特許第6019294号(P6019294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本多電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6019294-超音波洗浄装置 図000015
  • 特許6019294-超音波洗浄装置 図000016
  • 特許6019294-超音波洗浄装置 図000017
  • 特許6019294-超音波洗浄装置 図000018
  • 特許6019294-超音波洗浄装置 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019294
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/12 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   B08B3/12 B
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-109146(P2012-109146)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-233528(P2013-233528A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000243364
【氏名又は名称】本多電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 信長
【審査官】 村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−328056(JP,A)
【文献】 特開2003−320328(JP,A)
【文献】 特開2010−131477(JP,A)
【文献】 特開2009−202052(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0098194(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を貯留した洗浄槽内に被洗浄物を収容し、前記洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して前記被洗浄物の表面を洗浄する超音波洗浄装置であって、
前記超音波を照射するための超音波振動子と、
可聴音信号を入力する信号入力部と、
前記超音波の搬送波信号を前記可聴音信号によって変調し、前記可聴音信号の周波数成分と前記搬送波信号の周波数成分とを含んだ変調後の超音波駆動信号を生成して出力する信号生成回路と
を備え、
前記超音波駆動信号により前記超音波振動子を駆動し、前記超音波振動子から前記洗浄槽の洗浄液中に超音波を伝搬させて前記被洗浄物を洗浄するとともに、前記洗浄液中を伝搬する超音波の差音成分によって可聴音を出力するとともに、
相対的に高い周波数で微細な洗浄を行う第1の洗浄モードと、相対的に低い周波数で強力な洗浄を行う第2の洗浄モードとで洗浄モードを切り替え可能に構成し、
前記信号生成回路は、前記搬送波信号に対して、前記第1の洗浄モードのときに第1の可聴音信号を用いてそれに応じた周波数変調処理を行い、かつ前記第2の洗浄モードのときに前記第1の可聴音信号とは異なる第2の可聴音信号を用いてそれに応じた振幅変調処理を行う
ことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記可聴音信号は、アラーム音の信号を含み、前記信号生成回路は、超音波洗浄の処理開始時、処理終了時、または処理異常時に、前記アラーム音の可聴音信号によって前記搬送波信号を変調することを特徴とする請求項に記載の超音波洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して被洗浄物の表面を洗浄する超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄液中に超音波を照射してキャビテーションを発生させ、その圧壊時に生じる衝撃波及びマイクロジェットによる物理的作用によって洗浄を行う超音波洗浄装置が実用化されている。超音波洗浄装置としては、眼鏡やアクセサリーなどを洗浄する民生用の製品、機械部品、光学機器、半導体などを洗浄する産業用の製品などがあり、幅広い用途で利用されている。また一般に、眼鏡などの洗浄には、比較的低周波数(数十kHz)の超音波が利用され、半導体などの微細な洗浄には比較的高周波数(数MHz)の超音波が利用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の超音波洗浄装置では、500kHz以上の超音波を洗浄液に作用させて、半導体材料の洗浄を行うようにしている。