(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(A−1)成分及び/又は前記(A−2)成分は、エポキシ当量が50〜1,000g/eqであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の素地調整剤組成物。
前記硬化剤(B)における活性水素当量と、前記(A−1)成分及び前記(A−2)成分のエポキシ当量との比(活性水素当量/エポキシ当量)が0.6〜1.0であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の素地調整剤組成物。
前記硬化剤(B)は、脂肪族ポリアミン類、ポリアミドアミン類、前記脂肪族ポリアミン類のエポキシ樹脂アダクト変性物、及び前記ポリアミドアミン類のエポキシ樹脂アダクト変性物よりなる群から選択される少なくとも1種のアミン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の素地調整剤組成物。
表面に錆を有する鋼材に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の素地調整剤組成物を塗装した後に、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、塩素化ポリオレフィン系塗料、シリコーン樹脂系塗料及びふっ素樹脂系塗料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む塗料を塗装して、鋼材の表面に塗膜を形成することを特徴とする表面に錆を有する鋼材の塗装方法。
請求項1〜9のいずれかに記載の素地調整剤組成物と、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、塩素化ポリオレフィン系塗料、シリコーン樹脂系塗料及びふっ素樹脂系塗料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む塗料とが、表面に錆を有する鋼材に順に塗装されてなる塗装鋼材。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、以下の例示以外についても、本発明の主旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0014】
本発明において、塗装の対象となる鋼材は、鉄鋼材料を素地としてこれを板・棒・管などに加工したものや構造物を含むものであり、例えば、道路、送電や通信用の鉄塔、橋梁、各種プラントなどを例示することができるが、これらに限定されるものではなく、また、鉄以外のその他の金属元素が含まれ得る。また、本発明における鋼材については、旧塗膜が除去された後に本発明の素地調整剤組成物が塗装されてもよく、旧塗膜を残したまま塗装されてもよい。ここで、本発明において「表面に錆を有する鋼材」とは、限定されるものではないが、水、酸素、塩化物イオン、硫酸イオンなどの腐食因子により表面が発錆した状態の前記鋼材に対して、前処理として、清掃程度の素地調整を行った鋼材のことを言う。具体的な前処理としては、ワイヤーブラシ、スコッチブライト(スリーエム社製商品名)等により劣化塗膜や浮き錆等の脆弱個所の除去を行うことや、或いは、層状錆やコブ錆等が発生した腐食の著しい個所がある場合は、これを動力研磨工具や手研磨工具にて除去するが、鋼材の表面に固着化した錆については除去する必要はない。また、素地調整とは、一般的には、塗装前に、鋼材の表面に発生した錆や、付着した油類、ほこり、ごみ、ヤニなどの汚れや、旧塗膜などを除去する処理を指し、具体的には、その作業内容・方法によって、1種ケレン(ブラスト法を用いて、さび、旧塗膜を全て除去し鋼材の表面を露出させる)、2種ケレン(動力工具と手工具を併用して、旧塗膜、さびを除去し鋼材の表面を露出させる)、3種ケレン(動力工具と手工具を併用して、健全な塗膜は残すが、それ以外の塗膜の割れ、膨れ、さびなどの不良部は除去する)、4種ケレン(動力工具と手工具を併用して、粉化物、汚れなどを除去する)が挙げられる。すなわち、本発明において、清掃程度の素地調整とは、限定はされないが、これらのうち、4種ケレン程度の処理に相当する。
【0015】
本発明の素地調整剤組成物は、以下に述べる
主剤(A)及び
硬化剤(B)を含む二液混合型の素地調整剤組成物であり、これを前述の錆を有する鋼材に塗布すると、錆層中によく浸透しながら主剤(A)と硬化剤(B)とが反応して硬化することにより、鋼材表面に存在する錆層を固定化して鋼材表面の防食性を強化することができる。以下、主剤(A)及び硬化剤(B)について、それぞれ具体的に説明する。
【0016】
<
主剤(A)>
