特許第6019288号(P6019288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019288脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019288
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20161020BHJP
   G01N 33/92 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   G01N27/447 315Z
   G01N27/447 301A
   G01N27/447 315F
   G01N27/447 325B
   G01N33/92 Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-116943(P2012-116943)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234981(P2013-234981A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】308001776
【氏名又は名称】株式会社明日香特殊検査研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(72)【発明者】
【氏名】松田 武英
(72)【発明者】
【氏名】井上 郁夫
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−230937(JP,A)
【文献】 特開平08−320313(JP,A)
【文献】 特開2005−121619(JP,A)
【文献】 特開2004−258014(JP,A)
【文献】 MUNIZ, M,Measurement of Plasma Lipoproteins by Electrophoresis on Polyacrylamide Gel,CLIM. CHEM,1977年,Vol.23 No.10,p.1826-1833,URL,www.clinchem.org/content/23/10/1826.full.pdf
【文献】 金澤敏行 他,ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法による血清リポ蛋白質の分析および評価,機器・試薬,2010年,Vol.33、No.3,p.399-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−49
G01N 30/00−30/96
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体中のリポ蛋白質を分離分析し、結果を濃度波形で表す分析法であるポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法において算出された高低比重リポ蛋白質VLDL、中間比重リポ蛋白質IDL、低比重リポ蛋白質LDL、小粒子リポ蛋白質small,dense LDL、高比重リポ蛋白質HDLの分画%とIDL、LDL、small,dense LDLおよびHDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度ODの数値と、生化学の自動分析装置等で測定した当該被検体中の総コレステロールTCの定量値を使用し脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項2】
リポ蛋白質の濃度波形の内VLDLの分画%が30%以上でかつHDLの分画%が10%以上あり、かつIDL、LDLおよびsmall,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値が何れも0.1以下であることをもってV型高脂血症とし、リポ蛋白質の濃度波形の内VLDLの分画%が30%以上でかつLDLおよびsmall,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲で最大位置の吸光度OD値が何れも0.1以下でありかつIDLの分画%が10%以上あることをもってIII型高脂血症とし、リポ蛋白質の濃度波形の内VLDLの分画%が15〜25%でありかつ生化学の自動分析装置等で測定した被検体中の総コレステロール値TCが220mg/dL以上であることを持ってIIb型高脂血症とすることを特徴とする請求項1の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項3】