またこの超音波洗浄装置では、4kHz以下の低周波で振幅変調または周波数変調を行い、洗浄効率を向上させるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−320328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波洗浄装置では、キャビテーションが発生することによる白色雑音や洗浄槽の共鳴音などの耳障りな可聴音が発生し、使用者に不快感を与えてしまうことがある。特に、数十kHzの超音波を利用した製品では、不快な雑音が発生しやすい。また、特許文献1の超音波洗浄装置のように、振幅変調または周波数変調を行うと、洗浄効率が向上されるが、洗浄時の騒音が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで不快な雑音を抑制し、付加価値の高い超音波洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、洗浄液を貯留した洗浄槽内に被洗浄物を収容し、前記洗浄槽内の洗浄液に超音波を照射して前記被洗浄物の表面を洗浄する超音波洗浄装置であって、前記超音波を照射するための超音波振動子と、可聴音信号を入力する信号入力部と、前記超音波の搬送波信号を前記可聴音信号によって変調し、前記可聴音信号の周波数成分と前記搬送波信号の周波数成分とを含んだ変調後の超音波駆動信号を生成して出力する信号生成回路とを備え、前記超音波駆動信号により前記超音波振動子を駆動し、前記超音波振動子から前記洗浄槽の洗浄液中に超音波を伝搬させて前記被洗浄物を洗浄するとともに、前記洗浄液中を伝搬する超音波の差音成分によって可聴音を出力するとともに、相対的に高い周波数で微細な洗浄を行う第1の洗浄モードと、相対的に低い周波数で強力な洗浄を行う第2の洗浄モードとで洗浄モードを切り替え可能に構成し、前記信号生成回路は、前記搬送波信号に対して、前記第1の洗浄モードのときに第1の可聴音信号を用いてそれに応じた周波数変調処理を行い、かつ前記第2の洗浄モードのときに前記第1の可聴音信号とは異なる第2の可聴音信号を用いてそれに応じた振幅変調処理を行うことを特徴とする超音波洗浄装置をその要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によると、信号生成回路から出力される変調後の超音波駆動信号によって超音波振動子が駆動され、可聴音信号の周波数成分を含んだ超音波が超音波振動子から出力される。そして、洗浄槽内の洗浄液中を超音波が伝搬する際には、超音波の周波数成分の高調波以外に和音や差音の周波数成分を含んだ二次音波が生成される。このとき、二次音波の差音成分がメロディや音声などの可聴音として再生される。このようにすると、スピーカーなどの専用の再生装置を別途設けることなく、可聴音が再生される。そして、その可聴音によって超音波洗浄時に生じる騒音が打ち消されて不快な音を抑制することができる。また、洗浄槽の洗浄液中には、多数の周波数スペクトル成分を有する超音波が伝搬されるので、超音波洗浄を効率よく行うことができる。
【0009】
上記発明によると、信号生成回路において振幅変調処理を行う場合、洗浄液中に伝搬される超音波の周波数成分は比較的少なくなり、より明確な可聴音を再生することができる。
【0011】
上記発明によると、信号生成回路において周波数変調処理を行う場合、洗浄液中に伝搬される超音波はより多くの周波数成分を含むため、洗浄ムラの少ない超音波洗浄を行うことができる。
【0013】
上記発明によると、高周波数で微細な洗浄を行う洗浄モードでは、周波数変調処理を行い、低周波数で強力な洗浄を行う洗浄モードでは、振幅変調処理を行う。このようにすると、各洗浄モードに適した変調処理を行うことができるとともに、超音波洗浄時に生じる騒音を可聴音によって抑制することができる。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項において、前記可聴音信号は、アラーム音の信号を含み、前記信号生成回路は、超音波洗浄の処理開始時、処理終了時、または処理異常時に、前記アラーム音の可聴音信号によって前記搬送波信号を変調することをその要旨とする。
【0015】
請求項に記載の発明によると、可聴音としてアラーム音が再生され、そのアラーム音によって処理開始、処理終了、処理異常などを通知することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上詳述したように、請求項1〜に記載の発明によると、低コストで不快な雑音を抑制し、付加価値の高い超音波洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