本発明の素地調整剤組成物に使用される主剤(A)には、(A−1)温度23℃で液体状態であるビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又は温度23℃で液体状態であるビスフェノールF型エポキシ樹脂と、(A−2)温度23℃で液体状態であって、1分子内にグリシジル基を1以上有すると共に芳香族炭化水素環が1以下であるエポキシ化合物とを含有する。ここで、温度23℃で液体状態であるとは、常温で液体状態であることを示す特性であり、常温で固体である当該エポキシ樹脂及びエポキシ化合物を除く意図である。好ましくは低温状態においても液体状態であることがよく、より好ましくは、温度5℃において液体状態であるものがよい。
【0017】
本発明における前記(A−1)成分におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂は、いずれも1分子中に芳香族炭化水素環を2以上有するものが好ましく、より好ましくは、1分子中に芳香族炭化水素環を4以上有するものである。また、いずれのエポキシ樹脂も主鎖の繰り返し単位の数が、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3である。1分子中の芳香族炭化水素環の数が2未満であると、塗膜に十分な硬化性が得られるまでに要する時間が多くなるためである。
【0018】
また、本発明におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂の重量平均分子量Mwは、乾燥性又は作業性、錆層への浸透性の観点から、いずれも50〜3,000であることが好ましく、より好ましくは、100〜1,000である。Mwが50未満だと架橋して高分子量化するまでに時間を要し、乾燥性が劣る傾向があり、一方で、3,000を超過すると分子量の増加に伴い粘度が上昇するため作業性が劣る傾向があるからである。また、エポキシ当量としては、塗膜の乾燥性及び防食性などの塗膜性能の観点から、いずれも50〜1,000g/eqであることが好ましく、より好ましくは、50〜500g/eqであり、さらに好ましくは100〜300g/eqである。なお、本発明において、当該(A−1)成分中に前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が複数混合される場合には、これらエポキシ樹脂の混合物の重量平均分子量Mw及びエポキシ当量を、それぞれ(A−1)成分の重量平均分子量Mw及びエポキシ当量とする。
【0019】
このような本発明におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、三菱化学(株)製のjER825、jER827、jER828、アデカ(株)製のアデカレジンEP−4100、新日鉄住金化学(株)製のエポトートYD−128等が挙げられ、また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、三菱化学(株)製のjER806、jER806H、jER807、DIC(株)製のEPICLON830、EPICLON835等が挙げられる。これらのビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。2種以上を混合して用いる場合には、1分子の分子鎖(繰り返し単位)の異なる複数のビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂をそれぞれ混合してもよく、或いは、前記複数のビスフェノールA型エポキシ樹脂及び複数のビスフェノールF型エポキシ樹脂を、本発明の目的の範囲内で、任意に混合することもできる。
【0020】
また、本発明における前記(A−1)成分は、錆層への浸透性の観点並びに乾燥性及び防食性などの塗膜性能を両立できるようにするとの観点から、温度23℃における粘度が、1,500〜90,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは、5,000〜20,000mPa・sである。
【0021】
なお、本発明における主剤(A)においては、前述の(A−1)成分であるビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又はビスフェノールF型エポキシ樹脂以外にも、本発明の目的の範囲内において、その他の樹脂成分が含まれることが排除されるものではなく、本発明の(A−1)成分や(A−2)成分とは反応性を持たないような樹脂成分、例えば、アクリル樹脂などを含むこともできる。
【0022】
本発明における前記(A−2)成分は、前述の(A−1)に対して相溶性が良く、前記(A−1)成分の粘度を低下させる希釈剤として用いられるものであるが、1分子内にグリシジル基を1以上有することにより、硬化剤と反応し得るものである。1分子内のグリシジル基の数が2以上であるものが、硬化剤との架橋反応の観点において好ましい。
