【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決する手段を実践するため、特許文献1の画像からの濃度定量法をポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法(Disc−PAGE法)と共にヒトのリポ蛋白質の分析(特許文献2)に適用し得られた濃度波形を用いて高脂血症等の新しい表現型を分類または判定する方法を述べる。
【0012】
Disc−PAGE法は、リポ蛋白質を粒子の大きさで分離分析する測定法で脂質の質の検査法として知られ、V型高脂血症やIII型高脂血症には独特の濃度波形が出現すると言われていたが(非特許文献5)、その判断基準等はなかった。非特許文献8に示された分離ゲルが3%のレデイメイドで脂質前染色法を使用するリポ蛋白質分析用測定キット「リポフォーAS」を用いた。非特許文献8のキットを用いて分析した結果は、陰極側からCM、VLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLに分析される。このうちVLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLは濃度波形に図示され報告書として現在も医師の手元に届くシステムになっており日常診療に使用されている。非特許文献7のリポフォーASと言う検査キットは、内因性リポ蛋白質を表すキットとして知られ、VLDL%値はTG値と良い相関関係にあると報告されている。
【0013】
発明者たちは、高脂血症等の患者および糖尿患者らは既に高脂血症や糖尿病の治療を受けている患者が殆どであることを念頭に高脂血症の患者および糖尿病患者ら延べ約1万名について高脂血症等の表現型の判定を実施してきた。高脂血症等治療中にも係わらずDisc−PAGE法の濃度波形が脂質正常者の群と異なる高脂血症等の患者を選別していたところ、一定の傾向があることを発見しそれに基づき各高脂血症等を判定するアリゴリズムを発見した。
高脂血症等のアリゴリズムを定めるにあたって、リポ蛋白質の代謝は主に内因性リポ蛋白質と外因性リポ蛋白質に大別され、それらを区別しないと表現型の判定を狂わせる可能性がある。
内因性リポ蛋白質は主に肝臓で生成、分泌、代謝される物質で VLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLの一群である。この中で一番粒子径の大きいVLDLでもせいぜい粒子径は40nm程度であるため、VLDLが多いからと言って必ずしも血液を採血し血清分離した後の血清の乳白濁、言い換えれば乳ビ血清と呼ばれる状態にはならない。乳ビ血清とは外因性リポ蛋白質に現れるCMやCMレムナントが存在する場合に出現する。CMやCMレムナントの粒子径は大きいもので100nmを越えるものもあるといわれ、可視光線の最小波長を300nmとするとCMやCMレムナントがあると可視光線の透過光を部分的に遮ることになり結果的に血清が白く濁る現象すなわち乳ビ血清が出現する。現実、我々発明者たちはボランティアに朝食抜きの血清に乳ビがないことを確認し、食後一定間隔で採血し性状を調べたところ、食事後2時間または3時間経つと乳ビ血清になる人がおり、この方々はVLDLの量は多少上昇するもののIDL、LDL、small,dense LDL、HDLの一群には全く変化が無いことを確認している。以上により、乳ビ血清の存在は外因性リポ蛋白質代謝が深く関与しているものと判断した。リポ蛋白質を血清脂質レベルで論じた場合、TGの測定値が高いと乳ビ血清になると教科書に書かかれているが、これは不完全である。TGはCMやCMレムナントの中にも大量に存在するので、一般的な生化学の定量値だけ見るとTGが多い患者は乳ビ血清であると信じられていたことによる。実際は乳ビ血清の人の殆どの場合TGは高いが、逆にTGが高いから乳ビ血清であるとは言えない。従って高脂血症等の表現型を論じる場合TG値をベースに話を進めると正確な判定ができないことが分かったので今回の高脂血症等のアリゴリズムの中にTGの値は含めないことにした。
【0014】
Disc−PAGE法において、V型高脂血症はTGとCMとVLDLが高くIDL、LDLやsmall,dense LDLが低値であると言われているが明確な基準はなかった。我々は多数の試験結果からV型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
V型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が30%以上であること。
2) IDL、LDL、small,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値がそれぞれ0.1以下であること。
