(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6019267
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】3次元積層造形装置、3次元積層造形装置の制御方法および3次元積層造形装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 67/00 20060101AFI20161020BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20161020BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20161020BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B29C67/00
B33Y50/00
B22F3/16
B22F3/105
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-510871(P2016-510871)
(86)(22)【出願日】2015年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2015081972
【審査請求日】2016年2月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 経済産業省「産業技術研究開発(三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム(次世代型産業用3Dプリンタ技術開発及び超精密三次元造形システム技術開発))」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514227988
【氏名又は名称】技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 卓士
(74)【代理人】
【識別番号】100198960
【弁理士】
【氏名又は名称】奥住 忍
(72)【発明者】
【氏名】古川 哲義
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−196265(JP,A)
【文献】
特開2006−248231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00
B22F 3/105
B22F 3/16
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置であって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得手段と、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得手段と、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成手段と、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形手段と、
を備える3次元積層造形装置。
【請求項2】
前記属性情報は、前記粉末の導電性、粒径および電界強度の少なくともいずれか1つである請求項1に記載の3次元積層造形装置。
【請求項3】
前記粉末の温度を測定する温度測定手段を、さらに備え、
前記モデル生成手段は、前記粉末の温度に基づいて、前記回路パターンモデルを生成する請求項1または2に記載の3次元積層造形装置。
【請求項4】
前記モデル生成手段は、前記粉末の温度変化に基づいて、前記回路パターンモデルおよび前記回路パターンモデルの形成密度の少なくともいずれか一方を変更する請求項3に記載の3次元積層造形装置。
【請求項5】
前記高エネルギービームは、電子ビームである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の3次元積層造形装置。
【請求項6】
前記回路パターンは接地されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の3次元積層造形装置。
【請求項7】
前記回路パターンに正電位を与える正電位付与手段をさらに備えた請求項1乃至6のいずれか1項に記載の3次元積層造形装置。
【請求項8】
前記形成密度は、前記粉末の電界強度が臨界値未満となる密度である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の3次元積層造形装置。
【請求項9】
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置の制御方法であって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得ステップと、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得ステップと、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成ステップと、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形ステップと、
を含む3次元積層造形装置の制御方法。
【請求項10】
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置の制御プログラムであって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得ステップと、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得ステップと、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成ステップと、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形ステップと、
をコンピュータに実行させる3次元積層造形装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元積層造形装置、3次元積層造形装置の制御方法および3次元積層造形装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、造形室に不活性ガスを導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−526694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献に記載の技術では、造形室に不活性ガスを導入して粉末の帯電を防止していたが、造形室の容積が大きい場合には、大量の不活性ガスを必要とするので、3次元積層造形物の造形に要するコストを抑えることができなかった。
【0005】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る3次元積層造形装置は、
