13a、13bを側面8に固定する複数の固定ネジ15を有している。固定ネジ15は、第1及び第2の支持部材13a、13bに、溝9の長手方向D2に沿って所定の間隔をあけて配置されており、第1及び第2の支持部材13a、13bを貫通して側面8に固定されている。
【0033】
なお、本実施形態におけるシール機構11は、第1及び第2の支持部材13a、13bによって、ガイド部材14a及び押圧ネジ14bを介して封止部材12が側面8に押圧されるように構成されたが、ガイド部材14a及び押圧ネジ14bを有する構成に限定されるものではない。変形例として、封止部材12は、第1及び第2の支持部材13a、13bによって直接、ダイ本体5の側面8に押圧されるように構成されてもよい。この場合には、ガイド部材14a及び押圧ネジ14bを備える代わりに、第1及び第2の支持部材13a、13bの各凹部18に、封止部材12を押圧する板バネ等の付勢部材が設けられてもよい。
【0034】
以上のように構成されたフラットダイ1について、シール機構11によってダイ本体5の側面8の溝9が封止された状態を説明する。
【0035】
ダイ本体5の側面8の溝9は、シール機構11によって、間隙方向Sに変位可能に封止されている。このため、ガイド部材14a及び押圧ネジ14bが封止部材12をダイ本体5の側面8に押圧する押圧力よりも大きな力が、溝9の間隙方向Sに対して作用したとき、封止部材12が溝9を封止した状態を保ったままで、溝9の間隙方向Sにおける縁部が、封止部材12に対して間隙方向Sに摺動する。このとき、第1及び第2の支持部材13a、13bは、封止部材12を側面8に押圧するガイド部材14aに対して摺動し、溝9の間隙方向Sに対してそれぞれ独立して変位する。このように、封止部材12が溝9を封止した状態で、吐出口7の幅方向D1における両端部は、側面8に固定された第1及び第2の支持部材13a、13bによって拘束されていない。したがって、溝9の間隙を開く方向に対するダイ本体5の変位が規制されないので、吐出口7の幅方向D1における両端部は、図1に示す吐出口7の口開き量Dを変化させる方向に対する変位が規制されていない。これにより、吐出口7の幅方向D1における両端部での口開き量Dの変化が妨げられないので、吐出口7の幅方向D1にわたって口開き量Dを均一化させることができる。
【0036】
封止部材12が溝9を封止した状態で、吐出口7の幅方向D1における両端部の口開き量Dが変化したとき、封止部材12が溝9を封止した状態が保たれるように、溝9近傍の側面8が、封止部材12に対して摺動する。
【0037】
また、封止部材12が溝9を封止した状態で、ガイド部材14aのネジ穴にねじ込まれた押圧ネジ14bによって封止部材12を側面8に押圧している。押圧ネジ14bによって側面8に押圧される封止部材12から、ガイド部材14aに働く反力は、第1及び第2の支持部材13a、13bによって受けられる。
【0038】
また、本実施形態のフラットダイ1を用いるフィルム成形方法は、フラットダイ1を用いて溶融材料を吐出する吐出工程と、吐出工程でフラットダイ1から吐出された溶融材料によってフィルムを成形する成形工程と、を有している。成形工程では、フラットダイ1の吐出口7から吐出される樹脂材を、一対の成形ロールの間に挟んでフィルム状に成形する。
【0039】
次に、本実施形態のフラットダイ1を用いて、樹脂材料を吐出したときの、吐出口7の幅方向D1における口開き量Dの変化について説明する。
【0040】
図5に、本実施形態のフラットダイ1において、吐出口7の幅方向D1における位置に対する相対的な口開き量を示す。図5において、縦軸が、吐出口7の幅方向D1における中央の口開き量Dを基準としたときの相対的な口開き量を示し、横軸が吐出口7の幅方向D1における位置[m]を示す。また、図5において、本実施形態のフラットダイ1を実線L1で示し、比較形態のフラットダイを破線L2で示す。比較形態のフラットダイは、図8、9に示した構成と同様に、ダイ本体105の溝109に跨がってサイドプレート111が固定された構成である。
【0041】
相対口開き量は、比較形態のフラットダイの吐出口107の幅方向D1における中央の口開き量Dを「1」としたときの口開き量の相対値を示している。
【0042】
図5に示すように、比較形態のフラットダイは、吐出口107の幅方向D1における中央部から端部に近づくに従って、相対口開き量が小さくなっている。吐出口107の幅方向D1において、特に端から1.5mの位置から端に近づくに従って、相対口開き量が急激に低下しており、吐出口107の幅方向D1における端での相対口開き量が0.2程度まで小さくなった。したがって、比較形態のフラットダイでは、吐出口107の幅方向D1における中央部に対して端での相対口開き量が(1−0.2)=0.8程度低下した。これは、比較形態のフラットダイでは、吐出口107の幅方向D1における端部が、サイドプレート111によって拘束されているためである。
【0043】
一方、実施形態のフラットダイ1では、吐出口7の幅方向D1において、相対口開き量が急激に低下することが解消され、端から1.5mの位置から端に向かって緩やかに低下している。実施形態のフラットダイ1では、吐出口7の幅方向D1における端での相対口開き量が0.9程度になり、吐出口7の中央と比較して0.1程度の低下に抑えられた。したがって、本実施形態のフラットダイ1は、比較形態のフラットダイに比べて、吐出口7の幅方向D1における両端部の相対口開き量の低下を、1/8程度に抑えることができた。すなわち、本実施形態は、比較形態に比べて、吐出口7の中央と両端とでの相対口開き量の差を7/8程度(=88%程度)を緩和することができた。