【0023】
また、前記(A−2)成分は、1分子内に芳香族炭化水素環が1以下である必要がある。当該芳香族炭化水素環の数が1より大きくなると、粘度が上昇することにより、素地調整剤組成物の粘度が上昇し、錆層への浸透性が低下するため好ましくないからである。当該(A−2)成分としての好ましい粘度としては、1〜100mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1〜50mPa・sである。
【0024】
また、前記(A−2)成分は、その重量平均分子量Mwは、錆層への浸透性の観点から、50〜3,000であることが好ましく、より好ましくは、100〜1,000である。また、Mwが50未満だと架橋して高分子量化するまでに時間を要し、乾燥性が劣る傾向があり、一方で、3,000を超過すると分子量の増加に伴い粘度が上昇するため作業性が劣る傾向もある。また、エポキシ当量としては、乾燥性、作業性、防食性などの塗膜性能の観点から、50〜1,000g/eqであることが好ましく、より好ましくは、50〜500g/eq、さらに好ましくは100〜300g/eqである。
【0025】
このような(A−2)成分としては、例えば、エポキシ樹脂用反応性希釈剤を挙げることができ、具体的な製品名としては、新日鉄住金化学(株)製ネオトートS、三菱化学(株)製のYED111N、 YED111AN、YED122、YED188、YED216M、YED216D等を挙げることができる。
【0026】
そして、本発明の主剤(A)としては、このような(A−1)成分と(A−2)成分とを含有するが、前記(A−1)成分の含有量は、主剤(A)中に20〜80質量%とする。前記(A−1)成分の含有量が、主剤(A)中20質量%未満であると、乾燥性や防食性などの塗膜性能に劣り、反対に、80質量%より大きくなると、粘度が高くなりやすく錆層への浸透性が劣るからである。好ましくは、乾燥性、防食性などの塗膜性能、錆層への浸透性の観点から、35〜70質量%とすることがよく、より好ましくは、40〜60質量%とすることがよい。
【0027】
また、前記(A−2)の含有量については、前記(A−1)成分に対して、5〜65質量%とする。(A−2)成分の含有量が(A−1)成分に対して5質量%未満であると、粘度が高くなりやすく、錆面への浸透性が劣るからであり、反対に、65質量%よりも大きくなると、塗膜に十分な硬化性が得られるまでに要する時間が多くなり、乾燥性に劣るからである。好ましくは、(A−1)成分に対して、15〜50質量%とすることがよく、より好ましくは20〜40質量%とすることがよい。
【0028】
そして、本発明における主剤(A)は、このような組成を有することにより、粘度が1〜5,000mPa・sとする必要がある。粘度が1mPa・sよりも低い場合には、特に垂直面などの塗装の際において液ダレが生じるため塗装作業性が劣り、反対に、5,000mPa・sよりも大きい場合には、錆層中に十分に浸透させて錆を固定化することが困難となるからである。好ましい主剤(A)の粘度は、1,000〜3,500mPa・sである。
【0029】
なお、本発明における主剤(A)中には、更に、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、公知のものが使用でき、例えば、キシレン、トルエンなどの芳香炭化水素類、ノルマルヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ミネラルスピリット、石油ナフサなどの脂肪族または芳香族炭化水素類の混合物、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどのアルコール類が挙げられ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。主剤(A)中の有機溶剤の含有量は、作業環境及び環境保護の観点から、20質量%以下であることが好ましく、主剤(A)の粘度が前述の範囲である場合には、より好ましくは無溶剤とすることである。
【0030】
また、本発明の素地調整剤組成物において、主剤(A)中には、鋼材の発錆をより効果的に防止するために、更に、(C)防錆顔料を含むことが好ましい。(C)防錆顔料としては、公知のものが使用できるが、例えば、リン酸アルミニウムや、縮合リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛ストロンチウム等の(亜)リン酸塩、モリブデン酸亜鉛や、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マンガン等のモリブデン酸塩;その他ステアリン酸や、タンニン酸、クエン酸、イタコン酸、硼酸、タングステン酸等の各種酸の金属塩などが挙げられる。主剤(A)中における当該(C)防錆顔料の含有量は、0〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%とする。