図2】各信号波形を示す説明図。
図3】信号波形及び周波数スペクトルを示す説明図。
図4】第2の実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図。
図5】各信号波形及び周波数スペクトルを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
以下、本発明を超音波洗浄装置に具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態の超音波洗浄装置を示す概略構成図である。
【0019】
図1に示されるように、超音波洗浄装置10は、洗浄液W1を貯留する洗浄槽11と、洗浄槽11の底板12に装着される超音波振動子13と、超音波振動子13を駆動する超音波発振器14(信号生成回路)とを備える。超音波発振器14には、可聴音電圧信号V(t)(可聴音信号)を出力する可聴音信号源15が接続されている。また、洗浄槽11には、洗浄液W1とともに被洗浄物17が収容されている。
【0020】
洗浄槽11の底板12は、ステンレス等の金属板からなり、超音波を放射するための振動板として機能する。超音波振動子13は、圧電セラミックス13aとその圧電セラミックス13aに電圧を印加するための+電極13b及び−電極13cとから構成されている。本実施の形態の超音波振動子13は、ボルト締めランジュバン型振動子であり、圧電セラミックス13aを2つの金属ブロックで挟み込んでボルトで締め付けた構造を有している。超音波振動子13は、振動面を上方に向けた状態で洗浄槽11の底板12にボルト締めによって接合されている。超音波振動子13は、超音波発振器14に電気的に接続されており、その超音波発振器14から供給される駆動信号V(t)(高周波電力)に基づいて機械振動する。この超音波振動子13の機械振動によって底板12から洗浄槽11内に超音波が出力される。つまり、超音波振動子13は、電気−機械−音響変換器として機能する素子である。
【0021】
洗浄液W1としては、水系洗剤(水、純水、機能水、アルカリ系洗剤、中性洗剤、酸性洗剤)、準水系洗剤(炭化水素、グリコールエーテル、アルコールなどと水とを組み合わせた洗剤)、可燃性洗剤(アルコール系洗剤、脂肪族炭化水素系洗剤、グリコールエーテル系洗剤)、不燃性洗剤(フッ素系洗剤、塩素系洗剤、臭素系洗剤)などが用いられる。
【0022】
本実施の形態の超音波発振器14は、入力ポート21(信号入力部)、PWM(パルス幅変調)回路22、ドライブ回路23、DC電源24、D級(スイッチング)電力変換回路25、整合回路26を備えている。入力ポート21には、可聴音信号源15が接続されており、可聴音信号源15からの可聴音電圧信号V(t)を取り込み、その可聴音電圧信号V(t)をPWM回路22に入力する。可聴音電圧信号V(t)は、音楽、メロディ、音声などの可聴音を電気信号に変換した信号である。
【0023】
入力ポート21に接続される可聴音信号源15としては、アナログ電子回路を用いて作成されたアナログ音源、メモリに記憶されたデジタル信号を用いて作り出されるデジタル音源、電子楽器、CDプレーヤ、MDプレーヤ、テープレコーダなどの音響機器を挙げることができる。さらに、マイクロフォンによって音を電気信号に変換しそれをアンプで増幅した信号源を可聴音信号源15として用いることもできる。なお、本実施の形態では、可聴音信号源15からメロディに対応した可聴音電圧信号V(t)が超音波発振器14に入力される。
【0024】
PWM回路22は、搬送波発振器27と比較器28とを備える。搬送波発振器27は、超音波の搬送波信号に対応した三角波電圧信号V(t)を出力する。比較器28は、三角波電圧信号V(t)と可聴音電圧信号V(t)との電圧を比較して比較結果をパルス信号として出力する。つまり、このPWM回路22では、可聴音電圧信号V(t)の振幅情報がパルス幅情報に変換されて出力される。なお、搬送波発振器27の電圧波形は、三角波以外にのこぎり波であってもよい。また、搬送波発振器27の発振周波数f(搬送波周波数)は、超音波洗浄が効率よく行われる周波数であり、超音波振動子13の共振周波数付近に設定されている。
【0025】
ドライブ回路23は、PWM回路22の出力信号に基づいてD級電力変換回路25を駆動する回路であり、電流増幅、絶縁、デッドタイム生成、電圧レベルシフトなどの処理を行う。DC電源24は、D級電力変換回路25に直流電力を供給するための電源である。DC電源24としては、交流電源を整流回路によりAC−DC変換して直流電源を得るものや、電池などの電源が使用される。
【0026】