リポ蛋白質の濃度波形の内VLDLの分画%が15%未満でありかつ生化学の自動分析装置等で測定した被検体中の総コレステロール値TCが 220mg/dL以上であることをもってIIa型高脂血症とすることを特徴とする請求項1の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項4】
リポ蛋白質の濃度波形の内VLDLの分画%が20%以上であり、V型高脂血症およびIII型高脂血症およびIIb型高脂血症でないことをもってIV型高脂血症とすることを特徴とする請求項の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項5】
IDLの分画%が10%以上であることをもってIDLの増加を伴うIV型高脂血症とすることを特徴とする請求項の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項6】
small,dense LDLの分画%が6%以上であることをもってsmall,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症とすることを特徴とする請求項の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項7】
IDLの分画%が10%以上ありかつsmall,dense LDLの分画%が6%以上であることをもってIDLおよびsmall,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症とすることを特徴とする請求項の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項8】
リポ蛋白質の濃度波形においてIDL、LDL、small,dense LDL、HDLの波形がないかまたは濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値が何れも0.03以下であることをもってI型高脂血症とすることを特徴とする請求項1の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【請求項9】
リポ蛋白質の表現型の判定基準に係るアゴリズムをコンピュータに記憶させ、検体毎に個々演算処理し得られた表現型の結果を、リポ蛋白分画検査報告書作成時に合わせて印刷または表示することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項の脂質異常症または高脂血症の表現型を簡易的に分類または判定する方法
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒトの血清または血漿中のリポ蛋白質を分析した結果から、脂質異常症または高脂血症の表現型を分類しまたは判定する分野。
【背景技術】
【0002】
1965年フリードリクソン等はヒトの血清又は血漿中の脂質である中性脂肪(トリグリセライド、TG)や総コレステロール(TC)を化学的測定法で測定した結果とリポ蛋白質の蘆紙電気泳動結果が脂質正常者に比べ異常な患者いわゆる高脂血症者の脂質の型が5種類ありその型をI型、IIa型、IIb型、III型、IV型、V型と名づけた。
その後世界保健機構WHOでも高脂血症者の脂質の表現型分類をI型、IIa型、IIb型、III型、IV型、V型として承継し、現在も高脂血症治療の基準とされている(非特許文献1)。
【0003】
我国においても当初はWHOの高脂血症者の表現型の分類または型判定であるI型、IIa型、IIb型、III型、IV型、V型を襲踏していた(非特許文献5)が、2002年日本動脈硬化学会は「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」を出版し(非特許文献2)、高脂血症の表現型とは別に、1)高コレステロール血症、2)高LDLコレステロール血症、3)低HDLコレステロール血症、4)高トリグリセリド血症の診療ガイドラインを決めた。また2007年改訂版では2002年版で低HDLコレステロール血症と言う名称を使用した関係で高脂血症と言う言葉は不適切であると判断され脂質異常症と改められた(非特許文献3)。
【0004】
非特許文献1では、カイロマイクロン(CM)、低比重リポ蛋白質(LDL)、超低比重リポ蛋白質(VLDL)、Floating β−LPが存在するかしないかで高脂血症の表現型を判別するとされている。一方非特許文献4は、ズダンB前染色法によるポリアクリルアミドディスク電気泳動法の濃度波形が紹介されておりTypeI、TypeII、TypeIIB、TypeIII、TypeIV、TypeVと表記されている。我国でもポリアクリルアミドディスク電気泳動法の濃度波形とTC値およびTG値とアポ蛋白質の存在比率から高脂血症の型判定が出来ると紹介されている(非特許文献5)。何れにしても各型の判定方法には決まった数字等は記述はなされておらず判定は診察する医師に任されていた。
【0005】