【0031】
また、本発明の素地調整剤組成物において、主剤(A)中には、鋼材における錆層と鉄素地との界面に存在するCl
-やSO
42-などの腐食性イオンを捕集すると共に化学反応し、水不溶性の複塩として固定化して不活性化するための(D)腐食性イオン固定化剤を、更に、含むことが好ましい。このような(D)腐食性イオン固定化剤としては、公知のものが使用できるが、代表的には、ハイドロカルマイトや、ハイドロタルサイト等が挙げられる。主剤(A)中における当該(D)腐食性イオン固定化剤の含有量は、0〜25質量%が好ましく、より好ましくは5〜15質量%とする。
【0032】
また、本発明の素地調整剤組成物において、主剤(A)中には、錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する塗料との密着性を向上させるための(E)シランカップリング剤を、更に、含むことが好ましい。このような(E)シランカップリング剤としては、公知のものが使用できるが、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。主剤(A)中における当該(E)シランカップリング剤の含有量は、0〜30質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%とする。
【0033】
なお、前記(C)〜(E)成分については、前記主剤(A)中に、1種単独で添加してもよく、又は2種以上を添加することもでき、それぞれ、本発明の目的の範囲内で、適宜選択して添加されることが好ましい。
【0034】
更に、本発明の素地調整剤組成物において、主剤(A)中には、本発明の目的の範囲内で、必要応じて、上記以外の体質顔料、着色顔料、顔料分散剤、表面調整剤、ダレ止め剤、消泡剤などの添加剤を更に含むことができる。
【0035】
<
硬化剤(B)>
本発明における硬化剤(B)中の硬化剤成分としては、脂肪族ポリアミン類、ポリアミドアミン類、ポリメルカプタン、芳香族ポリアミン類、酸無水物、ノボラック樹脂、ジシアンジアミド、エポクロルヒドリンなどが含まれ、前記の主剤(A)と反応して硬化膜を形成するものであれば特に限定されるものではないが、常温での使用が可能の観点から、好ましくは、脂肪族ポリアミン類、ポリアミドアミン類が挙げられ、また、これら脂肪族ポリアミン類又はポリアミドアミン類を、それぞれエポキシ樹脂と反応させて得られるエポキシアダクト変性物のアミン系樹脂を使用することもできる。これらのアミン系樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
脂肪族ポリアミン類としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、及びこれらの変性ポリアミン等が挙げられる。芳香族ポリアミン類としては、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン及びこの変性ポリアミン等が挙げられる。ポリアミドアミン類としては、ダイマー酸(不飽和脂肪酸の重合物)またはその他のポリカルボン酸類とポリアミン類とを反応させることで得られるポリアミドアミン等の生成物及びこの変性ポリアミドアミン等が挙げられる。ポリメルカプタンとしては、エチレンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、酸無水物としては、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物が挙げられる。具体的な製品名としては、(株)T&K TOKA製フジキュアーFXJ838B、フジキュアーFXR−1020、トーマイド245HS、エアープロダクツ(株)製アンカマイド506、アンカマイド503、サンマイド#550Mなどを挙げることができる。
【0037】
このような硬化剤(B)中における前記硬化剤成分の含有量としては、特に限定されず、前記主剤(A)中のエポキシ樹脂及びエポキシ化合物と反応して、十分な硬化が達成できるように適宜調節されることが好ましい。
【0038】
なお、本発明における硬化剤(B)中には、更に、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、公知のものが使用でき、例えば、キシレン、トルエンなどの芳香炭化水素類、ノルマルヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ミネラルスピリット、石油ナフサなどの脂肪族または芳香族炭化水素類の混合物、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどのアルコール類が挙げられ、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。硬化剤(B)中における有機溶剤の含有量は、作業環境及び環境保護の観点から、20質量%以下であることが好ましく、硬化剤の粘度が前述の範囲である場合には、より好ましくは無溶剤とすることである。