D級電力変換回路25は、DC電源24から供給される直流電力を、ドライブ回路23の出力信号に応じてスイッチングし、交流電力の電圧信号V(t)に変換する回路である。D級電力変換回路25は、IGBT、MOSFETなどのスイッチング素子から構成された回路であり、ハーフブリッジ回路、フルブリッジ回路、プッシュプル回路などの回路トポロジにより形成されている。
【0027】
整合回路26は、インピーダンス変換回路30と力率改善回路31と備え、超音波振動子13に効率よく高周波電力を供給する。インピーダンス変換回路30は、トランスなどの素子によりインピーダンス変換し超音波振動子13に所定の高周波電力を供給する回路である。また、力率改善回路31は、インダクタやキャパシタなどの素子から構成され、超音波振動子13に印加する電圧信号を正弦波の電圧信号V(t)に変換(フィルタリング)するとともに、超音波振動子13のリアクタンス成分をキャンセルして電気力率の改善を行う回路である。
【0028】
次に、上記のように構成した超音波洗浄装置10の動作について説明する。なお、図2には、超音波発振器14の主要部における電圧信号V(t)、V(t)、V(t)、V(t)の波形を示している。
【0029】
超音波発振器14において、D級電力変換回路25から出力される電圧信号V(t)は、次式(1)により表される。
【数1】
【0030】
但し、EはDC電源24の電源電圧[V]であり、fは搬送波発振器27の発振周波数[Hz]であり、θはパルス幅導通角[rad](0≦θ≦π)である。
【0031】
このような電圧信号V(t)を、超音波振動子13と力率改善回路31とからなるLCフィルタに通すと、フィルタの電気的QeがQe≧1の場合、超音波振動子13に印加される電圧信号の波形は、上式(1)で示されるn≧3の第n高調波が除去され、ほぼ基本波成分のみとなる。従って、超音波振動子13に印加される電圧信号V(t)の波形は正弦波となり、次式(2)で表すことができる。
【数2】
【0032】
上式(2)に含まれるパルス幅導通角θをPWM回路22において可聴音電圧信号V(t)で変調することにより、超音波発振器14から出力される電圧信号V(t)は図2に示されるような振幅変調波として生成される。
【0033】
この振幅変調波である電圧信号V(t)は、次式(3)によって表される。
【数3】
【0034】
但し、Vは電圧信号V(t)に含まれる搬送波信号成分の振幅[V]であり、Vは電圧信号V(t)に含まれる可聴音信号成分の振幅[V]である。また、fは搬送波の発振周波数[Hz]であり、fは可聴音の周波数[Hz]であり、mは変調度(m=V/V)である。
【0035】
すなわち、振幅変調波である電圧信号V(t)は、上式(3)の第1項の搬送波の周波数fと、変調により生じた第2項の側帯波成分の周波数f−f及び第3項の側帯波成分の周波数f+fとを含んだ周波数スペクトルを有する(図3参照)。
【0036】
そして、超音波駆動信号としての電圧信号V(t)が超音波発振器14から超音波振動子13に供給される。このとき、超音波振動子13の電気−機械−音響変換により、洗浄槽11の底板12から超音波が放射される。この超音波の音圧P(t)は、次式(4)に示されるように、搬送波の周波数fと側帯波成分の周波数f−f、f+fを含む周波数スペクトルとして生成される。
【数4】
【0037】
上式(4)に示される超音波の音圧P(t)が一次音波として洗浄槽11の底板12から洗浄液W1中に放射されると、その洗浄液W1中では、洗浄液W1及び洗浄液W1中の気泡の非線形によってパラメトリック現象が発生する。この場合、各々の周波数成分の高調波以外に和音、差音の周波数成分を含む二次音波が生成される。このうち、差音成分の周波数は、
【0038】
搬送波周波数f−下側帯波周波数[f−f]=可聴音周波数f
または、
【0039】
上側帯波周波数[f+f]−搬送波周波数f=可聴音周波数f
で表される。すなわち、洗浄液W1中を伝搬する二次音波の差音成分が可聴音信号として再生される。また、超音波の搬送波成分、側帯波成分の一次音波、及び非線形現象によって発生した二次音波は、超音波洗浄を行うための超音波として被洗浄物17に作用して超音波洗浄が効率よく行われる。
【0040】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0041】