3) HDLの分画%が10%以上あること。
なおVLDLの分画%が30%以上であることは乳ビ血清でない患者のTG値が凡そ200mg/dL、(非特許文献7)を超えている事を表し、またIDL、LDL、small,dense LDLの濃度波形が薄いことを吸光度OD値0.1以下で表現した。
【0015】
III型高脂血症は非特許文献1で言われているFloating β−LPと同一挙動を示すIDLの存在を中心にIII型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
III型高脂面症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が30%以上であること。
2) LDLと small,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値がそれぞれ0.1以下であること。
3) IDLの分画%が10%以上あること。
なおIII型高脂血症は、Disc−PAGE法でIDLの出現が特徴的であると言われている点について本願はIDLの分画%が10%以上あり、その他のLDLとsmall,dense LDLの波形が薄い事を吸光度OD値が0.1以下で表すことにした。更にIII型高脂血症は、アポEジェノタイプまたはフェノタイプの試験でアポ蛋白質E2の存在を確認することが不可欠であると言われているが、特殊な別の検査であるため簡易判定法のアリゴリズムには入れなかった。
【0016】
II型高脂血症はTCが高く比較的TGが少ない状態を指し、TGの存在比率からIIa型とIIb型に区分される。TGの量は乳ビ血清でも高くなるので前述したように本願ではVLDLの分画%とTC値から、IIa型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
TCの定量値のカットオフについては非特許文献2および非特許文献3に記されている高コレステロール血症の判定基準である220mg/dL以上とした。
IIa型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が15%未満であること。
2) TCの定量値が220mg/dL以上であること。
なおIIa型高脂血症は、Disc−PAGE法において、不安定なリポ蛋白質IDLやsmall,dense LDLが少なく、リポ蛋白質の濃度波形において脂質の質の異常が見られない患者が一般的であり、ここではTCの定量値が220mg/dL以上でVLDLの分画%が 正常の上限値の15%未満とした。
【0017】
IIb型高脂血症はIIa型高脂血症よりVLDLの分画%値が若干高い場合で、IV型高脂血症と重ならない部分を設定した。
IIb型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が15〜25%であること。
2) TCの定量値が220mg/dL以上であること。
なおIIb型高脂血症とIIa型高脂血症の差は、VLDLの分画%値により区別した。
【0018】
IV型高脂血症はTCの定量値が低くTGの定量値が高い症例といわれているが、その境界は定かではなかった。最近はTC値やTG値を下げる治療薬がいくつも発売され、治療中にはIV型からIIaまたはIIb型にまたその逆になる症例が多々見られ、高脂血症等の型判定に迷うことが多かった。
我々発明者はDisc−PAGE法において約10,000名の濃度波形を調査検討しそれらの特徴からIV型高脂血症のアリゴリズムを導き出した。
IV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
なおIV型高脂血症の判定にTC値の基準は設けず、V型、III型、IIa型またはIIb型高脂血症に属さないものと決め、VLDLの分画%が20%以上と一部IIb型高脂血症のVLDLの分画%が重なることとなったが、治療中にIV型からIIb型へ相互変化する患者も多数いる関係で妥当と考えた。
【0019】
Disc−PAGE法において、リポ蛋白質の代謝過程では不安定なLDLであるIDLやsmall,dence LDLが出現すると前述したが、IV型高脂血症では、表現型の判定に加えて不安定なリポ蛋白質の出現を合わせて判定することが可能であり、その判定のアリゴリズムの設定をIDLおよびsmall,dence LDLが存在するものとしないものを区別できるよう設定した。先ずIDLの増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
IDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症等でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) IDLの分画%が10%以上あること。