近年多くの強力な高脂血症治療薬が発売され、脂質の測定法もより高度化してきた。その中でポリアクリルアミドディスク電気泳動法(Disc−PAGE法)の濃度波形の解析に画像からの濃度測定法(特許文献1)が使用され、リポ蛋白質の分析も画像により報告されるようになって、医師は患者毎に生化学の自動分析装置による脂質の測定値(TC、TG等)と電気泳動像の写真と濃度波形を見ながら診断を下せる状態になってきた(非特許文献6、非特許文献7)。非特許文献7によるとリポ蛋白質はCM、VLDL、LDL、HDLの他に動脈硬化の悪玉と呼ばれている不安定なリポ蛋白質である中間比重リポ蛋白質(IDL、mid−band)や小粒子LDL(small,dense LDL)が容易に検出できると紹介されている。この不安定なリポ蛋白質であるIDLやsmall,dense LDLを正常なLDLと区別する方法として、濃度波形上のいくつかのLDLを特定するため相対移動度と言う手法(VLDLを0としHDLを1とするときのLDLの移動度の割合)が役立っている(非特許文献7)。これによるとIDLの相対移動度はRM0.10〜0.18、small,dense LDLはRM0.40以上と記載されている。
【0006】
一方特許文献3にはHPLC法でリポ蛋白質を分析をする方法が記載されており、特許文献4にはアガロースゲル電気泳動法に、TC染色とTG染色を施した濃度波形から当該メーカが設定したプロトコールにより複雑な判定経路を経てコンピュータで自動的に高脂血症の表現型を判定すると記載されている。
【参考文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−258014
【特許文献2】特開2005−121619
【特許文献3】特開平8−320313
【特許文献4】特開平11−230937
【0008】
【非特許文献1】Classification of Hyperlipidaemias and Hyperlipoproteineamias,Bull,WHO,vol.43,p891−908,1970
【非特許文献2】動脈硬化性疾患診療ガイドライン、2002年版、日本動脈硬化学会
【非特許文献3】動脈硬化性疾患診療ガイドライン、2007年版、日本動脈硬化学会
【非特許文献4】Mniz,N:Measurrment of Plasma Lipoprotein by Electrophoresis on Polyacrylamaide Gel.Clin.Chem,Vol.23,No.10.p1826−1833,1977
【非特許文献5】白井厚治、斎藤康:高脂血症、medicina vol.26,no3,p410−414,1989
【非特許文献6】井上郁夫:リポフォー、メタボリックシンドローム、片山茂裕編、中外医学社、p161−163、2008
【非特許文献7】日本医事新報、4527号、p51−58、2011年1月29日
【非特許文献8】医療と検査機器・試薬、Vol.33,no.3.p399−402、2010
【非特許文献9】Progress in Medicine,Vol.32,No.3,p133−135,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献3にあげた動脈硬化学会の動脈硬化性疾患診療ガイドライン2007年版を見ると高脂血症は脂質異常症と名称を変えたとあるが、高脂血症は脂質異常症の中に含まれると説明されており、治療薬の殆どが高コレステロール血症や高トリグリセライド血症等の高脂血症が効能効果としてうたわれている。診療する医師はTC、TG、HDLコレステロール(HDL−C)、LDLコレステロール(LDL−C)などの測定値やリポ蛋白分画の結果等を見て総合的に診断や治療を行っている。脂質異常症や高脂血症(高脂血症等)を治療すると患者のTC値やTG値が下がり正常化する患者もいるが、中々治療効果をあげられない患者もいる。遺伝的体質や糖尿病・高血圧等基礎疾患による高脂血症等も多々報告されている。遺伝的または基礎疾患による高脂血症等を踏まえ診断には従来とおり高脂血症等の表現型を想定して診療に当たることが求められている。
【0010】
非特許文献3の動脈硬化性疾患診療ガイドライン2007年版には、高脂血症等の表現型の記載はあるが、I型、IIa型、IIb型、III型、IV型、V型のそれぞれの説明はされていない。我々発明者たちは、従来の高脂血症等の表現型は、測定法の進化や治療薬の多様化等で実質利用価値が下がっていると認識し、現時点での検査法や進化した高脂血症治療薬を用いるための新しい高脂血症等の表現型が必要と考え、Disc−PAGE法の測定結果と生化学自動分析装置等で日常的に測定されているTC、TG、HDL−C、LDL−Cやアポ蛋白質などの定量値(脂質の量の件作法)、さらに各種高脂血症や糖尿病治療薬等による診療結果を総合的に判断した結果、Disc−PAGE法の濃度波形とTCの測定値から、非常に簡単に誰でも即座に新しい形の高脂血症等の表現型を分類し判定出来る方法を発見し実用化した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決する手段を実践するため、特許文献1の画像からの濃度定量法をポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法(Disc−PAGE法)と共にヒトのリポ蛋白質の分析(特許文献2)に適用し得られた濃度波形を用いて高脂血症等の新しい表現型を分類または判定する方法を述べる。