(1)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、変調後の超音波駆動信号V(t)によって超音波振動子13が駆動されることで、可聴音電圧信号V(t)の周波数成分を含んだ超音波が超音波振動子13から出力される。そして、洗浄槽11内の洗浄液W1中を超音波が伝搬する際には、超音波の周波数成分の高調波以外に和音や差音の周波数成分を含んだ二次音波が生成され、二次音波の差音成分がメロディの可聴音として再生される。このように、本実施の形態の超音波洗浄装置10では、スピーカーなどの専用の再生装置を別途設けることなく、メロディが再生される。そして、そのメロディによって超音波洗浄時に生じる騒音が打ち消されて不快な音を抑制することができる。また、洗浄槽11の洗浄液W1中には、多数の周波数スペクトル成分を有する超音波が伝搬されるので、それら周波数に起因する複数の定在波が形成される。これらの定在波は時間とともに腹節位置が移動するため、単一周波数型の洗浄装置では得られないムラのない洗浄が行われる。このように、超音波洗浄装置10では、スピーカーなどの新たな装置を追加することなく、洗浄槽11の構成も変更する必要がない。このため、小型、低価格の超音波洗浄装置10を実現することができ、その商品価値を高めることができる。
【0042】
(2)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、可聴音電圧信号V(t)を用いて振幅変調処理が行われる。この場合、洗浄液W1中に伝搬される超音波の周波数成分は比較的少なく、明確なメロディを再生することができる。
【0043】
(3)本実施の形態の超音波洗浄装置10では、超音波発振器14における電力変換段には電力変換効率が高いD級電力変換回路25を用いているので、スイッチング時の電力ロスが少なく、消費電力を低く抑えることができる。
[第2の実施の形態]
【0044】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図面に基づき説明する。上記第1の実施の形態では超音波の可聴音電圧信号V(t)を用いて振幅変調処理(AM変調処理)を行うものであったが、本実施の形態では、可聴音電圧信号V(t)を用いて周波数変調処理(FM変調処理)を行うように構成している。図4は、本実施の形態の超音波洗浄装置10Aを示す概略構成図である。
【0045】
図4に示されるように、本実施の形態の超音波洗浄装置10Aでは、超音波発振器14Aにおける一部の構成が上記第1の実施の形態と異なり、その相違点を中心に以下に説明する。
【0046】
本実施の形態の超音波発振器14Aは、入力ポート21(信号入力部)、FM変調回路33、ドライブ回路23、DC電源24、D級電力変換回路25、整合回路26を備えている。つまり、超音波発振器14Aは、AM変調回路であるPWM回路22に代えてFM変調回路33を備える点が、第1実施の形態の超音波発振器14と異なっている。
【0047】
具体的には、FM変調回路33は、電圧レベル調整回路34と中心周波数設定回路35と加算回路36とVCO37(電圧制御発振回路)とを備える。FM変調回路33は、可聴音信号源15から入力される可聴音電圧信号V(t)により超音波の搬送波信号の中心周波数fを変調し、可聴音電圧信号V(t)の振幅情報を周波数情報に変換して出力する回路である。
【0048】
電圧レベル調整回路34は、分圧回路または増幅回路により構成され、可聴音電圧信号V(t)を所定の電圧レベルに調整する回路である。中心周波数設定回路35は、VOC37で発振する中心周波数fを決定するための直流バイアス電圧Vを設定するための回路である。加算回路36は、レベル調整された可聴音電圧信号V'(t)と直流バイアス電圧Vを加算してVCO37に出力する。VCO37は、入力電圧によって発振周波数を制御する発振器である。すなわち、VCO37は、加算回路36から出力された電圧Vin(t)=V'(t)+Vによって発振周波数を制御しFM変調を行う。なお、VOC37で発振する中心周波数fは、超音波洗浄が効率よく行われる周波数であり、超音波振動子13の共振周波数付近に設定される。
【0049】
本実施の形態では、アナログ電子回路によってFM変調回路33を構成したが、上述したFM変調回路33の動作をソフトウエア化し、MPU、DSP、FPGAなどのプログラマブルデバイスによってFM変調回路33を構成してもよい。
【0050】
超音波発振器14AにおいてFM変調回路33以外の回路構成(ドライブ回路23、DC電源24、D級電力変換回路25、整合回路26の構成)は、第1の実施の形態と同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0051】
次に、本実施の形態における超音波洗浄装置10Aの動作について説明する。
【0052】
超音波発振器14Aにおいて、D級電力変換回路25から出力される方形波の電圧信号V(t)(図5参照)は、次式(5)により表される。
【数5】
【0053】
但し、EはDC電源24の電源電圧[V]であり、fは発振周波数[Hz]である。
【0054】