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置であって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得手段と、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得手段と、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成手段と、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形手段と、
を備える。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る3次元積層造形装置の制御方法は、
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置の制御方法であって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得ステップと、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得ステップと、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成ステップと、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形ステップと、
を含む。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る3次元積層造形装置の制御プログラムは、
粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置の制御プログラムであって、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得ステップと、
前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得ステップと、
前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成ステップと、
生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、3次元積層造形物の造形に要するコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る3次元積層造形装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置の構成を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置が用いる属性テーブルの一例を示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの一例を説明する斜視図である。
【
図5A】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの変形例を示す斜視図である。
【
図5B】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの変形例を示す図である。
【
図5C】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの変形例を示す図である。
【
図5D】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの変形例を示す図である。
【
図5E】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置により造形される回路パターンの変形例を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置の処理手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明記載する。ただし、以下の実施の形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての3次元積層造形装置100について、
図1を用いて説明する。3次元積層造形装置100は、粉末に高エネルギービーム112を照射して3次元積層造形物111を造形する装置である。
図1に示すように、3次元積層造形装置100は、積層造形データ取得部101と、属性情報取得部102と、モデル生成部103と、回路パターン造形部104とを備える。また、3次元積層造形装置100は、造形室110を備える。
【0013】
積層造形データ取得部101は、3次元積層造形物111の積層造形に用いる積層造形データを取得する。属性情報取得部102は、3次元積層造形物111の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する。モデル生成部103は、積層造形データおよび属性情報に基づいて、高エネルギービーム112の照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成する。回路パターン造形部104は、生成した回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する。
【0014】
本実施形態によれば、回路パターンにより、帯電した粉末の電荷を流し去るので、3次元積層造形物の造形に要するコストを抑えることができる。
【0015】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係る3次元積層造形装置について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る3次元積層造形装置200の構成を説明するための図である。3次元積層造形装置200は、積層造形データ取得部201と、属性情報取得部202と、モデル生成部203と、ビーム照射部204と、温度センサ205と、正電位付与部206と、粉末タンク207と、造形室208とを備える。
【0016】
3次元積層造形装置200は、粉末271にビーム241を照射して造形室208内のワーク283上に3次元積層造形物284を造形する装置である。粉末271は、粉末タンク207から造形室208内のリコータ281に搬送される。リコータ281は、造形室208内を前後左右方向に移動しながら、粉末タンク207から搬送された粉末271をワーク283上に散布する。3次元積層造形装置200は、ビーム照射部204からワーク283上に散布した粉末271にビーム241を照射する。ビーム241を照射された粉末271は、溶融する。溶融した粉末271は、その後冷えて固まり、最終的に3次元積層造形物284が造形される。
【0017】