【0039】
そして、本発明における硬化剤(B)は、本発明の素地調整剤組成物の粘度を所定の範囲とするため、及び錆層中に十分に浸透させる観点から、その粘度が1〜5,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは500〜3,500mPa・sとなるようにする。
【0040】
本発明の素地調整剤組成物は、好ましくは、塗膜を十分に硬化させる観点から、主剤(A)に含まれる前記(A−1)及び(A−2)成分由来のエポキシ基のエポキシ当量と、硬化剤(B)に含まれる活性水素当量との当量比(活性水素/エポキシ)が、0.6〜1.0の範囲となることが好ましく、より好ましくは、当該当量比が0.7〜1.0となることがよく、さらに好ましくは0.7〜0.9となることがよい。
【0041】
また、本発明の素地調整剤組成物においては、前記主剤(A)と硬化剤(B)とを混合した際の有機溶剤の含有量は、組成物中20質量%以下とすることが、作業環境及び環境保護の観点において好ましく、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは、当該素地調整剤組成物の粘度が前記の範囲を満足して錆層中に十分に浸透させることができるのであれば、無溶剤とする。なお、本発明において、無溶剤とは、前述の記載においても同様であるが、素地調整剤組成物の調製に際して不可避的に混入されてしまう極微量の有機溶剤や水分などを排除する意図ではない。
【0042】
このようにして調製された本発明の素地調整剤組成物は、前述の通り、錆を有する鋼材に塗布する場合、前処理として、劣化塗膜や浮き錆等の脆弱個所をワイヤーブラシ、スコッチブライト(スリーエム社製商品名)等で除去し、また、層状錆やコブ錆等の発生した腐食の著しい個所がある場合には、動力研磨工具や手研磨工具にて除去する。ただし、固着化した錆は除去する必要はない。塗装方法としては、刷毛、ローラー、スプレーなどによることができ、このうち、作業性や塗料の飛散の観点から、刷毛、ローラーが好ましく使用される。塗布量としては、固形分換算で0.03〜0.2kg/m
2程度塗布し、自然乾燥させる。また、素地調整剤組成物を塗装する際の塗装時の粘度は、1〜5,000mPa・s(温度23℃)とすることが、錆層中に十分に浸透させる観点において好ましく、塗装時の粘度を1,000〜3,500mPa・s(温度23℃)とすることがより好ましい。本発明において、前記主剤(A)及び硬化剤(B)を混合して素地調整剤組成物とした後の粘度は、1〜5,000mPa・s(温度23℃)を3時間以上維持することが好ましく、より好ましくは5時間以上である。
【0043】
上記のように塗装した本発明の素地調整剤組成物は、常温乾燥が可能である。ここで、常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により異なるが、通常は23℃を指し、強制的な加熱や冷却などの温度操作を行なわないことを指す。本発明の素地調整剤組成物については、温度5〜35℃の環境下で塗装されることが好ましい。
【0044】
本発明の素地調整剤組成物は、上記塗装の際には、錆層中に十分に浸透させることが好ましいが、その浸透性の指標としては、断面観察があり、例えば、本発明の素地調整剤組成物を塗装した錆鋼板断面の元素分布状態を電子線マイクロアナライザーによる方法で測定できる。
【0045】
本発明において、前記の素地調整剤組成物を、表面に錆を有する鋼材に塗装して塗膜を形成した後は、これに重ねて、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、塩素化ポリオレフィン系塗料、シリコーン樹脂系塗料及びふっ素樹脂系塗料よりなる群から選択される少なくとも1種を含む塗料を、好ましくは1〜4回塗装して、塗膜を形成することが好ましい。素地調整剤組成物に重ねて塗装する前記の塗料については、塗料により適宜選択されるものであり限定されないが、好ましくは、形成する塗膜厚の合計は55μm以上とすることがよい。重ねて塗装する当該塗料の乾燥方法は、常温乾燥とすることが挙げられ、乾燥後の塗膜の物性としては、耐候性、耐水性、付着性、耐アルカリ性、耐屈曲性、耐酸性などが求められる。重ねて塗装する際に用いる塗料は、下塗り塗料であればJIS K5551(構造物用さび止めペイント)、中塗り塗料であればJIS K5659(鋼構造物用耐候性塗料 中塗り)、上塗り塗料であればJIS K5659(鋼構造物用耐候性塗料 上塗り)の規定を満たす塗料であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の素地調整剤組成物について、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例における「部」、「%」はとくに断らない限り質量を基準とする。