このような電圧信号V(t)を、超音波振動子13と力率改善回路31とからなるLCフィルタに通すと、フィルタの電気的QeがQe≧1の場合、超音波振動子13に印加される電圧信号の波形は、上式(5)で示されるn≧3の第n高調波が除去され、ほぼ基本波成分のみとなる。従って、超音波振動子13に印加される電圧信号V(t)の波形は正弦波となり、次式(6)で表すことができる。
【数6】
【0055】
上式(6)に含まれる発振周波数fをFM変調回路33において可聴音電圧信号V(t)で周波数変調することにより、超音波発振器14Aから出力される電圧信号V(t)は周波数変調波として生成される。
【0056】
ここで、変調信号となる可聴音電圧信号V(t)が単純に正弦波の電圧信号V(t)=Vcos2πftで表されるものとする。この場合、周波数変調は、超音波の搬送波周波数f(t)を、f(t)=f+Δfcos2πftで表されるように、fを中心周波数として±Δfの範囲で正弦的に変化させる処理となる。なお、Δfは、変調信号である可聴音電圧信号Vの振幅に比例する量であり、最大周波数偏移[Hz]と呼ばれる。そして、周波数変調波の電圧信号V(t)は、次式(7)のように表される。
【数7】
【0057】
但し、θ(t)は変調波位相角[rad]であり、VはV(t)の振幅[V]である、fは中心周波数[Hz]であり、fは可聴音の周波数[Hz]であり、mは変調指数(m=Δf/f)である。
【0058】
次に、電圧信号V(t)の周波数スペクトルを調べるために、上式(7)を変形すると、次式(8)のようになる。
【数8】
【0059】
ここで、n次の第1種ベッセル関数J(m)を用いると、
【数9】
【数10】
と展開できることから、式(8)は、次式(11)のようになる。
【数11】
【0060】
すなわち、周波数変調波の電圧信号V(t)は、上式(11)の第1項の搬送波成分の周波数fと、変調により生じた第2項以下の側帯波成分の周波数f±nf(但し、n=1,2,3,…)を含む周波数スペクトルを有する(図5参照)。
【0061】
一般に、ベッセル関数J(m)の値は、n>mに対して急激に減少する。従って、実質的な帯域幅fは、
【数12】
である。図5に示される電圧信号V(t)は、fが500Hz、Δf=500Hzで変調指数がm=1の場合である。図5において、電圧信号V(t)の周波数スペクトルに示されるように、実質的な帯域幅fは、2(Δf+f)=2kHzである。
【0062】
そして、超音波駆動信号としての電圧信号V(t)が超音波発振器14Aから超音波振動子13に供給される。このとき、超音波振動子13の電気−機械−音響変換により、洗浄槽11の底板12から超音波が放射される。この超音波の音圧P(t)は、次式(13)に示されるように、搬送波成分の周波数fと側帯波成分の周波数f±nf(但し、n=1,2,3,…)を含む周波数スペクトルとして生成される。
【数13】
【0063】
上式(13)に示される超音波の音圧P(t)が一次音波として洗浄槽11の底板12から洗浄液W1中に放射されると、洗浄液W1中では、洗浄液W1及び洗浄液W1中の気泡の非線形によってパラメトリック現象が発生する。この場合、各々の周波数成分の高調波以外に和音、差音の周波数成分を含む二次音波が生成される。このうち、差音成分の周波数が可聴音として再生される。具体的には、差音成分の周波数が可聴音の周波数fとなる組合せは、
搬送波周波数f-下側帯波周波数[f-f]=可聴音周波数f
上側帯波周波数[f+f]-搬送波周波数f=可聴音周波数f
上側帯波周波数[f+(n+1)f]-上側帯波周波数[f+nf]=可聴音周波数f
下側帯波周波数[f-nf]-下側帯波周波数[f-(n+1)f]=可聴音周波数f
(n=1,2,3,…)
である。このように、洗浄液W1中を伝搬する二次音波の差音成分が可聴音信号として再生される。また、超音波の搬送波成分、側帯波成分の一次音波、及び非線形現象によって発生した二次音波は、超音波洗浄を行うための超音波として被洗浄物17に作用して超音波洗浄が効率よく行われる。
【0064】
従って、本実施の形態の超音波洗浄装置10Aによれば、上記第1の実施の形態と同様に、スピーカーなどの専用の再生装置を別途設けることなく、メロディが再生される。そして、そのメロディによって超音波洗浄時に生じる騒音が打ち消されて不快な音を抑制することができる。また、洗浄槽11の洗浄液W1中には、多数の周波数スペクトル成分を有する超音波が伝搬されるので、それら周波数に起因する複数の定在波が形成される。これらの定在波は時間とともに腹節位置が移動するため、単一周波数型の洗浄装置では得られないムラのない洗浄が行われる。さらに、本実施の形態のように周波数変調処理を行う場合、振幅変調処理を行う場合と比較して、超音波がより多くの周波数成分を含むため、超音波洗浄を確実に行うことができる。