積層造形データ取得部201は、3次元積層造形装置200が3次元積層造形物284を造形する際に用いる、積層造形データを取得する。3次元積層造形装置200は、この積層造形データに基づいて、ワーク283上に散布した粉末271にビーム241を走査しながら照射して、3次元積層造形物284を造形する。
【0018】
属性情報取得部202は、粉末271の属性を取得する。粉末271の属性は、例えば、粉末271の種類や導電性(導電率)、粒径、電界強度、抵抗値(抵抗率)などであるが、これには限定されない。また、属性情報取得部202は、属性情報テーブル221を参照して粉末271の属性情報を取得してもよいが、属性情報の取得方法は、これには限定されない。例えば、粉末271の属性情報を取得可能なセンサなどを設けて、粉末271から直接取得してもよい。
【0019】
粉末271は、造形しようとする3次元積層造形物284に応じて適宜選択されるものであり、粉末271の種類や粒径等を造形しようとする3次元積層造形物284の使用用途や、要求される耐久性などに応じて、選択される。したがって、使用する粉末271によって、その特性が異なり、帯電のし易さや、導電性(導電率)、抵抗値(抵抗率)などが様々に変化するので、属性情報取得部202は、粉末271の属性情報を取得する。これにより、3次元積層造形装置200は、使用する粉末271の属性を取得できる。
【0020】
モデル生成部203は、3次元積層造形物284の積層造形データと、粉末271の属性情報とに基づいて、帯電した粉末271の電荷を流し去るための電気回路を造形するための回路パターンモデルを生成する。粉末271は、ビーム照射部204から照射される高エネルギーのビーム241によりチャージアップする。ここで、一般的にチャージアップとは、電子ビームを照射されたターゲットが帯電して電界を発生させ、ビーム照射パターンを歪曲させたり、互いの電荷により粉末が反発して飛び去ってしまう現象をいう。このように粉末271が帯電すると、粉末271に蓄えられた電荷により、粉末271同士が接近した場合、お互いに反発しあい、粉末271が飛び去ってしまう。
【0021】
さらに、粉末271が帯電して電荷を蓄えると、粉末271に蓄えられた電荷により、粉末271の周辺の電界の分布が変化するので、これに伴いビーム241の進路や出力強度なども変化する。例えば、粉末271周辺の電界分布の変化により、ビーム241が、本来の軌道とはずれた軌道を通過することになり、所望の位置にビーム241を照射することができなくなる。つまり、ビーム241の制御精度が低下するので、これにともない3次元積層造形物284の造形精度も低下する。また、ビーム241の出力強度が変化すると、粉末271が溶融しなかったり、溶融むらが生じたりするので、同様に3次元積層造形物284の造形精度が低下する。
【0022】
したがって、粉末271の帯電量が、粉末271が飛び去ったり、ビーム241の進路などに影響を与えたりしない程度の帯電量となるように、粉末271から電荷を取り去る、つまり、粉末271を除電する必要がある。この場合の除電量は、粉末271の帯電量が、粉末271同士が反発したり、ビーム241の進路などが変化したりしないような電荷値未満、つまり、臨界値未満となるまで除電する必要がある。
【0023】
よって、モデル生成部203は、電界強度などの計算結果や除電効果に関するシミュレーションなどに基づいて、チャージアップした粉末271に蓄積された電荷を流し去ることができる回路パターン209のモデルを回路パターンモデルとして生成する。例えば、生成する回路パターンモデルは、粉末271の電界強度が臨界値未満となるような回路パターンモデルが代表的であるが、これには限定されない。
【0024】
また、粉末271の帯電量は、粉末271の属性と照射するビーム241の出力(エネルギー)とから予測できるので、モデル生成部203は、例えば、照射するビーム241の出力に応じて、回路パターンモデルを生成してもよい。
【0025】
そして、ビーム照射部204は、生成した回路パターンモデルに基づいて、ビーム241をコントロールして、造形室208内に電気回路としての回路パターン209を造形する。
【0026】
温度センサ205は、造形室208内の温度を測定するセンサである。温度センサ205は、造形室208の温度の他に、粉末271や3次元積層造形物284、ビーム241が照射されている位置などの温度を測定する。また、温度センサ205は、リアルタイムで温度を測定してもよいし、所定の時間間隔で温度を測定してもよい。
【0027】
モデル生成部203は、例えば、3次元積層造形物284の造形中に、温度センサ205で測定した粉末271の温度情報に基づいて、回路パターンモデルを生成してもよい。また、これとは反対に、モデル生成部203は、温度情報に基づいて、回路パターンモデルを生成しなくてもよい。つまり、モデル生成部203は、3次元積層造形物284の造形中に、当初生成した回路パターンモデルとは異なる回路パターンモデルを生成して、回路パターンモデルを変更する。すなわち、造形室208の温度上昇に伴って粉末271自体の温度も上昇すると、粉末271の導電率や抵抗率なども変化する。そうすると、最初に生成した回路パターンモデルでは、粉末271の除電効果が低下することもある。そのため、3次元積層造形物284の造形中に回路パターンモデルを変更して、変更後の回路パターンモデルに基づいて、回路パターン209を造形することが好ましい。回路パターンモデルの変更は、具体的には、回路パターン209自体の変更や、回路パターン209を構成する電気路としての導線(電線)の密度の変更、導線の太さの変更、導線の枝分かれの変更、導線同士の間隔(ピッチ)の変更などを含む。しかしながら、回路パターンモデルの変更は、これらには限定されない。
【0028】
なお、回路パターンモデルの変更は、回路パターンモデルを変更することにより、造形処理速度が低下する場合などには、回路パターンモデルの変更を行わなくてもよく、3次元積層造形装置200のユーザが適宜選択すればよい。
【0029】
正電位付与部206は、造形した回路パターン209に正電位を付与する。また、正電位付与部206は、造形した回路パターン209にアース電位を付与してもよい。粉末271は、負に帯電しているので、回路パターン209に正電位を与えておけば、正電位により負の電荷が引っ張られ、これにより、造形した回路パターン209による除電効果をさらに高めることができる。なお、正電位を付与するのは回路パターン209には限られず、例えば、ベースプレートに付与してもよい。
【0030】
さらに、正電位を付与する代わりに、ワーク283上に電極を1個設置しておいて、この電極に回路パターン209を繋げてもよい。また、電極をベースプレート上に設置して、この電極に回路パターン209を繋げてもよい。
【0031】
図3は、3次元積層造形装置200の属性情報取得部202が備える属性情報テーブル221の構成を示す図である。属性情報テーブル221は、粉末ID(Identifier)301に関連付けて、導電性302と、粒径303と、電界強度304と、抵抗値305とを記憶する。なお、属性情報テーブル221に記憶する項目は、これらの項目には限定されない。属性情報取得部202は、属性情報テーブル221を参照して、粉末271の属性情報を取得する。