【0012】
Disc−PAGE法は、リポ蛋白質を粒子の大きさで分離分析する測定法で脂質の質の検査法として知られ、V型高脂血症やIII型高脂血症には独特の濃度波形が出現すると言われていたが(非特許文献5)、その判断基準等はなかった。非特許文献8に示された分離ゲルが3%のレデイメイドで脂質前染色法を使用するリポ蛋白質分析用測定キット「リポフォーAS」を用いた。非特許文献8のキットを用いて分析した結果は、陰極側からCM、VLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLに分析される。このうちVLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLは濃度波形に図示され報告書として現在も医師の手元に届くシステムになっており日常診療に使用されている。非特許文献7のリポフォーASと言う検査キットは、内因性リポ蛋白質を表すキットとして知られ、VLDL%値はTG値と良い相関関係にあると報告されている。
【0013】
発明者たちは、高脂血症等の患者および糖尿患者らは既に高脂血症や糖尿病の治療を受けている患者が殆どであることを念頭に高脂血症の患者および糖尿病患者ら延べ約1万名について高脂血症等の表現型の判定を実施してきた。高脂血症等治療中にも係わらずDisc−PAGE法の濃度波形が脂質正常者の群と異なる高脂血症等の患者を選別していたところ、一定の傾向があることを発見しそれに基づき各高脂血症等を判定するアリゴリズムを発見した。
高脂血症等のアリゴリズムを定めるにあたって、リポ蛋白質の代謝は主に内因性リポ蛋白質と外因性リポ蛋白質に大別され、それらを区別しないと表現型の判定を狂わせる可能性がある。
内因性リポ蛋白質は主に肝臓で生成、分泌、代謝される物質で VLDL、IDL、LDL、small,dense LDL、HDLの一群である。この中で一番粒子径の大きいVLDLでもせいぜい粒子径は40nm程度であるため、VLDLが多いからと言って必ずしも血液を採血し血清分離した後の血清の乳白濁、言い換えれば乳ビ血清と呼ばれる状態にはならない。乳ビ血清とは外因性リポ蛋白質に現れるCMやCMレムナントが存在する場合に出現する。CMやCMレムナントの粒子径は大きいもので100nmを越えるものもあるといわれ、可視光線の最小波長を300nmとするとCMやCMレムナントがあると可視光線の透過光を部分的に遮ることになり結果的に血清が白く濁る現象すなわち乳ビ血清が出現する。現実、我々発明者たちはボランティアに朝食抜きの血清に乳ビがないことを確認し、食後一定間隔で採血し性状を調べたところ、食事後2時間または3時間経つと乳ビ血清になる人がおり、この方々はVLDLの量は多少上昇するもののIDL、LDL、small,dense LDL、HDLの一群には全く変化が無いことを確認している。以上により、乳ビ血清の存在は外因性リポ蛋白質代謝が深く関与しているものと判断した。リポ蛋白質を血清脂質レベルで論じた場合、TGの測定値が高いと乳ビ血清になると教科書に書かかれているが、これは不完全である。TGはCMやCMレムナントの中にも大量に存在するので、一般的な生化学の定量値だけ見るとTGが多い患者は乳ビ血清であると信じられていたことによる。実際は乳ビ血清の人の殆どの場合TGは高いが、逆にTGが高いから乳ビ血清であるとは言えない。従って高脂血症等の表現型を論じる場合TG値をベースに話を進めると正確な判定ができないことが分かったので今回の高脂血症等のアリゴリズムの中にTGの値は含めないことにした。
【0014】
Disc−PAGE法において、V型高脂血症はTGとCMとVLDLが高くIDL、LDLやsmall,dense LDLが低値であると言われているが明確な基準はなかった。我々は多数の試験結果からV型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
V型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が30%以上であること。
2) IDL、LDL、small,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値がそれぞれ0.1以下であること。
3) HDLの分画%が10%以上あること。