【0065】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0066】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,10Aでは、振幅変調処理または周波数変調処理のいずれか一方を行う装置であったが、PWM回路22とFM変調回路33とを備え、両方の変調処理を行える洗浄装置として具体化してもよい。なお、この超音波洗浄装置では、PWM回路22とFM変調回路33との動作をソフトウエア化し、MPU、DSP、FPGAなどのプログラマブルデバイスによって、両方の変調処理を行えるように構成してもよい。また、超音波洗浄装置には、例えば、超音波の周波数を切り替え可能に構成し、高周波数で微細な洗浄を行う洗浄モードと、低周波数で強力な洗浄を行う洗浄モードとで洗浄モードを切り替えるように構成した装置も実用化されている。このような洗浄モードの切り替えは、洗浄装置に設けられた操作スイッチにより行われる。この洗浄モードの切り替えと同時に、可聴音信号による変調処理を振幅変調と周波数変調とで変更するように超音波洗浄装置を構成してもよい。このようにすると、洗浄モードに応じた最適な変調処理を行うことができるとともに、超音波洗浄時に生じる騒音を可聴音によって抑制することができる。さらに、振幅変調と周波数変調とで同じ可聴音信号を用いてもよいが、それぞれ異なる可聴音信号を用いるように構成してもよい。例えば、メロディの異なる可聴音信号を用いると、洗浄モードに応じた変調処理の切り替えを、再生されるメロディによって容易に確認することが可能なる。
【0067】
・また、超音波洗浄装置には、単一周波数の超音波により超音波洗浄を行う単周波モードと、周波数変調した超音波により超音波洗浄を行う変調モードとを含む複数種類の洗浄モードを有し、それら洗浄モードを設定するための操作スイッチ(モード設定部)が設けられた装置も実用化されている。このような超音波洗浄装置において、モード選択部によって選択された洗浄モードに応じて、可聴音信号による変調処理を行うか否かを変更可能に構成してもよい。具体的には、操作スイッチで変調モードが選択されたときに、超音波発振器14,14Aにおいて可聴音信号を用いた変調処理を行い、可聴音信号の周波数成分と搬送波信号の周波数成分とを含んだ超音波駆動信号V(t)を出力するように構成する。また、操作スイッチで単周波モードが選択されたときには、超音波発振器14,14Aにおいて変調処理を行わず、搬送波信号の周波数成分のみを含んだ超音波駆動信号V(t)を出力するよう構成する。このように超音波洗浄装置を構成すると、変調モードでの超音波洗浄時に、可聴音を再生することができ、騒音を抑制することができる。
【0068】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,10Aでは、可聴音信号源として音響機器などの外部機器を接続して可聴音信号を入力するよう構成したが、これに限定されるものではない。例えば、可聴音信号を記憶するメモリ(信号入力部)を超音波発振器14,14Aに設け、そのメモリに記憶した可聴音信号を用いて変調処理を行うように構成してもよい。
【0069】
・上記各実施の形態では、超音波洗浄装置10,10Aにおいて、可聴音信号V(t)としてメロディの信号を用いるようにしたが、これ以外にアラーム音の信号を用いてもよい。この場合、例えば、処理開始時、処理終了時、処理異常時に、アラーム音の可聴音信号を用いて変調処理を行い、通常の洗浄処理中には、メロディの可聴音信号を用いて変調処理を行うようにする。このようにすると、処理開始時、処理終了時、処理異常時に、アラーム音を再生することができるため、そのアラーム音によって、処理開始、処理終了、処理異常を通知することができる。なお、処理異常としては、加熱による洗浄液W1の温度異常などがある。また、処理開始及び処理終了のメッセージを音声案内するための可聴音信号を用いて変調処理を行い、処理開始及び処理終了のメッセージを再生するようにしてもよい。さらに、洗浄処理の経過時間を音声案内するための可聴音信号を用い、経過時間毎にその可聴音信号を用いた変調処理を行って経過時間の音声を再生するように構成してもよい。さらには、洗浄処理の経過時間に応じて、異なるメロディの可聴音信号を用い、再生するメロディを切り替えるように構成してもよい。このようにすると、スピーカーなどの装置を別途設けることなく、処理開始、処理終了、処理異常等の通知機能を付加することができるため、コストパフォーマンスに優れた超音波洗浄装置を実現することができる。
【0070】