【0032】
図4は、3次元積層造形装置200により造形される回路パターン209の一例を説明する斜視図である。同図に示したように、回路パターン209を構成する導線は、3次元積層造形物284に繋がっている導線もあれば、3次元積層造形物284に全く繋がっていない導線もある。そして、回路パターン209は、3次元積層造形物284を介して接地している。このように、回路パターン209の接地は、3次元積層造形物284を介して行ってもよい。3次元積層造形物284に繋がっている導線を用いて接地する場合には、3次元積層造形物284に繋がっていない側の端部を接地すればよい。
【0033】
また、3次元積層造形物284に繋がっていない導線については、一方の端部を、例えば、ベースプレートなどに繋げて、接地してもよい。なお、回路パターン209は、接地しても、接地しなくてもよいが、接地した方が、粉末271に蓄えられた電荷をより確実に流し去ることができる。そして、例えば、粉末271が回路パターン209に接触すると、帯電した粉末271に蓄えられた電荷が、回路パターン209に流れ、粉末271に蓄えられた電荷が減少する。これにより、チャージアップした粉末271が飛散したり、ビーム241の軌道が変化したりするのを防止できる。
【0034】
図5A乃至
図5Eは、3次元積層造形装置200により造形される回路パターンの変形例を示す斜視図または上面図である。
図5Aに示したように、回路パターン501は、格子状の形状をしており、中心部にある3次元積層造形物284(不図示)を包み込むように配置されている。なお、回路パターンは、回路パターンやそれを構成する導線などからの距離が離れ過ぎている粉末271が存在しないように設計することが好ましい。つまり、粉末271と、回路パターンおよび導線などとの間の距離が離れすぎて、遠くなると、帯電した粉末271に蓄えられた電荷が流れにくくなる。
【0035】
図5Bに示したように、回路パターン502は、回路パターン502を構成する回路導線(電気路)が、3次元積層造形物284の周囲に張り巡らされており、回路パターン502と3次元積層造形物284とは接触していない。例えば、導電性の高い粉末271に対しては、回路パターン502のように、形成密度が比較的粗い回路パターンを用いるのが好ましい。
【0036】
図5Cに示したように、回路パターン503は、回路パターン502と比較して、形成密度が高い。すなわち、回路パターン503は、回路パターン503を構成する導線のピッチや本数が、回路パターン502よりも大きくなっている。これにより、粉末271が回路パターン503に接触する可能性が増大する。例えば、導電性の低い粉末271に対しては、回路パターン503のように、形成密度が比較的密な回路パターンを用いるのが好ましく、使用する粉末271の導電性や温度などに応じて、造形する回路パターンの粗密を変えればよい。
【0037】
図5Dに示したように、回路パターン504は、複数の同心円で構成された回路である。回路パターン504には、各導線を接地するための導線541が設けられている。また、導線541は、3次元積層造形物284に繋がっていないが、導線542は、3次元積層造形物284に繋がっている。導線541および導線542の全てを3次元積層造形物284に繋げてもよいし、導線541および導線542の全てを3次元積層造形物284に繋げなくてもよい。
【0038】
図5Eに示したように、回路パターン505には、2種類の導線551、552が設けられている。3次元積層造形物284の周囲には、導線551が配置されており、導線551それぞれの両端部から導線552が枝分かれするように設けられている。導線551は、導線552よりも太い導線となっており、導線552により、回路パターン505は接地されている。
【0039】
なお、回路パターンは、ここに示した形状に限定されるものではなく、帯電した粉末271から電荷を流し去ることができる形状であれば、いかなる形状としてもよい。
【0040】
図6は、3次元積層造形装置200の処理手順を説明するフローチャートである。ステップS601において、3次元積層造形装置200は、3次元積層造形物284の積層造形に用いる積層造形データを取得する。ステップS603において、3次元積層造形装置200は、3次元積層造形物284の積層造形に用いる粉末271の属性情報を取得する。属性情報としては、例えば、粉末271の導電性や粒径、抵抗値、種類などがあるがこれらには限定されない。ステップS605において、3次元積層造形装置200は、回路パターンモデルを生成する。回路パターンモデルは、取得した積層造形データと属性情報とに基づいて生成される。そして、ステップS607において、3次元積層造形装置200は、生成した回路パターンモデルに基づいて、ビーム照射部204などを制御して、回路パターン209を造形する。
【0041】
さらに、ステップS609において、3次元積層造形装置200は、温度センサ205で測定した粉末271などの温度に基づいて、回路パターン209を変更するか否かを判断する。3次元積層造形装置200は、回路パターン209の変更が必要ないと判断した場合(ステップS609のNO)、処理を終了する。3次元積層造形装置200は、回路パターン209を変更すると判断した場合(ステップS609のYES)、ステップS611において、測定した粉末271の温度などに基づいて、新たな回路パターンモデルを生成する。ステップS613において、3次元積層造形装置200は、新たに生成した回路パターンモデルに基づいて、ビーム照射部204などを制御して、新たな回路パターンを造形する。なお、ステップS609以降のステップを複数回繰り返して、新しい回路パターンモデルを複数回生成して、新しい回路パターン209を複数回造形してもよい。
【0042】
本実施形態によれば、大量の不活性ガスを必要とせず、3次元積層造形物の造形に要するコストを抑え、安価に製造することができ、また、不活性ガスの管理を必要としないので、3次元積層造形装置の取り扱いが容易になる。
【0043】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0044】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。
【要約】
3次元積層造形物の造形に要するコストを抑えること。粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置であって、粉末に高エネルギービームを照射して3次元積層造形物を造形する3次元積層造形装置であって、前記3次元積層造形物の積層造形に用いる積層造形データを取得する積層造形データ取得手段と、前記3次元積層造形物の積層造形に用いる粉末の属性情報を取得する属性情報取得手段と、前記積層造形データおよび前記属性情報に基づいて、高エネルギービームの照射により帯電した粉末から電子を流し去るための回路パターンモデルを生成するモデル生成手段と、生成した前記回路パターンモデルに基づいて、回路パターンを造形する回路パターン造形手段と、を備える。