なおIV型高脂血症は不安定で動脈硬化の危険物質と言われたIDLやsmall,dense LDLが良く出現する。我々発明者達はこの動脈硬化に係る危険物質の存在を明らかにするため敢えてIDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズムを設定した。IDLは脂質正常者にも5%程度は存在すると言われており(非特許文献9)それらを区別しより確実にIDLの存在を主張するためIDLの分画%が10%以上あるときに限りIDLの増加を伴うIV型高脂血症とした。
【0020】
同様にsmall,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
small,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) small,dense LDLの分画%が6%以上あること。
なおここで言うsmall,dense LDLとは相対移動度RM0.40以上を指す(非特許文献7)ので、非特許文献9に述べられている相対移動度RM0.35の部分にもsmall,dense LDLの存在が疑われると書かれていることを踏まえsmall,dense LDLの分画%が6%以上あることとした。
【0021】
IDLおよびsmall,dense LDL双方の増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
IDL、small,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) IDLの分画%が10%以上でかつsmall,dense LDLの分画%が6%以上あること。
【0022】
I型高脂血症はリポ蛋白リパーゼが欠損または非常に少なく肝臓でVLDLやその他の内因性のリポ蛋白代謝が進まない状態を言い、血液中にCMやCMレムナントが溜まり時々膵炎を起こす疾患である。CMやCMレムナントが存在すると検査技師は報告書に乳ビ+とか乳ビ+++などとコメントを入れることが多く、CMやCMレムナントの存在を気づくか、Disc−PAGE法の試料添加部分であるローディングゲルに濃い青色が残り、特許文献1の画像付の報告書を見てもCMやCMレムナントの存在を気づくので、あえてI型高脂血症のアリゴリズムに乳ビ血清の情報を入れなかった。
I型高脂血症のアリゴリズム
1) IDL、LDL、small,dense LDL、HDLのピーク値がそれぞれOD0.03以下であること。
なおI型高脂血症はIDL、LDL、small,dense LDL、HDLの濃度波形が殆ど見られないことを指すので、我々発明者はその濃度をOD0.03以下とした。
【0023】
前項までは課題を解決する手段として、Disc−PAGE法による測定結果を例として、高脂血症等の表現型を分類しまたは判定する方法を述べてきたが、リポ蛋白質の分析には特許文献3のHPLCの分析や特許文献4のアガロースゲル電気泳動法または平板スラブ電気泳動法、密度勾配型グラジュエントゲル電気泳動法などがある。
これらはDisc−PAGE法と分析原理が違うため、濃度波形の形や分画%やリポ蛋白質の名称が変わる事がある。例えばアガロースゲル電気泳動法では陰極からpre−β、β、αリポ蛋白質に分離分析され、CMが有るとpre−β、βの部分がブロード(Floating β−LP)状になる。pre−βはVLDL、βはLDL、αはHDLとも呼ばれる。
前述したように高脂血症等の表現型の判定に外因性リポ蛋白質が混在すると判定を狂わせる恐れがあると指摘したが、アガロースゲル電気泳動法では外因性・内因性リポ蛋白質を区別せず分析しているので、少々分離が不鮮明ではあるがコストが安いため日常使用されている。
また特許文献4のTC染色またはTG染色した場合は普通pre−βコレステロール(またはトリグリセライド)、βコレステロール(またはトリグリセライド)、αコレスデロール(またはトリグリセライド)となるが、こじつければVLDLコレステロール(またはトリグリセライド)、LDLコレステロール(またはトリグリセライド)、HDLコレステロール(まちはトリグリセライド)と言うこともできる。本願発明は非常に簡単なアリゴリズムで高脂血症等の表現型を判定することができるため、HPLC法やアガロースゲル法に合わせて多少表現や数値等を変えれば、本願は色々な測定法による高脂血症等の表現型の判定に利用できることは言うまでもない。
【0024】
高脂血症等の表現型を決めるアリゴリズムが明確になれば、予めコンピュータなどにそのアリゴリズムをプログラミングしておき、検査結果報告書作成時に高脂血症等の表現型を自動的に印刷することができる。