なおVLDLの分画%が30%以上であることは乳ビ血清でない患者のTG値が凡そ200mg/dL、(非特許文献7)を超えている事を表し、またIDL、LDL、small,dense LDLの濃度波形が薄いことを吸光度OD値0.1以下で表現した。
【0015】
III型高脂血症は非特許文献1で言われているFloating β−LPと同一挙動を示すIDLの存在を中心にIII型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
III型高脂面症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が30%以上であること。
2) LDLと small,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲における最大位置の吸光度OD値がそれぞれ0.1以下であること。
3) IDLの分画%が10%以上あること。
なおIII型高脂血症は、Disc−PAGE法でIDLの出現が特徴的であると言われている点について本願はIDLの分画%が10%以上あり、その他のLDLとsmall,dense LDLの波形が薄い事を吸光度OD値が0.1以下で表すことにした。更にIII型高脂血症は、アポEジェノタイプまたはフェノタイプの試験でアポ蛋白質E2の存在を確認することが不可欠であると言われているが、特殊な別の検査であるため簡易判定法のアリゴリズムには入れなかった。
【0016】
II型高脂血症はTCが高く比較的TGが少ない状態を指し、TGの存在比率からIIa型とIIb型に区分される。TGの量は乳ビ血清でも高くなるので前述したように本願ではVLDLの分画%とTC値から、IIa型高脂血症のアリゴリズムを設定した。
TCの定量値のカットオフについては非特許文献2および非特許文献3に記されている高コレステロール血症の判定基準である220mg/dL以上とした。
IIa型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が15%未満であること。
2) TCの定量値が220mg/dL以上であること。
なおIIa型高脂血症は、Disc−PAGE法において、不安定なリポ蛋白質IDLやsmall,dense LDLが少なく、リポ蛋白質の濃度波形において脂質の質の異常が見られない患者が一般的であり、ここではTCの定量値が220mg/dL以上でVLDLの分画%が 正常の上限値の15%未満とした。
【0017】
IIb型高脂血症はIIa型高脂血症よりVLDLの分画%値が若干高い場合で、IV型高脂血症と重ならない部分を設定した。
IIb型高脂血症のアリゴリズム
1) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が15〜25%であること。
2) TCの定量値が220mg/dL以上であること。
なおIIb型高脂血症とIIa型高脂血症の差は、VLDLの分画%値により区別した。
【0018】
IV型高脂血症はTCの定量値が低くTGの定量値が高い症例といわれているが、その境界は定かではなかった。最近はTC値やTG値を下げる治療薬がいくつも発売され、治療中にはIV型からIIaまたはIIb型にまたその逆になる症例が多々見られ、高脂血症等の型判定に迷うことが多かった。
我々発明者はDisc−PAGE法において約10,000名の濃度波形を調査検討しそれらの特徴からIV型高脂血症のアリゴリズムを導き出した。
IV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
なおIV型高脂血症の判定にTC値の基準は設けず、V型、III型、IIa型またはIIb型高脂血症に属さないものと決め、VLDLの分画%が20%以上と一部IIb型高脂血症のVLDLの分画%が重なることとなったが、治療中にIV型からIIb型へ相互変化する患者も多数いる関係で妥当と考えた。
【0019】
Disc−PAGE法において、リポ蛋白質の代謝過程では不安定なLDLであるIDLやsmall,dence LDLが出現すると前述したが、IV型高脂血症では、表現型の判定に加えて不安定なリポ蛋白質の出現を合わせて判定することが可能であり、その判定のアリゴリズムの設定をIDLおよびsmall,dence LDLが存在するものとしないものを区別できるよう設定した。先ずIDLの増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
IDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症等でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) IDLの分画%が10%以上あること。