【0047】
[実施例1〜32及び比較例1〜13]
先ず、表1〜3に示す配合のように、主剤(A)及び硬化剤(B)をそれぞれ準備した。主剤(A)及び硬化剤(B)のそれぞれについて、後述の方法で粘度を測定した。
【0048】
[試験方法、評価]
キシレンで脱脂、洗浄した寸法150×70×1.6mmの磨き軟鋼板に対しその片面半分(75×70mm)に、JIS K5621(一般さび止めペイント)2種[「グリーンボーセイ建築用」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を2回塗りし、次いで、JIS K5516(合成樹脂調合ペイント)2種中塗り用[「タイコーマリン中塗」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を1回塗りし、最後に、JIS K5516(合成樹脂調合ペイント)2種上塗り用[「タイコーマリン上塗」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を1回塗りして、試験用塗板を得た。このようにして形成された塗膜を、以下「旧塗膜」という。
【0049】
得られた試験用塗板を屋外に12ケ月間曝露し、発錆させた。なお、曝露6ケ月間経過後に食塩をCl量に換算して500mg/m
2となるよう塗布した。このようにして得られた発錆塗板の表面を、以下の塗装仕様で塗布した。
【0050】
<前処理>
発錆塗板表面の付着物、脆弱錆のみをスコッチブライト(スリーエム社製商品名)により除去した。
【0051】
<素地調整剤組成物の塗布>
準備した主剤(A)及び硬化剤(B)をそれぞれ表1〜3の組成の通り混合して実施例1〜32及び比較例1〜13に係る素地調整剤組成物とし、これを前記前処理後の発錆塗板の表面に、塗布量0.10kg/m
2となるように刷毛で塗布し、温度23℃の環境下で1日間自然乾燥させた。なお、実施例1〜32に係る素地調整剤組成物の塗装時の粘度は、いずれも5,000mPa・s以下であった。
臭気、塗装作業性、錆への浸透性、乾燥性を後述方法によりそれぞれ評価した。
【0052】
<下塗塗料塗布>
前記の通りに素地調整剤組成物を塗布した後、下塗塗料として変性エポキシ樹脂塗料弱溶剤型[「エポオールスマイル」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を、塗布量0.22kg/m
2となるようにエアスプレーで塗布し、温度23℃の環境下で1日間自然乾燥させた。
【0053】
<中塗塗料塗布>
前記下塗塗料の塗布後、中塗塗料としてふっ素樹脂塗料用中塗塗料[「Vフロン100#スマイル中塗」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を、塗布量0.16kg/m
2となるようにエアスプレーで塗布し、温度23℃の環境下で1日間自然乾燥させた。
【0054】
<上塗塗料塗布>
前記中塗塗料の塗布後、ふっ素樹脂塗料用上塗塗料[「Vフロン100#スマイル上塗」〔大日本塗料(株)製商品名〕]を、塗布量0.15kg/m
2となるようにエアスプレーで塗布し、温度23℃の環境下で1日間自然乾燥させた。
【0055】
次いで、前記上塗塗料の塗布後の塗板を、23℃、50%RHの条件下で7日間養生した。このようにして得られた複数の試験塗板について、後述の方法により防食性を評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表1〜3中における、注1)〜注11)は以下の通りである。
<(A−1)成分>
注1):jER828;「エピコート828」、三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量184〜194g/eq、Mw=480、粘度(23℃)14,000mPa・s
注2):jER807;「エピコート807」、三菱化学(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量160〜175g/eq、Mw=350、粘度(23℃)5,000mPa・s
注3):1001X70;「エピコート1001×70」三菱化学(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キシレン30%希釈品、エポキシ当量450〜500g/eq、Mw=1,000、粘度(23℃)90,000mPa・s