・上記実施の形態の超音波洗浄装置10,10Aは、1つの超音波発振器14,14Aを備え、その超音波発振器14,14Aからの超音波駆動信号V(t)で超音波振動子13を駆動する装置であったが、これに限定されるものではない。具体的には、上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,10Aにおいて、変調後の超音波駆動信号V(t)を出力する超音波発振器14,14Aに加えて、変調処理を行わない超音波の搬送波信号のみを含んだ超音波駆動信号を出力する別の超音波発振器を設ける。また、洗浄槽11には複数の超音波振動子13を設ける。そして、変調機能を有する超音波発振器14,14Aの超音波駆動信号によって少なくとも一つの超音波振動子13を駆動し、変調機能のない超音波発振器の超音波駆動信号によって他の超音波振動子13を駆動する。このようにしても、洗浄槽11の洗浄液W1中を伝搬する超音波の差音成分により、可聴音を再生することができ、超音波洗浄時の騒音を抑制することができる。
【0071】
・上記各実施の形態の超音波洗浄装置10,10Aでは、洗浄槽11は、底板12を振動板として用いていたが、底板12と振動板とを別体で設け、パッキンを介して両者をボルトで取り付ける構造としてもよい。また、超音波洗浄装置10,10Aでは、洗浄槽11の底板12に装着される外付けタイプの超音波振動子13を使用していたがこれに限定されものではない。洗浄槽11の洗浄液W1中に投げ込んで使用する投げ込みタイプの超音波振動子を用いて超音波洗浄装置10,10Aを構成してもよい。投げ込みタイプの超音波振動子は、水密構造のケースの内側に振動子が接合された構造を有している。さらに、超音波洗浄装置10,10Aでは、洗浄槽11の底板12に超音波振動子13を装着して洗浄液W1中に超音波を照射するよう構成したが、洗浄槽11の側面や上方から超音波を照射するよう構成してもよい。洗浄槽11の上方から超音波を照射する場合、超音波振動子を洗浄槽11の上面側に配置するとともに、その超音波振動子に超音波ホーンを装着する。そして、超音波ホーンの先端部を下方に向けた状態で、超音波ホーンの先端部を洗浄液W1中に配置する。このようにしても、洗浄液W1中に伝搬する超音波の差音成分によって可聴音を再生できる。また、被洗浄物17に超音波を作用させることができ、超音波洗浄を効率よく行うことができる。
【0072】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0073】
(1)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記可聴音信号は、メロディを再生するための音声信号を含むことを特徴とする超音波洗浄装置。
【0074】
(2)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記可聴音信号は、処理開始及び処理終了のメッセージを音声案内するための音声信号を含むことを特徴とする超音波洗浄装置。
【0075】
(3)請求項1乃至5のいずれか1項において、複数種類の洗浄モードを有し、前記可聴音信号は、複数のメロディを再生するための音声信号を含み、前記信号生成回路は、前記洗浄モードに応じて前記メロディの音声信号を切り替えて前記搬送波信号を変調することを特徴とする超音波洗浄装置。
【0076】
(4)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記可聴音信号は、超音波洗浄の処理時間を音声案内するための音声信号を含み、前記信号生成回路は、前記処理時間に応じた前記音声信号によって前記搬送波信号を変調することを特徴とする超音波洗浄装置。
【0077】
(5)請求項1乃至5のいずれか1項において、前記超音波振動子を複数備え、少なくとも一つの前記超音波振動子が前記信号生成回路の超音波駆動信号によって駆動されるものであり、他の超音波振動子を駆動するための駆動信号として前記搬送波信号の周波数成分のみを含んだ超音波駆動信号を出力する別の信号生成回路をさらに備えたことを特徴とする超音波洗浄装置。
【0078】
(6)請求項1乃至5のいずれか1項において、変調モードと単周波モードとを含む複数種類の洗浄モードを設定するモード設定部を備え、前記信号生成回路は、前記モード設定部により前記変調モードが選択されたときに、前記可聴音信号の周波数成分と前記搬送波信号の周波数成分とを含んだ超音波駆動信号を出力し、前記モード設定部により単周波モードが選択されたときに、前記搬送波信号の周波数成分のみを含んだ超音波駆動信号を出力することを特徴とする超音波洗浄装置。
【符号の説明】
【0079】
10,10A…超音波洗浄装置
11…洗浄槽
13…超音波振動子
14,14A…信号生成回路としての超音波発振器
17…被洗浄物
21…信号入力部としての入力ポート
(t)…超音波駆動信号としての出力信号
(t)…搬送波信号としての三角波電圧信号
(t)…可聴音信号としての可聴音電圧信号
W1…洗浄液
図1
図2
図3
図4
図5