なおIV型高脂血症は不安定で動脈硬化の危険物質と言われたIDLやsmall,dense LDLが良く出現する。我々発明者達はこの動脈硬化に係る危険物質の存在を明らかにするため敢えてIDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズムを設定した。IDLは脂質正常者にも5%程度は存在すると言われており(非特許文献9)それらを区別しより確実にIDLの存在を主張するためIDLの分画%が10%以上あるときに限りIDLの増加を伴うIV型高脂血症とした。
【0020】
同様にsmall,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
small,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) small,dense LDLの分画%が6%以上あること。
なおここで言うsmall,dense LDLとは相対移動度RM0.40以上を指す(非特許文献7)ので、非特許文献9に述べられている相対移動度RM0.35の部分にもsmall,dense LDLの存在が疑われると書かれていることを踏まえsmall,dense LDLの分画%が6%以上あることとした。
【0021】
IDLおよびsmall,dense LDL双方の増加を伴うIV型高脂血症は下記のように設定した。
IDL、small,dense LDLの増加を伴うIV型高脂血症のアリゴリズム
1) VまたはIII型及びIIb型の高脂血症でないこと。
2) リポ蛋白質の濃度波形においてVLDLの分画%が20%以上であること。
3) IDLの分画%が10%以上でかつsmall,dense LDLの分画%が6%以上あること。
【0022】
I型高脂血症はリポ蛋白リパーゼが欠損または非常に少なく肝臓でVLDLやその他の内因性のリポ蛋白代謝が進まない状態を言い、血液中にCMやCMレムナントが溜まり時々膵炎を起こす疾患である。CMやCMレムナントが存在すると検査技師は報告書に乳ビ+とか乳ビ+++などとコメントを入れることが多く、CMやCMレムナントの存在を気づくか、Disc−PAGE法の試料添加部分であるローディングゲルに濃い青色が残り、特許文献1の画像付の報告書を見てもCMやCMレムナントの存在を気づくので、あえてI型高脂血症のアリゴリズムに乳ビ血清の情報を入れなかった。
I型高脂血症のアリゴリズム
1) IDL、LDL、small,dense LDL、HDLのピーク値がそれぞれOD0.03以下であること。
なおI型高脂血症はIDL、LDL、small,dense LDL、HDLの濃度波形が殆ど見られないことを指すので、我々発明者はその濃度をOD0.03以下とした。
【0023】
前項までは課題を解決する手段として、Disc−PAGE法による測定結果を例として、高脂血症等の表現型を分類しまたは判定する方法を述べてきたが、リポ蛋白質の分析には特許文献3のHPLCの分析や特許文献4のアガロースゲル電気泳動法または平板スラブ電気泳動法、密度勾配型グラジュエントゲル電気泳動法などがある。
これらはDisc−PAGE法と分析原理が違うため、濃度波形の形や分画%やリポ蛋白質の名称が変わる事がある。例えばアガロースゲル電気泳動法では陰極からpre−β、β、αリポ蛋白質に分離分析され、CMが有るとpre−β、βの部分がブロード(Floating β−LP)状になる。pre−βはVLDL、βはLDL、αはHDLとも呼ばれる。
前述したように高脂血症等の表現型の判定に外因性リポ蛋白質が混在すると判定を狂わせる恐れがあると指摘したが、アガロースゲル電気泳動法では外因性・内因性リポ蛋白質を区別せず分析しているので、少々分離が不鮮明ではあるがコストが安いため日常使用されている。
また特許文献4のTC染色またはTG染色した場合は普通pre−βコレステロール(またはトリグリセライド)、βコレステロール(またはトリグリセライド)、αコレスデロール(またはトリグリセライド)となるが、こじつければVLDLコレステロール(またはトリグリセライド)、LDLコレステロール(またはトリグリセライド)、HDLコレステロール(まちはトリグリセライド)と言うこともできる。本願発明は非常に簡単なアリゴリズムで高脂血症等の表現型を判定することができるため、HPLC法やアガロースゲル法に合わせて多少表現や数値等を変えれば、本願は色々な測定法による高脂血症等の表現型の判定に利用できることは言うまでもない。
【0024】
高脂血症等の表現型を決めるアリゴリズムが明確になれば、予めコンピュータなどにそのアリゴリズムをプログラミングしておき、検査結果報告書作成時に高脂血症等の表現型を自動的に印刷することができる。
【発明の効果】
【0025】