【0044】
上述したように、本実施形態のフラットダイ1は、シール機構11において、封止部材12が溝9を封止した状態を保ったままで、第1及び第2の支持部材13a、13bが、側面8に沿って、溝9の間隙方向Sに対して独立して変位することが可能になる。これによって、吐出口7の幅方向D1における両端部での口開き量Dの変化が妨げられないので、吐出口7の幅方向D1にわたって口開き量Dを均一化させることができる。その結果、吐出口7の幅方向D1にわたって口開き量Dを均一化し、フィルムの幅方向におけるフィルムの厚みの均一性を高めることができる。
【0045】
なお、本発明に係る押出成形用フラットダイは、吐出口の口開き量Dを調整する調整機構を備えるフラットダイに好適に適用できる。吐出口の幅方向D1における両端部がシール機構11によって拘束されないので、調整機構による吐出口の口開き量Dの調整が妨げられることなく、口開き量Dを高精度に調整することが可能になる。
【0046】
また、本実施形態のフラットダイ1によれば、吐出口7の幅方向D1における両端部の口開き量Dが大きく確保され、上述の調整機構を用いることで口開き量Dを高精度に調整することが可能になるので、フラットダイ1に適用可能な樹脂材の粘度の範囲を広げることができ、フィルムの製造条件の変動に充分に対応することが可能になる。すなわち、本実施形態によれば、対応可能なフィルムの製造条件が広がり、フラットダイの汎用性を高めることができるので、フィルムの生産性の向上に貢献できる。
【0047】
最後に、他の実施形態について簡単に説明する。
【0048】
本実施形態におけるシール機構11は、ガイド部材14a及び押圧ネジ14bによって封止部材12をダイ本体5の側面8に押圧するように構成されたが、必要に応じて、コイルバネや板バネ等の付勢部材を介して封止部材12を押圧するように構成されてもよい。この場合、付勢部材は、がイド部材14aと封止部材12との間に挟んで配置される。付勢部材を用いることで、封止部材12によって溝9を封止する信頼性を高めることができる。
【0049】
また、ダイ本体5の側面8には、溝9に対する封止部材12の位置を位置決めするための位置決め手段として位置決め凹部や位置決め凸部が形成されてもよい。図6A,6Bに、封止部材12を位置決めするための位置決め凹部及び位置決め凸部の構成例の模式図を示す。例えば、図6Aに示すように、位置決め凹部21は、溝9に沿って側面8に形成されており、封止部材12が位置決め凹部21内に配置されることによって、溝9に対して封止部材12を容易に位置決めすることが可能になる。また、図6Bに示すように、位置決め凸部22は、例えば、溝9に沿って側面8に設けられており、位置決め凸部22が、封止部材12の外周部に切り欠かれた係合凹部12aに係合するように構成されてもよい。なお、位置決め凹部21や位置決め凸部22は、溝9の間隙方向Sに対するダイ本体5の変位、すなわち吐出口7の開閉方向に対するダイ本体5の変位を妨げないように形成されている。図6Bに示す実施形態では、位置決め凸部22が係合凹部12aに係合する。このため、メンテナンスのために第1及び第2の支持部材13a、13bをダイ本体5から取り外した際に、ガイド部材14aと封止部材12の落下を防止することができる。
【0050】
さらに、図7に示すように、第2の支持部材13bを吐出口の長手方向D1に貫通する貫通孔13cと、ガイド部材14aを貫通孔13cと同軸に吐出口の長手方向D1に貫通する貫通孔14cと、封止部材12を貫通孔13c及び貫通孔14cと同軸に吐出口の長手方向D1に延びる穴12bと、を設けてもよい。穴12bは封止部材12を吐出口の長手方向D1に貫通していてもよいし、途中で終端していてもよい。ピン19が貫通孔13cと貫通孔14cと穴12bとに通されている。メンテナンスの際は、まず第1の支持部材13aをダイ本体5から取り外し、次に第2の支持部材13bをダイ本体5から取り外す。第2の支持部材13bの貫通孔13cに挿入されたピン19がガイド部材14aと封止部材12を保持しているため、ガイド部材14aと封止部材12の落下を防止することができる。貫通孔13cは第1の支持部材13aに設けてもよく、第1の支持部材13aと第2の支持部材13bの両方に設けてもよい。ガイド部材14aを設けない実施形態でも、ピン19を第2の支持部材13bの貫通孔13cと封止部材12の穴12bに通すことで、同様の効果が得られる。
【0051】
また、本発明に係る押出成形用フラットダイは、一対の本体を組み合わせてなるダイ本体を備える構成に限定されるものではない。吐出口の幅方向における両端部の変位を拘束しないためには、吐出口の幅方向に交差する側面に、吐出口に連通するように溝を形成する必要があり、ダイ本体の側面に溝が設けられた構造であれば、3つ以上の本体を組み合わせてなるダイ本体や、一体に形成されたダイ本体を備える構成に適用されてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0052】
1 フラットダイ
5 ダイ本体
7 吐出口
8 側面
9 溝
11 シール機構
12 封止部材
13a 第1の支持部材
13b 第2の支持部材
14 押圧部材
14a ガイド部材
14b 押圧ネジ
15 固定ネジ
D1 吐出口の幅方向
D2 溝の幅方向
S 間隙方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B