注4):jER152;「エピコート152」、三菱化学(株)製、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量172〜178g/eq、粘度(23℃)3,000mPa・s
【0060】
<(A−2)成分>
注5):ヘロキシルWC−68:PTIジャパン(株)製、グリシジル基含有エポキシ化合物、エポキシ当量175〜185g/eq、Mw=800、粘度(23℃)16mPa・s
注6):ネオトートS;東都化成(株)製、グリシジル基含有エポキシ化合物、エポキシ当量240〜250g/eq、Mw=240、粘度(23℃)10mPa・s
【0061】
<(C)成分>
注7):Kホワイト#94;テイカ(株)製、リン酸アルミニウム系防錆顔料
【0062】
<(D)成分>
注8):ソルカットC;日本化学工業(株)製、腐食性イオン固定化剤
【0063】
<(E)成分>
注9):KBM403;信越シリコーン(株)製、シランカップリング剤
【0064】
<(B)硬化剤>
注10):フジキュアーFXJ838B;T&K TOKA社製、硬化剤、変性脂肪族ポリアミン、活性水素当量105g/eq、粘度(23℃)1,600mPa・s
注11):アンカマイド350A;エアープロダクツ社製、硬化剤、変性脂肪族ポリアミン、活性水素当量100g/eq、粘度(23℃)12,000mPa・s
【0065】
各評価方法は、以下に示す通りである。
<粘度>
B型粘度計〔東京計器(株)製〕を用いて測定した。測定条件を以下に示す。
・温度:23℃
・ローター:No.3
・回転数:12rpm
【0066】
<臭気>
塗装時の臭気を、塗装作業者が感じた溶剤臭の有無、不快感から定性評価した。
◎:臭気を感じず、塗装時の不快感がない。
○:臭気を感じるが、塗装時の不快感はない。
△:臭気があり、塗装時に少しばかり不快を感じる。
×:臭気が強く、塗装時に大きな不快を感じる。
【0067】
<塗装作業性>
塗装時の塗装作業性を、以下の評価基準より定性評価した。
◎:素地調整剤組成物の伸びが非常に良く、塗装が容易にできる。
○:素地調整剤組成物の伸びが良く、問題なく塗装できる。
△:素地調整剤組成物の伸びがやや悪く、塗装時に時折刷毛がひっかかることがある。
×:素地調整剤組成物の伸びが非常に悪く、塗装時に刷毛がひっかかって塗装に困難を感じる。
【0068】
<さびへの浸透性>
素地調整剤組成物を塗装して7日間室温で乾燥させた塗板断面の元素(炭素と鉄)分布の状態を、電子線マイクロアナライザー〔(株)島津製作所製EPMA−1720〕で測定し、さび層(層厚み:100μm)への浸透深さを測定して以下の評価基準で評価した。
◎:さびへの浸透性が非常に高く、塗装した素地調整剤組成物がさび層の表面から100μm程度浸透する。
○:さびへの浸透性が高く、塗装した素地調整剤組成物がさび層の表面から50μm程度浸透する。
△:さびに浸透するが、塗装した素地調整剤組成物がさび層の表面から20μm程度浸透する。
×:さびへの浸透性が悪く、素地調整剤組成物の大部分がさび層の表面で硬化する。
【0069】
<乾燥性>
乾燥性については、塗装後の硬化過程における半硬化乾燥の程度で判定した。
◎:半硬化乾燥12時間半以内
○:半硬化乾燥16時間以内
△:半硬化乾燥24時間以内
×:半硬化乾燥24時間超過
【0070】
<防食性>
JIS K5674のサイクル腐食性に基づいて防食性を評価した。
◎:フクレ、錆発生なし
○:クロスカット部に幅2mm以内のフクレ、錆発生あり
クロスカット部以外にフクレ、錆発生数点あり
△:クロスカット部に幅2〜5mmのフクレ、錆発生あり
クロスカット部以外に10%以下のフクレ、錆発生あり
×:クロスカット部に幅5mmを超えるフクレ、錆発生あり
クロスカット部以外に10%越えるフクレ、錆発生あり
【課題】鋼材の表面の錆層中に十分に浸透して錆を固定化でき、長期の防食性に優れ、乾燥性もよく、しかも有機溶剤も少なくて、作業性や環境保護の観点においても好ましい素地調整剤組成物を提供する。
【解決手段】表面に錆を有する鋼材に塗布して使用され、(A)主剤及び(B)硬化剤を含有し、有機溶剤が20質量%以下である二液混合型素地調整剤組成物であり、主剤(A)は、温度23℃における粘度が1〜5,000mPa・sであると共に、(A-1)温度23℃で液体状態であるビスフェノールA型エポキシ樹脂及び/又は温度23℃で液体状態であるビスフェノールF型エポキシ樹脂と、(A-2)温度23℃で液体状態であって、1分子内にグリシジル基を1以上有すると共に芳香族炭化水素環が1以下であるエポキシ化合物とを含有し、(A-1)成分が主剤(A)中20〜80質量%であり、(A-2)成分が(A-1)成分に対して5〜65質量%であることを特徴とする素地調整剤組成物である。