最近高脂血質症治療薬は多種多様販売され高脂血症等の治療に大量に使われている。結果的に高脂血症状態が解消されれば治療としては良い傾向であるが患者の状態は様々でありどの薬をどれだけ使うかは医師の専権事項である。この診断や治療に当たって医師は、TC値やTG値、LDL−C値やリポ蛋白質の電気泳動法の結果を参考にし、この患者の個人的な脂質代謝を推し量り診断し治療する。診断については遺伝的または糖尿病や高血圧など背景疾患を考慮するわけであるが、治療中の患者の現在の脂質状態はIV型高脂血症であっても翌月は正常になるかも知れないし、IIb型高脂血症になっているかも知れない。そのため治療薬の選定は患者の体質やその時々の高脂血症等の表現型を参考に適切に選択投与されなければならない。
【0026】
今までは高脂血症等の表現型に数値を示しての基準が無かったので医師は経験で凡その表現型を選択し治療薬を処方していた。しかし本願発明により高脂血症治療中の患者の高脂血症等の新しい表現型の決定は専門の医師でもどちらかを迷う程難しいと言われ、TC値とリポ蛋白質の電気泳動の検査報告書にある濃度波形により簡単に高脂血症等の表現型を判定できることは、専門医でなくとも診断のリスクを解消できる。本願発明を利用することで結果的に、治療薬の選定や患者の日常管理に多大な貢献できることは間違いない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】はV型高脂血症患者Aの濃度波形を含む報告書の一例である。
【0028】
図2】はIDLの増加を伴うIV型高脂血症患者Bの濃度波形を含む報告書の一例である。
【0029】
図3】はIIa型高脂血症患者Cの濃度波形を含む報告書の一例である。
【実施例1】
【0030】
図1において(1)は患者Aのリポ蛋白質の電気泳動の濃度波形、(2)の実線は脂質正常者の濃度波形で標準検体を示す。(3)の縦軸の目盛は、光学濃度の吸光度のODが0.1の位置であることを示す部分。(4)はVLDL、(5)はIDL、(6)はLDL、(7)はsmall,dense LDL、(8)はHDLの各濃度波形であり、(9)はそれぞれの濃度波形の面積比を示す。(10)は患者AのTC値である。波形1からVLDLの分画%は51%でかつIDLからsmall,dense LDLの濃度波形のピーク値または設定した範囲で最大位置の吸光度OD値が何れも0.1以下であり、HDLの分画%が14%となっており、本実施例はV型高脂血症と判断した。Disc−PAGE法を見慣れた技術者は泳動像を見ただけでV型と予測できるほど典型的なパターンであるが、その判定方法を数値化することは測定や判定の個人誤差を無くす意味において価値がある。
【実施例2】
【0031】
図2において(11)は患者Bのリポ蛋白質の電気泳動の濃度波形、(14)はそれぞれの濃度波形の面積比を示す。図2の(12)は患者BのVLDLでその分画%は(14)に示されているように22%ありかつ(13)のIDLの分画%が(14)から11%であり更に(15)のLDLのピークの高さはODのライン0.1以上の所にありかつ(16)に示すTCの値が195mg/dLであることから本実施例はIDLの増加を伴うIV型高脂血症と判断した。
【実施例3】
【0032】
図3の(17)は患者Cのリポ蛋白質の電気泳動の濃度波形で、(17)はそれぞれの濃度波形の面積比を示す。(18)は患者CのTC値が317mg/dLであることを示しておりかつ、(19)のVLDLの分画%値が(17)より9%であることが分かることからIIa型高脂血症と判断した。
【実施例4】
【0033】
図には示さないがIIb型高脂血症は、IIa高脂血症に較べVLDLの分画%が多いことが特徴であり、今までのTGとVLDLの相関から我々はVLDLの分画%が15−25%であることを持ってIIb型と判断した。
【実施例5】
【0034】
III型高脂血症もV型高脂血症と共にDisc−PAGE法の泳動像および濃度波形を見ると概ね判断できるのが特徴であるが、V型高脂血症との鑑別が重要なポイントとなる。V型高脂血症との相違点はIDLが高くLDLやsmall,dense LDLが殆どない点であることを考慮してIDLの分画%が10%以上あることで差別化した。この他にIII型高脂血症の確定診断としては、アポEジェノタイプまたはフェノタイプの試験でE2の存在を確認しておく必要があることは言うまでもないが、簡易判定基準には採用せず「III型高脂血症の疑いがあります」の記載により注意喚起することにとどめた。
【符号の説明】
【0035】
(1)患者Aのリポ蛋白質の電気泳動の濃度波形
(2)脂質正常者の濃度波形
(3)吸光度ODが0.1の位置
(4)VLDL
(5)IDL
(6)LDL粒子マーカ
(7)small,dense LDL
(8)HDL
(9)濃度波形の面積比
(10)患者AのTC値
(11)患者Bのリポ蛋白質の電気泳動の濃度波形
(12)患者BのVLDL
(13)患者BのVIDL
(14)患者Bの濃度波形の面積比
(15)患者BのLDL
(16)患者BのTC値
(17)患者Cの濃度波形の面積比
(18)患者CのTC値
(19)患者CのVLDL
図1
図2
図3